第215話 怪物たちを振り切れ
「うわ!」
メリッサの前にいたワシの顔した、オーガのような生物は翼をはためかせた。激しく翼をはためかす、生物によって激しい風がリック達に吹きつけた。とっさにリックは顔の両腕をだして覆って風をさえぎる。
両腕の間から視線を生物に向けるリック、ワシの顔したオーガが飛び上がった。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
ワシの顔したオーガは円を描くように、リック達の上を飛び、口を大きくあけて威嚇している。
「ふぅ…… またそうやって逃げるのかい。そうだ! ソフィア。あいつの翼を矢で撃ってくれるかい」
「わかりました」
メリッサンの指示を受けて、ソフィアが狙いすまして矢をはなつ。正確に狙った矢はワシの顔をした、オーガの背中の翼を射抜いた。バランスをくずしたオーガが地面に落ちた。
「さすがソフィアだね。ありがとう」
メリッサが槍の構えて駆けだした。地面におちたワシの顔した、オーガは何とか着地して、顔を左右に振って周囲を見ていた。オーガの背後に、メリッサが素早く回り込む。
「はい! おしまいっと!」
「キヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
背後にまわったメリッサが槍で、ワシの顔したオーガの背中を突き刺した。血の付いた槍の刃先がやつの胸から飛び出した。息を小さくはいて、メリッサが槍を引き抜くとオーガの胸から血が吹き出していた。リックはメリッサに駆け寄って声をかける
「さすがですね」
「まぁね。ありがとう。リック、ビーエルナイツに追われてここに来たんだろ?」
「はい! よくわかりましたね」
「あたしらもさ。調査していたら突然壁から霧みたいのが噴射されてね。霧を浴びたビーエルナイツ達に襲いかかってきたのさ。そして追われてここにね」
「そうなんですね…… でもそれって!? ここにわざと……」
「あぁそうだね。おっと!」
メリッサの顔から、笑みが消えて真剣な表情をした。リックも同じで視線を下に向けた。
「まだか…… 次が来るから準備しないとね」
「次って…… まさか!? うわ!」
メリッサの前の地面から、腕が複数生えてきた、腕は先ほどメリッサが倒した、ワシの顔をしたオーガの物だった。倒れていたオーガは灰のようになっていつのまにか消えていた。
「さっきから倒しても倒しても、魔物が地面から湧き上がってくるんだよ。すぐに囲まれるよ」
槍を片手できれいに一回転させ、刃を下に右わきに柄をはさみメリッサが構える。リックも剣に手をかける、しかし、隣にいたメリッサが彼の前に左手をだし制止した。
「待ちな。リック、後ろに通路が見えるだろ?」
左手の親指でメリッサが背中を指す。視線をリックがそちらに向けると、彼らここに入った扉の反対側に開いた扉があり、その先に通路が続いてるのがみえた。
「はい。でも、あの通路はなんですか?」
「あそこからエルザ達がこの施設の奥に行った。あたしはここでこいつらを食い止めてるんだ。あんた達はエルザ達を追いかけな」
「えっ!? でっでも?」
「大丈夫だよ。でも、ちょっと疲れたからソフィア借りていいかい? 飛んでるのが厄介なんだよ」
「わかりました」
リックはソフィアに顔を向けた。彼と目があうとソフィアは優しく微笑んだ。
「ソフィアはここでメリッサさんの援護を頼む。ポロンとリーナさんは俺と先に行くよ」
「わかりました。頑張ります。よろしくです。メリッサさん!」
「うん! よろしくね。ソフィア」
「はい」
任せてくださいと自信満々とソフィアが頷くと、メリッサは左手の手のひらを天井に向けソフィアに向けた。ソフィアは出されたメリッサの手を上から叩いて二人は笑っていた。ワシの顔をしたオーガ四体が、地面からはい出してきた。
「出てきたね。さっさと行きな! リック!」
「わかりました! リーナさん、ポロン。走って!」
「はい! 行きましょうポロンちゃん」
「わかったのだ。がんばるのだメリッサ」
ポロンとリーナがまず空間の奥にある通路に走り出す。メリッサは手を振るポロンを見て、唇が少しだけ笑って頬が緩んでいた。リックはポロン達の後に続いて走り出す。
「ソフィアはリック達に向かうやつを魔法と弓で叩き落としすんだよ」
「わかりました」
四体のワシの顔したオーガに向かってメリッサが駆けだした。
「(ソフィア…… 無事でね。メリッサさんがいるから大丈夫だろうけど……)」
