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第187話 厄災は終わらない

 リック達はグレーデンたちの身柄を、ビーエルナイツに引き渡すためにベッスポ砦へと戻る。


「でかいなぁ。こんな大きなのを倒せるなんて炎筒とはすごいな……」


 横たわる厄災の地竜を眺めながら、リックはベッスポ砦へと引き上げた。ベッスポ砦でリック達は部屋を借り、解散がかかるまで待機をしていた。横に座るソフィアの膝の上に、ポロンが頭を置いて寝てる。ソフィアは寝ているポロンの頭を優しく撫でていた。メリッサは仮眠をとり、ゴーンライトは盾を磨いて、イーノフは本を読んでいる。


「なっなんだ!?」


 慌てた様子の女性騎士が、リック達の待機してる部屋に駆け込んできた。


「たっ大変です。すぐにエルザさん団長のところに来てください」


 エルザがリック達を呼んでいるようだ。ベッドで仮眠をとっていたメリッサが体を起こし女性騎士に目を向けた。


「なにかあったのかい?」

「はい」

「わかった。みんなすぐに行くよ」

 

 メリッサがベッドから起きて全員に指示をだした。第四防衛隊は、エルザ達がいるベッスポ砦の、作戦会議室へとむかった。

 作戦会議室には、長い木造りの机と椅子が並んで、部屋の奥にエルザとロバートが机の横に立っていた。


「どういうことよ!!! ちゃんと説明して」


 深刻な顔したロバートにエルザが詰め寄っていた。リック達が近づくとエルザは、ロバートから離れ静かに話を始める。

 

「厄災の地竜がまだこっちに向かってきてるって?」

「はい。グレーデン達は世界中の厄災の地竜を呼び寄せたみたいなんです」


 エルザが不服そうな顔で、ロバートを見つめている。ロバートの言葉を聞いたメリッサすぐに彼にこちかける。


「ロバート。厄災の地竜を何体もって? どういうことだい? 厄災の地竜ってさっき倒した一体だけじゃないのかい?」


 真面目な顔してメリッサさんにロバートさんは答える。


「いや…… 呼び方は違うが世界中に同型の地竜が四体いるんだ……」


 首を横に振ったロバート。厄災の地竜とはグラント王国内の呼び名で、世界にはほかに四体同型の地竜がいるのだ。ちなみに、他はエグザランドの破壊竜、リンガードのアースドラゴン、北海に潜む氷山竜、ブランディア大陸の霊峰黒竜となっている。


「待ってよ。ロバート! 厄災の地竜が四体か居るのはわかったよ。でも、どうしてグラント王国に向かってくるんだよ? 厄災の地竜を操っていたグレーデン達は捕まえただろ」

「えっと…… おい! あれを持ってきてくれ」

 

 イーノフに詰められたロバートは、近くにいたビーエルナイツに指示を出す。すぐに出ていったビーエルナイツが戻ってきた。戻ってきたビーエルナイツは手に皿を持たれていた。


「あれは……」


 ロバートが嫌そうな顔して受け取ると皿をリック達の前へと持って来た。


「これは確か…… 唐揚げ……」

「そうだ。異世界の料理の唐揚げ。正式には冷凍唐揚げというらしい。これはグレーデンの供述からスノーウォール砦の近くで見つけた物だ」


 ロバートが手に持っている皿には冷凍唐揚げが山盛りに乗っていた。厄災の地竜と冷凍唐揚げに、なんの関係があるのかリックは、まったくもって理解できなかった。イーノフは気づいたのか口を開いた。


「ロバート…… もしかして…… クロヤスがこの唐揚げを使って……」

「あぁ。そうだ。唐揚げで厄災の地竜を餌付けして誘導しているみたいなんだ」

「はぁ!?」


 リックが思わず声をあげる。彼は月人で働いた時に、唐揚げは味見し美味だったのは覚えているが、まさか厄災の地竜をそれで誘導できるなど信じられなかった。

 

