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第142話 休日の訪問者

 夜遅くベッドの横で、リックはあくびをしながら、大きく背伸びをした。


「ふわあああ…… やっとポロンが寝てくれたよ。さっ。俺も自分の部屋に戻って早く寝ようっと……」


 目の前には布団をかぶり、静かに寝息を立ててるポロンがいる。


「ふわぁ、勝ったのだ! ムニャ」

「えっ!? あぁ。寝言か…… あーあ。もう…… ポロンはしょうがないな」


 喜んでる夢でも見てるのか、ポロンは足を上げて布団がはだけた。リックはポロンの頭を軽く撫でて布団を直す。


「まさかポロンが勝つまで寝ないって言いだすとは思わなかったよ…… 少し夜更かしさせすぎたな。ソフィアに怒られちゃうよ」


 ポロンの部屋で二人はあるゲームをして、ムキになったポロンが勝つまで、リックは付き合わされたようだ。まぁ、リックがポロンに気付かれないように、わざと負ければ夜更かしすることなかったのだが。リックは我ながら少し大人げ無かったと反省する。


「でも、明日は休みだし多少の夜更かしは許されるでしょう」


 都合の良い言い訳をつぶやき、リックはポロンの部屋から、家の中心にある広間を通って自分の部屋へと向かう。ポロンの部屋の隣のソフィアの部屋が少し開いて灯りが漏れてる。ソフィアまだ起きているようだ。リックはソフィアにポロンを、夜更かしさせたことを悟られないように、慎重に足音を立てずに静かに自室へと向かう……


「うん!?」


 屋の中からすり泣くソフィアの声が聞こえる。すぐにリックは扉をノックし声をかけた。


「ソフィア? 大丈夫? 入るよ?」

「はい」


 ソフィアからの返事を聞いたリックは、扉を開け部屋の中に入った。椅子に座っていたソフィアは振り向いて首をかしげる。


「リック…… どうしたんですか?」


 頬に涙の痕がつき目に涙をためたまま、リックの方を向いているソフィア。どうしたのか聞きたいのはこっちだよと、思いながらリックは微笑む。


「泣く声がしたからさ」

「えっ!? なっ何でもありませんよ」


 首を大きく振って慌てて涙をぬぐう仕草したソフィア、すぐに両手を広げてリックに自分の顔を見せる。


「ほら私は泣いてませんよ」

「そうか」

「ふぇぇぇ……」


 ソフィアが少しうつむいていた。リックは彼女の頭を撫でてから、部屋のベッドに座って黙って微笑む。しばらくしてソフィアは、ゆっくりと口を開いた。


「この間からジャイルがお父さん達と、同じパーティだったと聞いて考えちゃうんです。」


 ブロッサム平原、風馬(ふうま)の谷でリック達を襲った、魔女ジャイルは元冒険者で、ソフィアの両親とパーティを組んでいた。パーティは光の聖杯という秘宝を追っていたが、途中で教会の策略でソフィアの両親は、秘宝の件から手を引いたのである。


「何を考えちゃうの?」

「お父さんたちが聖杯の件から手を引かずに、ジャイルと一緒に行動してればよかったのかな。お父さん達がジャイルの前から消えた時の気持ちを勝手に考えちゃうんです……」


 話してる間に感情が高ぶったのか、ソフィアの瞳にまた涙がたまっていく。リックは黙ってソフィアの話を聞く彼女の気持ちはわかるが、ソフィアの両親は、教会と争うことに危険を感じていたのかも知れない。その為に決断したことは悪いことではない。それにリックにとって、もう一つ重要なことを、彼女は忘れている。

 

