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第195話 魔女の正体

 リック達は第三副会場から、主会場のある村の中央広場へと向かう。


「シーリカが主会場に着くまで行かなきゃいけないから少し急ぐよ」

「わかりました」

「わかったのだ」


 主会場にシーリカが移動するまでにつくために急ぐリック達だった。現在シーリカは、第四副会場に向かっており、そこで札を渡したら主会場へと移動した。

 主会場の広場は聖女シーリカを、一目見ようと多くの観客が集まっていた。副会場と違い、主会場の広場は、小さい舞台が設置されていた。舞台は木で組まれた簡単なもので人の胸くらいまでの高さで、広さは屋台四つを向かい合わせにして並べたくらいかな。舞台の正面の左右に上がれるように階段がある。


「さて…… 警備の持ち場を確認しないと…… グァルバさんはどこだ?」


 リック達がグァルバを探していると……


「お前さん達こっちだよ。お前さん達はここの担当だよ」


「えっ!? 隊長?」


 主会場の舞台の横にある階段の前で、カルロスがリック達に手招きをしている。

 

「あれ? ココも一緒なのか……」


 カルロス隣にはココが居て、彼女の手には花の形をして、棒が付いた飴が握られていた。


「チッ!」


 リックの耳にカルロスとココの姿を見た、タンタンの舌打ちをするのが聞こえたような気がした…… カルロスに呼ばれたリック達は、舞台にあがる階段の側にいる彼の元へとやって来た。


「お前さん達はここからシーリカ様の行事が終わるまで警備だよ」

「わかりました。でも、隊長? どうしてここに?」


 リックが質問すると、カルロスは少し困った表情を黙って、すぐにごまかすように笑う。何か悪いことを聞いたのかと。不安になるリックだったがカルロスはすぐに答える。


「はははっ。たまには僕が現場にでてもいいだろう?」

「そっそうだよぅ! カルロスは腕がなまるからたまには働かせなよぅ」


 ココがカルロスを擁護するように必死に答える。何かを二人で企んでいるのがわかるが、まだ自分達には秘密なのだろうとリックは察した。リック達の会話にミャンミャンが入って来る。


「ココはどうして? いるのよ?」

「あたいはカルロスの手伝いとミャンミャン達の様子をみにきたんだよぅ。どう? リックぅ。ミャンミャン達はちゃんとやってるぅ?」

「あぁ。大丈夫ですよ。しっかりやってくれてるよ」

「どう? 私だって兵士の業務くらい……」


 自信満々に答えるミャンミャン、ココはリックの言葉に嬉しそうに笑って、手に持った飴をなめている。

 

「ただ…… さっき任務中に買い食いをしてたんで注意しました。まさかギルドマスターは任務中に買い食いなんかしませんよね? それにうちの隊長もついてますしね」


 リックがココの飴を見て答えると、ハッとして慌てたココは、自分が食べていた飴を背中の後ろにかくしていた。横に立っているカルロスも少し気まずそうな顔をし、リックから視線をそらす。


「(はぁ…… その飴は隊長がココに買ったな…… まったく!)」


 冷たい目でリックはカルロスとココを交互に見る。二人はリックの視線から逃れるようにする。


「コッコホン!」


 恥ずかしそうにココが咳払いをして、彼女は表情を厳しくして、ミャンミャンに顔を近づけた。


「まったく買い食いなんかして! ミャンミャン達はリックぅ達の迷惑かけないだよぅ」

「はーい…… というかさ。目の前でお菓子かくした人に言われてもねぇ」

「うっうるさいよぅ!」


 冷たくミャンミャンは目を細めてココを見ていた。ココは恥ずかしそうに手を挙げ、ミャンミャンを叱っていた。ココの手にはしっかりと飴が握られていた。


「ほら! ココ、もう終わりだよ。僕達もリック達と交代で第三副会場に行かないといけないんだから」

 

