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第178話 絶望にあるわずかな光

 リック達が返事をしたのを見て、メリッサはニコッと笑い口を開く。


「イーノフ! ゴーンライト! 二人はとりあえず戦う気のある兵士をかき集めて守りを固めな。リック、ポロン、はマティダの人達に説明して王宮に避難させな!」

「私は?」

「ソフィアは一旦グラント王国に戻って隊長に連絡をしてきてくれるかい。グラント王国から援軍を出してくれるように伝えて。戻ってきたらリック達を手伝うんだ」

「はい!」

「アイリスは私と一緒にこっちにきな!」

「えっ!? はい!」


 矢継ぎ早にリック達に指示をだした、メリッサは驚いた顔のアイリスの手を引いて連れて行く。メリッサとアイリスは謁見の間を出てどこかへ行ってしまった。呆然と見つめるリックにイーノフが声をかける。


「リック。時間がない。ボサッとしてないでメリッサの指示通りにして」

「あっ! はい。すいません」


 リック達はメリッサが指示した、それぞれの作業を開始した。リックとポロンはグラント王国の制服と装備に変え、町中で市民に説明して王宮へ避難するように指示をした。

 多少の混乱はあったが、なんとか町の人達を、王宮へむかわせた。リックとポロンが、王宮の入り口で避難民を、誘導をしてるとメリッサさんが声をかけきた。


「おっ何とかうまく行ってるかい?」

「はい。メリッサさん? アイリスは?」

「まぁ特訓中さ」

「特訓?」

「それはあとのお楽しみだよ!  あんた達は避難誘導が終わったらヘビーアーマーを装備して集合しな」

「はい。うん!? あれは……」


 二人が話していると近くに白い光が空から下りて来た。グラント王国へ行っていたソフィアが転送魔法で帰ってきたのだ。メリッサの元にソフィアが駆けて来た。


「戻りました」

「ありがとう、ソフィア! 隊長はなんだって?」

「隊長がすぐに動ける人達を手配したから、半日は持ちこたえろって言ってました!」

「へっ! 半日とは余裕だね。でも…… すぐに動ける人って……」

「はい。大軍を送るから任せとけって言ってました」


 ソフィアの話を聞いたリックは、半日という短時間で、そんな大軍を送れるのか不安に思うのだった。


「じゃあ。さっさと迎撃の準備をするよ。ソフィアも手伝って」

「はい」


 リック達は準備に戻った。イーノフとゴーンライトが声をかけ、集まった兵士は三千人。向かってくる魔王軍は五万、戦力差は歴然としている。リック達は隊長の言葉を信じて魔王軍迎撃の準備をするのだった。

 数時間後…… 準備を終えヘビーアーマーを装備を装備し、城壁の櫓に立っていたリックに、遠くから黒い大きな塊が王都に迫って来るのが見えた。

 リックは迫りくる魔王軍の様子を見つめている。魔王軍の八割は黒い醜いオークやゴブリンといった弓兵と歩兵で、他に大きなトロールが何体かいて投石機などを運んでいた。さらに黒狂犬(ブラックマッドドッグ)と言われる、黒い毛皮の鋭い牙を持つ馬より、少し小さい犬の魔物にのった一万のオークの騎兵と数百の大きな黒い鳥に乗ったオークが居る。


「おっおい…… 数が多いぞ…… 大丈夫なのか?」


 魔王軍の行軍を見て、マウンダ王国の兵士達は明らかに動揺していた。無理もない、王も大臣も仲間も逃げ、彼らの最前線に立って指揮をとるのが、自国の王様でも将軍でもない他国の一小隊なのだから……