「でも、それはどうだろうかな…… もしソフィアのお父さん達がもしジャイルと一緒にいて教会に捕まっちゃったら……」


 ソフィアがこちらを見て首をかしげる…… リックは腰を浮かせて彼女の頬に両手を当てる。少し潤んだソフィアの赤い綺麗な瞳にはっきりとリックの姿が見える。


「俺がソフィアに会えなかったと思うから…… そっちの方が嫌かな」

「リック!」

「わっ!? もう……」


 嬉しそうに笑ってソフィアがリックの胸に飛び込んできた。抱き着いたソフィアは、彼の胸に頭を付ける、リックはそっと彼女を抱きしめ頭を撫でるのだった


「ジャイルのことは残念だけど…… 隊長も言ってたろ? だからと言って人を襲っていいわけじゃないって……」

「あっあの…… 今日一緒に……」

「いいよ。じゃあ行こうか」

「やった!」


 嬉しそうにソフィアは、リックから頭を離しベッドの枕に手をのばした。ソフィアは枕を持つと、脇に抱えるように持ち、リックの手を強く握った。立ち上がって二人でリックの部屋へ歩いていく。

 リックの部屋につくとソフィアは、嬉しそうにベッドに自分の枕を置き寝っ転がった。ゴロゴロと転がり止まったソフィアは、リックに向かって早く来いと手を伸ばす。服の胸元を少し開けた、ソフィアの顔が薄いピンク色で恥ずかしそうだった。今日は一緒に寝るだけではなく、もう少し頑張ろうと、リックは決意し彼女胸に飛び込もうと……


「リックー! トイレなのだ。連れて行くのだ」

「うわぁぁぁぁぁ!」


 勇んでベッドに飛び込もうとした、リックの後ろでポロンの声がした。急いでリックは振り返った、部屋の扉を開けポロンがジッと中を見つめていた。リックはごまかすように手を上下に動かしポロンに慌てて声をかける。


「ポッポロン?! どうしたの」

「一人でトイレは怖いのだ。リック! 連れて行くのだ」

「あらあら。なら私が連れて行きますね」

「あーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!! ソフィアがいるのだ。ずるいのだ! またポロンを仲間外れにするのだ? ダメなのだ!」

「えぇ!? ちょっとポロン!? トイレは?」


 リックとソフィアの枕の間に、無理矢理体をねじ込んできたポロン。しかし、すぐにトイレが我慢できずに、ソフィアに付き添われてポロンは出て行った。トイレから戻ってきたポロンが、自分の部屋に戻るわけもなく…… 結局、リックとポロンとソフィアの三人で並んで寝ることになった。

