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第164話 小さな冒険者達

「へぇ。タンタン君は冒険者なんだぁ! すごいね!」

「うん。ナオミお姉ちゃんは酒場で働いてるんだ? 今度食べに行っていい?」

「いいよ。待ってるね!」

「やった! ナオミお姉ちゃんがご飯を持ってきてくれると、いっぱい美味しくなりそうだね!」

「えっ!? やだーもう! タンタン君ったら…… ありがとう。冗談でもうれしいな」

「ほっほんとだよ!」


 タンタンにかわいいと言われたナオミは、嬉しそうに笑って彼に話しかけていた。二人は仲良く会話している。ポロンは二人が仲良く会話しているのを嬉しそうに見ている。そこへエドガーが鍛冶場から出てきた。

 

「こんにちは! リックおにーちゃん。あれ? ナオミ姉ちゃんもいるんだ? あっ…… ポロンちゃんも来てたの!? ちょっと待ってて」


 エドガーはポロンがいるのに気づくと、嬉しそうな顔をして鍛冶場に戻っていた。


「なんか変だな。そういえば……」


 リックは首をかしげながらこの間のことを思い出していた。初めてポロンを鍛冶屋に連れてきた時、ずっとエドガーはポロンに話しかけていた。


「はい。これ、クルミのクッキーだよ! この間これが好きだって言ってたよね?」

「おぉ! わたしの好きなクッキーなのだ! ソフィア、リック! みるのだ。エドガーがくれたのだ」

「よかった。喜んでくれて!」


 エドガー鍛冶場から戻ってくると、ポロンにクッキーを渡していた。一生懸命に手を伸ばし、ポロンがリックとソフィアにクッキーを見せて来た。ポロンの事を微笑ましく見ながらもリックは、エドガーがポロンにクッキーを渡したことが少し気にかかり、彼はタンタンに続いてエドガーにも注意することに決める。


「よかったですね」

「ダメなのだ! あげないのだ!」

「ふぇぇ……」

「もう…… ソフィア! 何してるの! 黙って手を出してポロンからクッキーをもらおうとしないの! ちゃんと頂戴って言いなよ」

「だって……」


 右手を出してクッキーがほしいとアピールしたソフィアを注意するリックだった。その後、ソフィアはポロンにクッキーをねだるが即答で断られていた。断られたソフィアはしょんぼりとうつむいている。


「(はいはい。しょうがないでしょ。エドガーからポロンがもらったものなんだから。ソフィアは我慢しなよ)」


 嬉しそうにクッキーを食べている、ポロンをみながらエドガーはニコニコと微笑んでいる。


「ふぇぇぇ…… うらやましいです」

「はぁ…… もうしょうがないな…… えっ!?」


 慰めるために悲しそうに、近くに立っているソフィアの頭をリックは撫でた。撫でられていたソフィアが、リックの服の袖を急に引っ張ってきた。


「なに? ソフィア?」

「やっぱりポロンばっかりずるいです!」

「えっ!? そんなこと俺に言われてもなぁ……」

「ふぇぇぇぇん! 私も食べたいですー」


 両手を目に当てて泣き出すソフィア、リックは菓子の事になると彼女は子供だとあきれるのだった。しかも、相棒の彼はソフィアに激甘なので……


「わかったよ。後でソフィアには俺が買ってあげるから」

「やったです!」

「こら! 危ないって!」


 ソフィアはリックに抱き着いた。みんなに見られたら恥ずかしいので、リックはすぐに彼女から離れようとする。


「うん!?」


 クッキーを食べるポロンと、それに微笑むエドガーの間に、ナオミんとタンタンが割って入る。


「ちょっと!? エドガー! 何してるのよ!?」

「そうだそうだ! 自分だけポロンちゃんにお菓子なんか渡して! ずるいぞ!」

「えっ!? なんでナオミお姉ちゃんは怒ってるの? それに君は誰だい!?」

「僕は冒険者のタンタン! ポロンちゃんの友達だ!」

「いいから! わたしにもお菓子ちょうだい!」

「そうだ! ナオミお姉ちゃんにも出せ!」


 カウンターに両手を叩きつけて、ナオミが怒った顔をし、エドガーに詰め寄っている。タンタンは横でナオミをあおっている。


「えっ!? もうクッキーはないよ」

「はぁ!?」

「なんですって!!」


 眉間にシワを寄せ怖い顔したナオミが、素早くエドガーの胸倉をつかんでさらに詰め寄っていく。


「いいから! わたしにもクッキーちょ・う・だ・い!」

「ひぃ!」


 さすがに母があの人だけのことはあり、ナオミは胸倉をつかむのもさまになっているとな、感心するリックだった。彼にとって目の前の光景は、一日一回は見る魔法使いと槍使いの光景と同じなのだ。あまりのナオミの怒りに、タンタンも少し引いてる。エドガーは苦しそうな表情で、必死にリックに手をだして助けを求めている。


