第132話 最後の抵抗
古城に居た奴隷商人とローザリア帝国の正規軍はすべて倒された。
リックとポロンは、メリッサさん達と合流した後、助け出した村人達をビーエルナイツに引き渡した。古城の中庭でビーエルナイツ達が馬車に次々に村人を乗せて運んでいく。助け出した村人は、一時的にスノーウォール砦にて保護するらしい。
「グフフ！ 次はお前か…… どう料理してやろうか！？」
「キャーーーー！ 出たわね。下衆ロバート！ 最高！」
「「「キャーーー！ 素敵ー！」」」
ポロンが拘束した捕虜の顎を掴み、下衆顔をしているロバートを、エルザとビーエルナイツ達がキャーキャー騒いでる。
「ポロン…… あのお姉ちゃん達と目を合わせちゃダメだよ」
「わかったのだ」
遠巻きにビーエルナイツを見ながら、ポロンに注意するリックだった。メリッサがめんどくさそうに、騒いでるエルザに話しかける。
「あっあの！？ 楽しそうなとこ悪いんだけど、次はどうするんだい？」
「ゴホン！ えっ！？ ごめんなさい。つい…… ロバートがたぎらせてくるもので取り乱しましたわ」
「いいから、次はどうするの？」
「あっ！ はい。次はヴィガンの逮捕です。すでにホワイトガーデンの防衛隊が私たちの別動隊として逮捕に向かっています」
「やるね」
ホワイトガーデンの防衛隊が、ビーエルナイツに協力し、すでにホワイトガーデンのヴィガン逮捕へと向かっていた。メリッサはエルザ達の手際の良さに感心する。もうこの後は、ヴィガン逮捕の報告を待つだけだろうから、これで作戦は完了だとリックは少し安堵した。
「村人の護衛の為に一緒にホワイトガーデンまで来て下さい。そこでヴィガンの身柄を受け取ってスノーウォール砦に帰還して作戦は完了です」
「わかったよ。じゃあ準備ができ次第出発だね」
「はい。お願いいたします」
ビーエルナイツの帰還の準備が完了して移動が開始された。リック達には一台の馬車が、用意され全員が荷台へと乗り込んだ。馬車の荷台には幌が付いていて、中をイーノフが魔法で温めてくれるのでとても快適だ。
「ふわぁ…… なのだ！」
「あっ…… ちょっと！ ポロン……」
ポロンが大きなあくびをしてソフィアの肩にもたれかかっている。
「ポロン！ 寝ちゃダメだよ」
「でも起こしちゃかわいそうですよ」
「えっ！？ でっでも…… まだ任務中だし」
「いいよ。今日はポロンは頑張ったから寝かしてやりなよ」
座って腕を組んだ格好のメリッサが、静かにするように指を口に当てるしぐさをする。
「メリッサさん…… ありがとうございます」
「よかったですね」
「ははっ、でも、いつもならこういう子供みたいに寝るのはソフィアなのにね！」
「リックーーー！」
頬を膨らましてリックに向かってソフィアが手を伸ばしてくる
「ほら、暴れたらポロン起きちゃうでしょ」
「うっ……」
寝ているポロンを盾にするリック、ソフィアは悔しそうに手をひっこめた。メリッサ達はリック達の攻防をみてあきれて笑うのだった。しばらくして外の景色が森から雪原に変わった。昨日の夜から始まった作戦だったが、もう夜は明けて日が高くなり昼になっている。
「皆さん。ホワイトガーデンに着きました」
馬車が止まって御者台で馬車を操縦していた、ビーエルナイツの一人が振り返って俺達に声をかける。
「はいよ。じゃあ、行くよ」
「わかりました。ソフィアポロンを起こしてくれる」
「はーい。ポロンを起きてください」
「ふわぁなのだ。」
まだ、ポロンは眠そうだ。目をコシコシとこすり、あくびをしながらついてくる。リック達が馬車から降りると、既にビーエルナイツ達がホワイトガーデンの門の前に並んで整列していた。
