第192話 新人が二人やってくる
短くなった鎌を背中に背負い、ミャンミャンがタンタンを連れてリック達の元へと近づく。
「あはは…… こんにちは……」
ミャンミャンは気まずいのか、頭をかくような動作して、ごまかすよう笑って挨拶する。
「気をつけるんだよ。俺達だから平気だけど他の人だったら怪我しちゃうからね」
「はい……」
リックはミャンミャンをジッと見ながら注意する。うつむきながら小さな声で返事するミャンミャンだった。
「あっ!? ちょっと待てタンタン!」
「えっ!?」
タンタンがリックの横を通り、ポロンにむかって嬉しそうな顔で、近づこうとしたのを止めた。リックは再会を喜ぶ前に二人に聞きたいことがあった。リックは二人の前に立って顔を覗きこんだ。ミャンミャンの顔がまずいって表情に変わる。
「二人はどうしてここに?」
「へへへ、雪花祭り見物ですよ……」
慌てた様子で必死なミャンミャンの目が少し泳いだ。リックは経験のある兵士で何度か尋問も行っており、ミャンミャンが動揺する仕草を見逃さない。
怪しんだリックは、顔を近づけてジッとミャンミャンの顔を見つめると、彼女は徐々に焦った表情をしてきた。
「ちょっとリックさん…… そんなに…… ないで…… 恥ず…… よ」
顔を赤くして本気で、恥ずかしそうにするミャンミャン、リックは構わず疑り質問を続ける。
「本当にただの雪花祭りの見物? なんか隠してない?」
「なっなんですか? ほんとですよ。決してシーリカが心配だから、内緒でこっそりついてきたわけじゃないですからね!」
「やっぱり! もう……」
「あっ!!」
しまったという顔をするミャンミャンにリックは呆れた顔する。友人であるシーリカの心配をしてミャンミャンは勝手について来たようだ。彼女の性格を考えれば、この答えは想定内であったリックは、特に驚く様子もなく質問を続ける。
「なんで内緒に? シーリカと一緒にくればいいじゃない」
「だって、私達が雪花祭りについていくってシーリカに言ったら、危険だからダメっていうんだもん。しかも、ココに相談しても雪花祭りに行ったらダメだっていうから……」
「危険って? ココとシーリカが言ったの?」
リックに向けてミャンミャンは静かに頷いた。ミャンミャンが雪花祭りに参加するのもココも拒否したという。ジャイルの件で、ココとカルロスが相談していおり、ただの祭りの警備で終わらなかもしれないと思うリックだった。
「うん!? あぁ…… 忘れてた」
真剣な表情でソフィアが、茂みの奥に目を向けて弓を構えた。ポロンもハンマーを背中から抜いて両手に構えた。ポロンとソフィアが魔物の気配に反応した。すっかりミャンミャン達と話し込んでしまっていたが、スノーアーマーを止めるためにリック達はここに来ていたのだ。
「リック。来ますよ」
「魔物なのだ!」
「わかった。二人とも動くなよ」
リックはミャンミャンとタンタンの前に立って、左腕で二人をかばいながら剣を抜いて構えた。ポロンとソフィアが左右に分かれて、ミャンミャンとタンタンの横へ来てリック達は二人を囲む。
「魔物…… ポロンちゃん…… 怖いよ」
「大丈夫なのだ! タンタンはわたしが守るのだ」
どさぐさに紛れてポロンの後ろにタンタンが隠れて、彼女の背中を嬉しそうな顔でつかんでいる。
「こら! あんたはもう……」
「わっわ! やめてー」
ミャンミャンがタンタンに怒り、ポロンから引き離してリックの後ろへと引きずって来た。
「リックさん、私とタンタンも戦います」
「えぇ!? 僕も? やだ…… 僕はポロンちゃんに……」
「いいの! いくわよ。タンタン! ほら武器をかまえなさい!」
真面目な顔したミャンミャンに、無理矢理たたされて、不安な表情でブレイブキラーを抜きタンタンが構えた。リックはいつになく、タンタンに厳しいミャンミャンを不思議そうに見ていた。やる気があるようなので、リックは二人に少し頑張ってもらうことにした。
「わかったよ。ソフィア、ポロンはタンタンをお願いね。ミャンミャンは俺と一緒に来て」
「はい。わかりました」
「わかったのだ」
「はい! リックさん」
ソフィアとポロンがタンタンの前後に挟んで、リックとミャンミャンは静かにゆっくりと茂みに近づいていく。
「うん!?」
