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第201話 友の結婚に協力しよう

 リックはカルロスの部屋を、ノックして開くのを待っている。


「はいはーい。あら!? ソフィアちゃんとリック君。なんかご用かしら?」


 少しして部屋から、元気な返事がしてノノが扉を開けた。


「すいません。朝早く…… あの俺は隊長に話があって……」

「そうなの。わかったわ。どうぞ。カルロス、リック君が来たわよ」


 笑顔でノノはリックとソフィアを部屋へ通してカルロスを呼ぶ。部屋に通されてソファに座ると、少し眠そうなカルロスが寝室から現れ、リック達の前に座る。


「どうしたお前さん達。なんかあったのかい? まさか…… 気分が盛り上がって結婚するから僕に証人になってほしいとか?」

「ふぇぇぇ!?」

「ちっ違いますよ!」

「なんだ……」


 慌てて否定する二人にカルロスは、残念そうな顔でソファに深く腰掛けた。リックはカルロスの勘違いから話がそれたのを戻す。


「このドンバル国にアイリスが来てるんですね。昨日ノノさんが話してたバーランドの娘の結婚の試験に参加してるんです。試験の為に向かった洞窟に強い魔物が出たらしいんです!」


 カルロスはリックの話しを真剣に聞き静かに小さくうなずいた。


「なるほど。それでお前さん達はアイリスを助けに行きたいというわけか」

「はい! お願いします……」


 うなずくリックにカルロスは、腕を組んで難しい顔をした。


「旅行は中止になるよ? お前さんだって楽しんでたろ? グラント王国に救援要請をだせば他の部隊がアイリスを助けに行ってくれるぞ」

「はっはい…… でも、俺はやっぱり友達のアイリスを放っては…… おけません。だから俺が行きます」


 首を横に小さく振って答えるリック。確かに横に居る大事な彼女との旅行は、楽しくてかけがえのないものであるが、彼は友達が危ない目にあっているとわかっているのに見過ごせるほど悪人でもない。真面目な顔でカルロスは、少し考えてからリックの顔をみてニコッと笑った。


「お前さんならそういうと思ってたよ。いいぞ。行ってこい。僕達のことは気にしないでいいからな。なるべくグラント王国の兵士と気づかれないようにしろよ。それと僕に定期的に連絡をするように」

「はい! わかりました。ありがとうございます」


 笑顔で立ち上がってカルロスに返事をすると、ソファに座っていたソフィアが、リックの袖をつかんで引っ張ってきた。


「私も行きます!」

「でも、ソフィアは…… せっかくの旅行なんだからみんなと楽しみなよ」

「リックと一緒がいいです! 一緒じゃなきゃいやです」

「わかったよ。ソフィア、ありがとう。一緒に行こう!」

「リック!」


 勢いよく立ち上がって嬉しそうな顔してソフィアが俺の手に抱き着いた。


「ちょっと恥ずかしいよ…… あっ!?」


 カルロスが抱き着かれたリックをみて呆れた顔をしていた。


「お前さん達はほんとに…… 今だけだからな!」

「そぅ。今だけよ……」

「うわぁ!」


 いつの間にか茶を持ってきていたノノが、リック達の横でボソッとつぶやく、リックはひどく驚くのだった。

 カルロスに礼を言ってリックとソフィアは自室へと戻った。ポロンを一人で置いてきちゃったけど大丈夫かと少し心配するリックだった。


「あれ!?」


 部屋の中かからキャーキャー騒いでる声する。リックは急いで部屋の扉を開ける。


「あっあれ!?」

「待てーー! あっ!? あんた達、お帰り!」

「リックとソフィアが帰ってきたのだ」

「よかったね。ポロン!」


 部屋を開けて中へ入ると、なぜかポロンとナオミが枕を持って立っていて、二人に向かいあうようにメリッサも枕を持って立っていた。どうやら三人で枕を投げあって遊んでいたようだ。


