表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
151/263

第146話 リンガス島

「アイリス? どういうことだ? 先々代の魔王って?」

「リック…… ごめんね。待ってくれる。今は早くマオ君を村に連れて行かないと!」

「えっ!? あぁ。わかったよ。でも、後でちゃんと話してくれ…… なっ?」

「うん。わかった」


 耳が尖って牙の生えた老人姿の、先々代の魔王ブッシャーは苦しそうに、ゼイゼイ言いながらアイリスに肩を貸されながら歩いていた。魔王とはいえ、苦しそうにしているのは、ほっとけないリックは、アイリスとブッシャーに駆け寄った。


「手伝うよ」

「あっ! ありがとう! リック!」


 アイリスとは反対側の、ブッシャーの左肩へと回り、リックは彼を支え、アイリス達と一緒に村まで歩く。


「あれが…… 村か」


 リック達の目の前に、木の柵に囲まれた、小さな村が見えてきた。


「うん!?」


 村から続いている道を、誰か近づいて来るが見えた


「あれは…… オーク!?」


 リック達に近づいてきたのは槍を持ったオークだった。リックは慌ててソフィアとポロンに指示をだす。


「ソフィア! ポロン! 迎撃体制を! オークが来る」

「あっ! リック! 違うの。あの子たちは敵じゃないのよ。だから何もしないで!」

「えっ!?」


 アイリスが敵じゃないと叫んでソフィア達を止めた。どうやら彼らがアイリスと、一緒に立てこもっているという魔物たちのようだ。オークが歩いて近付いてきてアイリスに頭を下げた。


「アイリス様よくぞご無事で…… はっ!? こいつらは一体?」


 リックとソフィアとポロンの姿を見て、驚いてオークはジッとリック達を見つめていた。オークが人の言葉を、理解しているのにリックは驚く。


「ご苦労様。この人達は私のお友達よ。だから大丈夫」

「ですが、ブッシャー様が……」

「マオ君は自分で無理して疲れただけよ。私達が家まで運ぶから警備をお願いね」

「はっ!」


 オークに見送られながら、村の中に入ったリック達だった。アイリスに気付いた、一人の村人が振り返った。振り返った村人は、普通の人間の男で、彼は嬉しそうに声をあげる。


「あっ! アイリス様ー! ブッシャー様ー! よくぞご無事で!」

「みんなー! アイリス様達が帰ってきたぞー!」


 人間の隣で一緒に嬉しそうに声をあげたのは、頭に角の生えて背中に、コウモリのような翼が生えた人型の魔物リトルデーモンだ。


「この村は魔物と人間が一緒にいるのか……」


 アイリスが帰ってきたと、知らせる声に反応し、次々と家の扉が開いて中から出てくる。リック達の周りに、あっという間に、魔物と人間の人だかりができた


「うん!? あのうさぎは…… ロン君とファン君か」


 アイリスの足元に、ロングファングラビットの、ロン君とファン君が駆け寄る。二匹に気付いて、下を向いたアイリスは。嬉しそうにロン君達に笑顔を向けていた。


「これは?」

「魔物さんがいっぱいなのだ!」


 村の家から出てきたのは、おっとりとした表情をしたオーガや、ゆっくり動くスライムやエプロンを着けた骸骨戦士など魔物達に人間も混ざっている。キングファイアリザードやヴァリアントオウルもいる。

