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第145話 リック対アイリス

 アイリスの顔を見つめ、リックはいつものように、剣先を下にして構えた。アイリスはリックが、持つ剣シャドウフェザーを、まじまじと見つめていいた。何かに気付いたアイリスはリックに声をかける。


「リック…… その黒い剣って…… もしかしてブレイブキラーなの?」

「あぁ。ははっ。これで俺が勇者を狩ることになるとは思わなかったよ…… しかも相手がアイリスなんてさ」

「ごめんね。私はひけないのよ」

「アイリス、お前…… このままだと俺はお前を逮捕しないといけない。だからちゃんと話そう!」

「ダメよ。リック! 早くここから出てって!」

「アイリス……」


 リックをまっすぐと見つめるアイリス。彼の耳にはリックが買った、青い宝石の耳飾りが付いて風に揺らめいている。


「(あの時と同じ目か…… こいつが勇者になるって決まって、村から引っ越さなきゃいけないと報告しに来た時と同じ…… 変わらねえな)」


 うつむいて悲しそうにするリック、付き合いの長い友人の、あのまっすぐの目はもう覚悟を決めた時の顔だった。中途半端な気持ちではアイリスに勝てない。リックは覚悟を決めた、アイリスを捕まえて無理矢理に話を聞くことにしたのだ。

 顔をあげたリックはアイリスと同じようにまっすぐな瞳をする。アイリスはその顔を見てなぜか嬉しそうに笑うのだった。


「行くわよ!」


 アイリスがチャクラムを右手に持ってリックに斬りかかって来た。リックはアイリスの動きを見極める。


「うん!? えっ!? おい!? 何を……」


 チャクラムを振り上げた、アイリスは斬りかかるフリだけ、リックを相手をせずに横を通りすぎた。走りながらアイリスは、さきほど自分が投げたチャクラムに手を伸ばした。弾かれて少し離れて地面にささっていた、チャクラムが浮かび上がって、アイリスの手に戻っていく。


「チッ! 物体浮遊の魔法か」


 リックはすぐに剣を構え、アイリスに向かっていくが、リックより早くチャクラムがアイリスの手に戻った。両手にチャクラムを持ち、振り返ったアイリスは再びリックと対峙する。


「なんだよ。ちゃんとかかって来いよ!」

「ははっ。わざわざリックに斬りかかるほど私も馬鹿じゃないわよ」


 リックとアイリスは顔を見て笑う。お互いの手の内はわかっている。彼らは幼い頃から、ずっと戦いごっこで遊んでいたのだから……


「でもな。俺だって第四防衛隊に入って変わったんだ」


 剣先を下に向ける構えをやめた、リックは腰落とし右手を引き、剣先をアイリスへと向ける。


「あら? かかって来るの? いいじゃない。わたしだって強くなってるんだから!」


 膝を軽くまげてアイリスは、右手を前に左手を奥に引く。右手に力を込めるリック、目の前にいる友人は類まれな才能を持つ勇者だ、それでも自分の攻撃は通用するはずだと、心の中で自分に言い聞かせる。なぜなら、彼は第四防衛隊に入隊してからというもの、ほぼ毎日時間が空けばメリッサと攻撃の訓練をしていたからだ。


「いくぞ!」


 体勢を低くしたリックが駆け出し、アイリスとの距離を一気につめていく。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 アイリスの手前で懐にもぐりこむように膝を曲げ、リックは体を前に傾け体勢を低くした。そのままアイリスの胸を狙い、リックは剣を突き出す。鋭く伸びた剣先が、アイリスの胸を確実にとらえる。


「まだよ! もう少し!」


 ギリギリまでリックの剣を引き付けて、アイリスは右に体を横にひねった。すんでのところで、俺の剣をかわしたアイリスは右手のチャクラムを俺に向かって振り下す。


「よっと! あぶねえ! さすが勇者様だ」


 リックはアイリスの動きに反応し、剣を素早く引いて戻し、チャクラムを剣で受け止めた。金属がぶつかるガキッと言う音が、彼の耳元に届き、俺の剣とアイリスの剣がぶつかって火花を散らす。リックは右腕に力を込め、剣を押し返す。笑ったアイリスはリックの押す力を利用して後方に飛び上がり距離を取った。着地したアイリスは悔しそうな顔をする。


