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第214話 下水道をさまよって

 第一区画の下水道への入口がある、石造りの小屋の扉を開いたリック達。扉の向こうは階段となっており、階段の先には重そうな鉄製の扉があって、扉をあけると、いつもいく下水道と同じ、鼻の奥をツンと刺激される臭いが彼らの鼻に届く。


「ふぅ…… 王族は良い物つかったり食べたりしてるからって下水が臭いのは変わらないね」


 ぼやきながら下水道を見渡すリックだった。下水道のつくりもいつも行く下水道と変わらず、大きな水路の両脇に人が歩ける通路があり、壁と床はレンガで作られていた。リーナがポロンと一緒に先導し、リックソフィアは彼女達のすぐ後ろからついていく。


「うぅ…… くちゃいのだ……」


 ポロンが鼻をつまんで苦しそうにしいてる。リックやソフィアは、何度か下水道に入ってなれているが、最近は下水道の管理作業が、第四防衛隊に回って来ることが少なくなり、ポロンはまだ下水道に慣れていない。


「はい、ポロンちゃん。ハンカチで鼻をおさえれば臭くないですよ」

「おぉいいのだ? やったのだ」

「えぇ、どうぞ」

「お花の匂いがするのだ!」

「ふふ、ハンカチにはお花の香水をかけてあるのよ」

「ほぇぇリーナさんすごいのだ」


 リーナが腰につけた袋から、白い綺麗なハンカチを取り出し、ポロンに渡していた。ポロンがハンカチで鼻を押さえて嬉しそうに笑う。リックの横を歩くソフィアが少し悔しそうな顔する。


「(でも、ポロンはいいなぁ。リーナさんのハンカチ…… 俺も使いたい。あっ!?)」


 リーナとポロンのやり取りを、見つめうらやましく思うリック、リーナが振り返って彼と目があう。リックと目が合ったリーナは、恥ずかしそうに笑い、そんなリーナに彼は思わず微笑んでしまう。


「リックさんもお使いになりますか? まだあります」

「えっ!? あっ!? いいんですか?」


 笑顔でリーナは袋に手を入れ、もう一枚のハンカチを出そうする。しかし、直後にリックの鼻に布があてがわれ、焼き菓子の匂いがする。


「わっ!? なっなに!? ソフィア!」

「リックには私のハンカチをあげるです」


 横を歩くソフィアが、自分のハンカチを持ってリックの鼻にあててきたのだ。ソフィアがいつも使うハンカチは、菓子を包んでいるのでその匂いがしみ込んでいた。リックはそっとソフィアの手をはなしリーナに視線を向けた。


「俺は…… リーナさんの方を……」

「私の使うです!」

「えぇ!? わかったよ」


 泣きそうな顔でソフィアは、リックの鼻にハンカチをあてて来た。涙目のソフィアにリックが勝てるわけもなく、ソフィアのハンカチをリックは受けとるのだった。


「リックさん…… 残念です」


 リーナが残念そうに取り出そうとしたハンカチを袋に戻す。リックの横でリーナの様子を見た、ソフィアが勝ち誇るのだった。


「リックが使う物は全部私が用意しますから! リーナさんはお気遣いなく!」

「はっはぁ……」


 リーナはソフィアの言葉に困った顔をし、リックは恥ずかさのあまり彼女を止める。


「ソッソフィア!? やめて」

「ブゥです!」


 止められたソフィアは頬を膨らませた。


「おぉ! しゅらばなのだ! あいぞうげきなのだ」

「まぁ?! ポッポロンちゃん!?」

「ポロン! どこでそんな言葉覚えてくるの!」

「ナオミのお部屋で見たご本に書いてあったのだ」


 嬉しそうに両手をあげて答えるポロンだった。


「(まったく…… ナオミちゃんめ…… どんな本をポロンに読ませたんだ…… 後で告げ口してやろう)」


 リックはナオミが大人の本を持っていると、メリッサに告げ口することを誓うのだった。

 暗い通路をソフィアの魔法で照らしてもらい、リック達は第一区画の下水道を奥へといく。


「こっちですね。ついてきてください。」


 曲がり角ではリーナが、地図を確認しながら先導する。地図には第一区画の下水道の詳細と、エルザ達が調査する道順がかかれている。


「いないなぁ……」


 歩きながらぼやくリック。さきほどから下水道に住む、アンデッド系の魔物や、(みず)スライムなどとは、遭遇するがエルザ達の気配はない。曲がり角でまたリーナが立ち止まり地図を眺めている。彼女の足元にポロンが立って背伸びして地図を覗き込んでいた。


