第127話 これからは一緒に
夕方になり今日の任務が終わった。リックはすぐに帰るために準備を始めた。彼の隣で帰宅の準備をしている、ソフィアにカルロスが声をかけてくる。
「お疲れさん。じゃあソフィアはポロンのこと頼んだよ」
「はい。ちゃんとお家に連れて行きます」
「えっ!? 家にポロンを連れて行く? どういうことですか?」
「おぉ。リックには言ってなかったな。ポロンは今日から寮に住むからな」
「えっ!? 寮に!?」
驚くリックに笑顔を向けるカルロス。寮というのはソフィアの家で、彼女の家を両親が亡くなった時に、第四防衛隊が寮として借り上げている。現在はリックとソフィアの寮暮らしでそこにポロンが加わる。
「急な異動だったからな。住むところないんだよ。寮の部屋は空いてるしな」
「そうですか。わかりました。よろしくね。ポロン!」
「よろしくなのだ!」
元気よくリック達に返事し、嬉しそうに両手を上に上げるポロンを見て、ソフィアが楽しそうにしてる。ソフィアは家がにぎやかになるのが嬉しいのだ。
「早く帰るのだ。リック」
「えっ!? ちょっと待ってよ」
「待ってください。私も帰ります」
リュックを背負って、リックの手を掴んで引っ張り、ポロンは早く家に帰ろうとせかす。慌てて二人を追いかけるソフィアだった。ポロンが先頭で詰め所の扉を……
「抜けないのだ!」
「何してんだい!? まったくもう……」
慌てて詰め所を出ようとした、ポロンのリュックがまたひっかかった。
「はぁ」
ため息ついたメリッサさんがポロンに近づいてきた。リックとメリッサの二人でポロンのリュックを扉から外すのだった。
「ほわー。ここがお家なのか!? 広いのだ!」
寮を見てポロンが声をあげた。詰め所のある王都の第九区画の外れに寮はある。玄関を入ってすぐ横に風呂とトイレ、玄関の先に大きいテーブルが置いてあって、キッチンがくっついた広間があり、その広間から各部屋へつながっている。
嬉しそうにポロンは入口の扉を開けた。
「そうですよ。今日からポロンのお家です」
「お邪魔しますなのだ」
初日でさすがにまだ慣れないのか、ただいまではなくお邪魔しますというポロン、リックとソフィアは互いに顔を見て微笑む。直後に、何か思い出した二人は、ポロンのリュックに手を伸ばす。扉にまたひっかからないように……
「じゃあこの部屋を使ってください。ご飯を作りますからリックと待っててくださいね」
「わかったのだ」
「ありがとう。ソフィア。じゃあポロン行こう」
無事に寮の入り口を通過したポロンはソフィアに部屋に案内された。ポロンはソフィアに案内された自分の部屋に。リュックを置いて、リックと一緒に広間のテーブルに座って夕飯を待っている。
詰め所の時と同じで、ポロンがリュックを置くと、また大きな衝撃音がし、リックは中に何が入ってるか気になった。
「ポロン。あのリュックの中は何が入ってるの?」
「着替えとかなのだ。でも、一番大きいのはヘビーアーマーとハンマーなのだ!」
「あれ? 魔法道具箱ってもらってないの?」
「何なのだ? それは? 村の防衛隊には支給されてないのだ!」
リックは手のひらに、小さい宝箱の形をした魔法道具箱を、置きポロンに見せる。魔法道具箱は大きな荷物を、魔法の力で小さくして収納できる優れた魔法道具だ。ポロンは魔法道具箱を見て首をかしげている。彼女がいた村の防衛隊は、リック達と違って管轄が決まっており、予備の武器やヘビーアーマーを携帯して持っている必要はないので支給されない。
「じゃあ、それ俺の予備の魔法道具箱だからあげるよ。こんどからこれに武器とか鎧とか入れておきな」
「ありがとうなのだ!」
嬉しそうに魔法道具箱を持って、部屋へと戻ったポロン。開いた部屋の扉の向こうに、ポロンがリュックのなかから、鎧や武器を取り出しているのが見える。
「すごいのだ」
ポロンは目を大きく開いて、ハンマーや鎧を収納しては、取り出してまた収納してを繰り返してる。
「ふふ。かわいいな」
無邪気に魔法道具箱を使って、出し入れを繰り返すポロンを見て、リックは微笑んでいる。彼にしてみれば、魔法道具箱よりも、鎧やその大きなハンマーが入るリュックの方が不思議だった。ソフィアがキッチンからリック達の方を見て少し寂しそうにしていた。
