第125話 さようならとこんにちは
弱い雨が朝からずっと降り続く肌寒い日。
第六区画の教会でしめやかに葬儀が執り行われていた。この争議は第四防衛隊で殉職したサーダ・ウォントの葬儀のものだった。勇者襲撃事件を片付けた、リック達はすぐにリンガード国から、サーダの遺体を回収して帰国した。
「彼は立派に戦い、神の元に召されました」
遺族の前で神官が祈りの言葉を捧げている。リック達は普段来ている制服とライトアーマーの上にフード付きの黒いマントをつけて、グラント王国国旗に包まれた棺を、カルロスも含めた全員で左右に分かれて運んでいる。リック達がゆっくりと掘られた穴に棺をおろした。棺に参列者が一人ずつスコップで土をかけていく。
「ヒックヒック、何でよ!? どうしてー?」
「クソ! どうして!? お前が……」
サーダの父母が、泣きながら土をかけている。
「もし殉職したら俺もこうなるのか……」
悲しむ遺族の姿を見ながら棺の横で立って敬礼をするリックがつぶやく。彼の心にはサーダの生きている最後を、見たのが自分だという事実が重くのしかかっていく。リックは少し疲れたようなダルさに襲われて下を向くのだった。
「リック」
「うん? ありがとう。大丈夫だよ」
リックの様子を見て、心配してくれたのか、横にいるソフィアが暗い顔をして、彼の手を握りしめてくる。リックはソフィアの手を軽く握り返して彼女の方を向き少し強引にほほ笑む。
「主の元に導かれしこの者の魂を安らかに……」
サーダの棺に土がかぶせられて、参列者の近くで神官が祈りの言葉を述べている。葬儀はこれで終わりだ。リック達はすぐに詰め所に戻り、またいつものように任務をこなす。誰が死んでも消えてもリック達は終われば普通の日へと戻る。
葬儀終わり、カルロスは神官の人に礼を言いに行くため教会へと向かった。リック達は一緒に詰め所に戻るため、墓地の出入口でカルロスを待っていた。
黒い喪服を着た恰幅の良い二人の男女がリック達に前にやってくる。二人のサーダの父親と母親だ。二人とリック達に敵意をむき出して睨みながら大声で叫ぶ。
「おい! リックってのはどいつだ?」
「なんだい? あんたらは? 用件ならあたしが聞くよ」
リックの名前を叫んで詰め寄ってくる二人に、メリッサとが立ちはだかる。目が鋭く背の高いメリッサにすごまれ、少し二人の勢いはそがれた。
「まぁまぁ。メリッサ二人は怖がってるじゃないか。一緒に僕も話しを聞ききますよ」
メリッサさんの後ろにいたイーノフが前にでて、彼女をなだめながら二人に優しく声をかける。
「うるせえ! リックってやつが俺の息子を見殺しにしやがったんだってな!? いいから出せ! 責任を取れ!」
「そうよ! 何が、王都の最強の部隊よ役立たず!」
サーダの父母の声がリックに突き刺さる。状況はどうあれ彼がサーダを見殺しにした事実はかわらない。リックはサーダの両親から目が合うとすぐにそらした。
父親がリックの動作に何かを気づいたのか、眉間にシワが寄り彼に怒りの表情を向けた。
「お前がリックか! よくも息子を!」
激高したサーダの父親が、リックの胸倉をつかもうと、メリッサの横から手を伸ばした。
「あんた! いい加減にしないか!」
「うぎゃあ!!」
「メリッサ! 駄目だよ。こんなとこで教会の人も見てるんだから……」
メリッサがサーダの父親の手を、掴んでひねりあげ、サーダの父親が声をあげる。イーノフは冷静にメリッサを諭して、止めようとするが必死さはなかった。
「こら! メリッサ! お前さんは何をしてるんだ? やめるんだ!」
カルロスがサーダの、父親と母親の後ろから、出て来てメリッサを止めた。メリッサはサーダの父親から手を離し、何もしないように睨みをきかせる。サーダの父親はメリッサには勝てないと思ったのかカルロスに食って掛かる。
「お前は何なんだよ!?」
