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第198話 旅行に行こう!

 甲板を歩くリックの前にソフィアが立っている。彼女は時々振り返っては。楽しそうにリックに微笑みかけてくれる。


「ソフィアは喜んでるみたいでよかった」


リック達は今ドンバル国へと向かう船に乗っていた。しかも、彼らが乗ってるのは軍船ではない。船体が白く美しく塗られ、船内も豪華な装飾を、ほどこされた旅客船だ。ソフィアは普段の制服と違って革の鎧に腰巻をつけて、青い短い丈の皮のズボンと淡い茶色のシャツをきている。


「制服もかわいいけどこの格好のソフィアもかわいいなぁ……」


 普段と違うソフィアの姿を見て顔を緩ませるリック。制服姿と違って、ソフィアの腰巻の上から、尻のラインがはっきりと見え、それに皮の鎧だと胸の形も良く見える。彼も同じく制服ではなく、茶色のズボンに白いシャツの上に、革の鎧を身に着けていた。二人は任務ではなく私用で客船に乗っている。

 船のへりに手をかけて、海を見つめてため息をき、浮かない顔をするソフィア。リックは気になって彼女に近づき声をかける。


「ふぇぇぇぇ……」

「どうしたの? 落ち込んでるの?」

「リック!? なっ何でもありません!」


 リックに声をかけられるとソフィアは、慌てた様子で平然を装いまた海を見つめていた。彼女の横顔は浮かない様子でリックは心配そうに見つめていた。


「リック。ソフィアはお菓子の食べ過ぎで太ったのだ! だから海に入るのに水着がいやなのだ」

「えっ!? ポッポロン! それは内緒です」


 笑顔でリックの足元にやってきた、ポロンが彼に声をかける。ソフィアはポロンの言葉を聞いて、彼女を慌てて止めようとする。ポロンは置いかっけっこが始まったと喜んで甲板の上を走って逃げていく。ポロンも制服ではなく、ソフィアと同じく私服で、お気に入りの緑の腰に大きなリボンがついたがワンピースを着ている。私服用の防具は以前はなかったが、エドガーに頼んで作ってもらった革製胸当てと小手をつけていた。

 ポロンは甲板の上を走って逃げ、ソフィアは両手をあげてポロンを追いかける。

 

「ソフィアが太った…… なんだ。そんなことか……」

「リック! なんだとはひどいです」

「えっ!?」


 リックのつぶやきが聞こえたソフィアは、ムッとして少しほほを膨らまして彼を睨む。リックはソフィアが太ったと言われても気づかずに、体形も変わってないので、彼女が気にしているのが不思議だったのだ。それに……


「だって…… ソフィアはいつでも…… きっ…… 綺麗だから」

「リック! あっあの…… もう一回…… 聞こえませんでした」

「えぇ!? だから…… ソフィアは綺麗だから!」

「聞こえません。綺麗ってもう一回言って下さい!」

「うん!? 聞こえてるじゃん!」

「バレました!」

「もう! 恥ずかしいんだからやめてよ。何度もいわせないでよ……」


 恥ずかしそうにするリックを見て、ソフィアは嬉しそうに舌を出した。


「えっ!? ちょっと……」


 いたずらに微笑んだソフィアは、リックに抱き着いて頭を彼の胸にピトとくっつける。リックはソフィアの背中にそっと手をまわし、軽くだきしめて彼女の綺麗な銀色の髪をなでる。優しい海の風もリックと一緒に、彼女の綺麗な銀色をやさしく撫でいた…… 


「うっうん!? なっなんでしょうか……」


 リックの視線がソフィアの背後に向けられ気まずそうにする。


「ゴホン! ねぇポロン。こういう時はなんていうんだっけ?」

「うーんと…… ちげーよなのだ!」

「ちょっちょっと!? ナオミちゃん」

「何もしてないです!」


 ソフィアがリックの胸から、頭をはなし必死に苦しい言い訳をしいてる。咳ばらいをしたのはナオミだった。彼女も今日はいつもの給仕服じゃなくて赤い腰にリボンのついた、ワンピースを着て少し化粧もしているのかどこかおしゃれだった。服の形がポロンと同じなのは以前一緒に冒険した時に、二人は仲良くなってナオミが似たような服を買ったからだ。


「こら! ナオミ! 勝手に行くんじゃないの! それにリック達をからかうんじゃない」


 ナオミの後ろから、メリッサが叫んで彼女を注意する。メリッサはいつもの制服にライトアーマーを身に着けている。


「だって~。リックおにーちゃんとソフィアおねえちゃんの反応面白いんだもん。ねぇ!? ポロン! 一緒に船首の方に行ってみようよ」

「行くのだ! メリッサも一緒に行くのだ!」

「そうだね。ママも一緒に行こう。イーノフおじちゃん来るまで私達が相手してあげるからね」

「あっ!? ちょっと! 何言ってるの? ナオミ!? ポロン!?」

「じゃあ、リックおにーちゃんたち! ごゆっくり~!」


 ポロンがメリッサの腕をつかんで船首へと引っ張っていく。メリッサは困惑しながらも、ナオミとポロンに挟まれてうれしそうに笑っている。リックとソフィアは三人を見送って互いに顔を見合せて微笑む。


