第131話 古城の戦い
エルザとリックとソフィアとポロンの四人で、地下に避難した人達を出すため教会の中へ向かった。扉が開き騎士の姿をした。エルザの姿を見た村人達は安心した表情をしていた。村人に続いてリーナさんが出てきた。彼女はリック達を見て嬉しそうにほほ笑む。
「いた!」
微笑んだリーナに見とれるリックは、ソフィアに頬をつねられるのだった。
「リーナさんなのだ!」
出てきたリーナにポロンが抱き着いた。ポロンは必死にリーナが頭に着けてくれた花を見せいた。嬉しそうにリーナはほほ笑み、ポロンの頭を撫でている。
「リーナさんはちゃんとおとなしくしてたのか?」
「うん。大人しくしてたよ。ありがとう。ポロンちゃん」
「こら! ポロン。リーナさんはエルザさんと違って大人しいよ」
「はぁ!? ちょっとリック! ひどいんじゃない!?」
リックの肩をつかむエルザだった。リックはエルザとリーナを交互に見て首を横に振った。
「リーナさんは静かで大人しいじゃないですか。上品だし」
「フンっ! リーナが上品ですって!? リーナだってすごいんだから」
「はは…… そんなことあるわけないですよ」
「ふふ、リーナはねぇ……」
勝ち誇ったようにエルザが、いやらしくほほ笑む。リーナがエルザさんの顔を見てハワハワしていた。
「エルザ様! やめてください」
「こんな大人しそうな顔して…… 夜…… 寝てる時に寝相が悪くて布団を蹴っ飛ばすのよ」
「きゃっ! エルザ様! それは秘密だって言ったじゃないですか! 私恥ずかしいです」
「えっ!? そんな…… リーナさんが布団を蹴っ飛ばすなんて……」
腰を曲げてエルザがわくわくした表情でリックの顔を覗き込む。リックは驚愕の表情を浮かべ……
「かっかわいい! リーナさん、かっわいいー!」
「リック様!?」
「はぁ!? なんでよ!?」
「リーナさんの寝相が悪いなんてかわいいです!」
上品で清楚な女性に一つくらい弱点があるのがリックの好みのようだ。ニヤニヤするリックに、エルザは悔しそうに眉間にシワを寄せる。
「違うんです…… それは…… エルザ様と一緒に寝た時の一度だけで…… 普段は……」
リーナがリックに向かって必死にいいわけしてる。彼にはそれもかわいく見える。スノーウォール砦へとやって来てから、エルザとリーナの距離はさらに縮まり一緒の部屋で寝たりしている。二人は気が合い仲が良かったが、王都に居たときは、二人ともそれぞれの役割が忙しく、自由に過ごせなかった。リックはエルザと一緒にリーナが寝てると聞いてうらやましかった。
「俺が一緒に寝てリーナさんの布団を直してあげたいですよ」
にやけて冗談を言ったリック。目を開いて少し驚いた表情をして、すぐにリーナが急に顔を赤くし下を向く。
「えっ!? そんな一緒になんて…… でも、リック様となら……」
「リック…… ちょっと来てください」
「えっ!? あっ!? なっなに!? ソフィア!?」
すごい力でリックの腕を引っ張り、教会の外にだすソフィアだった。教会の外にでて、入り口のすぐ横の壁にリックを押し付けて、ソフィアは前に立っている。眉間にシワがより目つきがきついソフィアは明らかに怒っていた。
「誰が誰と一緒に寝たいですって?」
「ちっちがうよ。冗談だよ」
「私と一緒に寝るのはいやがったくせにリック嫌いです!」
壁を背にして立っているリックに、頬を膨らましてソフィアが迫ってくる。悔しそうな顔をして、リックを見つめるソフィアの、赤く綺麗な瞳には涙がたまっていた。冗談だったとはいえリックはソフィアを傷つけたことを反省する。少し恥ずかしそうに頬を赤くしたリックが口を開く。
