第165話 初めてのお泊り
エドガーとタンタンとナオミちゃんとポロンの四人は、クエストをどうするかで盛り上がって楽しく会話していた。ちなみに冒険団の名前はナオミのごり押しでナエタポ冒険団に決まった。
「さて…… そろそろ詰め所に戻って隊長に報告しないとな」
リックがつぶやいた。鍛冶屋に来てから二時間ほど経っていた。
「おーい。タンタン、ポロンそろそろ詰め所に戻るよ」
「あっ!? 待って僕も一緒に行って、隊長さんにポロンちゃんが一緒に行ってくれるように依頼する」
「なら、あたしも一緒に行ってママにみんなとクエストに行くこと話す!」
「わかった。じゃあみんな一緒に詰め所に行こう」
「行くのだ!」
ナオミ、エドガー、タンタン、ポロンは仲良く並んで歩く。詰め所に行く短い間でも、にぎやかかに四人はしゃべっていた。得意げにポロンは、みんなを詰め所に案内している。リックとソフィアは、その様子を見ながら、彼らの少し後ろを歩いていた。
「ポロンは楽しそうですね」
「そうだね」
楽しそうに笑って話すポロン。リック達と居るときとはまた違って騒がしい。防衛隊にはポロンと同年代はおらず、仕事で忙しい彼女は王都で友人ができることなく、話し相手は皆年上ばかりなので、同じ年の友人が出来て心底うれしいのだろう。
詰め所へと戻ったリック達、ナオミが彼らと一緒なことにメリッサが驚いていた。タンタンとポロンとエドガーは、カルロスの机に向かい話を始めた。カルロスは三人の話を、机に肘をついて手を前に組み、真剣な表情で時おり頷きながら聞いていた。
「なるほど、タンタン君とのクエストにポロンを連れて行きたいと?」
「はい。エドガー鍛冶店からの兵士への護衛依頼です」
「ふぅ…… わかったよ。ポロン。行っておいで!」
「わかったのだ。ありがとうなのだ」
笑顔でカルロスは、ポロンに二人への同行を指示をし、彼女の頭を軽く撫でる。気持ちよさそうにポロンは、目をつむり耳を曲げていた。それを見た、タンタンとエドガーから睨み付けられた、カルロスが少し困惑していた。
ナオミんは三人とは別に、メリッサのところに行く。
「ナオミ。あんたはなんでみんなと一緒に?」
「ママ! あのね。あたしもエドガーたちと一緒にクエストに行くことにしたの。いいよね?」
「ナオミもクエストって!?」
「タンタン君がエドガーのお店にある武器を買うのにお金が必要なの。だから一緒にクエストに行くの」
驚いた顔をしてるメリッサに、ナオミがタンタンの武器の代金を、稼ぐためにクエストにでかけることを告げた。メリッサはナオミが言い終わると即答で却下する。
「ダメだよ。そんなの!」
「ぶぅぅぅぅ! なんでよ?」
「危ないでしょ! あんたは冒険者じゃないの。あんたは樫の木の店員なんだから、ああいうのは男に任せとけばいいんだよ」
「ママだってソフィアお姉ちゃんだって、女の子なのに危ないことしてるじゃん」
「あたしとソフィアは兵士なんだから! いいの!」
鍛冶屋で、ナオミんは簡単にメリッサが許してくれる、みたいなこと言っていたが甘くなかったようだ。メリッサは厳しい表情で腕を組んでナオミと会話をしていた。
「うーーーーー!」
涙目のナオミが向かいに座るイーノフの横に行って抱き着く。
「わーん。イーノフおじちゃん…… ママが…… ママが……」
「ナオミちゃん……」
必死にイーノフさんに訴えかけるナオミ、泣きながらイーノフに事情を説明する。イーノフは優しく頷いてナオミの話を聞いてから、落ち着いた口調でメリッサに声をかける。
「ねぇ。メリッサ。ナオミちゃんだってもう十二歳なんだから少しくらい……」
「ダメ! ナオミに危険なことはさせないよ!」
「エドガー君もポロンも一緒なんだろ? なら大丈夫だよ」
「でも、ポロンとナオミは……」
「ポロン、ちょっと来てくれるかい?」
カルロスの机の前にいた、ポロンをイーノフが呼ぶ。呼ばれたポロンは、イーノフの元へ歩いて彼の横に立った。
「何なのだ?」
「あのね、メリッサがナオミちゃんが一緒に行っちゃダメって言うんだ」
「えっ!? そうなのか? どうしてなのだ?」
ポロンはナオミの顔を見て、不思議そうに問いかけ、彼女はポロンの顔を、見ながら目に涙をためて話を始める。
