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第209話 立て!

「ふーん…… それでお前さん達がこの子を詰め所に連れ帰ってきちゃったわけね……」

「はっはい…… あっ! 隊長! この子じゃないですよ。名前はリリヤさんですよ」


 自分の席に腰かけて軽く息を吐きながら、カルロスがリックを見つめている。昨日、リック達が捕まえた顔右上が犬みたいな女性は、リリヤさんという名前で王都の近くの村の出身だった。リックがカルロスに名前をつたえると、少し怪訝な顔してリックを見つめてくる。


「名前はわかったよ。でもお前さんさ……」

「なんですか!? リリヤさんはグラント王国民なんですよ!? 助けを求められたら兵士として、保護するのは当たり前でしょ!」

「だったらさ、なんでリック達は詰め所にリリヤさんを置いてっちゃうの! 誰か残ってるべきでしょ!?」

「だから…… それは…… まだ夜間警備中だったから…… 終わって朝一でくれば良いかなって…… それに誰かいると彼女が落ち着かないかなと……」

「はぁぁぁぁぁ。ならちゃんと朝一できなよ! だからあんなことになるんでしょ!」


 大きくため息をついたカルロスは、詰め所のある場所をさした。カルロスが指さした場所には、仰向けに倒れたゴーンライトが…… 彼の横にはソフィアが座って介抱していた。リリヤがソフィアの向かい側に泣きながら座り、リリヤさんの後ろでポロンが彼女の背中を、心配そうにさすっている。


「私がーーー! この人を…… ごめんなさい!」

「大丈夫ですよ。驚いて気絶してるだけですから」

「しっかりするのだゾーンライトさん!」

「私がこんな姿だから……」


 顔を覆って泣くリリヤをソフィアが励ましている。リック達は昨夜リリヤを保護したが、リリヤの容姿から事件の可能性が高いため、カルロスに相談しようと詰め所に連れて帰った。しかし、リック達はすぐに夜間警備へすぐに戻らなければなかったが、深夜のため詰め所には誰もいなかった。いたしかたなく、リリヤに詰め所で静かにしているように指示し、リック達は夜間警備へと戻ったのだった。夜間警備が終わり、すぐに詰め所へと三人は戻って来たのだが……

 リック達の帰還よりも早く、詰め所に出勤してきたゴーンライトが、詰め所の扉を開けて入ってしまった。リック達が戻って来たと思ったリリヤさんとゴーンライトさんが遭遇し、彼は驚き倒れて頭をうって気絶したという訳だ。


「はぁ…… 勝手にリリヤさんを置いていった俺達がわるいんだけどさ。ゴーンライトさんも兵士なのに、こんなことに驚いて気絶しないでくださいよ…… だいたいさリリヤさんより普段あなたが組んでるあの人の方が怖いでしょうよ。もう……」


 仰向けて気絶している、ゴーンライトにぶつくさと文句を言うリック。直後に詰め所の扉が開かれた。


「おはよー。あれ!? みんなどうしのたの?」

「騒がしいね。あれ!? ポロンにソフィアにリック!? あんた達は夜間警備明けだから休暇じゃ?」

「あっお前さん達、おはよう。実はな……」


 イーノフとメリッサが詰め所に出勤して来た。中の様子を見て首をかしげる二人に、カルロスが事情を説明する。説明を聴いたメリッサが、頭を抱えて大きなため息を履く。


「はああああぁぁぁ!? ったく! 情けない……」

「こら! メリッサ! ダメだよ!」


 ゴーンライトを一睨みして進んでいくメリッサ。何が行われるか想像がついたイーノフが、慌ててメリッサの腰にしがみついてて止めるが、ずるずると一緒に引きずられていった。イーノフはリックに助けろと視線を向ける。だが、リックは首を横に振って諦めて動かない。まぁ、例え彼が動いたとしても、力でメリッサを押さえ込める人間は第四防衛隊にはいない、かろうじてポロンが抵抗できる程度である。すでにカルロスは見て見ないふりをするつもりなのか、もとから興味がないのか書類で顔をかくしていた。


