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第219話 悲劇、再び

 準備が整った四人が出発する日となった。

 まだ夜も明けて間もない薄暗い早朝に、王都の西門の前にある広場に、エドガーとナオミんとポロンとタンタンの四人が集合していた。

 荷物を地面に置いて四人で、楽しそうに会話をしているのが見える。


「さて…… みんな集まったからそろそろ出発するのかな」


 少し離れた広場の木の陰に立ち、リックとソフィアは四人の様子をうかがっていた。


「リック、これがポロン達の予定です。念のためもう一度見といてください」

「ありがとう」


 ポロンがカルロスに提出した、護衛任務の予定表をソフィアがリックに手渡し彼は目を通す。ちなみにリックはポロン達の予定はほとんど頭に入っている、なぜなら、彼がポロンと一緒にこの予定を書いたからだった。

 四人はまず王国西地域の一番大きな町ベストウォールへと向かい、ベストウォールの南の十六夜の森の中にある、祝福の泉で水を汲んでウッドランド村に向かう。


「あっ! もう! ダメだよ。ポロン! 落書きなんかしたら……」


 予定表にリックと一緒に書いた時にはなかった、丸い熊のような人間の落書きが追加されたいた。おそらくカルロスから承認をもらい、返却された後にポロンが描いたのだろう。


「知ってますか? 祝福の泉で二人一緒にお水を飲むと…… ずっと離れずにいられるそうですよ」


 リックの横でソフィアが、予定表を覗き込みながら話しかける。予定表を見ながらソフィアは、横目でリックに視線を向け少し恥ずかしそうして頬を赤くする。


「私はリックと飲むです!」

「えっ!? うん一緒に飲もうね」

「ふぇぇぇ……」


 そっとソフィアが手を出してきた。リックはソフィアの手を握ると、彼女は彼の方を向き優しく微笑んだ。


「はぁ…… いつも思うんですけど、いちいち手を握る必要ってあるんですかね?」

「ふぇぇ!?」

「うわぁ! ミャンミャン!?」


 リックのソフィアの間から声して振り返ると、腰に手を当てて少し不満そうな顔した、ミャンミャンが立っていた。


「ミャンミャンさん!? 何してるですか?」

「何って? もちろんタンタンが危ないことしないか監視にきたんですよ。リックさん達もポロンちゃん達の護衛ですよね?」

「まぁ。そうだけど。でも、この間、タンタンのこともう甘やかさないって言ってなかった?」

「甘やかすのとお姉ちゃんが心配でついていくのは違うんです!」


 前かがみになり、リックに詰め寄りながら、強い口調で違うと言うミャンミャンだった。リックはなにが違うのかよくわからなかったが、とりあえず、ミャンミャンはポロン達についていくつもりだというのはわかった。

 

「うん!? 待てよ!? ミャンミャンが居るってことは!? まさか? どこだ!? 居るのはわかってるんだぞ!」


 リックは叫びながら周囲を警戒して見回している。ミャンミャンは急に叫んだリックに首を傾げた。


「どうしたんですか? リックさん、なんか警戒してませんか?」

「いや…… シーリカはいないのかなって?」


 リックはシーリカが居ないか警戒していた。彼はシーリカに会うと碌な目に合わないからだ。しかし、リックがシーリカの名前を言うと、ミャンミャンが暗い顔になり寂しそうにうつむいた。


「シーリカは…… ローズガーデンに行ってます。ここのところずっとリリィと面会しようと通ってるんです」

「リリィに? どうして?」

「ずっとお世話になってたから、リリィが困ってるなら力になってあげたいんですって…… おかしいですよね。あんな目に合わされたのに……」


 心配そうにミャンミャンは少し遠くを見つめていた。シーリカはローズガーデンに収監された、リリィに面会をしてなんとか彼女を、救おうとしているようだ。優しいのか甘いのか判断はできないが、シーリカらしいとリックは思ったのだった。