「ナオミちゃんとメリッサさんどうして俺達の部屋に?」

「ポロンが起きてあんた達がいないからって、うちの部屋に来たんだよ。それでナオミが遊びたいっていうからさ」

「うちの部屋で遊ぼうとしたら、隣のイーノフおじちゃんに迷惑だからってママがこっちに連れてきたんだよ」

「悪いね。だから少し借りてる」

「いいですよ。ありがとうございます」


 ポロンは起きて二人が居ないので、寂しくなってメリッサ達のところに行ったようだ。リックとソフィアが、ポロンの頭を撫でてると、彼女は嬉しそうに目をつむるのだった。


「ポロンごめんね。ちょっと隊長のところに行ってたんだ」

「隊長のところ? 何かったのかい?」


 穏やかな顔していたメリッサが、急に真面目な顔してリックにたずねる。リックはメリッサさんにアイリスの事を話して、風車の洞窟にこれから向かうことを告げる。


「そうかい…… あんた達もまじめだねえ。まぁ頑張りなよ。なんかあったら手伝うからいいなね」

「ありがとうございます」

「わたしも行くのだ」

「えぇ!? ポロンはメリッサさん達と一緒に旅行をしなよ」

「いやなのだ」

「えっ!? ポロン……」


 泣きそうな顔してポロンが、リックの足もとにきてズボンの裾をギュッとつかんだ。


「私はリックとソフィアと一緒がいいのだ。連れて行くまではなさないのだ」

「連れてっておやりよ。ソフィアと一緒で一度言い出したら聞きゃしないよ」

「はい…… わかったよ。ポロンありがとね。一緒に行こう」

「行くのだ」


 頭を撫でてポロンにリックは、一緒に行こうと告げる。ポロンは安心したような顔をした。ポロンの後ろにいた、笑顔のナオミが勢いよく手をあげた。


「じゃあ! 私もリックおにーちゃんと一緒に行く」

「こら! あんたはダメだよ!」

「チェー! 行きたかったのに……」


 ナオミが不満そうに、ブツブツ言ってメリッサにさらに叱られる。


「アイリス…… 待ってろよ」


 リックとソフィアは準備を整え、宿の入り口に集合する。ポロンがまだ部屋で、準備をしてるので終わるのを二人で待っていた。

 ソフィアは受付で宿のおかみさんと、会話をしリックは階段の近くでポロンを待っている。


「お待たせしたのだ。初めてだから着けるの手間取ったのだ」

「大丈夫だよ。慌てないで駆けたら危ないから気を付けろよ」


 慌てた様子でポロンが二階から下りてきた。鍛冶屋エドガーがポロン用に作った、白い金属の鎧を改造した、私服用の防具をポロンは装備していた。大きな兜は額を守る、カチューシャのように改造され、額に白い金属がひし形に輝きいている。上半身はハンマーを振り回すポロン合わせ鎧は肩を出し、胸から腹を覆うようにしてある。下半身は腰には厚手の布で、覆って白い手甲と膝当てがついていた。

 ポロンが合流しリック達は風車の洞窟へと向かう。風車の洞窟は、彼らがいる星の砂浜から、南に位置する強風山(きょうふうやま)にある。試験の課題の、そよ風のベールは、強風山の山頂にある。山頂は穏やかだが、山の外側はその名通り強風が吹き荒れ、外からは登れない、山頂に行くには麓から山頂まで続く洞窟をいくしかない。

 アイリス達は昨日に旅立ったので、すでに洞窟に到達し、内部を攻略しているはずだ。リックは地図を見ながらどうやってアイリスに追いつこうが考え込んでいる。ポロンもリックと一緒に地図を見て悩んだ顔をしている。ちなみにポロンはよくわかってないが、リックが悩んだ顔をしているので真似をしているだけである。二人の元へと宿屋のおかみさんと話していたソフィアがやってくる。


