第184話 深夜の来訪者
「はぁ…… 何でこんなことに……」
サラの隣に座って、エルザがリックとアイリスの子供の頃の話を楽しそうに聞いてる。なぜかソフィアとポロンも目を輝かせて、興味津々といった感じでサラの話を聞いていた。リックはつまらそうにテーブルに頬杖をついていた。
「二人は本当に仲良くてねぇ。毎日一緒に泥だけで遊んで…… お風呂に入って…… 裸で……」
「えっ!? お母様? それは本当ですの?」
裸と聞き椅子を引きずり、ガタタと音をたて、エルザが立ち上がった。
「おふくろ! それはダメ言わなくていい」
「あなたは黙ってて私とお母様が話してるのよ」
エルザさんは手を前に突き出し、リックを静止して身を乗り出し、サラに詰め寄っている。サラはエルザの行動にオロオロしてる。
「(本当に何なんだよこの人は…… ごめんね。おふくろ。すぐどかすからね)」
無言でリックは立ち上がり、エルザの肩を掴んで、サラから引き離した。
「なっ何するのよ? リック!」
「もう。用事は終わったんですよね? 早く帰ってくださいよ」
強引に家の玄関の方角にエルザの体を向けさせ背中を押すリック。顔を横に向け、目を細くして不満そうな顔で、リックを見るエルザだった。子供のよにうに手をバタつかせてエルザが叫ぶ。
「まだ聞きたいことたくさんあるの! 二人のなれそめとか」
「何がなれそめですか!? ただの思い出ですよ。ほら早く帰ってください」
「そんな…… いやあああ!!」
いやいやと首を横に振るエルザ、リックは心底この王女に忠誠を誓った自分を後悔し、ジェーンのように魔王軍に寝返ってやろうか、という考えが頭をよぎる。リックのズボンの裾を誰かが引っ張った。
「ダメなのだ! 面白いのだ! ポロンももっと聞きたいのだ!」
「私もリックの昔のこと聞きたいです」
「え!? ポロン!? ソフィアまで!? もう裏切者!」
なぜかポロンとソフィアもリックとアイリスの話を聞きたそうにする。膝の上に乗ったポロンにせがまれ、嬉しそうにサラが話を続けようとした。
「やっやめろ。ポロン」
「ダメよ!」
「そうです」
リックがポロンを止めようとすると、ソフィアとエルザが今度は逆に彼を押さえてる。リック達の姿を見てサラはすごく楽しそうに笑うのだった。だが…… バンっと扉が開く大きな音がした。全員が振り返ると扉の前に、不機嫌そうな顔をしたホアキンが立っていた。
ホアキンは入って来るなりリック達を睨み付ける。
「なんだ!? なんで騎士共がいるんだ?」
「あら!? お父さん! にぎやかでしょう? リックが帰って……」
「うるせえ! リックなんてやつは俺はしらねえぞ」
「おっお父さん……」
やれやれと言った顔して、エルザがリックから手を離し、ホアキンの前に立って頭を下げた。
「私はビーイングエルザ騎士団の団長エルザです。お騒がせして申し訳ありません。リックに用事がありお邪魔してます」
「ふん。リックなんてやつあは家にはいねぇよ。とっとと帰れ!」
「おい! おやじ!」
「うるせえ!」
エルザに向かって、ムスッとした顔をむけるホアキン。次にソフィアがポロンの手を引いてホアキンに前へと行く。
「お邪魔してます。ソフィアです」
「ポロンなのだ!」
「昼間は挨拶しないでごめんなさい。リックの同僚のソフィアとポロンです」
ソフィアがホアキンに頭をさげて、彼はソフィアを見て、ますます不機嫌そうな顔をしてた。
「さっきからうるせぇって言ってんだろ! 人の家で騒ぎやがって! とっとと出ていけ!」
ホアキンはソフィアにむかって怒鳴り拳を振り上げた。ソフィアはポロンをかばって目をつむった。リックはその瞬間に頭に血が上り一瞬で全身が熱くなり自然に体が前に出ていた。
「てめえ! このクソ親父が! いい加減しろ!」
リックは左腕を伸ばしてホアキンの胸倉をつかむと彼を殴りつけた。リックの右拳に硬い衝撃と、少しの痛みが伝わっていく。自分のことは何を言われおうがかまわないが、いくら身内でも仲間を傷つける者をリックは許せない。特にソフィアは彼の一番大事な女性である。
「文句があんのは俺だろ! やるなら俺にだけしろよ! このクソが!!! ソフィアやポロンに謝れ!」
「うるせぇ! このガキが! お前の仲間なんざ知らねえよ!」
「黙れ!」
殴られて口の横から血をだしながら、リックを睨みつけてるホアキンをリックはもう一発殴る。
