第173話 盗賊の根城
「うわー! 前が見えないのだ!」
「リック。大変です。ポロンが」
「あっ! もう! ブカブカなんだから勝手につけちゃダメだよ。ほら大人しくして」
白く綺麗な兜をつけたポロンが騒いでいる。リックはポロンから兜をはずし顔面の装甲を外す。まだ、ブカブカだがこれでポロンの視界は、確保できる。
「あれ? 別に普段も軽装の時に兜つけてないからいらなくない?」
「おぉ!? 確かにそうなのだ! でもいいのだ。これ綺麗だからつけるのだ! ポロンはオシャレなのだ」
「はぁ…… そうですか」
リックはポロンに兜をかぶせる。彼女は置いてあった鏡の前で嬉しそうにポーズを決めている。ポロンには兜の他に白のガントレットとすね当てと胸当てを装備している。ポロンが身に着けている鎧は、以前にアイリスがキラ君用に買った鎧だが、キラ君は嫌がって鎧は長らくしまわれていた。キラ君のサイズでは、ポロン用にするには大きいが、装備できそうな部分だけ装備をさせているのだ。
少しブカブカでポロンが、鏡の前でつけ心地が悪そうな顔してるけど、何もつけないよりはましだ。
「うー。なんか胸とかスカスカしてやなのだ!」
「しょうがないよ。ポロンのサイズの防具が売ってなかったんだから」
胸当てのおさまりが悪るいのようで、ポロンが自分の胸に手を当てて叫んでいる。
リック達は村の鍛冶屋と、防具屋に行きポロンの装備を整えようとしたが、子供用の鎧はないと断れてしまった。リックは帰ったらエドガーにポロンの私服用の鎧を作成してもらおうと考える。
「ソフィアは良いのだ。お胸が大きくて」
「ふぇぇ!? ポロン…… 恥ずかしいですよ」
ポロンがソフィアの近くいき、彼女の胸に手を当てて羨ましそうにしている。笑顔で嬉しそうにポロンが手を動かし、ソフィアが恥ずかしそうにする。ポロンの手の動きに合わせ、ソフィアの大きな胸がプルンプルンと揺れていた。
「(いいなぁ…… 俺もソフィアの胸をこう…… うん!?)」
ポロンが振り返りリックをジッと見つめた。
「あっ! リックが羨ましそうにみてるのだ」
「えっ!? ちょっと待って!? ポロン!? 変なこと言わないで……」
胸を押さえてソフィアがリックを睨みつけた。リックはこっそりと見ていたはずなのに、ポロンにバレて困惑した表情を浮かべる。
「ポロン。エッチなリックは置いていきましょうね」
「行くのだ」
「あっ! 待ってよ」
ソフィアがポロンの手を引いて宿から出ていく。リックは慌てて二人を追いかけいくのであった。
アイリス達と合流したクララン村から出た、リック達は広大な畑を横切って山道に入った。周りに草の生えた見通しのいい山道で、道の先には大きな山が幾重にも連なっていた。
アイリスが先頭でリックとキラ君とスラムンが真ん中で、ソフィアとポロンが一番後ろで、手をつないで歩いている。リックが振り返ると、ソフィアがほほ笑んで彼に向かって手を振る。リックはソフィアに手を振り返すと、ポロンも一緒になって手を振ってくれる。
「えっと…… 確か目印の大きな岩があるはずよ」
難しい顔しながらアイリスが、キョロキョロと周囲を見渡して何かを探している。盗賊団のいる洞窟へ行くための目印の岩があり探しているようだ。しばらく山道を歩いていくと道の脇に大きな岩があり、人が歩いた後にできてような小さな脇道がある。
「あっ! ここよ! ここをまっすぐいくと盗賊団の洞窟に行けるらしいのよ」
「わかった。じゃあ、アイリスとソフィアが先に!」
ソフィアとアイリスが、互いに顔を見合わせて頷く。ここからはソフィアとアイリスが先行する。二人がわざと盗賊団に捕まり、誘拐された宿屋の娘がいる場所に連行されるまでリック達が尾行する。アイリスがリックの横に来てうつむいた。
「もし失敗したら盗賊たちに私の操が…… リックどうしよう? 初めてはリックにもらって……」
「あぁ。うん。大丈夫だよ。アイリスは!」
「ちょっと!? なによ! 少しは心配しなさいよ!」
「えぇ!? うん。もちろん心配だよ。アイリス気を付けて!」
わざとらしい笑顔でリックは、適当にアイリスを送り出す。リックの態度にアイリスは不服そうに、目を細くして彼を見つめている。
「なっなんだよ? アイリス?」
「じー! いま適当に気を付けていったでしょ? 私のことちゃんと心配してる?」
「当たり前だろ。大事な友達だからな。ちゃんと心配してるに決まってるだろ」
「リック嫌い!」
歯をむき出しにして、イーっと叫びリックに向けてるくるアイリス。