食事の支度ができてバターと牛乳のいい匂いが漂って来る。今日はキーサミルク入りのホワイトシチューだ。キーサミルクは少し前まで、手に入らないものだったが、ヤットさんや村長さんの努力で最近は手軽に手に入るようになった。リックはさらに盛られたシチューを見てしみじみとキーサミルクを手に入れた時の苦労を思い出すのだった。
「うぅ…… おいしいのだ!」
「えっ!? ポロン? どうしたの?」
スプーンでポロンがシチューをすくって、泣きながら食べている。
「ポロン? なにかありました?」
「みんなで食べるとご飯…… おいしいのだ…… わたしは…… ずっとウッドランド村で一人だったのだ!」
「一人? お父さんとお母さんは?」
「わからないのだ。私は…… 小さい頃に奴隷として…… グラント王国に連れて来られたのだ」
「どっ奴隷?」
「ポロン……」
ポロンが泣きながらリックとソフィアに話しをしてくれた。彼女は生まれてすぐに奴隷商人に売られたらしい。奴隷商人は、すぐにポロンをウッドランド村の近くで開催された、闇の奴隷オークションで売るはずだった。
当時、現場の隊員だったカルロスとウッドランド村の防衛隊プッコマ隊長が、違法奴隷オークションの情報を掴んで突入し、奴隷商人達を壊滅しポロンを救い出したとのことだ。
グラント王国は奴隷売買と使役は違法であるが、たまに王都の威光の届かない辺境の地で、労働力欲しさに違法で売買されることがある。もちろん、赤ん坊の頃の話なので、ポロンは自分の身の上を、助けてくれたプッコマ隊長から聞いた。
「奴隷から解放されたわたしを、ウッドランド村のプッコマ隊長が引き取って育ててくれたのだ。でも、プッコマ隊長は忙しくてご飯はいつも一人だったのだ」
「寂しいですね。なんで一緒に食べてあげないんですか! ひどいです」
「ちがうのだ! ソフィア! プッコマ隊長はよくしてくれたのだ…… わたしのお父さんなのだ! でも、わがままは言っちゃダメなのだ。プッコマ隊長の役に立たなきゃいけないのだ。だから兵士として頑張るのだ」
「ポロン?」
「だから…… ここに居たいのだ! 頑張るから…… わたし頑張るから…… ここに居たいのだ! 要らないって言わないでなのだ! 捨てないで……」
ポロンは泣きながら隣に座っていたソフィアに抱き着いて、必死に自分が頑張るから捨てるなと訴えかけている。ソフィアは目に涙を浮かべ、静かに彼女の抱きしめて頭を撫でる。
「大丈夫ですよ。ここに居ていいですよ。リックも私もポロンのこといらないなんて言いません」
「ほんとか? ほんとなのだな?」
「はい。そうですよね? リック?」
両手でポロンは涙をぬぐって、少し安心した表情をした。ソフィアはそっと彼女を抱きしめた。ポロンが泣きながらリックを見た。リックは微笑んで、ソフィアと自分ははポロンと一緒にいるよとうなずく。それを見たポロンは嬉しそう笑うのだった。
「これからは私とリックがずっと一緒にご飯食べます」
「ほんとか? 一緒に食べていいのか!? やったのだ!」
「そうです。一緒ですよ」
ほほ笑んでソフィアが、ポロンの頭を優しく撫でる。元気になったポロンは、シチューをいっぱい食べた。ただ、おかわりのしすぎでソフィアに食べ過ぎと怒られていたが……
「なに? どうしたの?」
食事が終わり広間の椅子にすわっていると、ポロンがリックの袖をひっぱって来た。
「リック遊ぶのだ! 遊ぶのだ」
兵士とはいえまだ十歳の子供だ。暇なのでリックと遊びたいらしい。
「よし。いいぞ! 遊ぼう」
「お話をするのだ。後、これを遊ぶのだ!」
ポロンはリックの横で、ウッドランド村であった出来事を話したり、ウッドランド村で子供がよくやる遊びをしたりしていた。リックはポロンに話を合わせたり遊びを教わって付き合っていた。向かいにすわっているソフィアは、リック達を見て微笑んでいるがどこか寂しそうだった。
「ほらポロン。もう寝る時間ですよ」
「ふわぁ! 寝るのだ! リックおやすみなのだ」
「おやすみ、また明日ね」