「ママが危ないから、あたしは行っちゃダメって!」
「大丈夫なのだ! わたしがついてるのだ」
胸を叩いて笑うポロン、イーノフは彼女に優しく微笑みうなずく。
「そうだね。じゃあ、ポロンは僕と一緒にメリッサにお願いしてくれるかな?」
「わかったのだ!」
イーノフはナオミとポロンを連れてメリッサの机へと向かう。
「メリッサ、ちょっといいかい?」
「なっなんだい? ポロンまで来て!」
「メリッサにお願いなのだ! ナオミをタンタンのクエストに連れて行きたいのだ」
「ママ…… お願い」
「僕からもお願いするよ」
「うっ……」
三人で頭を下げてナオミを同行させるように頼む。メリッサは三人に頭をさげられ困った顔をする。
「ママ、お願いよ! あたしはみんなと行きたいの!」
「ポロンがナオミと一緒に行ってナオミを守るのだ! だから安心するのだメリッサ」
「メリッサ。行かしてあげなよ。お願い」
必死にお願いしているナオミの横で、ポロンも一緒になってお願する。イーノフはメリッサを真剣に見つめていた。メリッサは腕を組んで考えていたが、ため息をついて笑顔になり、ポロンとナオミちゃんの頭を撫でた。
「はぁ…… もう! わかったよ。行っといで…… 危ないことはするんじゃないよ!」
ぱぁっと明るい顔をしたナオミとポロンは嬉しそうに抱き合っていた。
「やったのだ! ナオミ! 一緒に行くのだ」
「うん! やったー!」
「よかったね」
「イーノフおじちゃん! 大好き! チュッ!」
「うっうわ! もう!」
イーノフにナオミが抱き着きほっぺたに軽くチュッと口づけをした。その光景にメリッサと、なぜかタンタンが苦い顔をしていた。ナオミの同行が許可され、四人でクエストに行けることになった。
「ねぇ!? これからあたしの部屋でみんなでクエストの相談しない?」
「いいの?」
「僕はまだお店があるから少し後で行くね」
「行くのだ!」
「決まりー! おばあちゃんに料理をお願いしてのナエタポ冒険団の決起集会よ!」
「おぉー!」
ナオミちゃんが嬉しそうに他の三人に話しかける。
「あの…… ポロンも仕事残ってるんだけど……」
「おぉ! そうだったのだ…… ごめんなのだ…… みんな」
振り向いた驚いた顔をし、残念そうにするポロンだった。立ち上がったカルロスがポロンの元へいく。
「リック! お前さんも気が利かないねぇ。護衛は仕事の打ち合わせに参加するもんだろ。お前さんが代わりにやっときな」
「そっそんな……」
「ほら。みんなと行きなさい」
「やったのだー!」
両手を広げポロンをナオミ達の元へ行くように促すカルロスだった。ナオミ達と一緒にポロンは詰め所を出て行った。カルロスは満足そうに手を振っている。
「もう…… 隊長はポロンに甘いんだから……」
ポロンを見送りぶつくさと文句を言うリック、ソフィアはそんな彼を笑ってみていた。
「うん!?」
席に戻ったカルロスがリックとソフィアを手招きして呼ぶ。二人は立ち上がり、カルロスの机の前に並んだ。
「何ですか? 隊長」
「リック、ソフィア、お前さん達はあの四人について行って見守るように!」
「えぇ!? 俺達がですか? どうして?」
「さすがになんかあったらポロン一人に任すのは大変だろうしな。クエストは簡単な物みたいだから、基本的には手を出さなくていいが危なくなったらサポートするようにな」
四人の見守りをリック達に指示するカルロス。リックは首を傾げ、本当に自分たちが適任か考えた。なぜなら同行者の保護者がここにはいるからだ。
「メリッサさんが行けばいいのでは? 心配しているみたいですよ」
「ダメだよ。メリッサがついて行ったら全部自分でしちゃうだろ? あくまで危険な場合だけ助けるように!」
「はぁ」
「僕はね、若い子達が必死に仲間の為に頑張るのを見るのが好きでね。だから頼んだよ」
「隊長はおじさんです!」
「悪かったね。どうせおじさんだよ」
腕を組んで不満そうにするカルロス、ソフィアは彼を見て笑っている。こうしてリックとソフィアはポロン達についていくことになった。
夕方になって勤務が終わり、リックとソフィアは二人で、ポロンを樫の木へ迎えに行った。しかし、ポロンとナオミはすっかり意気投合して、今日はナオミちゃんの部屋に泊まるって約束したらしい。