 リック達を囲むみんなは、アイリスを笑顔で見つめている。


「アイリス様。お帰りなさい。兵士達やっつけた?」

「ううん。まだよ。だからお家に入ってママの言うこと聞いて大人しくしてなさい。お姉ちゃんが悪い兵士達すぐにやっつけてあげるからね」


 小さなオークの子供が、アイリスのスカートのすそを引っ張っている。アイリスはその子に、笑顔で答えている。


「この人達は誰なの?」

「私のお友達だよー」

「そうなんだー!」


 リックとソフィアとポロンを見て、アイリスに誰か聞いている人もいる。アイリスが友達と答えるとポロンやソフィアに、みんな笑顔で握手を求めてる。


「あっ! でも、彼は未来の私のお婿さんだよ。」

「えぇ!? アイリス様のお婿さんなの!?」

「うん。そうだよ! 素敵な人でしょでしょ?」


 笑顔でアイリスがリックの顔を見た。子供のオークはリックの顔を見て困った顔をしている。


「おい! アイリス。ウソをつくな。俺もお前の友達だ!」

「いいじゃん! 別に! 少しくらい!」

「いやいや! 違うだろ! うん!?」


 子供たちがリックの方を見て、目をキラキラ輝かせている。アイリスはその様子にニヤニヤしてる。


「本当に違うからな! 俺達はアイリスのただの友達だからな!」

「えぇ!?」

「ちょっとひどくない!? 全否定じゃん」

「当たり前だ!」

「あははは!」


 リックとアイリスの会話にオークが笑っている。アイリスを囲む魔物たちは穏やかな雰囲気だ。とても魔物一味の立てこもりには見えない。


「アイリスここはなんなんだ? 人間と魔物が一緒に暮らしてるのか」


 ニコッと笑ってアイリスはリックの方を向く。


「そうよ。驚いたでしょ? リンガス村は魔物と人間が共存する村なのよ」

「えぇ! 魔物と共存って……」

「ふふ。私も最初来た時は驚いたわ。ここは昔からずっと秘密にされてたみたい」

「なるほど…… うん!? ということは魔物はずっと昔からここにいるのか? 俺達はアイリスが魔物を連れて来て立てこもってるって聞いたぞ!?」

「そうなんだ!? ジェラルドの奴! そんな風に……」


 アイリスが厳しい表情をした。彼はジェラルドさんのことも知っているようだ。


「アイリスさまー! あのね」

「アイリスちゃん! これを見て!」

「わっわ。待って順番よ」


 どんどん人がアイリスの元へと集まってくる。アイリスは愛想よくみんなと話してる。


「はぁはぁ……」

「もう……」


 肩を貸してるブッシャーが、苦しそうな顔をしてるが、アイリスは皆の話を聞いて気づいてない。


「アイリス! 早くしないと……」

「あっ! みんなごめんね。話はあとにして、今はマオ君をお家に入れないといけないの」

 

 周りのみんなをアイリスが制して道を開けた。リック達は村の一番奥にある大きい家に向かうのだった。ここはブッシャーの家で、現在アイリス達が滞在しているという。木で出来た二階建ての家で、リック達は二階に上がり、ブッシャーの部屋まで、運びベッドに彼を寝かせた。


「はぁはぁ…… わしも年かのう」

「ちがうでしょ。持病とジェラルドにかけられた呪いのせいでしょ! まったく無理しないでって言ったのに」

「そんなぁ。アイリスちゃん冷たいこと言わないでくれよ…… わしはアイリスちゃんの為に……」

「私の為なら心配かけないでよ! もう!」


 少し怒った感じでアイリスは、ベッドに寝ているブッシャーと話している。会話の様子から、元魔王にもかかわらず、ブッシャーは勇者アイリスのこと本当に心配して行動したようだ。


「ソフィア。悪いけどマオ君を回復してあげてね」

「はーい」


 笑顔でソフィアが手をブッシャーに、かざして回復魔法を唱えようとする。ブッシャーが驚いた顔でアイリスを見た。


「はっ!? なんで敵のこやつらの治療なんぞさせるんだ?」

「ソフィアは優秀なんだからいいのよ。わがまま言うともうマッサージしてあげないよ?」

「うぅ……」


 アイリスが詰め寄ると、ブッシャーは渋々頷いた。二人のやり取りに微笑んだソフィアは、ブッシャーの治療を始めるのだった。息を切らしていたブッシャーは、徐々に穏やかな呼吸になり、静かに目を閉じて眠り始めた。


「もう大丈夫ですよ」

「よかったね。マオ君。ありがとうね。ソフィア」


 嬉しそうにすっとブッシャーの頭を撫でるアイリスだった。リックはなぜアイリスはブッシャーを、マオ君と呼んでいるのか気になったたずねる。

 

「ところで、アイリス? なんでマオ君なの? ブッシャーさんて名前なんだよね」

「先々代の魔王でしょ? 魔王君だとなんか変だからマオ君って呼んでるの!」

「それじゃあ。今の魔王どう呼ぶんだよ!」

「今の魔王は…… ただの魔王よ!」

「なんだそれ…… まぁアイリスらしくていいけどさ」

「なによ!」


 ムッとするリアイリスの横で、穏やかな表情で大いびきをかくブッシャーだった。リックはその姿はとても魔王には見えずに、見てまた首をかしげる。


「なんかのんきにいびきかいてるけど!?、本当にブッシャーさんは魔王だったの? なんか? 雰囲気が……」

「リック! この人はほんとの元魔王ズラよ」

「そうなんだ?」

「うん。昔はもっと怖かったズラよ。それこそ魔界南部出身のイカれた魔王と呼ばれ……」

 