「申し遅れました。私は第四防衛隊の隊長カルロス・ゴメスと申します。この隊で起きたことに関してはすべて私の責任です。まずは隊の者が失礼をしたみたいで申し訳ありません」
「あぁ! お前がサーダの上司か! サーダの死んだ原因を俺達にキチンと説明してもらおうか!?」
「左様ですか。では、雨も降ってますしお体にさわるといけません。向こうの教会でお話をお伺いますので、行きましょう」
「わかった……」
「じゃあ、お前さん達、すまんが先に帰っててくれ」
リック達に申し訳なさそうに、カルロスは先に帰れと指示し、サーダの両親をつれて教会に向かう。リックは自分のせいで、カルロスに迷惑をかけたと落ち込むのだった。
「リック! ほら帰るよ」
「はい……」
メリッサに促されてリック達は詰め所に戻ろうと歩き出した。振り返りソフィアがサーダの両親の後ろ姿を見た。
「怖かったです……」
「よくあることさ。こんなことになるんだったら、最初から隊長を待たずに先に帰ればよかったよ。サッサと戻るよ」
先頭を行くメリッサがソフィアに声をかけていた。葬儀の帰り道はみなほとんど会話は無く詰め所へともどったのだった。
詰め所に戻ってしばらくたったが、なかなかカルロスは帰ってこない。リックはゴーンライトとサーダが入隊して二つ増えた机を見つめている。もうサーダが死んでしまって結局一個余っているのだが……
「おかえりなさい」
ソフィアの声がしてリックは振り向いた。少し疲れた表情をしてカルロスが戻ってきた。ため息をついて席に座ったカルロスに、リックはすぐに立ち上がって礼を言いにいく。
「さっきはありがとうございました」
「うん!? 気にするな。よくあることだよ。サーダの親御さんだって息子を亡くしたんだ怒りをどこかにぶつけたいんだろうよ」
「でっでも、それは俺のせいで……」
「リック! お前さんのせいじゃない。任務を命令したのは僕だ。責任は全て僕にある」
「そう。それに現場であんたにみんなを任せたのはあたしだよ。あんたは他のメンバーを守ってよくやってくれたよ」
自分の席でリック達の話しを聞いていたメリッサも会話に入ってきた。カルロスはメリッサの言葉に力強くうなずく。
「メリッサの言う通りだ。サーダは残念だったが、お前さんはよくやってくれた。もう気にしないでお前さん達は任務をこなすことだけ考えてくれ」
「はぁ……」
よくやってくれた。カルロスはリックのことを気遣ってねぎらっていた。リックの中では、自分がもっとしっかりしてればサーダは死なずにそして隊長にも迷惑をかけずに済んだはずという思いが消えない。申し訳なくカルロスの顔がみえずにリックは、カルロスの机の上に置かれた書類を意味もなく眺めていた。
カルロスはリックの顔を座りながら、上目に見てふうと少しため息をついた。
「お前さんね。責任を感じるのはいいが、報告書みてもサーダは命令無視で自業自得だし。それにさっきみたいなことに対応するのが僕の仕事だ。頼むから必要以上に気持ちを落とさないで次の任務に励んでくれよ」
「はっはい」
「うん。それで良い。お前さん達がどんな問題を起こしても文句も責任も僕が引き受けるよ。それが仕事だからな」
「そうだよ! 隊長なんてほとんど仕事ないくせに、それをやるだけであたしらより良い給料なんだから!」
「こら! メリッサ…… それはないよ…… 僕だって色々となぁ」
笑っているメリッサに向かって、カルロスはブツブツと小声で不満そうにつぶやいていた。リックはその姿がおかしく少しだけ気が楽になった。彼は軽そうとメリッサに頭を下げ自分の席に戻ろうと……
「あのー! 第四防衛隊ってここなのだ?」
「どうしました?」
扉が開いて誰かが詰め所に入ってきた。すぐにソフィアが対応のために入口に向かう。
「リック! 助けてください」
「えっ!? なに!?」