リック達より先に勤務が終えていた、メリッサもポロンと一緒に風呂に入る約束をさせられたという。メリッサは迷惑そうな口調だったが顔は嬉しそうにしていた。
「すいません。本当にポロンが泊まっても平気ですか?」
「気にしないでいいよ。ナオミも喜んでるし! それにあんたらも…… ポロンが居ない方が二人でゆっくりできるだろ?」
「ふぇぇぇ!?」
「はっ!? ちょっと何言ってるんですか?」
ドアを閉めるメリッサは、顔を真っ赤にしている、二人をにやにやと笑って見つめていた。リック達は二人で家に帰り、夕食を食べて静かに過ごす。片付けが終わり、ソフィアの正面に座ると、彼女は少し残念そうな顔をした。ソフィアはワンピースの丈の短い白いパジャマに着替えていた。ソフィアがリックの横にやってきて並んで座った。
「どうしたの?」
「なんかポロンがいないと静かでさみしいですね」
「あぁ。そうだね」
ポロンが居ない静かで、がらんとした広間を見ながら、ソフィアに答える、リックの鼻にいい匂いが漂って来る。リックの横に座ったソフィアは、彼の肩に頭を乗せていた。
「リック……」
「えっ!?」
ソフィアがリックの顔を頬に手を置き、顔を彼女の方に向かせ、ソフィアの綺麗な赤い瞳に彼の顔を映す。ほほ笑んだソフィアはゆっくりと目を閉じた。
「(久しぶりだから…… ちょっと緊張するな)」
優しくいい匂いがするソフィアの顔を近付かせ、ゆっくりとリックは自分の唇を彼女の唇と重ねた。
「今日は一緒に寝ます! いいですね?」
顔を少し離して、ソフィアが真剣な表情でリックに問う。いつになく迫力があるソフィア、リックはこれを断ったら確実に泣かれることを察し笑顔でうなずく。
「うん。いいよ」
「やった!」
それから、リック達は久しぶりの二人だけの時間を、会話を話したりし、本を読んだりして過ごし満喫した。
「ふわあああ! そろそろ寝ようか」
部屋に行こうと立ち上がったリック、彼の方を向いたソフィアは、物欲しげな表情をして手を両手に広げた。
「なに?」
「ふぇ…… 抱っこ……」
「甘えん坊」
「だって……」
「はいよ」
笑ったリックは、ソフィアの背中に手をまわし、膝の下を持って抱きか抱える。ソフィアは彼の首に手を回した。
「うれしいです!」
リックはソフィアを抱っこしたまま自分の部屋に向かう。ソフィアドアノブに手をかけて部屋の扉開ける。歩いてベッドまで行き、ゆっくりとソフィアを下して座らせて……
「うわ!」
「ふぇぇぇぇぇ!?」
リックの足がもつれて体制を崩してしまった。足がもつれたリックはそのまま前に突っ込んだ。ソフィアを押し倒すようになり、彼の目の前が一瞬だけ真っ暗になった。
「ふぅ…… あぶなかった。ベッドにソフィアを座らせた後でよかった」
「リック! くすぐったいです。早く起きてください」
「えっ!? ごっごめん」
なんか柔らかい感触がリックの顔を包んでいる。生暖かい感触がして、彼の目の前には水色と白シマシマの細長い布が見える。
「(なんだこれ? どこかで見たような!? これは!? そうだ! ソフィアのパンツ……)」
ベッドのソフィアを座らせようとして足がもつれ、リックは押し倒した彼女の腹の辺りに頭を突っ込んでしまった。その倒れた勢いでワンピースの短い丈のスカートがめくれてリックの目の前にパンツが目の前にあるのだ。
「(ラッキー…… ぐへへ)」
合点がいったリックはゆっくりと顔をあげた。ソフィアが笑顔だったが、彼の顔を見て、段々と眉間にシワがより怒った顔をした。
「リック! 今、いやらしい顔してました! ワザとしましたね!?」
「えっ!? 違う! ごめん! 確かに俺が不注意だったけど事故だよ」
「もう知りません!」
頭の上にソフィアが手をかざす。久しぶりの電撃魔法がリックに降り注ぐようだ。覚悟を決めたリックは目をつむった。しかし……
「えっ!?」
ソフィアは優しくリックの頭を撫でた。目を開けたリックに彼女は優しく微笑む。
「今日はしません…… だから…… こっちへ」
「ソフィア……」
両手を広げて自分を抱きしめろと指示するソフィア。リックは指示通り彼女を抱きしめた。
「リック…… 好きです」
