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第220話 トラブルを乗り越えよう

 ポロン達が汲んできた水を、エドガーに飲ませて、引き続きソフィアが回復魔法をかけている。少し苦しそうな表情をし、呼吸が乱れていたエドガーだったが、少しずつ表情が和らいで呼吸が整ってくる。突然、エドガーが目を開けて起き上がった。


「はっ!? ここは!? ナオミ姉ちゃん!?」

「よかった! エドガーが目覚めた。ありがとうソフィアお姉ちゃん!」

「ふぇぇぇ、よかったです」


 エドガーの手を握っていた、ナオミが嬉しそうにソフィアに礼をいう。ポロンもエドガーを見てほっとした表情をした。まだエドガーはよく自分がどうして気を失っていたのか、思い出せないみたいで周りの様子を不思議そうに眺めていた。

 ニヤッと笑ってタンタンが、エドガーの肩に手を置いて声をかけた。


「エドガー君、どうだった? お姉ちゃんの料理はおいしかったでしょ!?」

「えっ!? うぅ…… はぁはぁ…… もうあの味は…… ウプ!」

「エドガー!? ちょっと! タンタン君! やめてエドガーが味を思い出して死んじゃうでしょ!」

「そうなのだ! ミャンミャンのげろまず料理は思い出しても凶器なのだ」


 エドガーが苦しむ様子を見て、タンタンが面白がって、ナオミちゃんとポロンに怒られてる。リックは最初はポロンに言い過ぎと注意しようとしたが、ミャンミャンの料理は凶器で間違いないと考え彼女に何も言わない。


「ちょっとポロンちゃん!? げろまずって…… 私の料理……」


 ミャンミャンがしょんぼりとうつむいた。少しかわいそうだが、リックはあえて黙っていた…… なぜなら、ポロンの言う通り、ミャンミャンの料理は、信じられないほどげろまずだからだ。


「大丈夫ですよ。私も昔はお料理が下手で、いっぱい失敗しました」

「ほんとですか? なら私もできますか?」

「はい」

「うれしい。ならソフィアさん! お料理教えてください!」

「ふぇ!? 私ですか?」


 ソフィアの両手をつかんみ頭を下げてミャンミャンがお願いする。急に料理を教えてくれてと言われ、少し困惑した様子のソフィアが、リックに顔を向けた。


「リック…… どうしましょう? ミャンミャンさんに……」

「ソフィアが嫌じゃなきゃ、できる範囲で教えてあげれば?」

「うーん…… わかりました! ミャンミャンさんにお料理教えます」

「ほんとですか! やった!」


 笑顔でミャンミャンに答えるソフィア、顔をあげたミャンミャンは、両手をあげて喜ぶのだった。ミャンミャンがリックを見て恥ずかしそうにした。


「これで…… 毎日ソフィアさんところにいって料理を教わって、毎日リックさんに食事つくってあげますね」

「それはダメです! 私が行ける時にミャンミャンさんところに行って教えますからね」

「うん…… 俺もいやだな。料理の練習ならタンタンにしてくれよ……」

「えぇ!? ひどい!」

 

 首を横に振ったリック、彼は兵士としておかしな物を食べて、体調を崩すわけにはいかないのだ。その後、ソフィアに教わりミャンミャンの料理がうまくなったら食べるという約束がされた。

 エドガーの回復を少しまって、リック達は再び街道を歩きだした。

 以前シーリカが冒険者になった時に訪れた風馬(ふうま)の谷を越えてベストウォールまで向かう。ベストウォールまでは王都を出てから歩いていくと二週間以上かかる。風馬(ふうま)の谷からベストウォールまでポロン達は馬車を借りる。少々高いがポロン達は普通の馬車ではなく、魔法で強化され足が普通の馬より速く、昼夜問わず全速力で移動できる馬がひく馬車を借りた。これを利用すれば二日ほどでベストウォールまで行けるのだ。ポロン達は移動する馬車の上からの景色を見てはしゃいでいた。リックとソフィアとミャンミャンの三人も馬車に一緒に乗って移動する。


