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第206話 討ち取れワニ将軍

「えっ!?」


 光がおさまるとクロコアイバーソンが、後ろ足が伸びて立ち上がって、前足が手みたいになって姿が人間のように変化した。二メートルほどの赤い人型ワニへと変わったクロコアイバーソンは、背丈と同じくらい長い黒い柄で青い二枚の刃がついた斧を背負っていた。


「ウビャずら!」


 前足の手でスライムを器用にはがすと投げ捨てた。地面に叩きつけられたスラムンの元へキラ君が、走って行きしゃがんで彼を持ち上げた。


「うーんズラ…… あっあんたは……」

「たがが、スライムごときに私が足止めされるとはな。おい!」


 キラ君に持ち上げられた、スラムンを睨みつけるクロコアイバーソン。


「あいつが…… 俺を……」

「おい! 喋りすぎだ。ブローソン!」

「キャッ!」


 ブローソンに向かって、クロコアイバーソンの手を向けた。クロコアイバーソンの手から小さな風が起きて、ブローソンの体に吹き付けた。風を拭きつけれ全てすなのように崩れて消えてしまった。


「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 両手で砂をかき集めるようにして、ボロンカは叫びながら泣いている。リックは静かに剣に手をかけたクロコアイバーソンを睨みつける。


「うるさい女だ。すぐに後を追わしてやるよ」


 背中に手をまわしたクロコアイバーソンがゆっくりとボロンカの元へと向かう。斧を構えボロンカに向けて振り下す。


「貴様!!!!」


 大きな音が教会にこだました。駆けだしたリックは剣を抜いて、ボロンカの前へ行くと、振り下ろされたクロコアイバーソンの斧を、剣で受け止めた。リックが視線を後ろに向ける。涙を流しながら、ボロンカが斧を受け止めた、彼を呆然と見つめていた。


「ソフィア、ボロンカさんをお願い! ポロンはアイシャさんとバーランドさんを避難させて! ベンディさんは神父さんをお願いします」

「はい」

 

 リックの指示をうけそれぞれに動き出す。リックはクロコアイバーソンに視線を戻した。剣越しに映るクロコアイバーソンは、大きな斧を細身の剣で受け止めた、彼に目を見開いて驚いているようだった。リックはクロコアイバーソンを睨みつけ叫ぶ。


「おい! ワニ野郎! 俺が相手だ!」

「ワッワニ野郎だと!? はっはっは! 面白い! 我は四邪神将軍の一人、騒乱大王ディスターバンスキングクロコアイバーソンだ。人間風情が相手になると思ってるのか」


 クロコアイバーソンは四邪神将軍の一人だった。両手に力を込め、クロコアイバーソンは斧を押し込んだ。リックの体が押され後ずさりして距離が出来た。すぐにクロコアイバーソンは背中まで振り上げるとリックに向かって叩きつけた叩きつける。


「はは」


 リックはクロコアイバーソンの斧に素早く反応する。斧の軌道にすっと剣を持っていく、音がしてクロコアイバーソンの斧とリックの剣がぶつかった。彼は斧と剣がぶつかった瞬間にすっと肘を曲げて、剣先を地面に向けると斧は受け流され地面へ向かっていく。大きな音がしてクロコアイバーソンの斧が地面を叩いた。リックは右足を前にだしてクロコアイバーソンの左へ移動する。

 リックは右腕を引き、地面と剣を水平にし、飛び上がりながらクロコアイバーソンの顔に向け剣をつきだす。クロコアイバーソンはとっさに顔を斜めに傾けた。リックの剣はクロコアイバーソンの顔の横をかすめる。長いう上顎が五センチほどリックの剣にえぐられわずかに紫色の血が飛び散る。リックは剣をついたまま、体を入れ替えるようにして、クロコアイバーソン横を駆け抜け背後に回り込む。

 クロコアイバーソンは即座に振りかえった。リックは剣を構えたままクロコアイバーソンを見つめていた。クロコアイバーソンはほほを自分の手で血がでてるのを確認した。手に着いた紫色の血を見て、クロコアイバーソンの顔はニヤリと笑った。


