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第189話 魔女を捕まえろ

 うっそうとした森の開けた場所に、ひっそりと建つ木造の綺麗な、二階建ての家の前にリック達が立っていた。


「本当に静かな場所だな。グラディアとシーサイドウォールと言う大きな町を結ぶ場所なのに……」


 立派な木の柵に囲まれ裏には、小さな畑と井戸がある家を見てリックがつぶやく。

 ここは、グラント王国の王都グラディアから東地域へと抜け時に超えるビオラー山の中腹だ。以前は、王都グラディアから東地域へ抜ける際は、東の砦から街道を歩き、ブロッサム平原を越え、王都地域と王国東地域を分けるビオラー山の山道に入って山を越えていた。

 ただし、うっそうとした森に斜面が急で険しい、ビオラー山越えは厳しく事故が絶えなかった。十数年の年月をかけ、グラント王国は山道から分かれて山を越えるトンネルを掘った。国民は山道ではなく、トンネルを使って行き来をするようになった。なので山道は寂れビオラー山はほとんど人が行かない場所となっていた。

 リックの目の前にいたメリッサが振り返った。


「リック達は裏口からだよ。準備ができたらイーノフに合図をさせるから、合図を確認したら一斉に家に踏み込むんだよ。いいね!?」

「わかりました」


 家の中に聞こえないように小声で、メリッサから指示されたリックが答える。リックは横に並んだソフィアとポロン、に視線を送ってメリッサと同じく小声で話しかける。


「ソフィア、ポロン行くよ」

「はい……」

「わかったのだ」


 ソフィアが心配そうな顔をしてリックの手を握ってきた。


「リック。私…… 少し怖いです」

「ソフィア…… 大丈夫だよ」


 不安そうにつぶやいたソフィアの手が少し震えている。彼女の手を軽く握り返したリックはほほ笑みかける。笑顔のリックを見たソフィアは、少しだけ安心し表情をする。二人は互いの不安をはらうように強く手を握り合い、リックは突入する時も一緒だよ心の中でささやくのだった。

 

「二人で手を握ってずるいのだ。わたしもリックと手をつなぐなのだ!」

「うわ!」


 ソフィアとつないだ逆の右手をポロンが掴んできた。さすがのリックも両手がふさがったら剣を抜けない。


「両手がふさがるからダメだよ。順番ね。じゃあ、はい。ごめんね。ソフィア」

「ふぇぇぇ……」


 リックはポロンに順番だと言い聞かせて、名残惜しかったがソフィアから手をはなした。すぐにリックはポロンの手を握り、彼女は嬉しそうに微笑む。

 

「あっ! ソフィア!? ダメだよ……」


 ポロンとリックがつないでる手をソフィアが外そうとする。


「はい。もう交代ですよ」

「やなのだ。まだリックと手をつなぐのだ!」

「こっこら! 二人とも喧嘩しないで……」


 気まずそうに二人を止めるリック、振り向いたメリッサが彼を怖い顔でにらんでいた。


「リック、ポロン、ソフィア! うるさいよ! 静かにしな!」

「ヒッ! すいません」

「ふぇ!? ごっごめんなさい」

「メリッサが怒ったのだ。ごめんなのだ!」


 一喝される三人。慌てて謝るポロンとソフィア、リックはほら見たことかという顔をする。メリッサの横でイーノフが小さく顔を横に振った。

 

「ふぅ。メリッサ…… 君の声が一番大きいよ」

「はぁぁぁ!? 何だってイーノフ?」

「ほら静かにしないと! リック! 君も二人の言うことばっかり聞いてないでしっかり注意しなよ」

「うぅ…… イーノフさん…… すいません」


 イーノフは最後にリックに注意をする。ポロンとソフィア両方に良い顔をして、毅然とした態度を取らない自分が悪いので、当然だと思うが少しだけ納得がいかないリックだった。


