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第168話 秘密の部屋にあったもの

 目の前の光景に少し驚いたが、落ち着いてリックは周囲の様子を確認する。空間はかなり広く、明るく照らされたドーム状の高い天井とわかる。灯りは天井に刻まれた、薄っすらと光る文字が原因だ。真ん中に字ではなく円の中に文字や四角の記号みたいなものが書かれていた。

奥にはリックの倍はくらいの高さがある巨大な人間の石像が立っていた。石像は屈強な体に、腰に布を巻いた髭を生やした男で、表情は怒っているのか怖い顔だった。


「あっ! みんな、あそこに部屋があるよ。行ってみよう」

「ダメだよ。ナオミ姉ちゃん。危ないよ!」

「平気よ。魔物もいないし! エドガーったら弱虫なんだから!」


 強引にナオミがエドガーを引っ張って、石像の足元にある扉に向かっていった。


「あっ待って! ナオミお姉ちゃん! エドガー君!」

「大丈夫なのだ! タンタン! 一緒にいくのだ!」

「うぅ、ありがとう、ポロンちゃん!」


 石像を怖がっているタンタンを、ポロンが手をつないで一緒に連れて行く。


「(ポロン…… さすが! 優しいな。えらいよ。でも…… タンタンの野郎! ポロンの手をギュッと握るんじゃない。もう少し軽く握れ!)」


 手をつないだポロンとタンタンは、天井を見ながら、石像の方にゆっくりと歩いて行く。

 

「さて…… 俺達も追いかけないと…… うん!?」


 リックの横からシーリカと、ミャンミャンとソフィアも顔を出し、一緒に天井を覗き込んでいた。特にシーリカは食い入るようにジッと、天井の文字を見つめていた。


「あゎゎゎ!? あれは? 教会の封印魔法陣?」

「えっ!? シーリカはあの文字がわかるの?」

「いえ…… 文字はわかりません。ただ…… 天井の真ん中の図柄だけは昔教会で読んだ本に……」


 シーリカの視線はびっしりと文字が、書かれた天井の中央にある、六芒星を円で囲んだような形をした図だった。彼女の話を首をかしげるリック、教会で使われる図があるのなら、ここは教会の施設の様だがそれなら聖女であるシーリカがここを知らないはおかしい。

 シーリカの横に居るソフィアが、天井の文字を見つめて口を開いた。


「四つの大いなる力を光る杯にささげよ。さすれば我は汝に破滅の力…… うーん、あれは読めません!」

「ソフィア? 読めるの?」

「はい。少しだけですけど…… あれは古いエルフの文字ですよ。お父さんが昔教えてくました。」


 天井の文字を指でなぞりながら読みながら、ソフィアがリックの問いに答える。かなり古い遺跡のような場所なのだろうか、ただ、それにしては文字と図はかすれることなく鮮明に書かれて新しくも見える。


「あっ!? ちょっと待て! 早いよ!」


 リック達が天井の文字について、話してる間にポロン達四人は、石像の足元にある部屋へと到着し中へ入ろうとしていた。ポロン達四人に、気付かれないように、注意してリック達は足早に部屋へ近づく。


「うわ!? ここもか…… でも、あれって……」


 開いた扉から部屋の中をのぞくリック、ここも壁や天井に文字がびっしりと書かれていた。部屋には、小さな机と椅子にベッドが置かれ、誰から直前まで生活していたようだ。


「こわーい。助けてエドガー!」

「絶対ウソでしょ!? 苦しいから離れてよ。ナオミ姉ちゃん」

「なによ! いいじゃん! 別に!」


 部屋の光景を見てわざとらしく怖がり、ナオミがエドガーに抱きつこうとして拒否されてた。口を尖らせて不満げな顔をするナオミ。エドガーは呆れた顔し、ナオミちゃんを無視して壁の文字を見た。

 

「なんか変だよ。外の天井や壁に書いてあるのは普段つかってるのと違うけど…… ここの部屋の中はいつも使ってる字が書いてある」

「本当? エドガーあんたちょっと読んでみてよ!」

「えっ!? なんでぼくが!?」

「だって、いま一番壁に近いのあんたでしょ? それにあたし…… 怖いし……」

「はぁ…… もういいよ。ちょっと待ってね」


 エドガーは壁に顔を近づけて文字を読み上げた。ポロンとタンタンは字があまり読めず、ナオミとエドガーは文字を読むことができる。


「えっと…… シーリカ…… 三歳…… 成長記録? だって!?」

「シーリカって? シーリカお姉ちゃん?」


 壁にはシーリカについて書かれていた。


「あゎゎゎ? 私? なんでこんなとこに?」

「シーリカ!? 大丈夫?」


 ショックを受けたのかシーリカが、青い顔をして少しフラつく。ミャンミャンが彼女の肩を抱いてささえる。自分の名前が、いきなりこんなところに出てきたら、誰だって焦るので彼女の反応は当然だった。リックとソフィアは顔を見合せた。