茂みの草から、角のような物がにょきっと生えた。スノーアーマーは呪われた白い鎧の魔物だ。出て生きたのは角は兜から生えた角の部分だった。振り返るとソフィアも気づいているのか、リックと目があうと矢をつがえて頷いた。リックは人指指を立て左手を上げ、ソフィアに見えるように向ける。
「ソフィア!」
「はい」
リックが兜を指して叫んで合図した、ほぼ同時にソフィアが矢をはなった。矢が一直線に正確に茂みの白い頭に命中しする。金属がぶつかりあう音がして茂みの中からばらばらに崩れた鎧がリックの足元に転がってきた。
「さすがソフィア。一発で仕留めた」
先頭がやられて慌てて様子で、茂みから剣と四角い盾を持った白いフルプレート鎧が、ガシャガシャと音を立て走りながら現れた。
「九体か…… グァルバさんからの情報通りで、ソフィアが倒してのを入れて全部で十体だな」
スノーアーマー九体が一列に並び、盾を構えて剣を前につきだして近づいてくる。
「よし、ミャンミャン出てきたやつを鎌で薙ぎ払って!」
「任せください!」
ニコッと笑って自信満々な表情をリックに向け、ミャンミャンが前にでて鎌を斜めに振り上げた。彼女の持った鎌の持ち手がぐんぐんと伸びていく。
「行きますよー! とりゃあ!」
ミャンミャンは隊列を組んだスノーアーマーの横から伸びた鎌を振りぬいた。素早くそして力強く動く鎌は、スノーアーマー達を次々と真っ二つに切り裂いていく。地面に次々とゴロゴロとスノーアーマー達の残骸が転がっていく。ミャンミャンは一撃で六体のスノーアーマーを切り裂いた。リックはミャンミャンを見て小さくうなずいて笑う。
「すごい。ミャンミャン、また腕をあげたね」
リックが声をかけると、得意げな表情でミャンミャンが振り返る。
「ありがとうございます。最近はもう伸縮させるのは完璧なんですよ」
「さすが」
「でも…… 三体残っちゃいました」
「大丈夫だよ。後は俺に任せて」
鎌が届かずにミャンミャンが、撃ち漏らした三体のスノーアーマーは、ミャンミャンの攻撃に驚いて一瞬だけ止まったように見えたが、ミャンミャンに向かって向かって来る。
いつものように、剣先を下にして構え、リックは奴らの前に立ちはだかった。
「ふーん…… いいけどさ」
先頭のスノーアーマーが、他の二体を離して一体だけリックに向かってくる。一対のスノーアーマーが気を引いてる間に、迂回してソフィア達を襲うようだ。リックはスノーアーマーの意図に気付いたがわざと見逃した。
「まぁ…… 俺とミャンミャンで片付けると、ポロンがやっつけたかったのだってうるさいからちょうどいい」
リックに向かって来たスノーアーマーは、左手で盾を前に出して構えたまま、右手の剣を振りかざした。スノーアーマーは距離をつめ、リックの頭へ目掛け剣を振り下ろす。
「遅いよ」
振り下ろさた剣は右足を引き、体を斜めしてギリギリでかわす。スッと振りぬかれた剣がリックの目の前を通り過ぎていく。かわしたスノーアーマーの剣を持つ右腕を狙いリックが自分の剣を振り上げた。
スノーアーマーの肘の少しした辺りを、リックの剣が斬りつけ、バキーンと音を立て右腕が回転しながら宙を舞う。スノーアーマーの右腕は、剣を握ったままの腕が回転しながら地面へと転がった。リックは前にでながら、手首を返して剣を戻し、すれ違いざまにスノーアーマーの首を斬りつける。硬い手ごたえがリックの手に伝わった。すれ違って背後に抜けたリックは剣先を下に向け振り返る。スノーアーマーは兜と右腕を吹き飛ばされた姿勢で立っており。リックが振り向いた直後に地面に崩れ落ちた。
「ふぅ……」
小さく息を吐いて視線をソフィア達に向けるリック。ガシャガシャと音を立てて、ソフィア達に二体のスノーアーマーが、向かっていっていた。
「ポロン! そっちに二体行ったから気を付けてね」
「わかったのだ」
ポロンに声をかけると、嬉しそうに顔でハンマーを両手に持って、リックに彼女が答える。ヒョイっと軽々とハンマーを持ち上げたポロンはスノーアーマーに向かって駆けだしていく。
駆けてくるポロンに一体のスノーアーマーが剣を突き出した。
「どっかーんなのだ!」
肩を引いて体をひねり、たくみにスノーアーマーの剣をかわしたポロンは、軽くスノーアーマーの腕をハンマーでたたくと、スノーアーマーの腕はグニャッと曲がった。ハンマーを戻したポロンは、すかさず横からハンマーでスノーアーマーを叩く。
