第153話 酒乱大敵
王都グラディアの北東に、位置する第四区画は、大きくて広い住宅が多く、王都の富裕層や下級貴族が住む区画だ。
その閑静な住宅街の中に、石造りの立派な門に、壁の色が青く鮮やかな綺麗な色をした、大きな邸宅がある。この家はアイリスが船を受け取る時に、タカクラ君を攻撃しようとした、港街ルプアナの町長グレーデンの王都での邸宅だ。
リック達はグレーデンの邸宅の裏門に待機し、時刻は真夜中を迎えようとしていた。
「いいかい? 正面から第六防衛隊が捜索開始するから、あたし達はこ監視だよ」
裏口が見えるところで、メリッサがリック達の方に顔だけを向け説明をする。
「メリッサ。僕達は逃げだす人がいないかの監視だからね。突っ込じゃダメだよ」
「うるさいよ! イーノフ! わかってるよ!」
メリッサのすぐ後ろでイーノフが彼女の声に反応し会話する。彼が言う通り、リック達の今回の任務は、第六防衛隊のサポートで、グレーデン宅に、彼らが踏み込んだ後、裏門から逃亡を図る者が居れば捕まえることだ。
「しかし…… グレーデンは何を保管してるんでしょうね?」
「さぁね。でも、わざわざ隠して保管してるってことはろくなもんじゃないよ」
ゴーンライトがメリッサとイーノフさんの会話に入っていく。
「そうだね、メリッサ、ゴーンライトさん、通報してきた人も怖がってたらしいからね」
真剣な表情でグレーデンの邸宅を見つめているイーノフ。この家に勤めるメイドからグレーデンが、何やらあやしい液体を、保管しているとの通報があった。その液体が何なのかは不明で、禁制品の可能性があるので、今回防衛隊が調査に来たのだ。
「どうしたの? ソフィア?」
首をかしげるリック、横にいるソフィアが、彼の顔を覗き込んで来た。
「あやしい液体っておいしいんですかね!?」
「ソフィアは見つけても絶対に飲んだらダメだからね」
「私はそんなことしませんよ……」
ソフィアが不穏なことを口走ったソフィアに注意するリック。恥ずかしそうに頬を赤くした、彼女は口をすぼませ、不満そうにしないと言っていた。腕を組んで目を細くして疑った顔でリックは彼女を見ていた。
「(まったく…… なんでもすぐに口にいれたら危ないんだから! やめてよ。ポロンも真似するし!)」
リックはメリッサの足元に居るポロンに視線を向けた。ポロンは屋敷を黙って見つめている。
「ポロンは平気かい? 眠くないかい?」
「大丈夫なのだ! メリッサ! 眠くなんかないのだ」
「ははっそうか。無理するんじゃないよ」
ポロンを気にかけた声をかけたメリッサ、笑顔でしゃがんでポロンの頭を撫でる。ふわふわの毛に包まれたリス耳が気持ちよさそうに前後に動いている。
「みんな静かに! 始まったみたいだよ」
グレーデン宅を見ていた、イーノフが振り返り全員に静かにするように指示をだす。静まり返った住宅街に、怒号が飛び交い、ガラスの割れる音がし、グレーデン宅の窓から明かりが漏れる。第六防衛隊が突入し、各部屋を調べているのだろう。
「あっ!」
裏門を見ていたリックが声をあげた。門が開き慌てて荷車を押して四人の人間が出て来た。
「よし。みんな行くよ」
「はい!」
「ゴーンライトとイーノフは荷台の前で動きを止める。リックはあたしと来な!」
「わたしはどうするのだ?」
「ポロンはソフィアと一緒に少し離れたところで、裏口から他に出てこないか見といてね」
「わかったのだ!」
メリッサの指示を受け、イーノフとゴーンライトの二人が、足止めをしようと荷車の前へと向かう。
「「止まれ!!!」」
荷車を動かしていた人達が、二人を睨み付ける。だぼだぼしてる青いシャツに、腰のあたりにベルト巻いて剣をさし、黒いズボンを履いた男が先頭に居て、荷車を囲うような同じような恰好した男が、左右と後方に一人ずついる。
リックとメリッサが、荷車が止まったのをみて、ゆっくりと横から近づく。
「メリッサ! リック! 気を付けて!」
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
イーノフさんが叫ぶと同時に、蛇やトカゲのような鳴き声が響き、荷車の上に大きな人影が現れる。
