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第203話 ライバルの故郷

 足を地上から浮かせた、風ハンター三体が横にならび、リック達に向かっ飛んで来る。風ハンターは、池をふわりと超え、歩くくらいの速度で近づく。しかし、ただゆっくりと近づくだけなら格好の的だ。リックはソフィアに顔を向けた。


「ソフィア弓でやつらを射抜いてくれ」

「はい!」


 弓の弦を引いて構えた、ソフィアが狙いすまして矢を放つ。矢が風ハンターの頭を、正確に捉え一直線に飛んでいった。だが…… 矢が風ハンターの頭に、突き刺さろうとした直前に、急に矢が上を向いて上空へ飛んで行ってしまった。


「ダメです! 矢が風ハンターさんの前で上に上がっちゃいます」

「なんだ? どうして? うん……」


 リックが視線を下に向けた、浮いている風ハンターたちの足元の草木が揺れている。よく見ると落葉っぱや砂が舞い上がって風ハンターの周囲を漂っていた。

 どうやら風ハンター達は風をまとっていて、ソフィアの矢が飛んで来た時だけ、風を強くして矢を防いだようだ。


「クソ!」


 帽子の奥に見えた目が細く、鼻が丸く丸太で作った人形のような顔が笑いながら、ゆっくりと風ハンターはこちらに向かって来た。


「リック。わたしが行くのだ!」

「ポロンちゃん、ちょっと待って…… キラ君! これ貸して!」


 ポロンが飛び出そうと、ハンマーを構えたところに、アイリスが声をかけ、彼女を呼び止めていた。アイリスがキラ君の四角い大きな盾をポロンのハンマーの先に紐で括り付ける。盾の持ち手にヒモをうまくかけて、アイリスは器用に盾とハンマーをくっつけた。

 丸いどんぐりの形だったハンマーの先端に、金属製の四角い盾が横にくっついている。盾で厚みはないが、ハンマーの先端が倍くらいの大きさに変わっていた。


「何をしたのだ?」

「いいから! ポロンちゃん! あのね……」


 作業を終えたアイリスが、風ハンターの方を見ながら、ポロンに耳打ちをしている。


「わかった? あいつらに向かってどっかーんよ!」

「よし! 任せるのだ!」


 笑顔でポロンの耳から、顔をはなしたアイリスは、風ハンターをさして彼女に指示を出す。意気揚々とポロンはハンマーを両手に持って風ハンターに向かって駆けだした。

 リックは不安そうにポロンに見つめる、ただ突っ込んでいって叩くだけなら、ウィンドオークの時のようになるだけだからだ。余裕の表情で風ハンターは、ポロンが突っ込んでくるのを待っている。ポロンが近づくと、風ハンターの足元の草木の揺れが、激しくなって風が強くなっていく。

 飛び上がったポロンは、ハンマーを振り上げて、風ハンターたちへと迫る。


「今よ! ポロンちゃん! 盾を横向きしてどっかーんよ」

「わかったのだ! どっかーんなのだ!」

「えっ!?」


 アイリスの指示でポロンはハンマーを持ち替えた。すると盾が水平になり、ポロンのハンマーは扇のような形になった。ポロンは勢いよく振り上げたハンマを地面に向けて振り下ろした。ブンッという風の音が広場に響いた、直後にポロンのハンマーが、地面に叩きつけられた音がした。


「「「ギギャー!?」」」


 叫び声がして風ハンターたちは、吹き飛ばされて尻もちをついていた。


「リック。やったよ。思った通りだわ。ポロンちゃんの力なら盾で扇げばすごい風がでるってね」


 リックの横でアイリスが尻もちをついた、風ハンターを指して得意げにしている。


「あいつらは風を周りに起こして防御を高めるからね。こっちがさらに強力な風を起こして、風を風で吹き飛ばしてやったってわけね」

「すごいな。アイリス!」

「えぇ、まぁそれほどでも…… あるけどね」


 謙遜しリックの視線から、顔を背けるアイリスだったが、顔はにやついていた。尻もちをついた風ハンター達は顔を見合わせて、自分たちが吹き飛ばされたのが、信じられないといった顔をしていた。