 カルロスがココと、ミャンミャンの間に入り、ココをなだめる。


「あぁ、そうだったよぅ! 行くよぅ。カルロス」

「じゃあ、お前さん達、よろしくね。ここに居るんだよ……」


 ココの手を引いてカルロスが連れて行く、連れて行かれるココは、少しほほを赤くしてうっとりした目で彼をみていた。


「チッ」


 なぜかまたタンタンの舌打ちがリックの耳に聞こえる。

 舞台の横で階段を挟んで、リック達三人とミャンミャン達二人に分かれて警備についた。


「「うおおおおおお!!!」」

「キャー!!」

「シーリカ様ーーー!!!」


 しばらくすると集まった客達から、次々に歓声があがった。シーリカが主会場へと入って来たのだ。

 リックは観客達に目をやって周囲を警戒する。舞台の壇上にはゲルプが立ち、リックと目が合うと彼に軽く手を振っている。主会場でシーリカから札を受け取る村の代表はゲルプなのだ。

 シーリカがゆっくりと舞台に近づき、リック達の横を通り過ぎて階段を登っていく。彼女のすぐ後ろをイーノフが、誇らしげに歩いている。


「(でも、なんかやっぱりちょっといつもとシーリカの雰囲気が違う気するな…… 顔は帽子を深くかぶってよくわからないけど、髪も切ったのか少し短いしような気もするが……)」


 シーリカに続いてミランダとリリィが舞台にあがった。舞台の真ん中に進む、シーリカの一歩ほど後ろを二人は歩いている。ゲルプがシーリカに近付いてきて握手をし、大事に両手で持って札をゲルプへと渡そうするシーリカ……


「きぃええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇーーー!!!!!!!!!!!!!!!」


 甲高い鳴き声が響き、広場に黒い大きな影が映り観客を覆う。魔物が飛来したようだ。リックは視線を上空に向けた。


「あれは……」


 広場の上空を、真っ白な羽毛に覆われて、大きな黄色のくちばしをした鳥が、翼を広げて飛んでいた。鳥は白い大きな翼に足は太くたくましく、遠くからでも足の爪は黒く鋭くとがっているのがわかる。尻尾は細く長く四本にわかれ、先端には尖った氷の塊がついていた。

 シーリカが舞台の上で驚いた様子で鳥をみている。リックはのんびりしているシーリカに叫ぶ!


「逃げろ! シーリカ!」


 リックが叫んでもシーリカは呆然と上空の鳥を見ていた。


「何やってんだよ!!!」

 

 口を開けた鳥が、舞台に向かって一直線に降りてきて口を開く、鳥の口から小さい氷の刃が、吐き出されてシーリカにむかっていく。


「シーリカ様は僕が守ります!」


 素早くかけて来たイーノフが、シーリカの前に立ち、赤い宝石のついた銀色の杖をさっそうと構えて詠唱を始めた。彼が詠唱を始めると、薄いピンク色の魔法障壁が舞台を包み、氷の刃は魔法障壁に当たって消えていく。


「大丈夫ですか…… フッ」


 イーノフは振り向き、微笑みながら髪をかき上げかっこつけている。


「(なにやってんだよ…… もう……)」


 リックの視界からシーリカの表情は見えないが、後ずさりしているので、表情は不明だがシーリカがひいてるのはわかった。イーノフにあきれながらもリックは魔物に対処を始める。

 

「ソフィア! イーノフさんに協力して魔法障壁で舞台を保護して!」

「はい!」

「ミャンミャンとタンタンは会場の人を避難させて! ポロンは俺と一緒に来て!」

「えっ!? リックさんでも…… 私もシーリカを守る」

「ミャンミャン…… ごめん…… シーリカだけじゃなくて兵士はみんなを守らなきゃいけないんだ。だからお願い! シーリカは俺達が助けるから!」

「リックさん…… はい! わかりました」


 リックとポロンとソフィアが舞台の上に上がった。リックとポロンはシーリカに、ソフィアはイーノフの元へと駆けていく。


「シーリカ! 大丈夫?」

「助けに来たのだ!」

「えっ…… あゎゎゎ、ありがとうございます」


 ガシャシャいう大きな音が連続して続く。音がした上空にリックが視界を向けると、鳥はシーリカに向けて何度も氷の刃を放っていた。どうやらあの鳥の狙いはシーリカのようだ。