「あっあれは」
上半身は人間の女性で下半身は蛇のように足がなく、尾の先端が魚の尾ひれのようになっている怪物が現れた。怪物の上半身は、青い長い髪をした女性で、胸を隠す布を巻いただけの半裸の状態で、右手には三つ又に分かれた槍を持っていた。
メリッサが怪物を指し、横に並んで歩くリックに問いかける。
「リック! あれはなーんだ?」
「えぇっ!? えっと……」
即答できないリック、横目で彼を見るメリッサの眉間にシワが寄っていく。
「セイレーンですね。水の聖霊です」
「はい正解!」
「そう。ゴーンライトさん! それです! 今、俺も言おうとしました!」
「黙れ! リック。あんたは腕立て二百回だよ」
「そっそんなぁ…… 本当ですって……」
言い訳を繰り返すリックは、メリッサに睨まれしょんぼりとうつむくのだった。
「うわ!」
荷車の上からリック達に向かって、細長い線のようになった水が向かってきた。とっさにリックとメリッサは、左右に別れて水をかわした。リックとメリッサの間を、水がすり抜けていったが、水が通った地面を切り裂き、花や草木が飛び散っていた。
セイレーンがニコッと笑った顔をし、荷車の前を向いた。セイレーンは前で荷車を止めた、ゴーンライトとイーノフに向け、同じように水をだした。
盾を前に出して水の攻撃を、ゴーンライトさんが受け止め彼の後ろにイーノフが隠れる。
「どけー!」
そのスキに男達が荷車を必死に走らせて逃げていく。
「何やってんだ!? ゴーンライト! イーノフ!」
「すいません!」
「ほら急いで! おいかけるよ! チッ!」
メリッサが悔しそうな顔をして前を見た。広い道の先に大通りへの交差点があり、その境にセイレーンが立ちはだかっている。
「あんたが足止めってわけね」
「我が名はセイレーンのウーイ。ここからは通さないわよ」
リック達は武器を構える。セイレーンが槍を両手で持ち、こちらに刃先を向けて構える。
「メリッサ。早くしないと、きっとあいつらは広い場所まで行って馬車かなんかに荷物を乗せて逃げる気だよ」
「わかってるよ。馬車に入れ替えたらもう追いかけられなくなるね」
イーノフとメリッサの会話が聞こえてくる。リックは会話を聞いて自分達のチームがセイレーンを引き受けると提案する。
「メリッサさんここは俺達が引き受けます。あいつらを追いかけてください」
「わかったよ。無理するんじゃないよ」
「はい! よし、ポロン! 行くよ」
ポロンがハンマーを構えて飛び込んでいく。腰にさした剣に手をかけ、リックはポロンの斜め後ろから続く。
「この!」
「おっと! そうはいかない」
セイレーンがポロンに槍を向けて突く。素早くリックが前に出て、ポロンと入れ替わり槍を剣で受けた。三つ又の刃の間にリックは剣をいれて槍を防ぎ、彼の目の前に尖った刃先が映る、セイレーンの槍はリックの顔の前でとまっていた。
「くっ!」
悔しそうな顔をしてリックを見るセイレーン。リックはニヤリと笑い、リックと入れ替わり、すぐ後ろにいるポロンに指示を出す。
「ポロン! お腹にどっかーんだ」
「どっかーんなのだ!」
ポロンがリックの横を颯爽と通り抜けてセイレーンとの距離を詰めた。セイレーンの腹の前に行きポロンはハンマーを自分の体の真横までもっていく。直後にポロンはセイレーンの腹を狙って勢いよく振りぬいた。
「グバアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
ドゴォと音がしてセイレーンの体がくの字に曲がった。口から白い液体を流し、フラフラとなったセイレーンは倒れ込む、塞いでいた道の脇に隙間ができる。
「今です。先に行ってください」
「はいよ」
メリッサ達がセイレーンの横をすり抜けていった。気づいたセイレーンは、上半身を起こし背後に体をひねって、メリッサ達に手の平を向けた。
「させませんよ!」
「うぎゃああああ!!」
ソフィアが弓を放った。ソフィアが放った矢は、正確にセイレーンの手に当たり貫通する。セイレーンは手を押さえ、顔が苦痛にゆがむ。
「お前の相手は俺達だ! かかってこい」
