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第212話 砂上の戦い

 酒場アセルセンを出た、リック達は砂漠方面への、町の出入り口へと向かう。砂漠はリック多達が、入ってきた入り口の逆になるため、酒場の前の通りを来た時とは逆方向に歩き出した。

 ガーザが歩きながらリック達に声をかけてきた。


「目的の藍玉蠍アクアマリンスコーピオンの巣はこの町からすぐに近くですよ。あいつらは普段は大人しくて人間は襲いませんが、巣に近づくと狂暴になります。気を付けてくださいね」


 普段は大人しいと聞いて少し罪悪感を覚える。リリヤの治療のためとはいえ、罪もない魔物の巣を荒らしにいくのは少し心がいたむ。

 藍玉蠍アクアマリンスコーピオンの話をしながら、歩いて通りの角にさしかかると、ガーザが左側をさしリック達に曲がるように促した。

 

「ガーザおじちゃーん!」

「うん!?」


 子供の声がして、ガーザさんを呼びとめた。リックが振り返ると彼らの後ろに、五人の子供たちが立って手を振っている。


「なんだ!? お前たちか。ガーザお兄ちゃんだろ?」

「えー!? おじちゃん!」

「はぁ! ガーザお兄ちゃん! お前たちは今から仕事か?」

「うん! 新しく出来た砂漠の花屋ゲルプにお手伝いに行くの!」

「おぉ、そうか! おにいちゃんも仕事なんだ。お互いに頑張ろうな」

「うん! ガーザおじちゃん」

「もういい……」

「ははは! 行ってきまーす!」


 子供達がガーザさんの周りに来て、楽しそうに会話をしてすぐに去っていた。大きく手を振って、歩いていく子供達を、ガーザも同じように手を振って見送っていた。子供達の姿が見えなくなると、ガーザは振り向きリック達に申し訳なさそうにする。


「すいません。みなさん早く行きましょう」

「いえ。大丈夫ですよ。ガーザさん、あの子達は?」

「この町の教会がやってる孤児院の子供達ですよ。俺も同じ孤児院で育たったんで、時々面倒をみてやってるんですが懐かれちゃいまいてね」


 孤児院に顔出すガーザはみんなに慕われているようだ。リックは少しだけガーザのことが、信じられる気がして笑顔になった。


「元気な子達でしたね」

「すごい元気ですよ。遊ぶと疲れさせられますけどね……」

「ははっ」

「でも…… それで良いんです。最近はあいつらも仕事もあるし笑顔になりました」

「最近って…… じゃあ以前は?」

「はい。この町は少し前までは砂漠を行き来する人が減って活気がなくなっていたんです。孤児院も寄付が減ってあいつらの食う物にも困ってて…… 酒場の親父が言ってた俺の借金も孤児院の為にブォルザーってやつから借りて……」

「そうだったんですね」

「でも、エルザさんの姉さんが視察に来た時に気にかけてくれて…… 店を作ってくれたり、学校を開いてくれたり、今日の俺みたいに騎士団が仕事をくれるんですよ」


 嬉しそうにガーザはエルザが行っている政策に語っている。


「(エルザさん達はすごいな…… なんかいつも趣味の話しかしてないから何もしてないように見えるけど、どこで聞いても評判はいいししっかりしてるんだよな。たまーにめちゃくちゃ暗い路地とかに、目立たない場所に小説の店とかカードゲームの店とか作ってるけど……)」


 王都の裏路地をリックが警備しいてると、急にエルザ達が開いた店ができて驚くことがあったりする。

 リック達はテナルポリスから砂漠へでた。ガーザの先導で砂の丘を越えて進む。雪と同じに歩くたびに少しだけ、砂にブーツが埋もれて少し歩きにくい。


「まぁ歩くのは慣れれば良いんだけど…… やっぱり…… あっつい!」


 砂の上を歩きながら、照りつける太陽を恨みがましく睨むリックだった。氷石(アイスストーン)で、暑さは和らいでるが、じりじりと照りつける太陽がリック達の体力を奪っていく。ソフィアとポロンも汗をかき暑そうだ。ガーザはさすがに慣れているのか平気で歩いていた。

 テナルポリスが見えなくなり、砂の丘をいくつか超えた、先でで急にガーザが砂の丘の上でしゃがむ。リック達の方をむいて、手を下に向けて彼らにもしゃがむように合図を送る。