ソフィアが慌てた様子でリックのことを呼ぶ。リックはカルロスの机から、入り口のソフィアの元に急いで向かう。
「ちょっと何してるの? どういうこと……」
緑色の服にフワフワの茶色く三角の耳が頭から生えた、見た目が幼く九歳くらいの小さい獣人の女の子が大きなリュックを背負って詰め所の入口に立っている。緑の服は色は違うけどソフィアの制服にそっくりだった。
「おぉ! 優しそうなお兄さんなのだ。通れないのだ。助けるのだ!」
「えっ!? わかったよ」
必死に前に行こうとして足を出している、女の子のリュックの背負い紐がピーンと伸びる。女の子が背丈以上に大きい茶色い、リュックにパンパンに荷物を詰めた状態で、狭い詰め所の扉を通ろうとして引っかかったようだ。
「あれ!? なら一旦外に出て荷物を別に入れれば?」
「それが無理矢理通ろうとして詰まって前にも後ろにも動けないんです……」
「えっ!? そうなの? もう…… 何してんの」
呆れながらリックは女の子に近づいて声をかける。
「荷物をつめすぎだよ」
「しょうがないのだ! 必要なものを全部もってきたのだ」
「はぁ。しょうがない。ソフィアも手伝ってくれるかな」
「はい」
リックとソフィアは扉の左右に分かれて、リュックと壁の隙間へなんとか手を入れた。
「じゃあせーのでソフィアと引っ張るから君も前に出てね」
「わかったのだ」
「じゃあ行くよ!」
「はい」
「なのだーーー!」
「せーの!」
掛け声を合わせてリック達はせーので、彼女のリュックと引っ張ると、小さい女の子が前に足を踏み出した。
「うわぁなのだ!」
ポンッという音がしてリュックが抜けると、リックとソフィアはバランスを崩して倒れた。女の子は勢いが付きすぎたのか、前に頭ごと突っ込ん倒れた。
「あーあ。大丈夫か!? うん!?」
女の子を助けようと近づくリックが止まった。転んだ女の子お尻から、大きくてフワフワの先端が丸くなった尻尾が、生えてる。前に突っ込むようにこけた女の子は、尻を上げてスカートがめくれあがっていたのだ。ぷっくりとした丸くかわいい尻にリックの視線が固定される。下着のぬねはちょっと食い込んおり、真ん中に少しシワがより、柄は水色と白のチェックだった。
「リックー!」
「うん!? あっ!? ソフィア!? ちっ違う! たまたま見えただけ!」
リックの横に怖い顔をした、ソフィアが立って手を上にかざした。何が起きるかの分かった、リックは必死に言い訳をする。
「違う! ソフィア! ちょっとまって!」
「ダメです! この変態! こんな小さい子にまで」
「ほんとに偶然なんだって! まって! やめてー! ぎゃあああああああああああああああーーーーー!!!」
青白い光に包まれたリックは、全身がしびれ引き裂かれそうな痛みに襲われるのだった。
「はぁはぁ…… 反省です」
「ごっごめんなさい……」
「プイ!」
電撃魔法を撃ったソフィアが倒れているリックの前に仁王立ちしている。リックは倒れたまま小さく痙攣を繰り返すのだった。だが、リックのく口元がゆるんでいる、目の前に綺麗な足の先をチラッとみると、ソフィアの黒と青のシマシマが見えているのだ。
「強いお姉さんなのだ!」
起き上がった女の子は、電撃の音で振り返り、ソフィアを憧れた目で見つめる。騒がしい二人にカルロスが席から近寄って来た。
「はぁ…… お前さん達はさっきから何を騒いでるんだ!?」
「あっ! 隊長! この子にリックがいやらしいことを!」
「違う! 俺は何もしてません!」
「わかったよ。っで? この子って?」
「あれ!? あれ…… どこに?」
少し前までリックとソフィアの、近くにいたはずの女の子が居なくなっていた。リックは周囲を見渡し女の子を探す。
「あなたが隊長さんなのか? 本日からお世話になるのだ! よろしくなのだ!」
「違うよ! あたしは普通の兵士だよ! 隊長は向こうのおじさんだよ」