「なんだよ? 本当に幼馴染で大事な友達なんだから心配してるのに…… ほらキラ君とかスラムンが心配そうにみてるぞ?」
「えっ!?」
アイリスは振り向くとスラムンを頭の上に乗せたキラ君が経っていた。
「こら。アイリス! リックに変なこと言っちゃダメズラよ」
「へんなことじゃないもん。こういう時は恋人同士は涙をこぼして……」
「リックとアイリスは恋人じゃないズラよ?」
「スラムンも嫌い!」
両手をあげたアイリスは、キラ君の頭の上で飛び跳ねていた、スラムンを掴んで横に引っ張っている。一人で騒いで元気なアイリスにリックはやれやれと言った顔で見つめるのだった。
「ふぅ」
「ソフィア……」
先ほどまでポロンと手をつないで、楽しそうに山道と歩いていたソフィアだったが、やはり不安なのか小さく息を吐いて落ち着かない様子だ。リックはソフィアの両手をがっしりと握った。
「気を付けてね。危なくなったら、すぐに俺を呼んで! 俺は何よりも先にソフィアを助けるからね」
「リック…… ありがとう。大丈夫ですよ」
「ソフィア! 無事で…… お願い!」
手を握ってソフィアの顔を見たリックは、握った手に力を込めた。ソフィアの目に涙が浮かぶ。微笑んだソフィアは優しくリックの頭を抱いてくれた。リックはソフィアの背中に手を回して抱きしめる。
「ちょっと何してるのよ!? 私の時と違うじゃない! なんで私の心配はしてくれないのよ?」
アイリスがリックの後ろから文句を言ってい来た。リックはソフィアの手を優しく外し頭をはなす。
「もう、ソフィアばっかり! 何よ! 幼馴染なんだから私にはもっと…… って何してるのよ!!!!!!!!!」
頭をはなすと目の前のソフィアが、悲しそうな顔をしたので、リックは彼女のおでこに口づけをした。それをアイリスが激しく叫ぶ。
「なっなんだよ? さっきからうるさいな!」
「うるさいとは何よ? あなた達はいつからそんな…… おでこにせっ…… せっ接吻なんかして本当に不潔よ!!!!!!」
「うん? ソフィアとリックは毎日いっぱいラブしてるのだ!」
「えっ!? ラブってなに? それに毎日って? ポロンちゃん!?!!?? 口と口とかも!?!?!?!?!?!?」
「もがが!」
「ふぇぇぇ…… ポロン! ダメですよ」
「あっ! ちょっとソフィア! 何してるの!? ポロンちゃんを離しなさい!」
ポロンの口を困った顔したソフィアが、押さえて引きずっていく。アイリスはリックを見て睨んでいる。
「なっなんだよ? もういいだろ! ほら早く行かないと!」
リックは犬を追い払うように、手を上下に動かし、アイリスに早く行けと促す。眉間にシワを寄せアイリスは、リックを睨みソフィアの手を掴んだ。
「いいわ。ソフィア! 後で二人っきりになったらゆっくり話しましょう。さっ行くわよ!」
「アイリスのお顔が怖いです」
「大丈夫? ソフィア?」
ソフィアの手を引っ張っていくアイリス。ソフィアはリックに手を伸ばして少し悲しそうな顔をする。つられたリックもソフィアに手を伸ばしすと、アイリスが彼を睨みつけるのだった。
「はい! そこ甘やかさないで! ほら行くわよ!」
アイリスはリックを指さして叫び、ソフィアを連れて行ってしまった。
「なんだよ…… もう」
リックとポロンとキラ君とスラムン、は二人が先に行くのを、岩陰に身を潜めて見つめている。
「いっちゃったのだ!」
「そうだね。大丈夫かな、アイリスとソフィアの二人で……」
「平気ズラよ。アイリスはあんなのでも勇者ズラ、意外と面倒見は良いズラよ。それにソフィアだって実力はかなり高いズラよ」
キラ君の頭の上でスラムンが、飛び跳ねながらしゃべっている。ソフィアの実力が高いのがわかるが、アイリスが面倒見がいい言われリックは意外に思った。彼はキラ君やタカクラ君の面倒を、アイリスはスラムンに任せっきりなのかと思っていたのだ。
「そうか…… フフ。故郷の居た頃はあいつの面倒はいつも俺がみてたのにな……」
懐かしそうに笑うリックはどこか寂し気だった。
リック達は脇道歩くアイリスとソフィアの、二人を離れたところから隠れつつ尾行する。
「あっ!」
岩陰から出てきた五人の男達が、アイリスとソフィアを囲んだ。髭を生やして獣の毛皮をかぶり、いかにも山賊と言った風貌の、剣を持ったの男達だ。
「へへ。お嬢ちゃん達は何しにきたのかな?」
「あっあの。ここの辺にさくという薬草を取りに……」
「残念だったな。おい!」
「キャー助けてー!」
「いやです! 助けてー!」