「ほう…… やるじゃないか? 貴様の名前は?」

「俺は…… グラント王国の王立第四防衛隊リック・ナイトウォーカーだ!」

「ほぅ。貴様がリック・ナイトウォーカーか! メイガスやモンドクスを倒したくらいで調子に乗るなよ」


 両手に斧を持って構えるクロコアイバーソン、リックは彼の言葉に真顔で返す。


「調子にのるなか…… 乗れたらいいんだけど…… だってあいつらクソ弱えから調子にのるほどでもねえだろうがよ」

「はっ!? 人間風情がほざくな!」

「いいぜ! お前も他のやつらみたいに俺が片付けてやるよ」

「きさまあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 左手で手招きするリックに、怒って怒鳴りながら、斧を両手で持って、クロコアイバーソンが構えた。リックが視線を礼拝堂の入り口に向ける。ボロンカやバーランド神父をつれてソフィア達が教会を出ていくのが見え、彼は小さくうなずいた。

 二人しかなくなった教会の祭壇の前で、クロコアイバーソンは斧を両手に持って振りかざす。


「フン!」

「なっなんだ!?」


 クロコアイバーソンが気合をつけ、斧を振るうと風が巻き起こり、周囲の参列者が座っていたベンチが破壊されバラバラになった。


「これで邪魔はなくなった」


 ベンチの残骸が散らばる礼拝堂を見て笑うクロコアイバーソン。彼は戦う場所を広くしたようだ、クロコアイバーソンはリックよりも体格で勝っておりベンチは邪魔だ。クロコアイバーソンはリックを睨みながら距離を取り礼拝堂の中央へ移動する。剣先を下に向け構えたままリックもクロコアイバーソンと一定の距離を保って彼についていく。

 二人は礼拝堂の中央で止まって対峙する。ジリジリと二人が距離を詰めていく二人、リックは剣を握る右手に力を込めた。


「来たな」


 リッククロコアイバーソンが斧の間合いに入った瞬間、クロコアイバーソンは斧の刃を斜めに振り上げてリックに斬りかかる。


「なっ!?」

「フッ…… 遅いですよ。将軍さん!」

「貴様!」


 体勢を低くし足で地面を蹴ったリックは、左斜め上から振り下ろされた斧を、相手の右側に回り込みながらかわす。必死な形相で、斧を振り下すクロコアイバーソンの右側から、リックは涼しい笑顔で声をかけた。慌てて斧を返しながら、横目でリックを見たクロコアイバーソンはしだけ悔しくて叫ぶ。


「ほらよ」


 リックが右手を振り上げる。鋭く伸びる剣がクロコアイバーソンの右足の太ももを斬りつける。


「ぐわぁ!」


 叫び声をあげるクロコアイバーソン。リックは首を小さく横に振った、鱗のように皮膚が硬く、血が少しだけ垂れるだけで、大したダメージをあたえられなかったのだ。足を斬りつけ後、リックは体を入れ替え、クロコアイバーソンの背後へと駆け抜け、距離を取ってから振り返った。


「おっおっおのれえええええええええええ!!!」


 クロコアイバーソンはリックに向かって駆け出して来た。斧を何度も振り回しリックに攻撃を当てようとする。リックは冷静に斧を見極め攻撃をかわす。クロコアイバーソンの斧が、教会の壁や床に、何度も叩きつけられる。


「この! 人間め! 死ね! 死ねーーー!」


 攻撃が当たらずに、興奮したクロコアイバーソンは、激しく斧を振り回し、いたるところに叩きつける。床や壁の破片が飛び散る。剣先を下に向け構えたままリックは、攻撃が当たらないように動き反撃の隙をうかがう。


「ちょっと、リック! 教会が壊れちゃうでしょ! 外に行きましょう」

「えっ!? あぁ! わかった」


 アイリスが礼拝堂の出口の一メートルほど手前でリックを呼ぶ。リックはアイリスの指示に従い、クロコアイバーソンに背を向け教会の出口へ走り出した。リックはアイリスの横を通りすぎていく。


「おい! 何してる!? 早くしろ」


 振り返ったリック、アイリスは立ち止まったまま、うっすらと笑いながらクロコアイバーソンを見つめている。リックを見たアイリスはウィンクをして前を向いてクロコアイバーソンに舌を出した。