 キラ君の上に乗っているスラムンが勢いよく飛び跳ねる。


「リック。あまり褒めないでほしいズラ、ほめるとすぐ調子に乗ってこの後はだいたい失敗するズラ!」

「うっうるさいわよ。スラムン! ほら、今よ、リック! ソフィア!」

「よし。いくよ。ソフィア!」

「わかりました」


 ソフィアが弓をかまえて再び矢をはなち、アイリスはチャクラムに手に持って、風ハンターを狙って投げつけた。リックも剣を構えて風ハンターに向かっていく。

 横に並んだ、風ハンターの左の一匹の額に、ソフィアの矢が刺さり上を向いて仰向けに力なく倒れる。右の風ハンターの首筋をアイリスのチャクラムがかすめた。風ハンターの首から血のような黄色の液体が吹き出し、糸の切れた人形のように力なくその場に落ちて行った。

 真ん中の風ハンターが左右を見て驚いた顔をする。


「何をしてる。よそ見してる場合かい?」


 風ハンターは俺の接近に気付き、起き上がって剣を大きく振りかざす。


「あまいよ」


 大きく背中まで上げた剣を、風ハンターは縦にいきおいよく振り下ろす。リックは剣の軌道を見て半歩ほど、左に移動してかわし、入れ違うようにして風ハンターの背中に回り込む。右腕を引いて剣先を風ハンターの背中の中心に向ける。

 かわした風ハンターの剣先が、地面につくと同時にリックは奴の背中に剣を突き刺した。剣は風ハンターを貫通した。


「フギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 断末魔が響き風ハンターは動かなくなった。リックは風ハンターの背中に足をかけて剣を引ぬく。風ハンターはそのまま前のめりに静かに倒れた。倒れると同時に風ハンターの背中から、黄色い液体が飛び散ってリックの顔に数滴かかる。

 リックの頬を生暖かい風ハンターの黄色い液体つたって落ちていく。風ハンターに背を向けたリックは、剣を振って液体を拭って剣をさやにおさめた。歩きながらリックは頬の液体を右手で拭うのだった。戻って来たリックにソフィアが声をかける。


「どうして急に風ハンターさんが現われたですか? ここに来た時は魔物の気配はありませんでした」

「うーん。なんでだろう……」


 ソフィアの言う通り山頂は穏やかで魔物がいる気配なかった。少し難しい顔でリックが考えていると、アイリスがニコッと笑ってソフィアの声をかける。


「さぁね。そよ風のベールを守っていたのか…… 誰かが呼んだのかしらね。まぁいいわとにかく目的は果たしたから次に行くわよ」


 アイリスは手を挙げると、みんなに指示して歩き出す。リック達は風車の洞窟から脱出した、早朝から山に登ったが、すでに日は傾いて夕方になろうかという時間帯だった。すぐにソフィアの転送魔法で星の砂浜へと戻ったリック達は、星の砂浜の入り口の近くにあった、小さな食堂に入って次の試練に向けての相談を始める。

 食堂は木造りの小さな食堂で、テーブルと数席だけで、どこかメリッサの祖母が経営する「樫の木」に似てる雰囲気の店だった。店に入ったリック達は、かわいらしいエルフの店員に席へと案内された。店員の対応に笑顔で対応したリックは、なぜかソフィアに足を踏まれた。

