第204話 地底湖の争い
ボロンカと共に、ジオキラックの村を後にしたリック達は、大地の地底湖へ向かう。彼らはボロンカの案内で平原の中央にある、小高い丘に四方を囲まれた盆地のような場所へとやってきた。盆地の中心に円形で俺よりも背の高い石柱が囲む祭壇が見える。
祭壇の前で立ち止まったリック達。先頭を歩くボロンカが振り向いた。
「そこは違いますよ。こっちです」
「えぇ!?」
ボロンカはリック達を連れて、祭壇の反対側へと向かう。祭壇の反対側に階段があり、先には鉄製の扉が見える。扉の前でボロンカは、胸につけたヒモの先についてるふるびた鍵を取り出す。
「あの扉の向こうが大地の地底湖へ入り口です」
「わかりました。じゃあ行きましょう」
「じゃあ、扉を開けますのでここで待っててください」
祭壇の階段をおりていく、ボロンカが鍵をあけた。ガチャンと音が響いてポロンカが扉を押すと、金属のすれるギーギーという音がして扉を開いた。
「さぁ。扉が開きましたよ。行きましょう。みなさん」
扉の中は薄暗くソフィアの魔法で足元照らしながら奥へと進む。狭い石造りの通路がまっすぐに伸びている。ボロンカが言うにはまっすぐに通路にみえるが、少しずつ下っていってるという。
「ポロン? 大丈夫? ソフィアとしっかりと手をつなぐんだよ」
「だっ大丈夫なのだ。怖くないのだ。失礼なのだ」
声を震わせて怖くないというポロンだが、彼女の左手はしっかりとソフィアの右手を強く握っている。
「ブローソンの気配はしませんね」
「そうだね。それどころか魔物とかの気配もしないよ」
「ここは神聖な場所ですからね。魔物は近寄れませんよ」
リックとソフィアの会話に、ボロンカが答える。薄暗い廊下は人が、二人並んで歩けるくらいの幅がある。ボロンカが先頭で、彼女のすぐ後ろにアイリスとスラムンを頭に乗せたキラ君が歩き、その後にベンディとリックが続き、最後尾にソフィアとポロンという順番で進む。
水場が近いせいか空気が湿ってくる。湿気と薄暗さからリックは王都の下水道を歩いているような感覚になる。
「なんかジメジメしてますね」
「そうね。しっとりしてるわね。私なんかすぐにお肌が乾燥して……」
「カサカサお肌勇者ですね。私はいつでもしっとりです」
「なっ! うるさいわよ。ソフィア!」
「リック……」
振り向いてソフィアを睨むアイリス。リックのすぐ後ろにいたソフィアが怯えた声をあげた。
「こら! アイリスやめろ。ソフィアが怖がってるじゃないか」
「ちょっと!? 今のはソフィアが悪いんじゃない」
「あら? 乾燥肌で悩んでいるなら、このジオキラックの村でとれるジオキラ香草のエキス入り水をお使いいただければ……」
振り向いたボロンカが懐から瓶にはいった水を出しアイリスに勧めている。ボロンカの説明を聞きき、うなずいたアイリスは金をだして水を買っていた。このジオキラ香草入りの水は、後に勇者アイリスが使った肌ケア水として、グランド王国に輸入され、大ヒットすることになるがそれはまた別の話。
扉からかなりの距離を歩いた、リック達の前に石造りの通路の先に出口が見えて来る。
出口をでるとそこには、湿った薄暗い空間があった。広い空間なのは、なんとなくわかるが薄暗く全容がわからない。
「暗くてよく見えないですね。ちょっと待ってください!」
左手をかざし、ソフィアが光を照らす魔法を上空にうつと、上空にあがった光に照らされた全体が見えてくる。
「おぉ……」
目の前に広がる光景に、リックが声をあげる。光に照らされた空間は、白い砂浜と暗い海のような大きい湖が広がっていた。湖面にはソフィアがうった光の魔法が、ゆらゆらと揺らめいて反射して月のようになっている。
リック達がいる湖の岸辺の近くには、大きな岩の転がり、正面にはボロンカ一族が使っているのであろう石の祠が見える。湖の中央に小島があり、石の祠は小島と対するように設置されている。
「さて…… 草原のティアラはどこにあるのかしらね? あの祠の中とかかしらね?」
「はい。それならあの湖の奥に見える小島にあると思います。我が一族に伝わる伝承では小島には宝が置いてあるはずですから」