 

「やーい! クソ雑魚へなちょこ赤ワニ将軍! ここまでおいでーだ!」

「おっおい!? お前まで挑発するなよ……」


 舌を出してアイリスは、クロコアイバーソンに指をさして笑っている。


「なっ! 待て! この人間め。逃がすか!」


 アイリスの言葉に、怒ったクロコアイバーソンは、大きな体を揺らしながらリック達を追いかけてくる。


「あっ! へなちょこワニ将軍が来たぞー! 逃げろー!」


 舌を出して馬鹿にしたように笑ったアイリスは、リックの手を引っ張って教会の外へと向かうのだった。


「お前…… 絶対、楽しんでるだろ……」

 

 リックは首を横に振ってアイリスに手を引っ張られ走って礼拝堂を出ていくのだった。

 教会の外は、草の生えた結構大きい広場だった。教会の結婚式が終了後に、本来ならここでパーティが開かれる予定だった。リックとアイリスは広場の中央へと向かった。四角い広場の囲うように、石造りの道があり、その道に沿って東と西に門がある。

 魔物の襲撃という通報があったみたいで、門からドンバル国の兵士がリック達の方を覗いていた。ソフィアやポロンは兵士と一緒にいる。

 礼拝堂からクロコアイバーソンが飛び出して来た。広場の中央でリックとアイリスはクロコアイバーソンが来るのを待っていた。


「さて…… へなちょこワニさんここで勝負よ。じゃあよろしくね。リック」

「えっ!? なんで? 俺が? 勇者はお前だろ?」

「いいじゃないのよ。ほら、ちゃっちゃとやっちゃってよ。兵士でしょ。かわいい国民のピンチですよ?」

「今は兵士は休暇中だよ…… それにどこにかわいい国民が?」

「何よ!? いいじゃん! たまには私のお願い聞いてくれたって!」

「はは、いいよ。お前の友達の依頼として、あいつを倒してやるよ」

「へへ! お願いね」


 笑いながら、リックに手を振り、アイリスが下がっていく。静かにリックは右手に持った黒い片刃の剣の剣先を下にしてかまえる。

 クロコアイバーソンは睨み付け、牙をむき出しにして怒りながら、リックの前へとやって来た。


「人間ごときが舐めくさりおって…… はああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 クロコアイバーソンが、左手の指を曲げたまま、上にむけて何やら唸っている。高く掲げたクロコアイバーソンの左手から、緑色の光の玉が打飛び出し討ちあがってく。上空にあがった緑の光の玉は大きくなり、光の中に銀色に輝き胸に、大きな緑色の宝石がついた鎧が現れた。

 リックの十メートルほど後ろに下がったアイリスが鎧を指さした。


「まさか…… あれ…… 竜巻鎧(トルネードアーマー)じゃない!」

「ははは! そうだ。竜巻鎧(トルネードアーマー)だ」

「どうしたあんたが……」

「盗んだんじゃないぞ。昨日バーランドがくれたんだよ。ブローソンにな!」

「えっ!?」


 クロコアイバーソンが口を開き、黒い炎のようなものを竜巻鎧(トルネードアーマー)に吐き出した。黒い炎に包まれて竜巻鎧(トルネードアーマー)は銀色から黒へと色を変えて胸の宝石は紫へと変わった。

 強烈に光を放ち竜巻鎧(トルネードアーマー)はバラバラを自ら細かく分かれて、クロコアイバーソンに装着されていく。クロコアイバーソンは黒く輝き胸に、紫の色の宝石をつけた鎧に身を包んで、俺達を見下ろして不敵に笑みを浮かべている。

 

「何よ!? これ?」

「どうだ? 驚いたか? 我が力により、竜巻鎧(トルネードアーマー)を魔族の物に変えたのだ」

「なっなんですって?」

「わたしを倒さん限りこの鎧は魔族しか扱えんぞ」


 満足そうな顔して、クロコアイバーソンが、斧を構えてリックに向かって突進してきた。


「しかも、この鎧は風の魔法に守られて斬りつけることはできん」

「何!?」


 斧を体の横にひいてクロコアイバーソンは、リックの首を落とそうと横から斬りつけて来る。しゃがんで、リックは斧をかわす。彼の頭の上を斧がかすめるようにして通過していく。リックは立ち上がると同時に、竜巻鎧(トルネードアーマー)の腰当てと胸当ての、わずかにあいた隙間を狙い剣を振り上げた。鋭く伸びるリックの剣がクロコアイバーソンの脇腹に……