「第四防衛隊の皆さんは先頭でお願いします」
エルザに先頭に並ぶように促されてリック達は列の一番前に立つ。列の少し離れた門の前でエルザさんとロバートさんが待っている。エルザ達の前にある、ホワイトガーデン門は閉じられていた。少しして門が開くと兵士が縄で縛った人間を連れてる。
縛られている青い瞳で、銀髪の中年の男がヴィガンだ。うつむいて生気なく歩いて、とても悪いことをしなさそうな、人の良さそうな顔に見えた。
「スノーガーデン防衛隊です。町長ヴィガンの身柄をスノーウォール砦守護担当ビーイングエルザ騎士団にお引渡しいたします」
「ビーイングエルザ騎士団、団長エルザです。ありがとうございます。」
敬礼してエルザがヴィガンの身柄を受け取ろうとした時である。うつむいた顔を急に上げ、目を見開いたヴィガンは、エルザの顔を覗き込む。
「貴様は…… スノーウォール砦の女騎士か！？ なるほど貴様ら…… ずっと私達の周りをコソコソと嗅ぎまわって、いったい何を企んでいる！」
「フフッ。あなたには関係ないことですわ」
「くそがぁ！」
ヴィガンが暴れて縄をほどこうとしている。だが、縄が外れる訳はない。防衛隊やビーエルナイツで使用している縄は、魔力と力を封じる魔法をかけられているのだ。
「殺してやる！ ガキ！」
「あれは……」
叫びながらヴィガンが、口の中で何かを噛んだ。直後に彼の口から紫の色の少し光を放つ煙が湧き出ている。リックはすぐにそれが何か気付きエルザに向かって叫ぶ。
「エルザさん！ そいつ人体強化魔法を」
「がぁがぁ…… よくわかったな。小僧。だが…… 残念だな。これは普通の強化魔法じゃないぞ」
紫の煙がヴィガンの体を包むと、体がどんどんと大きくなっていく。手足は盛り上がり縄がちぎられて、服は破れて中の肥大した肉体赤黒くなっていく。体格は人間の倍ほどの大きさになり、両手の指の爪が長く伸びて短剣のような形をし、頭髪は消えてつるつるの頭になっていた。
「チッ！ みんな行くよ」
ヴィガンがエルザとロバートに、不敵な笑みを浮かべて近づく。リック達は各自に武器を出してヴィガンへと向かっていく。
「エルザ！ 早くこっちへ」
ロバートがエルザをかばいながら逃がそうとする。
「がはは！ もう遅いわ！」
笑いながらヴィガンが手を大きく上げ、ロバートとエルザに向けて振り下ろした。長く鋭い爪がエルザを襲う。
「キャッ！」
「ぐわああ！！！！」
「ロバート！！」
エルザさんをロバートさんが突き飛ばした。ヴィガンの爪がロバートさんの背中を斬りつけた。白い鎧は引き裂かれて背中を斬りつけた。顔を歪めてロバートが、倒れそうになりながらもエルザさんの前まで歩いていく。
「ほう…… うまく身をかわして致命傷は避けたか。戦える騎士がまだ残っていたとはな……」
悔しそうな顔をするヴィガン。苦痛に顔を歪めてロバートは剣を抜いてヴィガンと対峙する。
「ダメよ。ロバート！」
「いえ…… 私は大丈夫ですから…… 早く逃げて下さい……」
「いやよ。あなたを置いてはいけないわ」
エルザが剣に手をかけてロバートさんの前に出ようとした。二人の様子を見ていたヴィガンは、いやらしく笑いながら手を上にあげた。
「離れたくないなら仲良くそこで死ね！」
ヴィガンが爪で二人を斬りつけようとしている。ソフィアが弓を構え、イーノフは杖をヴィガンに向けた。
「ゴーンライト！ 盾を構えろ！！！！」
「えっ！？ ちょっ！？ メリッサさん！？ うわああああああああああああああああああ！！！」