 自慢げにスラムンが魔王ブッシャーについて話し出した。スラムンによると、ブッシャーは八百年前に、退位した魔王だという。現役の頃は魔王軍を率いて、エルフの里を攻撃したり、世界中の人間や魔界の部族に喧嘩を売るなど暴れていたらしい。

 徹底的に人間や他部族を迫害する、その姿勢は残虐な魔族達にも異常に見え、いつしかブッシャーは魔界南部出身のイカれた魔王と呼ばれるようになった。魔王の任期を勤め上げて、退位後は魔界南部にある田舎に帰り、農場や牧場などの経営をしていた。ちなみにブッシャーの後を継いだ魔王バマバラは、穏健派で世界征服政策を見直した、平和主義者だったので魔族から、人間への干渉を抑えていた。

 平和主義者だったバマバラの時代は魔族による侵攻はなかったが、逆に人間が魔界への侵攻した事件が発生したり、強硬派の勢力がバマバラの支配下からの、独立戦争が起きた際には魔王軍を投入する、タイミングが遅れるなど魔族からは、弱気だと非難されていた。

 バマバラの後を継いだ、現在の魔王のプトラルドは百年程前から魔王を引き継ぎ、前任のバマバラの平和主義を覆し人間に宣戦布告して今日まで続く、魔族と人間の争いを引き起こしている。

 プトラルドはブッシャーよりも強行で独裁的だという。その一番の功績は、人間の魔王領地への侵入を防ぐため、境に数千キロに及ぶ壁を作ったことだという。その壁を作るために人間をさらい捕虜にし、人間達だけでは人手が足りなくなったら、反抗的な魔族の部族を捕まえて、死ぬまで強制労働をさせたりしたという。


「ブッシャーさんは八百年前の魔王だろ? よくスラムン知ってたな? 確かスラムンは三十歳だろ」

「そりゃあ。歴代の魔王様の業績は魔王軍隊学校で習うズラ」

「えっ!? スラムンって学校行ってたんだ?」

「もちろんズラ! 卒業した後は魔王軍リンドブル洋攻略大隊の第二スライム兵団で二等兵やってたズラよ」


 飛び跳ねながら、少し自慢げにスラムンが魔王軍での経歴を話してる。スラムンの経歴より学園生活にリックは興味がわく。寝ているブッシャーの顔が歪む、アイリスが顔をあげベッドの横で、騒がしく話すリックとスラムンを見た。


「わっ!?」

「何するズラか!」

「ほらほら! うるさくしてるとマオ君起きちゃうでしょ! みんな出てって!」


 スラムンと話していたリック達は、アイリスに注意され、部屋を追い出されてしまった。


「はぁしょうがないズラね。リック達はこっちの部屋を使うと良いズラよ」


 キラ君の頭の上に乗ったスラムンが、リック達をブッシャーが寝てる隣の部屋へと案内してくれた。しばらくしてアイリスが、部屋から出てくるのを待っていたが、夜も遅くなってソフィアとポロンは椅子に座ってウトウトとしていた。


