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第129話 彼女の傷

 朝、メイドのリーナがやさしくリックを起こしに…… 来てくれるわけもなく彼は、ソフィアとポロンに飛び乗られて、起こされるのだった。


「いたた…… もう少しやさしく起こしてよ……」

「フフン。私達より早く起きないリックが悪いです」

「悪いのだ」


 ソフィアはリックの上に覆いかぶさり、ポロンはベッドの上に立って腰に手を当てて笑っていた。


「調子に乗ってこの!」


 リックは素早く体を起こすと、ポロンを捕まえてくすぐった。


「わははは! やめるのだ」

「ポロンを助けるです」

「わっ! ソフィア!? やめて! わははは」


 ソフィアがポロンを、助けようとリックをくすぐる。三人でベッドの上で、しばらくじゃれ合っていた。


「何をやっているんですか! ベッドの上で遊んじゃいけません!!!」


 じゃれあっていると、リーナが部屋に来て、行儀が悪いと三人とも叱られるのだった。

 リックとソフィアとポロンの三人はは準備をして、メリッサ達との集合場所である砦の中庭に向かうのだった。中庭ではビーエルナイツが遠征の準備をしていた。ここスノーウォール砦から、目的地のスジー村までは歩いて半日くらいだが、ビーエルナイツもリック達と同じで、全員がテレポートボールを持っててすぐに移動することができる。


「やっぱり金ってすごいんだな……」


 遠征の準備をする騎士達を見てリックが驚いた様子でつぶやく。高い給金で人を集め、二十人くらいだったビーエルナイツは、もう五百人に増えていた。また、テレポートボールも高いのビーエルナイツ全員に持たせている。なお、彼が一番の驚いたのは、ちゃんとエルザが装備も買ってることだった。リックはエルザが、本とか壁画にしか、金を使っていないのかと思っていた。


「じゃあ、あたしらは先に行ってるよ」

「はい。私達は村に入らず少し離れた場所に野営してますので、奴隷商人が攻めてきたら合図をお願いします」

「あんた達が来る前にあたしら片付けちゃうかもよ?」

「構いませんよ。一人だけ生かしておいて頂ければ!」


 笑顔でエルザさんと話していたメリッサが、振り返りリック達の方に歩いて来た。これから第四防衛隊はスジー村へと出発する。


「リック様!」

「あれ? リーナさん? どうしたんですか? その格好?」


 呼ばれたリックが、声の方を向くとリーナが革のブーツと防寒用のフードの着いたマントを着て、リック達に向かって手を振って歩いてくる。彼女の頬が寒くてちょっとピンクになっててかわいくリックは思わず口元が緩む。


「私もスジー村にご一緒いたします」

「えっ!? リーナさんが一緒にですか?」

「はい。作戦が終わるまで、私が皆さまの身の回りのお世話を仰せつかってますので」

「ダメです。お断ります」

「シュン…… 悲しいです……」

「ちょっとソフィア!」

「ほえー! また修羅場なのだ!」


 ポロンの言葉にリックが困った顔をした。ソフィアはリーナが同行するのを、断ろうとしたが、リックが何とかなだめてリーナも一緒にスジー村に行くことになった。

 テレポートボールを使ってリック達はスジー村へと向かった。雪山に囲まれた小さなスジー村は、グラント王国の北に位置するローザリア帝国との国境から近く、村にはローザリア帝国からの、行商人がよく滞在している。

 村の真ん中には教会があり、温かみのある木造の家が並び、魔物などが侵入しないように周りを木の柵で囲んである。リック達は村の防衛隊の人たち挨拶しエルザが手配した宿舎で待機する。

 待機する宿舎は王都の貴族の別荘で、エルザ達がこの作戦の為に借り上げた。宿舎は広い二階建ての建物で、二階は個室となっていて、一階はみんなでくつろげるように広い広間がある。

 夜まで宿舎で待機となったのだが、リックは荷物を置いてすぐにポロンに探検するのだと、手を引かれて宿舎の中を歩くことになった。


「うん!? 宿舎の入り口に人影が…… 誰だろう?