「だって…… ソフィアのこと大事にしたかったし…… 一緒に寝るなんて、恥ずかしかったから……」
「リック!? 私のこと大事って!?」
嬉しそうな表情に変わったソフィアが、彼にソフィアが抱き着いてきた。リックは驚いたが、すぐに彼女の背中に手を回して抱きしめた。腕の中から少し顔を上げて目をつむってる。
「えっ!? ちょっとまた?」
「やっぱり私のこと…… 嫌いですか?」
「わかったよ。泣かないで!」
少し下を向いてたソフィアのあごに手をそえてこっちに向ける。リックはゆっくり彼女の顔に、自分の顔を近づけ口づけをする。
「ほえぇぇぇー! 修羅場からのイチャイチャなのだ!」
「ポッポロン! なんでここにいるんですか!?」
「そうだよ。なんで!? ポロンが!」
リックとソフィアの横にポロンが立って、上を向いて口を開け、交互にリックとソフィアの顔を見ていた。
「違うのよ。こういう時はちげーよ。そうじゃねえよって言うのよ! ポロンちゃん!」
「ちげーよなのだ!」
「エッエルザさん!? なんでポロンを連れて急に出て来たんですか!?」
「えっ!? だってポロンちゃんがリック達を追いかけたから私もきちゃったの」
「来ちゃったのだ!」
首をかしげて来ちゃったとか、かわいく言うエルザとポロンだった。リックはポロンには微笑み、エルザには冷たい視線を向ける。
「はぁ、なんで? 普通にこういうことするかな!? リックもたまにはイーノフさんと密会とかしなさいよ!」
「するのだ!」
「はぁ…… 相変わらず訳のわからないことを…… ポロン! このお姉ちゃんの真似しちゃダメ!」
リックはエルザを指してポロンに注意をする。ポロンは不満そうに口をとがらせるのだった。エルザはうつむいて何かぶつぶつと言い出した。
「そう…… ソフィアに振られたリックは…… イーノフさんを思わず…… ぶつぶつ…… ふひひ!」
うつむいたままエルザは小刻みに震え、徐々に興奮してきたのがわかる。リックはこれは見せられないと、ソフィアとリーナと一緒にポロンを連れて宿舎に戻るのだった。
「えっ!? あっ! ちょっと」
気づいて追いかけてきた、エルザがリックに怒ってきたが、彼は反応せずに無視するのだった。
夜が明ける少し前に宿舎にロバートがやってきた。エルザに呼ばれリック達は一階に集められた。集合するとロバートが意気揚々と話を始める。
「奴隷商人達の居場所がわかったぞ」
「あら!? ロバート! 早かったわね」
「えぇ。ローザリア帝国人は屈強かと思ったのですが…… 他愛もなかったですな」
満足そうに笑うロバートの額がテッカテッカに光っていた。リックはロバートが、捕虜に何をしたか気になったが、怖いので聞かないでおこうと誓う。
「あぁ! 惜しいわぁ! やっぱりその闇に満ちた顔をイーノフさんやゴーンライトさんに!」
「エッエルザ? 話を進めていいですか?」
「あっ。はいはい。いいわよ!」
ロバートの話を始めた。聞き出した情報によると、グラント王国とローザリア帝国との国境近くに古城がある。古城はかつてこの地を、治めていた王の城だった。王は圧政を行い、民の反乱によって処刑された。王は成仏せずに城に残り、近づく人を呪い殺すと言われている。そのためグラント王国の人間はめったに城には近づかない。噂を利用したローザリア帝国の奴隷商人は、その古城を野営地として使っているという。
「その野営地に捕えた村人を集めてるらしいですぞ」
「わかったわ。じゃあさっそく野営地に向かいましょう。ここの村の襲撃に失敗したことに気付かれる前にね」
「それが一つ問題があってな……」
「問題!? なにかしら?」
「そこにローザリア帝国の正規軍も駐留してるらしい」