「はい。開いてるよ」


 ノックがしてリック達のいる、部屋のドアが少しだけ開き、アイリスが隙間から、顔を出して覗いている。


「リック! ちょっと来て」

「アイリス!? どうした?」

「いいから!」


 ドアの隙間から手招きして、リックをアイリスが呼ぶ。リックはアイリスに連れられて、隣の部屋のブッシャーが、寝ているベッドの横に立つ。


「マオ君。リックを連れて来たよ」


 アイリスがブッシャーに声をかけると、彼はリックに目を向けた。その目は冷たくなんとなくだが、リックは睨み付けられてる気がした。


「おぬしはアイリスちゃんの味方か?」

「そりゃあもちろん! 俺達はずっと友達…… いた!」


 リックの足をアイリスがいきなり踏みつけた。急に痛がった彼をブッシャーは不思議そうに見ていた。


「何をしてるんじゃ?」

「マオ君。いいから続けて! リックは味方だよ」

「わかった。」


 ブッシャーがゆっくりと語り始めた。話はブッシャーが魔王を退位した頃から始まる。


「わしは魔王を退位して自分の田舎に引っ込み静かに暮らしていた。三百年くらいしてからかのう。そこで一人の人間の赤ん坊を拾ったのじゃ……」


 魔界に捨てられた、人間の赤ん坊を拾ったブッシャーは、厄介なのですぐに殺そうと考えた。だが、当時の魔王バマバラは、人間に対してむやみに攻撃することを禁止していた。先代の魔王と言えど、現職の魔王に逆らうのは秩序を乱すと考えたブッシャーは、その赤ん坊を育てることにした。だが、魔界の過酷な環境では人間の赤ん坊が耐えきれない。

 悩んだブッシャーは人間の世界へ移住することにした。赤ん坊を連れて人間の世界へ来た、ブッシャーはここリンガス島を住みかとした。成長した赤ん坊は、立派な青年になり、当時色んな国が乱立していた、リブル諸島を統一してリブルランドの初代の王ディスコッチとなった。


「えっ!? じゃあリブルランドの初代王様って? ブッシャーが育てたんだ?」

「そうじゃ。信じられないかもしれんが、ちゃんとリブルランドの歴史書には書いてあるぞ。もちろんわしが元魔王だと言うことは書いてないがな! はっはっは!」


 赤ん坊を育てるうちに、人間への情が芽生えた、ブッシャーは人間の世界にとどまることになった。たまに、ディスコッチが子供を連れて、遊びにきたりして、リンガス島で人知れず楽しく暮らしていた。だが、いつしか魔物たちの噂で、元魔王のブッシャーがリンガス島にいることが広まり、魔物がリンガス島に集まるようになってしまった。

 集まった魔物は心が優しく、人間を襲えず他の魔物からのけ者にされたり、人間からの迫害など様々な理由がある者達だったが、ブッシャーはすべてを受け入れた。続いてリンガス島の噂を聞いて、今度は他の国で行き場を失った、人間も集まるようになっていった。


「じゃあここは元々行き場のない人間や魔物たちが集まるところだったんだ」

「そうじゃ。わしとディスコッチはリンガス島を行き場のない者の住処として保護していくことを考えたのじゃ」

「保護していくってどうやって?」

「それはなぁ…… これを使ったんじゃ」

「こっこれは?」


 ベッドの横のサイドテーブルから、ブッシャーが手元に取ったのは、耳の部分に羽のような装飾をされた兜だ。


「これは天上の兜じゃ。これを使ってリブルランドと永遠の契約をかわしたのじゃ」


 リブルランドに伝説の防具である天上の兜を提供し、代わりにリブルランドにはリンガス島を、神聖な土地として崇め人間が侵入することを禁止させたらしい。天上の兜はブッシャーが、魔王時代に魔界一と言われる鍛冶屋に作らせた物で、元々は魔族の将軍用だったが人間用に改造してある。これを初代ディスコッチは伝承として、リブルランドに記録を残した。歴代の王は初代の王に敬意を払い約束を守った。

 約束を守らずリンガス島に侵攻しようとした王も居たけど、それは元魔王の力を使ってこらしめたらしい。この契約によって、リンガス島は魔物や人間が共存する島となった。


「全然知らなかったな」

「まぁ人間にしたら随分昔の話じゃからな。契約をしてからは目立たぬようにしておったしのう。他の国のお主らが知らんのは当然じゃ」


 リックは天上の兜をジッと見つめる。兜は元々はブッシャーの物だったのだ。


「なんでここに? 俺達はアイリスがこれを盗んだと……」

「そうじゃよ。今の王が八歳で幼年なのをいいことにリブルランドのジェラルドと言う者が好き勝手やるようになってな」


 黙ってうなずくリック。どこの国でも王様よりも権力握って好き勝手やろうととする者はいる。彼の国にも騎士団長や王妃などがいて巻き込まれているのだから……


「ジェラルドは使者をよこして、リンガス島を明け渡すように通告してきたのじゃ」


 ブッシャーの話は続く。ジェラルドはリンガス島の、明け渡しと天上の兜のリブルランドへの、永久譲渡を通告してきた。ブッシャーは怒り狂い、すぐに兜を取り返すために、リブルランドの城に乗り込んだ。


