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第144話 アイリスを追いかけて

「(アイリスが…… 討伐対象!? そんな…… 馬鹿な…… はっ!!???)」


 カルロスがリックをジッと心配そうに見つめている。指令を伝えるカルロスの言葉に、一番動揺したのはリックなのは明白だった。カルロスを見たリックは必死に自分に落ち着けと命令する。

 

「(落ち着け…… 俺は兵士だ。アイリスは友達でも命令ななら…… でも…… なんで? アイリスが? 魔物と立てこもるって!?)」


 リックは必死に動揺を落ち着かせようとした。確かにアイリスの仲間は、スラムンやキラ君やタカクラ君といった魔物ばかりだ、しかし、リック達や町の人とも仲良く協力し今までやってきた。アイリスの仲間に助けられたことだって一度や二度ではない。必死に抑えていた彼の感情はすぐに爆発してしまう。


「隊長! なんでアイリスが!? どういうことですか? だいたいアイリスの仲間達はみんな人間に害を加えるようなやつらじゃない!!!」


 リックは気持ちが高ぶり、思わず叫ぶようにカルロスに詰め寄った。カルロスはこうなることが、分かっていたかのように冷静で、真面目な顔してゆっくりと頷く。


「あぁ。リック。もちろん僕も彼らが人間に害を加えるなんて思ってないさ」

「じゃあなんで? アイリスの討伐命令が……」

「リブルランドからの報告だと、アイリスは伝説の防具である天上の兜を盗み、魔物と共にリブルランドのリンガス島に立てこもっている」


 天上の兜とはリックとアイリスが食事をした際に言ってた伝説の防具だ。それをアイリスが盗んだと、リブルランドが主張しているようだ。

 

「アイリスがそんなことするはずが……」

「うん。お前さんの気持ちはわかるが、報告によると魔物と共に宝物庫に忍び込んで盗みだしたとある」

「そんな…… でも、それはリブランドの一方的な報告どこまでほんとか! なんでもっとグラント王国はアイリスを信じないんですか!!」

「リック。やめるんだ。いまグラント王国がアイリスの擁護をしても国同士の関係がこじれるだけだよ」

「イーノフさん……」


 カルロスに向かって、声を荒げたリックを、イーノフさんが制止した。


「でも、リックさんの言う通りですよ。アイリスさんはそんなことする人じゃないですよね!?」

「ありがとうございます。ゴーンライトさん」


 ゴーンライトがリックに続いて、アイリスのことをかばった。ソフィアとメリッサもゴーンライトと同じ気持ちなのだろう、静かに二人ともうなずいた。


「まぁ一つ確かなことはリック。お前さん達が今ここでアイリス達のことを擁護しても何も変わらないってことだ」


 冷静な口調でカルロスがリックに声をかける。彼の言う通り、ここでアイリスを庇っても、何が変わるわけなかった。メリッサは笑ってリックの背中を軽く叩く。


「じゃあ誰かがリブランドに行って、アイリス達から直接聞くしかないってことだね。もちろんその役目はあたし達だよね」

「あぁ。そうだ。適任は我々以外にはいないだろう。すぐ取りかかるんだ」

「わかったよ。リック、みんな! 早速アイリスのところに行って話しを聞いてやろうじゃないか!」

 