「どうしようかな? アイリスに追いつくのは難しいかな」

「大丈夫ですよ。転送魔法補助道具が強風山の近くの宿屋に置いてあるらしいです。なので洞窟の近くに転送魔法で行けます!」

「ほんと! やった」


 リック達はソフィアの転送魔法で、強風山の近くの平原にある宿屋まで飛び立つのだった。転送魔法でやってきた、宿屋に人気はない。おそらく魔物がでたという、情報で誰も利用していないのだろう。

 リック達は平原を横切りすぐに風車の洞窟へと向かう。


「これが…… 強風山か。すごいな」


 横切った平原の先に、細長い山というか、岩がまっすぐに空へと伸びている。周囲に強い風が渦巻いている。リックは離れた小高い丘から強風山を見つめている。


「リック、あそこに穴が開いてるのだ」


 ポロンが指をさして方向をみると、山の近くに地下へと向かう坂道があり、その先には空洞があった。坂道を下り空洞の前にいくと、斜めにさがった道の先に真っ黒な穴が広がっている。ポロンは真っ黒な穴をジッと見つめている。

 

「いっ行くのだ!」

「ポロン…… 暗いの怖いならソフィアと手をつなぎなね」

「怖くないのだ! 失礼なのだ!」

「違うよ。ソフィアが怖いんだよ。ねぇソフィア?」

「ふぇ!? そっそうです! 私は怖いです。だからポロン手をつないでください」

「そっそうか!? しょっしょうがないのだ!」


 真っ暗な洞窟の前でポロンは怖くて汗をかき声を震わせていた。ソフィアが手をつなごうと手をだすと嬉しそうにつなぐ。リックを先頭にして三人は洞窟に入る。洞窟の道の幅は意外と広く馬車くらいは通れそうだった。

 洞窟に入ってすぐにソフィアが、魔法で足元を照らしてくれるが、それでもまだ薄暗く奥が見えない。薄暗い洞窟を先に松明のようなゆらめく光が見えた。

 近づくと洞窟の道の先には、大きな空洞が広がっているようだった。リック達は空洞の入り口の壁際に立ていこっそりと中をのぞく。


「うん…… オークか」


 空間の中央付近に、体が青く白い柄の先にくねくねと曲がった、水色の刃がついた槍を持った、二体のオークらしきものが立っていた。二体のオークは人型で人間より、少しだけ大きく青い皮膚に、とがった耳をして、眉間と瞼の上の骨が出張って目が細くなっており、下あごが前に出てそこから牙が生え、豚のように上がった鼻の穴が見える。リックはジッとオークを見つめ視線を下げた。

 

「なるほどね。あれがウィンドオークか…… 強風山に特有の魔物、風属性の魔力をおびた槍を使う特殊なオークと……」

「あっ! 魔物生息図なのだ!」

「しーーーー! ダメだよ。ポロン! それに旅行の時くらいは調べないでいいんだよ!」


 魔物生息図をしまって、必死に言い訳をするリックを、軽蔑するように目を細くして、ソフィアとポロンは目を細めて見つめている。

 

「リック! あそこを見てください。オークの前に誰かいますよ」

「あれはアイリス?!」


 アイリスが二体のオークの前で、チャクラムを構えて対峙していた。いるのはアイリスだけで、スラムンもキラ君もいないようだ。


「リック!」

「よし行くぞ! ポロン、ソフィア!」

「行くのだ」

「はい」


 リックはソフィアとポロンを連れて駆けだしていく。彼は駆けながら腰にさして剣に手をかけて抜いた。二体のオークは近づくリック達に気付いてこちらに向かってくる。


「ソフィアはアイリスをお願い」

「はい」

「ポロンは俺と一緒に行くぞ。まずはオークを吹き飛ばして!」

「わかったのだ!」


 ソフィアはアイリスのもとへと向かい、リックとポロンはオークに向かって駆けていく。


「えっ!? ポロン!?」


 前に出たポロンがハンマーで殴りかかった。だが、オークが持った槍とポロンのハンマーがぶつかった瞬間に、槍から竜巻のような風が現れてポロンをハンマーごと風に巻き込んで吹き飛ばした。