 席に着いて適当に料理を注文して待っていると、アイリスが隣に座ったベンディに明るく話かける。


「やったわね。ベンディさん! まずはこれで一歩アイシャさんとの結婚に近づいたわね」

「アイリスさん…… ありがとうございます」

「まだよ。お礼は結婚できた時でいいわ」

「はっはい! よろしくお願いします」


 ベンディに礼を言われて、アイリスは少し恥ずかしそうにしていた。すぐに気合の入った声でアイリスが全員に話す。


「さぁ次は大地の地底湖に行きましょう!」

「行くのはいいけど、場所知ってるのか? アイリス?」

「大丈夫よ。場所はベンディさんと調べてあるからね」

「はい。リックさん。この国の西にあるジオキラ平原に祭壇があって、その祭壇から大地の地底湖に行けるそうです。距離は歩いてだと二、三日かかりますね」

「ありゃ、結構遠いな」

「大丈夫よ。近くにジオキラックという名前の村があるからそこまでは転送魔法で行けるわ」

「わかった。ならアイリス、明日の朝早くに出発しよう」

「そうね。さっさと片付けちゃいましょう」

「でも……」


 笑顔でうなずくアイリスに、何かを言いたそうな顔をするベンディ、彼の態度に気づいたアイリスが優しく声をかける。


「どうしたの? ベンディさん?」

「はい。アイリスさん。実は…… 大地の地底湖へいける祭壇を守っている一族がいて、祭壇に入るに鍵がいるらしいです」

「そうなの? まぁいいわ。とにかく行ってみましょう。何があっても私がなんとかするわ」


 自信満々で胸を叩くアイリスを、ベンディは少し不安そうに見つめている。食事を済ませたリック達は宿に戻った。カルロスの部屋に行ってリックは今日の報告をした。

 翌日の早朝、リック達は集合して祭壇の近くにあるジオキラック村へと向かう。穏やかな平原の真ん中にあるジオキラック村は、家が十軒ほどの小さな村だ。ここから歩いて半日ほど行くと、大地の地底湖に行ける祭壇がある。ジオキラック村の人々は昔から祭壇を守り静かに暮らしていた。

 リック達はジオキラック村へと入った。


「俺の故郷のマッケ村より少し小さいくらいの村かな。でも、のんびりとした雰囲気の…… うん!?」


 村をみわたして歩いているリックに罵声が聞こえてきた。のどかな村に似つかわしくない罵声にリック達は声が聞こえる方へと向かう。

 一軒の建物の前に十人ほど集まって何やら騒いでいるのだが見えた。建物の軒先の看板に酒場って書いてあるのが見える。


「酔っ払いの喧嘩かな」

「どうします?」

「面倒だけど…… 止めるだけならいいだろう」

「ふふふ。はい」


 リックとソフィアはうなずいて喧嘩の現場へと向かう。アイリス達も二人に続く。人だかりをのけるリック達に、怒鳴り声での会話が聞こえている。


「あいつは信用なんねのに! 祭壇に行く鍵をなんで渡したんだ? この!」

「何を言うか! これで苦労が報われて…… さらにこの村が発展するんだ……」

「あぁ!? おめえは!? やろうが急にやってきて甘いこと言って! 怪しいと思わねえのか!?」


 酒場の前で二人の男が、にらみ合って言い合いをしていた。つかみ合いをしているのは、白いシャツを着た初老の男性と、青いシャツの若い男性の二人だ。初老の男性は薄い茶色の髪で、若い男性も同じ茶色の髪だか、こちら髪の量は豊富にあって短く切りそろえていた。目が茶色でたくましい腕をし、顎が四角くて目つきが悪い。言い合いをしている二人の顔つきはどこか似ている。

 ようやく人だかりを抜けた、リック達にさらにヒートアップした喧嘩が、聞こえて来る。

 

「だいたいブローソンの野郎は信用ならねえんだよ!」


 若い男性が声を荒げた。彼のいうブローソンとは、強風山でリック達が会った、ブローソン・ダバディのことのようだ。


「このバカ息子! いいかブローソンさんはな…… この!」

「あっ!」


 初老の男性が若い男性を殴りつける。不意を突かれた男性は殴られて仰向けに倒れた。倒れた若い男性に、初老の男性はさらに殴ろうとしている。周り村人達は怖がっているのか何もしない。リックは急いで初老男性の手をつかむ