「うわ!」


 薄っすらと緑色に輝く、風が竜巻鎧(トルネードアーマー)をつつみリックの剣は弾かれた。さら風は強くなりリックに向かって吹きつけた。リックの両足は踏ん張り切れずに、ふわりを浮かび上がって吹き飛ばされてしまった。


「チッ」


 吹き飛ばされた、リックは空中で何とかバランスを戻して着地した。クロコアイバーソンがリックを見てうっすらと笑みを浮かべる。


「どうだ!? 手も足もでまい」


 笑うクロコアイバーソンを見るリックの手にじんわりと汗がにじむ。今まで戦った、四邪神将軍の中で、クロコアイバーソンは一番手ごわい相手だった。アイリスがリックに心配そうに声をかけてきた。


「リック! しっかりしなさい。あんたは未来のS1級勇者の旦那なのよ!」

「違う。だいたい俺達は男同士だから結婚できないだろ。グラント王国の法律じゃ結婚は男女と決まってる」

「なんでよ! いいわよ。私が王女と結婚して法律を……」

「いや…… 王族のアナスタシア様ならともかく、平民出の王配のお前が重婚なんかできるかよ……」

「だったら法律を全部私好み変えてやる!!!!」

「やめろ! そんなことしたら速攻でクーデターを起こしてやるからな!!!」


 クロコアイバーソンがリック達の会話を聞いて驚いた表情をしてる。


「なに? 人間の国では男同士で結婚できないのか? 不便だな。魔族は男同士でもかまわんぞ。跡継ぎなどは適当な女に産ませれば良いしな」

「えっ!? そうなの? 男同士で…… リック! 私は魔族になる!」

「バカ! お前はなんてことをいうんだ! 勇者のくせに」

「だって…… リックと…… それにスラムンやキラ君ともっと仲良くなれるし……」


 少し不満そうにうつむいて、アイリスはぶつぶつと言っている。リックは首をかしげる、アイリスはスラムン達ともっと仲良くなりたいと言ってるが、人間であるアイリスと魔物スラムンとスラムンとキラ君は十分仲良しである。

 クロコアイバーソンは笑いながら、アイリスの方を呆れたような顔をする。


「お前は何を言っておるのだ? 人間と魔族は殺し合い戦う運命なのだ」

「いやよ。戦うなんて…… 私はスラムンとずっと旅するんだもん…… 仲良しだもん」

「何をいうか!? 人間と魔族が仲良く暮らせる訳がないだろう? あの女…… ボロンカと言ったな。あいつもブローソンを殺した我を恨み魔族の死滅を願うようになるのだ!」

「出来るもん! リブルランドでは仲良しだもん!」

「ふん…… 長年隠れて住んでいるのにか?」


 ほほを膨らまして怒るアイリスに、クロコアイバーソンは彼をうっすらと、笑いバカにしたように答える。アイリスはクロコアイバーソンに向かって叫ぶ。


「うーーーー! 大丈夫よ。私が人間と魔族を仲良くさせるもん!」

「黙れ! 貴様みたいな者が世の理を…… なっ!」

「クソが! お前が黙れ!」


 リックはクロコアイバーソンに斬りかかった。風に守られて安心していたのか、クロコアイバーソンは避けることなく、リックの剣をまともに肩に受ける。


「さっきと同じだお前の攻撃など…… なっ! バカな!? 風に守られて……」

「へっ…… だからどうした!?」


 振り下ろされたリックの剣は、黒い竜巻鎧(トルネードアーマー)の左の肩当を吹き飛ばし、クロコアイバーソンの上腕を斬りつけていく。紫の血が噴き出して、苦痛と驚きの表情を浮かべるクロコアイバーソン。


