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第176話 マウンダ国王

 窓から外の様子をみていたアイリスが困惑した顔でこちらをみた。

 壁を背にし窓から、兵士を覗き込んでいたリックは、振り向いて窓に手をかけた。リックは窓を開けマウンダ王国の兵士に声をかける。


「俺たちはグラント王国の勇者だ。いったい何をしたって言うんだ?」

「お前たちには小さな銀色コインを、王宮から盗んだ容疑がかけられている」

「はぁ? どういうことよ? 小さな銀色コインを盗んだですって?」

「わっ!? こら!」


 アイリスがリックの横から、窓の外に顔をだし、兵士に向かって叫ぶ。リックは腕を伸ばし、アイリスの前に出し、下がらせようとする。


「そうだ。一ヵ月前に王宮の金庫から十八枚のコインがなくなったのだ。それをお前たちが所持しててると通報があったのだ」

「えっ!? それは盗賊から……」

「言い訳は城で聞いてやる! 早くでてこい!」


 兵士はリック達が王宮から銀色コインを盗んだ主張している。だが、彼らが手に入れたのは、サイクロプスが盗賊に渡していた銀色コインだ。リック達は誤解されているようだ。アイリスとリックは顔を見合せる。


「どういことだろう? リック、このコインは盗賊が魔族からもらったのよね」

「あぁ。もしかして魔賊が盗んだのか?」

「ならちゃんと説明して誤解を解こうよ」

「そうだな」


 兵士たちは窓の下で、少しイライラした表情で、二階の窓を見てる。


「早く出てこないと、お前たちにクララン村が協力したものをみなして村を焼き払うぞ」

「なっ!? わかった! すぐ行くから! この村には手をださないで!」

「わかった。お前たちさえ大人しくしてればこの村に手はださない」


 必死な表情でアイリスは、窓から顔をだし兵士に叫ぶ。窓の下にいる兵士はうなずき笑みを浮かべた。


「リック! わたしがどっかーんしてくるのだ」

「ダッダメよ。どっかーんなんかしたら! ポロンちゃん! ここは大人しくしないと村が大変なことになる」


 ポロンがリックのすそを掴んで、引っ張り見上げながら聞いてくる。慌ててアイリスがポロンを止めた。アイリスの言うとおり、リック達が抵抗したら村に被害がでる。仮にリック達がここで兵士を倒してもすぐに増援が来るだけだ。


「そうなのか? ダメなのか?」

「うん。抵抗したら村に被害がでる。おとなしくして事情を説明しよう」

「わかったのだ。リック」


 うなずくポロンの頭を撫でるリック、目をつむって彼女は気持ちよさそうにする。リックはポロンを撫でながら、アイリスと顔を見合わせて頷く。

 

「じゃあ、行くぞ。アイリス。ポロン」


 リック達は部屋の出口へと向かおうと歩き出した。だが、リックの脳裏にソフィアの顔が浮かぶ。本当にこれでいいのか、彼女が戻った時に自分達がいなかったら…… 自問自答したリックは足を止めた。


「あっ! ちょっと待って! アイリス、ポロン!」

「えっ!? 何よ。リック?」


 アイリスとポロンを呼び止めた、リックはすぐに机の上に、紙をだしてソフィアへ手紙を書き始めた。三人がマウンダ王国に捕まったこと、すぐに隊長に連絡をし、対応をしてもらえるようにお願いしてほしいということと。


「(あとは…… ソフィアに心配しないで大丈夫だからソフィアのことを信じて…… うん!? なっなに?)」


 気配がして振り返るリック、アイリスとポロンの二人が、俺の背中越しに手紙を覗き込んでいた。


「見るなよ!!」


 恥ずかしくなったリックは前かがみになって手紙を体で覆って隠す。


「あっ! 隠したのだ!」

「ポロンちゃん! きっとどさぐさに紛れて愛の言葉とか書いてるわよ! 書き直してやりなさい」

「わかったのだ。ラブ禁止なのだな」


 ポロンが手を伸ばして、リックから手紙を奪おうをする。


「もう…… そんなこと書いてない! ソフィアに事情を伝えただけだ! アイリスはポロンにへんなこというな!」

「本当そうね。ポロンちゃん。やめてあげなさい」

「わかったのだ」

「ふぅ……」


 ポロンをなだめて、リックは手紙の続きを書き始める。


「よし! できた! あとはこれをどうやってソフィアに渡すかだな……」


 手紙をどうやって渡すかリックは考える。宿のおかみに託してもいいが、もし兵士に渡すところを見られたら彼女を巻き込んでしまう……


「あっ! そうだ! これを……」


 リックはベルトにつけた菓子袋を取り出した。菓子袋には携帯食として、クッキーが入っている。


「何してるの?」

「ソフィアに手紙に気付いてもらうための方法さ」


 ベッドの下にいれた、菓子袋には手紙と一緒に、菓子を残してある、さらにリックはベッドから宿の入り口までに菓子を落としていこうと考えていた。アイリスはリックに向かってため息をつく。