 優しくリックの肩に手を置くメリッサ、リックは大きく頷くのだった。


「(アイリス…… 待ってろよ……)」


 リック達はグラント王国の裏切り者となった、勇者アイリスに会いにリブルランドへ向かう。

 翌日、港町ルプアナから海軍の船に乗り、リック達はリブルランドへ向かう。船の甲板のへりに立ち、海を見つめるリックの背後から、ソフィアが話しかける。


「リック?」


 振り向いたソフィアは、心配そうにリックを見つめている。彼はソフィアに優しく微笑んだ。


「うん? 大丈夫だよ。ありがとう」

「きっとアイリスは何か理由が……」

「そうだね。あいつは俺達を裏切るようなやつじゃない…… でも……」


 リックはソフィアにゆっくりと近づく。


「ふぇぇぇ!?」

「ごめん。ソフィア。ちょっとだけ……」

「はい」


 ほほ笑んで優しい表情をしたソフィア。リックはかがんでソフィアの胸に自分の額をくっつけた。ソフィアは優しくリックを抱きしめて頭を撫でるのであった。

 南国の島国リブルランドは、グラント王国から船で、南のリブル諸島にある島国で、三つの大きな島と無人島を含む、八十を超える小島が数百キロの範囲に散らばって構成されている。リック達はリブルランドの兵士との合流地点へと向かう。合流地点はアイリスが、立てこもったリンガス島の隣ドロガス島だ。

 ドロガス島は小さい無人島で周りを、リブルランドの国旗を掲げた船が何隻も取り込んでいた。リブルランドの国旗には緑色の旗に王家の紋章である槍が二本交差する紋章が書かれいる。無人島であるドロガス島に、作戦司令部として屋があり、その周囲には兵士達が滞在するテントがいくつも並んでいる。

 リック達は海軍の船から小舟に乗り換えて、ドロガス島の司令部へ向かった。司令部は海辺に建てられた木造の小屋で、中には十人くらいが座れそうな、長いテーブルと椅子が置いてあり壁に地図が貼られていた。この小屋は近くの島から来る漁師が滞在し、漁をするためのもので今回の作戦で使うために急遽借り上げられたものだ。

 中に入るとリック達を見て、すぐに中年の男が歩いて近づく。彼は青い鎧に緑色の細く鋭い目をして口の下に長い髭を生やしていた。メリッサが男の前にでて挨拶をした。


「グラント王国、第四防衛隊メリッサ・ファニン以下六名、勇者討伐作戦に着任しました」

「リブルランド軍第一師団、師団長ジェラルド・コグランです。よろしく」


 ジェラルドはブルランドのアイリス討伐隊の指揮官だ。挨拶が終わるとジェラルドは右手でテーブルを指した。


「さっそく作戦会議を始めたいのですがよろしいですか?」

「わかりました。こちらからはあたしの他に二名を参加させたいんだけど?」

「かまいませんよ」

「じゃあ。イーノフとリック残って、他は外で待機しててくれるかい」


 ポロンとソフィアとゴーンライトは外に出され、リックとメリッサとイーノフが中に残った。メリッサが椅子に座り、リックとイーノフは彼女のすぐ後ろに立つ。壁の地図の前でジェラルドが話を始める。


「まずは現在の状況を確認しましょう。勇者アイリスは天上の兜を宝物庫より持ち出して、魔物の軍団を率いて……」


 リンガス島は砂浜と森があるドロガス島より、少しだけ大きい島で小さい村があるだけの島だ。アイリスはその村に魔物と一緒に立てこもり抵抗をしているという。


「本来は一気に部隊を投入して制圧したいところですが、いくつか問題があります」


 問題と聞いたリックは首をかしげた。ジェラルドは話を続ける。


「最初の問題はリンガス島の海の底に、勇者の仲間のクラーケンがおり大きな船で近づくと襲われる」


 クラーケンとはアイリスの仲間のタカクラ君のことだろう。彼は養殖のクラーケンだが、力はあり軍船を沈めることくらいは容易だ。


「次に天上の兜は我が国の国宝であり、制圧に失敗した場合に勇者達に破壊や隠蔽される可能性があること」


 国宝を人質に取られ、ジェラルドは慎重になっているようだ。


「最後は勇者が魔王軍の幹部と一緒にいるという情報があり、我々が部隊を展開させた場合に魔王軍の援軍を呼ばれる可能性があることです」


 目を見開いてリックは驚いた顔をする。アイリスが魔王軍の幹部と一緒にいる可能性があるという。ずっと魔王軍から世界を救うために戦って来たアイリスがそんなことをするなんて信じられなかった。