「行っちゃいました。ナオミちゃん。楽しそうですね」

「普段メリッサさんが忙しくて遊びに連れってやれないって言ってたからね。うれしいんじゃない。」

「リックも楽しそうです!」

「そりゃあ、俺だって船で外国へ旅行なんて初めてだからね。楽しいよ。それにソフィアが一緒だし……」

「リック……」


 ソフィアがそっと手をだしてきたので、リックはそっと彼女の手を握りしめた。船の周りには穏やかな海が広がっている。リック達がなぜ船で外国に行くかというと、聖女を狙うリリィを逮捕したことによる教会からの謝礼だった。

 第四防衛隊の全員と、その家族まで全費用を教会が出し、ドンバル国という国へ、一か月の旅行へと招待された。カルロスによると、この太っ腹な教会の謝礼の思惑は、光の聖杯とリリィの事件について懐柔し口止めだという。

 なお、リリィは処刑が妥当と法廷が判断したが、シーリカが陳情し、現在はローズガーデンの地下の独房に収監されている。光の聖杯は防衛隊が回収し、国宝として国王へと献上され、王家の墓へと運ばれた。

 リックに顔を向けソフィアがほほ笑む。


「でも、私はノノさんがこの旅行に参加しててビックリしました」

「うん、俺もてっきりノノさんは忙しいって断るかと思ったけど、ココが代わりを手配してくれたみたいだね。でも、見送りに来た隊長の娘さんが二人ともノノさんそっくりでビックリしたね」

「はい」

 

 カルロスとノノの夫妻には娘が二人おり、招待はされたが、どちらも王都で仕事があり旅行には不参加で港に見送りに来ていた。ちなみにイーノフだけ、まだ王都で任務が残っており、明日自分で転送魔法を使い、リック達と合流予定だ。


「でも、一番驚いたのは……」

「そうだね。あの人達だよね…… まさか……」


 リックとソフィアが小声で話をすると、甲板から船室へとつなぐ、扉から甘い声がした。


「ちょっと! ゴーンライト~! これ重い~!」

「待ってね。僕が持つね! ブリジット!」

「うふ。ありがとう」

「パパァ! わたしのも! 持てよ!」

「えっ!? キャロラインも!? わかったよ…… 全部僕が持つよ!」


 扉からゴーンライトが両手をたくさんの荷物を持って出て来て、後からゆっくりとローズガーデンの町長ブリジットが、女の子の手を引いて甲板へと現れる。


「まさかゴーンライトさんとブリジットさんが夫婦だったなんて……」

「本当にびっくりです」


 ソフィアとリックがゴーンライト夫婦を横目で見ながら小声で会話する。ブリジットとゴーンライトは夫婦で、港で二人はゴーンライトからブリジットを紹介された時は大層驚いていた。ブリジットはゴーンライトから二人の話を聞いており、リック達と再会した時は驚く二人を見て笑っていた。ちなみに二人の間にはキャロラインという四歳の女の子がいる。髪は紫色でおさげで、耳の後ろ二つに結んで分けて、顔はゴーンライトにて優しい雰囲気の女の子だ。

 幼い子供いるゴーンライト達は早めの下船準備をしている。船はそろそろ目的地へと着こうしていた。


「見てください。あれが星の砂浜ですよ」

「へぇ。白くて綺麗だね」


 ソフィアが指をさした場所をみると、陸にゆるやかに弓なりにまがった、白い綺麗な砂浜が見える。あれがドンバル国の観光名所である、星の砂浜だ。白く綺麗なすなが夜月明りに照らされると、星のように光るからついた名前だ

 砂浜の後ろには高い綺麗な建物が並んでいる。建物はほとんど観光客向けの宿屋だ。宿の向こうには小さな山が連なり教会本部や寺院や遺跡などがある。

 リック達の目的地はドンバル国。グラント王国と同じ大陸の南方にある教会が統治する宗教国家だ。大陸南方にあるドンメル山脈によって、隔絶され場所にあったため修行の場として最適であり、はるか昔に教会の本部がこの地へと移って来た。その後はしばらくは修道士が修行に訪れるだけの静かな場所だった。近年は教会への寄付金減少により、星の砂浜や教会の古い寺院を利用した、観光に力をいれている。グランド王国から向かうには、同じ大陸であってもドンメル山脈によって陸路はほぼ遮断されているため、王国の東にある港ルプアナ定期船に乗るのが一般的なドンバル国への行き方だ。リック達も三日ほど船旅をしてドンバルへとやって来た。