「でも、何度も会いに行ってるみたいですけど、リリィがかたくなに会おうとしないみたいですよ」

「そうなんだ」

「ふぇぇ……」

 

 リリィは母親を教会に殺されたようなもので、教会やシーリカを恨んでいるのだろう。彼女がシーリカの面会を拒否する気持ちは十分にわかる。なお、尋問をうけるリリィは何もしゃべらないず担当者が手を焼いている。彼女は処刑が確定しているが、光の聖杯を手に入れて何をするつもりだったのかわからず、他にも王国に危害があるかもしれないので刑の執行もできずにいた。

 ちなみに光の聖杯はリック達が回収して、グラント王国の宝物庫となっている、レイクフォルトの王家の墓に保管された。光の聖杯は勇者が魔王と戦う時に貸し出される予定だ。


「リックおにーちゃん! ソフィアお姉ちゃーん! 準備できたー? 出発するよー!」

「いくのだー!」

「あれっ!? お姉ちゃんも来たの? リックさん達と一緒のところに居てねー」

「よろしくお願いしまーす!」

「わかりましたー」


 ポロン達がリックとソフィアに、向かって手を振り出発すると告げた。リックとソフィアは笑顔で手を振って四人に答えた。


「どっどうしたの!?」


 ミャンミャンがリック達のやり取りを見て驚いた顔で固まっていた。


「どうしたのじゃないですよ! リックさん。なんで声をかけられてるんですか? 普通こういうのバレないように尾行するんじゃないですか?」

「うん!? あぁ。別にかくしてなきゃいけないわけじゃないしね」

「そうです。ポロンに私達がついていくことを伝えてあるですよ」

「えぇ!?」


 なぜか不服そうにする、ミャンミャンに首をかしげるリックとソフィアだった。リックとソフィアはカルロスの指示で、ポロン達に一緒についていくことを伝えてある。隠れて尾行し無茶されるよりは、監視しているぞと思わせておけば無茶をしないだろうという判断だ。

 なお、カルロスからは、極力四人でやらせるようにと指示されており、リック達はあまり手を貸さないつもりだ。


「リック。みんな行っちゃいますよ」

「おっと! 急がないとね。行くよ。ソフィア!」

「はい」

「あっ! 待ってください。私も行きます」


 楽しそうにポロン達が、城門を出ていくのを見た、ソフィアがリックを呼ぶ。慌てて二人がポロン達を追いかけると、ミャンミャンも走って一緒に追いかけてきた。穏やかな街道を行く四人は、にぎやかに会話をしている。先導するのはポロンとタンタンで、後からエドガーとナオミがついて行っている。


「ねぇねぇ、エドガー。祝福の泉ってどんなのとこか知ってる?」

「えっとね。十六夜の森は静かな森で強い魔物はいないみたい。でも、泉の水を守る亡霊騎士(ゴーストナイト)という強力な魔物がいるんだって……」

「ほぇー!? お化けの騎士がいるのだ?」

「うん…… でも、大丈夫だよ。ポロンちゃんは僕が…… いた!」

「あら!? 当たっちゃった! ごめんなさーい」

「ひっひどいよ。ナオミ姉ちゃん……」


 ナオミがポロンを見つめていたエドガーのすねを蹴った。彼女の素早い足の出し方と、表情一つ変えずにそれができるところは、さすがあの人と親子だとリックは感心するのだった。


「大丈夫だよ。ナオミお姉ちゃんは僕が守るから!」

「やだー。タンタン君ありがとう!」

「えへへ……」


 笑ったナオミが手を伸ばし後ろから、タンタンの頭を撫でた。タンタンは撫でられながら、横目でナオミの猫耳を見つめていた。獣耳好き少年の本領発揮である。


「でも…… 騎士だったら、エルザさん達と同じなのだ」

「もうポロンったら…… 一応ポロンも騎士でしょ?」

「おぉ! そうだったのだ。確かにわたしも騎士になったのだ」


 四人は楽しそうに会話をしながら街道を進んでい行く。王都からでて二時間ほど経った、薄暗かった街道も朝日に照らされ、ポカポカとした陽気で気持ちよく、街道と平行して流れる小川の水の音も心地よくのどかな雰囲気があふれていた。