「よくも…… お前たちは許さんぞ」
セイレーンは起き上がって振り向き、リックを睨み付けると槍で突いて来た。リックは左へ移動して槍をかわした、石畳みの道をセイレーンの槍が突いて甲高い音が深夜の王都に響く。リックはセイレーンの顔を見ながら笑う。
「へぇ。やるじゃん。でも、それじゃあ俺は倒せないよ……」
「クソが!」
槍でセイレーンは何度もついてくるがリックは余裕でかわす。
「リック!?」
「大丈夫だよ。ソフィア。俺がやつの攻撃を止めるから魔法で攻撃をお願い」
「わかりました!」
「ポロン! 魔法電撃網の準備を!」
「わかったのだ!」
ポロンが魔法道具箱を開け網を取り出した。ポロンが出したのは魔法電撃網。名前の通り電撃魔法を帯びた網で、仕掛けた網にはいった魔物が、網に触れるとしびれて動けなくなるものだ。主に魔物を捕獲する時に使用する物で、今回の相手は人間ではなく精霊で、魔物と同じなので、通常の縄での拘束ではなく網で捕獲する。
「よし……」
リックは槍をかわしながら、ポロンが魔法電撃網を用意するのを確認した。攻撃をかわして少し距離を取ったリックは剣先を下にして構える。
「この!」
攻撃が当たらずムキになった、セイレーンが正面から三つ又の槍を、リックにむかって突き出した。リックは槍を冷静な顔でみつめながら、ギリギリまでひきつけ、左足を斜め前へと出す。槍を左にかわし、セイレーンの懐に入った、リックは剣を振り上げる。
入れ違うようにしてい、セイレーンの脇腹を切りつけ、リックはそのまま前出て、セイレーンの背後へとぬけた。
「よし」
手に持った剣に確かな手ごたえがあったのだろう、リックは思わず声をあげた。直後にブシュっと音がしてセイレーンの脇腹から血が流れていった。
「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
背後で背叫び声と金属が落ちる音がし、リックは静かに振り狩る。彼の目に脇腹を押さえ、悲鳴を上げるセイレーンと、道に転がる槍が見える。
「今だ! ソフィア!」
「はい」
ソフィアが前に出した手から強烈な光が発せられた。この強烈な光はソフィアの電撃魔法だ。電撃魔法を受けたセイレーンは、青白い光を放ち、しばらくすると少し焦げたようなにおいがしてセイレーンが前に倒れた。
「よーし! ポロン! 魔法電撃網の中にセイレーンをいれるよ」
「わかったのだ」
リックとポロン二人がかりで、魔法電撃網の中にセイレーンを入れた。捕まえたセイレーンにソフィアが、睡眠魔法をかけ、死なないように治療して捕獲完了だ。
「じゃあ俺達もメリッサさん達を追いかけようか」
「はい」
「行くのだ!」
セイレーンを捕獲した、リック達はメリッサ達を追いかける。
「ここを曲がったところに噴水が置かれた広場があります。イーノフさんが馬車に乗り換えると言っていたのでそこにいる可能性がありますね」
「わかった。ありがとう」
走りながら地図を見てソフィアが教えてくれた。リック達は通りの角を曲がり噴水のある広場に出た。
「えっ!? なにこれ? どういうこと!?」
リック達が噴水のある広場に飛び込むとそこには…… イーノフが広場の真ん中に困った顔で座り、その膝には大きなメリッサが膝枕されていた。メリッサの寝姿は冬眠してる熊のようだ。それだけならまだしも、なぜか噴水の中に入った、ゴーンライトが噴水の中に置かれた銅像を盾で叩いていた。
事態を把握できないリック達は、とりあえずイーノフの元へと駆け寄る。イーノフはリック達を見て助かったみたいな顔をする。
「なにしてるんですか? イーノフさん?」
「実はさっきここで……」
イーノフはリック達に何が起きたのか説明する。荷車を追っていたメリッサ達が、この噴水前の広場までやってくると、グレーデンの家から逃げた人間達が荷車の中の箱を馬車に積みかえていた。メリッサ達を見た、奴らはあきらめたのか、すぐにその場に荷車を捨て、馬車で逃走してしまった。荷物をメリッサに任せて、身軽なイーノフが追いかけたが、全力で逃げる馬車にはかなわず戻ってきた。