二人の演技がわざとらしくリックは、バレないかドキドキしながら、盗賊達とソフィア達のやり取りを見張っている。彼は剣に手をかけ、様子をうかがい、二人に危害が加えられたら、いつでも飛び出せるようしていた。
アイリスとソフィアは抵抗するそぶりをすることもなくあっさりと捕まった。縄で拘束された二人は、盗賊達の隠れ家である洞窟まで連れて行かれる。二人が連れて行かれのは山の麓にある洞窟で、入り口は小さく人がすれ違えるくらいの幅である。リック達は脇道から外れた洞窟の入口から、少し離れた岩の陰から様子をうかがう。
入り口には見張りと思われる二人の男が立っている。連れて行かれるソフィアとアイリスをニヤつきながら見ていた。
「あのエルフのお姉ちゃんはかなりの上玉だぞ! もう一人の女はまあまあだな」
「何を言ってるんだ? あれくらい手頃な大きさの方がいいんだぞ。一部の人間にだけどな! ははは!」
「ブハハハ! 何言ってやがる。手頃というよりただの板じゃねえか」
会話を聞いていたのかアイリスが、二人の方を睨みながら、洞窟の奥に連れて行かれた。
「これからどうするズラ?」
スラムンがリックに視線を向けたずねる。リックは見張りに視線を向け考える。
「うーん。先に見張りを倒さないとな。まずはスラムンとキラ君が……」
「わかったズラ!」
何かを思いついたリックはスラムンに耳打ちした。話が終わるとリックは剣を抜いた。
「じゃあオラ達は行くズラよ」
「あぁ。気を付けて」
「何かあったらすぐポロン達が助けるのだ」
「任せたズラ!」
嬉しそうに飛び跳ねて、ポロンにスラムンが答える。キラ君がスラムンを頭の上に、のせて見張りの男達に近づいていく。キラ君たちに見張りの二人が気付く。
スライムを頭に乗せ、ゴーンライトのように両手に盾を持って、鎧を着たキラーデッドマンが近付いてくるのを、見張りは不審な顔をしていた。
「おい。見ろよ。魔物だぜ?」
「けっ、スライムとキラーデッドマンか…… でも、なんで鎧なんか着て、盾なんか持ってるんだ? おい。仲間がいると面倒だからさっさとやっちまうぞ!」
二人の盗賊は剣を抜きキラ君へ向かって行く。キラ君は盗賊が動くと、すぐに反転してリック達が居る方へと逃げ出した。
「あっ! 待て! この!」
必死になって逃げるキラ君を、追いかける二人の盗賊達。キラ君だけを見てるせいで、リックとポロンには気づかないようだ。
「ポロンは左の人、俺は右側の盗賊だよ」
「わかったのだ!」
「行くよ!」
剣を抜いたリックと、ハンマーを構えたポロンが、ほぼ同時に飛び出した。突然出てきた、リック達に盗賊達は驚く。
「なっなんだ? お前たちは? 魔物?」
「残念だね。人間だよ!」
「クックソ!」
盗賊は剣をリックに向かって振り下ろした。リックは左斜め前にでながら、振り下ろされる剣に、タイミングを合わせ、右手に持った剣を振り上げた。バシュッと音がし、盗賊の右の肘から先が、空中に飛びあがった。剣を握ったまま手が、回転しながら地面に落ちてくる。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!! うっ腕が…… あが…… !!」
膝をついて腕を押えた叫ぶ、前に出てすれ違うようにして、盗賊の背後に回り込んだリックは、盗賊の背中を剣で突く。硬い感触がリックの手に伝わる、彼の剣は盗賊の背中から胸までを一気に貫いた。盗賊の叫び声が止まり、手が力なくダラリと垂れる。
盗賊の背中に足をかけリックが、剣を引き抜くと盗賊は、血を噴き出してうつ伏せに倒れる。
「さて…… ポロンは大丈夫かな」
剣についた血を拭った、リックが振り返った。ポロンは元気に立っており、彼女の足元には頭をつぶされた、盗賊の死体が転がっていた。ポロンの横ではスラムンを頭に乗せたキラ君が嬉しそうに跳ねていた。
「おっ!? よかった。ポロン無事だね」
「遅いのだリック。わたしの勝ちなのだ」
ポロンが腰に手を当ててリックに自慢してきた。
「えぇ!? 勝ち負けなんか競ってないだろ」
「うーなのだ!」
不満そうに唸り声をあげるポロン、彼女はリックとどちらが早く倒すか、勝手に競い相手にされないのが不満だった。
「うわ! なっなんだ!?」
大きな音が洞窟内部から聞こえた。ポロンが驚いた顔をしてリックの方を見る。
「おわ! 洞窟がどっかーんしたのだ」
「違うよ…… でも…… ソフィア! 行くよ。ポロン、スラムン、キラ君!」
「わかったズラ!」
「行くのだ!」
ソフィアを心配したリックは洞窟へと向かって駆け出した。ポロン達は彼についていくのだった。