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第124話 次は王都で会おう

 床に倒れたエミリオは大の字で仰向けになっていた。


「はぁはぁ…… いや、まだだ!」


 リックは静かに独り言をつぶやくと、最後の予備の剣を手に持って、エミリオの喉に剣を向けた。いくら全身が硬くても至近距離で、急所なら防げないはずだった。リックは手に力を込めた。


「はっ!? 待て……」


 だが、リックはすぐにエミリオに止めささずに、何かを思い出したかのように周囲を見渡した。

 

「へっ…… ざまあねえな。自分で作った武器でやられるなんて…… 何してる? さぁ、殺せ!」


 リックが目線を周囲に送っているとエミリオが叫んだ。リックは視線をエミリオに向けた。


「いつもお前のことをジェーンが助けに来るからな。警戒してるんだよ!」

「はははっ。心配するな。あいつはもうこねぇよ…… 俺は…… ジェーンに捨てられたんだ。この体を与えられて実験は終わったからどこにでも行けってな」

「捨てられた!? どういうことだよ?」

「知らねえよ! 俺が二十人目の勇者を倒したら、もうお前は用済みだから好きにしろってさ。ははっ、ほんとにざまあねえよな…… グボォ!!」

 

 大の字で仰向けに倒れた、エミリオの目から涙がこぼれていた。ゴボっと音がしてエミリオが血を吐く。イーノフがリック達の元へと駆け寄ってくる。


「きっ君は!? エミリオ!?」

「イッ…… イーノフ…… 兄さん? なん…… あんたが?」

「イーノフさん? エミリオのこと知ってるんですか?」

「リック以前話しただろ。エミリオはジックザイルの病気になった孫だよ」

「クッ……」


 エミリオは視線をイーノフからそらしてしゃべらなくなった。


「リック。エミリオはどうしてここに?」


 イーノフはエミリオが勇者だったことは、知らずになぜここにいるのかリックに尋ねる。リックはイーノフにエミリオのことを話す。王家の墓で出会ったこと、船乗りの洞窟でも襲ってきたこと。

 エミリオは王家の墓でデッドマンキングと融合し、次の船乗りの洞窟ではマンイータープラントになっていた。


「ジェーンから肉体を与えられたか。なるほどね…… 人体転移を経験した魂だから離脱も定着も簡単というわけだな」


 顎に手を当ててイーノフは何かを考えている。すぐに何かを思いついたようにエミリオの首に手を当てる。


「よし、まだかすかに息がある!」


 膝をついてエミリオの横に道具袋から小さな瓶を出すと、イーノフはリック達の方を見て真剣な表情で話しかける。


「リック、ソフィア、アイリスさん。ここで見たことは第四防衛隊のみんな以外には黙っててもらえるかな」


 イーノフはリック達に口止めするとエミリオの横に座り瓶を地面に置いた。エミリオの頭に右手を当て、イーノフの口がかすかに動く。やがて緑色の光が、イーノフの右手から発せられて、エミリオを包みその光が空中に集約されて塊となった。

 エミリオの頭から手を離し、イーノフは右手を光に向けた。イーノフが光に向けた右手を瓶に向けると、緑の塊が移動して瓶に入っていった。


「イーノフさん何をしたんですか?」

「エミリオの魂をこの瓶に封印したのさ」

「えっ!? なんで!? そんなことを!?」

「ちょっとね。僕は先にメリッサのとこに戻る。君たちは宝箱の回収をするといいよ」


 イーノフは振り返るとメリッサが、吹き飛ばして開いた穴に飛び込んでいった。


「ねぇ!? リック見て? あれ?」

「えっ!? うわ!? なんだあれ?」


 エミリオの体から煙が出てボロボロと崩れていく。煙がエミリオの体を包み込みすぐに消えていった。エミリオの体があった場所には細長い金属の山が出来ていた。


「ねぇ!? リック…… これ!」

「うん。全部、ブレイブキラーだよ」


 エミリオの体が大量のブレイブキラーに変わってしまった。


「どうするの? これ?」

「うーん。とりあえず証拠だし拾って帰るかな。もしかして売れるかもしれないし!」

「はは。リックもしっかりしてるわね。でも、これエミリオが作ってたのか。通りで見た目が勇者村で最初にもらう短剣に似てる訳ね」

「えっ!? そういえばアイリスと下水道で会った時に持ってた短剣に似てるな」

「エミリオね。その短剣もらった時にすごい嬉しそうに笑ってたの……」


 どこかさみしそうにアイリスはブレイブキラーの山を見つめていた。エミリオも道を踏み外したとはいえ、少し前までは勇者だった、勇者として認められた日はうれしかったのだろう。