「たっ助けて! リックおにーちゃん…… もう…… だめぇ。ブクブク」

「うわぁ。ナオミちゃん!」


 エドガーの口から泡が噴き出した。リックは慌ててナオミの手首をつかんで止める。


「ナオミちゃん、ほら、これ以上したらエドガーが死んじゃうよ!」


 止められたナオミはリックを睨みつける。


「いいのよ! こんなやつ! 死んだって! なんでポロンちゃんだけなのよ! 私のは!?」

「くっ苦しいよ! あれは…… ポロンちゃんが好きだって…… この間言ってたから…… たまたま手に入って……」

「エドガーに私の好きな物いっぱい教えてけど、一回も私の好きな物買ってくれたことないわよね!?」

「そっそれは…… だから……」

「落ち着いて! ナオミちゃん! 本当に死んじゃうって!」


 エドガーが白目をむいた。これ以上はさすがにエドガーの命にかかわる。リックは力を込めて強引にナオミの手を外そうとする。


「(クッ! さすがメリッサさんの娘だな。力が…… 強い。もうなんでだよ血はつながってないはずなのに……)」


 ナオミの力は強くリックでも外すのを苦戦するほどだった。リックは本気を出して、エドガーからなんとかナオミを引き離した。


「はぁはぁ! 覚えてなさいよ! エドガー!」

「ぜぇぜぇ… なっなんで? 僕は…… ただポロンちゃんに……」

「フニャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」


 もう本当にやめなさい。ナオミちゃんは長い八重歯のような牙をむき出しにし、猫のようにエドガーを威嚇した。それを見たエドガーは、怯えて後退りする。


「ねぇ。落ち着いてナオミちゃん! 後で俺がクッキー買うから!」

「フニャー…… しょうがないわね。リックおにーちゃんがそういうなら!」


 クッキーをリックからおごってもらうことでナオミは納得し引き下がる。だが、ナオミはまだエドガーに鋭い視線は向けていた。


「ふぅ…… ありがとう、助かったよ。あっ! そうだ。リックおニーちゃんの用事って?」

「あっ、そうだ! 実はこのタンタンに合う武器の相談に来たんだ」


 リック達はエドガーにここに来た理由をつげると、エドガーはタンタンを見て手を顎に当てて考えている、胸倉をつかまれて時にナオミに引っかかられたエドガーのほほの傷が痛々しい。


「そっか、武器かぁ…… タンタン君の体格で使えそうなのはこれかな」


 カウンターの下に潜ったエドガーは、すぐに顔を出して机の何かを置いた。


「エドガー? これはブレイブキラーじゃないか」

「うん。ブレイブキラーは軽くて小さいからタンタン君にも扱いやすいよ。それに切れ味は充分で頑丈だしね」


 黒い刀身に装飾の施された短剣はブレイブキラーだった。以前、第四防衛隊がエミリオと戦った時に拾った、黒精霊石でできた短剣で軽くて硬い。短剣ではあるが刀身が二十センチほどあるので、身長が低いタンタンではショートソードのように扱える。


「すごい! エドガー君! 僕これが使いたいよ!」

「だけど、それリックおにーちゃんから預かってるものだからね。別の素材で同じようなものを……」

「そうなんだ。ねぇ、リックおにーちゃん! これちょうだい! 僕これを使いたい!」

「えっ!? 確かにそれは俺の剣の原材料として預かってもらってるけど…… 一応それ第四防衛隊の物なんだよな」


 ブレイブキラーは証拠品かつ、リックの剣の材料で、エドガーに預けている、第四防衛隊の備品という扱いだ。譲渡や貸し出しが必要な場合は隊長であるカルロスに報告し許可が必要になる。