「何故だ!? この鎧は……」

「あら!? 知らなかったのかしら? リックは相手の攻撃を一回受ければすべて把握するのよ。それは魔法でも変わらないのよ」


 得意げにまるで自分の手柄のように話すアイリス。リックはにやりとクロコアイバーソンに向かって笑う。


「あぁ…… アイリスの言う通りだ。風の魔法で剣の軌道を変えて攻撃から守るのが竜巻鎧(トルネードアーマー)なら…… 風の魔法が発動する風が発生する瞬間に剣の軌道を早くして少し軌道を変えればいい」


 剣を振って血を拭うリック、彼の目の前をクロコアイバーソンの汚い紫色の血が飛ぶ。余裕な顔で二やつくリック。彼は竜巻鎧(トルネードアーマー)の魔法をかいくぐるのが簡単のように発言したが、魔法が発動するタイミングを見極めるのが、難しくそんなことをできる者は世界でも片手で数えるほどしかいないだろう。ただ…… 見切りを持つリックなら風をかわし、剣で斬りつけるくらいは造作でもない。さらに風をかわす動作を挟むことで、彼が本来苦手である攻撃が反撃となり伝説の防具といえでもその一撃で簡単に破壊される。伝説の防具である竜巻鎧(トルネードアーマー)はリックとの相性は最悪だった。

 あんぐりと口をあけリックを見つめるクロコアイバーソンだった。


「貴様…… ばっ化物か…… くそー!」

「魔物に化物とは言われたくねえな」


 左腕を垂れ下げクロコアイバーソンは、右手に持った斧でリックに斬りかってくる。両手で持ってい重い斧を、片手で振り回してもリックに通じるわけはない。

 振りかぶって真下に振り下ろされた斧を右かわすリック、すれ違いながら狙いすまし、クロコアイバーソンの左足を剣で突いた。リックは鎧つなぎ目をねらって、膝の少し上に剣をさした。剣が足を貫いて剣先から血が滴り落ちていく。腕を引いて足から剣を引き抜くと傷口から紫色の血がドロっと流れ出した。


「ぐわぁ!」


 横にいるリックを睨み付けて、今度は無理して血が噴き出る、左腕をあげてリックを殴りつける。だが、リックは顔面を狙って殴りつけてきた拳を、斜めに首を傾けながら簡単にかわした。彼の顔の横を風が通り抜けていく。

 リックはクロコアイバーソンの左上腕を狙って剣を振り上げる。右手に剣を通して硬い手応えが彼に伝わる。


「ぐわわわぁぁぁぁぁぁーー!」


 大きな叫び声が教会の広場に響く。クロコアイバーソンの大きな左腕は、回転しながら教会の広場に転がった。斧から手を離し左腕を押さえてクロコアイバーソンが膝をついた。クロコアイバーソンの右手が緑に光る。回復魔法をかけるようだ。


「回復なんかさせるかよ」


 つぶやいたリックは剣を構えて背後からゆっくりと近づいていく。


「おいおい、将軍さんなんだろ? そんな顔で敵を見るなよ……」


 首だけ後ろに向け、リックの顔をみるクロコアイバーソンは、目が潤み口ががくがくと震えている。幽霊にでもあったような恐怖と絶対に勝てないという悲壮感がクロコアイバーソンから漂う。しぼりだすようにクロコアイバーソンが声をあげる。


「やっやめろ」

「許すわけねえだろ。お前みたいのがいるから…… アイリスがいくら戦っても…… ボロンカさんみたいな人達が…… 傷つくんじゃねえか!!!」

「やだああああああああああああああああ!!!」


 クロコアイバーソンは逃げようとした。そのまま前に倒れたクロコアイバーソンは手足を動かし這いばりながら必死に逃げる。リックは歩いてクロコアイバーソンに追いつき、右腕を引いて剣先を彼の背中に向ける。


「さよなら…… ワニ将軍さん」

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 悲痛な叫び声が響くなか、リックは淡々とクロコアイバーソン背中に剣を突き刺した。


「ぐわわわわわわわわわわわわわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 クロコアイバーソンの断末魔が教会の広場に響き渡った。背中に足をかけてリックは剣を引き抜いた。最後に彼はクロコアイバーソンの体を横から蹴りつけた。クロコアイバーソンの体は裏返り仰向けになった。