「おら! 謝れよ!!」
「うっうるせえ……」
「この野郎!!」
拳を振り上げたリックに、エルザ飛び掛かるようにして彼の右腕をつかんだ。
「こら! リックやめなさい! ソフィア、ポロンちゃん、リックを押さえて!」
エルザさんが掴んだ手をリックが、振りほどこうとする、今度はポロンとソフィアも彼にしがみつく。
「ダメです」
「やめるのだ」
「でも、こいつが…… ソフィア達を……」
「リック…… 私は大丈夫ですから…… リックが怖い顔してるの嫌です……」
「そうなのだ! リックはゆるゆるなのだいいのだ」
リックの腰にしがみつき、ソフィアが必死に訴えた。リックはこぶしを下し、ホアキンから手を離した。手を離されたホアキンは、膝をついて頬を押さえリックを睨みつける。
「てめぇ!!! 訴えてやるからな。兵士が暴力をしたってな」
「あぁ。勝手にしろ。戦うならこっちも徹底的にやってやるからな! てめえの畑が無事に済むと思うんじゃねえぞ!!!」
「なっ!? てめえ! そこまで……」
「お父さん、あんた! いい加減しなよ。恥ずかしい。申し訳ありません。リック、エルザさん…… 本日はもう……」
「わかりました。お騒がせして申し訳ありませんでした。ほらリック! 帰るわよ!」
泣きそうなサラにエルザは、申し訳なさそうに頭を下げ。エルザはリック達を家からつれだした。エルザを先頭にリック達は実家からでてしばらく道を歩いていた。急にエルザが振り返り呆れた顔でリックを見た。
「まったく。兵士が一般人を殴るなんてダメじゃない。反省しなさいよ」
「ごめんなさい。エルザさん」
「リック…… エルザさん、ごめんなさい」
「ごめんなのだ」
「ふぅ…… いいわよ。次からは気をつけてね」
リック達が頭をさげるとエルザは空を見上げて笑いだした。
「フフフ。でも、本当に問題児が多くて第四防衛隊の隊長さんは大変そうね。実家に帰るだけで喧嘩するんだから……」
エルザの言葉に自覚はあるようで、きまずそうに右手で後頭部をかくような仕草をするリックだった。
「じゃあ私は帰るわね。あなた達の宿は?」
「はい。知り合いの宿があるんでそこに泊まります」
「そう…… うん!? どうしたの?」
ポロンがエルザのズボンのすそを掴んでいた。その後、ポロンはエルザと一緒に、泊まりたいと駄々をコネた、結局ポロンに負けてエルザはマッケ村に一緒に泊まることになった。リック達は宿屋に一部屋追加してもらった。
ポロンはカードゲームと持って、エルザと同じ部屋に泊まるといって、リックとソフィアと廊下で分かれた。どうやらポロンはエルザとカードゲームをしたかったようだ。
リックとソフィアは部屋のベッドに横になった。
「うん!?」
リックの胸に頭を置いてソフィアが顔を覗き込んでいる。そっとリックがソフィアの綺麗な銀色の髪を、撫でてると嬉しそうに笑う。リックを見つめているソフィアの赤い綺麗な瞳に彼の顔が映っていた。
「久しぶりに二人っきりですね」
「うっうん。なんか緊張するね……」
「リック!」
ソフィアは目をつむってリックを唇を向けた。彼はそっと彼女の口と自分の口を重ねる。ソフィアの唇はやわらかく、彼女の髪から洗い立てのいい匂いが漂いリックの鼻を刺激する。口をはなすとソフィアは恥ずかしそうにリックから視線をそらした。
「(かわいいな)」
リックはソフィアの顔をジッと見つめ微笑む。見つめられているのに気づいたのか、ソフィアはさらに恥ずかしそうな表情をし、リックの胸に顔を埋めて手をまわして抱き着く。そっと俺もソフィアを抱きしめると、暖かく柔らかい彼女の感触に包まれた。ソフィアの体を優しくはなしリックは彼女の寝間着を外す。この日…… ソフィアとリックは、生まれたままの姿になり熱い夜を過ごす。
深夜…… ベッドで抱き合うリックとソフィアは穏やかな表情で眠っていた。
「なっなんだ!? うるさいな!」
ドシーーーン、ドシーーーーン、と遠くて大きな音がしてる室内に響く。リックはこの音がうるさくて目を覚ました。ソフィアはリック横で、しがみつきながら寝ていた。ソフィアをはなして、ベッドで体を起こすリック、首を動かして窓をみると真っ暗だ。
「うん!?」
音に反応して窓が震えている。さらに音が段々と近づいて来ていた。これは何か大きな物がマッケ村に近付いてきているのを現していた。
