第221話 亡霊騎士とこんにちは
ベストウォールの宿屋に泊まった翌日。ポロン達はモリドール男爵の邸宅へと向かう。
モリドール男爵の邸宅は、十六夜の森の近くの村にある。十六夜の森はベストウォールの南の小さい山を越えた一つ先にあり。ポロン達は整備された道がある山を越え、先の街道に設置された道先案内の看板に従い、モリドール男爵の邸宅がある村までやってきた。
ポロン達が先に村にはいって、リック達は後から続く。森を切り開いてできたこの村の名前はモリトール。村の入り口から整備された石の道の大きな通り商店がならび、石造りの家が数十件ある規模の大きな村だった。
「あっ! あそこに大きなお家があるのだ」
「多分、あれがモリドール男爵の邸宅だよ。ポロンちゃん。行こうエドガー、ナオミお姉ちゃん」
「行きましょう!」
「うん、行こう。タンタン君」
先をいくポロンが村の中央にある、掘りに囲まれた綺麗な邸宅を指さしていた。ポロンが指したのがモリドール男爵の邸宅だ。ポロン達は通りを抜けモリドール男爵の邸宅をめざす。
「なんか静かだな」
通りを見渡すリックがつぶやく。通りには宿屋や道具屋がならんでいるが。客は少なくなんとなく村全体に活気がない。ここは十六夜の森に祝福の泉を汲みに来る人でにぎわっていたが閉鎖後は寂れていた。
モリドール男爵の邸宅は、屋根が青い綺麗な石造りの家で、周囲を堀の長さは馬二頭分くらいの幅の小さい堀で囲まれていた。堀と門をつなぐ下がアーチ状に作られた石の橋あり、門の前には二人の兵士が立っている。
門番の兵士達はリック達と違い、グラント王国の制服ではない、上下黒い服に白い胸当てつけてる。地方の防衛隊とは違う制服からこの兵士達はモリドール男爵が個人的に雇っている私兵だ。
ポロン達がアーチ状の橋を渡り、門の前にいる兵士にタンタンが声をかけた。リックとソフィアのミャンミャンの三人は、橋の中央でポロン達の様子をうかがっていた。
「こんにちは! ちょっといいですか」
「なんだ? お前たちは?」
「あっあの僕達は…… モリドール男爵に会いに……」
「悪いがご主人様は今は忙しいんだ。子供にかまってる暇はない」
「ちょっと!! 少しくらい会ってくれてもいいじゃない! ポロンは兵士なんだしさ。モリドール男爵さんに会わせてよ」
「そうなのだ! わたしは兵士なのだ」
「あぁ!? フッ…… 最近はやってんだよね。子供が王都の兵士の格好して遊ぶの。お嬢ちゃん達邪魔だから遊ぶなら向こうで遊んでくれ!」
「違うのだ! わたしはほんとの兵士なのだ」
「フン」
門番に立ってる兵士達がポロン達を迷惑そうにみてる。会話の内容から兵士達はポロン達を、子供と見くびっており相手する気はないようだ。
「いくよ。ソフィア、ミャンミャン」
「はい」
「はーい」
リックは二人に声をかけ、一緒にポロン達へと駆け寄り門番に声をかけた。
「あっあの…… すいません」
「なんだい? あれ!? おぉ! 王都の兵士さんですか! もしかして? 亡霊騎士の援軍ですか?」
「えっ……」
リックとソフィアの格好をみて、王都の兵士と認識すると口調が急に丁寧になった。
「はい。そうです!」
「おぉ! モリドール男爵様がお喜びになります。さっさ! こちらへ」
「この子達も仲間なんですけど?」
「えぇ!? そうだったんですね。じゃあ一緒にどうぞ」
笑顔でリック達を迎える兵士達、態度への変わりように、リックとソフィアは顔を見合せ困った顔をする。だが、これでモリドール男爵に会えるとリックは安堵しポロンに笑顔を向けた。
「もう…… 悔しいのわかったから、もうむくれないの……」
「ブーーーーーなのだ!」