「リック…… ここはなんか怪しくて嫌な感じです。ポロン達と合流して脱出しましょう」

「うん。そうだね。確かになんかやばそうだ。早く引き上げた方が良さそうだ。ミャンミャン。シーリカをお願い」

「大丈夫です」


 二人はシーリカを、ミャンミャンにまかせ、部屋に入ってポロン達に声をかける。


「ポロン!」

「えっ!? おぉ! リックなのだ!」

「リックおにーちゃんとソフィアお姉ちゃん? どうしたの?」

「後、シーリカとミャンミャンさんも一緒ですよ」

「お姉ちゃんにシーリカお姉ちゃんも!?」

「ごめんな。隊長に頼まれて君達の後をつけてきたんだ。ここはなんか嫌な感じがするから早く出るんだ」

「わかったのだ。行くのだ! エドガーとタンタン!」

「うっうん……」

 

 ポロンに連れられ、エドガーとタンタンは部屋を出る。ナオミはなぜか悔しそうな顔をして、エドガーが見ていた壁の前で立っていた。リックはナオミに声をかけて外へ出るように促す。


「ナオミちゃんもだよ。早く行こう!」

「でっでも、せっかく何か見つけたのに謎を解明したいじゃない」

「それは後で応援を呼んで兵士の俺達がするから! もう帰るんだ。ママが心配するよ」

「うぅ…… はい」


 強い口調でリックがナオミに指示をする。リックの真剣さが伝わったのか、ナオミは渋々であったが、帰ることに同意し部屋の出口へと向かって歩く。リックの横を通って出口へ向かう、ナオミにソフィアが優しく微笑んで手をつなぐ。


「ソフィア、ナオミちゃんを連れて先に出て!」

「はい。リックは?」

「なにか持って帰れる物を探す。隊長たちに伝えるために」

「わかりました。急いでくださいね」


 力強くうなずいたリックは、何か持って帰れる物がないか、部屋を物色し始める。部屋の端にあった、机の上を見渡すリック。


「うん? これはメモか……」


 リックは部屋に置かれた机の上の紙の束に手をかけた。直後……


「シンニュウシャ! ハッケン、ハイジョセヨ!」

「えっ!? なんだ!?」


 どこからか感情のない高い声が部屋に響いた。何かが作動したようだ。


「これは…… まずいな。早く逃げよう」


 リックは慌ててメモを一枚とってポケットにしまうと部屋に飛び出した。ソフィア達は入り口に向かって、歩いていたおり、声にびっくりして部屋の方に振り返り見つめている。リックは手を振りながら皆の元へ駆けだした。


「なっなになに? はっ!? リックさん! 後ろ!」

「あゎゎゎ。早く逃げてください!」

「えっ!?」

 

 振り返ると大きな石像の目が赤く光っていた。


「どうなってるんだ…… えっ!? クソ!」


 床が激しく瞬いた。上に視線を向けると、天井の魔法陣が白く点滅して、魔法陣の中からフルプレートの鎧に身を包んだ、人間達が石像の足元に落ちてきていた。

 落ちてきた鎧を着た人間は、腰に剣をさして丸い金属の盾を持ってる。


「なんだよ? あれ? 鎧を着た人間だよな……」


 二十人ほどの鎧を着た人間が石像の前に並ぶ。バリバりと大きな音が空間に響いた。赤い光がリックの地面周りを、丸く照らし石像がゆっくりと歩き出した。


「まずいな……」


 リックは急いでソフィア達の元へと走った。


「シンニュウシャ! ハイジョセヨ」


 再び声が響くと石像の足元にいた、鎧を着た人間が剣を抜いて向かってくる。


「ソフィア! 敵を牽制して」

「はい」


 リックの指示でソフィアが、すばやく弓を構えて放つ。矢は一直線に飛んでいき、先頭を走る人間の兜を貫いて兜が落ちた。


「えっ!? なんだあれ!?」


 兜が落ちて頭のない、状態になった鎧は崩れた。バラバラと崩れた鎧だけが地面に落ちていく。


「リック。鎧さんの中の人が居ないです!」

「あゎゎゎ。どうやら鎧だけを何かで操っているみたいですね」


 リックはソフィア達の元まで走って合流した。振り返り石像と鎧を確認するリック、逃げるにしてもエドガー達を連れてでは、遅く追いつかれてしまう可能性は高い。リックは自分達で足止めすることに決めた。すぐにリックはミャンミャンとシーリカに指示を出す。


「ミャンミャンとシーリカはタンタン達を連れて先に行ってくれ。ポロンとソフィアは俺と一緒に残るんだ」

「わかりました。でもリックさん達は何を?」

「俺達はここであいつらを足止めする」

「わかりました。お願いします。行こう。シーリカ」

「はい」


 リックは剣を抜き、ミャンミャンとシーリカに、タンタン達を連れて先に向かう。


「待って! 僕も残る! だってこのクエストは僕のだもん」

「タンタン……」

「そんなのダメーーーー!」


 ミャンミャンがタンタンに抱き着いて必死に止めている。彼女の目には涙が浮かんでいる。


「ダメ! タンタンはお姉ちゃんが守ってあげるからね。さっ一緒に行こう!」

「やだ! 僕は残る」

「あゎゎゎゎ。ミャンミャン…… リックさんやソフィアさんもいるんですから、タンタンの意思を尊重してあげましょう」

「うぅ…… わかったわ。でも、良い? 怖くなったらお姉ちゃんのこと呼ぶのよ」

「うっうん…… わかったよ。お姉ちゃん! ありがとう! 大好きだよ」

 