「ソフィアとポロン…… ちょっとどいて」

「ふぇぇぇ!?」


 メリッサさソフィアの肩にかるく手を置き、やさしくソフィアに声をかけた。振り返ってソフィアは立ち上がり、移動する彼女の顔は少しこわばっていた。ポロンはリリヤをつれリックの横へとやってきた。

 寝かされたゴーンライトの横に立つメリッサ、周囲の視線が彼女に集中する。心中でリックはあまり暴力的なことをしないようにと……


「あっ!?」

「ダメだよ! メリッサ……」

「いいんだよ! ほら! ゴーンライト起きな」


 メリッサは横からゴーンライトを蹴り上げた。腰にしがみつていたイーノフは、小さい体で必死にメリッサを止めていた。蹴られたゴーンライトはゴロゴロと転がって、詰め所の壁にぶつかり大きな音が響く。


「おお! 起きたのだ!」


 勢いよく転がって壁にぶつかった、ゴーンライトは目を開きすっと起き上った。うれしそうに声をあげ、ポロンがリリヤの手を引いて、彼に駆け寄っていく。頭を押さえて起き上がった、ゴーンライトは首を横に振って何度も瞬きをしていてる。


「うーん! ここは?! あっ! みなさん! 大変です。化け物が…… ぎゃああああああああああああああああああ!!!!!!! 化け物がポロンさんの後ろに!!!!!!!!! うー……」

「あぁ! もう面倒だね! 起きな! もっと叩くよ」

「メリッサ! だから叩いてから叩くよっていっても!」


 ゴーンライトに再度近づいてメリッサが、左手でゴーンライトの首根っこを掴み、ヒョイっとあげ右手で彼の頬を叩きだす。バシーンといういい音が何でも詰め所に響き渡る。音がするたびにリックは顔をしかめる。リリヤは怯えてポロンの後ろに隠れた。


「いたっ!? メリッサさん! おはようございます…… あっ!化けも…… いた!」

「メリッサ! だからダメだって!」


 両頬を腫らしたゴーンライトにメリッサが顔を近づけた。


「気絶しないでよく聞きな。あの子はリックが保護した人で化け物じゃない!」

「はっはい……」


 目覚めたゴーンライトがリリヤをまた見て、驚いた表情するとすかさずメリッサさんが引っぱたいた。必死にしがみついてイーノフが止めているがまったく効果はない。メリッサはゴーンライトを引っぱたくと、彼に顔を近づけ、気絶しないように監視しながらリリヤさんの事を話している。リックはこのメリッサよりもリリヤを怖がるゴーンライトが謎だった。


「私…… やっぱり」


 ゴーンライトに怖がられたリリヤが悲しそうにする。ポロンは振り向いてリリヤに声をかける。


「リリヤさんは怖くないのだ」

「ありがとう。ポロンさん……」

「それにメリッサの方がいっぱいこわいのだ」

「えっ!? そっそうですね……」

「だよねぇ。メリッサさんに比べたら、リリヤさんなんかまったく怖くないよねー!」


 三人で話しながら笑っている。リリヤも気まずそうなに顔を背けていたが、肩が震えているので笑っているようだ。メリッサはリックを睨みつけた。


「あんた達…… 聞こえてるよ! リックは後で腕立て二百回だからね」

「なんで俺だけ!」

「うるさい!」


 ゴーンライトから手を離したメリッサは、腕を組んでこっちを不満げにリックを睨みつけていた。ポロンは笑ってソフィアはすっと目をリックからそらすのだった。


「うん!?」


 リックがメリッサを見て首をかしげた。腕を組んだまま彼女は、ちょっとだけほっぺたを赤くし、恥ずかしそうにしているのだ。


「でさ、イーノフ…… あんた…… いつまでにしがみついてるの? 胸当ての間に手が入って胸に…… 当たってる…… はなしてくれるかい」

「あっ…… ごめん……」


 イーノフが慌てて様子で手をはなして、メリッサと顔を合わすと二人は恥ずかしそうにしていた。二人の姿を見て目を輝かせて、うれしそうにソフィアが二人にかけよって騒いでいる。