ポロンが口を膨らまして門番を見つめていた。頭を撫でてポロンをなだめリックは、門番の案内でモリドール男爵の邸宅に入った。門をくぐり屋敷に入ると、すぐに大きな絨毯の引かれた広い廊下にでた。床の絨毯が貴族の邸宅って感じで思わず恐縮するリックだった。
「どうぞこちらへ!」
入って真正面にある扉を、門番の兵士が開けて、リック達を中へと通す。通された部屋は大きく綺麗な部屋で、テーブルと四人くらい掛けられそうな、ソファがテーブルの左右に二つ置かれ、中央にソファに挟まれるように、豪華な椅子が一脚おいてあった。
「すぐご主人様をお呼びいたしますので、ソファにおかけになってお待ちください」
門番の兵士が部屋を出ていく。ポロン達は嬉しそうにソファに座って待つ。
「(よし、いい子達だ。頼むからそこら辺の棚にある物とか触ってこわすなよ……)」
俺達はポロン達が見えるように向かいのソファに三人で並んで座った。しばらくすると、部屋の扉が開き、豪華な服を着た、白髪交じりの中年男性と一人の兵士が部屋に入って来た。中年男性がモリドールだ。リックとソフィアとミャンミャンが立ち上がり、入ったきたモリドールに頭をさげて挨拶をする。ポロン達もリック達に続いて慌てた様子で立ち上がり頭をさげた。
モリドールは立ち上がったポロンを見て少し驚いた様子で見た。
「うん? 随分かわいい王都の兵士さんじゃな」
「ポロンなのだ! よろしくなのだ」
「はは。元気でいいこじゃな。わしがこの屋敷の主モリドールじゃ」
ポロンが手をあげて元気よく挨拶すると、笑いながらモリドールは近づいき、豪華な椅子に腰かけた。
「それでかわいい王都の兵士さんは尋ねてきた用件はなんじゃ?」
「僕達は祝福の泉の水を取りに来たんです」
「祝福の泉の水じゃと!?」
タンタンが用件を答えると、モリドールは難しい顔して考えている。
「うーん、申し訳ないが無理じゃな」
「そうですか……」
「聞いていられると思うが今ここは亡霊騎士が騒ぎを起こしておってのう。今は祝福の泉がある十六夜の森は閉鎖してるんじゃ」
モリドールは少し考えて断る、タンタンは少しだけがしゅんとした。
「えっと…… モリドールさんの娘さんがさらわれたんですよね?」
「そうじゃ…… あの忌まわしき亡霊騎士め…… 我が娘パロメをさらい汚い廃屋に閉じ込めておる……」
「わかりました。じゃあ、僕達が…… パロメさんを取り戻しますからだから十六夜の森に行かせください。ダメですか?」
「はぁ!? お主たちがか?」
タンタンがモリドールに娘を救いだすというと、驚き少し不機嫌な顔でモリドールが身を乗り出して彼につめよっていく。困った顔してタンタンがリック達の方に視線を送った。さすがにタンタン達が行くって言っても信用されない。リックは自分の胸に手を置いてモリドールに向かって口を開く。
「もちろん俺達も一緒ですよ。ねぇ!? ソフィア、ミャンミャン!」
ミャンミャンとソフィアの二人がうなずく。タンタンがすぐモリドールに向かって口を開く。
「そうです! こっちのソフィアお姉ちゃんとリックおにーちゃんとポロンちゃんは王都の兵士さんで頼りになるんですよ」
モリドールの視線がこちらに向く、リック達をジッと見つめてる。不機嫌な顔でじろじろ見られてやや気分がわるい。しかし、すぐにモリドールは不機嫌な顔からニコッと笑って表情を変えた。
「おぉ! そうか…… 王都の兵士さんなら優秀じゃろう! お願いできますかな?」
「わかりました。ではさっそく行かせていだきます」
上機嫌で手をだしてきたモリドール、リックも手をだしてお互いに握手した。
「許可証を持ってきなさい」
「はい」
モリドールが兵士に指示を出した。兵士は部屋を出て行ってすぐに紙を持って戻って来た。モリドールは兵士から紙を受け取り、その場でサインをした書類をリックへと差し出した。