 吹き飛ばされたポロンは、何とか体勢を立て直して着地したが、バランスを崩してすぐに尻もちをついた。


「痛いのだ」

「オークが風を操ったのか…… クソ!」

 

 尻もちをついたポロンが。悔しそうな顔してもう一度ハンマーを構えた。リックはハンマーのリーチが短い、ポロンじゃちょっと不利だと判断し彼女に声をかける。


「もう一回なのだ!」

「ポロン! あいつらは俺が倒すからアイリスを守ってくれ!」

「うー…… わかったのだ」


 リックはポロンの前に出て、アイリスの護衛に回るように指示した。ポロンがハンマーを下して歩きだすと、リックはオーク達に向かって行く。


「ブホオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」 


 鳴き声を上げながらオーク達はリックに向かって振りかざし斬りかかる。同時に槍から小さい竜巻が、いくつも発生し、リックにむかってうねりながら向かってくる。


「フン…… ポロンと同じじゃねえか」


 竜巻は交互にリックへと向かって来る。リックはジッと向かってくる竜巻を見つめて剣を持つ右手に力を込める。


「ここだ!」


 むかってくる竜巻をリックは剣で斬りつけると、ブシューっと音がして竜巻が消えていく。オークは驚いた顔をする。リックは次々に竜巻をけしながらオーク達へと近づいていく。

 慌てた様子のオークの一体が、槍をかまえてリックに突撃し、槍を勢いよく突き出した。


「へっ…… 甘いよ」


 オークが突き出した槍の刃先が、リックの心臓を目がけて近づいてくる。走りながらリックは体をひねり槍をかわす、槍がリックの体の横を通過していく。笑ったリックは槍を狙って剣を振り上げた。硬い物ぶつかった感触が剣からリックにつたわってくるが、かまわず振りぬくと槍の柄が斬られて槍は二つに折れた。

 槍が真っ二つに斬られて、オークは目を見開いて驚く。


「さようならだよ」


 すぐに手首を返したリックは、オークの首を狙い剣で斬りつけた。リックが剣を振りぬくとオークの顔が固まったまま、ゆっくりとずれていき、しばらくする首がポトリと地面におちて転がっていく。


「ブホオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


 リックの左に回り込んだ、もう一体のオークが、槍を振り上げて頭上に持っていく。


「遅い」


 オークの動きに気づいたリックは、オークの右に体を斜めして一歩でた。振り下ろされた槍が、リックの左肩をかすめ横を通過していく、リックはオークの脇の近くに体勢を低くして近づき、左の足の膝あたりを剣で斬りつけた足から血が噴き出して、苦痛の顔で手で押さえるオークは、足を押さえて膝をついた。リックは斬りつけると同時に入れ替わるようにして、オークの背後に回り込み背中に剣を突き立てた。

 リックの目の前にいる、オークの背中から血が垂れる。剣を抜いたリックは足でオークの背中を軽くけると、オークの背中から盛大に血が吹き出してそのまま前に倒れた。ゆっくりと地面をつたってリックの足元に血が流れてくる。


「ふぅ。終わったな……」


 左腕を曲げリックは、袖に剣を当て引っ張り血を拭う。


「リックー! やっぱり来てくれたの? さすが私の……」

「おっ! アイリス大丈夫か?」


 嬉しそうにアイリスが手を振りながら、リックに駆け寄ろうとしていた。


「うん!? 何? どうしたの?」

 