 吹き出した紫の血が、右手にかかって微かにぬくもりを感じるリックだった。冷めた目でクロコアイバーソンを見つめ、リックは左腕を曲げると、剣の刀身を袖にはわせて血を拭い、鞘におさめるのだった。


「終わった…… あれ!?」


 クロコアイバーソンの体がボロボロと灰のようになって崩れて、竜巻鎧(トルネードアーマー)だけになった。竜巻鎧トルネードアーマーの横に赤茶色の指輪が転がってる。


「また指輪か…… まぁいいや。とりあえず拾っておくか」


 クロコアイバーソンから出て来た指輪をリックは拾った。


「リックー! やったわね」

「おぅ。ありがとうな」


 指輪を拾ったリックの元にアイリスが駆け寄って声をかけてくる。遠くで見ていたソフィア達もやってくる。


「そうだ! ソフィア? ボロンカさんは?」

「はい。ちょっとショックを受けているみたいです。立ち上がれないので、今は町のお医者さんが診てくれてます」

「そうか……」

「ボロンカさん、ブローソンさんのこと好きだった見たいだからね…… 今はそっとしておきましょう」


 小さくうなずくリック。アイリスの言う通り今はリック達が何を言っても届かずそっとしておくのがいいだろう。ブローソンの死により暗い雰囲気のなかベンディが口を開く。


「でも、みなさんのおかげでアイシャが救われました。ありがとうございました」

「そうだ!? どうでした、ベンディさん俺の発案した演出! 突然、踊りだして歌ったりするの面白かったですよね?」

「えぇ…… まぁ……」


 ベンディは気まずそうに頭をかきながらあいまいな返事をする。リックが横にいるソフィアを見た、彼女は気まずそうに視線をリックから外す。

 

「ねぇ…… ノッソフィアはよかったよね?」

「えっ!? あの…… えっと…… リックと私の結婚式をする時は私の言うことを聞いてください!」

「そっそんな…… ソフィアまで……」

「うん。わかるわ。仮にお祝いだとしてもあんな押し付けみたいの嫌よね。私もリックみたいな人に口は出させないと思う…… ってソフィア! なんであんたとソフィアが結婚することになってるのよ」

「大丈夫です。アイリスも呼んであげますから、私とリックにお祝いをくださいね。お菓子でいいですよ」

「キー! 何ですって? こらー! 待ちなさい!」


 笑いながら舌を出してソフィアが逃げていく、悔しそうな顔してアイリスが手をあげて追いかけていく。


「もう…… 二人は仲良しだな。うん!?」


 ポロンがリックの顔を笑顔で見つめている。リックはポロンだけ自分の計画に、最初から良いって言ってたことを思い出し、期待し声をかける。


「ポッポロンはお歌好きだもんな…… よかったよな?」

「ううん! わたしはお歌が好きなだけなのだ。あんなのは嫌なのだ。絶対にやめるのだ」

「えぇ!?ポロンも!?」

「オラもそう思うズラ。リックは独りよがりで盛り上がるので、結婚式に関わっちゃダメズラね」

「スラムンまで!」

「うがああ」


 スラムンの言葉にわずかにキラ君もうなずく。それを見たリックは自分のセンスのなさにズーンと沈むのだった。

 教会の前の広場に、バーランやアイシャ、結婚式に出席していた人達が戻って来た。


「あっあの! アイリス様…… ありがとうございます」

「あぁ、ごめんね。気にしないで! 今ちょっと忙しいから! 待ってて! ソフィア! 待ちなさい!」

「はっはい!」


 アイシャがソフィアを追いかけてる、アイリスに声をかける。ソフィアに追いかけることに夢中な、アイリスは適当に答えていた。アイシャさんはアイリスの顔を見て頬を赤くするのだった。

 アイシャの結婚相手探しはやり直しとなり、竜巻鎧(トルネードアーマー)はバーランドから謝礼として、勇者アイリスに譲られることになった。ベンディが結婚相手になることはできなかったが、ひとまずアイリスの目的は達成されたのだった。

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