前を向いて走りながらソフィアの無事を祈るリックだった。直後、彼の背後でズシンという大きな音がした、振り返るとリックすぐ近くでワシの顔をしたオーガが地面に叩きつけられていた。
遠くでビリビリと青白い電気が、発光しているのがみえる。ソフィアの魔法でワシの顔をしたオーガを叩き落としているようだ。
「(うん! ソフィアだけでも大丈夫そうだな……)」
リックとポロンとリーナの三人は扉から闘技場のような場所から出て、石造りで壁に松明が掲げられた照らされた通路にでた。通路はまっすぐに伸び分かれ道もなかった。進んだ先にはまた大きな扉があった。
「次はここに入るしかないか」
「えぇ。でも…… 誘いこまれてる気が……」
心配そうにするリーナ、リックも同じだった。ビーエルナイツに追われて以降、この施設の奥へ奥へと誘いこまれている。だが、戻る選択肢はない。メリッサは見つけたが、イーノフやゴーンライトやエルザはいないのだから……
「行きましょう…… 大丈夫です」
「はい……」
リックが微笑むとリーナは静かにうなずいた。
「よし! ポロン扉を開けてくれ」
「わかったのだ」
両手でポロンが扉を押した。金属の大きなすれる音がしてゆっくりと扉が開く、リックは剣を抜いて扉の開いた隙間から、先に扉の中に飛び込んだ。
扉の向こうはメリッサいた空間と同じような場所にでた。周囲をうかがうリック、とりあえず罠のようなものはなさそうだ。だが……
「まずい! 二人とも! 早くこっちへ」
リックは振り返ってポロンとリーナに手招きして二人を呼ぶ。呼ばれた二人が急いで扉の中に入ってきた。リックは二人を置いて走り出した。
「ボーンハイトさんなのだ!」
「違う! 僕はゴーンライト…… ポロン!? リックさんも! あっ! 僕よりエルザさんを!」
ゴーンライトがリック達から少し離れたところに倒れていた。駆け寄ったリックに、彼は別の方向を指さした。
「キャー! ちょっと! やめなさい」
「エルザさん!?」
リックがゴーンライトが指した方向を見ると、エルザの手足に地面から伸びている、細いウネウネとした丸い吸盤のついたタコの足のようなものが絡まっている。エルザは両手首と両足首に吸盤の紐に巻き付かれて拘束されていた。
「ポロン、ゴーンライトさんをお願い!」
「わかったのだ!」
リックはポロンにゴーンライトを任せて、剣を構えてエルザの元に駆けだすのだった。
「大丈夫ですか!? エルザさん!」
「リック! リック助けて! 私…… いやー」
「クソ! うわ!?」
リックとエルザの間の地面から手が伸びてきた。
「なんだ!? こいつ…… そうか! エルザさんを拘束していたのはこいつの足だったのか」
上半身は毛で覆われて細い目と小鼻が斜めにめくりあがって、鼻の穴がみえる牙をむき出しにした醜い顔したオーガで、下半身がたくさんのクラーケン足みたいなものを持った魔物がリックの前に現れた。
オーガはリックの体を向け足を伸ばし、エルザを自分の頭の上に上げた。さらにエルザが着ている鎧の隙間からオーガが足を入れてる。股を閉じようとするエルザだったがすぐに無理矢理開かされる。
「やっ! ちょっとそこはダメ! 今日はダメ…… あん! あっ!」
鎧の隙間からオーガは細い足をいれ、エルザの体にはわせているようだ。エルザの口から甘い吐息がもれ、彼女は抵抗しようと必死に体をよじっている。オーガがエルザを引き寄せて、顔を近づけてニタァと笑った。
「キャー! リックーー! 助けて!」
オーガを睨みつけ、リックは剣で斬りかかろうと…… しかし、直後に顔をオーガが眉間にシワを寄せ顔を歪ませた。
「ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
オーガが鼻を両手で覆って叫び声をあげ、エルザを拘束していた足が、硬直したように伸び彼女を落とした。そのままオーガは鼻を押さえて倒れ込む。
「キャッ!」
大きな音がしてエルザさんはお尻から地面に落ちた。すぐにエルザの元にリックが駆け寄り声をかける。
「だっ大丈夫ですか?」
「もう! いたーい! あいつ! しかも私の顔を見て変な顔したわよね」
地面で四つん這いになったエルザは、痛そうに自分の尻をさすり、オーガを睨みつける。リックはエルザが元気そうで少しホッとする。彼の後ろにリーナが近づき首を横に振った。
「エルザさん…… 昨日も小説を読んでいてお風呂に入ってないですよね? 一昨日もその前も…… ここ一か月くらいずっと……」
「げっ!? きたねえな。エルザさん……」