リックの少し前を走っていた、ゴーンライトの体が浮かび上がって消えた…… 直後に大きな音が響いた。エルザ達の前にいつの間にかゴーンライトさんが居て、両手に持った盾でヴィガンの爪を受け止めていた。爪の一撃でゴーンライトの盾が少しへこんでいた。
「今のうちに逃げてください！」
振り向いて逃げるように叫ぶゴーンライト、ロバートとエルザはうなずいて、二人でヴィガンに背中を向け逃げ出す。
「じゃまするな！」
素早く足を上げてヴィガンが、ゴーンライトを蹴り上げた。蹴られたゴーンライトさんは勢いよく吹き飛ばされた。
「うわぁ！」
「おっと！ 大丈夫かい？ よくやったよ。リック！ 後は任せたよ」
吹き飛んだゴーンライトに向かって、メリッサが飛んで彼を受け止めて着地した。すぐにゴーンライトを労った彼女はリックに指示をだす。
「まだまだ！」
エルザ達に向けてヴィガンが駆けだした。
「ソフィア！ あいつの足を止めて」
「はい」
素早くソフィアが、弓を構えて矢を放つ。鋭いソフィアの矢がヴィガンを捉えた。ヴィガンは矢を手ではたき落とす。ソフィアは続けてヴィガンに矢を打ち続ける。ソフィアの矢がヴィガンの肩につきささり動きが鈍った。
「ポロン！ 今だ！ あいつをどっかーんだよ」
「任せるのだ！」
ハンマーを持ったポロンが距離をいっきにつめて飛び上がる。
「どっかーんなのだ！」
ヴィガンの顔面にポロンのハンマーが叩きつけられた。
「えっ！？」
ヴィガンは立ったままでポロンのハンマーを顔面で受けとめていた。ゆっくりとポロンのハンマーが顔から、はなれるとそこには無傷のヴィガンが…… 着地したポロンは口を開けて驚いた表情をしていた。ヴィガンは涼しい顔で頬を撫で、肩に刺さっていたソフィアの矢を外して投げる。
「ははっどうだ！？ 今のわたしに普通の攻撃は効かないんだよ」
「もう一度どっかーんをするのだ」
笑いを浮かべながらヴィガンはポロンに近づき、ポロンがもう一度ハンマーを構える。リックは首を横に振った、さっきはポロンの全力の一撃なのにヴィガンは無傷だ。ポロンやソフィアの攻撃は効いてないのだ。
「ポロン下がるんだ。後は任せろ！」
「でも……」
「ポロン。命令ですよ。リックに頼みましょう」
「わかったのだ」
ポロンはゆっくりと下がってリックと入れ替わる。入れ替わる時に、悲しそうな顔をした、ポロンの頭を撫でるリック。
「ありがとう。エルザさん達は逃げられたよ。ポロンのおかげだ」
「えっ！？ うん！」
ほほ笑み声をかけるリック、ポロンは嬉しそうに笑った。
「よし！ あとは俺に任せて」
ポロンは笑顔でうなずく。リックは前に出てヴィガンと対峙し剣先を下に構えた。
「なんだ？ 貴様が相手か？ そんな細い剣で大丈夫か？ あのハンマーでも傷一つつかないんだぞ？」
「ふん。いいからかかってこいよ」
笑顔で自分に向かって、手招きをして来いと合図するリックを、ヴィガンは睨みつける。
「生意気な！」
怒った顔でヴィガンはリックに向かって、右手を斜めに振り下ろしてくる。冷たい空気を切り裂きながら、鋭く尖ったヴィガンの爪がリックに向かってくる。
「さぁ…… 爪切りの時間だ」
リックは向かってくる爪を見つめ、自分の前で引き付けると、タイミングを合わせて剣を振り上げた。大きな音が響き振り下ろされた、ヴィガンの右手の人差し指と中指と薬指と小指の爪が、四本空中に舞ってボロボロと落ちて雪に刺さった。
指先も一緒に切ってヴィガンの右手の指四本から血が出て先端がなくなっている。
「ぎゃああああああああああああああああああああああー！！！！」
斬られた指先と爪を見ながら苦痛に顔を歪めるヴィガンだった。リックは剣を左わきに挟んで血を拭って笑う。