 なおドンバル国は、教会本部が統治しているので、他国と違い色々と制約がある。代表的なのは深夜から朝までの飲酒禁止と、水着で行動できるのは砂浜のみという制限であり、また、男性が女装するのは禁止で、逆に女性が男装するのも禁止されている。

 リック達の船が砂浜を横切った先にある、ドンバル国の港に入った時は日が傾いていた。予約されていた宿に到着して、それぞれの部屋へと向かう。宿は石造りの大きな六階建ての建物だ。

 部屋割りは、それぞれの家族ごとに分けれらた。カルロス夫妻とゴーンライト夫妻、メリッサ親子とイーノフ、リックとソフィアとポロンの三人という風に分けられた。案内された部屋は、四階でリック達が普段住んでる寮とは違い、玄関を入る広間があってさらに奥に寝室が人数分並んであったしかも全ての寝室の窓からは、星野砂浜と海が見える景色もいい部屋だった。


「もう…… なんでこの部屋は俺が使うねって言った瞬間に二人で俺のベッドの上で飛び跳ねるの! やめてよ。」

「やーなのだ!」

「やです」


 リックが自分の部屋に入ろうとすると、彼の脇からポロンとソフィアが部屋に侵入しベッドへと転がった。


「まぁいいや。どうせ…… みんな俺のとこに集まって、三人で寝ることになるんだろうからな…… 自分で自分のベッドを乱してるみたいなもんだ」


 ベッドを荒らす二人を見てつぶやくリックだった。彼の予想は当たりでこの部屋に滞在する間、ポロンとソフィアの寝室が荷物置き場以外に使われることはないだろう。


「うん!? 誰か来たみたいだ」


 リック達の部屋の扉がノックされ元気な声が響く。


「リックおにーちゃん! ソフィアお姉ちゃーん、ポロン! いるんでしょ?」

「この声はナオミなのだ。出るのだ」

「あっ! ちょっと待って!」


 ナオミの声がして、ポロンが喜んで玄関へと向かう。リックはポロンを追いかける。ポロンが扉をあけると、そこにはナオミが笑顔で立っていた。


「どうしたの? ナオミちゃん」

「ねえ!? リックおにーちゃんたちは明日は海行くんでしょ? 私も連れてって!」


 第四防衛隊全員が招待されているとはいえ、旅行なので各々家族で、それぞれ楽しむ計画だ。明日、リック達は海に行く予定でナオミもそれに付いて行きたいという。リックはメリッサと一緒に行動しなくていいのかと尋ねる。


「いいの? ママと一緒にいなくて俺達とで? 確かイーノフさんが合流したら山に行くんじゃなかった?」

「そうなの。イーノフおじちゃんとママは山に寺院見学に行くっていうのよ。でも、私は海に行きたいしポロンと一緒に遊びたいの! ダメ?」

「いや…… 俺達はかまわないよ。ただ、ママが寂しがるんじゃない?」

「もうわかってないなぁ。リックおにーちゃんは! 私がいたらイーノフおじちゃんと二人きりにできないでしょ。せっかく外国で解放的になってるんだからそろそろねぇ」


 どうやらナオミなりにイーノフとメリッサに気を使っているようだ。ニカっと歯を見せてナオミは元気に笑うのだった。


「ナオミちゃんがいきいきしてますね」

「うっうん…… わかったよ。ちょっとメリッサさんに許可とってくるよ。ナオミちゃん! 一緒にママのところに行こう」

「やった!」


 リックはナオミを連れてメリッサ達が止まる部屋へと向かう。部屋に着きナオミがポロンと一緒に海に行きたいと、話したら普通にいいよとメリッサは答えていた。許可をもらって嬉しそうに笑うナオミを見るメリッサは少し寂しそうだった。これで明日はリック達とナオミの四人は海に遊びに行き、メリッサとイーノフは山に散策に、カルロス夫妻とゴーンライト一家は町で買い物という予定となった。

 翌朝、朝食をすましたリックはポロン達に急かされて星の砂浜に向かう。砂浜の手前に、石造りの平屋の更衣室があり、皆その中で着替えている。さすがに厳格な国らしく、砂浜の近くに槍を持った兵士が、巡回していて水着姿の人が砂浜からでないように監視していた。


「うわぁ…… すごい綺麗な砂浜だけど…… 人が多いなぁ」


 水着に着替えたリックは皆より先に砂浜へと出ていた。弓なりにまがった砂浜に人がたくさんおり、海で遊んだりパラソルの下で昼寝をしたりしておもいおもいに満喫していた。


「リックー! リックでしょ!?」

「うん!?」


 遠くからリックを呼び声がした。着替えが終わったソフィア達が、自分を呼んでいると思ったリックは、ソフィアの水着姿を期待しながら、声がした方へと振り向くのだった……

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