「リック! あの鳥はなんなのだ?」

「あいつは…… えっと……」

「ダイヤ…… あゎゎゎ! ダイヤモンドダストバードですよ! 雪原に住む肉食の鳥で強力な氷魔法を使います!」

「えっ!? あぁ。さすが冒険者だな」

「あゎゎゎ……」


 すっと口から魔物の情報がでたことに感心するリック。シーリカは恥ずかしそうにうつむく。


「ダイヤモンドバードの狙いはシーリカだけみたいだな…… よし! ポロン、ミランダさんとリリィを避難させて!」

「わかったのだ! こっちなのだ」


 ポロンがミランダとリリィを連れ、舞台から下りていった。リックの予想通り、シーリカ以外には興味がなく、ダイヤモンドバードは逃げるリリィやミランダには反応しない。


「シーリカはここにいて! 俺が背後から回り込んであいつを倒すから」

「はっ…… あゎゎゎ、はいお願いします」

「えっ!?」


 リックがシーリカの顔をみつめ、話しかけると彼女は顔を背けしゃがんだ。リックはシーリカが怖がってるのかと思い声をかける。


「大丈夫。イーノフさんとソフィアの魔法障壁だから簡単には壊れない」

「はい! わかりましたから! さっさと行ってください!!」

「えっ!? なんか嫌われることしたかな…… ごめんね……」


 背を向けたまま、ダイヤモンドバードを指し強い口調で指示をするシーリカ、リックは気まずそうに頭をかく、仕草をして彼女に背中を向けた。


「魔法をはなつ気か…… 急がないとな」


 翼を広げてゆっくりとダイヤモンドバードが、上空へとあがっていく。ダイヤモンドバードの頭の後ろに、青く光る尾っぽの先端が浮き、翼をはばたかせる度にどんどんと青い光がつよくなっていく。


「下がりたまえ。リック! 僕が倒すんだから君は引っ込んでるんだ!」


 リックが剣に手をかけると、声がし振りむくとイーノフがリックを睨み付けていた。


「イーノフさん? いや大丈夫ですよ。俺があいつを……」

「何をいってるんだい? 君にばかり…… いいかっこうはさせないよ!」

「へっ!? なにを? うわ!!」

「えっ!? えぇぇ!?」


 リックの周りに大きな風が起きた。急に拭いた風に思わず、シーリカとリックは手で顔を隠す。シーリカのかぶっていた帽子が吹き飛ぶ。シーリカは帽子が飛ばされに気づかずに顔を手で覆っていた。イーノフの足が緑色に光っていた、風が光に集約し、ほこりや木のカスが、彼の足の下で渦巻いている。


「はははっ。君は僕みたいに飛べないだろ? そこで待っていたまえ!」


 風を足にまとったイーノフは飛び上がっていき、翼を広げたダイヤモンドバードに背後まで一気に飛んでいく。


「シーリカ様を怖がらせるわけにはいかないから一気にいくぞ! はぁぁ!」


 イーノフは右手に握った、赤い宝石のついた杖を、前に突き出した。宝石の部分を上になるようにイーノフは杖を右手で持ち、空いている左手を宝石の上にかざす。

 

「偉大なる炎の聖霊よ。その熱き心ですべてを焼き尽くせ! 炎大砲ファイアキャノン!」


 叫ぶと同時に杖の宝石をダイヤモンドバードに向けるイーノフ。激しく燃え広がる大きな炎の玉がイーノフの杖から発射された。巨大な炎の玉は高速で飛んでダイヤモンドバードにむかっていった。ダイヤモンドバードは、炎の玉の接近に、気付き振り返ったが、なすすべはなかった。


「キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 巨大な炎の玉はダイヤモンドバードに命中した。ダイヤモンドバードの体は、激しく燃え広がり悲鳴が主会場に轟く。炎に包まれたダイヤモンドバードは地面に落下し、あっという間に真っ黒にこげて跡形もなくなった。