 

「いました。みなさん。音を立てずにゆっくりきてください」


 リック達はしゃがみながら。砂の丘の上にのぼり、ガーザの横にくると彼は砂の丘の下を指さした。ガーザが指した、先に全身が光沢の帯びた水色をした、家ほどの大きさの蠍がいた。

 蠍の尻尾の先端は透ける水色になっており、尖った石のような形をしている。他にも前足のハサミの部分も透明な水色をしていた。あのさそりが藍玉蠍アクアマリンスコーピオンだ。

 藍玉蠍アクアマリンスコーピオンはリック達がいる砂の丘の下で穴を掘っていた。

 

「ほぇー大きいのだ」

「うん、大きいね。それに外側の皮膚も堅そうだね」

藍玉蠍アクアマリンスコーピオンは砂漠の王と言われてます。本当に倒せるんですか?」

「大丈夫ですよ」


 うなずいて返事をしたリックは、道具袋から魔物生息図を取り出して開く。


「えっと…… 藍玉蠍アクアマリンスコーピオンは……」


 魔物生息図によると、藍玉蠍アクアマリンスコーピオンは金属のように硬い皮膚に覆われており、弱い刃物での攻撃は効かない。前脚のハサミは強力で鉄の鎧程度であれば簡単に真っ二つにする。また、尻尾の先端には毒針がついており、毒針で攻撃を受けると体が麻痺して動けなくなるという。硬い皮膚を砕く打撃での攻撃が有効で、魔法は炎に強く電撃に弱い。最大の弱点は皮膚の薄い頭で、頭であれば剣での刃物の攻撃は有効である。

 性格は温厚の為、巣に侵入するなどして、人間側から手をださない限りは、危険性は低い。襲われた場合は経験の浅い兵士は、逃げることを推奨される。

 リックは小さくうなずきながら魔物生息図を閉じてしまう。

 

「前足のはさみは大きくて強力みたいですね。それに尻尾の長くてかなりの距離まで届きそうですね」

「そうだね」


 ソフィアの言葉に同意するリック。はさみの間合いと、尻尾の先端の毒針には注意が必要だ。安全を考えるなら、まずは相手の武器をつぶすのが効果的だろう。リックは腕を組み藍玉蠍アクアマリンスコーピオンを見つめていた。しばらくすると何か思いついたのか小さくうなずく。ソフィアは彼がうなずくのを見ると声をかける。


「リック。どうしますか?」

「えっと俺がやつの気を引くから、ソフィアが援護をお願い。すきをついてポロンがハサミをハンマーで破壊して!」

「わかったのだ」

「ソフィアはポロンがハサミを壊したら、俺に電撃魔法を撃ってくれるかな」

「わかりました。」

「ガーザさんはここにいてください」

「わかりました。気を付けて!」


 ソフィアとポロンが二人は静かにうなずいた。それを合図にリック達は飛び出して藍玉蠍アクアマリンスコーピオンに向かって駆けていく。リックが先頭でソフィアとポロンが後ろから続く。


「ほら! こっちだ!」


 リックが藍玉蠍アクアマリンスコーピオンの前に立つ。藍玉蠍アクアマリンスコーピオンの顔が彼を向いた。


「わっ!? うるせえな……」


 藍玉蠍アクアマリンスコーピオンが両前脚のハサミを上にあげ、ぶつけあって大きな音をだした。感情はわからないが、おそらくリックに足して威嚇をしているか、もしくは怒りを表している。


「うわ! あぶねえな」


 藍玉蠍アクアマリンスコーピオンは上から反った尻尾で突き刺してきた。リックは後ろに飛んでしっぽをかわした。


「もう…… 落ち着けって!」


 すぐに尻尾を戻した藍玉蠍アクアマリンスコーピオンは、前脚を広げてまっすぐリックにむかってきて、また尻尾でつきさしてくる。リックは二度、三度と素早くつきだされる尻尾の攻撃をかわす。


「今だ!」


 引き付けて突き刺してきた尻尾を体を斜めにしてかわすリック、彼の横を尻尾がつうかし砂地の地面に突き刺さる。リックは地面につきささった尻尾を剣で軽く斬りつけた。尻尾は硬く軽い攻撃では傷つくことない。

