第170話 勇者のために集めろ銀色コイン!
リックとソフィアとポロンの三人は第三区画へとやって来た。
北門のあるこの区画は、王都グラディアの北の平原に広がる農園で、働く人達が数多く住んでいる。他区画よりも人口が多いため、区画にある建物のほとんどが高い階層の集合住宅となっている。
六階建て建物の一室でポロンが扉をノックする。
「はいはーい」
元気よく声がして家人が出てくる。出てきたのは体が大きい、いかにも人が好さそうなおばさんだった。ポロンの横にはソフィアがいてリックはその二人を後ろから見守っている。
「こんにちはなのだ。回収にきたのだ」
「あらあら!? かわいい兵士さんねぇ。えっと…… 回収って?」
扉が開いて出てきたおばさんが、キョトンした顔をしてポロンを見つめている。
「(もう…… ポロンがちゃんとできるっていうからノックさせて対応させたのに…… いきなり回収しに来ましたじゃわからないでしょ)」
ポロンの横にいたソフィアが、慌てておばさんに話しかける。
「すっすみません。こちらに小さい銀色コインがあると聞いて回収にきたです」
「あぁ! コインね。あるわよ! あるわよー! この間、台所の壺を覗いたら突然でてきたのよ。ちょっと待ってね」
目を大きく開いて笑顔で、ソフィアの言葉に反応した、おばさんは家の中へと戻っていった。すぐにまた出てきたおばさんは、丸く小さな銀色で真ん中にハートの形の模様がついたコインをポロンに渡した。
このコインの名前は小さい銀色コイン。リック達はこれをグラディア中から回収して回っていた。
「ありがとうなのだ!」
「あらぁ。ちゃんとお礼が言えて良い子ね。あっ! ちょっと待ってね。はい! このお菓子もあげるわ」
「おわー! いいのか? ありがとうなのだ!」
おばさんは持っていた、袋に包んだ菓子をポロンに差し出した。喜んで受け取っているポロンの頭を、おばさんが嬉しそうに撫でいる。
「ありがとうございます。じゃあポロン、ソフィア帰るよ」
リックがおばさんに礼を言って三人は建物からでた……
「ちょっと! 何してるの?」
「これはわたしがもらったのだ!」
「ポロンだけずるいです。私にもください」
「もう…… ソフィア!」
どうやらポロンがもらった菓子を、ソフィアが頂戴と言ったようで、二人はもめていた。ポロンは菓子を両手で胸の前にかかえソフィアに背を向けている。
リックはソフィアとポロンの間に入り、ポロンをかばうようにしてソフィアの前に立ちはだかる。頬を少し膨らましてソフィアは、不機嫌な表情で彼を見つめている。リックは頬を膨らませるソフィアがかわいくて思わずにやける。
「二人とも喧嘩しないでよ。ソフィアには後で俺が買ってあげるからね」
「ほんとですか? ならいいです」
ほほ笑んで嬉しそうな顔をしたソフィア。話を聞いたポロンが、今度はリックが履いているズボンのすそを、つかんで引っ張った。
「なに? ポロン?」
「うー! ずるいのだ。ポロンにも買うのだ」
「ポロンはもらったでしょ? じゃあそのお菓子をソフィアと半分こしたら買うよ」
「うー…… 半分こするのだ! だから、ポロンにもお菓子買うのだ」
ポロンはソフィアに菓子を分ける。ソフィアは嬉しそうにポロンから菓子を受け取っている。
「うんうん。いい子だね…… あれ!? 両方にお菓子があるんなら俺が買わなくてもいいんじゃない?」
気づいてはいけない疑問に気づいたリックは、腕を組んでリック首をかしげつぶやくだった。
「まあいいか。二人とも嬉しそうだし…… えっと…… 次は」
嬉しそうな二人を見たリックは、自然と妥協し次の目的地をソフィアに尋ねる。
「ソフィア。この後はどこへ行くの?」
「今ので最後ですよ。連絡が来た十五ヶ所は回りました」
「じゃあ詰め所に戻ろうか」
「戻るのだ」
北の第三区画から、北西の第二区画を通り、西門がある第九区画の詰め所へと三人は戻った。
「おぉ。おかえり。どうだった?」
リック達が詰め所の扉を開くと、詰め所に居るカルロスが椅子に座ったままにこやかに迎えてくれた。三人はカルロスの机まで行って報告する。
「はい。連絡があったところは回って小さい銀色コインの回収は終わりました」
「お疲れ様。これで王都での回収は終わったな。メリッサ達ももう戻るころだ」