「十六夜の通行証じゃ。森の兵士に見せるがよい」
「ありがとうございます」
書類は十六夜の森の通行許可証だった。リックは許可証を受け取りモリドールに礼を言うのだった。リック達はモリドールの邸宅を後にした。
「ふぅ…… これで十六夜の森に行けるわね」
「じゃあ、ポロンちゃん、タンタン君、ナオミ姉ちゃん。パロメさんを助けにいこう!」
「行くぞーーーー!」
「おぉ! 助けに行くのだ…… いや! ダメなのだ!」
「「「えっ!?」」」
すぐに十六夜の森へと出発しようとした三人をポロンが止めた。驚く三人にポロンが静かに空を指さす。ベストウォールからモリトール村までの移動で時間がかかり日が傾き夕方になっていた。
「もう夕方なのだ。夜の森は危ないのだ。今日は宿をとって明日の朝から行くのだ」
「でも…… すぐに……」
「私はみんなの護衛なのだ。安全が一番なのだ」
「うぅ。わかったわよ。ポロンの言う通りにする……」
ポロンの言葉にナオミは引き下がった。リックとソフィアはポロン達が、夜の森に向かおうとしたら止めようと思っており、ポロンの行動を見て顔を見合せ微笑み嬉しそうにする。ポロン達はモリトール村に宿を取り翌朝に十六夜の森へと向かう。
翌朝、ポロン達はモリトール村から十六夜の森へと向かう。街道を南に向かうとすぐに十六夜の森が見えてくる。道がうっそうとしげる薄暗い森へとはいっていく。森の目前に兵士が立って道を塞いでいる。昨日もらった通行許可証をみせると笑顔でポロン達を通す。
「暗いな。暗い雰囲気に風が吹くと、木のすれる音がしてすごい不気味だな……」
先行するポロン達の少し後ろを歩くリックが森を見つめている。森に入ってすぐに道が左右に分かれていた。
「えっと…… 右が祝福の泉で、左がパロメさんがいる廃屋よ」
ナオミが地図を見ながら三人説明している。亡霊騎士は十六夜の森に廃屋にモリドールの娘パロメを監禁していた。分かれ道を右に行くと、祝福の泉で、左に行くと亡霊騎士がパロメをさらって閉じ込めてるという廃屋だ。
二ヤッと笑ったタンタンが、廃屋がある左ではなく、右の道を一人で進みだし、姉のミャンミャンも当然という顔でタンタンの側に行く。
「タンタン君? 何してるの? そっちは祝福の泉よ!? 私達はこっちの廃屋にいかないと」
「ふふ…… ナオミお姉ちゃんはまじめだなぁ。僕達は祝福の泉の水が汲めればいいんだから先に水を汲みに行こうよ」
「タンタンの言う通りよ。せっかく森に入れたんだから、祝福の泉の水を先に汲みましょうよ」
「えぇ!? ひどい依頼を無視するの?」
自信ありげな顔で、タンタンとミャンミャンの姉弟は、泉の水を汲んで自分たちの目的をたっせいしようと主張した。
「違うよ。先に水だけもらっといて、もし失敗しても僕達の目的は達成できるでしょ」
「ずるいのだ! そんなのはダメなのだ!」
「えぇ…… ポロンちゃんも真面目なんだから、冒険者ならこれくらい当たり前…… それに後で亡霊騎士の依頼もやるわよ。順番をちょっと変えるだけよ」
二人の主張は冒険者ならではズル賢いものだ。二人の主張は間違いではないが、真面目なエドガーとポロンは納得できないと顔をする。
「ダメだよ。約束なんだから! 先に亡霊騎士の方を…… ナオミ姉ちゃん?」
「なんでナオミもそっちに行くのだ?」
「えっ!? だってよく考えたらタンタン君たちの言う通りで、先に水汲もうが後で汲もうがかわらないじゃない」
ナオミもタンタン達についていこうとする。エドガーとポロンは少し不服そうだ。ポロンがリックとソフィアを見た。
「リック達はどう思うのだ?」
「うん!? 俺は…… いや。ポロン達で決めなよ。俺は違法なことか身の危険が無い限りは口出さないよ。だから…… ミャンミャンはこっちへ来い!!!」