 両手を広げてソフィアが、アイリスの前に立ちはだかった。ソフィアはうっすらと笑みを浮かべ、彼女の後ろにはポロンが一緒に立っている。


「アイリス大丈夫なのだ? 助けきたのだ!」

「違うですよ。ポロン。アイリスの結婚祝いをもってきましたですよ」

「そうだったのだ。結婚祝いなのだ」

「なっなによ! 結婚、結婚、うるさいわよ!」

「ニヤリです」

「あんた、またワザと!? このーー! ソフィアーー!」


 舌をだして笑うソフィアを、頬を膨らませて両手をあげ、ソフィアの後をアイリスは追いかける。リックはあれだけ元気があれば大丈夫だなとアイリスを見て笑う。


「ほらアイリス。もうやめろよ。ソフィアもアイリスをからかうのをやめて」

「もう他人の物だから気安くアイリスって言ってはダメですよ。アイリスさんていうですよ。リック」

「ちょっ!? ソフィア! あんた本当に許さないわよ。私は誰の物でもないのよ。リックの物だからね」


 両手を上げてアイリスはソフィアを執拗に追い回す。


「こら! 本当にやめろ! まったく……」

「だって…… ソフィアが……」


 リックはソフィアとアイリスの間に入って二人を止めた。追いかけっこにポロンが一緒に交じりたそうな顔していた。


「さっさと風車の洞窟の奥に行こうぜ。俺達も手伝うぞ! アイリスの結婚の為にな」

「待って! リック、違うのよ。私は結婚しないわよ」

「はぁ!? だってバーランドの娘の結婚相手として立候補してるから風車の洞窟に向かってるんだろ?」

「まぁね…… いちおう私も結婚相手として立候補してるけど…… 違うのよ」

「違うって? アイリスの目的はバーランドの娘と結婚して、竜巻鎧(トルネードアーマー)をもらうことじゃないのか?」

「ううん、私の目的は彼を……」

「彼?」

「あぁ。ちょっと待ってね。もう魔物いなくなったから出てきていいわよ」


 岩陰から音がして、小太りの男とキラ君がでてきた。キラ君の頭にはスラムンが乗っていた。男は羽根のついた幅の広いつばの黒い帽子と、革のブーツに青いズボン、白いシャツに黒い袖のない上着を着て、小さいハープのを背負っていた。


「はぁはぁ…… ぜぇぜぇ、アイリスさん僕はもう無理だよ…… やっぱり結婚なんか無理だよ」

「なに言ってるの!? あいつにアイシャを取られてもいいの? ベンディさんはずっと好きだったんでしょ?」

「そうだけど…… 僕はただの吟遊詩人だし…… 体力じゃあいつには」

「だから! 私達が手伝ってるんじゃない。しっかりしてよ! ベンディさん!」

「はっはい。頑張ります」


 ベンディと言われた男は、膝をついて肩で息をしていた泣きごとを言う。そんなベンディをアイリスは必死に励ましている。リックは二人を見て首をかしげる。

 

「アイリス? どういうこと? ベンディさんも婿候補なの? なんで協力してるんだ?」

「えっとね。ちょっとね……」


 ゆっくりとアイリスがリック達に説明を始めた。アイリスは伝説防具を探しと、キラ君が星の砂浜をみたいと言ったので、この国によることになった。途中でスラムンが途中の補足が入ったところによると、アイリスの話は防具もキラ君も言い訳で、本当の目的は砂浜で男をひっかけようと思っていたようだ…… ただその目的は事前に調べずに、ドンバルへ来たせいで女装できずに徒労に終わり、伝説の防具探しに切り替えたという。

 アイリスはバーランドの家の前で偶然ベンディと出会い。バーランドの娘であるアイシャに、ベンディが想いを寄せてることを知ったアイリスは互いに協力をしようと申し出たという。アイリスはアイシャとの結婚は興味がないし、ベンディはアイシャと結婚できれば、歌手としての仕事があるので竜巻鎧(トルネードアーマー)は必要ない。試験にベンディに合格してもらって、アイシャと結婚した後に竜巻鎧(トルネードアーマー)をもらう約束となっているという。


