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第138話 現れた魔女

 シーリカは谷の中ほどで街道から小道にそれて歩いていく。小道は谷を囲む山に向かい少し上り坂になっていた。


「あゎゎ。こっちです。離れずについて来てください」


 先頭を歩くシーリカは、時々振り返り、リック達がついて来てるかの確認をしてる。先頭はシーリかとカルラ、少し離れてハクハクを抱いたポロンが歩き、ポロン達のすぐ後ろにリックとソフィアが並ぶ。


「わかったよ。心配しなくてもついて行くよ」

「あゎゎ……」


 振り返ったシーリカは少し暗い表情をしていた。カルラは振り返らないので、表情はわからないが、怖がってるのだろう少し体が震えていた。


「シーリカ…… なんでこんなことするですか?」

「あゎゎ…… ごめんなさい。黙ってついて来てください」

「ふぇぇぇ……」


 寂しそうにシーリカは声をかけた、ソフィアに静かに答えるとまた歩き始めた。


「ポロン。大丈夫かのう?」

「ありがとうなのだ! ハクハク、わたしは平気なのだ。わたしだって兵士なのだ」

「おぉ。そうじゃったな」


 ポロンとハクハクが小声で、しゃべっているのがリックの耳に届く。山の麓に近づいてくる。大きく切り立った崖のようなところに、石を切り出して削った祭壇のようなものができていた。祭壇は大きく劇場の舞台のように広く大きい。


「こんな物があったのか……」


 祭壇を見てつぶやくリック、王都に来る時に風馬(ふうま)の谷は通ったが、街道から離れているせいか祭壇には彼は気づかなった。


「あゎゎゎ。こっちです。わたしの前にでてください」

「わかったよ」


 シーリカはリック達の方を振り向いて、祭壇の方を指して前にでるように指示をした。リック達はカルラさんの背中に短剣を突き付けている、シーリカを追い越して祭壇にゆっくりと近づく。


「さぁ! リック達を連れて来ましたよ! 二人を解放してください」


 三人の後ろでシーリカが大きな声をあげていた。リック達の前にある祭壇の上には、二本の柱が立っていて、二人の人間が縛られてその横に一人の女が立っているのが見えた。

 柱に縛られているのは…… ミャンミャンとタンタンだった。二人はうつむいたまま目をつむっている。リックは縛られているのがミャンミャン達だと分かると声をあげた。


「ミャンミャン! タンタン!」


 大きな声でリックが、二人の名前を呼ぶが何も反応がない。ピクリとも動かない二人、リックは最悪の事態が頭をよぎった。


「あらあら。そんなに必死にならなくても平気よ。少し眠ってもらってるだけよ。はぁ、やっぱり、綺麗…… この娘…… 欲しいわぁ」


 ミャンミャンの頬に手を当てて軽く口づけをして女がこちらを向いた。リックは女の顔を見て睨みつけた。


「お前は……」

「フフ。久しぶりね」


 ミャンミャン達の横にいたのは、ブロッサム平原で遭遇したあの女だった。女はブロッサム平原で会った時と同じで、ピンク色の髪、丸く目の中に茶色の綺麗な瞳の幼い顔。細長くつばが大きい帽子をかぶりマントを着け、耳には花のピアスをつけていた。マントの下は胸を強調した胸元の空いた服と、裾に向かって幅が広くなった黒のフリフリなミニスカートに靴下を膝の上まで上げていた。