「じゃが…… それがジェラルドの罠じゃったんじゃ……」

 

 ブッシャーの力を恐れていた、ジェラルドは王城で待ち伏せをしておびき出したのだ。謁見の間に用意されていた聖なる魔法陣に、ブッシャーは呪いをかけられ力を失った。ジェラルドに追い詰められたブッシャーは命からがら逃げ出して、海の上で力尽きたところを、タカクラ君の触腕に引っかかりアイリスの船に拾われた。ブッシャーを海から引き上げ、事情を聞いたアイリスは、ブッシャーに協力することにしたという。


「アイリス。お前……」

「だってジェラルド許せないでしょ! ここの子達は誰にも迷惑かけずに静かに暮らしていたのよ。それを突然追い出そうとするなんて!」


 ブッシャーに協力することにした、アイリスはリブルランドの城に、勇者と言う立場を利用し、天上の兜を盗み出した。


「それでジェラルドは怒ってリンガス島に軍隊を向けたってわけよ」

「本当はのう。リブルランドの国宝であった天上の兜を使ってもう一回交渉をしたかったんじゃが…… ジェラルドはどうやらもう力ずくでここを攻め落とす気じゃな」

「私がさっき言ったよね。ここはひどい目にあうって、だからリックは……」


 いつになく真剣な顔でアイリスは、表情でリックの顔を見た。ジェラルドに攻め込まれる前に、リック達に逃げろといいたいようだ。アイリスの顔に視線を向けたリックは静かに口を開く。


「アイリス…… お前はどうするんだよ?」

「私はマオ君と一緒にここで戦う」

「戦うって言っても、かなりの数の軍勢だぞ?」

「だからリック達は帰りなさい。関係ないんだから!」

「そうじゃ。おぬし達には関係ないことじゃ。わざわざ巻き込まれることもあるまい」


 ブッシャーはリックに顔を向け、穏やかなその表情は慈愛に満ち、現役時に魔界南部のいかれた魔王と呼ばれた、ブッシャーの面影はない。ブッシャーは自分が、アイリスを連れて行くと言ったら、同意してくれるとリックは、身勝手に思うのだった。


「アイリス…… なら一緒に逃げようお前にも関係ないことだろ!?」

「ありがとう。嬉しいけどダメだよ…… リックも聞いたでしょ? ここに居る人も魔物も居場所がここしかないのよ」

「そうじゃ。お主は兵士じゃろここに残ったら反逆者になるぞ。それに帰るところがあるじゃろ? 連れてきたお嬢さん達を連れて一緒に帰りなさい」

「ごめんね。リック。私も一応勇者だからね。罪のない人はほっておけないのよ。でも、リック、あなたは兵士だから無理しなくていいのよ」


 アイリスは首を横に振りうつむいてしまった。ブッシャーは悲しそうに天井を見つめている。リックは二人を見て静かに考えこむのだった。


「(どうする? アイリスと一緒に戦えば俺は…… グラント王国の反逆者だ。そうなればもうソフィア達や、メリッサさん達とも会えない…… でも、誰にも迷惑かけず静かに暮らしていた、魔物達を追い出そうとする奴は俺も許せない…… うん!?)」


 部屋の扉が勢いよく開き、中へオークが飛び込んで来た。必死に走って来たのか、息を切らしたオークは、肩に矢がささり、体には刀傷がついていた。彼は部屋に入るなり、アイリスに顔を向けて叫ぶ。


「はぁはぁ…… たっ大変です! リブルランドの船が島に乗りつけて上陸されました。先頭を行く兵士達に…… みんな蹴散らされてます。もう村に到着します!!」

「なんじゃと!?」

「どうして? 大きい船ならタカクラ君が気づいて防いでくれるはず……」

「そっそれが…… 敵に簡単に捕獲されてしまいました」

「むぅ…… クラーケンを捕獲できる奴らじゃと!? そんな強者はリブルランドにはおらんはず…… 誰じゃそいつらは?」

「グラント王国の第四防衛隊と名乗っています!」


 リックとアイリスが驚いた顔をする。グラント王国の第四防衛隊…… つまりメリッサ達がここへ侵攻をしてきたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