「なるほどね。わかったよ。俺達も協力するからさっさと終わらせようぜ」

「ありがとう! そう! この戦いは負けられないのよ。あいつには! ねえ? ベンディさん」

「そうです! アイリスさん! あんな浮ついた男にアイシャを取られて……」


 ベンディさんとアイリスがしっかりと握手して熱く語りだした。どうやらアイシャを狙う男が居て、ベンディは彼に負けられないようだ。


「あいつって誰ですか?」

「ブローソン・ダバディっていう旅人よ。どこかの国の王子だか知らないけどアイシャを狙ってるのよ」

「そうなんですよ。僕とアイシャは幼馴染で……」

「そうそう! 幼馴染同士の中をさこうなんて! 許せないわよね」

「おっ落ち着いて、もう少し詳しく教えてくれないか?」


 大きな声を出して、アイリスとベンディさんは興奮気味に話していりう。リックは二人をなんとか落ち着かせて話を聞く。

 アイシャとベンディさんは幼馴染で、ずっと互いに思い続けていたらしいが、バーランドは何かの思惑でアイシャとの結婚を望む試験を課したという。この試験には昔から、アイシャとベンディの仲を知っている人は参加しないし、参加しようとしても試験が厳しくて達成できない。

 ベンディはアイリスと組むことで試験に合格し、すんなりとアイシャと結婚できるはずだった。だが、二日前にバーランドの元に一人の男が現れる。それがブローソン・ダバディという、遠い国の王子で事情があって旅をしているという。そのライバルって、やつはここの港で会ったバーランドの娘アイシャに、一目ぼれしたらしく結婚の試験に挑戦をしてきたとという。


「でも、王子ならアイシャを幸せにしてくれそうじゃん?」

「ちょっと!? ダメよ。ベンディとアイシャは昔から一緒に育った幼馴染なのよ。幼馴染は結ばれるべきだわ」

「はぁ!? 別に幼馴染だからって結婚なんか……」


 余計なことを言ったリックにアイリスはすごく怒り彼を睨み付ける。


「なによ! リックのバカ! 幼馴染が結婚なんて素敵じゃない! ポッと出の運命の人なんかより、昔から熟成された関係がいいに決まってるでしょ!」

「何年たっても進展しない関係よりもいいと思いますけど…… ねぇ? リック」


 リックの肘の後ろくらいの袖をソフィアが引っ張った。彼女の方に振り向いたリックは、笑顔で頷くとソフィアは嬉しそうにする。リックとソフィアは互いに幼少期は知らないが、王都グラディアで出会っているのでアイリスの意見には賛同できない。


「うん。そうだよね。運命の人とひかれあって出会うなんていいよね…… そうそう例えば騎士団の試験に落ちて沈んでた俺はすぐにかわいい子と出会えてうれしかったし……」

「リック…… 私も嬉しかったです」


 ソフィアがリックの手を両手で握り嬉しそうな顔をする。微笑んだリックは小さくうなずく。人生をかけた騎士団試験に落ちた彼は、この笑顔と大きな胸に救われたのだ。まぁ厳密には救ったのは防衛隊に勧誘したカルロスになるのだが……

 二人が見つめ合って嬉しそうにしているのを、アイリスは悔しそうに見つめてすぐに爆発する。


「はぁぁぁぁ!? 何よこれ!? ソフィア! 余計なこというんじゃないわよ! いいのよ! とにかくベンディさんとアイシャさんが結婚できるように手伝いなさい」

「はいはい、やるよ。やりますよ」

「もう、やる気だしなさいよ!」

「大丈夫だよ。やる気はあるよ。俺はお前の友達だからな。ちゃんと協力するよ。さぁ風車の洞窟の攻略をしようぜ」

「うるさい! リック嫌い!」


 リックとソフィアは、手をつないだまま笑顔をアイリスに向ける。腕を組んでそっぽを向くアイリスだった。

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