戻ってきたイーノフが見たのは、ゴーンライトさんは噴水の中に入って暴れ、メリッサは気持ちよさそうに瓶に口つけ、中身の液体を飲んでいる姿だったという。箱の中身は瓶詰めの酒だったようだ。止めるゴーンライトを無視し、メリッサが確認の為だと言って一口飲んで、さらに調子に乗って一瓶を開け、ゴーンライトにも飲ませたということだった。
「もう…… なんで飲むかなぁ。俺がソフィアに注意したの聞いてましたよね!? はぁ…… しかもこんなに酔っ払って……」
気持ちよさそうにイーノフの膝枕で寝てる、メリッサにあきれた顔するリックだった。
「ところでゴーンライトさんはなんであんなに?」
「わからない。なんか銅像に怒って叩いてるんだって」
ゴーンライトは酔っ払った後、メリッサに絡み、なぜか噴水の銅像に怒って殴っているという。詳細を説明するイーノフにふとリックがたずねる。
「しかし、追いかけてる間は見てないのに、イーノフさんはよくわかりますね」
「あぁ。メリッサ。今のであってるよね?」
「うーん! イーニョフのいうちょおりだよ!」
ニコニコして甘えた声でメリッサさんが、イーノフさんの膝の上に頭をおき、気持ちよさそうに答えていた。甘えた声のメリッサはちょっと気色わるいがどうやらイーノフの質問に素直に答えるので彼は詳細を把握したようだ。イーノフは話を続ける。広場に戻ったイーノフを見つけたメリッサは、ゴーンライトに絡まれ悲しさからだか、彼を見つけるといきなり抱き着いて泣き出したという。また、イーノフが離れようとすると、ものすごい力で押さえつけられ動けないのだという。
「だから悪いけど…… リック達が彼を……」
申し訳なさそうに暴れるゴーンライト指し、リック達に止めるように指示を出すイーノフだった。リックは面倒くさそうに返事をする。
「はぁ…… わかりました。ソフィア! メリッサさんに念のために怪我ないか見てあげて。ポロン。行くよ」
「わかりました」
「行くのだ!」
酔っぱらったメリッサをソフィアに任せて、リックとポロンは噴水の中にいるゴーンライトの元へと向かう。リックは靴を履いたまま噴水の中に入った。
「つめてぇなぁ……」
まだ暑いとは秋が深まった時期の深夜である。靴の中に水が浸透すると、すぐにリックの足が冷たくなった。
「ポロン? 冷たいから気を付けるんだよ」
「大丈夫なのだ! バシャバシャ楽しいのだ」
「いや…… バシャバシャって…… 水遊びじゃないんだから…… まっいいや」
リックはブツブツ言いながら、銅像を殴りつける、ゴーンライトへと近づく。
「ゴーンライトさん。やめてください」
「あぁ!? おめぇもうっせんだよ! お前も!」
ゴーンライトはリックの問いかけに、振り向くと悪態をつき、またすぐに盾で噴水の像を叩き始める。
「まずいな…… あっ! 像の頭が…… もういい加減にやめないとまずいですよ」
「うるせええつってんだよ!!」
叩かれていた銅像の頭が取れ、噴水に落下して水しぶきが上がる。銅像は右腕が外れ、足や体のいたるところがひび割れている。
「しょうがない……」
リックはゴーンライトを後ろから羽交い絞めにする。
「危ないですからやめましょうって!」
「はなせよ! はなせよ!」
「あっ! ポロン!? 来ちゃダメだよ危ないから」
羽交い絞めにされ、必死に抵抗する、ゴーンライトの元へポロンがやって来た。
「ポーンカイトさん! メーなのだ!」
「あぁん!? おれはゴーンライトだよ! うっせぇなおめえもよ!」
ポロンが腰に手を当てゴーンライトを叱りつける。ゴーンライトは斜め下を向いて、悪態をついてポロンを睨み付けるのだった。睨まれたポロンの目に涙が浮かべすぐに泣きだしてしまう。
「うわーーん! コーンサイトさんが怖いのだ!」
「あっ!? えっ!? だから、ゴーンラ……」
目に手を当てポロンがわんわん泣き始めた。ゴーンライトの動きが止まり、明らかに動揺し今度は彼が泣きそうになっている。
「やめて! 泣かないで! パパのこと嫌いにならないで!」