「お前は一体何者だ!?」

「私の名前はジャイル…… 百合の花の精霊に祝福されし魔女ジャイルよ。よろしくね」

「魔女? 一体何のためにこんなこと!?」

「この間やられたあんた達に仕返しに決まってるでしょ」


 ジャイルはにやりと笑って高らかに仕返しだと宣言した。直接ではなく、ミャンミャン達を人質にしシーリカを使うなど、仕返しにしては手が込んでいる。


「あゎゎ! さぁ、早くミャンミャン達を離してください」

「フフッ。シーリカ様は相変わらずお美しいですわね。わかってるわよ。まずはそこの二人をこちらに歩かせなさい。うん? なんで一人子供がいるのよ?」


 ジャイルがリック達と一緒にいるポロンを不思議そうに見ていた。プクっと頬を膨らませたポロンは、腰に手を当ててジャイルに叫ぶ。


「子供じゃないのだ。ポロンなのだ」

「ポロンは俺とソフィアの新しい仲間だ。俺とソフィアへの仕返しなら関係ないだろ? ポロンには手を出すな!」

「仲間なの。だったら連帯責任よ。一緒にこちらに歩かせなさい。かわいがってあげるから」

「やめろ」

「うるさいわよ…… この子達がどうなってもいいの?」


 ミャンミャンの顔をつかみ、リック達に見せるようにしてジャイルが叫んだ。悔しそうにするリックに、ポロンが笑顔で答える。


「大丈夫なのだリック。ポロンはリックの仲間なのだ一緒に行くのだ」

「ポロン…… そうだな。仲間だ」

「なのだ!」


 笑顔でうなずくポロンに、微笑み返して彼女の頭を撫でるリックだった。ポロンは覚悟を決め、リックはそれに感謝したのだった。


「うん!?」


 リック達の後ろまで来て、シーリカが申し訳なさそうな顔をしている。事情は察するが、今更申し訳なさそうにされても後の祭りだ。シーリカはジャイルに、聞かれないように、小声で話しかけて来る。


「リック…… ごめんなさい」

「シーリカ…… 君は最初から俺達をはめる気だったんだな」

「あゎゎ…… はい。申し訳ありません。ミャンミャン達を殺されたくなかったらリック達を連れて来いって脅迫されて……」


 ミャンミャン達の為に、シーリカはリック達をはめたのだ。落ち込みシーリカは下を向く。


「事情はわかるよ。でも、なんで黙ってたのさ。俺…… いや、ココや隊長でもいいよ。なんで相談しないの?」

「誰かにバラしたらミャンミャン達を殺すって…… それで、私……」


 リックの問いかけに、さらに落ち込んだシーリカだが、すぐに顔を上げて、俺にまた小さい声で話しかける。


「私が今カルラさんに使ってる短剣は偽物です。だからミャンミャン達が解放されたら敵を討ってください」

「そうか。わかった」

「カルラさん、巻き込んでしまって申し訳ありません。お願いですもう少し協力してください」

「……」


 返事がないカルラ。リックがカルラに視線を送ると、厳しい顔して何かを考えとしていた。リックは彼女に声をかける。


「カルラさん!? どうしたんですか?」

「えっ!? あっ! ごめん! …… わかったわ。ごめんなさい。急にいろいろ言われて混乱して!」

「あゎゎ…… そうですよね。ごめんなさい。」


 動揺した様子で話すカルラ。急にこんなことに巻き込まれ、いきなり脅していた人間から、協力しろと言われても混乱するのは当然だった。魔女ジャイルが少しイライラした表情でリック達を見つめていた。


「何をさっきから話してるの!? そう…… この二人がどうなっても良いのね。出てきなさい。あんた達!」

「「「「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」」」


 ジャイルが命令をすると、パープルゴブリンの集団が崖の上から、祭壇へ飛び下りて来た。その数は五十匹以上で柱を囲むようにしていた。


「早くしないと二人をパープルゴブリン達が殺しちゃうわよ」

「待ってください! 三人とも早く祭壇へ行ってください」

「待ちなさい。余計なことをしないように三人は手を頭の後ろにしなさい」


 ポロンはハクハクを自分の制服の胸にしまった。リック達は三人横に並び、頭の後ろで手を組んでゆっくりと歩く。ジャイルとの距離が、半分ほどになった時、シーリカがジャイルに向かって口を開く。


「さぁ。言う通りにしましたよ。そっちもミャンミャン達を解放してください」

「いやよ。ねぇ!? カルラ!」

「あゎゎ!? カルラさん!? きゃー!」


 悲鳴がして振り返ると、カルラがシーリカの腹に肘うちをして、バランスを崩しシーリカは転んだ。カルラは自分の腰にさしていた短剣を抜いた。カルラさんは転んだシーリカに馬乗りになり、首に短剣を突き付けて彼女を無理矢理に立たせる。入れ替わって今度はカルラが、シーリカの後ろに回って逆に短剣を突き付けた。