 リックは魔法道具箱に大量のブレイブキラーをしまった。


「がうあ! がうあ!」

「きゃっ! キラ君、くすぐったいよ」

「キラ君…… よかった! 無事だったんだな」


 元気よく走ってきたキラ君が、アイリスに飛びついてほっぺたをなめている。キラ君を追いかけて来たソフィアが、リックとアイリスが嬉しそうに話し始めた。


「アイリス、リック。見てください。キラ君さんはすごいですよ!」

「えっ!? これは!?」

「へぇ。すごいじゃんキラ君!」


 ソフィアがブレイブキラーからアイリスを、かばった時のキラ君が持ってた盾を見せてくる。一枚は穴があいて貫通していたが、二枚目はへこんでいるだけだった。キラ君はアイリスをかばった時に、盾を重ねており二枚の盾を使ってブレイブキラーを防いでいた。

 ソフィアの話によると、キラ君は衝撃で倒れていただけで、大したけがはしてなかったという。


「すごいな!? キラ君は重ねたら強度が増すって知ってたのかな?」

「そうかな。偶然でしょ? でも……キラ君は徐々に賢くなってるからわからないけどね」


 嬉しそうにアイリスが、キラ君の頭を撫でていた。リックはアイリスの姿を見て笑った。アイリスだけではなく、キラ君も少しずつ成長していた。


「あっそうだ! 宝箱!」


 ハッという顔をした、アイリスは屋上に置かれた、宝箱の前まで駆けていった。アイリスは意気揚々と宝箱を開け、中をガサゴソと調べている。


「あったー! これだよ!」

「おおズラ!」


 笑顔でアイリスはリック達に向かって、金色で細長い口がある、丸い形の取っ手の着いたランプが頭に掲げた。あれが塔の攻略目的、逆転のランプだ。


「さぁ。願い事いうズラよ!」

「はーい。ランプさん! 私を女の子にして!」


 願いごとをしてアイリスは。ランプに静かに火をともす。ランプから紫色の妖艶な煙が発せられてアイリスを包み込む。


「アッ! うふん! 体が熱い! ああん! ダメ! あぁん! ダメダメ! そこは……  熱い!」


 吐息交じりのアイリスの声が響きわたった。煙の中でわずかに見えるアイリスは、股間を押さえてうずくまっていた。


「ダメ…… なんか変! そこ…… なにか来ちゃう!!! ダメダメダメーーー!!! あは!!! あああぁぁぁぁぁーーーーーーん!!!!!!」


 目をジッと閉じて口を開き、頭を上にしてさらに大きな声で叫んでいた。


「はぁはぁ…… これはきついわ! でも癖になりそう!」


 息を切らしてアイリスが立ち上がった。股間を撫でてしきりに何度も触っている。ニコッと笑ってアイリスはリックに向かって自分の股間を向けてくる。


「ほら! リック! 触ってみて?!」

「いやいや! 友達でもさすがにいやだよ!」

「でも、ないのよ! 私のなくなったの!」


 股間を指して何度もないというアイリス、どうやら本当にアイリスは女の子になったようだ。念願が叶ったアイリスは嬉しそうに飛び跳ねていた。


「おい! キラ君にも自慢げに股間を触らせようとしてる。やめろ! 馬鹿!」


 調子に乗りキラ君に股間を触らせようとして注意されたアイリス。注意されてもうれしいのか気にしないアイリスだったが、直後……

 

「えっ!? あっやだ! なんか股間が……」

「あっ!」

「ふぇぇぇ!?」


 アイリスが前かがみになって顔を赤くする。何かあったのかと駆け寄ろうとするソフィアとリック。


「ダメー! 来ないで! 恥ずかしい!」


 手をリックとソフィアの方に向けて、アイリスは必死に二人が近づこうとするのをとめた。


「うぅ…… せっかく女の子になったのに! すぐにまた…… 生えた!」

「どういうことだ? またって?」

「効果切れズラね」

「はぁ!? どういうことよ!? 私が女の子だったの一瞬じゃない!」


 スラムンが逆転のランプに乗って、胴体部分に書かれている文字をなぞっている。書かれているのは魔物用の文字だ。


「ここに注意事項が書いてあるズラ。それによると生命体に使用する場合は効果が短くなるズラよ」

「はぁ!? 何よそれ? 効果が短くなる!? それにしたって短すぎでしょ!」

「そんなのオラにいわれても困るズラよ!」

「せめて一晩だけ…… リックとの既成事実を作る時間を……」


 右手の人差し指を立て逆転のランプに向けるアイリスだった。リックとソフィアは冷めた目でアイリスを見つめるのだった。


「はぁ! 次よ。次! 一回の失敗で落ち込んでてたまるもんですか! さぁ次行くわよー!!!」


 アイリスはシュンとしていたが、すぐに復活して次に行こうと叫ぶのだった。


「(もうあきらめろよ…… いや! その前にまず魔王を倒せよ。勇者だろうが……)」


 リック達は屋上から、最上階へと下りて、メリッサ達と合流した。リック達は塔を下り、入り口まで戻った。塔の攻略はこれで終わりだ。勇者襲撃事件もエミリオを倒したことで同時に解決した。アイリスとはここで別れリック達は王都へと戻る。にぎやかなアイリス達の旅が終わりリックは少しだけさみしさを感じていた。