 ホッとしたような少し残念なようなリックは、複雑な感情で床に就くのだった。翌朝……


「うーん…… うるさいな。誰だ!」


 ドンドンと言う音がし、騒がしい声がし、リックの意識が眠りから覚めていき、視界が暗闇からボヤっとした光がさしこむ。


「いた! しかも…… 重い……」


 目が覚めたリックは、なぜか手をいきなり踏まれ、体の上に何かが乗っていた。


「起きるのだ! 起きるのだ!」

「そうですよ。リック起きてください」

「わっ!? もう……」


 リックの視界に笑顔で楽しそうに、彼の上に飛び乗って起こすソフィアとポロンがいた。目を覚ましたリックに気付くとポロンは飛びはなるのをやめた。


「もう…… 普通に起こしてよ!」

「だってこっちの方が面白いのだ!」

「そうですよ! 遅く起きた人はこうですよ」

「もう! この! 二人とも!」


 リックは自分の上に居る二人を、捕まえようと手を伸ばした。


「あっ! ポロン。逃げますよ」

「逃げるのだ」


 慌ててソフィアとポロンが、ベッドから出て逃げようとする。


「逃がすか! ほら捕まえたぞ」

「やなのだ! 逃げるのだ!」


 ポロンの手首を捕まえたリック、彼女は笑顔で彼の手を離そうと抵抗する。リック達のやり取りを、ソフィアはベッドの脇にほほ笑んでい見ていた。


「ほら二人とももうおしまいですよ。朝ごはんにしますよ」


 二人に声をかけ、ソフィアはキッチンに向うため、部屋に扉を開けた。


「やったのだ。ソフィアの朝ごはんなのだ」

「よーし。ポロン、ソフィアのお手伝いするぞ!」

「するのだー!」


 両手を上げて笑うポロンの頭を撫で、リックは彼女の手をつないで、ソフィアの後を追い部屋を出た。

 朝食の準備をするソフィアを手伝う二人、今日は休日で特に予定もなく三人でのんびりと過ごすつもりだ。朝食を食べ終えたリック達は広間でくつろいでいた。


「リック! 文字のお勉強を見てほしいのだ」


 ポロンがリックの座っている椅子の横に来て本を見せて来た。まだ、文字があまり読めないポロンは、休日に文字の勉強をしているのだ。


「いいよ」

「やったのだ」


 嬉しそうにリックの膝に座りポロンは本を開く。ポロンは本を読み、わからない字をリックに聞き彼が教えるのだ。


「うん?」


 玄関の方から音がした、誰かが訪ねて来たようだ。


「こんにちはー! 誰かいないのー? リックー?」

「誰か来たのだ。ポロンがお迎えするのだ」

「あっ! 待ってよ。ポロン」


 声を聞いたポロンが、玄関に飛び出していった。玄関の方を見てソフィアが心配そうにみつめている。


「ポロン…… 大丈夫でしょうか」

「うーん。いいよ。俺が見て来るから」

「お願いします」


 立ち上がったリックは、ポロンの後を追おうと立ち上がった。


「いらっしゃいなのだ」

「あら? あなたは誰?」

「ポロンなのだ! お姉さんは誰なのだ?」

「私? 私はアイリスよ。ねぇポロンちゃん、リックはいる?」

「リック? リックはいるのだ。リックー! お客さんなのだ!」


 尋ねて来たのはアイリスのようだ。


「お姉さんはリックのお友達なのか?」

「お友達じゃないよ。私はリックの未来のお嫁さんなのよ」

「ほええええええ?? リックのお嫁さんはソフィアじゃないのか?」

「あぁ。ソフィアには貸してるだけよ」


 ポロンにおかしなこと吹き込むアイリス、リックは慌てて急いで玄関に向かう。


「おい! アイリス! ポロンにおかしなこと吹き込むな」

「リックだー! 久しぶり! 会いたかったー!」

「おっと!」


 リックはいきなり抱き着こうとしたアイリスをかわした。ドチャっという音がし、アイリスは勢いよく床に倒れる。


「おい。大丈夫か? いきなり向かって来るなよ。あぶねえな」


 面倒くさそうに声をかけたリック。起き上がり膝を曲げ、尻を落としてぺたんと座って、アイリスはリックを睨みながら、不満げに頬を膨らませていた。


「なんでかわすのよ! 恋人達二人の再会は抱きしめあうんでしょ?」

「誰と誰が恋人だ? 俺とお前は幼馴染で友達だろうが」

「フン! リック嫌いーーー!」


 頬を目いっぱい膨らませ、不満げにリックを見てる。


「まったく力いっぱいそんな顔してるとそのままその顔で固まっちまうぞ」

「べー!!!」

「こら! ポロン。アイリスのほっぺをつっつかないの! ばっちいよ」

「ちょっと! いくら何でもひどくない?」


 眉間にシワをよせまたリックを睨むアイリスだった。ポロンはアイリスを興味深げに見ながら口を開く。


「お姉さんダメなのだ! リックに攻撃はなかなか当たらないのだぞ?」

「攻撃じゃないよー! 愛情表現! リックー! この子はポロンちゃんだっけ? 何なのよ? もう……」

「ポロンは第四防衛隊に新しくきた隊員だよ。アイリスこそ何しにきたんだよ?」


 目を見開いて驚いたような顔をし、アイリスはリックをまた睨みつける。何か悪いことをリックが言ったようだが、彼はまったくもって身に覚えがない。


「何しに!? リック! 約束忘れてない?」

「約束?」

「前にお昼ご飯一緒に食べるって約束したでしょ? いつまで経っても連絡ないから自分から来たのよ!」


 目を大きく見開くうなずくリック、アイリスは完全に忘れていた、反応をする彼にさらに目を鋭くするのだった。リックはアイリスに、恩赦の申請をしてもらった、その礼として一緒に昼ご飯を食べる約束をしていた。