「(えぇ!? これもですか……)」


 なぜかリックはメリッサに睨まれたのだった。


「はいはい、こっちおいでソフィア」

「いやです! 二人の愛のささやきを聞くです」

「いいから!」


 ソフィアを手をひいたリックは、メリッサ達から彼女を引き離すのだった。手を引かれるソフィアは頬を不満そうに膨らませるのだった。リック達の様子を見ていた、椅子からカルロスが立ち上がって声をかける。


「さて…… 落ち着いたかい? じゃあ、お前さん達は僕の周りに集まってくれるかい。ポロンはリリヤさんを連れてきてくれ」

「わかったのだ」


 カルロスが全員を呼んで自分の机の前に並ばせる。リリヤはポロンが手を引いて一緒に歩く。全員が隊長の机の前に並ぶと、リリヤにカルロスが笑顔を向け口を開く。


「リリヤさん、私はこの第四防衛隊の隊長カルロス・ゴメスといいます」

「すっすいません。お騒がせして……」

「気にしないでください。第四防衛隊(うち)はいつもこんなもんです。むしろ今日はポロンが大人しいから静かですよ」

「失礼なのだ! わたしは普段からおとなしいのだ!」

「へぇ…… この間エドガーのところでハンマーを修理して、ここで試しに振り回して壁に穴開けて怒られたのは誰だい?」


 不満そうなポロンにカルロスが問いかける。数日前、修理に出していたハンマーを受け取った、ポロンが素振りをして誤って壁に大穴をあけてしまった。怒ったメリッサが、ポロンのハンマーを取り上げ、ポロンは大泣きした。ソフィアと一緒にリックもメリッサに頭を下げ、二度と詰め所でハンマーを振り回されないという、約束をしてなんとかハンマーを返してもらった。


「そっそれは…… ちょっと力を入れすぎただけなのだ! それにもうしないってメリッサと約束したのだ!」


 ポロンが必死に説明している姿を見て、リリヤは笑顔になっていた。だが、彼女はすぐに浮かない表情に変わりうつむく。リリヤの様子に気付いた、カルロスがすぐに声をかける。


「どうしたんですか?」

「私…… ここから出ていかないと…… みなさんに迷惑がかかります……」

「リリヤさん…… 安心してください。あなたは我が第四防衛隊で保護します。」

「えっ!? でも、私がいたら……」

「大丈夫なのだ! リリヤさんはポロンが守るのだ!」


 目に涙をためて迷惑をかけないというリリヤ。犬のようになった右手で、顔の涙をぬぐうリリヤ、横にいたポロンが彼女の手を握り、笑顔で明るく答えるのだった。


「ポロンの言う通りですよ。我々は王国民を保護するのも任務ですから…… さて……」


 カルロスがうなずいて笑うと、少しだけリリヤが安心したような顔をした。手を前にして組んだカルロスは、リリヤの顔をジッとみつめて真剣な表情をする。机に並んだリック達に緊張が走る。


「リリヤさんはなぜあの場所に?」

「はい。私は…… 村が何者かに襲われて…… 気づいたら大きな暗い部屋にいました」

「他の村人は? 村が襲われたんですよね」

「わかりません…… 部屋には私一人でした」

「なるほど…… さらった人間の姿はみましたか?」

「いえ…… 食事の時に手だけ見えて、その時に綺麗な白い鎧の一部が見えました。それで一日くらいして…… 扉が開いてフードをかぶった人の目を見たら急に眠くなって…… 目覚めたら私はこの姿に……」


 ゆっくりと隊長の質問に答えるリリヤ、彼女はさらわれてどこかに囚われていたようだ。そして彼女を監禁していたのは白い鎧に身を包んだ者達……

 

「白い鎧って?、リリヤさんは騎士団に? でもエルザさん達がそんなことする訳……」

「いや。リック。違うよ。エルザさん達だったら、もうお前さんの報告が上がってるだろうからとっくにここに来てるはずだよ……」

「なら…… あっちだね…… 最近影の薄いほう」

「そうだな。ジックザイルが率いる騎士団……」


 ジックザイルが率いる騎士団は、以前は王都や国中の治安を担当していたが、度重なる失態とエルザ達の台頭により、王城と貴族達の警護を担当するだけとなり、その権限はかなり縮小されていた。以前よりジックザイルは、騎士団の復権を画策しているのではと噂が絶えない。