 

「そこで今回はまず少人数でリンガス島に潜入し、相手をかく乱して後に本隊を投入するという作戦でいきたいのですが?」


 会議に参加していたリブルランドの兵士達が頷く。メリッサはジェラルドに視線を向けた。ジェラルドさんは周りを見ながら、意見が出ないので先に話を進めていく。

 

「では、まずはどこの部隊が潜入するか決めたいのですが? 立候補はありますか?」


 席についているリブルランドの兵士達は、さっきの魔王軍の幹部という言葉で、全員が怖気づいており立候補はない。


「ここは…… そちらのグラント王国の方々にお願いしたらいかがでしょう?」

「そうですよね。グラント王国の勇者によって我が国は混乱してるわけですし……」


 リブルランド兵達がリック達の方を見て小声で話している。この任務をリック達に押し付けたいようだ。いつもなら不満に感じるところだが、今回は相手が自分の友人のアイリスで、本隊よりも先にアイリスに接触できるのは好都合だった。リックはアイリスと直接会って話が聞きたいのだ。彼の意思は決まった。


「俺が行きます」


 手を上げたリックに皆の視線が集まった。リックの目の前に座ってる、メリッサが振り返り、真剣な表情をして口を開く。


「あんた…… できるのかい? 戦いになったら、幼馴染に剣を向けれるのかい?」

「大丈夫です。俺が最初に接触すればアイリスを止められるかもしれないですし…… 行かせてください!」

「ふぅ…… わかったよ。行きな」


 メリッサが笑ってリックの腹に拳を軽く叩きつける。それから彼女はまた前を向いて、ジェラルドに向かって口を開く。


「こっちのリックのチームが潜入するよ」

「わかりました。ではお願いいたします」


 立候補もなくジェラルドは、リック達が潜入することを了承した。


「行くのか……」

「大丈夫か…… もしやつも裏切ったら……」


 リックを見ながら、リブルランドの兵士達が見てヒソヒソしゃべっていた。


「(嫌な感じ。文句があるならちゃんと言えよ。まったく……)」


 作戦はリックがリンガス島に潜入し、村を襲撃して相手をかく乱し、その後に本隊が突入する。夜暗くなるのを待ち、リック達はリンガス島に向かうのだった。


「いいかい? 何かあったらすぐに連絡して引き上げるんだよ」

「リックさん、ソフィアさん、ポロンさん、皆さん気を付けて行って来てくださいね」

「ありがとうございます」

「ポロン。あんたはちゃんとリックの言うこときくんだよ」

「大丈夫なのだ」


 リックとポロンとソフィアは、用意された小舟に乗り、リンガス島に向けて船を出した。ポロンが船を漕ぎ、魔法でソフィアが出した小さい光が、船の周囲を照らしていた。


「さて……」


 もらった地図を広げるリック。リンガス島は三日月の形をし、三日月の南側の先端部分に、小さい桟橋がある。村はちょうど島の中央にあり、桟橋から村までは道が伸びていた。


「タカタカーーー…… ぐううううう!!!」

「おわー大きいのだ!」

「このクラーケンさんはタカクラ君さんって言うんですよ」


 桟橋の近くにクラーケンの姿が、透明な海の中にうっすらと見えている。このクラーケンはアイリスの仲間で船を引っ張るタカクラ君だ。タカクラ君の姿を見た、ポロンが船をこぐ手を止め驚いていた。


「ポロン、ソフィア。ここからは静かにしてね」

「はーい」

「わかったのだ」


 タカクラ君を起こさないように慎重に小船はゆっくりと通り過ぎていく。無事にタカクラ君に、気付かれることなく、船は桟橋へと到達した。


「よし。リンガス島に着いたぞ」

「村はこっちですよ」

 