「えっ!? ちょっと!? リックさん!?」
「私もリックと同じです」
手を伸ばしリックは、ミャンミャンの首根っこをつかまえ、ポロン達から引き離していく。
「ダメだよ。あまり手とか口を出したら…… ポロン達にやらせないと!!」
「うぅ。ごめんなさい。そうですよね」
ミャンミャンを引きずりながらリックが諭すと彼女は納得して申し訳なそうにする。ミャンミャンがいなくなり四人で話し合いをするポロン達。結果はタンタンの意見を採用して先に泉の水を汲むことになった。
水を汲みに行くために右の道を祝福の泉に向かって歩く。ポロンとタンタンが先頭を行き、次にナオミちゃんとエドガーが続き、リックとソフィアとミャンミャンが最後方を歩く。
「うん!? まずいな……」
リック達に周囲に急に霧が立ち込め視界がわるくなっていく。前方から何かが近づいてくる音がリックの耳に届く。音は蹄の音で、わずかに馬のいななく声がした。リックは剣に手をかけポロンに声をかける。
「ポロン! 何かが来る! 気を付けて!」
「わかったのだ」
先頭のポロンがハンマーを構えた。リックはいつでも対応できるように、剣に手をかけたままポロン達を見守っている。
「あれが!? 亡霊騎士……」
霧の中から、ゆっくりと漆黒の鎧に身を包み、柄が黒で刃先が十字の槍を持った、大きな黒い馬に乗った騎士が現れた。
「はっ!」
「ギャっ!」
馬を駆け足させタンタンに近づいた亡霊騎士が槍をつきだした。巧みにタンタンの鎧の隙間に、槍の刃先を引っかけて倒された。
「うわわ! お姉ちゃーん!」
いつの間にか霧が晴れていてにタンタンが、祝福の泉へ続く道を奥へ引きずられていく。
「ダメ! ミャンミャン!」
「ちょっと!? 何するんですか? リックさん」
ミャンミャンが背負った鎌を持って、駆けだしそうなのを目の前に立って止めるリックだった。
「ポロン達に任せよう」
「でも…… このままじゃタンタンがさらわれて……」
「大丈夫。いざとなればすぐにソフィアが矢で敵を撃つ」
ソフィアはリック達の横で弓をかまえてる。もちろん狙いは亡霊騎士だ。ポロン達の身になにかあれば、リック達すぐに助けに飛び出せるように準備していた。
「ひぃ! いた! お尻が……」
「待つのだーーーー!!!」
「タンタン君を返しなさい!!!」
「まっ待ってよ…… はぁはぁ」
槍にひっかけられたまま引きずられているタンタン。ポロンがハンマーを構えて亡霊騎士を追いかける。ナオミちゃんとエドガーもポロンのすぐ後に続きややエドガーが遅れている。
ポロン達は亡霊騎士を追いかけて少し広い場所に出た。岩や大きな石が転がり、その中に水が湧き出てる場所がある。ここが祝福の泉だった。
「リックさん。いくらポロンちゃんでも…… 馬に追いつくわけ……」
「平気ですよ」
「このー! タンタンをはなすのだ。どっかーんなのだ!」
地面に向かってポロンがハンマーを叩きつける。衝撃で舞い上がった土の塊が亡霊騎士に向かっていった。
「何これ! いた! キャッーーー!」
土の塊が亡霊騎士に命中し叫び声をあげる。
「いたた…… もう何なのよ! こんなに強いなんて聞いてないわよ」
ポロンが叩いて飛んだ、土にあたった亡霊騎士が馬から落ちて倒れた。ポロンの飛ばした土と馬から落ちた衝撃で兜が外れてポロンの目の前に転がる。
兜の外れた亡霊騎士の顔は短い金色の髪の女性で、頭をおさえながら起き上がった。驚いた顔をして、みんなが亡霊騎士を見つめていた。
「女の人なのだ! 亡霊騎士が女の人なのだ!」
「はっ!? 兜が!? チッ!」
「あっ!? 待つのだ!」
亡霊騎士は槍を捨て、顔を手で覆って、素早く馬に乗り駆けだしていってしまった。リック達は亡霊騎士が魔物ではなく人間だったことに驚き戸惑うのであった。