顔をしかめリックは、首を後ろにさげ背中を反り、エルザから顔をはなすのだった。エルザはリーナの言葉に顔を真っ赤にする。
「なんで! リーナはそれを今言うのよ。ポロンちゃんとかリックに聞かれるでしょ! それに…… 小説だけじゃないもん…… お仕事も忙しかったもん……」
「聞かれて嫌なら! ちゃんとしてください。いつも言ってますよね?」
「うぅ…… リック! 早く起こしなさいよ」
「なんで俺に怒るんですか……」
「早く!!!!」
ムッとした表情のエルザさんが座ったまま、リックに手を伸ばして起こせ要求する。リックは彼女の手を持って引っ張り上げた。エルザは鎧の中の手を入れ、服を直してながら何故かリックを睨む。
「はぁぁ。しかもなんでリックは私のところに来るのよ。あっちでゴーンライトさんを抱きしめなさい」
「えぇ…… さっき駆けつけたら、助けてっていってじゃないですか!?」
リーナが前に出て来て、怒った顔をして顔を近づけ、エルザに詰め寄る。
「エルザさん! いつも言ってますよね。任務中はご趣味をお控えくださいって!」
「もう…… リーナは厳しいんだから……」
不満そうな顔してエルザは口を尖らせてる。王女が影武者に、注意されるのも違和感がある。
「リック、来るのだ!」
「えっ!?」
ポロンが叫ぶ。エルザさんを落としたオーガが、立ち上がりリック達を見つめていた。
「よし、かかってこい…… えっ!? ちょっと!」
エルザがリックの前に出て剣を構えた。
「何してるんですか? 俺が……」
「いやよ。あいつは私の乙女心を蹂躙したのよ。許さないわ。リック、あなたは先に行きなさい」
両手で剣を持ち横を向き、真剣な表情でエルザがリックに指示をする。
「えっ!? 先にって!?」
「いいから! さっきここにジックザイルが居たのよ」
「ジックザイルがですが?」
「うん。笑ってあそこの通路に逃げたのよ。それでイーノフさんがジックザイルを追って一人で行っちゃったのよ。追いかけたいけどあいつが邪魔するのよ」
「イーノフさんが!?」
オーガの後ろに見える壁に扉があって奥へ進める通路のようなものがみえる。
「ここは私がなんとかするわ! だからリック行きなさい」
「でっでも…… エルザさん一人じゃ……」
「大丈夫です。僕も一緒に残ります」
エルザの横に両手に盾を持ったゴーンライトが立った。リックの方を向き彼は申し訳なさそうな顔をする。
「リックさん、すいません。ポロンさんを貸してもらっていいですか? 僕とエルザさんだけだとちょっと攻撃が……」
「わかりました。ポロン、エルザさんとゴーンライトさんを助けてあげて」
「わかったのだ」
ハンマーをクルクルと回しながらポロンが構えた。オーガはポロンを見るとニタァと笑っている。
「フン! いやなやつね。ゴーンライトさんはリックとリーナが横を抜けるように道を作ってください」
「わかりました」
エルザさんの指示ですぐにゴーンライトが、両手の盾を重ねて魔法を唱える。
「行きますよ。リックさん! 闇障害物!」
地面から土製の壁が出現してオーガの右横に壁が並んでいく。壁はオーガの横を通って曲がり、部屋の奥の扉まで伸びていき、部屋の壁とゴーンライトが作った壁で、細い小さな廊下が出来た。横に並んだ壁を見てオーガは不思議そうな顔をしていた。
「さぁ、リックとリーナは壁つたっていきなさい。」
リックとリーナは互いに顔を見あわせて頷くと、壁づたいに走ってオーガの横を駆けていく。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
オーガがリック達に気付き、ゴーンライトさんが作った壁に足をかけて乗り越えようとする。
「ポロンちゃん! あいつの前の地面をどっかーんして!」
「任せるのだ。リック行くのだ。エルザさんとゴーンリキトさんと私が食い止めるのだ」
「ゴーンライト!」
少し大きめな声でゴーンライトがポロンに声をあげるのだった。ゴーンライトに見向きもせず、ポロンは両手でハンマーを持って駆け出していく。
「どっかーんなのだ!」
大きな音が響く。リックが壁の上に視線をむけるおと、ポロンが叩いた地面の土煙と破片が、オーガを襲っていた。オーガは土煙に視界と奪われて必死に手ではらっている。
「さぁ。リーナさん。急ぎましょう」
リックがリーナに手をのばすと、彼女は少し驚いたが、すぐにほほ笑んで彼の手をつかむ。リーナの手を引いて、リックはイーノフの後を追いかけ通路へと入っていくのだった。