「でも、いいですよねぇ。リックさんはモテモテで…… 僕なんか昨日お風呂入ったばかりなのに娘に臭いっていわれちゃいましたよ……」

「えぇ!? それは俺に関係ないでしょ!?」


 ゴーンライトがリックにうらやましそうに声をかける。既婚者である彼は娘に嫌われたことを愚痴りだした。ポロンがゴーンライトの横に行って声をかける。


「元気だすのだ。わたしはソーンマイトさんは臭くないのだ!」

「うぅありがとう。ポロン…… でも、何度も言うけど僕はゴーンライトだからね……」


 ポロンはいつものように、名前を言い間違える。慰めるはずだった、ゴーンライトは、さらに落ち込むのだった。ポロンはなぜゴーンライトが元気にならないのか首をかしげるのだった。メリッサはゴーンライトとリックを睨みつける。


「こらーー! いいかげんしな! リック…… 本当に怒るよ!」

「えぇ!? 俺は…… 別に」

「あぁ!?」

「メリッサ! だから君が一番…… ほら! リック!」


 今にも爆発しそうなメリッサをイーノフがなだめながら、顎で家をさしてリック達に配置につけと合図する。これ以上怒られたくないリックはイーノフの指示に乗っかった。


「早く裏口に回ろう。行くよ。ソフィア、ポロン」


 リックはソフィアとポロンの二人を連れて家の裏側にまわる。家人に気づかれないように、少し離れた場所から回り込んでいく。


「うん!?」


 家の裏側に土に石の板が刺さった墓があった。誰の墓か気になったリックだったが任務後に確認することにした。茂みに膝をついてリック達は身を隠ししながら、裏口の位置を確認し待機した。茂みから顔を少しだけだしてリックは家を監視する。


「ここにジャイルさんがいるんですかね……」

「それはわからないよ。ただ、グレーデンの証言だといるはずだけどね」


 リック達が踏み込もうとして家には、王都周辺でシーリカを狙い騒ぎを起こしているジャイルが居るという。先日、厄災の地竜誘導事件で拘束した、元ルプアナ町長のグレーデンがロバートの尋問でジャイルがこの家にいると吐いた。ロバートからグレーデンの証言を聞いた、カルロスがリック達にジャイル拘束の指示をしたのだ。

 エルザによるとリック達に教えてくれたけど、ロバートさんの過酷な尋問に耐えきれずに、思わず関係ないジャイルのことグレーデンは話したという。ロバートの尋問の過酷さにドン引きしたリックだが、まぁそれでジャイルの行方が分かっただから、彼の尋問好きも悪いことばかりでない。

 なぜ、ジャイルがここへと身を隠せたかというと、彼女はシーサイドウォール城かつての城主で現国王の叔父ヴィーセルに匿われていたのだ。グレーデンとヴィーセルは親しく、ヴィーセルがグレーデンに、自慢げにジャイルを匿っていることを語っていた。ヴィーセルには正妻がいるので、ジャイルは妾という立場だった。


「ジャイルは王族に匿われていれば、いくら騎士団や防衛隊が必死に探してもみつからないわけだな……」


 リックは山の上に建つ、立派な家の綺麗に緑に塗られた、三角形をした屋根の上を見つめていた。


「さて…… そろそろ、メリッサさん達の準備もできるかな」


 作戦はまずメリッサ達が入り口から突入して、すぐに裏口からリック達が踏み込み、挟み撃ちにする作戦だ。

 

「本当に変わったよな……」


 突入の合図を待つリックがしみじみと独り言を言う。最近の第四防衛隊はきちんと作戦を立て行動する。前は作戦などほとんどなく、メリッサが行くよって言って飛び込むことが多かった。変わったのはポロンが来てからになる。これはイーノフがメリッサにポロンが真似するよって注意してから、彼女はただ突っ込むだけなのを抑えている。


「うん!? 来た! 突入の合図だ」


 家の上空に火の玉が上がり小さく爆発した。イーノフの炎魔法だ。


「突入だ! ソフィア、ポロン、行くよ!」

「はい」

「わかったのだ」


 茂みから飛び出したリックとソフィアは、ポロンより先に走って、裏口の左右に分かれて立つ。少し後から来たポロンが扉の前に立つとリックはは彼女に向かって頷いて声をかける。