ボロンカが小島をさした。湖に浮かぶ小島に草原のティアラがあるという。
「あそこかぁ。どうやっていこうかな?」
「リック。泳いでいきますか? 私は水着を持ってますよ!」
「えぇ!? 暗くて危ないよ」
「そうよ。今度こそ私の天上の兜の出番ね! 待ってなさい。空を飛んでヒューっと取って来るからね」
意気揚々と天上の兜を取り出したアイリス。天上の兜を使って湖を飛び越えるつもりだ。
「ダメです!!」
アイリスが天上の兜を出してかぶろうとすると、ボロンカさんが慌てて止めに入った。
「この湖は侵入するものを拒みます。船や空を飛んで湖にいくと突如荒れて波が襲ってくるんです」
「そうなの? それじゃあどうしろっていうのよ。船も飛ぶのもダメって?」
「はい、あそこは神聖な場所なんです。私達もこの石の祠を守り祈りを捧げるだけで小島に行ったことはないんです…… すいません」
湖が侵入者を拒むという、ボロンカの話を聞いて、残念そうに小島をジッとベンディが見つめる。リックは湖に浮かぶ小島を見ながら考える。
「なにか風車の洞窟みたいに仕掛けがあれば……」
「でも、地面に踏むところはないのだ!」
「風車の洞窟…… そっか! 水がはる暗い底では正しい道は見えない…… 信じた道を守る一族と共にまっすぐ歩みなさい!」
ハッとした表情で、ベンディが独り言を言っている。アイリスがベンディの声を聞き驚いた様子で彼に声をかけた。
「ベンディさん!? 今のは…… またあの歌ですか?」
「はい。アイリスさん! 今のは風車の洞窟の時に話した歌の二番の歌詞です」
「なるほど…… 正しい道は見えない。守る一族と……」
顎に手を置きアイリスが、真剣な表情で歌の意味を考えている。キラ君の頭の上にいた、スラムンがアイリスに飛び移った。
「そうズラね。おそらく守る一族とは石の祠を守っているボロンカさん達のことズラよ」
「うん。そうよね。信じた道を共に…… はっ! ボロンカさん! ちょっと協力してもらっていいですか?」
「はっ!? はい!」
何かを思いついたアイリスは、ボロンカさんの手を引いて石の祠に向かっていく。ボロンカとアイリスの二人は、祠の奥へ行き、小島に対して正面を向いた。
「何する気だ…… えっ!?」
アイリスとボロンカは手をつないだまま、湖に向かって歩いてく。
「おい! 危ないぞ!」
リックが止めようとするとアイリスは振り返って微笑んだ。
「えぇ!? そっそんな……」
手をつないで二人が湖に足をいれると、水面が丸く波をうって二人の足は湖面に浮いていた。
「やった! 成功よ」
「すっすごいです。アイリスさん」
「さっ行くわよ。ボロンカさん!」
ギュッとボロンカはアイリスの手を強く握って、彼の顔を見て驚いた顔をした。笑顔でアイリスはボロンカの顔を覗き込んで頷く。ボロンカはアイリスの顔を見て恥ずかしそうにうつむく。ゆっくりと湖面の上を二人は歩き出し、小島へと向かっていく。小島に到着した二人の姿が見えなくなる。再び現れた二人は笑顔でリック達に手を振る。どうやら草原のティアラは見つかったようだ。
草原のティアラを手に入れ、手をつないだ二人が、砂浜へと戻って来る。岸まであと十メートルほどののところまでやって来た……
「キャーーーーーーーーー!!!!」
「ボロンカさん!? アイリス!」
二人の向かって湖の岸から、何から飛び出していった。とっさに手を離した二人は湖に落下した。
「大丈夫か!? アイリス、ボロンカさん!」
「うん、私は大丈夫。ボロンカさんは?」
すぐ岸まで泳いできた、アイリスを引き上げた。だが、ボロンカが見当たらない。リック達は必死に探す。
「リック! あれ!?」
アイリスが岩を指さした。岩の近くでボロンカの服の襟もとをくわえた、赤いワニが彼女を引きずって岸へとあげている。
「よくやったぞ、クロコアイバーソン! 後でお前の好きな肉をやろう」
岩陰から嬉しそうな声をあげてブローソンが姿を現した。赤いワニはクロコアイバーソンという名前のようだ。
「ブローソン・ダバディ! 何をしてるのよ!!!」