「そうですか」
満足そうにうなずくカルロス、メリッサ達もリック達と同様に銀色コインの回収へ出ていた。
「メリッサ達が戻ったらコインの枚数を確認するように」
「はい」
「あと、回収したコインはお前さん達でアイリスに持っていくからな」
「えぇ!? 俺達が回収した上にアイリスに届けるんですか?」
「あぁ。勇者アイリスの指名だからな」
「はぁ…… わかりました」
「よしメリッサ達が戻ってくるまで待機だ!」
リック達はアイリスのために銀色コインを集めていた。アイリスから、二週間前に小さい銀のコインが大量に必要になったと、グラント王国に連絡が来た。銀色コインとは何なのかというと、はるか昔に存在した小さな王国の通貨で、価値はないがコレクターの間で人気があるコインだ。
では、なぜアイリスが銀色コインが必要なのかというと、エミリオを倒したリンガード王国の南に、山に囲まれたマウンダ王国という王国がある。マウンダ王国は伝説の防具の一つ、聖水晶の盾を所有しいてる。アイリスは聖水晶の盾をもらうためにマウンダ王国を訪ねていた。ただ…… 盾を手に入れる方法が少し変わっており、その国の王様が集めている小さな銀色コインを、五十枚集めると聖水晶の盾と交換できるのだ。
小さい銀色コインを五十枚も持っていなかった、アイリスはグラント王国に連絡をして救援を要請してきたのだ。王国一の才能を持った勇者アイリスの為、グラント王国中の町や村に小さな銀色コインを探し、届け出を出るように通達が出された。
リック達第四防衛隊は届け出があった場所を回り、小さな銀色コインを回収していたのだ。王都はリックとポロンとソフィアが担当して、メリッサさん達はイーノフさんの転送魔法を使って王国中をまわってコインと集めていた。
「じゃあ、メリッサさん達が戻るまで少しゆっくりするかな…… うん!?
待機を言われたリックが自席に戻ると、ソフィアとポロンがリックを見つめてくる。何かを期待したように二人は目を輝かせている。
「リック。いくのだ」
「さぁ行きますよ」
「えっ!? どこへ?」
「お菓子ですよ」
「そうなのだ。約束なのだ」
ポロンは両手をあげ、ソフィアはリックの手をつかみ、詰め所の扉を指す。
「覚えてたか…… しょうがない。行くか」
「「わーい」」
リックはポロンとソフィアにねだられ、近くにある菓子屋へと向かうのだった。
「やりましたね。ポロン!」
「ありがとうなのだ! リック」
「いいよ。二人が嬉しいなら!」
菓子を買ってご満悦な表情の、二人を連れリックは詰め所に戻って来た。扉を開け中へ入ったリック、メリッサがカルロスの机に前に椅子を持って行き座って話していた。ゴーンライトとイーノフはおらず戻って来たのは彼女だけのようだ。
戻って来たリック達に気付き、顔を向けるメリッサとカルロス。三人の顔を見たメリッサは立ち上がり、リックをみてやれやれと言った顔をする。
「あっ! お前さん達。おかえり」
「なんだい? またリックにねだって菓子を買ってもらったのかい?」
「はい」
「買ってくれたのだ」
二人は近づいて来たメリッサに菓子を両手に持って見せる。メリッサは目を細めリックに顔を向けた。
「リック…… 本当にあんたは…… 甘やかすんじゃないよ」
「そんなしょうがないじゃないですか。買わないと二人で喧嘩するんですもん。後、俺は二人が喜ぶところみたいし……」
「はいはい。はぁ」
メリッサが呆れた顔をして、カルロスの机の前に置いた椅子に腰掛けた。カルロスの机の上には、メリッサが王国の村や町に行きかき集めた、小さい銀色コインが袋に入っておいてあった。
リックは銀色コインの回収が終わっているのに、ゴーンライトとイーノフが戻っていないのでメリッサにたずねる。
「メリッサさん。イーノフさんとゴーンライトさんは? 一緒じゃないんですか?」
「あぁ。最後に寄ったスノーウォール砦でコインを集めの報酬をくれって言われたから二人を貸し出したよ」
「えっ!? エルザさん達に貸し出したって…… それはまずいんじゃないのかな…… イーノフさん達は無事だと良いけど……」
座って頭に両手を置いて背もたれが曲がるほど寄りかかるメリッサ。リックは残された二人を心配する。
その後。帰ってきたゴーンライトとイーノフはずっとふさぎ込んでいるのだった。