「ソフィア、起きて!」
「ムニャ!? リック!?」
横で寝ているソフィアに声をかける、彼女は眠そうな声をあげ一旦は体を起こすが、眠気には勝てずにしなだれかかり、リックの胸に顔を埋める。
「もう…… 違うよ! 起きて」
ソフィアの肩に手を置こうとすると扉が開いて人が入って来た。
「起きるのだ!」
「リック、ソフィア! 大変よ…… あっ!」
「うわああなのだ!!」
リック達の部屋に入ってきたのはエルザさんとポロンだった。部屋に飛び込んだエルザは、顔を真っ赤にし、慌ててポロンの目の前に手をだして、視界をさえぎった。
「なんのなのだ!? 前が見えないのだ」
「いいから見ちゃダメよ!」
ポロンの背後にまわって目隠し、部屋の入り口にポロンを連れて行くエルザ。彼女は振り返ってリックに声をかける。
「リック! 早く着替えなさい! まったくもう……」
「えっ!? しまった……」
自分の体を見て顔を青くするリック。ソフィアとリックは裸のままだった…… 裸のリックの胸にソフィアが顔を埋めている姿を、エルザにばっちりとみられてしまったのだった。顔を真っ赤にして恥ずかしそうにするリック、だが今は緊急事態だ気持ちを切り替えすぐにソフィアを起こす。
「ソフィア…… 起きて」
リックはソフィアに手で揺さぶって起こした。目を開けたソフィアは、リックを見ると微笑み嬉しそうな表情をする。ソフィアは起きた時にリックがいないと悲しい顔をする。
「緊急事態みたいだ。行こう」
「えっ!? はい。厄災の地竜ですか」
「わからない。でも、多分……」
リックとソフィアは着替えて部屋から出た。廊下には腕を組んで不満げなエルザと暇を持て余して体を揺らすポロンが居た。
「ふーん。やっぱりできてたのね…… 王女様が好きとか言ってて…… これだから……」
「エルザさん! 別に俺は…… もういいですよ。何が来たんですか」
「チッ!!」
リックとソフィアを目を細くしてみるエルザがつぶやく。リックは不機嫌そうに彼女を止めた。ソフィアは首をかしげるのだった。不服そうに舌打ちをしたエルザは真面目な顔になり話を始める。
「さっき監視チームから連絡があったの厄災の地竜が向かって来てるわ」
「この足音はやっぱり…… クソ!」
「目的地はベストウォールだと思うけど…… この村は厄災の地竜とベストウォールの移動上にあるから……」
厄災の地竜が巨大で移動するだけで甚大な被害がでる。対処方法は町に近づく前に追い払うか討伐するしかない。
「村に近づかせるわけにはいかない。近くのベッスポ砦で迎撃します」
「わかりました。すぐにエルザさんはメリッサさん達と援軍を呼んできてください。ポロン、ソフィア、俺達は砦に行って厄災の地竜を迎え撃つよ」
「はい!」
「わかったのだ」
エルザは頷くとすぐに宿の外へと走っていった。部屋の入り口で振り返りリック達にほほ笑んでいた。
「援軍をつれて、すぐに戻って来るからね。リック、ソフィア、ポロン、無茶しないのよ!」
「はい!」
「大丈夫です」
「任せるのだ!」
エルザさんを送り出したリック達は準備を整え宿屋の前に集合した。
「(あれは…… 親父…… おふくろ…… 気をつけてな。ヤゴロー達の言うことを聞いて避難してくれ)」
宿のすぐ近くをマッケ村の人達が、手に持てるだけの荷物を持って避難していた。その中にホアキンとサラがいるのが見えた。ヤゴローの誘導を受けながら村人たちは避難をしている。顔は皆あおざめ不安そうな表情を浮かべている。
「うん!?」
ソフィアがリックの手を持って強く握ってきた。
「リック…… お父さんとお母さんに挨拶をしなくていいですか?」
「ありがとう。大丈夫だよ。だって…… 俺とソフィアとポロンは必ず生きて帰るから話をする機会はまたあるよ」
ソフィアの顔を見て微笑むリック、こわばっていた彼女の表情も少し緩む。リック達を見つけたヤゴローが、駆け寄ってきて声をかけて来る。
「リック、お前たち? どうするんだ?」
「あぁ。ヤゴローは早く村のみんなを避難させてくれ、俺達は厄災の地竜を止めに行くから」
「えぇ!? たったの三人で? 無茶だ。援軍がくるまで待った方が良いよ」
「大丈夫だ。心配はいらないよ」
心配そうなヤゴローに笑顔で答えるリック。リック達はテレポートボールを取り出して握るのだった。