「ははは。俺はここで隠れてお前たちを待ってたんだよ」
両手を広げブローソンは笑っている。リックは剣に手をかけた。
「クソ! ソフィア、ポロン……」
「おっと動くんじゃない! うごけばボロンカをクロコアイバーソンの餌にするぞ!?」
手を上げてブローソンが手で合図をすると、クロコアイバーソンが口を大きく開け、ボロンカの首にかみつこうとする。リック達に目をやりながら、ゆっくりとブローソンは赤いワニの口元に歩いて行く。
「さぁ。武器からゆっくりと手を離せ!」
「わかった、ソフィア、ポロン」
リックはソフィアとポロンに、武器から手をはなすとように合図を送る。悔しそうに二人は武器から手をはなす。
「次は草原のティアラとそよ風のベールを渡してもらおうか。そしたらボロンカは殺さないでおいてやるよ」
「なっ!? 卑怯よ! ブローソン・ダバディ!」
「うるさい! 良いのか?」
ブローソンが合図をすると、ボロンカさん頭にむけ、クロコアイバーソンの口がゆっくりとしまっていく。ボロンカの頭に牙があたりそうになる。
「ボロンカさん! あんた…… こんなことして試験に受かってどうするのよ!? アイシャさんがこの事しったら結婚は……」
「うるせえな。いいんだよ。俺はアイシャと結婚さえ出来れば何だってな。ほら早くそよ風のベールと草原のティアラを渡せ!」
「ベンディさん…… ごめんなさい。私にそよ風のベールを……」
「はっはい……」
ベンディはそよ風のベールをだして、アイリスに渡そうと手をのばす。気を失っていたボロンカが、目を覚まして事態に気づいて叫んだ。
「ダメです! それはベンディさんがアイシャさんとの…… やめて! ブローソン…… あなた昔はもっとやさしく……」
「うるせぇんだよ。黙れ! おめえはいつまでもガキのままだな。死にてえのか?」
「きゃあああああああああ!!!!」
クロコアイバーソンがボロンカの頭に牙をあてる、彼女は恐怖で悲鳴をあげた。
「やっやめなさい! 持ってい行くわ!! ボロンカさんを傷つけたら許さないわよ」
アイリスが草原のティアラを、つかんでかかげ叫ぶ。ブローソンは不服そうに、アイリスに視線を向ける。
「フン…… おい。てめえじゃダメだ。ベンディ! お前が持ってこい」
「わかった。アイリスさん僕に草原のティアラとそよ風のベールを」
「わかったわ」
草原のティアラをアイリスはベンディに戻し、袋に入れていたそよ風のベールも彼に渡す。アイリスから草原のティアラとそよ風のベールを受け取った、ベンディはゆっくりとブローソンの元に歩いて行く。ブローソンの前で立ち止まり、丁寧に両手で草原のティアラとそよ風のベールを差し出すベンディ。
「さぁこれでボロンカさんを…… グボォ!」
「ベンディさん! あんた……」
草原のティアラと、そよ風のベールを受け取ったブローソンは、いきなりベンディさんの腹を蹴った。腹をおさえてうずくまるベンディの口から白い液体が垂れる。ブローソンはボロンカの髪の毛を掴み、無理矢理たたせると、今度は自分の腰にさしていた短剣を抜き、喉元に突きつけた。
「ごめんなさい。ベンディさん…… アイリスさん…… 私のせいで」
「きっ気にしないでください。ボロンカさん…… どんなに大事な物でもあなたの命には代えられませんから」
ボロンカは泣きそうな顔で、アイリスとベンディに謝っている。
ブローソンは短剣をボロンカさんに突き付けて、倒れ込んでいたベンディを、クロコアイバーソンがボロンカのように、襟元を咥え引きずって地底湖の出口へとゆっくりと向かう。
「ちょっと! あんたボロンカさんを離しなさいよ」
「はぁぁ!? 俺は殺されたくなかったら渡せって言ったんだ。誰も解放するなんて言ってねえよ」
「なっ!? あんた……」
「こっちへ来い! おっと動くなよ。お前らは俺とアイシャの結婚を、邪魔しないようにここで死んでもらう! じゃあな」
「うわああ!!!」
ベンディをクロコアイバーソンが、投げ捨てるようにはなした、叫び声をあげ地面を彼が転がる。リック達はベンディさんの元に駆け寄り。その隙にボロンカはブローソンに連れて行かれてしまった。