「あちゃー! 防がれた。やっぱりリックは強いわね」

「お前もな」


 右手に持っていたチャクラムを体の前で上下に動かす。リックとのぶつかりあいでアイリスの腕はしびれたようだ。リックも同様に右肩に左手を置いて右腕をまわす仕草をする。二人の表情は明るく無邪気だ、その姿はまるで幼い二人の子供が遊んでいるようだった。


「ふふ。懐かしいね。小さい頃は、よく二人でこうやって戦いごっこしたよね」

「あぁ。俺はまったくお前に勝てなかったよな。最初は……」

「そうそう。通算成績は私の二百五十勝、百十二敗、三百三十二引き分けだっけ」

「確かそうだな。やっぱり俺が結構負けてるな。でも、十歳くらいからはお前が五十連敗中だけどな!」


 リックはアイリスに負け続けた。でも、今はアイリスより強く、もう子供の頃の彼ではない。剣先を下に向けジッとアイリスを見つめるリック。


「(もう俺はお前とちゃんと対等に戦えるんだよ。お前、今、一人で何か悩んでるだろ? アイリスはいつもそうだよな。自分が何とかしようとして、黙って一人で行っちゃうんだよな。俺はそんなお前と対等になりたくて、強くなったところもあるんだぜ。だから…… ちゃんと話してくれよ。俺に! だって俺達は…… 幼馴染で友達だろ?)」


 アイリスから視線を外し、首を横に振ったリックはもう一度剣を水平にして右腕を引く。彼は黙って走り出しアイリスにめがけて飛び込んでいく。アイリスは笑って、両腕を下し構えを解いた。


「あきらめたのか? アイリス! じゃあ素直に逮捕されろ」

「だめよ。甘いんだから! リックは!」


 アイリスが手を頭の上に、かざして口が動いた。魔法を唱えるようだ。


「雷の聖霊よ。電子鞭エレクトロニクスウィップ!」


 地面から五メートルはあろうかという長さの電撃が生え、それが鞭のようにしなり、リックに向かって叩きつけれた。


「フン。こんなのソフィアの電撃魔法の速さに比べたらたいしたことない!!」


 リックは地面を蹴って飛び上がる。彼の腕の横にわずかにビリビリとした感触がする。電撃の鞭の間を縫うようにして飛んだリック、彼の横とを通り過ぎた電撃の鞭は空振り地上に叩きつけられた。アイリスはこちらに、手を向けたままでいる。リックは飛び上がった状態で、アイリスに剣を向けた。


「残念だな。アイリス。これじゃあ俺は倒せないよ」

「これは倒すんじゃないもん。だから甘いのよ。あなたは」

「えっ!? しまった!」


 上に飛び上がったリックの足首を目がげ手、電撃の鞭が伸びて来て絡みついた。直後にリックの足から全身に電撃が走る。


「ぎゃああーーー!」


 全身が痙攣し目の前が暗くなった。リックはアイリスの手前に落ちた。


「うぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!」


 リックの叫び声が森に轟く。倒れて転がるリックの足に絡んだ、電撃の鞭を使いアイリスは容赦なく電撃を浴びせ続けた。電撃を受け青白く光ったリックの体は激痛としびれで動かなくなっていった。


「引っかかったわね。リック。これであたたはもう動けないわよ」

「はぁはぁ…… クソ!」


 倒れているリックが何とか顔をあげると、少し離れたところでチャクラムを、構えるアイリスは自信満々な表情をしていた。


「でも、まだだ…… まだ動く!」


 リックは手をついて必死に起き上がろうとした。


「ダメよ! リック」

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 アイリスはリックに向かって何度も電撃を食らわせる。リックは声を上げながらも必死に立ち上がろうとする。