 桟橋で船を降りて森へと移動する。森の入り口から村へと続く道へと入る。見つからないようにソフィアの魔法を消し、真っ暗な道をゆっくりと村に向かって進む。タカクラ君が居て油断しているのか、見張りの気配はない。

 ポロンとソフィアの耳がぴくっ動いた。ポロンが立ち止まってリックは彼女に気付いて振り返った。


「なんか来るのだ」

「見つかったか!?」


 前方を指したポロン、リックは慌てて前を向く。

 

「そこの兵士! 止まりなさい! リンガス村にはいかせないわよ!」


 声がすると同時に周囲が明るくなった、道の横に置いてあった、何本もの松明に勝手に火がついたのだ。リック達が向かう道の先に、見おぼえのある人物が立っていた。リックは力なく首を横に振った、道の先に居たのはアイリスで、彼の後ろにはスラムンを頭に乗せたキラ君がいた。


「えっ!? リックなの? なんで? リブルランドに?」


 リックを見て驚くアイリス、どこか嬉しそうな態度だった。リックは真顔でアイリスに答える。


「アイリス…… 俺はお前を止めに来た」

「そっか…… 残念だけど。ちょっとそれは無理ね。リック…… 早くここから逃て! もうすぐここはひどいことになるわよ」

「なにを言ってる? だったら一緒にグラント王国に帰ろう」

「ダメよ!」

「待て!」


 手を伸ばしたリックの手を振り払うように、首を横に振ったアイリスは背中を向けて走り出した。リックはアイリスを追いかける。だが、リック達の前をキラ君が手を広げて塞ぐ。キラ君の頭の上に乗っているスラムンがリックを見つめていた。


「どいてくださいスラムンさん」

「ダメズラ。ここからは通さないズラ! いくズラ! キラ!」

「おぉー! スライムさんがしゃべってるのだ!」


 スラムンを初めて見たポロンが、スライムがしゃべっているのに驚いた。スラムンは目を丸くしてポロンを見た。


「うん? この子は誰ズラ!?」

「第四防衛隊の新人のポロンですよ」

「はじめまして! おらスラムンズラ! こっちはキラだズラ!」

「ポロンなのだ!」


 キラ君に乗った、スラムンとポロンがお互い挨拶してた。ソフィアはリックの背中を軽く押した。


「ここは私達に任せて先に行ってください!」

「わかったよ。ありがとう!」

「そうは行かないズラ! うわ!」

「どっかーんなのだ!」


 ポロンが素早く、ハンマーで地面をたたくと、スラムン達に土の塊が飛ぶ。必死にキラ君が盾を二枚前にだして土を防いでる。すきをついたリックは、スラムン達の横を駆け抜けていった。


「ソフィア! ポロン! ありがとう」


 リックははキラ君とスラムンの相手を、ソフィア達に任せてアイリスとを追いかける。松明が照らした薄暗い寂しい道を、リックは必死にアイリスを探しながら駆け抜けていく。


「クソ! どこに行ったんだ? あいつ…… おわ!」


 薄暗い道の先に一瞬だけ何か小さな物が光った。直後にリックの目の前にチャクラム飛んで来た。とっさにリックは左肩を後ろに引いて、体をひねりながら、横に移動しチャクラムをかわした。


「へぇ。やるなアイリス! でも、手の内は知ってるんだぜ」


 背中の方からわずかに音がするのがリックにわかった。かわしたチャクラムが戻って来たのだ。リックは剣に手をかけ、振り向くと同時に剣を抜いてそのまま飛んで来たチャクラムを叩き落とした。


「さすがリックね。でも、ここは通さないわよ」

「アイリス? お前、本当に? それでいいのか?」

「リック…… ごめん! 私はやっぱり……」


 前を向いたリック、アイリスがもう一つのチャクラムを構えている姿が見えた。


「なんだよ…… アイリス? どうして?」


 アイリスを見てリックは、さみしそうにつぶやき、剣を握る右手に力を込めるのだった。

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