夜が更けて来ると、ソフィアがポロンを部屋に連れていった。
「さて俺も寝るかな……」
リックは立ち上がり、自分の部屋に行ってベッドに入った。
「ソフィアは…… 今日はポロンと寝るかな。ポロンか…… これからも仲良くやっていけるといいな」
ベッドに横になり、天井をみながらつぶやいたリックは目をつむった。以前に居た新人がひどいのもあるが、リックはまた一日しか一緒にいないポロンを見て、素直でいい子だから大事にしたいと思っていた。
「でも、ポロンはすごいよな。あの体型で大きなハンマーをバンバン振り回して敵バッタバッタ倒しちゃうんだもんな。俺も見習わないと……おわ!?」
ベッドに入ってから、しばらくして気配に気付いて目を開けると、さみしそうな顔をしてソフィアが、リックのベッドの横に枕を持って立っていた。
思わず体を起こしたリックはソフィアに声をかける。
「あれ? ポロンと一緒じゃなかったの?」
「疲れたみたいですぐに寝ちゃいました」
「そっか」
「リックー!」
両手を広げたソフィア。リックは何かを察して、少しベッドの端によってスペースを開けた。ソフィアはスペースが空くと、飛び込むようにリックのベッドに入り、自分の枕をリックの枕の横に置いた。ベッドに入って横になった、ソフィアを見たリックが横になった。彼女も横になり、リックの左の胸に頭を乗せた。
上目でソフィアはリックの顔を不機嫌そうにのぞき込む。
「今日は帰ってきてからずっとポロンがリックを独り占めしててずるかったです!」
「いやいや、だってポロンはまだ慣れないから」
「嘘です! リックは鼻の下伸ばしていやらしい顔してました」
「してないよ。それにポロンは子供だし……」
「フン! どうせ私は年上だから! 若い子が良いんです!」
ソフィアはツンとした表情をし、リックから目を離してそっぽをむく。
「もう…… ごめんね」
機嫌がよくなるようにと、ソフィアの頭をゆっくりとなでるリック、撫でられた彼女はうれしそうな顔を浮かべる。リックがソフィアの頭を撫で続けていると彼女は申し訳なさそうな顔に変わる。
「ごめんなさい。さっきのは嘘です。ただ、リックが私以外と楽しそうにしてたからちょっとだけ悔しくて……」
「そっか。わかったよ。ごめんね。今度は三人で一緒に過ごそうね」
「はい」
リックの胸の上で笑ってうなずくソフィアだった。直後にバーンと音がし、リックの部屋の扉が勢いよく開いた。
「あーーー! ずるいのだー! ずるいのだー!」
「ポロン?」
「えっ!? ポロンどうしたの?」
「目が覚めたらソフィアが居なくて…… ソフィアのお部屋に行ってもいなかったのだ! ずるいのだ! 仲間ずれはいやなのだ!」
リック達の方を見て泣きそうな顔をする。ポロンはリック達のベッドに近づく。
「二人で一緒に寝ててずるいのだ!」
「えっ!? あの…… これは…… その」
「ちっ違うよ。これからソフィアとは別々に寝るんだよ!」
「ウソなのだ! 枕二つあるのだ! ずるいのだ!」
「えっ!? ちょっと!? ポロン!?」
ポロンがベッドに飛び込み、リックとソフィアの間に無理矢理体を入れてきた。
「ふぅ。あったかいのだ! 私も一緒に寝るのだ!」
「ポロン…… あれ!? もう寝てるのか……」
リック達の間に寝たポロンは、あっという間に寝てしまい。嬉しそうな顔をしてすやすやと寝息を立てている。
「どうしよう?」
「じゃあこうです!」
「えっ!? ソフィア…… んっ」
少し体を起こして、ソフィアはリックに顔を近づけ、口づけをしリックは受け入れる。すぐにソフィアは体をポロンの横に戻し、ポロンの体の上にソフィアの右手を置いた。
「俺も!?」
「はい」
体を起こしたソフィアは、リックの左手を掴み、ソフィアの右手の上にもってきて握らせた。ソフィアの手を握ると彼女は、少し恥ずかしそうにしてすぐに笑顔になった。リックとソフィアがポロンを挟んで、ポロンの体の上でリックとソフィアが手を握っている。
「一緒なのだ……」
「ポロン…… うん、一緒だよ…… ちょっとせまいけど……」
「もういじわる言わないでください」