 リックはポロンを連れて入り口に近づき確認する。


「リーナさん? どちらに?」

「村の近くの森へ行ってきます。そこに綺麗な雪見花(ゆきみはな)が咲くんです。摘んでお部屋に飾ろうかと」

「そうですか。気を付けてくださいね」

「お花! わたしも行きたいのだ! リック、リーナさんと一緒に行っていいのだ?」

「うん!? あぁ。夜まで待機だけど…… ポロンが一緒について行ってもいいですか?」

「はい。大丈夫です」

「ありがとうございます。じゃあポロンはちゃんとリーナさんの言うこと聞くんだよ」

「大丈夫なのだ」

「ふふ。じゃあポロンちゃん一緒に行きましょう」


 ポロンはリーナに手を引かれて近くの森に向かった。振り返りポロンが、見送るリックに手を振ってきて、彼はポロンに手を振り返した。


「いってらっしゃい。気を付けてな」


 リックはポロンがリーナと、出かけたことをメリッサに報告し自室に戻った。自室と言っても昨日と変わらず、ポロンとソフィアと同じ部屋だが……


「さぁて夜までゆっくりと休むかな。ソフィアも昼寝中だし……」


 リックは自室の椅子に座ってのんびりと過ごした。しばらく自室でゆっくりとしていると、部屋の扉が開いてメリッサが入って来て彼に声をかける。


「リック。まだリーナさんもポロンも帰ってないよね? さすがに遅くないか?」

「あっ! そういえば……」

「早く探しに行っといで! すぐに作戦開始時間になるよ!」

「はい」


 リックは宿舎の人に雪見花(ゆきみはな)が咲く場所を聞き、村を出てすぐ近くの森に入って行った。村から続く道沿いに歩いて行くと、村人が管理している雪見花(ゆきみはな)が咲く草原に出るという。情報は正しいはずだが、街道と覆う白く雪が積もった、静かな森の風景がリックを不安にさせていく。


「ふぅ…… あっ!」


 道の先に森の木が切れて、少し開けた場所に雪の上に青い花が咲いているのが見えた。


「あれが雪見花(ゆきみはな)かな?」


 リックは花の元へと駆けていき、周囲を見渡してリーナとポロンを探す。


「ポロン! リーナさん! うん!? 人の話し声が……」


 リックが左の方に視線を向けた。積もった雪と白く雪の積もった木々がならぶ、静かな森がリックの視界に映っている。


「ポ…… ちゃん! すか…… あなた達は?」

「うん? へへ…… こいつも高く…… 上玉……」

「バカ! 静かに…… じゃねぇ!」


 途切れ途切れだが、森の方から微かに人の声した。リックは声がする方へと向かう。


「なっ何を! キャー! 誰かー!」


 リーナの悲鳴が聞こえたリックは、腰に刺した剣に手をかけて走り出す。


「いた!」


 花が咲いた広場から、森を二十メートルほど行った先にある大きな木が見えた。その木の下に剣を抜いた男二人と、リーナさんが鞭を構えて対峙しているのが見える。男たちの足元にポロンが倒れており、男の一人が彼女の手をつかんでいた。


「おい! 何をしてる?」

「チッ…… なんだ!? 貴様は?」


 リックの問いかけに一人の男は不機嫌そうに答える。リックは剣をつかみ、男達を睨みながら、ゆっくりとポロンへと近づく。


「俺は兵士だ。何があったか説明してもらおうか」

「グラントの兵士か…… おい! 武器をしまえ」


 男の一人が剣を納め、もう一人の男にも強い口調で、剣をしまうように言っている。剣をおさめるように言った男は、つかんでいたポロンの手を離し、ニヤニヤといやらしい笑いを浮かべながらこちらへ歩いてくる。

 男達は黒いズボンに、茶色い暖かそうな毛皮のマントを肩からかぶり、あったかそうな四角い皮の帽子を着けている。あまりグラント王国では、みない格好で、おそらく隣国であるローザリア帝国の商人だろう。顔は似てるけど親子という感じでもない。

 二人の男は若い男と中年の男で、男たちは二人とも帽子の横から綺麗な金髪が少し覗き、目は茶色い瞳をして鼻が長く身長が高い。リックに話しかけてきたのは中年の男で、若い方はリーナとポロンを睨み付けている。