「うん!?」


 街道の横にある、大きな岩の上に四人が登った。朝日を浴びながら、岩の上でナオミが背伸びをしている。


「うーん! 気持ちいい! さぁ朝ごはん食べよう!」

「食べるのだ」


 どうやら四人は岩の上で、朝食にするようだ。夜が明ける前の朝食はまだ食べてなかった。


「じゃあ、俺達もご飯にしようか! ソフィア」

「はい」


 リック達はナオミ達がいる岩の下で敷物をしいて座った。嬉しそうにソフィアがバスケットを出した。バスケットの中には朝食に作ったサンドイッチがぎっしりと詰まっている。


「うわぁ! 美味しそうだ」

「アイリスに教わったんですよ。勇者サンドイッチらしいです」

「へぇ……」


 サンドイッチをつまみにまじまじと見るリックだった。アイリスからソフィアが教わったサンドイッチは、パンとパンの間に挟んである具材が、卵を焼いたものとか、トマトと野菜と肉がたっぷりとかハムとチーズとかいろいろあって目でも楽しめるようになっていた。何が勇者なのかは謎だが……


「なんだ……」


 ミャンミャンがソフィアが作った、サンドイッチ見て不服そうな顔をした。ソフィアがミャンミャンの視線に気づいたのか、不思議そうな顔をして声をかける。


「ミャンミャンさん? 何ですか?」

「ふーん…… ソフィアさんも料理するんですね?」

「えっ!? そうか! ミャンミャンは知らないかも知れないけどソフィアは料理上手なんだよ」

「なんですか!? ソフィアはって! 私も料理できますけど?」


 ムッとした顔で料理ができるというミャンミャン、彼女は道具袋に手をいれ何かをだした……


「じゃーん! 今日も作ってきました!」


 黒い重箱を出して開ける。リックの顔が青ざめる、あれは以前に厄災の地竜を手懐けた伝説のシューマイが入っていた重箱だった。正直にいうと彼はあの重箱は二度とみたくなかった。重箱の中を見たリックがミャンミャンに尋ねる。


「こっこれは!?」

「これも私の田舎の料理でギョーザって言います! きっと美味しいですよ。さぁ食べてみてください!」


 重箱の中はこんがりと真っ黒に焼かれた、三日月の形をした白いギョーザがぎっしりと詰まっていた。笑顔で俺とソフィアに黒い四角い箱をつきだして、ミャンミャンはギョーザをすすめてくる。リックは手で仰ぎながらギョーザの湯気を慎重に嗅ぐ。臭いは悪くなかった、やや焦げ臭くニンニクの香りがほのかにするくらいで別に普通だった。リックは意を決した顔をしてソフィアに声をかける。


「行くよ! ソフィア」

「ふぇ!? はい! リック……」


 ソフィアとお互いの顔を見て頷いて同時にギョーザを食べた。


「うっ! うっ…… うっ! うううううううううううううううううううううううううううう…… うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!! ゲホゴホ!!!! ゴホホホオオオオオオオオオオ!!!」

「ふぇ…… げほっ! げほっ!」



 リックが声をあげた。ミャンミャンのギョーザは恐ろしくからかった。リックの額からやんわりと汗がでてきて、苦しいのだがあまりの辛さに声がでない。リックとソフィアは喉を押さえて必死に水筒を探す。