ポロンのハンマーが腰のあたりに当たって、グニャッとスノーアーマーの全身が曲がったまま、吹き飛ばされてバラバラになって地面に打ち付けられた。硬い金属の体を持つスノーアーマーであっても、簡単に叩きつぶせるポロンのパワーにリックは改めて感心するのだった。
「あっ! 待つのだ!」
ポロンが一体の相手をしている間に、もう一体のスノーアーマーがタンタンとソフィアに向かっていった。振り向いたポロンが、ハンマーを構えてスノーアーマーを追いかける。ソフィアも迎撃のために弓を構えた。
「ダメよ。ポロンちゃん、ソフィアさん、タンタンにやらせてください」
ミャンミャンが突然ポロン達に叫んだ。驚いた顔た、ポロンが走りながら、リックの顔を見た。
「リック。どうするのだ?」
「うーん…… いいよ。ミャンミャンの言う通りにして、ポロンとソフィアは少し下がってくれ」
「わかったのだ!」
「じゃあタンタンさんお願いします」
「えぇ!?」
勢いよく駆けていたポロンは、スピードを緩め、スノーアーマーから少し離れた場所止まった。ソフィアも弓をおろして、ゆっくりとあとずさりしながらタンタンから離れていく。スノーアーマーは一人で立っている、タンタンにゆっくりと近づいていく。
短剣を両手で持ってタンタンは、ソフィアとポロンを不安そうに何度も見ていた。
「ポロンちゃん…… ソフィアお姉ちゃんも…… ひどいや……」
「タンタン! あんたも冒険者なんだから魔物一体くらい倒しなさい!」
「うぅ…… わかったよ」
厳しい口調でタンタンを、激励しているミャンミャンの、表情が少し悲しそうだ。いつもならミャンミャンはタンタンが、危なくなるようなことさせないはずなのに、リックは不思議に思い首をかしげる。
「どうしたの? ミャンミャンがタンタンに厳しいなんて珍しいね」
「はっはい…… この間の件でタンタンもちゃんと冒険者とみてあげないと思ったんです。だから前みたいに全部私がやってあげるんじゃなくて、タンタンにもいろいろ経験してほしいんです」
「そうなんだ」
以前、タンタンはリックにパーティの役立てなくて、自分の居場所がないと悩み相談していた。なぜ彼が居場所がなかったかというと、過保護にしすぎるミャンミャンが全てやってあげてたからだ。ミャンミャンもタンタンが成長するために、彼にやらせようという気になったようだ。
「それに今ならリックさん達がいますから安全ですしね」
ニコッと笑って俺の袖を引っ張り笑う。リックはミャンミャンの調子にあきれるのだった。
「しょうがないな。じゃあ万が一の為に準備だけはしとくよ」
「はい。お願いします」
「ソフィア! タンタンのフォローをお願いね」
「はい」
リックはタンタンをさしてソフィアに声をかける。ソフィアは頷いて矢をつがえ、ノーアーマーに狙いを定める。いくら経験のためとは言っても、タンタンが危なくなったら、リック達はいつでも助けられるよう準備する。それが兵士の務めというものだ。
タンタンが短剣を構えて、スノーアーマーに向かっていく。スノーアーマーが盾を前にしてタンタンに突っ込んでくる。体格差を利用してタンタンを盾で吹き飛ばすつもりようだ。
「よけろ! タンタン!」
「うわぁぁぁ!」
転びそうになって片手をつきながら、なんとかタンタンはスノーアーマーの突撃をかわした。スノーアーマーはタンタンを通り過ぎりてとまる。タンタンを見失っているのか、スノーアーマーはキョロキョロを鎧の兜の部分が左右に動いていた。
タンタンは素早く体勢を立て直してスノーアーマーの背後を取った。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
タンタンは両手にブレイブキラーを握り、スノーアーマーの背中に体ごと突っ込んでいく。ガキーンという音が雪原に響き渡る。スノーアーマーが頭を上にむけ、背中をそらして立っている。
静かにスノーアーマーが剣と盾から手を離し、二つともゆっくりと地面に倒れて転がった。タンタンはゆっくりと後ずさりしていく。スノーアーマーの右下の背中にブレイブキラーが刺さっていた。
「やったのだ! タンタン、かっこいいのだ!」
「ポロンちゃん…… ありがとう……」