「では、リリヤさんはどうやって逃げ来たんですか?」

「えっと…… 眠らされた後目覚めたらずぶ濡れでさっきまでいた部屋じゃない狭い場所に倒れていたんです」


 必死に思い出しながらリリヤは話を続けていく。


「目覚めた場所から歩くと、狭い通路があって薄暗くて水が流れてすごい臭かったです。階段を上ったりスライムとか魔物を追われて…… 何とか外に出たんですが、この姿では人に見つかると驚かれてしまって逃げ回っていました。お腹がすいて悪いと思いましたが何度か食堂に盗みに…… すいません」

「まぁそれは緊急事態ですから見なかったことにしますよ」

「隊長…… リリヤさんの話の場所は下水道ですね」

「そうだな」


 暗く狭い臭いがきつい水が流れる場所。イーノフの推測通り、リリヤは王都の下水道に放置され、なんとか地上へ上がって逃げ回っていた。しかし、下水道は冒険者や勇者など結構な人が出入りする場所のはずだ。何かが行われていればすぐに通報されるはずである。カルロスは少し考えてから口を開く。


「ゴーンライト、悪いけどリック達が彼女を保護した場所の一番近い下水道の入り口を調べて」

「はっはい! わかりました。あれ? でもリックさん達がリリヤさんを保護した場所って?」

「ポロン! ゴーンライトに教えてあげな」

「わかったのだ!」


 指示を受けたゴーンライトが地図を、引っ張り出し机で調べ始める。ポロンが横に座ってどこで保護したのか場所を教えている。カルロスはイーノフの顔を見た。


「それとイーノフ。お前さんは彼女の体の症状がなんだかわかるかい?」

「そうですね…… 魔法で合成獣(キメラ)を作って失敗した時に…… 似てます」

「わかった。それでその治療方法とかはあるのかい?」

「魔法による人体障害は僕の専門外なのですぐには…… ソフィアを貸してもらって一緒に調査をさせてください」


 イーノフは難しい顔をし、ソフィアを貸してほしいとカルロスに提案する。魔法治療ということに限れば、ソフィアの方がイーノフよりも経験豊富だ。


「いいだろう。じゃあソフィア。お前さんはイーノフとリリヤさんの治療方法を調べてくれるかい?」

「わかりました」

「じゃあソフィア。僕の机に来てくれ」


 呼ばれたソフィアはイーノフの机で二人で話し始めた。リリヤは治療ができるかもしれないと、聞いてちょっとだけ安心しているようだった。

 カルロスがリックとメリッサに話を続ける。


「話を聞いた限りでは、リリヤさんをさらったのは騎士団だろう。そして…… 魔物と融合させようとして失敗したってところかな」

「騎士団がなんでこんなことをしたんでしょう?」

「少し前にも騎士団は魔物と人間を融合させて、より強い兵士を作ろうとしていからな。犠牲者ばかりでて実験は中止されたと思っていたが黙って続けていたのかもしれないな」


 リックは顎に手を置いて考える。以前に、実験体のミノタウロスを捕まえ、ブッシャーに預けに行ったことを思い出した。


「見つけました!」


 地図を持ったゴーンライトが、カルロスの机にやってきて机に地図を広げた。リック達がリリヤを保護した食堂から、王都の中心部に向かっていった先に赤い丸がついている。


「リックさん達がリリヤさんを保護した場所から一番近い下水道の入り口はここです」

「ふぅ…… やっぱり…… ちょっと厄介だな」

「あぁ。そうだね。少し面倒だね」

「珍しいですね。メリッサさんも面倒なんて」

「もちろんだよ。その入り口は王都の第一区画の下水道へ続く入り口だからね」


 王都グラディアの第一区画は、グラン王国の王城や王侯貴族が住むエリアだ。防衛隊の末端であるリック達が簡単に調査などはできないエリアだった。

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