「シーリカ様…… 動かないで! リックさん達はそのまままっすぐ行きなさい!」

「あゎゎ!? カルラさん!?」

「ごめんなさい。私…… 私……」


 リック達は信じられないという顔でカルラを見つめている。ジャイルはリック達を見ながら静かに笑った。


「フフ。驚いてるの? そのカルラって子…… シーリカが余計なことをしたら人質に取るようにって私が雇ったのよ。カルラはかわいそうなのよ。病気の母親に送る薬代が足りないのよねぇ?」

「シーリカ様…… ごめんなさい」

「あゎゎゎ! 人の弱みに付け込むなんて!」

「あらぁ? 弱者救済をうたっている、教会の聖女のくせに、何もしてないあなたに言われたくないわ」

「あゎゎゎ……」

「それに都合よく瘴気を抜けたい人間なんかいないわよ。本当にお人好しなんだから! フフフ…… はっはっは!」


 最初は静かだったが、すぐにジャイルは大きな声で、シーリカを見下したように笑い始めた。悔しそうな顔をしたシーリカの横で、うつむいたカルラが何かを考えていた。


「やっぱり私できない!」


 カルラさんが短剣を振り上げて捨てようした。だが、ジャイルはカルラを睨んで目が赤く光らせた。


「大丈夫よ。カルラ…… あなたならできるわ」


 ジャイルの赤く光る目を見た、カルラはうっとりとした表情に変わった。ブロッサム平原でソフィアが操られた時と、同じだと気づいたリックはカルラに叫ぶ。


「カルラさん! 目をそらして!」

「えっ……」


 リックの声に反応したカルラはすぐに下を向いてジャイルから顔をそむけた。だが…… 間に合わなかった、直後に顔をあげたカルラの目がジャイルと同じように赤く光っている。彼女の顔つきも変わり、シーリカの首を乱暴に掴む。


「あゎゎ!? カルラさん?」

「うるさいわね。大人しくしなさい!」


 ポロンとソフィアは不安そうにリックを見た。だが、前後に人質を取られたらさすがのリックでも動けない。片方を助けているうちに、どちらかが殺されてしまう。せめてどちらかの人質だけでも解放されれば……


「ポロン…… ソフィア…… 行くよ」


 三人を助ける機会を待つことを選択したリック。二人に声をかけ前に歩き出した。リックとソフィアとポロンは、手を頭の後ろにしたまま、ゆっくり歩き祭壇の前までやってきた。


「さぁ。来てやったぞ! 早くミャンミャン達をはなすんだ」

「いやよ。これから楽しいショーの始まりよ」


 ミャンミャン達の周りをパープルゴブリンが囲む。パープルゴブリンはニヤッと笑って舌をだしている。


「あぁ。そうそう。こうした方が面白いわね」


 パンパンとジャイルが手を叩くと、びくっと痙攣しミャンミャン達が目をさました。二人は顔を上げ目を見開いき、キョロキョロと首を振り周囲の様子を確認する。


「あっ! リックさん? えっ!? なっなになに!? これ!?」

「おっお姉ちゃん!? 僕達どうして捕まってるの? 王都に帰る前に宿屋に泊まったのに!?」


 ミャンミャン達が目を覚まして錯乱しているようだ。どんな状態で連れてこられたか不明だが、目が覚めたら縛られて、パープルゴブリンに囲まれているのだから当然ではある。ジリジリとパープルゴブリン達は二人に近づいていく。


「やめろ! ミャンミャン達に何をする気だ?」

「ミャンミャンちゃんには悪いけど…… いっぱいこの子達の下半身を楽しませてもらうわ。まぁこの弟の方でも楽しめるでしょ。顔はかわいいし…… 男でも穴は後ろにあるしね」

「やめろ!」

「いや! リックさん助けて!」

「おっ、お姉ちゃーん!」

「だって、面白いじゃない。聖女様が助けたかったお友達がゴブリンに遊ばれるなんてさ」


 パープルゴブリン達が、ミャンミャン達の周りに集まっていく。ジャイルはミャンミャン達とパープルゴブリンから、少し離れた場所に行き、魔法で椅子を出して満足そうに座った。