「すごい…… あっという間にあの大きな鳥を丸焼きにしたよ。やっぱり元とはいえ宮廷魔術師だな……」


 地面に残ったダイヤモンドバードの焦げ跡を見てつぶやくリックだった。イーノフはシーリカにほほ笑みながら、スッと舞台の上に下りて来た。

 まだ、シーリカはさっき風魔法をうけたときと、同様に顔に手を当てて口元をおさえていた。素早くシーリカに駆け寄ったイーノフは、彼女の前にひざまずく。


「ひぃ! あゎゎゎ!」


 顔を押さえてないシーリカの左手にキスするイーノフだった。シーリカは心底いやそうな顔をしていた。


「(あーあ…… 後でメリッサさんに言ってやろ。でも…… やっぱりシーリカの声…… いつもより野太いような……)」


 裸の彼女に何度も遭遇し、悲鳴を聞きなれているリックが首をかしげる。


「リックー! えぇ……」


 リックの隣に来たソフィアが、イーノフを苦い顔して見つめいている。観客の避難をさせていたミャンミャンとタンタンも、リック達に手を振って戻ってきた、さらにポロンも戻ってきてみんな舞台にあがってきた。うれしそうにミャンミャンとタンタンがシーリカの周りに集まる。


「あれ…… あゎ!? 帽子? 私の帽子!?」


 帽子が無いのに慌てた様子のシーリカが、顔に手を当てたまま、ミャンミャンとタンタンから顔を背けていた。


「あれ!?」


 不思議な顔をして、ミャンミャンがシーリカの顔を覗き込むと、シーリカはさけるようにまた体をひねる。

 

「ねぇ!? シーリカ? どうしたの? うれしくないの? ちゃんと顔をみせて安心したいの!」

「あゎゎ……」

「ちょっと! シーリカ! いい加減にしなさい!」

「やっやめて!」


 ミャンミャンがシーリカの手をどけ、シーリカの顔を無理矢理に自分の方に向けた。シーリカの顔を見たミャンミャンは、驚いた表情のまま固まってる。


「えっ!? あなた!? シーリカじゃない! 誰よ?!」

「ふふ…… いやだぁ…… シーリカよ!」


 シーリカの顔を見たソフィア、リック、ポロンは目を見開いて驚き固まった。一番早く立ち直ったソフィアが声をあげる。


「ゴーンライトさんです!?」

「何やってるんですか? ゴーンライトさん?」

「ほんとなのだ! ゴーンラミトさんなのだ」

「ポロン! 僕はゴーンライトだよ」


 主会場に来たのはシーリカではなく、化粧をして神官服を着たゴーンライトだった。ミャンミャンは、まだ信じられないという顔で立っていた。イーノフは拳を握ってプルプルと震えている。


「なんでゴーンライトがシーリカに!!!!! おい! 貴様!!!!!!! 本物のシーリカ様はどこだ!!!!!!! どこに隠しやがった!!!!!!」


 イーノフは眉間にシワをよせ目つきをきつくし、ゴーンライトの胸倉をつかみ、杖をほっぺたにぐりぐりとこすりつけてる。憧れの女性がゴーンライトで、気持ちはわかるがやりすぎだ。リックは慌てて止めようとイーノフに手を伸ばした。


「わっわっ! 本物のシーリカ様なら今はメリッサさんと一緒に……」

 

 ゴーンライトが必死にイーノフに説明している。メリッサと一緒に居たゴーンライトが本物シーリカのようだ。メリッサはゴーンライトとシーリカが入れ替わっているのを知っていたことになる。


「リック! あれを見てくだいさい」

「えっ!?」


 ソフィアが指したほう視線をむけたリック、たくさんの観客が主会場に走って逃げ来るのが見えた。走ってくる観客の中には怪我してる者もいる。道は先ほど自分達が通って来た第三会場からの道だった。リックは慌てて舞台から飛び下り観客の一人を捕まえ話を聞く。


「どうしたんですか?」

「第三副会場に…… 女が…… 突然、炎が降ってきて……」

「なんだと!?」


 第三会場を指してリックに話す観客。


「リックみるのだ!」

「あれは第三副会場でなにか起きてる……」


 叫び声をあげポロンが、第三副会場の方角を指した。リックが彼女の指先に視線を向けると煙が上がっていた。


「ポロン、ソフィア、行くよ! ミャンミャンとタンタンは観客達をお願い」

「はい!」


 返事をしたポロンとソフィアが、舞台から飛び下りリックの元へ集まる。


「えっと…… イーノフさん達は…… いいや。後で勝手にきてください」


 舞台の上では、膝と両手をついて、四つん這いのイーノフが落ち込んで、ゴーンライトさんが必死になだめていた。この様子では二人はしばらく動けないだろう。リックはポロンとソフィアを連れ、主会場から出て急いで第三副会場へと向かうのだった。