正規軍が駐留していると聞いてリック達は驚く。正規軍が奴隷商人とローザリア帝国とは関係があるということだろう。エルザはロバートの言葉に、珍しく真面目に悩んでいた。だが、エルザはすぐにいやらしく笑い、良いことを思いついたような顔をする。
「正規軍がねぇ。いいわ! 行きましょう!」
「しかし…… もし交戦となったら両国の関係が悪くなる」
「心配しなくても大丈夫よ。まさか奴隷商人と組んでグラント王国に侵入したなんてローザリア帝国は公表しないでしょう。うまくいけば証拠を押さえてローザリア帝国の影響をこの国から排除できるわ」
「わかりました。では皆に出撃の準備をするように伝えます」
「ロバート! あなたも少し休みなさいよ!?」
「はい。大丈夫ですよ!」
エルザから声をかけられて、ロバートは笑顔で頷いて宿舎を出て行く。椅子に座っているメリッサの前にエルザがたってきた。メリッサは顔を上げて、エルザの顔を見てニヤッと笑った。
「それで…… あたし達はどうするんだい?」
「正面から私達ビーエルナイツが攻め込みます。メリッサさん達は私達が合図をしたら、裏から侵入して村人たちを助け出してください」
「わかったよ。じゃああたし達は先に出発して敵の背後に隠れてるよ」
「お願いします」
「みんな行くよ!」
夜が明ける少し前にリック達は、ビーエルナイツよりも早く古城に向かう。地図をみながらメリッサが脇道をさした。彼女さした道は街道とは違い雪が積もって暗い。
「こっちだよ。みんな」
「寂しいところですね」
「そりゃそうだろう。リック。あんたねぇ。にぎやかな場所を隠れ家にしないだろう?」
「ははっ。そうですね」
笑って少し恥ずかしそうに答えるリックだった。街道を途中から離れ、森の中を進むと、遠くの方に松明の灯りがついているのが見えた。
「これが古城か……」
森の中に盛り上がった、小さい山とその上に建つ古城が見えてきた。古城は小さい砦くらいの大きさで、ところどころ壁が崩れて不気味な雰囲気を醸し出していた。小さい山の古城には、誰もいないはずなのに松明がついている。ここが奴隷商人達がいるので間違いないだろう。
リック達からまっすぐ前に見える、城の入り口に見張りがの人間が一人立っていた。
「メリッサ。これ以上近づくと見張りに見つかるよ」
「わかったよ。迂回して背後にまわり込むよ」
気づかれないように距離を取り、小さい山を迂回して古城の裏へとまわる。裏側の城壁の上に二人の見張りがたっている。
「裏は壁が残っていて二人の見張か…… さて、どうやって壁を越えて中に入ろうか」
「いや…… イーノフ。ここはハデに行くよ!?」
「ちょっとメリッサ!? ハデにって!?」
「任せときなって! じゃあ……」
メリッサが自信満々に答え、皆に隊列の指示を出す。ソフィアが最後尾で、その前にイーノフとゴーンライト、リックはその前にいる。先頭にポロンとメリッサが並ぶ。
「ほら、ゴーンライト! もっとちゃんと隠れな!」
メリッサが振り返って、ゴーンライトに注意をしてる。リック達は気づかれないように木の陰に隠れながら、少しずつ城に近づきビーエルナイツからの合図を待っている。
「来たね」
上空に赤い火の玉が発射されて爆発して光をはなつ。これがビーエルナイツの準備が整った合図だった。
「よし! 行くよポロン!」
「おおー! いくのだ!」
メリッサがヒョイっと肩にポロンを乗っけるとさっさと壁に向かって走っていく。リック達も二人に続いて壁に向かう。走りながら振り向いたメリッサが叫ぶ。
「ソフィア! 見張りを片付けて!」
「わかりました」
古城の裏に居た見張りは、上空に突如現れた火の玉に目を奪われていた。音もなく二人の見張りの背中を、ソフィアの矢が貫いた。バタバタと見張りは壁の下に落ちて行く。