 タンタンの言葉を聞いて、ミャンミャンは涙を流し、笑顔で彼を見つめていた。すぐにミャンミャンは真面目な表情をリック達に向けた。


「じゃあ、リックさん、ソフィアさん、ポロンちゃん、タンタンをお願いします」

「任せるのだ」

「はい」

「傷一つつけないで届けるよ」


 ミャンミャンは泣きながら、タンタンを抱きしめて離れる時も、手をだして名残惜しそうにしていた。リックとソフィアのポロンの横にタンタンが並ぶ。シーリカ達はエドガーとナオミを連れていく。


「あゎゎゎ。早く行かないと」

「あっ! 見てお姉ちゃん達! あいつらが入り口に先回りしてるよ」


 ナオミが前方と指した、入口には鎧五体が、先回りし立っていた。リックはナオミの声に反応し振り返り、状況を確認した。すぐに助けに行けば間に合うが、五体はミャンミャンとシーリカの二人に任せることにした。


「あゎゎゎ。大丈夫です私とミャンミャンで……」

「じゃあ私も戦う」

「えっ!? 平気なの?」

「大丈夫よ。私だって戦えるもん! だって私は防衛隊最強のメリッサの娘だよ!」


 ナオミが元気よく返事をすると、ミャンミャンが鎌を構え、駆けだしていくのに一緒についていく。走りながらナオミは、手を前に出し、鎧にむける。シーリカは肩にかけた袋に手を入れて瓶を取り出す。ナオミは鎧の十メートルほど前に立ち止まり、目をつむり意識を手に集中する。少しして目をカッと見開いてナオミが叫ぶ。


「くらえ! イーノフおじちゃん直伝! 炎の精霊よ! 力を貸して! 精密誘導爆破ピンポイントエクスプローション


 大きな音がして、一体の鎧の兜が爆発した。バラバラと力がなくなった鎧が崩れて倒れた。この魔法はイーノフがよく使う炎の魔法精密誘導爆破ピンポイントエクスプローションだ。イーノフは簡単に使用しているが、敵に気づかれずに瞬時に魔力を高め、爆発させるというかなり高い技量が必要な魔法である。魔法を放って得意げに笑う、ナオミに鎧達が体を向けて走り出す。


「ふぅ。すごい。さすがメリッサ姉さんの子供だわ。ほら! あんた達は何をよそ見してるの? 行くわよ」


 ガキッと音がしてナオミに、向かっていた先頭の鎧に、鎌の刃が突き刺さった。振り下ろしたミャンミャンの鎌が伸びて届いたのだ。鎧は胸から崩れるようにバラバラになって崩れた。


「さぁシーリカ! 残りをお願いね」

「あゎゎゎ。えーい!」


 ミャンミャンの声にシーリカが瓶を天井に向かって投げる。瓶の中身が緑色に光ってから、爆発し地上に向けて光の矢が降り注ぐ。降り注がれた矢は鎧達を貫き、ガラガラと音を立てて崩れていった。これで入り口を塞いでいた鎧達は全て倒れた。


「うわぁ! お姉ちゃんたちすごーい」

「そんなことないよ。それよりもナオミちゃんも魔法上手じゃない。どう? 一緒に冒険者やらない?」

「すみません。ママに危ないことしちゃダメって言われてるので」

「あゎゎゎ。残念です」


 エドガーがシーリカに駆け寄って声をかけた。


「シーリカ様の武器ってすごいですね。何ですかそれ?」

「あゎゎゎ、これは教会に伝わる伝統的な武器です。特別な瓶に聖なる光の魔力を詰めた物で、名前を聖光爆弾(ホーリライトボム)と言います。聖職者が刃物を持つことを禁じられていた時代につくられたもので今は使う人は少ないみたいです」


 瓶をエドガーに見せ少し恥ずかしそうにシーリカに答えている。エドガーはシーリカの武器が物珍しく声をかけたようだ。


「ほら! 何やってんの行くわよ。エドガー」

「あっ! ごめーん」

 

 シーリカ達は鎧を蹴散らし、入口に向かって歩いて行くのだった。


「リック。鎧さん達が来ますよ」


 ソフィアの声が聞こえた。赤く目が光る大きな石像と、二十体の鎧がリック達に向かって来ていた。リックはいつものように剣先を、地面に向け構え、横にいるのソフィアとポロンに向かって声かける。


「よし! 行くよ。ポロンはタンタンのそばにいて向かって来る鎧を片付けて。俺は大きい石像を相手にするからソフィアが二人のフォローを……」

「いやなのだ! わたしが大きい石像を倒すのだ!」

「えっ!? 大丈夫?」

「平気なのだ! リックはタンタンをお願いなのだ!」

「あっ! ちょっと待って! ポロン!」


 ポロンは走り出して、ハンマーを構え、大きな石像に向かって行くのだった。

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