 尻尾を上にあげて、前脚のはさみを左右に大きくひらき、藍玉蠍アクアマリンスコーピオンは驚いたよう動作する。


「後は頼んだよ」


 にやりと笑ったリック、横から藍玉蠍アクアマリンスコーピオンに何かが駆けて近づいて来る。


「どっかーん、どっかーんなのだ!」


 ポロンが駆けてきて藍玉蠍アクアマリンスコーピオンのハサミに向かってジャンプをした。まずは右のハサミをポロンはハンマーでたたいた。金属が叩かれる音がして、藍玉蠍アクアマリンスコーピオンの右のハサミの刃の外側が砕かれた。

 ポロンは右のハンマーを叩いた反動で、回転しながら藍玉蠍アクアマリンスコーピオンを横切り、左のハサミの外側を連続でたたき砕く。

 両手のハサミが砕かれた、藍玉蠍アクアマリンスコーピオンは、大きく体を揺らして痛がっているように見える。


「ソフィア! お願い!」

「はい!」


 ソフィアが手を額にかざし、電撃魔法をリックにむけてはなつ。青白い雷がリックにむかってくる、リックはタイミングを合わせて雷に向かてとんで真ん中あたりで、剣で斬りつけて巻き取るような動作をする。

 リックの黒い剣が青白い雷をおびた。これが彼の特有の技、他力魔法剣だ。

 魔法剣を持ったリックは藍玉蠍アクアマリンスコーピオンの前へと回り込んだ。藍玉蠍アクアマリンスコーピオンは尻尾でリックを攻撃してくるが彼は左右に動き簡単に尻尾をかわす。リックは距離を詰め、藍玉蠍アクアマリンスコーピオンの顔の前へと立った。藍玉蠍アクアマリンスコーピオンの顔は青く丸い目と牙のような突起が二本でている。


「ごめんな……」


 リックは右腕を引き剣先を藍玉蠍アクアマリンスコーピオンへと向け、勢いよく突き出した。硬い手ごたえが手に感じ、視界に青い血のような体液が飛び散る。リックは二つある目の間に剣を突き刺したのだった。

 藍玉蠍アクアマリンスコーピオンの体から、血から抜けるように、尻尾がダラーンとしてゆっくりと足が伸びて倒れた。


「じゃあ、この尻尾の部分を切り落として運ぶよ!」


 リックが剣で藍玉蠍アクアマリンスコーピオンの尻尾を切り落とした。大きな尻尾をポロンが軽々と持ち上げた。


「うん!?」


 ガーザがいる砂丘に目を向けたリック。ガーザの誰かと一緒にいるのが見えリック達の方へと歩いて来ていた。ガーザは三人に囲まれおり、横に一人後ろから二人の男がいて砂丘をゆっくりとリック達に向かって下りてくる。

 リック達の近くまでゆっくり来た、ガーザの横には綺麗な紫色の上下つながった服を着た、白い布を頭に巻いた恰幅のいい中年の男が立っていた。男は口ひげを生やして目つきが悪くいやらしい顔をしていた。

 後ろの二人はガーザと同じような袖のない青い上着に、ズボンを履いて片手に曲がった剣を持っていた。


「おい! 兵士ども! ちょっと待て!」

「あなたは誰だい?」

「私はブォルザーだ。ガーザとはちょっとした知り合いでね」


 ガーザの横にいる男はブォルザーと名乗った。彼はガーザが借金をしている男だ。ブォルザーはいやらしく笑ってリックに口を開く。


藍玉蠍アクアマリンスコーピオンは俺達がもらう…… いいな? ガーザ!」

「やめろ! リックさん達は関係ないだろ?」

「関係ないだぁ? お前と一緒にいるんだからお前の知り合いだろ? だったら俺にも関係があるだろ。それともお前は借金をすぐに返してくれるのか?」

「うぅ…… リックさん…… すまねぇ……」


 リックはソフィアとポロンに、彼の背中に回るように、手で合図する。リックは一歩前にでてブォルザーに問いかける。


「どういうこかわからないんだが?」

「まぁお前たちには関係ない。ただ、藍玉蠍アクアマリンスコーピオンの素材は高く売れるんだ。それでガーザの借金を帳消しにしてやるよ」


 ブォルザーは借金のカタに藍玉蠍アクアマリンスコーピオン を持っていくつもりのようだ。リック達には関係のないことだが、彼らの目的は尾っぽだけなので他は好きにして良い。リックは面倒そうに答える。