「俺も…… 愛しているよ。ソフィア」
「フフ…… 私も愛してます」
両手で抱き合った後、二人はいったんあ離れ、どちらかともなくキスをする。互いを求めるように唇を重ね合った、二人は盛り上がり静かにベッドに倒れていく。この日、リックとソフィアは互いに初めて、愛し合った夜を過ごしたのだった。
翌朝…… 裸でソフィアは、リックの腕にしがみついた、姿勢で目を覚ました。目の前には穏やかな表情で、優しく自分を見つめる裸のリックが居た。
「おはようございます。リック……」
「おはよう。ソフィア」
二人は互いに恥ずかしそうに頬を赤くして起き上がる。柔らかい朝日に照らされた、綺麗なソフィアを見てリックは微笑み。ソフィアは今までの激戦で出来たリックの胸の傷に優しく口づけをするのだった。服を着た二人は、朝食の準備にキッチンに向かう。普段はつながない手をつないで……
タンタン達が、クエストに出発する日の早朝。リックとソフィアとポロンは、いつもより早めに詰め所に出勤していた。詰め所には既にイーノフとカルロスがおり、メリッサとゴーンライトはまだ来てなかった。カルロスの机の前にポロンが立って挨拶をする。
「カルロス隊長! 行ってくるのだ!」
「おぉ。いってらっしゃい。お前さん気を付けてな。みんなをしっかりと守るんだよ。でも、無理しないで危なくなったら逃げるようにね」
「わかったのだ!」
ポロンは詰め所の扉まで行くと、振り向きリック達に元気に手を振る。リック達が手を振り返すと満足そうに笑い。彼らに背中を向けたポロンが扉を開けようと手を伸ばす。
「うわぁ! メリッサすごいのだ」
「あっ! ポロン! ちょっと……」
「ごめんなのだ。わたしは急いでるのだ。じゃあ行ってくるのだ」
ポロンの手が扉にかかる寸前に、メリッサが先に扉をあけ詰め所へ飛び来んできた。ポロンは入り口でメリッサとすれ違うようにして外に出た。メリッサはポロンを見て声かけたが、彼女は元気よく挨拶してさっさと行ってしまった。
慌ててメリッサさんは詰め所に入ってきて、奥にあるベッドの前の箱を開ける。
「メリッサ! お前さんは何してるの?」
「隊長! あたしちょっとポーションを南の砦に届けるように頼まれてたんだ! ちょっと届けに行ってくるね。今日は帰れないかも!」
「いやいや…… メリッサ! ちょっと届けにヘビーアーマーを着る必要があるのかい? それに僕に連絡がないのに大事なポーションを南の砦に補充するのかい? そもそも以前の発注にミスったポーションが各砦には十分にあるのだが?」
「あの…… だから……」
「お前さん。ポロン達について行く気だろ? もう…… お前さんには他に仕事があるんだからダメだよ」
「うぅ……」
全身を覆うプレートメイルのヘビーアーマーを着こんで、メリッサは詰め所にやってきて、詰め所の奥にある箱からポーションを持ち出そうとした。どうやら、ナオミの事が心配で準備万端にし、無理矢理について行こうと考えたようだ。あっさりとカルロスに見抜かれ止められてうつむいて落ち込むメリッサだった。呆れた顔でイーノフがメリッサさんの横に立つ。
「もう…… メリッサ。ダメだよ! リックとソフィアに任せなさい」
「イーノフ…… でも、ナオミが…… やっぱり……」
「大丈夫ですよ。ポロンもついてますし私達も後からついていきますから!」
「ありがとう。ソフィアお願いね。リック! あんた! ナオミとポロンが少しでも怪我したらどうなるかわかってるね!?」
「えぇ!?」
ソフィアには優しい笑顔なのに、リックには眼光を鋭くさせるメリッサだった。リックは呆れながらも、少しはタンタンとエドガーの心配もしてほしいと思うのだった。
「うん!?」
詰め所の扉が開き、また誰かが飛び込んできた。
「メリッサさん。ちゃんと小さい子でも使える盾を四人分持ってきましたよ」
「あぁ。それ!? やっぱもう要らないや。持って帰っていいよ」
「えぇ!? そっそんな!?」
詰め所の入り口で盾を四つ、肩に担いだゴーンライトが固まる。
「さて…… ソフィア…… 行こうか。遅れるとポロン見失うしからさ」
「はっはい。そうですね」
リックとソフィアは固まっている、ゴーンライトの横を通り過ぎ、ポロンを追いかけるのであった。