「ほぇぇぇ! 威厳があるから隊長さんだと思ったのだ! ごめんなのだ!」
メリッサの席の横で頭を下げる女の子、彼女はメリッサを隊長だと勘違いしたようだ。リックは女の子の声がした方に振り返った。
「(あっ! 居た…… 何やってるの? 隊長に用事があるの? その人、貫禄があるから隊長に見えるかもしれないけど、普通の人で隊長はこっちしょぼくれてる方だよ…… まったく…… ってあれ!? 今お世話になるって……)」
間違えたのが恥ずかしいいのか女の子は、頬を赤くしてはカルロスの元へとやってきた。
「改めてまして隊長さん! よろしくなのだ! お世話になるのだ!」
元気よく頭を下げた女の子。さっきから自分よりも大きくて重そうな、リュックを背負っているが、平気で頭を下げてる。見た目は小さいけど力が強いようだ。
「えっ!? お世話って…… 君…… ポロンか!?」
「そうなのだ。わたしはポロン・シェールツ! ここ第四防衛隊に配属されたのだ」
「いや…… 確かお前さんが来るのは来週からだろ?」
「もうウッドランド村の防衛隊から異動の許可がでたからきたのだ」
「えぇ!? もう…… 困るなプッコマのやつ僕に黙って勝手に話を進めて……」
「あれ!? ウッドランド村のプッコマ隊長が連絡しておくって言ってたのだ!」
「そうか。あいつ…… きっと昨日くらいに普通に手紙をだしたな…… ウッドランド村から王都に手紙なんて一週間以上かかるのに…… はぁ」
自信満々に答えるとニコッと、ポロンと名乗る女の子は笑って、それを見ながらカルロスは、頭をかかえて困った顔をしてる。
「来ちゃったのならしょうがないか。ポロンお前さん異動届を持ってるよね? だして」
「わかったのだ! えっと…… 確かここに! ハイなのだ!」
ポロンは元気よくポケットから、雑にたたまれた紙を出しカルロスに渡している。カルロスはポロンと一緒に自分の席に戻って、座ると書類を確認し始めた。
リックは隊長の机の前に行くと、書類を見ながらカルロスは彼に目線を送る。
「隊長!? この女の子がうちの隊員なんですか?」
「あぁ。そうだよ。お前さん達みんな悪いけど今から彼女を紹介するから、僕の机の前に全員集まってくれ」
嬉しそうにポロンは、カルロスの椅子の後ろから書類を見つめていた。
「ポロン…… お前さん悪いけどもう少し向こうに行ってくれないか。それと荷物はいったん床に置いていいから!」
「わかったのだ!」
「おわ!」
全員の視線がポロンに集まる。ポロンが床にリュックを下ろすと、ドスンという音がして詰め所が少し震えた。リュックどれだけ重い物を入れているのだろうかみな気になったようだ。
「えっと…… 本当は来週からの予定だったのだが、手違いがあったみたいでな。今日から僕たちの仲間になるポロンだ。お前さん達よろしくな」
「わたしはポロン・シェールツなのだ! 以前はウッドランド村の防衛隊にいたのだ。よろしくなのだ」
「じゃあ、あたしらも一人ずつ挨拶と自己紹介をするよ」
リック達は一人ずつ自己紹介をする。ポロンは笑顔でみんなの挨拶を聞いている。ポロンはリスの耳と尻尾を持つ獣人で、栗色の髪に真ん丸の緑色の瞳をして、ほっぺたが少しプクッとした、幼い感じのかわいらしい女の子だ。リスの獣人らしく、頭に三角形のフワフワの耳が二つに、背中には大きく太いフワフワの先端が丸まった尻尾が生えている。
身に着けている緑色の服は、王都以外の防衛隊の制服で、リック達の制服と色が違うだけで形は同じものである。
「じゃあ後はソフィア。また、わるいけど彼女に受け入れの説明をお願いね」
「はい」
ポロンはソフィアに連れて行かれて、彼女の席でここの説明を受けている。
「あれ? メリッサさん!? 何ですか?」
リックも自分の席に戻ろうとしたところ、メリッサに袖をつかまれて止められる。
「いいからもっと集まって!」