 持ち場に指示をだしにいっていた、アイリスを除く全員が櫓へと戻り集合した。第四防衛隊は全員ヘビーアーマーを装備をしている。


「メリッサ…… いちおう防備は固めたよ。でも、やっぱりこの状況じゃ兵士達は……」

「まぁね。王様が自分の部屋に閉じこもって、大臣やえらい人間が逃げ出したんだから当たり前だろうよ」


 イーノフとメリッサが厳しい顔で話をしている。櫓の下を見たメリッサは小さくうなずいた。


「ただ、士気は上がるよ。こいつが居れば…… アイリス! 上がって来な!」


 櫓に天上の兜を装備した、アイリスが上がって来た。白い柔らかな光に包まれた、アイリスの背中には、リブルランドの時と同様に、天上の兜から外れた装飾の翼が、大きくなってついていた。さらにアイリスは、綺麗な透明な水色の盾を左手に持っていた。リックは盾を指さしてアイリスに尋ねる。


「アイリス? お前その盾は? まさか?」

「ふふ? そうよ。聖水晶(せいすいしょう)の盾よ。さっきメリッサ姉さんと一緒に倉庫を開けて手に入れたのよ」


 アイリスが装備した盾は、マウンダ王国の国宝、伝説の聖水晶(せいすいしょう)の盾だった。先ほど、メリッサがアイリスを連れて行ったのは城の倉庫で聖水晶(せいすいしょう)の盾を持ち出し彼に装備させたのだ。

 アイリスの姿をみてどこか懐かしそうな顔をしたメリッサ。元夫であり勇者だった、アレックスも天井の兜と聖水晶(せいすいしょう)の盾を装備していた。

 

「おっ! 装備して来たね。使い方は大丈夫かい?」

「はい。でも、メリッサ姉さん。ほんとうにやらなきゃダメ?」

「あぁ。もちろんだよ。見てみな。兵士達の士気がないのがわかるだろ? この状況で兵士達を鼓舞できるのは勇者のあんただけだよ」

「そうだよ。アイリスさん。メリッサの言う通りだ。隊長が援軍を率いてこちらに向かってきてくれている。僕達はそれまでここで持ちこたえるしかないんだ」

 

 アイリスは周囲を見渡し、不安そうに武器をもつ、兵士達を心配そうに見つめる。


「「「「「ギギーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」」」」」


 上空から大きな声が響いた。足に岩を掴んだ、大きな鳥に乗ったオーク達が、城壁を超えて侵入していた。鳥は町に岩を落としていた。


「来たよ! 全員で持ち場を守るんだ。死ぬんじゃないよ!」


 大きな太鼓の音が響いた。魔王軍が城門に向かって行軍を開始した。


「おいあんなのに責められたたら……」

「いやだー! 助けて! 逃げろ!」

「おっおい! 待て!」


 動揺したマウンダ王国の兵士達が持ち場を放棄し始めた。


「クソ! アイリス! 上の奴らを頼むよ」

「わかりました」


 アイリスがメリッサの言葉にうなずいた。アイリスは櫓のヘリから飛び出し、翼を広げると空高くへと舞い上がっていく。


「みんなー! 持ち場に戻って! 戦いに備えるの! 魔王軍を叩きつぶすのよ!」


 アイリスが上空から叫ぶ。だが、兵士達は右往左往して隊列を乱していた。オーク達は乱れた兵士の列に向かって、鳥が足でつかんでいた岩を投げ落としていく。


「うーん…… あたしじゃ無理か。そうだ!」

 

 乱れる隊列を見ていたアイリスは何かを思いついた。急降下したアイリスは、イーノフの前に下り立ってニコッと微笑む。


「イーノフさん! 一緒に来て!」

「えっ!? ちょっとアイリスさん?」


 イーノフを自分の右脇に抱えるようにして、アイリスは彼を上空に連れて行ってしまった。


「マウンダ王国の兵士よ! 持ち場に戻れーーーーーーーーーー!!! 勇者アイリス様の登場よーーーーーー!!!!!!!!」


 空を飛びながら勇者を名乗るアイリスだった。兵士達はアイリスの声を聞くと足を止め、上空を飛ぶアイリスに視線を向けた。兵士達を見たアイリスはうなずくと鳥に乗ったオークへと視線を向けた。