「ふぅ…… 王国の西地域は広いから移動には結構時間がかかるんだよな……」


 馬車の上から景色を見てつぶやくリックだった。

 グラント王国はジュリアス大陸の、東海岸沿いにあるシーサイドウォールから発生した国で、西へ領土を拡大し現在の王都グラディアがある平原へと進出した。王都グラディアを建設後は国土を北、南、西と各方面へと拡大していった。北はローザリア、南は砂漠のニシス王国と衝突し拡大はとまった。西側は未開の森や山が多く進出がなかなか止まらず、領土は南や北と比べてかなり大きい。ポロンが住んでいたウッドランド村は王国の西端に位置し、太古の森と呼ばれる開発困難な地域の手前にある小さな村だった。

 風馬(ふうま)の谷を出て二日目の夕方、リック達はベストウォールの町に到着した。


「懐かしいな。王都に出て来る時に寄ったっけな……」


 馬車を降りたリックが背伸びして懐かしそうにしている。山を切り開いて作ったベストウォールの町は、雄大な景色と、四角く色とりどりの壁の家が扇状になってる綺麗な街並みが特徴だ。夏でも山頂の雪が消えない、大きなベストウォールを囲む山々のなかには、リックが住んでいたマッケ村がある山も見える。リックと一緒に先に馬車を降りたナオミも体を伸ばして、振り返りポロン達が降りてくるのを待って楽しそうに声をかける。


「うーん。やっと着いたー! 長かったね」

「お腹すいたのだ!」

「じゃあナオミ姉ちゃん、ポロンちゃん、タンタン君、宿を取ったらすぐご飯にしよう」

「おぉ! ご飯にするのだ!」


 ポロン達はベストウォール町の中へと駆けだしていった。リック達はポロン達を追いかけていく。城門のすぐ近くにあった宿へと入ったポロン達、三階建ての宿屋のカウンターでエドガーが部屋を取った。


「リックおにーちゃん。四人部屋が二つだってさ」


 部屋の鍵を二つ持ったエドガーがリックの前に歩いて来た。全員で泊まれるほどのおおきい部屋はないようで部屋は二つに分かれるようだ。エドガーの周りにみんなが集まり、宿の部屋わりの相談が始まる。


「部屋わりはどうするか…… ちょうどいいし男女で分けるかな?」

「えっ!? 僕はポロンちゃんと一緒が……」

「僕もナオミお姉ちゃんとポロンちゃんと一緒がいいな」


 タンタンがナオミとポロンの頭に目を向けいやらしく笑う。リックはなんとなくエドガーはいいが、タンタンがポロンと一緒なのは嫌だと思う。


「私はリックとがいいです」

「うん。私も! リックさんとがいい。あっタンタンもお姉ちゃんと一緒がいいよね?」

「えぇ!? 僕はナオミお姉ちゃんかポロンちゃんが……」

「あぁ!?」


 リックの腕に自分の腕をからませるソフィアとミャンミャン、大人の二人のわがままにリックはあきれる。タンタンは腕に絡みつきながらタンタンを睨む。


「ポロンはナオミとがいいのだ」

「私も! ねぇ!? 街道と一緒で私達四人とリックおにーちゃん達で別れればいいんじゃない?」

「そうだね。それでいいか。ポロン、なんかあったらすぐに呼ぶんだよ」

「わかったのだ」


 部屋わりは、ポロン達四人と、リックとソフィアとミャンミャンの三人になった。リック達は部屋に荷物を置いて食事にでる。宿の人に聞いたところ美味しい食堂が近くにあるという。

 皆で食堂へと向かう。食堂は五人くらいが座れるカウンターと、四角いテーブルの席が四席ほどの小さい食堂だった。ポロン達が店に入ると、中にいたトレイを持ったかっぷくのいいおばちゃんに声をかけられていた。