「ソフィア、ベンディさんの治療を終わったらすぐにボロンカさんを追うよ」
「わかりました。」
「ダメズラ! リック! 地底湖から何かが来るズラ!」
振り返ると地底湖に湖面に、大きな背びれのようなものが左右に動いていた。巨大な魔物が彼らの様子をうかがっている。
「クソ! ソフィアは治療を! スラムンはソフィアを手伝ってくれ。ポロン、アイリスは俺と来い」
「わかったのだ」
「来るわよ」
リックとポロンとアイリスは武器を構えて、地底湖の岸へと戻っていく。
「こいつは水竜か……」
動いていた背びれが突然飛び上がった。体には深い青色の鱗と、体の横に大きく膜の張り鋭い爪がついた、ヒレのような翼が生えて尻尾は三つに分かれて膜がはって水かきがついている。目は爬虫類のようで、口は大きく開き頭には、一本のくの字に曲がった角が額に生えていた。
「気を付けるズラ! そいつはシャドウウォータードラゴンズラ!」
「えっ!? うわぁ!」
口を開けた、シャドウウォータードラゴンの口から吐き出された、水がしぶきをあげて一直線に水がリックにむかってきた。リックはとっさに横に飛び込んでかわした。
「あっあぶねえ。なんだよ。あれ…… すげえ威力あ」
振り返ったリックに、後ろの岩を貫通して穴が開いているのが見えた。シャドウウォータードラゴンの水は簡単に岩を貫いたのだ。
「どっかーんなのだ!」
「ポロン! 気を付けて!」
ポロンがハンマーを構えて駆けて出していく、シャドウウォータードラゴンは、口を開いたまま顔を横に振る。円を描くように水が発射された。地面を斬りつけながら、ポロンの前をものすごい速さで水が横切っていく。ポロンは途中で水に気付いて止まったが、水の起こして風圧で尻もちをつく。
「ビックリしたのだ」
「ポロン大丈夫?」
「これじゃ近づけないのだ!」
「いいよ、俺が片付けてやる! ポロンは下がってな」
リックはポロンを下がらせると、剣を構えてシャドウウォータードラゴンの前へと向かう。だが、彼の横からアイリスが飛び出して来た。
「リック、お願い! 私に任せて!」
振り向いたアイリスは左手をリックに向け止まるように合図する。
「アイリス…… 大丈夫か?」
「うん! 私だって勇者よ」
アイリスは透明な丸い水色の盾を取り出して前に構える。アイリスが持っているのは、マウンダで手に入れた聖水晶の盾だ。アイリスは聖水晶の盾を前に向けシャドウウォータードラゴンに向かっていく、シャドウウォータードラゴンが再び口を開いて水を発射した。
水しぶきを上げて一直線にアイリスに水が向かっていく。しかし、聖水晶の盾に水が当たると、水は跳ね返ってシャドウウォータードラゴンへ飛んでいく。跳ね返った水はシャドウウォータードラゴンの背びれを貫いた。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
シャドウウォータードラゴンは目をつむって、顔を上に向けて大きな声を上げる。
「どう? その程度の攻撃は聖水晶の盾は跳ね返すのよ」
アイリスは聖水晶の盾から顔をのぞかせ笑って前に出る。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
慌てているのか、何がおきてるかわからないのか、向かってい来るアイリスにシャドウウォータードラゴンは何度も水を発射する。だが、全ての水が聖水晶の盾によって跳ね返され、シャドウウォータードラゴンは自分の水で傷ついていく。跳ね返された水の一撃が、シャドウウォータードラゴンの頭をかすめる。羽根で頭を隠しシャドウウォータードラゴンは慌てた様子で飛び上がった。
「あれ!? 変な風に飛び上がったわね。どうしたのかしら?」
「きっと額の曲がった角が弱点ズラよ。」
「わかったわ。リック、私があいつの足を止めるから! 合図をしたらあいつをやっつけて!」
「おう!」