「あれ? でもなんだかこのカラアゲにおいが…… 焦げ臭い……」


 唐揚げの匂いがリックの鼻に届いた。だが、以前かいだような香ばしさもなく、油が焦げたような臭い強く不快だった。


「あっ! ダメだよ。ソフィア! もう……」


 ロバートが目の前でリック達に見せていたカラアゲを、ソフィアが素早い動きで、一つ唐揚げつまみ、すぐに口に入れようとした。リックはソフィアの手を掴み、彼女が口にいれようとしたのを止めた。

 

「だって…… 美味しそうだったです」

「ダメだよ…… 毒だったらどうするの?」

「いや…… 一応ビーエルナイツが食べても問題はなかったみたいだから人間食べても平気だよ……」


 カラアゲをつまんでいるソフィアの隣にいたポロンが、彼女の顔を見上げて羨ましそうに見つめていた。


「ポロンも食べたいのだ」

「えぇ!? こらポロン! すいませんロバートさん……」


 ロバートの足元に行き彼の裾を引っ張るポロン。ロバートは少し困惑してるようだ。


「メリッサ……」

「はぁ…… ごめんね。食べさせてやって」


 困った顔でロバートがメリッサの顔を見た。メリッサはため息をついてうなずいた。かがんだロバートから、ポロンはカラアゲを受け取る。


「いただきます」

「いただきますなのだ!」


 ソフィアとポロンの二人は、嬉しそうにカラアゲを口に入れた。カラアゲを口にいれたソフィアは顔をしかめた。

 

「ふぇ…… 苦いです…… まずい…… 水を」


 手を伸ばしてソフィアは水を要求する。ロバートはそうなるとわかっていたのか、近くにあるワゴンに置かれた水さしから、コップに水をそそぎソフィアに渡す。水を受け取ると慌てて飲むソフィア、しかし、水を飲んでも彼女はすぐに舌をだし、苦い顔をして何度も水を飲んでいた。


「うげぇぇなのだ! げろまずなのだ!」

「あーあ。ポロンまで!? こら! まだ飲み込んでないのに口を開けちゃダメだよ」


 舌を出して口を開くポロン、リックは慌ててポケットからハンカチを取り出した。


「はい。これに出しな」


 リックからハンカチを受け取ったポロンは、慌ててハンカチ持って部屋の端へと駆けていった。リックは心配そうにポロンを見つめていた。


「(そうそう。みんなのみえないところでペッてするんだよ…… いた! ちょっとなにするんですか?)」


 背中に痛みを感じリックが振り返ると、彼の背中をメリッサがつねっているのが見えた。背中をつねっているメリッサと目が合う。


「リック。あんたポロンにげろまずなんて下品な言葉を教えたね…… まったく」

「そんな!? 俺じゃないですよ!」

「はぁ!? あんた以外に誰がいるんだい!」


 ポロンの言葉遣いが悪く、メリッサに叱られるリックだった。理不尽に思うリックだったが、それよりも唐揚げがまずいという二人が気になった。リックが月人で味見をした時は美味しかったからだ。


「ロバートさん。そのカラアゲはそんなにまずいんですか?」

「いや…… 私は食べてないから…… ただ食べた人間は全員顔がゆがんでいたと報告が……」


 カラアゲに興味を持ったリック、ロバートが持つ皿を見つめる。自分が作った唐揚げと変わってようには見えない。少し怖いが食べてみたいという衝動に襲われる。メリッサとイーノフも同じようで、三人は顔を見合わせてうなずいた。


「いくよ! リック、イーノフ!」

「はい」

「わかったよ」

「ゴーンライトは?」

「ぼっ僕はやめておきます……」

「ロバート! あたしらも食べていいかい?」

「えぇ?! 別にかまわないけど…… しょうがないな」

 

 ロバートがリック達の前にカラアゲののった皿をさしだす。三人は一つずつ唐揚げをつまんで持った。


「「「せーの」」」


 リックとメリッサとイーノフの三人は同時にカラアゲを食べた。目をつむりしっかりと噛んで味わうリック。


「うん…… 少し時間が経ってるから歯触りはやわらかく…… うっ…… うっ……」


 パッと目を大きく見開き噛むのを止めたリック。次の瞬間!