「もういい加減にあきらめてリック! 私の勝ちよ!!!」

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 数分の間、リックはアイリスの電撃を受け続けた。

 何度も電気を食らい体はうまく動かず、激痛で指をうごかすのさえつらい。だが、リックはあきらめない、彼は目の前にいる友人と話をしなければならないのだ。アイリスはまた立ち上がろうとするリックに悲痛な表情で口を開く。


「リック!? あなた…… 一体なんで? もう、やめて! これ以上したらあなた死んじゃうよ」

「ダメだ! アイリスがちゃんと話してくれるまで俺は…… 何度でも!」


 剣を地面にさし、杖代わりにしてリックは、ゆっくりと立ち上がる。


「リック…… ダメ!」

「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!! グッ!!!!!!!」


 立ち上がったリックに向かって電撃を強めるアイリス。しかし、今度はリックは剣を自分の支えにして倒れなかった。


「はぁはぁ…… さすがにきついな…… おい。自分で鞭うっておいてそんな顔するんじゃねえよ」


 目の前に立つアイリスは目に涙をため、顔を歪ませ今にも泣きそうな顔をしている。しっかりと自分の足で立った、リックはアイリスに微笑む。


「なぁアイリス、何があった?! ちゃんと話そうぜ」


 左手を前にだしてリックは、アイリスに優しく問いかける。


「リック……」


 自分の目の前に立つリックを、見上げアイリスがつぶやいた。


「リック、そんなにまでして私のこと…… やっぱり私のこと好……」

「だって俺達…… 友達だろ? お前は俺の大事な友達だ」

「ぶぅ! あったまきた! リックなんか大嫌い!」


 息を切らしてアイリスは電撃の鞭を消し、頬を膨らませてそっぽを向くのだった。


「今だ!」


 スキを見せたアイリス、リックは素早く自分の足首を捕まえている、電撃の鞭に剣を振り下ろした。音がして電撃の鞭が剣に斬られて消滅した。そのままリックは、アイリスに向かって駆け出す。


「えっ!? リック!?」


 慌ててアイリスがチャクラムを投げてくる。だが、もう遅い。体の前に来たチャクラムを、リックは右手に持った剣を右から左に振りぬいて弾く。


「アイリス! 覚悟しろ!」


 リックは右手首を返し、剣を体の左へ寄せた、姿勢で一気に距離を詰め、アイリスの右に回り込む。横を向いたアイリスとリックの目があう。


「これで終わりだ」

「キャッ!」


 リックが剣で斬りつけた、後ろに下がりながら、アイリスはなんとか剣をかわしたが。バランスを崩して尻もちをついた。


「まだまだ!」


 素早く剣を戻し、もう一度アイリスに向け、斬りつける。リックの剣がアイリスの頭の横へと向かっていく……


「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!! ダメーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」


 アイリスの悲鳴で、リックの剣は止まる。ちょうどアイリスの耳の近くで、彼の剣は止まった。顔をそらして泣きながら、アイリスは必至に耳を押さえてる。


「やめて! これは大事なの! 大事なの! やめて……」

「アイリス……」


 うずくまったアイリスは、リックが買った耳飾りを、必死に押さえて震えるのだった。もうリックにアイリスを、攻撃することはできなかった。


「なんだよそれ…… はぁ……」


 リックはつぶやくと、アイリスの肩に剣を軽く当て声をかける。


「ふぅ。これでまた俺の勝ちだな」

「リック……」


 顔をあげ涙目でリックを見つめるアイリス。


「あっ! お前!! スカート!」

「えっ!? あぁー! キャー! リックのエッチ! 恥ずかしい! バカ、見ないでよ!」


 尻もちをついて倒れた時にmアイリスのスカートがめくれて、タイツの下のピンクの下着が透けて丸見えだった。顔を上げて自分の状態を確認した、アイリスは両手で顔を隠して足をバタバタしている。