「いやぁ、なんでもありませんよ。このリス耳のお嬢さんが転んでいたんで助けたんでさぁ」

「はぁ!? 助けるのに剣が必要なのか?」

「いえ…… この人が大きな声をあげてくるから…… 俺達もこのお嬢さんを守ろうと剣をぬいたんでさぁ」

「本当ですか? リーナさん」

「違います! この人達が倒れてるポロンちゃんを取り囲んでいて声をかけたらいきなり剣を!」

「彼女が言ってることはほんとですか?」


 リックが男の方を向いて問いかける。おそらくはリーナが言ってることの方がほんとの事だろう。いくらリーナが、いきなり声をかけたからと言って、剣を抜く必要はないはずだ。


「えぇ!? 助けるために手をかけたら急に悲鳴を上げてそっちのお嬢さんが襲ってきたんですよ!」

「違うじゃないですか!? ポロンちゃんの手を乱暴に掴んでたじゃないですか!?」

「だから倒れている人を介抱しようとしただけじゃないですか? 乱暴に見えたのは誤解ですよ! 兵士さん、私達は倒れている人を介抱してただけですよ? 俺達はローザリア帝国人だから知らないけど、グラント王国ではそれが罪になるんですか?」

「いえ。そんなことはないです」

「グラントの兵士さん僕らを逮捕するんですか? このまま逮捕したらローザリア帝国にグラント王国の兵士に不当に逮捕されたって訴えますよ?」


 悔しそうにするリックだった。リーナは男たちが、ポロンに何かをしようとしたところだけみただけで、実際に何かをしてるところ見たわけじゃないし、リックを見て大人しく武器も納めている。しかも今は作戦行動中で、いたずらに騒ぎを起こすべきではない。


「わかった。もう行っていいですよ。今度は勘違いされないようにしてくださいね」

「はいはい! ほら行くぞ! このお嬢さんはどうします?」

「こっちで救助するからさっさと行ってください」


 リックはつかんでいた剣から、手を下ろすと男は少しホッとした顔をした。振り返って去ろうした時に、リーナさんの目の前で、ニヤッと中年の男が笑った。彼女は目をきつくして中年の男を睨み付ける。


「早く行け!」


 リックが剣にもう一度、手をかけると頭をかきながら、ごまかすように笑ってさっていった。若い男の方はずっとポロンの方を見ていた。中年に引っ張られて帰ろうとしても何度も振り返るのだった。


「すいません。私が何もできずに……」

「いいえ。リーナさんのせいじゃないですよ。もうすぐ作戦開始です。早くみんなのところに帰りましょう」


 小さくうなずくリーナ、リックはポロンの近くに行き彼女の様子を確認する。どうやら気を失ってるだけで、他に特に怪我もしてないみたようだ。リックはポロンを抱きかかえ立ち上がった。


「どうしてポロンは気を失ったんだろう?」

「私にもわかりません。さっきも言いましたが見つけた時にはすでに倒れていました」

「そっか。ポロン…… すぐにみんなのところに帰ろう」


 ポロンを抱きかかえてリックはて村の宿舎へと戻った。リック達を心配していたのか扉を開けると、不安そうなソフィアが立っていた。ソフィアリックの姿をみてすぐに笑顔になったが、抱きかかえられているポロンを見て慌てた様子で駆け寄って来る。