「えっ!? やっぱり? 私もそう思ったの!」

「そうですよ! あんなにアピールされたんだから、しっかりと答えないとだめですよ」

「うん。わかった! ありがとうソフィア!」


 アイリスとソフィアがキャイキャイと話し合い、アイリスはゴーンライトの前に立っていた。


「あの…… ゴーンライトさん、ありがとうございます!」

「いいんですよ! 僕…… アイリスさんのこと……」

「でっでも、私にはリックが…… だからごめんなさい」


 ゴーンライトはキョトンした表情をした後、何かに気付いたような顔をして、アイリスを見てほほ笑んでいる。


「そうなんですね。頑張ってください。リックさんといい関係が築けるといいですね」

「えっ!? いいんですか? だってゴーンライトさんは私のこと!? 好きなんですよね?」

「好きって!? やだなぁ。僕じゃないですよ」

「僕じゃない!? どういうことですか?」


 首をかしげたゴーンライト、彼は別にアイリスのことが好きだった訳じゃないらしい。リックは少し安心したような、かわいそうなような気持になる。


「えぇ。僕の妻と娘がアイリスさんのファンなんです。これからも魔王討伐の旅頑張ってくださいね」

「へっ!? はぁ?」

「いやぁ。アイリスさんと一緒に旅をしてお礼を言われたと妻と子供に自慢できますよ。娘が四歳なんですけどね。最近パパ嫌いとか臭いとか悲しいこというんですよ!? しかも妻も冷たいんですよ。でもアイリスさんと一緒に戦ったなんて聞いたらパパのこと見直してくれるかな」


 リックとソフィアがゴーンライトの言葉に驚く。彼は既婚者で娘が一人いるのだ。リック達もまだ出会って日が浅く知らなかった。下を向いてアイリスはは手を下げ、両手の拳を握って小刻みに、プルプルと震えている。


「ちょっと! アイリスさんは僕の大事な人って言ってじゃない!」

「違いますよ。僕の大事な家族の好きな人って言ったんですよ? 聞こえませんでした?」

「なっ!? なにー! ぐぬぬ!」

「それに僕は浮気なんかしません! 奥さん第一ですから! さっ早く帰って奥さんの手料理食べようっと!」


 嬉しそうにゴーンライトは微笑む。アイリスは悔しそうな顔してうつむいている。キラ君とスラムンはどことなく嬉しそうにしている。


「もう何よ! 既婚者なんて聞いてないわよ」

「俺は知らなかったんだ。ごめんな」

「はい。私も知らかったです。ごめんなさい」

「ソフィアのせいじゃないよ…… あっ! そうだ! リック! ショックだから慰めて」

「おっと!」


 両手を開いて飛び上がり、抱き着こうとするアイリスを、リックはかわした。

 リックの横を手と足を広げたアイリスが飛んでいった。直後にビタンという音がし、地面へと落ちたアイリスは、手を広げうつ伏せに倒れ、カエルみたいになっている。キラ君が近くに落ちてた枝でアイリスをツンツンしてる。


「なんで!? よけるのよ! もう!」

「ほら! アイリス行くズラよ。皆さんお世話になったズラ。またなズラ」

「スラムン達も気を付けていきなよ」

「気をつけてエミリオのことは内緒だよ」

「アイリスさん。ありがとうございました。家族にいいお土産です!」

「気をつけていってらっしゃいです」

「またな! アイリス! ありがとうな」

「やだー! まだ、私はリックと一緒に居る!」


 キラ君に羽交い絞めにされ、アイリスはリック達から離れていく。リック達はアイリス達に手を振っている。


「ちょっとー! まだ私リックとの約束守ってもらってないの!」


 アイリスがリックに向かって手を伸ばして叫んだ。リックはハッと何かを思い出した顔した。恩赦を頼んだ時の礼をまだしてなかったのだ。


「約束は王都に帰ってきたら」

「リック! 絶対だよ。次に王都に帰ったら行くからね!」

「あぁ。行こうな」


 アイリスは俺に向かって一生懸命に叫び、キラ君に引きずられていった。アイリスが歩きだすと、キラ君は振り向くその背中には四角い盾が二つ。リックはキラ君の背中を見て慌ててゴーンライトに声をかける。


「あっ! ゴーンライトさんの盾! キラ君が持ってちゃいましたよ?」

「いいんですよ。僕は予備を持ってるし、彼が気に入ったみたいだからね。あげました」


 ゴーンライトは笑顔でキラ君を見ていた。リック達はアイリス達が見えなくなるまで、見送り王都へと帰還するのであった。

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