「ほらキャーキャー言ってないで早く直せよ」

「ちょっと!?_なんで慌ててないのよ? そこはもう少しきまずくなるとこじゃない? 女の子のパンツ見たんだよ?」

「はいはい。興味のない人のパンツじゃなあ」

「何でよ! これがソフィアだったらもっと喜ぶくせに!」


 アイリスの声に確かに、ソフィアの下着ならうれしいが、同時に見た後はさっきと同じようになビリビリ地獄にあうと想像し肝を冷やすリックだった。リックが剣をアイリスの肩から離した。アイリスは顔を真っ赤にして立ち上がりスカートを直すのだった。


「こらぁ! お主は何者じゃ! わしのアイリスちゃんに触るな!」

「いた!」


 リックは誰かに後ろから殴られた。振り向くとツルツルの頭に、立派な髭を生やした老人が、木の杖で彼に殴りかかってきていた。


「おわ! 何するんだ!?」

「あっ! マオ君! 何してるの!? ダメよ無理しちゃ」

「マオ君? おいアイリス! 知り合いなら止めてくれ!」

「はぁはぁ。ぜぇぜぇ」


 老人はすぐに息を切らして膝をついた。どうやら弱っているようで先ほど不意をつかれて叩かれた、リックも少し痛いだけで大したダメージはなかった。アイリスは老人の元に駆け寄り肩を抱いている。よく見ると老人は耳が尖り、口から牙が見えていおり、人間ではないようだ。


「ほらマオ君! 弱ってる上に持病もあるんだから! 無理しちゃダメでしょ」

「そうズラ! 先々代様は大人しくしないとダメズラよ!」

「おぉ。スライムよ。無事…… おぬしら何を捕まっておるのじゃ! 馬鹿者!」


 後ろの道からポロンとソフィアが歩いて近づいてくる。ソフィアはキラ君を縄で縛って引きずり、横のポロンはスラムンを片手に握って捕まえていた。


「ちょっとスラムンとキラ君どうしたの?」

「負けたズラ……」

「はぁ!? 負けたじゃないわよ。ちゃんとしてよ。もう!」

「そんなこと言ってもアイリスだってリックに負けたズラよ!!」

「はぁ? ちょっとなんで? スラムンが負けたこと知ってるのよ!? 見てたの?」

「アイリスがリックに勝てるわけないズラ」

「何よ! 失礼ね!」


 アイリスがスラムンと口喧嘩を始めた。仲間が捕まった状態で喧嘩をするアイリスにリックは呆れるのだった。


「はぁはぁ。アイリスちゃん。こいつらは? 知り合いなのか?」

「あぁ。この人は私の未来の旦那様リックとその仲間達よ」

「違う! 誰が未来の旦那だ? 俺はそんなんじゃない! 俺はグラント王国の第四防衛隊のリックだ」

「そうですよ。私はソフィアです。この!」

「仲間達じゃないのだ! ポロンなのだ!」

「ちょっとソフィア! 弓を向けるのやめなさい! しかもリックはなんで怒るのよ?」


 ムッとした顔でリックはアイリスを睨みつけた。怒った顔でリックはアイリスに顔を近づける。アイリスは頬を赤く気まずそうな顔をする。


「お前は嘘ばっかりつくな。アイリス」

「だって……」


 リックに詰め寄られると、アイリスは目をそらした。二人の様子を見た、アイリスが肩を貸している、老人が苦笑いを浮かべるのだった。ソフィアが老人を見て首をかしげる。


「アイリス。このおじいさんは? 誰ですか?」

「失礼な! エルフの娘よ。わしはおじいさんではない!」

「そうズラよ! この人は先々代の魔王ブッシャー様ズラよ」

「なーんだ。先々代の魔王様か…… うん? 魔王って!? ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーー?! なんで? 魔王がアイリスと一緒に居るんだよ? しかも先々代って?」


 アイリスが肩を貸している老人は、魔物達の先々代の魔王ブッシャーだった。勇者であるアイリスと先々代の魔王が、一緒にいることにリックは驚くのだった。

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