「ポロン!? どうしたんですか?」

「どこかで転んだみたいなんだ。多分、気を失ってるだけだと思うけど念のため治療してもらえるかな」

「はい」


 リックはポロンを部屋まで運んでベッドに寝かす。ソフィアがポロンの横に座って手をかざしている。話し声が聞こえたのかメリッサとイーノフも様子を見に来た。


「はっ! いやーなのだ!」

「ポロン!? よかった目が覚め……」

「いやーいやー! お父さん! お母さん! お母さんのとこに居るのだ!」

「ポロン!? どうしたの!?」

「ポロン?」


 目が覚めたポロンは突然手足を激しくバタつかせ始めた。


「ポロン。大丈夫ですよ」


 ソフィアが抱きしめ、頭を撫でてポロンを落ち着かせてる。


「みんな大丈夫です。人が多いと落ち着かないんで二人にしてください」

「わかった。じゃあ、俺達は向こうにいるよ」


 リックとイーノフとメリッサは部屋を出て、宿舎の入り口の横にある椅子に腰掛けている。リーナさんは疲れたみたいで、自分の部屋へと戻っていった。


「ポロンは大丈夫ですかね?」

「平気だよ。ソフィアに任せて置けば大丈夫さ」

「そうだよ。あんたはソフィアを信じなよ。相棒だろ?」

「はっはい」


 しばらくしてソフィアがリックたちのところにやってきた。リック達の前へとやってきた、ソフィアは少し疲れた顔をしていた。ポロンが無事かリックは心配だった。


「どうだい? ポロンは落ち着いたかい?」

「はい、今は横になってますよ」

「そっか…… まったく心配かけて! しょうがない子だよ」


 メリッサはソフィアの姿を見て立ち上がりポロンの様子を確認する。ソフィアからの回答を聞いたメリッサは、今は安心した表情で椅子に腰かけなおす。ナオミと同じ年頃のポロンを一番心配したのはメリッサなのだ。リックはソフィアが椅子に腰かけるのを待って彼女に声をかける。


「よかった。でも、なんであんなに取り乱したんだろう?」

「えっと…… ポロンが親と引き離された時のことを思い出したみたいです」

「でも、それってポロンが赤ん坊の頃の話だろ? 記憶なんかあるのかな?」

「リック…… それは私もわかりません。でも、ポロンがしきりにお母さん行かないでって震えながら言ってました」

「親と引き離された時って!? どういうことだい? リック、ソフィア!?」


 目を大きく開き驚いた顔をして、メリッサがリックとソフィアの会話に割り込んでくる。事情を知らないメリッサに、ポロンが赤ん坊の頃に奴隷として、売られそうになったことを話すリックだった。


「そうなんだね。ポロンが……」

「メリッサさん!? どこへ?」

「ポロンとちょっと話があるから行ってくる」

「えっ!? あっ! じゃあ俺も行きますよ」


 少し悲しそうな顔をしたメリッサは、ポロンが寝ている部屋へと向かう。ポロンはベッドの布団を、顔の半分くらいまでかけ、目だけリック達の方を見てる。ベッドに腰掛けて優しく、メリッサがポロンの頭を撫でている。


「大変だったね」

「メリッサなのだ! どうしたのだ?」

「ポロンは気を失っていたんだよ。あんた一体何があったの?」

「リーナさんと花を見に行ったのだ。そこで…… 金髪の大きな…… あいつらを…… 見たらくるしくなったのだ」


 ポロンが急に震えだした。震えるポロンの手をメリッサが強く握った。リーナから離れて花を見てたら、ローザリア帝国人の二人と偶然会い、その姿を見ていて急に息が苦しくなって倒れたという。


「ポロンはその金髪の大きな二人のこと知ってるのかい?」

「あの男の人たちじゃないけど…… 同じような恰好したやつらがポロンをお母さんから引き離したのだ!」

「そうなの?」

「なのだ!」


 ポロンの話を聞いて信じられないという顔をするリック。彼女が母親の手から離されたのは赤ん坊の頃であり当時の記憶があるはずもない。ただ、必死に話すポロンが、嘘を言ってるようにも見えなかった。

 ポロンの記憶にははっきりと赤ん坊の頃に、森で会った二人組と似た格好の金髪で、背が高く色白の男達の手によって、母親から引き離されたことを覚えているようだ。おそらくポロンをさらった奴隷商人はローザリア帝国人なのだろう。ポロンはローザリア帝国人と会ったことでその時の記憶を思い出しショックを受けたのだ。

 メリッサはまた優しくポロンの頭を撫でた。


「そっか。ポロン…… 残念だけど、あんたこの任務から外れなさい」

「えっ!? やーなのだ!」

「ダメだよ。もし同じことになったらどうするの? 戦闘中だったらあんたを誰も助けられないよ!? ここはローザリア帝国との国境近くで同じ格好してる人に会う可能性があるんだから!」