「焦げ臭くて塩辛い…… げろまずじゃん!!!!!!!!」

「うわ! まっず! なにこれ? リック、メリッサ! ダメだ。これはすごいまずいよ」

「うわぁ。本当だ。こりゃあひどいね」


 三人で顔を見合わせながら苦笑いをしてると、エルザがリック達を見ながらやれやれという表情をする。


「はぁ…… しょうがないわね。私達と異世界人じゃ感覚が違うから当たり前でしょう?」

「そうなんですか? 月人で食べた料理は俺達が食べれたし…… 普通におしかったですよ?」

「あぁ。リックさんそれはね、月人の料理はこっちの世界向きに改良されてるんですよ。異世界の料理はそのままではこちらの人には合わないから、月人の開発スタッフと言う人がこちら向けに改良したんですって」


 リックとエルザが会話をしていると、ゴーンライトが得意げな顔して説明する。当然だが、リック達と異世界人の好みは違う。異世界の料理をそのままではリック達には、とてつもなくまずくなるので調味料とか材料に、手間をかけないとならないのだ。手法は良くないが、自分達のことを研究していた、月人やノゾムラにリックは少しだけ感心するのだった。


「うん!?」


 パンパンと手を叩く音が部屋に響く。カラアゲを食べてしゃべっているリック達の前で、エルザさんが手を叩いていた。リック達は音に反応にして視線を彼女に向ける。


「ほらほら。今は唐揚げの味を語ってる場合じゃないわよ。とにかく、みんなで各町の唐揚げを探して回収しましょう!」

「いや…… エルザ…… ビーエルナイツやリック達を使って手分けしても人出が足りない……」

「人手が足りないですって?」

「厄災の地竜はグラント王国の主要な町に向かってる。各地を防衛する戦力を考えても…… おそらくクロヤス達は町の至るところに唐揚げを隠してるだろうから…… 捜索する部隊の数が足りないよ」

「そっそんな? クロヤスやグレーデンたちを締め上げて隠し場所を……」

「それでも間に合うかどうか……」


 ロバートの言葉んエルザがうつむいて考えて込む。


「クソ!」


 悔しそうに拳を握るリック。四体の厄災の地竜は既に唐揚げに反応し、グラント王国へと移動を始めている。メリッサがエルザに口を開く。


「あの炎筒ってやつで一体ずつ吹き飛ばすのはダメなのかい?」

「ダメよ。炎筒はさっき使ったのが全部よ。全ての厄災の地竜分の炎筒をいまから用意するのは無理です……」


 メリッサの提案に首を横に振ったエルザ。頼みの綱であった炎筒はもうないという。エルザは顔をあげ真剣な表情をした。


「とにかく黙ってやられるわけにはいかないわ。ロバートはグレーデンたちの尋問を続けて! メリッサさん達と私達で唐揚げを回収するのよ」

「了解だ。みんな行くよ」

「わかった。ただ…… 僕はエルザを危険な目にあわせるわけには……」

「ロバート…… 大丈夫よ。お願いね」


 エルザの肩に手をかけてロバートが心配そうに声をかける。笑顔をロバートにむけるエルザは、無理に笑ってるみたいで、どことなく表情は暗かった。

 リックの隣に立つソフィアが心配そうな顔をしている。ソフィアの手を握ってリックは彼女に微笑みかける。ソフィアは少しだけ安心したような顔をした。


「(大丈夫。何とかできるよ。いや…… やるしかないんだ)」


 静かに決意をしソフィアの手を強く握るリック。作戦会議室には重苦しい空気が漂っていた。

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