「ふぇぇぇ……」

「ひどいのだ! 綺麗なお花さんがあったのに……」

「うん……」

 

 第三副会場に着いたリック達が声をあげた。屋台は壊され、会場を囲む家から炎があがり、綺麗だった会場を飾っていた花は燃え、焦げた花びらがまっている。


「あっあれは!?」


 メリッサが第三副会場の中央で槍を構え真後ろに、ゴーンライトに化けたシーリカがいて、左右に隊長とココでシーリカを囲んでいた。四人の目の前に黒いマントのつけたほうきもった人間が立っている。リック達に気付いたメリッサさんが軽く手をあげて声をかける。


「遅かったね。リック、ソフィア、ポロン……」

「メリッサさん…… すいません。イーノフさんが…… にせシーリカに色々ちょっかいだして……」

「あいつ…… 後で殴ってやる! でも、殴るにはこいつをかたづけないとね。リック! 逃げいないように背後をかためな!」

「はい!」


 リックが剣を抜き構え、ポロンとソフィアも武器を用意してかまえると、四人の前にいる人間が振り返った。


「あら…… またあんた達なの…… はぁ」


 四人の前にいるのはジャイルだった。ため息をついたジャイルは、また前を向きリックに背を向け、悔しそうにメリッサ達を見つめている。


「クッ! なんでシーリカの守りにココとカルロスがいるのよ」

「そりゃあ。僕は兵士だからね。お前さんこそ…… なんでこっちが本物のシーリカだって知ってる?」

「そっそれは…… 昨日、町を歩いていたミャンミャンとタンタンが、話していたのを盗み聞きしたのよ!」


 ジャイルがカルロスの質問に、慌てた様子で返事をすると、ココとカルロスは互いの顔を見合わせて軽く微笑む。軽く息を吐きココがジャイルに答える。


「ふぅ。それはおかしいよぅ。冒険者ギルドの関係者で知ってるのはあたいだけだよぅ」

「えつ!? あっ! そうそう。カルロスの部下が…… そうソフィアとリックが……」


 さらに慌てるジャイル、カルロスは右手の人指し指を立てて横に振る。


「バカなこといっちゃいけないよ。お前さん。リックとソフィアはいま知ったばかりさ。さっきまで防衛隊で知ってるのはメリッサと僕とゴーンライトだけだった」

「クッ……」

「あゎゎ…… そして教会関係者で知ってるのは…… 私とミランダとリリィだけです……」


 メリッサの後ろにいるシーリカが悲し気に答える。ジャイルの正体はミランダかリリィということになる。カルロスがさらに言葉を続ける。


「聖女の予定を知ってた、お前さんは自分が参加する主会場での行事中に騒ぎを起こして、混乱してるうちに聖女を襲うつもりだったんじゃないかい?」

「ちっちがうわ!」

「正体をあらわすんだよぅ。あんたのことはもうわかってるんだよぅ!」

「ジャイル…… いや…… ジャイルの娘! リリィ! お前さんを逮捕するよ」


 ココの叫び声が響く。皆は驚き視線がジャイルへと集中する。ジャイルはうつむいて少ししてから笑って顔をあげた。


「そう…… バレてるのね」

「リリィ…… あなた本当に……」

「そうよ。シーリカ姉さま! 私がジャイル…… ううん、ジャイルの娘…… リリィよ!!!!!」


 シーリカが泣きそうな顔で視線をそらし、ジャイルは自分の顔にてかざした。ジャイルの顔が彼女の手から出た、光に包まれると、髪の色が赤くなり茶色の瞳の大人しそうな顔つきに変わる。


「リリィ……」


 前を向き確かめるように、リリィの顔を見たシーリカは、悲しそうにまたうつむき視線をリリィから離す。


「クッ…… こうなれば…… シーリカ姉さま…… さようなら!」


 目に涙を溜めなきそうな声のリリィが、さようならと力強く言い放ち、シーリカに右手を開いて向けた。

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