タンタンはポロンに嬉しそうな笑顔を向ける。しかし……
「ちょっと! タンタン! まだよ! にやけんじゃないわよ!」
ミャンミャンがタンタンを怒鳴りつける。リックは彼女の横で真剣な表情でスノーアーマーを見つめている。
「うわあああああああ!!!」
スノーアーマーはまだ仕留められていなかった。スノーアーマーは上半身を左右に振った、タンタンは思わずしりもちをついた。だが、スノーアーマーもバランスを崩し、タンタンに背を向けて尻もちをついた。ブレイブキラーは、スノーアーマーの背中に刺さったままで、今にも抜けそうな状態だ。
「今なのだ! タンタン! どっかーんするのだ!」
「えぇ!? うっうん!」
ポロンの声に反応したタンタンは駆け出す。スノーアーマーの背後の回り込んだタンタンは、手を伸ばしてブレイブキラーを、もう一度掴むとさらに押し込んだ。スノーアーマーが上をむいて頭を振る。
「タンタン! ブレイブキラーを抜いてもう一度! 今度は背中の中央を刺せ!」
「はい!」
背中に左手を置いてタンタンはブレイブキラーを引き抜いて両手で持つ。今度はスノーアーマーの背中の中央に彼はブレイブキラーで刺す。
「このーーー!」
タンタンは必死に足で地面を蹴って、ブレイブキラーを押し込む。その力でスノーアーマーは、上半身が押され前に倒れた。上半身を前傾に曲げた倒れた、スノーアーマーと一緒に倒れ込んだタンタンはずっとブレイブキラーを押しこんでいた。スノーアーマーはすでに動かなくなっていたがタンタンは気づかなった。
「タンタン、もう大丈夫だよ。」
リックはタンタンに近づいて彼の背中を三回ほどたたく。振り向いたタンタンは、リックと目が合うとほっとした表情をしていた。スノーアーマーからブレイブキラーを引き抜いたタンタンは、嬉しそうにミャンミャンの元に向かう。ミャンミャンの元に行ったタンタンの周りにソフィアやポロンも集まって来る。
「やったよ! お姉ちゃん! 僕、倒せたよ」
「うん、よかった」
「おぉ、やるのだタンタン!」
「そうよ。タンタンだってやればできるんだからね! しっかりね」
「うん、お姉ちゃん。ありがとう…… 大好き!」
タンタンの言葉にミャンミャンが、すごい嬉しそうにして騒いでる。本当にこれからも厳しくできるか心配だ。
「さて……」
念のためリックは、倒れたスノーアーマーの兜に剣を突き刺し、動きを完全に止まらせた。リックの剣が兜に刺さると衝撃でスノーアーマーの手足はバラバラと崩れた。ゆっくりと剣を兜から引き抜き鞘に納めリックはみんなのところに戻る。
「でも、なんでスノーアーマー達が襲ってきたんだろう?」
「それはお姉ちゃんが…… うわ!」
「どうしたの? タンタン?」
ミャンミャンがタンタンの口をおさえて引きずっていっていく。リックは慌てて彼女を止める。
「こら! ミャンミャン。タンタンが苦しそうでしょ! はなしなさい」
「はっはい」
しぶしぶミャンミャンは、タンタンの口から手をはなした。タンタンは解放されると勢いよく口をあける。
「ぷはー! ひどいやお姉ちゃんが悪いんでしょ」
「だから違うでしょ。あれは…… 別に…… 私が」
「タンタン、ミャンミャンはいったいなにしたの?」
「お姉ちゃんが平原に置いてあった宝箱を、僕がやめた方がいいっていったのに開けちゃったんだよ。そしたら地面からスノーアーマーが現れて襲いかかってきたの」
「ミャンミャン……」
「だっだって…… 絶対いいものが入ってるって思ったし…… 宝箱を見逃すなんてもったいないし」
「ココお姉ちゃんにいつも注意されてるじゃん。宝箱を不用意に開けすぎだって! 他の罠とかの感知は鋭いのにさ」
「うぅ…… ごめんなさい」
冒険者であるミャンミャンは、宝箱という魅力には勝てないのあd。ミャンミャンも少し冒険者として腕上げてきたがまだまだのようだ。しばらくして兵士を引き連れてグァルバがやってきた。リックとソフィアとポロンの三人は事情を説明する。
グァルバはミャンミャンには渋い顔をしたが、とりあえずスノーアーマーが退治されたので、すぐに引き上げて行った。リックとソフィアとポロンの三人はミャンミャン達を連れアンダースノー村へ歩いていた。
「これからどうしようか? 二人はココに雪花祭りに来ちゃダメって言われてるんでしょ?」