「もう大丈夫なのだ! やなのだ! みんなの役に立つのだ!」

「ダメだよ! いうことを聞きなさい!」

「メリッサ嫌いなのだ!」

「嫌いでかまわないよ! リック! さっさと王都にポロンを送り返してテレポートボールを回収しな!」


 メリッサは強い口調で、リックにポロンを王都に返すように指示をだした。ポロンが泣きながらリックの方を見つめてくる。


「リックもわたしのこと要らないのか?」

「えっ!? そんなことない」

「リック! あんた! このままじゃ、ポロンがサーダみたいになることだってあるんだよ?」


 ポロンがサーダのようにという言葉が重くリックにのしかかる。だが、メリッサの言う通りだ、ローザリア帝国の人を見て倒れるなら、今回の作戦には連れて行動はできない。


「ポロン。俺と王都に戻ろう。きっとその方がポロンの為だ」

「やーなのだ! わたしはここにいるのだ…… みんなといるのだ……」

「ポロン…… わがまま言わないで! ポロンの為なんだって!」

「やーなのだ! リックもメリッサも嫌いなのだ!」

「うわあっ!?」


 ポロンがベッド飛び出してリックを突き飛ばす。突き飛ばされたリックは、壁まで吹き飛ぶのだった。ポロンは小柄だが、大きなハンマーを簡単に振り回せるほどの力持ちだった。


「何やってんだい!? こら! ポロン! リック、捕まえな!」

「はい! ポロン! 待って!」


 ポロンは宿舎をかけていき、一階の入り口から村に出て行ってしまった。


「あぁ! もう!」

「どうしたんですか?」

「ソフィア…… ポロンが逃げ出しちゃって」

「ポロンが? 探しましょう!」


 ソフィアやほかのみんなが騒ぎを聞いて集まってくる。リックとメリッサで、皆に事情を説明し全員でポロンを探すことになった。


「もう…… ポロン…… どこに……」


 リックは必死に走りながらつぶやく。戻って来てすれ違いにならないように、リーナを宿舎に残し、全員で手分けしてポロンを探していた。


「あれは? いた! ポロンだ!」


 村の裏口に近くでポロンを見つけたリック。だが、彼女は誰かに手を引かれている。リックは慌てて彼女の名前を叫ぶ。


「ポロン!」


 しかし、リックの声に気付かずポロンは村の外へと出て行ってしまう。後ろ姿だけでよくわからないが、ポロンの手を引いているのは、さっきのローザリア帝国人の若い方のようだ。


「どうして…… ポロンがローザリア帝国人の…… クソ!」


 リックは走ってポロンを追いかける。二人が村の出口から出て、森の方へと歩いていく。森の中に入ってしまうと探すのが難しい、リックは必死に走ってなんとか森の手前で追いつき叫ぶ。