メリッサがカルロスの周りに集まり、身をのりだすようにいってくる。
「ちょっと隊長! なんだい? あの子は? ナオミよりも幼い子じゃないか!」
カルロスが少し困った顔している。確かにポロンはどう年齢を高く見て、も十二歳くらいしか見えない子供である。
「ポロンは優秀な兵士なんだよ。上の人間が若く才能ある兵士は王都に置いた方が良いってことで異動になったんだ」
「はぁ!? だからってなんで? ここなんだい?」
「上の人間からの推薦の兵士ってことで他の部隊から敬遠されてね…… ウッドランド村の隊長とは昔なじみで、ちょうど第四防衛隊に欠員がでたろ? だから僕が引き取ったんだ」
「あんたまた勝手に……」
「まぁまぁ。メリッサ。優秀だから敬遠されるのはいいよ。適正不良で他に引き取り手のない人達よりマシじゃないかな?!」
「イーノフさん! それは僕のこと言ってるんですか!?」
笑いながらイーノフが、ゴーンライトさんを見て軽口をたたくと、悲しそうにゴーンライトが訴えてる。
リックはイーノフがいくらなんでも言いすぎだと思いながもゴーンライトを見て安堵した。少しずつゴーンライトも第四防衛隊の雰囲気を持ちつつあったからだ。
「とにかく受け入れは決まってしまったんだ。仲良くしてやってくれ」
「わかったよ、でもあの子いったいいくつなんだい?」
「えっと年齢は…… あれ!? いくつだったけな…… 書類は…… あった! 十歳だそうだ」
「十歳って!? ほんとうにナオミよりも若いじゃないか! 十五歳以下は兵士になれないはずじゃないのかい!」
「優秀な彼女は特例として認められたんだよ」
「ケッ! まったく…… 本当にこの国は…… 幼い子を危険な目に合わせても平気なのかい」
メリッサが少し機嫌が悪そうにしている。自分の娘より幼い子が、同僚の兵士で最前線で、戦うなんて複雑なんだろう。
ポロンが十歳と聞いたリックの脳裏に同じ年のタンタンとエドガーが浮かぶ。確かに二人共幼いけどタンタンはミャンミャンと一緒に冒険者をやってるし、エドガーは立派に鍛冶屋をやっていた。不満そうにしてるメリッサにリックが声をかける。
「まぁまぁ。メリッサさん。鍛冶屋のエドガーも十歳ですし」
「そうだけど…… エドガーは鍛冶屋で危険はないだろ」
「それならタンタンは? 彼は冒険者ですから危険なら彼の方が高いですよ」
「タンタンが冒険者なのは自分の意志だろ! あの子…… ポロンはどうなのさ?」
「お前さんね。それを言うならポロンは志願兵だ。兵士になったのは彼女の志願だよ」
「そっか……」
ポロンが自分の意志で、兵士になったと聞いたメリッサは、静かに考えている。少しして小さく息を吐くメリッサだった。
「はぁ…… もういいよ。あたしもちょっと熱くなってわるかったよ」
「いや。メリッサの言いたいことはわかるよ。でも、もう決まったことだから、頼む! 彼女の面倒をみてやってくれ」
「あいよ。任しときな」
カルロスが真面目な表情でメリッサさんに頭を下げる。メリッサは笑顔でカルロスに答えるのだった。会話が終わったカルロスが、何かを思い出したような顔しリックに顔を向けた。
「エドガー…… あっ、そうだ! さっき、葬儀の帰り道にそこでエドガーに会ってな。リック! お前さんの頼んだものができたらしいぞ? ごめん。すっかり伝えるの忘れてた」
「えっ!? もうですか? はやいな」
「まだソフィアの話も終わらないだろうから、リックお前さんはエドガーのところに行ってきなよ」
「はい。ありがとうございます」
嬉しそうに返事をしたリックは、すぐに鍛冶屋のエドガーのところにむかう。
「フフ…… さすがエドガー。一か月はかかるとか言ってたのに…… 楽しみだ」
リックはこの間の勇者襲撃事件で、手に入れたもので、エドガーにあるものを発注していた。詰め所を出たリックはにやけて笑いながら路地を曲がって裏の通りへと向かうのだった。