「ごめんごめん。俺もいろいろ任務があったから、すっかり忘れたよ。」

「もう! やっぱり忘れてた! リックは今日はお休みでしょ? だから行こうよ」

「いいけど…… なんで? お前は俺が今日休みだって知ってるんだよ」

「ふふふ。S1級勇者の権限をなめないでもらえるかしら!」


 いやらしく笑うアイリス、自分の立場を悪用し、リックの休暇予定を探ったようだ。


「じゃあ、そろそろ昼だし行くか」

「やった!」

「ポロンも行きたいのだ!」

「あら? ごめんねぇ。ポロンちゃん、お姉さんとリックだけしか行けないのよ」


 アイリスが断ると、ポロンが残念そうな顔している。


「ごめんな。ポロン。ソフィアと留守番できるよな?」


 リックはポロンの頭を撫でている。さみしそうに小さくうなずくポロンだった。リックは彼女を見ながら、実はお姉さんじゃなくてアイリスはお兄さんなんだよと心の中でつぶやく。今、ポロンにアイリスのことを説明しても、ポカーンとなるだけだろうから、後でゆっくり説明することにするのだった。


「あっ! あと当然ソフィアも来ちゃダメだからね」

「わかってるよ。大丈夫だよ。ソフィアー! ちょっと来て!」


 リックがソフィアを呼ぶと、すぐに彼女は玄関までやって来た。


「なんですか。リック? あっ! アイリス、いらっしゃいです」


 アイリスの姿を見たソフィアは嬉しそうに挨拶をする。


「こんにちは。ソフィア! 元気そうだね」

「はい。アイリスも王都に帰ってきてくれて嬉しいです」

「えへへ。ありがとう」


 二人は出会ったころは、よくケンカしていたが、最近はなぜか仲が良い。


「ちょっとアイリスと昼ご飯食べてくるね」

「わかりました。いってらっしゃい」


 笑顔で手を振るソフィア。アイリスは驚いた表情でソフィアの顔を見てる。


「ソフィア? いいの? 私とリック出かけるのよ? 二人で?」

「リックとアイリスはお友達ですから出かけてもいいですよ?」

「あっあぁ…… ありがとう。じゃあ行ってくるね」

「はい。いってらっしゃい」

「それじゃあ着替えて来るからアイリス待ってて」


 リックは一旦自分の部屋に戻って着替えて戻ってきた。アイリスとソフィアは、玄関で仲良さそうに会話をしていた。ポロンは二人の間に立って話しを聞いていた。


「あっ!? 待てよ……」


 何かを思い出したリックは、腰のベルトに着けた金貨袋を取り出して中身を確認した。リックはソフィアに申し訳なさそうに声をかける。


「ごめん。ソフィア! 金が……」

「わかりました。待ってて下さい」


 ソフィアが玄関から、家の奥に戻って、金貨袋を持って戻ってきた。


「はい。無駄遣いしちゃダメですよ」

「ありがとう!」


 戻ってきたソフィアが、金貨袋から二枚の金貨をだしてリックに渡す。


「ちょっと! なんで? ソフィアからお金もらってるのよ?」

「えっ!? 一緒に暮らしてるからソフィアに管理してもらってるだけ……」

「はぁ!? なによそれ!?」

「だって…… ソフィアはああ見えてしっかりしてるし!」

「ポロンもソフィアにお金を預けてるのだ!」


 嬉しそうに両手をあげたポロンの頭を撫でるリック、その横でなぜか腕を組んでアイリスが不満げに見つめていた。


「なっなんだよ?」

「別に…… ちょっとソフィアに頼りすぎじゃない?」

「うるさいな。ちゃんと俺とソフィアで話し合って決めたんだからいいだろ」

「ふーん」


 目を細めるアイリス、リックは首をかしげる。アイリスは以前に家に来た時もいろいろと文句を言って来た。リックはソフィアとの生活にアイリスが不満をもつのが疑問だった。首をかしげているリックを見てアイリスはため息をつく。


「はぁ…… もういいわ! 早く行きましょう」

「おう。じゃあ、いってきます」

「いってらっしゃい」

「リックとアイリスいってらっしゃいなのだ」


 ソフィアとポロンが笑顔で手を振りリックを見送る。リックは二人に手を振り返し、アイリスと二人して玄関から外に出ていくのだった。

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