「えっと…… この通路の先に扉があってその奥に向かうみたいですね。ただ……」


 地図を下し通路の奥を指さすリーナ、リック達は彼女が指した通路に視線を向けた。


「なにか問題があるのですか?」

「この地図に扉の先が描かれてないんです。最近できたばかりの場所みたいで……」

「怪しいですね」

「はい。おそらくエルザさん達もそこに……」

「行くのだ。きっとメリッサ達が困っててポロン達のこと待ってるのだ!」


 ポロンが笑顔でみんな声をかけ、リーナが指した方向に先に歩いて行く。慌ててリーナがポロンの後と追いかけていく。リックとソフィアもすぐに二人の後を追いかけて行った。


「扉あったのだ!」

「ありがとう。ポロンちゃん」


 通路を駆けて行ったポロンが横の壁をさしている。リックとソフィアはポロン達の元まで急ぐ。

 ポロンの目の前に、レンガに囲まれた木の大きな扉があった。扉は顔の辺りに小さな鉄格子がついた覗き穴があり、鉄格子は向こう側で鉄の板のようなものでふさがれていた。


「怪しいな……」


 リックが近づいて扉を見ながらつぶやく。ポロンが扉に手をかけて開けようとする。


「閉まってるのだ!」

「あら!? エルザさん達が開けたはずなのに…… おかしいですね。でも、任せください……」

「えっ!? リーナさん?」


 しゃがんだリーナが、先の曲がった金属の棒を取り出し、指でつまんで鍵穴に突っ込んで耳を扉にあてた。


「えっと…… 確かここをこうして…… やった開きました!」

「おぉ! 開いたのだ!」


 カチャッという音がして、リーナによって扉は開城され、しゃがんだままリーナは扉を押して開けた。開く扉を見てポロンが声をあげている。


「どうぞお通りください」


 立ち上がり、リーナは扉の前に立って、体を斜めにし得意げに扉の中を、手で指している。リックは彼女の仕草がかわいくて顔が緩む。

 ポロンがリーナの横を通って扉の中にはいっていった。


「リーナさんすごいですね」

「はい。エルザさんが色んな任務があるから、ビーエルナイツでは簡単な扉くらいは開けられるようにみんなで訓練してるんですよ」

「すごいのだ!」

「今度教えてください!」


 ソフィアがリーナさんの肩に手をかけて、鍵の開け方を教えてほしいとせまる。ソフィアの突然の行動にリックが彼女に問いかける。


「ソフィア!? なんで? 必要ないでしょ?」

「またリックが寝る時に部屋に、鍵をかけるようになるかもしれないから開けるようにするです」

「ダメです! 殿方の寝室に入るなんて…… そんな不潔な! ポロンちゃんの前ですよ」

「ふぇぇぇ……」


 リーナさんがソフィアをどかし、ポロンを追いかけ扉の中へ入っていく。ソフィアはしょんぼりしてリーナが開けた扉の中に向かう。


「(うん!? 今リーナさんが舌を出したような…… 気のせいかな。じゃあ俺も扉の中に行こうかな)」


 最後にリックが扉の中へと入るのだった。扉の中は上り階段となっており、薄暗い階段をリック達は上っていく。階段を上りきった先はたくさんの松明が掲げられてる明るく広い通路だった。

 左右に伸びる通路の先は見えない。廊下の壁は灰色で、鉄格子ついた木の扉がいくつも並んでいた。下水道というより地下牢みたいな場所だった。


「右と左どちらに行きましょうか?」

「そうだね…… うん!? みんな隠れて!」


 右の通路から何かが近づいてくる、気配を感じたリックが、皆に隠れるように指示をする。リック達は一旦階段まで戻って隠れる。リックが一番前で壁に張り付き、廊下の様子をこっそりとのぞく。ソフィアとポロンとリーナの三人はリックから十段ほど下がった位置で、左右に分かれ通路を見つめている。通路の先を歩いて来たのは……


「騎士さん達なのだ……」

「本当ですね」


 ポロンとリーナの会話がリックの耳に届く。通路を歩いていたのは、ビーエルナイツ三人だった。ビーエルナイツの三人は髪が長い女性達で顔はリックからはよく見えない。三人はリック達に気付かずに通り過ぎていった。