「いやーーー! 来ないで!」

「助けてー!」

「ミャンミャンさん! タンタンさん! やめてください」

「そうなのだ。やめるのだ!」


 ソフィアとポロンが思わず声を上げる。だが、ジャイルは二人を見てほほ笑んでいる。


「あんた達もお友達が汚されるのをそこで大人しく見てなさいね。でも、大丈夫よすぐに同じ目に合わせてあげるわ」

「あゎゎゎ! ごめんなさい…… ミャンミャン…… みんな! わっ私が! わたしが……」


 シーリカが顔をくしゃくしゃにしは目をそらした。


「うるさいわね! 静かにしなさい! 何をしてるの! しっかり見なさい! これがあんたが起こしたことなのよ」


 カルラがシーリカの顔をつかんで無理矢理前を向かせた。祭壇の上にいるミャンミャンとタンタンにパープルゴブリンの手がのびる。


「やめて! 触らないで!」

「やだ! やめて!」


 パープルゴブリンは雑にミャンミャンの胸やタンタンの体に触れている。服を破こうとしているようだ。


「(クソ! どうすればいい? 考えるんだ…… なんとか近づければ反撃の機会が…… うん!? ハクハク!? ポロンの制服から抜け出してきたのか!?)」


 頭を抱えるリックの足元に、ハクハクがやってきて、裾を引っ張り何かを訴えてる。


「(どうした? えっ!? 弓?)」


 ハクハクはソフィアの腰に着けている、弓に向かって鼻をクイクイと動かしている。さすがにソフィアの弓が正確でも、あの数を一気には打ち抜けるわけはない。リックはハクハクの様子を見つめている。


「(待て…… そうか! カルラさんがシーリカから離れれば…… パープルゴブリンはミャンミャンを襲うことに夢中で俺達をみてないようだし…… いける!)」


 リックは何かを思いついたようで、すぐにソフィアに小声で話しかける。


「ソフィア? この距離ですぐに振り向いてカルラさんの手を射抜ける?」


 ソフィアはリックの問いかけを聞き、気づかれないように小さく横を向く。カルラの位置を確認し、リックに笑顔でうなずく。


「はい。出来ますよ」

「よし。俺が合図をしたらカルラさんの手を狙って矢を打って」

「わかりました」

「ポロン! ソフィアの後ろに立ってくれる」


 リックはポロンに指示をだし、ソフィアの後ろに立たせた。ポロンに指示をだした彼は、ソフィアの前へと移動した。リック達はジャイルに気付かれないように、ソフィアを挟み込むように位置を変えたのだ。


「ハクハクは俺が合図をしたらソフィアと同時に遠吠えをして奴らの注意を引いてくれ」

「おぅ。任せろ」

「ポロンはハクハクが吠えたら俺と一緒に来て! そして…… こうして…… くれるかい?」

「わかったのだ」

「みんな気を付けるのじゃぞ!」


 ミャンミャンの服をつかんだ、パープルゴブリン達がジャイルを見ていた。お預けをくらっているのか、早くやらせろと目で訴えているようだ。ジャイルはシーリカの方に視線を送ったまま、不敵な笑いを浮かべている。何かを待っているようだ。


「あゎゎゎ…… ごめんなさい…… ミャンミャン、タンタン…… 私のせいで……」


 シーリカの顔から生気が抜けて絶望した表情に変わった。


「フフ…… 良い顔ね! さぁ! もういいわよ。思いっきりやっちゃいなさい!」


 ジャイルは視線をシーリカから、パープルゴブリンにうつした。パープルゴブリンがミャンミャン達の服をひっぱり破こうとする。リックはすっと頭の後ろから、片手を離して人指指を立て、ソフィアに合図を出した。素早くソフィアがその隙に弓に矢をつがえた。