「いけー! ポロン。大きいどっかーんだよ!」
「わかったのだ!」
肩に乗ったポロンをメリッサがつかんで壁に向かって投げる。壁に向かって投げられたポロンは飛びながらハンマーを出した。ポロンは体勢を整えてハンマーを構え壁に近づく。
「どっかーんなのだ!」
力強く振られたハンマーが壁へ打ち付けられた。叩きつけられたハンマーの周囲に亀裂が走り、爆発したようになって、ボコッと大きな穴が壁に穴が開いた。
「みんな。ポロンがあけたあの穴から城に入るんだ!」
メリッサの指示でリック達は壁から城の内部へと侵入した。侵入した部屋には、大きな檻が置いてあり、中には縛られた人達が居る。檻の周りには赤い鎧を身に着けた、ローザリア帝国の兵士が十人ほどいた。
「えっ!? おい! 壁が!? グハッ!」
「グラント王国の村人を返してもらいにきたよ」
壁の穴に驚いて止まっていた、ローザリア帝国の兵士をメリッサの槍が貫く。一斉に兵士達がメリッサさんの方をむく。
「おい!? お前ら! グハッ!」
「「「ぐええ!?」」」
「「「「ぎゃあー!」」
「ブハ」
「ぐええええええええええええ!!!」
「えっ!? ちょっちょっと!! みんな早すぎでしょ?」
剣に手をかけ、扉の穴を抜けた、リックが声をあげた。メリッサの方をむき、武器を取ろうとした、兵士に三人に矢が飛んでいき頭を貫いた。その横にいた三人の兵士達の頭は、一瞬に炎に包まれて真っ黒に焼かれていた。メリッサの槍は近くに居た二人を瞬時に貫き、逃げようとした最後の一人に向かって、大きなハンマーが飛んできて壁に体ごとめり込んだのだ。全員の手際の良さにリックは置いてけぼりを食らったのだった。
「よし! イーノフ! 檻を片付けてくれるかい?」
「はいよ。メリッサ、みんな離れて!」
檻の扉の近くから人を遠ざけると、イーノフの魔法で檻の扉を破壊する。
「じゃあ全員を助けだすよ」
ポロンとメリッサが周囲を警戒して、ソフィアとイーノフが穴から外に出て外の安全を確保するのだった。
「みなさん。もう大丈夫ですよ」
リックが扉の入り口に立って、ゴーンライトが中の人達を確認して檻の外に出している。立てないほど、衰弱してる人には、ゴーンライトは肩を貸したりしていた。
「あっあの!? 兵士さん」
「どうしました!? 早くにげてください」
「いえ…… 娘を…… 娘と妻を助けてください」
一人の男がリックの足元に縋りついてきた。リックは娘という言葉を聞いて気付く、この檻の中には男性しかいなかったのだ。
「女は出荷前に中庭で品定めすると言って…… さっき連れて行かれてしまって……」
「わかりました。すぐに助けに行きます」
リックはメリッサの元へと、駆けつけ男性から聞いた話を伝える。
「わかった。リック、ポロン! 二人で女性たちの救出をお願いね」
「はい!」
「わかったのだ!」
リックはポロンを連れ、建物を通り抜け中庭へと向かう。城の外が騒がしい。ビーエルナイツが突入して戦闘が行われてるようだ。城内では敵の抵抗もなく、
リックとポロンは建物の出口から、中庭に出た。荒れて柱などが崩れた中庭の、中心に縛られた女性が入った檻が見える。中の女性達は服をはぎ取られて裸で寄り添っていた。
「ひどいな…… あれは!?」
城の正面から中庭の入るところに、大きな男が四人いて、その前にグラント王国の騎士の白い鎧に身をまとった男女が居る。
「白い鎧はビーエルナイツだよな。でも…… あいつらは……」
男たちは赤い胸当てだけをつけ、体が筋肉で盛り上がって背が高く異様に大きい。確かにローザリア帝国人は、身長が高い人間が多いが、いくらんなでもでかすぎる。ふとリックは昨日の玉をかじった男が同じような体格なのを思い出した。