「はぁ…… ソフィアは女の子よ。拾い食いなんかしないわよ」

「そうなのだ! ソフィアに失礼なのだ!」

「えっ!? そうなの?」


 ポロンとアイリスがリックの顔をみて、腰に手をあてて怒っている。リックは首をかしげた、彼の中ではソフィアに伝えるには、これがベストの方法だと思ったのだ。


「おい! 何してる? 早く出てこい!」

「ほら! リック早く行くわよ」

「行くのだ!」

「うん。いこう!」


 三人で手をつなぎ宿の外へと出ていった。宿の玄関でおかみさんが申し訳なさそうな顔でリック達を見送る。宿の前にならんでいるのは、マウンダ王国の紋章を胸につけた、黄色の胸当てに白い兜をかぶった兵士達だ。

 リック達が出てくると、全員がこちらに槍を向けた。


「武器を捨てろ」

「わかったわよ。ほら!」

「ほらなのだ」

「はいよ」


 リックは剣を兵士に見えるようにだし投げた。アイリスはチャクラムを山なりになげ、ポロンもハンマーを投げる……


「あっ! だめだよ! ポロン!」

「ひぃ!」

「ごめんなのだ!」


 ドスっと音がしてポロンのハンマーが、兵士達の目の前に地面に突き刺さった。重さで地面にめり込んで、立っているハンマー、兵士達は信じられないといった顔で、ポロンを見ていた。

 兵士達がリック達の武器を拾い上げるが、ポロンのハンマーだけは四人がかりで運んでいた。


「キラ! ダメズラよ。おとなしくするズラ!」

「うがぁぁぁ!」

「ちょっと、キラ君に乱暴しないで! キラ君…… 大人しくして、お願い!」


 兵士がキラ君を捕まえようとして、暴れそうになるのをスラムンが飛び跳ねて制していた。アイリスがキラ君を抱きしめ、優しく話しかけるとキラ君は大人しくなった。リックとポロンは大人しく縄をかけられた。幸い予備の武器をしまってある、魔法道具箱の存在には気づかれてないようだった。

 

「よし。こいつらを馬車に乗せろ」


 荷台に鉄格子のついた馬車に、リック達は乗せられる。周りに兵隊が囲んでいた。


「よーし出発だ!」


 兵士の号令で、ゆっくりと馬車が動き始める。リック達は馬車の檻の中央に、縛られて状態で固まって座っている。視線を感じたリックが周囲を見渡す、馬車の近くを歩く若い兵士が、リック達を不思議そうに見つめていた。


「なぁ…… なんで? こいつらを? コインは魔物に盗まれたんじゃ?」

「ははっ。うちの王様はな、コインが戻れば何でもいいのさ…… お前も余計なことを言うなよ。王様は国や国民などどうでもよくて、なによりもコインが大事なのさ」


 呆然とするリック、兵士達は銀色コインが、魔物に盗まれたことを知っていた。しかも王は国や国民などどうでもよく、銀色コインが戻ればいいという。このままでは話せばわかると言っていた、アイリスの思惑は通じないことになる。

 馬車にゆられて半日ほど経った、リック達の目の前に大きな山が見えてきた。山の斜面の中央を切り出し、城が建てられ斜面に沿って下麓に向かって家がたくさん建っている。

 城を見つめているリックに、アイリスが顔を近づけ声をかけてくる。


「リック。あれがマウンダ王国の王都マティダよ。山の半分をそのまま街にした天然の要塞都市よ」

「ふわぁーすごいのだ!」


 ポロンが驚いて声をあげていた。近くづくと山に作られた、雄大な町が迫って来るようで迫力がある。山の麓に石造りの門がある。王都グラディアのような、大きな町だが山に囲まれている地形のため、町の門はそれでほど大きくなく城壁も門から五十メートルほどの長さしかない。

 門をくぐると小さな広場みたいになっていて、広場の周りには家が建って広場の右に上り坂がある。アイリスによるとその上り坂をいくとまた小さな広場があって家があって左に上り坂がると、同じ構造の広場が七つあって階層のようになった一番上の広場に王宮があるらしい。