「我が正義の刃がにっくき魔王軍につきささるのを見るがいい!!!!!!!!!!」


 アイリスは手に持った、聖水晶(せいすいしょう)の盾を空にかざした。白い強烈な光が、聖水晶(せいすいしょう)の盾から発せられた。大きな鳥たちが聖水晶(せいすいしょう)の盾の光に目をやられて落ちていく。


「おっおい! あれ?」


 大きな鳥が落として岩が、アイリスの光に包まれると浮かび上がって、敵の大軍に向かって投げ返された。投げ返された岩が、進行する魔王軍にむかっていき、ぶつかるとオーク達がつぶれていく。


「「「「「うおおおおおおおおお!!! 勇者様ーーーー!!!!」」」」」


 マウンダ王国の兵士から歓声が上がる。アイリスはニコッと微笑んだ。


「さぁ今です! イーノフさんお願いします。あいつらを薙ぎ払って」

「えっ!? わっわかった……」


 イーノフがアイリスの右脇に、抱えられたまま杖を上空に向けた。


「世界の深淵に潜む誉れ高き炎の精霊よ。猛きその炎により我が敵を焼き尽くせ! 深紅地獄炎クリムゾンインフェルノ!!!!!」


 城門にせまっていた、魔王軍の下から火柱が上がった。上空高く舞い上がった、火柱がオークやトロールを焼き払っていく。落ちていく大きな鳥の真下からも、火柱が上がりオークと鳥を一緒に焼き払っていく。燃え上がる魔王軍は、隊列は乱れて混乱していた。


「見よ! これが勇者の力である。さぁ我に続け!!!!!!!!!!!!!!」


 アイリスが魔王軍を指さし、力強く聖水晶(せいすいしょう)の盾を上空に掲げる。聖水晶(せいすいしょう)の盾がまた光を発する。上空を飛び白い光に包まれた、アイリスは神々しく威厳を放っていた。その姿はまさに危機に訪れ皆を救う勇者であった。

 彼を見たマウンダ王国の兵士達が歓声をあげ、手を上空に突き出したり、拍手をしたりしていた。


「うぉー! 勇者様ー!」

「勇者様がいれば勝てるぞ!」

「そうだ! 魔王軍なんざぶっ潰してやる!」


 マウンダ王国の兵士は。先ほどまでの沈んだ雰囲気から一気に明るくなっていく。イーノフを抱きかかえたまま、アイリスは櫓へと戻って来た。


「はぁはぁ…… もう! 急に魔法って! しかも高いし…… ちょっと怖かったよ」


 疲れた表情をして、イーノフは少し震えながら、歩いてメリッサの元へと向かう。


「あぁ…… 残念。イーノフさんもイケメンだからもっと近くに…… ついでに接吻しとけばよかったなぁ」


 アイリスの発言にあきれた顔を向けるリック。彼の視線に気づいたアイリスが微笑んだ。


「あっ! なに? 私がイーノフさんのことほめたから妬いてるの? 違うのよ! 本当はリックが良いんだからね!? だから今度は私と一緒に飛びましょう」


 手を体の前でくねくねして近寄って来たアイリス。リックはさらに呆れた顔をする。


「はぁ!? 俺は別におまえと飛びたくなんかないぞ」

「なっ何よ! リック嫌い! リブルランドで一緒に飛んだんじゃん」

「あんなのは一回で良いよ」

「べーーーー!!!」


 頬を膨らませ舌を出してリックに向けるアイリスだった。その姿に先ほどの勇者としての立派な姿は消えていた。


「あんた達! いつまでもしゃべってるんじゃないよ。来るよ!」

「えっ!?」


 大きな岩の塊が、魔王軍の投石機から、リック達がいる城門にむかって投げられた。大きな音がして、城門の手前に、岩が落下する。イーノフの魔法で、混乱した魔王軍は、すぐに隊列をなおし進軍を再開していた。