「はい…… でも、シーリカが心配で……」
「ふぇぇぇ…… とりあえず隊長に相談しましょう」
「そうだね。いったん王都に戻ろうか。ソフィア、ミャンミャンとタンタンを転送魔法でお願いね」
「ふぇぇぇ、はい!」
リック達が詰め所に戻ると、カルロスがあまりに早い彼らの帰りに驚いた。ミャンミャンとタンタンの姿を見て察したのか、カルロスは大きくため息をついていた。
「そうか…… ミャンミャンちゃんとタンタン君が参加するのをココとシーリカ様がね」
「はい。それで二人をどうすればいいか……」
「そりゃあお前さん。ココ達がダメって言うなら返さないとだめだよ」
「そんな…… 隊長さん! シーリカが危険っていうから心配で…… シーリカは大事なお友達だし…… もし何かあったら……」
泣きそうな顔でカルロスの机に身を乗り出して詰め寄っていた。
「とりあえず落ち着ちつこうよ。ミャンミャン」
リックはミャンミャンの肩を押さえ、カルロスから離すが、ジッと彼女はカルロスを見つめていた。ソフィアとポロンが心配そうな顔してミャンミャンの近くにきて慰めていた。ミャンミャンの顔を見て困った表情のカルロスが悩んでいた。
しばらくして何かを思いついたのか、カルロスはニコッと笑い、何かの書類を取り出して勢いよく書き始めた。
「はいよ。リック、これをグァルバに渡してくれるかい?」
「なんですか? これ?」
「防衛隊の臨時隊員申請書だよ」
防衛隊の臨時隊員とは警備や魔物の侵攻や戦などで、人手が足りない時に冒険者や元兵士や時には、農民などを一時的に兵士として雇う制度である。臨時の期間が終われば、兵士としての任を解かれ、みんなそれぞれの生活に戻る。
「隊長。どういうことですか? 臨時隊員って?」
「うん。ミャンミャンちゃんとタンタン君を雪花祭りの間だけ、アンダースノー村の防衛隊の兵士として雇うんだよ」
「えぇ!? そんなことグァルバさんの許可なく決めて大丈夫なんですか?」
「なーに。雪花祭りでアンダースノー村の防衛隊も人手不足さ。王都の防衛隊推薦の臨時隊員ならグァルバは文句いわないよ」
にこっと笑うカルロス。確かにグアルバは、雪花祭りで人手が足りないと言っていた。二人の会話を聞いていた皆は驚いたが、ポロンだけはなぜか少し嬉しそうにしていた。
「隊長さん、ほんとですか? 私達が防衛隊に?」
「えぇぇ!? 兵士になるの?」
「ははは、臨時だから雪花祭りが終わるまでだよ」
「でも…… ココお姉ちゃんに…… 怒られないかな?」
心配そうにするタンタンだった。確かに冒険者を勝手に兵士にしたら、ギルドマスターであり二人の師匠であるココが怒りそうだ。リックも淡タンタンと同じように思っていた。
「タンタンの言う通りですよ。ココに黙ってこんなことして、隊長が怒られますよ」
「うん…… もうリック!」
リックの袖をひっぱり自分の元へと引き寄せたカルロス、彼の耳の近くでカルロスは、周りに聞こえないように小声で話す。
「お前さんね。どうせ二人ともダメって言っても来るんだからだったら、我々で監視してた方がいいでしょ?」
「まぁそうですけど……」
「大丈夫。ココには僕から言っておくからさ。それにココも二人は勝手に行くだろうな心配してたからね」
「はぁ…… わかりました」
カルロスの言う通りで、ミャンミャンとタンタンは断っても勝手に雪花祭りに参加するだろ。好き勝手に動き回られるより、リック達の目の届くところに置いた方多少マシである。リックとカルロスが二人で話してるのはみんな不思議そうに見ていた。ミャンミャンがリックの顔を覗き込んで口を開いた。
「リックさん? どうしたんですか?」
「ううん、何でもない。隊長の言う通りミャンミャンとタンタンは臨時隊員として一緒に雪花祭りにいこうよ」
「えっ!? まぁリックさんが言うなら……」
「雪花祭りを…… ポロンちゃんと…… やった!」
「よろしくです」
「一緒なのだ!」
両手を上げて笑うタンタンだった。リックは彼をジッと睨む。一人だけ雪花祭りに参加できること以外で喜んでそうだ。
ミャンミャンとタンタンは、一時的に防衛隊の隊員となり、雪花祭りの警備に参加することなった。リック達はアンダースノー村へと戻るために詰め所を出ていくのであった。