 リック達を乗せた馬車は王宮の前までやってきた。


「ほら降りろ!」


 兵士が馬車の扉を開け、大声で降りろと叫んだ。おとなしく馬車を降りたリック達は、兵士達が囲み王宮の中へ連行される。周りを岩の囲まれた白い王宮、物珍しいのかポロンがキョロキョロと周りをみていた。


「こっちだ。謁見の間で王がお会いになりたいそうだ」


 リック達は王宮に入って、正面にある大きな扉から、謁見の間へと連れて行かれる。謁見の間は赤いじゅうたんの引かれた白い壁の大きな部屋だ。

 天井には明かりを取り入れられるように、大きな窓が四ヶ所設置され、地面に光が反射している。

 入り口から一番奥に大きな窓の下に、綺麗な一番奥のきらびやかな装飾された椅子に座る人物がいて、その横には大きなおなかの人が立っていた。

 兵士に引っ立てられたリック達は、椅子の目の前まで歩かされ、無理矢理に座らせられた。茶色の髪でやや目が垂れた、気が弱そうな青年椅子に座ってる。

 この青年がマウンダ王国の国王だ。王の人間の横に立っているの、は大きなお腹をして、頭がツルツルで、いやらしい顔をしている男だった。きらびやかな服を着て、指にはたくさんの宝石のついた指輪をしたこの男は大臣だ。


「おぉ、勇者アイリス…… 我が城からコインを盗むとは! 王様! このもの達にさばきをお願いします」

「うっうん…… 死刑でいいよ…… 早くコイン取り返して!」

「はっ! 兵士よ。引っ立てろ!」


 適当な死刑宣告に、唖然とするリック。王はこちらには視線を送らず、手元にあるコインばかりをうっとりと眺めていた。馬車で聞いた通りでコイン以外のことに興味がないのは本当のようだ。

 慌ててアイリスが叫んだ。


「ちっ違います。陛下! これは魔族が盗んだです!」

「そうなのだ! 悪いのはサイクロプスなのだ」

「黙れ! こちらには証人がおるのだぞ! ここへ」

「はっ!」


 大臣が手を叩くと、二人の人間が横の扉から出て来た。


「へへっ。勇者様。いい気味ですな」

「なっお前たちは? 洞窟の? 盗賊! はっ! お前たちが俺達のことを?」

「そうでさ。大臣様、こいつらがコインを盗んだ犯人です」

「なっ!? 違うだろ! お前たちが!」


 出て来たのは盗賊の生き残りだった。リック達と盗賊が言い争いを始めた。すぐに王が急に立ち上がり、イライラした様子で頭を掻きながらリック達を睨み付けた。


「大臣! もういいからコインは!?」

「えっ!? はっはい、こちらでございます」


 叫んだ王にすぐに大臣が、さっき兵士がリック達から回収したコインを渡す。コインをみてニコッとわらった王は、リック達を見てめんどくさそうに顔をした。


「よし! コインはかえってきたし…… もうこいつらは死刑でいいよ」

「ふざけるな! もうってなんだよ!」


 叫んでリックが、起き上がろうとするが、兵士達に押さえつけられる。押さえつけられるリックを、盗賊二人が勝ち誇った顔で見て笑う。


「へへへ。国王陛下。私達はコインの奪還に協力したんですから……」

「あぁ…… うん。大臣…… 適当に褒美と恩赦を与えて!」

「はっ!」


 大臣がリック達の前に立ち兵士に命令をする。


「すぐに勇者たちは死刑にするんだ」

「はっ! お前ら引っ立てろ!」

「こら! やめるのだ!」


 兵士達はリック達を引っ立てようとする。リックとポロンは必死に抵抗する


「ざまあねえな」

「はははっ!」


 盗賊は俺達をみてゲラゲラと笑っていた。リックは怒りで頭が熱くなっていく。


「やめなさい!!! リーダーは勇者の私よ。殺すなら私だけにしなさい!」

「アイリス……」


 涙目でアイリスが叫んだ。謁見の間にアイリスの悲痛な声が響く。


「(よくも…… 俺の友達を泣かしやがったな……)」


 兵士達の拘束を振り払おうとリックは体に力をこめていく。


「えっ!?」


 甲高い音が天井から響き、謁見の間の天井に貼られた、ガラスが割れて床に細かい破片が飛び散る。


「もう! なにやってんだよ! あんた達は! まったく!」

「リックとポロンから離れてください!」

「ぎゃーーー!」 


 バリバリと大きな音がして、リック達を拘束する兵士達に、雷が落とされて白く瞬いている。直後に、リックの目の前に肩に人を三人乗せた、大きな熊のような影が下りてきたのだった。

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