「ふふ、二人ともあまりのおいしさに声でないみたいですね? あっそうだ! タンタン達にも配って来よう!」


 黙って必死に水筒を探す二人を、見て満足そうに笑ったミャンミャンは、重箱を待って立ち上がり岩の上に居る四人に向かって行く。


「(まて! ミャンミャン! やめろーーーー! ポロン! 逃げろ! 水を! 早く!)」


 リックはなんとか道具袋から水筒を取り出し、ソフィアと一緒に浴びるように水を飲んだ。


「ぷはああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!! ポロン!」


 水で何とか喉の痛みを緩和したリックが岩の上に視線を向けた。すでにミャンミャンがポロン達に、重箱を差し出していた。タンタンとポロンはわかってるのか、顔を背けて食べないように逃げていた。ナオミとエドガーが重箱を目を輝かせ見ていた。リックとソフィアは止めるために岩の上へと急ぐ。


「タンタン君のお姉さんが作ったんですか? うわぁ! 美味しそう!」

「あら!? うれしい。食べてみる? はい! あーん!」


 ミャンミャンはギョーザをつまんでエドガーの口へと運ぶ。心なしか彼の背後にいたタンタンは口元が緩んでいた。


「やめろ。エドガー!」

「食べちゃダメですよ」

「えっ!? パク!」


 必死に止めたリックとソフィアだったが遅かった。エドガーは間に合わず、大きな口をあけてミャンミャンのギョーザを食べてしまった。


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」


 叫び声をあげエドガーが喉を押さえ、その場に崩れ落ちるようにして彼は倒れた。


「ちょっと! 何してるの? エドガーに何を食べさせたのよ!」

「えっ!? きっとこれは美味しかったのよ! ねぇ!? エドガー君? あれ? ちょっと! 何よ! もう!」

「いやいや…… 倒れるほど美味しい訳ないでしょ……」


 ナオミに詰め寄られるミャンミャンは必死に言い訳をしエドガーに声をかける。大の字になって倒れたエドガーは完全にノビてしまって動かない。


「エドガーが死んだのだ!」

「こら! ポロン! 不吉なことを言うな! いくらミャンミャンの料理でも人は…… 死ぬな」

「死にますよ」

「ちょっと! 何てこと言うんですか? 怒りますよ」

「怒るのはミャンミャンじゃなくてエドガーだろ!?」

「うっ……」

「もう…… しょうがないな。みんな水筒を出して」


 リックとソフィアは、みんなの水筒を借りて、エドガーに飲ませるが彼は全然起きない。リックは小さく首を横に振った。


「ダメだな。水が足りないのかな? あっ! 確か近くに小川があったよな!? ポロン! 近くの小川で水を汲んできて!」

「わかったのだ!」

「ソフィアは回復魔法をエドガーに……」

「はい」


 辛くまずい料理を食べて倒れたエドガーに回復魔法が、有効か不明だがとりあえずリックはソフィアに治療を頼む。ソフィアがエドガーの横に座って回復魔法をかけている。エドガーの手をつかんでナオミが心配そうな顔している


「エドガー。大丈夫? しっかりして!」

「うっうーん……」


 ナオミちがエドガーに声をかけている。エドガーは目を覚まさないが、かすかにナオミの声に反応はしている。


「ポロンちゃん。僕も一緒に行く」

「ありがとうなのだ」


 タンタンがポロンと一緒に水を汲みについていく。タンタンはミャンミャンの顔をみて微笑む。


「フフ! ついにお姉ちゃんの料理で死人がでたね。すごいね。ポロンちゃん!」

「ほんとなのだ。ミャンミャンの料理はげろまずなのだ!」

「タンタン! ポロンちゃん!」

「うわ! 逃げろ!」

「逃げるのだ!」

「ちょっと! 待ちなさい!」


 笑いながらタンタンとポロンが平原を駆けて行った。二人を追いかけてミャンミャンが駆けだしていってしまった。


「(もう…… エドガーまだ苦しんでるんだから! ふざけないで、水汲みをしてきてよ……)」


 リックはミャンミャンに追われる、ポロンとタンタンの背中をあきれながら見守っていた。


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