「ちょっと待ってください! 暴力はいけませんよ」

「あぁ!? なんだてめえは?」

「うわ!」


 リックが声をあげて顔を歪める。振り向いた初老の男性は、昼間なのにひどく酒くさかったのだ。


「はなせよ!」

「いけませんよ」

「おっおい!? てめえ!!」


 初老の男性は彼の手を振りほどこうとして力いっぱい暴れている。だが、リックは酒臭い以外は、涼しい顔で暴れる初老の男性を簡単に取り押さえる。彼の同僚で、酒癖の悪い熊のような大きい人に比べれば、この男性は赤子も同然である。


「あっ! こら! それはダメだ!」


 倒れた男性が起き上がって、近くにあった棒を拾って初老の男性に、ゆらゆらとよろめきながらゆっくりと近づく。


「ちょっと、待って!」

「うるっせえええ! このクソ親父め。殺してやる!」

「ダメだな。ポロン、ソフィア! 縄を!」


 興奮している二人にリックの声は届かない。彼は二人を拘束しないと、収拾がつかないと判断した。リックはとりあえず初老の男性を、大人しくさせるために、腹を殴ろうと拳を握る。


「ひえええ!!! もう…… なんで俺まで……」


 突然リックが声上げた。彼の体は冷たくびっしょり濡れていた。頭から水をかけられたのだ。


「こらー! バカ兄貴にバカ父! いい加減にしないかい! 死んだ母さんが泣いてるよ!」


 リックが振り向くと水色の髪の女性が、桶を持ったまますごい怒った顔で立っていた。この女性が、リックと初老の男性と若い男性に、水をかけたのだ。


「ごめん…… ボロンカ……」

「すまないな…… ボロンカ」


 若い男性が膝をつき棒から手をはなし、初老の男性も大人しくなった。喧嘩は終わったようだ。ボロンカと呼ばれた女性は、二人の様子をみて、桶をすて腰に手をあてて睨み付けながら近づいてい来た。


「まったく…… きゃああ! すいません! 父と兄が失礼しました」

「あっ…… いえこちらが勝手にしたことだから…… あと…… お兄さんとお父さんじゃなくて水かけたのは君だよね?」

「ひぃぃぃ……」


 近づいてリックの存在にようやく気付いた、ボロンカは慌てた様子でハンカチを出して拭こうとしてくる。彼女は水色の長い髪を耳の後ろ辺りで二つに結んだ髪型をしてる。目も薄い茶色をして目は少し細めでキリッとして鼻が高い綺麗な女性だった。


「大丈夫ですよ。濡れただけなんでほっといても乾きますから」

「いえ…… そうはいきません」

「それよりも、この二人をこのままにしておいたら風邪をひきますから、運びませんか?」

「はっはい…… すいません」

「じゃあ、みんな手伝って!」


 申し分けなそうにして頷くボロンカ、振り返った時は怒っていて少し怖かったが、今はちょっとショボンてしてるとかわいいとリックの頬はにやける。ボロンカの案内で、村の一番奥にある二階建ての家に、リック達は二人をかついで連れて行く。リックは初老の男性の肩をもって、若い男性がひょいとポロンが手で持っている。

 家について二人をそれぞれの部屋のベッドに寝かせると、ボロンカがリック達に茶を出す。席についてリックが茶に手を伸ばすと、ボロンカが申し訳なさそうに口を開く。


「あっあの…… 私はボロンカと言います。先ほどは申し訳ありませんでした」

「俺はリック・ナイトウォーカーと言います。あのあまり気にしないでください。さっきも言いましたけど勝手にくびを突っ込んだのは俺ですから」

「でっでも……」

「そうです。お風呂嫌いのリックにはちょうどいいです。いつも私が一緒に入らないと……」

「こら! ソフィア!」


 慌ててリックがソフィアを止めた。アイリスがソフィアとリックを睨む。申し訳なさそうにボロンカはうつむいている。リックは二人がなぜ喧嘩してたのかとブローソン・ダバディのことが気になりボロンカに尋ねる。