「おい! ポロンから手を離せ!」

「あぁ!? なんだお前は?」

「リック、どうしたのだ?」


 振り向いた若い男はリックを睨みつけ、ポロンは嬉しそうに笑っている。リックはなぜポロンが嬉しそうなのかわからず首をかしげる。


「ほら見るのだ。さっきと違って平気なのだ!」

「えっ!? なにそれ?」

「この人と一緒にいるところをメリッサに見せるのだ! この人がメリッサが森にいるって言ったのだ」

「あっ! このガキ!」


 ポロンの言葉を聞いた若い男は、剣を抜きリックに向ける。リックは剣に手をかけた。


「へへ。さっきから邪魔ばっかりしやがって! 獣人はその趣味の人間に高く売れるんだよ!」

「高く売れる? やっぱりお前!」

「武器をしまうのだ!」

「ガキがうるせえよ。おい! お前は動くんじゃねえ! このガキがどうなってもいいのか?」


 若い男はやはり奴隷商人だった。男は左手でポロンの首を掴み、彼女の顔の近くに剣を突き付けた。剣を突きつけられてもポロンは驚くことなく目だけ男に向けた。


「私は警告したのだ。ひどい目にあうのだぞ?」

「うるせえよ! ガキが! いいから大人しくし……」


 大きな音がリックの耳に届く。叫んだ男の言葉が終わる前に、拳を握ったポロンの強烈な、パンチがはなたれ一瞬で男の剣を折った。


「えっ!? なっなんだ…… このガキ!?」

「どっかーんなのだ!」

「わああああああああああああああああああああああああ!!」


 ポロンが簡単に剣を折ってあぜんとする男。ポロンは自分の首を捕まえている、男の左手を掴んで強引に投げた。男は近くの木に叩きつけられた。


「ひぃ化け物!」

「こら! 逃げるななのだ!」


 男は慌てて立ち上がると、足を引きずりながら逃げようとする。ポロンが男を追いかける。


「待て!」


 リックは剣を抜きポロンに続いて男を追いかける……


「えっ!?」


 ガキっという音がした。男の足に向かってリックの背後から猛スピードで槍が飛んで来たのだ。地面に刺さった槍に、男は足を取られて前のめりにこけた。


「大丈夫か? ポロン! この!」

「ぐぎゃ!」


 リックを追い越していくでかい熊のような影が、立ち上がろうとした、男の後頭部に強烈な前蹴りをいれた。男はまた大きく吹き飛び前のめりの倒れた。


「容赦ないなあ…… メリッサさんは……」


 影の正体はメリッサだった。メリッサが倒れた男を強引に立たせると、羽交い絞めにした。横からすっと現れたイーノフが慣れた様子で縄で拘束している。イーノフは縄で男を拘束しながら、彼の様子を確認している、きっとメリッサが男を殺さないか監視しているのだ。


「わたしはローザリア帝国人だぞ? こんな風に拘束されるのは……」

「だまれ! あんたは犯罪者だ!」

「はぁ!? 俺が奴隷商人だとでも言うのか? 証拠を出せ証拠!」

「残念だね。あんたの罪は奴隷商人じゃないよ。あたしも含めてあんたがポロンに武器を向けたのは見たよ」

「いや、それはこの娘が私に暴力を……」


 寝かされている男の顔を覗き込み、イーノフが残念そうな顔をしている。


「ははっ。それは残念だ! ポロンは見た目は子供だけどグラント王国の兵士なんだよ」

「えっ!? その格好…… ほっ本物だったのか?」


 ポロンが力強くうなずく。男の驚く様子からポロンが、兵士の恰好を真似て遊んでいると思ったようだ。


「なのだ! こいつは武器を出してないわたしに武器を向けたのだ! 理由なく兵士に武器を向けるのは…… こっ…… こうむ……」

「公務執行妨害罪だよ」

「なのだ!」

「そういうこと! あんたには黙秘権がある…… おっとこれは異国の犯罪者には適用されたっけ? イーノフ?」

「適用されるよ! もう…… 二人して……」

「うるさいねぇ。あんたには黙秘権がある。これ以降の発言については法廷において不利な証言として採用されることが……」

「でも、兵士への簡単な暴力行為ならすぐに釈放になりませんか?」

「あぁ。奴隷商人の証拠なら、いらないよ。ロバートに引き渡せば簡単に吐かせてくれるからね。フフ……」


 イーノフが不敵にほほ笑んだ。彼の微笑みを見たリックは、ロバートが何をするかすごく気になるが、同時に少しの恐怖を覚えたのだった。捕まえた男を引き連れて村に戻ったリック達。村の牢屋に男をいれたリック達は宿舎へと帰った。

 宿舎への帰り道にポロンが、メリッサに抱き着いて顔を覗き込んでいる。


「メリッサ! わたし大丈夫だったのだ! 苦しくならずに動けたのだ!」

「ポロン…… でもどうやって?」

「みんなと一緒に居たいっていっぱいいっぱい思ったら平気だったのだ。だから一緒に行っていいのか?」


 嬉しそうに聞くポロンにメリッサは困った顔してる。ポロンの言う通りで、ローザリア帝国人を見て動けるなら、もう王都に彼女を帰す理由はない。トラウマを簡単に克服したポロンにあきれながら少し嬉しそうにメリッサはうなずく。


「いいよ。ただし絶対にあたしから離れないんだよ」

「わかったのだ! メリッサと一緒にいるのだ! うれしいのだ!」

「ポロン…… しょうがない子だよ」


 宿舎に帰るとリーナとソフィアが笑顔でポロンで迎えてくれた。ポロンは嬉しそうにソフィア達に、男を捕まえた時のことをずっと話のだった。

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