「ポロン。お願いね」

「頼みます!」


 背負ったどんぐりの形の重そうな鉄製のハンマーを、軽々とポロンが両手で持ってニコッと笑った。


「どっかーんなのだ!」


 両手に持ったハンマーを軽く振りかぶってポロンは扉に打ち付けた。バキっという音がして、ポロンのハンマーに叩かれた、彼女のパワーに木製の扉は、簡単に折れ曲がって破壊された。ポロンは自慢げな表情をして、破壊した扉を見ていた。


「第四防衛隊だ!!!! 大人しくしろ!!」


 リックは剣を抜き叫びながら、ポロンの横から中に飛び込んだ。家の中に飛び込んで周囲をうかがう。裏口の向こうは、かまどや作業台があるからキッチンだった。

 周囲に誰も居ないことを確認し、リックは扉の方に視線を送ると、ソフィアとポロンに手招きして呼んだ。二人は裏口から中へ入る。


「ふぇ…… リック!」

「うん、おかしいね」

「しーんとしてるのだ」


 うなずくリック。正面からメリッサ達も、踏み込んだはずなのにあまりに静かなのだ。それどころ人の気配がしない。リック達三人はキッチンの出口から廊下をでて進む。

 廊下には扉が三つほどあるので、ポロンとソフィアに手分けして探す。リックは廊下の一番先にある部屋へ向かう。彼は廊下を歩いて一番奥の部屋の扉に手をのばした。


「えっ!?」


 扉が開けたリックの横を、鋭い刃の青い柄の槍が向かってくる。彼はとっさに槍を右に体を傾けてかわし、槍の柄を左手でつかんで右手に力を……


「うわ! メリッサさん!?」

「おぉ!? リックかい? 脅かすんじゃないよ。ジャイルは?」

「いないです」

「そうかい…… こっちも玄関から踏み込んできたんだけどね。誰もいないんだよ」

「はい。こっちも台所からこの部屋までは廊下にあった部屋はソフィア達が探してますが…… 多分」


 リックの言葉を聞いたメリッサが少し悔しそうにする。ソフィアとポロンが捜索を終えリック達の元へと来た。二人とも残念そうな顔をしてるので結果はだいたいわかる。リックはソフィアとポロンの二人に確認をする。


「ジャイルはいた?」

「いません。わたしがみたのは洗濯場で隠れる場所ありませんでした」

「ポロンが見たのはお風呂だったのだ。いなかったのだ」

「そうか……」


 メリッサはソフィア達の報告を聞くと厳しい顔をしている。リックは天上を見た。


「後は二階ですね」

「いや…… 二階はゴーンライトとイーノフが捜索してるよ。でも、静かだから…… 家にはいないのかもね」

「お庭とかにいるかもしれないですよ」

「そうだね。ソフィアの言う通りかも…… 建物はあたし達がみるからリック達はこの家の周囲の捜索をお願い」

「わかりました。いくよ。二人とも」


 ソフィアとポロンはうなずきリックの後についてくる。リック達はまた外に出て、ソフィアとポロンの二人と、リック一人と二手に分かれて建物の周囲の捜索を開始する。リックが裏口から森の方に捜索を開始して、ソフィア達が建物の横にある柵に囲まれた、庭のようになってる場所を捜索する。


「リックー! 来てください!!」


 捜索を開始してすぐにソフィアが、手を振りながらすごく慌てた様子でリックを呼びに来た。


「こっちです……」

「なに? どうしたの? ポロンは?」

「向こうでまってます」

「うん!? あれは?」


 リックが突入する時に見た、山のような盛られた墓の前にポロンが立っている。周りをキョロキョロと見ていたポロンが、リック達に気付き、彼に早く来るように手を振っている。


「大変なのだ! 早くくるのだ!」

「どうしたの? ポロン?」

「ふぇぇ! リックこれを見てください」


 ソフィアに手を引っ張られて墓石を見る。墓石は少し古く文字が掘られていた。


「えっ!? どうして?」


 リックは何度も自分の顔を石板に近づけて字を確認する。


「やっぱり…… 間違いない……」


 墓石には十年前の日付と、ジャイルここに眠ると字が掘られていた。

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