「もし昨日のやつと同じなら…… まずいぞ」
リックはすぐにポロンの方を向き彼女に声をかける。
「行くよ! ポロン!」
「わかったのだ」
リックとポロンは急いで騎士達と、男たちが戦っている場所に向かう。男達は剣で切られても平気なのか、騎士の攻撃が通用していないようだった。
「いや! やめて!」
一人の女騎士が倒され、男が馬乗りになって、鎧を無理矢理はぎ取ろうしてる。
「グラントの女はどんな味だ! 試させろ!」
「やめなさい! この!」
女騎士を助けようと、水色の髪の女性器騎士が男に切りかかった。
「じゃまだ!」
「きゃあ」
男が助けようとした女性騎士を手で払った、女性騎士は吹き飛ばされ、走っているリックにむかって飛んでくる。とっさにリックは女性騎士を受け止めた。
「おも!」
「はっ!? 失礼な! リック!?」
「エルザさん!?」
「よかった。まっいいわ。文句は後ね。あの子を助けて!」
「わかりました」
受け止めたエルザをそっと地面に下したリック、しっかりとした足取り立つ、彼女のけがは大したことはないようだ。男に向かって走りながら、リックの方を心配そうに見ているポロンにむかって彼が叫ぶ。
「ポロン! 大丈夫だよ。それよりあの男をドカーンして!」
「わかったのだ!」
「えっ!? ポロンちゃんで大丈夫? あいつら強いわよ?」
「平気ですよ」
男に近づいたポロンは両手で持った、ハンマーを横に構えて、自分の背中の方まで引いた。
「どっかーんなのだ!」
馬乗りになっている男の肩付近にポロンが横から一撃をくらわした。グシャと言う音がして男がゆがんで吹き飛ぶ。上半身が吹き飛んで、馬乗りになっていた下半身と、抵抗する女性騎士を押さえつけていた腕が、ポロンのハンマーの勢いに負けてでちぎれて残っている。
薙ぎ払われた血が縦に地面に散らばり、何が起きたのかわからなく呆然としている、女性騎士の頬には点々と血の痕が残っている。
「大丈夫なのだ?」
「うん…… 平気よ。ありがとう」
腕と下半身をどかした女性騎士を、ポロンが手を引っ張って起こした。他の騎士達と戦っていた、クレイモアを持った三人の男がポロンの方を向く。片手に持ったハンマーの、柄頭を地面に叩きつけ、ポロンは二カッと笑った。
「さぁ来るのだ!」
「なめやがって!」
「はははっ。俺は一度獣人とやってみたかったんだ!」
「俺も!」
一斉にポロンに向かって男たちが駆けてくる。さすがに三人いっぺんではポロンでもきついだろう。リックは慌ててエルザに声をかける。
「エルザさんはここにいてください」
「うっうん」
リックは剣を抜き急いでポロンの近くへと走り出した。
「リック。来たのだ」
「もう、無茶したダメだよ。後は俺に任せて!」
ポロンの前に立つと、赤い鎧を着けた大きな、三人の男たちはリックに視線を向けた。
「来い。俺が相手だ!」
「なんだぁ!? 男か? 男はいらねえな!」
「あぁ。俺もお前はいらねえ。死ねよ」
剣先を下にして構えたリックに、三人の男がクレイモアを構えて突っ込んでくる。三人は前方に一人、左斜め前から一人、右斜め前からと一人と別れて向かって来た。
「「「死ねえーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」」」
一斉に斬りかかって来る男三人。リックはクレイモアの軌道を見ながらにやりと笑った。
「タイミングがズレすぎだよ……」
わずかに左斜め前から両手で、振り下されたクレイモアが先に、リックに勢いよく向かってくる。クレイモアを左にかわしたリックは、男の横に入れ替わるように移動する。がら空きの男の脇腹をリックは剣で突いた。硬い感触がリックの手に伝わるが、彼の新しい剣は、相手の鎧を簡単に突き抜けた。