嬉しそうにポロンが寝言を言い、それに笑って茶化して答えるリックだった。ソフィアはリックを注意した。ソフィアとリックは顔を見合わせ、互いにほほ笑む、そのまま三人で一緒に寝たのだった。
翌朝に詰め所に出勤したリック達。詰め所に入るとすぐにカルロスが、書類を持ってリックに話しかけてくる。その表情は渋く少し怒っているようであった。
「リック! お前さん! この請求書はなんだ!」
「えっ!? なんですか?」
「エドガーからここにべらぼうな額の請求が届いてるんだよ!」
「あっ! ほら、昨日できた俺の剣の代金ですよ! だって隊長が作れって」
「そりゃあそうだけど! エドガーに請求させる前に相談させてよ! 今月の予算が……」
カルロスは青い顔をしてため息をつくと、出かけるといって出て行ってしまった。出て行ってからかなりの時間が過ぎたが、まだカルロスは帰ってこない。さすがにリックも少し心配になって来る。
「ただいま……」
ようやくカルロスは帰って来た。ホッと胸を撫でおろすリック。しかし、カルロスはすごく疲れた顔して元気がなかった。カルロスは席に行くと立ったままため息をついて深刻な顔で机に両手をつく。
「みんな。ちょっとここに集合してくれ!」
「うん!? どうしたんだい?」
カルロスが全員を呼んだ。彼の机の前に全員が並ぶ。カルロスは全員がそろうと静かに口を開く。
「残念ながら今月の第四防衛隊の予算が尽きた」
「はぁ!? 尽きたじゃないだろ? ソフィア! 今度は何を間違えて頼んだんだい?!」
「失礼です! 私は今月は何もしてませんよ」
メリッサがソフィアの方を向いて、やれやれといった感じで聞いてる。ソフィアは必死に自分は何もしていないと弁解する。リックは背筋に嫌な汗をかく、話の流れから予算がつきた原因はどう考えても、彼が腰にさしている剣だからだ。
「いやソフィアじゃない! 高い武器を発注した者がいてな」
カルロスは淡々と前を向いたまま話す。リックは顔を歪め、みなの視線がリックに向かう。
「なんだ…… 原因はリックか!? じゃああんたがちゃんと責任とりなよ」
「いや! それは隊長が発注して良いって!」
「あの…… メリッサ…… さっきから犯人を隠そうとしてるんだからいちいちバラさないでくれないか」
「なんだ!? やっぱり原因はリックじゃないか? リック! ちゃんと責任とりなよ」
「とるのだ!」
手を腰に当ててメリッサの真似した笑顔のポロンがリックに注意をしてきた。調子に乗るところはやはり幼い子供であう。
「こら! ポロンまで調子にのって! だから隊長が発注して良いって言ったんだよ」
「リック。お前さんね。こんな高額なら先に相談をだな!」
「だいたい毎回毎回、何度も予算が尽きるって管理が悪いんじゃないんですか?」
「なっ!? リック、お前さん! それは言ってはいけないぞ!」
カルロスが不機嫌そうになって口調が強くなっていく。イーノフが少し前にでてリックとカルロスをなだめる。
「まぁまぁ。隊長もリックも落ち着いて、それよりも今月を乗り切ることを考えないと。今月の給料がないとか僕もさすがにきついし」
「そうですよ。皆さんはいいかもしれませんが。僕には妻と娘が……」
「実はなそれで…… さっき出かけた時に我が隊の窮地に支援をしてくれるところを探したら…… ちょうど名乗りを上げてくれた部隊があってな」
「えっ!? すごい支援してもらえるんですか!?」
「もちろんタダじゃない。お前さん達には働いてもらうよ」
どうやらカルロスは予算が尽きてしまった第四防衛隊の、支援をしてくれる人を探しに長い間で出かけていたようだ。カルロスは詰め所の扉に視線を一瞬むけまた前を向く。
「もうそろそろ部隊の代表者がいらっしゃるからな」
「誰なんですか? その支援してくれる部隊って!?」
「お前さん達のよく知ってる人だ!」
リック達が知っていて支援ができる財力を持った人物。リックは自分の中でその人物が、だいぶ絞られてきて落胆するが、万が一があるかも知れないと期待して待つことにした。
少しして、詰め所の扉が開き、一人の女性が入ってくる。
「こんにちは! 皆さん! リック、久しぶり!」
「なんだ…… やっぱり、エルザさんか」