「おや!? かわいい団体さんだね。ここにお座りよ」

「ありがとうなのだ!」


 返事をしてポロンは通された席へと向かう。四人掛けの四角いテーブルに、ナオミとポロンが並んで座り、向かい側にタンタンとエドガーがならんで座る。リック達ははポロン達の隣の席へ向かった。


「はい、おまたせ。お嬢ちゃん達はどこからきたの?」


 料理を持ってきたおばちゃんが、ポロン達に声をかけ、元気よくナオミちゃんが答える。


「私達は王都グラディアからです」

「あれま、王都の人かい? 何しにここへ?」

「ここの南にある十六夜の森に祝福の泉の水を汲みにきたんですよ」

「ありゃ……」


 ナオミから十六夜の森と聞いた、おばちゃんは残念そうな顔を彼女に向ける。


「祝福の泉を汲みに十六夜の森ねぇ……」

「あれ!? もしかして亡霊騎士(ゴーストナイト)のことですか? 大丈夫ですよ。私達に優秀な護衛がいますから」

「いるのだ!」


 ナオミがポロンを護衛だと自慢げに紹介する。ポロンもナオミに言われて腰に手をあててえへんて顔をした。おばちゃんは二人の様子に少し困って様子で愛想笑いをしてる。リックは静かに心中でおばちゃんにごめんなさいと謝罪する。


「あっうん…… 亡霊騎士も関係あるんだけど…… いまねぇ。十六夜の森は閉鎖されてるのよ」

「閉鎖!? どうしてですか?」

「十六夜の森はモリドール男爵の所有地なんだけどね。なんでもそこの娘さんが亡霊騎士にさらわれてしまってね」

「えっ!? さらわれたんですか?」

「うん。だからモリドール男爵は十六夜の森を閉鎖して、亡霊騎士を閉じ込めて娘さんを探してるんだよ。今いってもモリドール男爵の雇った兵隊に追い返されるよ」


 おばちゃんの言葉にポロン、ナオミ、エドガーの三人の顔が暗くなっていく。


「それじゃ…… 祝福の泉に行けない……」

「プッコマ隊長なおせないのだ……」

「ポロンちゃん……」


 エドガーとナオミとポロンがうつむきしょんぼりとした。だが、タンタンがすぐに立ち上がって、手を広げてみんなに声かける。


「みんな! 何を言ってるんだよ。僕は冒険者だ! こんなことで諦めないぞ。とにかくモリドール男爵に会ってお願いしてみようよ? こんなことでナエタポ冒険団はへこたれちゃダメだよ!」


 立ち上がって、タンタンが皆を鼓舞する。タンタンの言葉を聞いた、ポロンがリックに顔を向けた。リックはポロンに微笑み、小さくうなずくとポロンは嬉しそうに笑った。


「へぇ…… タンタンも言うようになったじゃない」

「そうですね。初めて会った時はもっとおどおどしてました」


 ミャンミャンがタンタンの言葉を聞いて嬉しそうに笑う。タンタンの成長が嬉しいようだ。


「タンタン! ありがとうなのだ。わたしもいくのだ」

「うん! そうだね。僕もあきらめないよ」

「そうだよね。私もあきらめいわ。行くわよ。ポロン! ありがとうね。タンタン君」

「みんなありがとう」


 笑顔のナオミとポロンが立ち上がって手を伸ばし、タンタンの手をつかんで頭をさげてお礼を言ってる。タンタンは右手をナオミちゃん、左手をポロンに握られた……


「(おい! タンタン! せっかくかっこいいんだから! よだれを拭け! デレデレするな…… それと眼尻の下がったいやらしい視線が猫耳とリス耳を行ったり来たりしてるぞ…… やっぱりポロンとナオミちゃんが好きっていうかただ獣耳がすきなだけだろ? はぁ)」


 リックはナオミとポロンに、手を握られにやけて緩い顔をするタンタンにあきれるのだった。ポロン達は閉鎖された十六夜の森へ向かうため森ドール男爵に会いに行くことにしたのだった。

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