「おーい待つのだ」

「ポロンちゃん!? 待ってください」


 リーナとポロンが階段から通路にでて声をかける。リックとソフィアも二人の後を追って通路にでてビーエルナイツにむかって歩いて行く。


「エルザさん達はどこなのだ?」

「教えてください」


 ポロンやリーナが近づいて背後から声をかけてるが、うつむいたまま、聞こえてるはずなのにビーエルナイツは返事しない。ビーエルナイツ達ががゆっくりとポロン達に振り返った。


「ポロン、リーナさん、離れて!」


 リックが二人に叫ぶ。振り返った三人のビーエルナイツ達は、うつろな表情をして目の奥が赤く光っていた。これは以前のソフィアと同様に、幻惑魔法で操られている状態だ。彼女らが操られているのに気づいたリックはソフィアに指示を出す。


「ソフィア、迎撃準備をして」

「はい!」

「えっ!? リックさん?」

「どうしたのだ!?」

「いいから! 二人はこっちへ戻ってきて!」


 ポロンとリーナさんが戻って来た。腰にさしていた剣を抜いて、ビーエルナイツ達がゆっくりとリック達に近づいてくる。


「リック! ビーエルナイツさん達が私達に剣を向けてきます」

「うん、この人達は幻惑魔法で操られてる。ポロンも迎撃の準備を」

「わかったのだ」


 剣に手にかけて抜いたリックは前に出た。慌てた様子でリーナさんがリックに声をかける。


「リックさん、ダメです! この人達はビーエルナイツですよ」

「わかってます。ソフィア、ポロン、傷つけちゃダメだよ!」


 リックは自分の剣を逆さにして、ビーエルナイツ達に刃をむけないように持つ。リックの横にポロンが一緒に立って、さらに彼の後ろからソフィアが弓を構えビーエルナイツを狙う。


「難しいです」

「どっかーんできないのだ? むずかしいのだ!」


 困惑する二人、リックは剣を逆さにすればいいが。弓を使うソフィアとハンマーのポロンでは、致命傷を与えずにビーエルナイツを押さ込むのは難しい。


「ふぇぇぇぇ、なら私の電撃魔法で……」

「ダメだよ! あれ俺だからしびれるくらいだけど、普通にうけたらビーエルナイツが死んじゃうよ!」

「私にやらせてください。皆さんは下がってください」


 リック達を制止してリーナが前に出てきた。


「リーナさん。大丈夫ですか!?」

「はい! 任せてください」


 腰につけた鞭を外してリーナは右手に持つ。外されたムチの先端は彼女の、足元に無造作に転がっていた。


「みんな…… ごめんなさい」


 手を体の横に待ってきて、鞭をリーナさんは横に振り切った。鋭く伸びた鞭は一人のビーエルナイツの剣に当たり勢いよくはじき飛ばした。さらに上に鞭を振りかざし、投げるように振りきるとビーエルナイツの剣にムチが巻き付き、引っ張ると剣が手から抜けて天井につきささった。

 最後に。また縦に鞭を振ると上からするどい鞭の一撃が、ビーエルナイツの手にあたり彼女は剣を落とす。華麗な鞭さばきでリーナはあっという間に三人の武器を奪った。


「さぁ、今のうちに逃げますよ!」

「はい!」

「逃げるのだ!」


 通路の反対にむかって、リーナが駆けだした。リック達も後に続いて走る。三人のビーエルナイツ達は剣を拾い追いかけてくる。


「(リーナさん…… 道はわかってるのかな。いや適当だよな絶対…… ここ地図ないって言ったしな)」


 先頭のリーナさんが通路の先を、左に曲がりさらに先の曲がり角と右に行く。


「あっ! ここ開いてます! ここに入りましょう!」

「えっ!?」


 通路の先の開いていた、大きな扉の中にリーナが入った。リック達は彼女の指示に従い部屋に飛び込んだ。


「ここは……」


 扉の向こうは今までの通路と違い天井が高く、向かいの壁が遠くにあってかなり広い場所だった。リック達が来た場所は、広い空間に円形の壁に囲まれて床は、レンガから土へと変わっていた。見た目はどこかローズガーデンの闘技場に似ていた。


「おや!? あんたらも来たのかい?」


 円形の空間からメリッサの声がした。よく見ると中央でメリッサ槍を構えて立っていた。


「メリッサなのだ。探したのだ」

「あら!? 心配かけてごめんね。ポロン!」

「一緒に帰るのだ」

「わかったよ。でも、今いいところだからね。ちょっとそこで待ってな」

「待ってろって!? てか! 何と戦ってるんですか!?」


 メリッサの目の前には、魔物は体毛に覆われた、オーガのような人型の大きな体で、顔はワシで背中にワシの翼の生えた生物が立っていた。

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