「なんだとは失礼な! カルロス隊長やはりこの話はなしで……」
「わっ! こらリック!」
詰め所に入ってきたのはエルザだった。エルザを見てリックは嫌そうな顔をし、それを見た彼女は不満そうに口を尖らせた。
「すいません、エルザさん。リックが失礼なことを!」
「いえ、いいんですのよ。それで、あなた達は?」
エルザさんがポロンとゴーンライトに気付いた。ポロンを見てすぐに視線をいどうしたエルザは、なぜかゴーンライトを舐めるように見ている。
「エルザさん。この二人は新しく第四防衛隊に入った者です。ゴーンライト、ポロン。この人はエルザさんだよ女性騎士団の団長さんだ」
「僕はゴーンライトと言います」
「わたしはポロンなのだ!」
「あら!? ゴーンライトさん? いいわぁ! この気の弱そうな感じからの変身がありそうな感じ! さっそくロバートかイーノフと絡んで!?」
「なっなんですか! ちょっとこの人目が怖いです!」
ゴーンライトの手を掴んで、無理矢理イーノフのところに連れて行こうとするエルザ。イーノフはエルザが近づくと急いで、メリッサの後ろに隠れた。リックはその様子を見て小さく首を横に振った。
「やっぱり隊長! エルザさんに協力するのやめましょう」
「こら! リック!」
「あらぁ? 私は別にいいんですのよ。でも、私達以外にあなた達を援助できる組織がありまして!?」
エルザがリーダーを務める騎士団、ビーエルナイツは金鉱山を管理している。豊富にとれる金のおかげで、今やビーエルナイツはグラント王国一の資金力がある組織と言っても過言ではない。ただし…… 使途不明な金の使用が多く、王都でも少し問題視されていたりもする。
「いやいや、それは困ります! リック! エルザさんに謝れ!」
「くっ……」
リックは悔しそうにエルザに頭を下げる。エルザがニコニコしてリックが頭を下げるのをみてる。
「あっー! 惜しい! ほんとならロバートの前で頭を下げさせて…… ぐふふ」
頭を下げたままエルザを睨むリック。本来ならロバートがエルザを制御してくれるはずなのに今日はいないのだ。
「リック大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。ソフィアありがとう」
ソフィアがリックのそばにきて手を握って慰めてくれる。エルザはなぜかリック達を不満そうに睨みつける。
「ちっげぇよ! そうじゃねえよ! はぁ、もういいわ! じゃあさっそくで悪いんですが…… イーノフさん貸して!」
「ひぃ! 嫌だ!」
すごい勢いでイーノフが青い顔してメリッサの後ろに隠れ姿を消した。彼はすごいエルザを警戒していた。
「あら!? 嫌われちゃったわ! じゃあ、あなた!」
「えっ!? 僕ですか?」
「スノーウォール砦にきていただけますか? ちょっと脱ぐ…… じゃないモデルを!」
イーノフに嫌われたエルザは、すぐに標的をゴーンライトに変えた。エルザは彼の手をしっかりとつかんで、強引にスノーウォール砦に連れて行こうとした。その光景を見たカルロスが、エルザに声をかけるのだった。
「あの…… エルザさん? 確かお話はモデルじゃないですよね? 本題の方をみんなに話したいんですが…… よろしいですか?」
「えっ!? そうでしたっけ? 本題ってモデルを貸してもらえることじゃなかでしたっけ?」
「もういいです。お前さんたち! 僕から話そう」
とぼけるエルザに冷たい目を向けるリック。予算の支援がモデルというのはおかしいからだ。カルロスが仕切り直して、全員を並べて話を始める。
「じゃあ改めて…… 今回の我々はビーエルナイツと共同で作戦を遂行する」
「作戦ってなんだい」
「それはグラント王国北方領域に置ける違法奴隷販売網の壊滅作戦ですわ」
エルザはリック達の前に堂々と宣言をしていた。
「ポロン……」
リックとソフィアの手をギュッとポロンが握ってきた。彼女は奴隷という言葉に反応した。赤ん坊の頃ポロンは奴隷として、売られる寸前だったのだ。
手を握り返してポロンの顔を見てほほ笑みかけるリック、ポロンは少し安心したような笑顔になった。心の中でリックはポロンの傍にいるからと声をかけるのだった。