「おぉ。悪い。爪と一緒に指先もやっちまったみたいだ。狙って爪だけを切るつもりだったんだ…… 嘘だけど……」
おどけた顔をするリック、ヴィガンは悔しそうに彼が持つ剣を見つめる。
「なっなぜだ！？ 普通の人間に俺の体を傷つけることなど？ ましてや貴様の細い剣では……」
「なんでだろうな！」
リックは体勢を低くして剣を構えて、相手との距離をつめていく。慌てたヴィガンは、残った左手の爪を、リックに向けて突きだした。右手と同じくように引き付けて、横に半身でかわし左腕の肘の辺りに剣を振り上げた。
空中にヴィガン左腕が舞い上がった。腕から吹き出したヴィガンの血が、積もる白い雪に飛び散り、地面を綺麗に赤く染めていく。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ！！！！！！！！！！」
膝をついてヴィガンは腕を上に向け、叫び声をあげるヴィガンだった。リックはゆっくりとヴィガンに近付いていく。ヴィガンのリックを見る目は、まるで化け物にでもあったみたいだった、化け物のような姿をしているのは自分なのにもかかわらず……
「きっ貴様！ 一体何者だぁ？ なんで？ こんなこと？」
すっと右腕を伸ばしたリックは、ヴィガンの喉元に剣を突きつけ笑った。
「何者？ 格好を見りゃわかるだろ？ 俺は王立第四防衛隊所属リック・ナイトウォーカー…… ただの兵士だよ」
「なっ！？ ただの兵士だと……」
左手の親指で自分の胸を指して名乗るリック。絶望した表情をしたヴィガンは観念したのか大人しくなった。
「あっあれ！？」
急にヴィガンの体がしぼんでいき前に倒れた。リックは倒れるヴィガンを受け止めることなくかわした。地面にうつぶせに倒れたヴィガンを見つめるリックだった。
「死んだのか？ いや…… 息をしてるか」
ヴィガンはかろうじて息があるようだ。古城や昨日の奴隷商人と同じローザリア帝国の人体強化魔法をヴィガンは使用した。つまりヴィガンはローザリア帝国とつながっていたのだった。
「連れて行って回復します」
「お願いね。殺さないようにしてね」
エルザの指示を受けた。ビーエルナイツがヴィガンを、担架に乗せて運んでいく。
「まっ回復したら死んだほうがよかったって、後悔させてやりますけどね。ぐへへ」
またロバートが下衆な顔をして笑う。自分も担架に乗っているのだが……
ホワイトガーデンの町長ヴィガンは逮捕された。これで奴隷商人の脅威は、グラント王国北部地域からなくなった。リック達の任務はこれで終わりスノーウォール砦に戻る。
メリッサ達はカルロスに報告すると先に王都へと帰っていった。さっき帰ろうとしたゴーンライトとイーノフを、またヴァージニアさんが止めようとしていたが…… 二人とも必死に追跡を振り切って急いで戻っていた。
リックとソフィアとポロンは、メリッサ達と一緒に帰ろうとしたが、ポロンが疲れてるみたいだからと、少し休んでから王都に帰れと言われエルザから部屋を借りて休憩をとっていた。
疲れてベッドで寝ていたポロンが目覚めた。
「じゃあ俺達もそろそろ王都に帰ろうか」
「帰るのだ！ でも…… ちょっとだけ雪で遊びたいのだ……」
「わかりました。遊びましょう！ リックは休んでていいですよ」
「ソフィア。ありがとう。でも一人で大丈夫？」
「はい」
帰る前に雪で遊びたいと、ポロンが言い出したので、ソフィアが一緒に連れて行った。リックはエルザから借りた部屋で、一人で休ませてもらうことにした。
「あれ？ 誰だ？」
リックがくつろいでいると部屋がノックされ誰かが訪ねて来た。リックは部屋の扉を開けた。