ポロンに向かって自分をパパというゴーンライト。どうやら酔っぱらった彼はポロンを自分の娘だと思っているようだ。リックが押さえつけていた、ゴーンライトの体から力が抜けた。リックは静かに手を外すと、ゴーンライトは静かに泣きながら座り込んでしまった。
泣きだしたゴーンライトに驚いたのか、ポロンは泣き止み心配そうに彼を見つめている。
「ポロン! ゴーンライトさんを縄で拘束して」
「えっ!? 仲間なのにか?」
「いいんだよ。また暴れたらゴーンライトさんが怪我しちゃうから拘束するんだよ」
「そうか。わかったのだ」
ポロンがゴーンライトの手に縄をかけて、立ち上がって噴水からでるように促す。
「立ち上がって噴水から出るのだ」
「パパのこと嫌いじゃないのか?」
「ううん。大好きなのだ!」
笑顔で答えるポロンに、安心したような顔をし、言うことを聞くゴーンライトだった。
「お前に娘はやらんぞ!」
「あーはいはい」
うまくいったのでリックが、ポロンに笑顔を向けた。それを見たゴーンライトがリックに絡み彼は適当にあしらうのだった。
「こら! 早く行くのだ!」
「わっわっ!? うーん。キャロライン…… 立派になって……」
ポロンはゴーンライトを持ち上げイーノフの元へと二人は戻るのだった。ちなみにキャロラインとはゴーンライトの娘の名前である。
「いーな。のんきな顔して…… ほんとに……」
戻ったリックの目にイーノフの膝で、気分よく寝ているメリッサが映る。リック達は追ってきた第六防衛隊に、残ったお酒を引き渡し、詰め所に引き上げるのだった。
酔っ払ったメリッサの代わりにイーノフがカルロスに報告をする。報告を聞いたカルロスは苦い顔をするのだった。
翌日、朝早くからカルロスは会議に呼ばれて行ってしまった。午後になって帰ってきたカルロスはすぐに全員を呼んだ。なんでも昨日の捜索で問題があったらしい。まぁ、あれが問題にならない訳はないのだが……
「昨日はみんなお疲れさん。それで、メリッサ、ゴーンライト…… なんでお前さん達は押収したお酒を飲んじゃったの?」
「いやそれはさぁ。その樽を開けたらいい匂いがしたから…… つい!」
「はぁ…… メリッサ! ついじゃないよ! まぁ、押収したお酒が残っていたからよかったけど全部飲んだら大変なことになってたよ!?」
「はいはい。すいませんでした…… でも、お酒があったら…… の!」
メリッサは気まずそうな顔をし、なにやらブツブツと言っていた、イーノフは心配そうに彼女を見つめている。カルロスは呆れた顔をし、メリッサから視線をゴーンライトへと移した。
「しかもゴーンライト…… お前さんまで……」
「違いますよ! 僕はメリッサさんに無理矢理!」
「わかってるよ。でもねぇ……」
カルロスはゴーンライトの答えを聞き困った顔をした。
「ゴーンライトが壊した噴水ね。有名な彫刻家が作った作品でえらく高いんだよ」
「それは任務中の事故ですから……」
「お前さんねぇ、自分の意志で盾で叩くのは事故っていわないの!」
「そうだよ! ゴーンライト!」
「メリッサが言わないの!」
「はい…… でも、あたしは別に…… 無理矢理になんか……」
メリッサがぶつぶつ言ってる。ゴーンライトは顔が白く気分が悪そうである。カルロスがゴーンライトとメリッサの二人を順番に見た。
「もちろん。修理費用をださないといけないんだ」
「でも…… 僕には…… 妻と娘が……」
「あたしだって、そんなお金ないからね!」
「わかってる。お前さん達に過失はあったが任務中のことだからな。だから、第四防衛隊で修理費用を負担することになった!」
「えっ!? そんなお金あるのかい? うちに?」
「ないよ」
カルロスは堂々と金はないと宣言した。呆然とするメリッサ達にカルロスはにやりと笑った。
「でもねぇ。我が隊のピンチに援助をしてもいいという組織があってね」
カルロスは自信満々な様子で、ニコニコとして机に座り、腕を前に組んだ。
「(へぇ。お金を持って第四防衛隊に援助してくれる組織があるんだな。どこだろう…… うん!? これって!? 確か前にも似たようなことがあったような気がするんですけど!?)」
嫌な予感がするリック、もちろん彼の予想は的中している。金で頼る組織と言えばあそこしかない……