「隊長に相談になるけど買い取りになるのかな。証拠としてての役目は終わってるし、数も充分にあるから安く譲れると思うよ」

「僕はお金ない……」


 しょんぼりとしてうつむくタンタン。タンタンは冒険者であるが、報酬はすべて姉のミャンミャンが管理してるので、彼は自由になる金は持っていないという。


「それならミャンミャンに相談してら? 小遣いくらいはくれるだろ?」

「やだい! お姉ちゃんに言ったら勝手に武器を選んで押し付けてくるに決まってる。僕のこといつも子供扱いするの…… だから内緒にするの」


 タンタンの言葉に納得するリック。二人を見ていると、確かにミャンミャンは、タンタンのことをかわいがってはいるが、やや過保護なところがある。うつむくタンタンを見ていたエドガーがリックに顔を向けた。


「リックおにーちゃん。ちょっとの間だけタンタン君にブレイブキラーを貸してくれる?」

「貸すのはいいけどどうするんだ?」

「あのね。タンタン君は冒険者でしょ? ブレイブキラーを使ってクエストでお金を稼ぐんだよ。」


 エドガー提案にうなずくリック。タンタンは冒険者なので、金がなければ単独で依頼を受け、自力で報酬を稼げばよいのだ。タンタンはエドガーの提案に悩んでいるようだ。


「うーん…… 僕一人でクエストか…… できるかな?」

「大丈夫。僕がギルドに簡単な依頼を出すからそのクエストをタンタン君が受けてくれればいいんだよ」

「えっ!? エドガー君が?」

「うん。鉱山に材料を取りに行きたかったんだけど、最近魔物が出るようになったから護衛を依頼するよ」


 笑顔でエドガーが頷く。タンタンは不安そうに口を開く。


「鉱山ってどこの?」

「王都の南にある鉱山だよ」

「あそこなら行ったことある…… わかった。僕…… 頑張る!」

「よろしくね。一緒に頑張ろう」


 互いに握手をしてタンタンがエドガーと嬉しそうに笑う。楽しそうに二人は依頼の詳細を話を始めた。その様子を羨ましそうに、見ていたポロンが手を挙げて二人に声をかけた。


「ポロンも行きたいのだ!」

「ダメですよ。ポロンは兵士なんですから!」

「そうだよ。兵士は冒険者のクエストに参加できないよ」

「残念なのだ……」


 ナオミがポロンの肩に手を置いてほほ笑みかる。


「フフッ。ポロン。大丈夫よ! タンタンとエドガーが兵士に護衛を依頼したことにすれば兵士は断れないわよ」

「おぉ! そうなのだ。兵士は王国民の依頼は断れないのだ!」

「確かにそうだけど…… そんなこと思いつくなんて…… さすが兵士の娘だな」

「えへへ。違うわよ。リックお兄ちゃん。優秀な兵士の娘だよ」


 ニカっと歯を出してナオミが笑うのだった。ナオミはタンタンとエドガーの横にポロンと移動する。


「それと…… 私も行くから!」

「えぇ!? ナオミ姉ちゃんも? お店どうするの? それにメリッサおばさんは許してくれるの?」

「大丈夫よ。お店はお休みできるしママは説得するもん」

「じゃあタンタンとエドガーとポロンとナオミのみんなで行くのだー!」

「おぉー!」


 四人が笑顔で拳を上げている。こうして四人でクエストに行くことになった。ソフィアがそっとリックの横に来て、耳元で小さい声で話しかけてきた。


「四人でだけで大丈夫でしょうか」

「大丈夫じゃない。なんとなく四人ともしっかりしてるから!」

「少し心配です」


 心配そうにポロンを見つめる、ソフィアにリックは微笑むのだった。


「うん!?」


 仲良く話していた四人が急にもめだした。


「タンタンとエドガーとポロンとナオミだから…… タエポナ冒険団でいいのだ!」

「いや。ポロンとエドガーとタンタンとナオミでポエタナ冒険団がいいな!」

「ダメよ! 何言ってるの!? ナオミとエドガーとタンタンポロンのナエタポ冒険団よ!」


 四人のパーティ名を、決めているようだが、互いに譲らずにいるようだった。四人の中でタンタンは真剣な表情で悩み黙っていた。ハッと顔をあげたタンタンが急に言葉を発する。


「ナオミとタンタンとポロンのナタポ冒険団でいいんじゃない?!」

「タンタン……」


 当たり前のようにエドガーを抜く、タンタンを軽く軽蔑するリックだった。ソフィアには大丈夫って言ったけが、こんなことでもめるとなると、冒険なんか無理かも知れないと思うリックだった。

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