「はい。なんですか？」
「紅茶をお持ちしました！」
「リーナさん？！」
扉を開くと白いブリムを付け、青い色のメイド服を着た、リーナがワゴンを押して立っていた。
「いや…… でも、もう帰るので」
「いいじゃない。お茶の一杯くらい…… じゃない大丈夫ですよ。お時間はありますよ」
リーナの顔をジッと見つめるリック、リーナの言葉遣いに少し違和感を覚えたのだ。
「はい。じゃあ座ってお待ちになってくださいね」
黙っていたリックのすきをついて、無理矢理にワゴンを部屋に突っ込んできたリーナだった。リックはリーナの行動に目を細める。いつになく強引で、しかもワゴンを思いっきり押すからガタガタと音を立てている。果たしてリーナがこんなことをするだろうか、リックの違和感が徐々に大きくなっていく。
「えっと？ 何これ？ まっいいわ」
椅子に座っていたリックが慌てて振り向いた。
「（今、何これっていわなかったか！？ なんか不安だな）」
リーナはワゴンの前に立って、ぎこちない手つきで紅茶の準備をしている。
「（紅茶の注ぎ方…… 雑だな）」
ティーポットから注ぐときにズレているのに気づかずに、リーナは紅茶を注ぎ続けてソーサの上にこぼしていた。
「あっ！ なんでこれ垂れるのよ？！ きゃ！」
床に紅茶をこぼして慌てるリーナ。違和感が大きくなっていくリックだったが、ちょっとドジなリーナさんはかわいいという目が曇った感情も彼に芽生える。
「どうしましょう？ えっと！？ そうだ！」
「えっ？」
ワゴンの上に置いてあった、白い手拭きで床を拭くリーナだった。雑巾がワゴンの下にあるのに、手拭きを使うリーナに驚くリックだった。
「あれ？！ ちょっと！？」
膝をついて床を拭こうとすると、リーナの胸元の谷間がリックに見える。
「（リーナさん…… こんなに胸開いてみえたっけ？ 昨日はちゃんと胸元は閉じてあったはずだよな……）」
さらに床を拭きながらリーナは四つん這いでリックに尻を向けた。必死で気を付けてないのか、膝をついて床を拭いている、後ろ姿のスカートの中の下着がチラチラと見える。
「あれ？ やだこれ？！ もしかして雑巾じゃない？ もう！ なんでよ」
雑巾じゃないことに、気付いたリーナが、ワゴンの下の段から雑巾を取ろうとし、膝立になって探している。
「（あの…… パンツ見えてますって！）」
しゃがんだままワゴンの中を探すリーナのスカートの中が丸見えだった。白い布がふっくらとした太ももの間をチラチラをしている。
「（あぁ！ もう！ 気まずいな…… でも、パンツがくたびれた感じ……）」
緩くなって布がごわごわした、パンツをリーナは履いている。
「あった！ やった！」
「えっ！？ 何を！？」
また、四つん這いの状態で床を拭き始めた。リックに尻を向けるリーナは、必死に床を掃除し肘を曲げ頭を下げたため、スカートの裾から下着ががっつりとのぞいていた。
大きめの尻から緩んば下着が、尻肉との間に隙間ができている。
「（やっぱり、ゆるくてくたびれたパンツだな。でも、上品なリーナさんがこんなパンツを？ しかもちょっと汚れている感じがするし……）」
リーナの行動に首をかしげるリック。普段の彼女ならしゃがむときは横を向いたりしそうだが……
顔をあげ振り向いたリーナとリックの目が合った。ニカっと笑ってリーナはリックに手を振った。パンツ丸見せで微笑まれて気まずいリックだった。意を決した彼は下着がみえていることを伝えることにする。
「あの！？」
「なに？ いや、なんですか？」
「みっ見えてますよ」
「えっ！？ きゃー！ やだ！ リックのばか！ 変態！」