 

「勝手にしろ。藍玉蠍アクアマリンスコーピオンの尻尾を取りに来たんだ。他はくれてやるよ」

「ダメだ! 藍玉蠍アクアマリンスコーピオンは尻尾が一番価値があるんだよ。おい!! そこのガキ尻尾を渡せ!」

「いやなのだ! これは大事なのだ!」

「おい! お前らあのガキを!」


 後ろの二人が剣を抜いて歩いてきた。


「チッ!」


 せっかく手に入れた尻尾を簡単に渡すつもりはない。リックは剣を抜いて、剣先を下に構えて男二人に叫ぶ。


「いい加減にしろ。尻尾はお前たちに渡すつもりはない!」

「チッ! おーい! 見せてやれ!」


 ブォルザーが手で合図を送ると丘の上に人影が現れる。そこには男が少年に剣を突きつけていた。少年は先ほどガーザに声をかけてきた男の子の一人だった。ガーザはブォルザーに怒りの表情を向ける。


「ブォルザーめ…… 汚いぞ! 借金は俺だけの……」

「うるせえんだよ。さぁガキを殺されたくなかったら言うこと聞け!」

「クソ! ブォルザー! お前…… あの子達は関係ないだろ!?」

「黙れ! さぁ兵士さん? 子供の命と尻尾と交換だ!」


 いやらしく笑ってポロンが持つ尾っぽを指すブォルザー。リックはポロンに視線をむけた、彼女はリックの顔を不安そうに見ていた。

 

「ポロン…… 尻尾をブォルザーに……」

「わかったのだ」


 悔しそうな顔でポロンは、尻尾をブォルザーに投げた。ブォルザー達の前に大きな尻尾が転がった。ガーザの後ろにいた、ブォルザーの部下二人が大事そうに尻尾を抱えて持った。ブォルザーは部下が尻尾を持つのをみてニヤニヤと笑っていた。


「おい! ガーザ、お前そこの兵士達を殺せ!」

「なっなんだと!?」

「フン…… あの騎士団の女どもがしゃしゃり出てきて面倒が増えたからな。少し見せしめをしないと…… おい!」


 ブォルザーが手をあげて合図をすると、砂の丘の上にいた男が剣を振りあげ、少年を斬りつけるような動作をした。


「やめろ! わかった! やめてくれ」

「ガーザおじちゃん! そんなことしないで! やめて!」

「黙れ! 大人しくしろ!」

「いた!!!」


 砂の丘の上で少年が泣きながら叫ぶ。男が少年を剣の柄で殴りつけた。


「やる! やるからあいつを傷つけないでくれ……」


 叫んだガーザさんが、手を震えさせながら、腰につけた剣を抜いた。リックはガーザを見た、彼は勝ち誇った顔で笑っている。リックはソフィアに視線を向け声をかける。


「ソフィア…… 丘の上のやつを狙える?」

「はい。この距離ならいつもでいけますよ」

「ありがとう。ポロンは合図したら…… ブォルザー達前の砂をどっかーんをお願いね」

「わかったのだ」


 剣を持ってフラフラと泣きそうな顔でリックの前にたったガーザ。


「リックさん…… すまねぇ! あいつの為に死んでくれ!」

「いいですよ。ちゃんと狙ってくださいね。ここです」

「えっ!?」


 リックは剣を足元に砂につきさし、胸を右手の親指でさした。少し驚いた表情をしたガーザが剣を構えて突っ込んでくる。


「(何をニヤついてんだよ。ブォルザー! 覚えてろよ!)」


 両手に剣を持って、リックの胸をめがけて、ガーザは剣をつきだす。


「ごめんなさい」


 ギリギリで体をななめにしガーザさんの剣をかわしたリック。足元につきさした剣をひろいながら、ガーザの斜め後ろに回り込んだ、リックは片刃の剣を回転させ、刃がない方でガーザの背中を叩いた。