リックが答えるとアイリスは笑顔で頷き駆けだした。左手に聖水晶の盾を構え、アイリスは右手にチャクラムを持ってシャドウウォータードラゴンに向けて投げつけた。鋭く回転した彼のチャクラムがシャドウウォータードラゴンの足を斬りつけた。シャドウウォータードラゴンの足から血が噴き出し砂浜を赤く染める。
怒ったシャドウウォータードラゴンが、アイリスに顔を向ける、だが戻ってきたチャクラムが再び足を斬りつけた。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!」
シャドウウォータードラゴンの大きな鳴き声が響く。両足を傷つけられた、シャドウウォータードラゴンは地上へと落下した。
「今よ。リック! あの曲がった角を叩き斬って!」
「わかったよ」
リックは剣に手をかけ、シャドウウォータードラゴンへと駆け出す。シャドウウォータードラゴンの巨大がリックに近づいてくる。
「しぶといやつだな」
フラフラと立ち上がったシャドウウォータードラゴンは口を大きく開た。シャドウウォータードラゴンは首を伸ばしかみつこうと口をリックの上に持って来た。
鋭く光る牙が生えたシャドウウォータードラゴン大きな口がリックへと迫ってくる。リックは立ち止まり、シャドウウォータードラゴンの口をジッと見つめている。シャドウウォータードラゴンの口が勢いよく閉じられる。
「甘い……」
口が閉じられる寸前に飛び上がるリック。バクっと大きな音がしてはシャドウウォータードラゴンの口は閉じられた。だが、手ごたえがないのかシャドウウォータードラゴンは目を大きく見開いて首を傾げた。その後、シャドウウォータードラゴンの目を大きく見開いた。シャドウウォータードラゴンの鼻先にリックが下り立ったのだ。
リックはシャドウウォータードラゴンの鼻先を駆けあがり、一気に額に距離をつめて角を剣で斬りつけた。
「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
断末魔が地底湖に響き渡る。リックの剣はシャドウウォータードラゴンの角を切り落とした。
「おっと」
足元が揺れて影水流の首から、力が抜けてゆっくりと倒れていく。慌ててリックは倒れようとするシャドウウォータードラゴンら飛び下りた。
「えっ!? うわあああ!!!」
大きな影がリックを覆い、振り返るとシャドウウォータードラゴンの巨体が、彼に向かって倒れてくる。急いで駆けだしたリックは距離を取った。近くにはリックが切りつけた、くの字に曲がった角が真っ二つに折れ、地面に落下して突き刺さっていた。
走るリックの周囲を砂埃が舞い、地響きのよふな音と振動伝わった。
「ふぅ……」
振り向いたリックが小さく息を吐いた。振り返った彼の後ろではシャドウウォータードラゴンが横たわっていた。リックが横たわる大きなシャドウウォータードラゴンの死体を見つめていると、アイリスとポロンが声をかけてきた。
「やっつけたのだ!」
「リック! やったね」
「うん、アイリスもポロンもありがとうね」
「あっ!? そうだ! ベンディさんは?」
リック達はソフィアが、治療しているベンディの元へと向かう。ベンディは起き上がり、お腹をさすりながら、座ってその様子をソフィアが見ている。リック達が戻って来るのを見るとソフィアがほほ笑む。
「もう大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。助かりました」
「良かった。ありがとう。ソフィア」
「どういたしまして」
アイリスがソフィアと握手をして、お互いに嬉しそうにしてる。ベンディの肩をさすって、アイリスは真剣な顔でリック達を見渡して号令をかける。
「みんな行くわよ。ブローソンの奴…… 許さない!」
「あぁ。わかってる」
「ボロンカさん…… ブローソン…… 許せないです」
「やっつけるのだ! ボロンカさんを助けるのだ!」
「アイシャ…… 行きましょう。皆さん! ブローソンはバーランドさん邸宅にむかったはずです」
ベンディの声に全員がうなずいた。リックはボロンカを救うと強く心に誓った。リック達は地底湖を出て、ボロンカさんを助け出すためにバーランドの邸宅へと向かう。