「ソフィア! 今だ! ハクハク! いけー! 一緒に来いポロン!」

「えい!」

「行くのだ!」


 リックとポロンは前にとびだし、一斉にミャンミャン達の方に向かう。ソフィアは振り返りながら弓の弦を引く。


「キャッ!」


 直後にソフィアの矢がカルラさんの手を打ち抜いた。悲鳴がしてカルラが短剣を地面に落とす。走っていたハクハクが止まって空を見上げ口を開けた。


「うわおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!」


 谷に鳴き声が鳴り響いた。ゴブリン達は、ハクハクの激しい鳴き声に、驚いて耳を塞ぎ動きが止まった。


「よーし! ポロン! 頼むぞどっかーんだ!」


 祭壇の少し前でポロンが、背中のハンマーを取り出して構えた。


「どっかーんなのだ!」

「俺がどっかーんされるんだけどな」


 ポロンが横に構えたハンマーにリック飛び乗った。叫び声とともにポロンが、ハンマーをリックごと振リ抜いた。飛び出したリックは魔法道具箱を開け空中で、もう一本の予備の剣を出して左右に剣を持つ。


「行くぞ!」


 両手に剣を持った状態で、リックはミャンミャンとタンタン間に着地した。勢いよく落ちた時に真下にいた、パープルゴブリンの頭を踏みつけたみたいで、グシャと言う音がして、リックの目の前に赤黒い水滴のような血が飛び散っている。


「なんだよ! じゃまするな」

「ウギャアアアアアア!!!」


 血など気にすることなく、リックは目が合った前にいる、パープルゴブリンの体に剣二本を突き刺す。パープルゴブリンの悲鳴が谷に響き渡る。グニュっという感触が剣から、リックの両手に伝わり、パープルゴブリンの体が刺された勢いで曲がっていく。

 スッと剣を抜くとパープルゴブリンは倒れ地面を血で染めていく。


「汚ねえ手で友達に触るんじゃねえよ」


 ミャンミャンに飛び乗っている、ゴブリンがリックを見た、目が合った瞬間にパープルゴブリンの黒い瞳に、リックの黒い刀身の剣が突き刺さった。


「さぁ。死にたい奴はかかってこい! あと…… 死にたくないやつも死ね! お前らは全員! 俺が殺してやる!」


 リックは目に入るパープルゴブリンを、片っ端から切りつけ串刺していく、リックの周囲や足元に肉片や内臓や手足が飛び散っていく。びちゃびちゃと言う音がなり続けて、段々とリックの周りにスペースが現れる。ゴブリンの達が後ずさりを始めたのだ。

 だが、リックは操られてやむをえないといえ、友人を傷つけたパープルゴブリンを、見逃すほどできた人間ではない。


「どっかーんなのだ!」


 リックに追いついたポロンが、パープルゴブリンの群れにハンマーの一撃を落とす。激しい音がして大きな一撃で、数体のパープルゴブリンがつぶれた肉片へと変わる。また、ポロンのハンマーの激しい衝撃と風圧で、周りのパープルゴブリンは倒されていく。ポロンは容赦なく連続でパープルゴブリンにハンマーを叩きつけていく。


「もう大丈夫だよ」


 周囲にパープルゴブリンがいなくなり、リックはミャンミャン達の拘束を解いた。すぐに二人はお互いの無事を確認し、抱き合って喜んでいた。


「リックさーん! 私こわかったー! でも信じてたー! いやーん!」


 ミャンミャンがリックに抱き着いてきた。怖かったという割には全然平気そうである。ポロンはタンタンを持ち上げ、両手に尻を乗せ状態で運んでいく。


「ねぇ! 今の私達って助けられた姫と助けた王子みたいじゃないですか!? ほら、こういう時ってやっぱり男女はキ…… うわ!」


 口をすぼめたミャンミャンの頬を、鋭い矢がかすめて通りすぎていった。


「何するのよ! ソフィアさん! 危ないじゃない!」

「手が滑りました」

「絶対うそでしょ!? 狙ったでしょ?」

「はいはい。喧嘩しないでまだ終わってないから離れて」

「えぇ……」


 リックは少しめんどくさそうにミャンミャンの手を外した。ミャンミャンは少し不満げな表情をして渋々リックから離れるのだった。


「ちっ! ほんとう男ってだけで腹が立つのに私の邪魔ばっかして!」


 ジャイルが手を上げると、祭壇の後ろに大きな物体が、ドスンと落ちてきた。音に気付いたリック達が視線を向ける。靄の中を巨大な影がウネウネと動いて近づてくる。すぐに大きな巨体がリック達の前に姿を現わすのだった。

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