 魔王軍は数にものをいわせ、一気にリック達を叩きつぶそうとしているようだ。かけながら魔王軍が城門へと迫って来る。


「はなてーーーー!!!!」


 槍で魔王軍を指し、メリッサが号令をかけた。城壁の弓兵が矢を一斉にはなつ。だが、わずかな弓兵の矢をいとも簡単にすり抜け、城壁に梯子をかけてゴブリンやオークが登ってくる。


「ウギャアアアア!!!!!?」

「さよなら!」


 城門に梯子をかけ上ってきた、ゴブリンの喉にメリッサさんの槍が突き刺さった。ゴブリンは力なく落ちていき、メリッサは即座に梯子を蹴り倒す。ゴブリンを大量に乗せた梯子が倒れ下にいたゴブリンを押しつぶす。


「イーノフ! 城壁にかけれた梯子は全て焼き払え! ゴーンライトはどんどん壁つくって侵攻を遅らせるんだよ! ポロン! あんたはアイリスと飛んでハンマーで移動式の攻城塔を叩き壊すんだよ!!!」

「わかったよ。メリッサ」

「はい!」

「いくのだ! アイリス!」

「ソフィアは負傷者の手当てを!」

「わかりました」

「リック! あんたは私と一緒にイーノフ魔法がうつまで、城壁に手をかけた魔物を片っぱしから片付けな! この城壁に上ったことを後悔させてやるんだ!!!」

「はい!」


 メリッサが城壁のへりに立ち、矢継ぎ早に指示をだしていく。指示を出しながら突き出された槍は、正確にゴブリン達をまとめて貫く。投石や矢を槍や素手で弾き返し、鬼神のように魔物を蹴散らす、彼女の姿に梯子にいるゴブリンやオークたちは、恐怖で城壁に上がるのを躊躇するのだった。リックと他の兵士達はメリッサに負け時と魔物達に斬りかける。城壁の上では必死の防衛線が続く。


「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 突き出したリックの剣が、オークの額を貫いた。オークは悲鳴をあげ城壁から落ちていく。


「お前たちも落ちて行け!」


 リックは目の前にある梯子を蹴り倒す。オークが連なった梯子が倒れ城壁の下にいる魔物達を押しつぶす。リックはメリッサと一緒に近づく魔物たちを蹴散らしていた。数で勝る魔王軍だったが鬼神のようなメリッサとリックの働きによってせき止められる。


「おっと!」


 左から斧を振り下ろすゴブリン、リックは左肩を引いて斧を空振りさせた。右腕を素早く引いて剣先をゴブリンに向け一気に前へ突き出す。リックの剣はゴブリンの喉に剣を突き立てられた。素早く剣を引き抜くリック、噴き出した生暖かい血が彼の頬を伝っていく。

 

「こっちもかしつこい奴らだ!」


 ゴブリンが上って来た梯子を押して倒す。梯子もろとも上っていたゴブリンが城壁の下へと落ちていった。リックとメリッサが城壁に立ちはだかり、数で押し込めない魔王軍、城壁の下には積み上げられた、千を超える死体がならび血の海が広がっていた。


「よし、準備できたよ。メリッサ、リック! 離れて!」


 イーノフが杖を前にだして魔法を発動する。梯子は魔法で燃やされ倒れる。炎柱となった梯子に乗っていた、ゴブリンやオークは燃え上がり火弾となり、味方へ落下しさらに燃え上がっていく。わずかの時間で城壁に迫っていた魔王軍の前面は火だるまになる。

 ゴーンライトの土壁で足を止めらた、攻城塔はポロンとアイリスが順番に潰された。

 リック達はわずかな兵力で五万を超える、魔物たちの幾多の攻撃を防ぎながら耐え続けた。かなり絶望的な状況だが、カルロスが援軍を連れてくるという信じ、リック達はひたすら剣を振り続けるのだった。

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