恥ずかしそうに、リーナは尻に手をあて、必死にスカートのすそを伸ばした。泣きそうな顔で起き上がり、リックに体を向けたリーナ。恥ずかしいのか、リーナはスカートの裾に、両手をいれその場に座りこんでしまった。
「（リック？ リーナさんは俺のこと呼び捨てにしないよな！？ なんかさっきの紅茶の注ぎ方といい。絶対におかしい）」
これまでの行動から、リックはとあることを確信しリーナに問いかける。
「もしかしてあなたはエルザさんですか？」
「ちっ違います。リーナです」
慌てた様子で首を横に振ったリーナは気まずそうにそっぽを向いた。リックは目を細め疑った顔をし、すぐに視線を窓に向けた。
「あっ！ 外でイーノフさんとロバートさんが手をつないでる！」
「えっ！？ うわー！ キャー！ なにそれ？ 尊い…… 尊いわ！ 待って！ リック！」
「わっ！ いて！」
リックを突き飛ばして立ち上がった、リーナは窓に突進していった。彼女の目が血走ってて怖かったリックだった。
「あれ？ ちょっと！？ 手をつないだ二人はどこにいるのよ？ リック！」
振り返りリックに向かって来て、必死の表情でリーナが詰め寄ってきた。
「ウソですよ。イーノフさんはさっき帰りました！ やっぱりエルザさんじゃないですか！」
「チッ…… なんだウソかよ！ それに、なんでバレたのかしら？ 完璧にリーナになってたのに！」
「いやいや、全然違いますよ！」
「はぁ！？ どこがちがうってのよ。どこからどうみてもリーナでしょ！？」
両手を広げメイド服姿を見せてくるエルザ、確かに見た目はそっくりある。リックは本人が影武者のフリをして、人を騙すとかややこしいことしないでくれと思うのだった。
「どこがってリーナさんならもっとこう上品なしぐさでやさしくて……」
「なっ失礼な！ あなたは本当のアナスタシア王女は私だってわかってるの？」
大きくうなずくリック。同時に彼はあなたのおかげで、自分の中の王女像が、くずれているんだよと心の声を発するのだった。
「どうして？ こんな真似をしたんですか？」
「えっ！？ だって…… 私だってこういう格好してかわいいって言われたいのよ」
「かわいいですよ！」
「えっ！？ ほんと？」
笑顔でかわいいというリック、もちろんこれはリーナと思っていたからかわいいのであって、最初からエルザだとわかっていたら出ないという意味の冗談だ。うつむいてエルザは小刻みに震えてる。リックは冗談がバレたのか不安になっていく。
「やったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー！」
「うわ！？」
顔を赤くしたエルザが両手を上げて飛び出して行ってしまった。
「あーあ…… なんで俺が……」
エルザ両手を上げた際に、トレイに手がぶつかり、ティーカップが揺れて倒れて茶がこぼれた。リックがエルザの零した紅茶を拭いてると、ソフィア達が帰ってきてなぜかポロンにいけませんって叱られるのだった。
「ポロン…… 紅茶を零したの俺じゃなくてエルザさんだよ」
「噓つかないのだ！ 誰もいないのだ！」
「はぁ……」
ため息をつくリック、叱られるリックを見てソフィアは笑っていた。
「（でも、エルザさん急に飛び出していって、どうしたんだろう？ ほんとにイーノフさんとロバートさんが手をつないでるところで見つけたのかな）」
雑巾で床を拭きながらリックは窓を見つめるのだった。
グラント王国北部から奴隷商人達は一掃された。エルザ達は、その後ホワイトガーデン町長と奴隷商人のつながりを利用し、王国内で発言力を高め、ホワイトガーデンを中心とした王国北部一帯を手中におさめたのだった。