「グハッ!」
叫び声を男の動きが止まり、リックは彼の脇腹から剣を抜き、リックは血が噴き出ている脇腹を蹴りつけた。
「よっと」
男は倒れながら横にフラフラと移動する。
「おっおまえ!? 邪魔だ」
正面から斬りかかった男が、倒れそうな男に勢いあまって突っ込んできた。ガシャっという鎧がぶつかる音がして、男二人は至近距離で重なる。リックは男たちの背後にすっと移動する。
リックは男たちの背後から剣を突き刺した。剣を持つ右手に硬い感触が伝わる。リックの剣は二人の簡単に胸を貫き、刀身に血が滴り落ちる。
「さてと…… 最後だな」
剣を抜いて視線を、最後の一人に向けると、彼は何が起きたのかわからず、攻撃をやめ呆然としている。リックと目が合うとハッという顔をして悔しそうにする。
「クックソ! この化物め!」
「そんな異様に大きい体のやつに言われたくねえよ」
慌てた様子で最後の男が、クレイモアを横からだして斬りつけて来た。至近距離で鋭く伸びて来たクレイモア、リックでもかわすのは少し難しそうだった。
「ほらよ」
リックはタイミングを合わせて剣を振り上げた。ガキーンと言う音がして相手のクレイモアが真っ二つに折れた。黒精霊石製の新しい剣シャドウフェザーは、前の剣と比べ強度と切れ味は段違いに優れている。
「ほらよ」
クレイモアが折られて、バランスを崩してる男にリックが腹に蹴りをいれる。
「グハッ!」
蹴られた男は仰向けに倒れた。
「えっ!? ばっ馬鹿な? そんな細い剣で…… ローザリア大剣を砕くなど…… 来るな! 来るなーー!」
上半身を起こして男が叫ぶ。男は近づいてくるリックを、恐怖に怯えた様子で見つめていた。
「終わりだな」
リックは倒れた男の胸を足で踏みつけ、もう一度倒すと男の首に向けて剣を……
「待ちなさい。リック!」
「エッエルザさん……」
呼びとめられて振り向くと、エルザがリックに向かって走ってくる。
「どうしました?」
「拘束して! 捕虜にして!」
「えっ!? わかりました。ポロン! 縄をお願い」
「ハイなのだ」
ポロンが縄を持ってきて拘束して、リックは男の喉に剣を突き付けている。男は静かに悔しそうな表情をして座っていた。
「うん!?」
縄で縛らテイル男の体がしぼんでいく。これは昨日の奴隷商人と同じだった。
「ふーん。人体強化魔法か」
男の様子を見たエルザがつぶやく。人体強化とは、攻撃力や防御力を、一時的にあげる魔法だ。しかし、魔法で能力を上げる際に見た目が変わることはない。リックは首をかしげてエルザに尋ねる。
「でも…… こんなに見た目が変わるほどの魔法なんて?」
「おそらく限界を超えるような仕掛けをしてるのよ。昔からローザリア帝国は兵士に無理矢理に人体強化魔法をかけて強くするのよ」
リックに答えるエルザ、彼女がいうには以前は北国で、人口の少なかったローザリア帝国では兵士が集まらず、強化魔法で兵士を強くして補っていたという。会話をしているリックとエルザの横で、ポロンが中庭の中心にある檻を見て首をかしげている。
「なんで!? みんな裸なのだ?」
「なっなんでもないよ。ポロンは向こう向いてなさい」
「わっ!? ばか! リックの変態! あんたもジロジロ見てないで向こう向きなさいよ。ほんと最低ね! ここは私達がするからメリッサさん達を呼んできて!」
エルザに叱られるメリッサの元へとリックだった。
リックとポロンはメリッサ達のところまでもどった。なお、ポロンはソフィアに裸の女性が居たと報告したため、理不尽だがリックはソフィアに少し睨まれるのだった。