「グハ!」

「ごめんなさい。ガーザさん!」


 ガーザは前のめりに倒れ込み、ブォルザーはリックの動きについて行けずになにが起きたのかわからずにいた。


「ポロン! 今だ!」

「どっかーんなのだ!」


 ポロンがハンマーを持って駆けだし、ブォルザー達の前に砂にハンマーを叩きつけた。砂が激しく舞い上がって周囲を包み視界が遮られる。


「ソフィア!」

「はい」


 リックが剣を構えて、ブォルザーに向かって駆けだしていく。ポロンが舞いあげた、砂が徐々にはれていく。


「てめえ!」

「この!」

 

 リックの接近に気付いたブォルザーの部下が、尻尾を捨ててリックに斬りかかって来た。


「遅い!」


 一人の男がリックの右斜め前から斬りかかってくる。体を右に傾けてリックは、男の右側にぬけた。リックの目の前を男の剣が通り過ぎていく。リックは剣を腰の前にもったまま、すり抜けながら男の脇腹を斬りつけた。やわらかい手ごたえがし、男のわき腹から血が噴き出て、男は前のめりに倒れる。


「ギャー!」

「えっ!? こっ、このー!?」


 もう一人の男がリックに正面からむかって来た。右手に持った剣を引き、男はリックの胸をめがけて突いてきた。斜め左に一歩進み、相手の突きをかわし、そのまま前に出て相手の背後に回むリックは、剣を左肩まであげて斜めに背中を斬りつけた。背中を斜めに切られた男は、声をあげることもなく膝をついてうつ伏せに倒れた。

 倒れた男を足元に置いて、リックが静かにブォルザーを見た。


「ひぃ! 助けてくれ」


 ブォルザーは叫びながら、リックに背中を向けて逃げだした。リックは黙ってブォルザーとの距離をつめると、走っている右足に向けて剣を振りあげた。リックの剣はブォルザーの足首を斬りつけ、ブォルザーは前のめりに倒れる。

 

「ガーザおじちゃん!!!」


 ソフィアが放った矢は、子供に剣を突き付けて男の頭を貫いていた。男の拘束から解放された少年は、ガーザの元に駆けてきていた。


「いやだ…… やめろ!」


 リックの目の前で足から血を流し、必死にはいずりながら、ブォルザーが逃げようとしていた。リックはブォルザーを見下ろして静かに口を開く。


「ブォルザー! お前を逮捕する! ポロン! 縄をお願いね」

「わかったのだ!」


 ポロンがブォルザーに縄をかけて拘束する。ガーザが立ち上がって背中をおさえ、少年が背中を手でなでている。血を拭い剣をおさめたリックが近付くとガーザは申し訳なそうな顔をする。


「リックさんすまない…… 俺は……」

「おにーちゃん!! ガーザおじさんは僕の為に…… だから逮捕しないで…… これを……」

 

 少年がガーザの前に立ち、リックにむけて両手をだしてくる。手には袋が乗っている。


「これは!?」

「今日のお手伝いしたお金…… これでガーザさんを……」

「うん。わかったよ。じゃあもらうね」

「あっ……」


 リックは少年がつきだした袋を手のひらから取る。それを見ていた、ポロンとソフィアが、驚いた表情をして彼に叫ぶ。


「リックひどいですよ」

「そうなのだ! 返してあげるのだ」


 二人の声を聞いてリックは笑った。ガーザは泣きそうな顔して少年の頭を撫でていた。リックはとぼけた顔で話を始める。

 

「でも、俺達はすぐに王都に帰らないといけないんだよな…… ガーザさんブォルザーと藍玉蠍アクアマリンスコーピオンをテナルポリスへ持って行ってもらっていいですか?」

「えっ!? どういうことですか?」

「報酬は藍玉蠍アクアマリンスコーピオンの尻尾以外の素材でいいですよね?」

「えぇ…… はい!」

「やってくれますか! はい。じゃあこれを運送費に使ってください」


 リックは驚いてうなずいたガーザの手に、先ほど少年からもらった袋を握らせた。


「これは? リックさん……」

「もう子供達を泣かしちゃダメですよ。ガーザさん、じゃあ、俺達はこれで帰りますね」

「あっ…… ありがとうございます」


 リックは少年から受け取った金をガーザに渡した。ガーザは泣きながらリックに頭を下げるのだった。


「じゃあ。よろしくお願いしますね。さぁ! 俺達は帰ろうか」


 ソフィアと目が合うと彼女はやさしくリックにほほ笑む。ポロンは勇んで尻尾をまた持った。リック達はテナリ砂漠から王都へと戻るのであった。

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