「二人はなんで喧嘩を?」

「はい、実は…… この村は大地の地底湖の祭壇に近く。私達一族は代々その祭壇を守ってきました。兄が一族の代表で村長なんです」


 喧嘩をしていたボロンカ一族は、大地の地底湖の祭壇を守っている一族の末裔だった。ボロンカは話を続ける。


「昨日、村を出て行った幼馴染が村に帰って来たんです。そして祭壇への扉の鍵をくれって…… 兄は幼馴染の依頼を断ったんです。でも、父が…… 多額の報酬に目がくらんで勝手に鍵を貸してしまって……」

「鍵って村長のお兄さんに黙って、そんな簡単に貸せるような物なんですか?」

「はい。祭壇への扉の鍵は村に伝わるあるまじないを普通の鍵にかけただけのものなんです。その方法は一族ならだれでも知ってます。だから祭壇への道の鍵を渡すことは父でもできるんです」

「でも、なんで? お父さんは鍵をブローソンに渡したんですか?」

「父が鍵を渡した理由は、長年、病を患っていた母の治療で出来た借金の返済のためです。さらに幼馴染は許可をくれたら村に寄付もすると、この村はご覧の通りに寂れていますので寄付は大変ありがたいんです。ただ…… 兄はそんな甘い話はない。もし寄付に頼ってしまったら、今後は幼馴染の言うことを多少無理なことも聞かないといけなくなるって……」


 悲しそうに窓を見つめはなすボロンカ。話の中の幼馴染とはおそらくブローソン・ダバディのことだろう。リックはボロンカにさらに尋ねる。


「でも、幼馴染ってブローソン・ダバディのことですよね?」

「ねぇ!? ブローソン・ダバディってここの出身なの? あいつ王子なんじゃないの?」

「えっ? 皆さんはブローソン・ダバディを知ってるんですか?」


 アイリスがブローソン・ダバディのことを説明する。ダバディがバーランドの娘であるアイシャとの結婚に名乗りをあげて、バーランドが出した結婚の条件のために、ベンディと競っていることを告げるとボロンカの顔は少し暗くなる。


「そうなんですね…… アイシャさんと結婚……」

「でも、どうしたあいつが王子なの?」

「はい、ブローソン・ダバディは昔、この村に男性と一緒に住んでいました。しかし八年前に仕事で村の外に出た時に男性は魔物に襲われて死んでしまい。その時に一緒にいたブローソンは行方不明になったんです」

「行方不明?」

「はい。男性の遺体は放置されていて、ブローソンのことも必死に探したんですが…… 結局見つからずにみんな死んだと思っていました。ただ戻ってきた時に行方不明になった時に自分が他国の王子だとわかり今までその国で過ごしていたと言ってました」


 うつむいて悲しそうげに話すボロンカ。リックは真面目な顔でブローソン・ダバディが、どこの国の王子なのか気になり考えていた。顔を上げたボロンカが、急に立ち上がった。リックが彼女に声をかける。


「ボロンカさん? どうしたんですか?」

「私が祭壇への扉の鍵を用意します」

「本当ですか!?」


 胸に手をあてボロンカが小さくうなずく。祭壇への道が開いた、リックとアイリスは顔を見合せてうなずいた。ボロンカは思いつめた顔をしリック達を見渡し少し間を開けて口を開く。


「代わりにみなさんと一緒に連れて行ってください!」

「えぇ!? ボロンカさん?」

「気になるんです…… 昨日あったブローソンが…… なんか彼じゃないような気がして…… 昔、私と一緒にいた彼は…… もっと優しい目をしてた……」


 ボロンカさんは頭をさげて、リック達に一緒に連れて行ってくれと言ってきた。リックは急なボロンカが懇願に戸惑い、アイリスの顔を見て尋ねる。


「アイリス…… どうする?」

「うーん。いいわ。一緒に行きましょう」

「はい! ありがとうございます」


 アイリスはボロンカに微笑みかけ、彼女に手を伸ばして握手を求める。ボロンカは目に涙を浮かべてアイリスの手を握るのだった。

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