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第123話 渾身の一撃

 横に並んでリックとアイリスはエミリオに向かって駆けて行く。エミリオは腰を落として尻尾で地面を、一回たたいてリック達を迎え撃つ体勢を取った。隣のアイリスがリックの顔を見てニコッと微笑んだ。リックは小さくうなずいた。


「なっ!?」


 エミリオの少し手前で駆けながら、リックとアイリスは同時に左右に分かれた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉーーー!」


 エミリオの左手に回り込みながら、リックは大きく叫びながら剣を抜いた。声に反応してエミリオの視線がリックに向く。リックに気を取られたエミリオを狙ってアイリスがチャクラム投げた。

 

「クソ!? こっちか!? なんでこいつらこんなに息がビッタリ……」


 息の合った二人の連携に慌てるエミリオ。アイリスとリックは赤ん坊の頃から、勇者としてアイリスが引っ越すまでほぼ毎日遊んでいた。離れいた時期があるとはいえ息があうのは当然だ。

 エミリオの右から回転しながら物凄い速さで、アイリスの両手から投げられた、チャクラムが彼を襲う。


「ケッ! お前達二人が束になっても俺には勝てないんだよ!!!!」


 叫びながらエミリオは、簡単にアイリスのチャクラムを、腕についた刃で弾いた。リックはその姿を見て笑った。


「残念だな。俺達は二人だけじゃないんだぜ」


 チャクラムを投げて、すぐにアイリスはエミリオとの、距離を詰めていた。姿勢を低くしてアイリスはエミリオの懐にもぐりこみ、顔を覗き込んでニコッと微笑む。エミリオの顔が一瞬だけ恥ずかしそうにする。


「ズラズラズラーーーーー!!!!」

「うわ!」


 アイリスが頭をさげた。彼の頭の上に乗っているスラムンが、エミリオの顔を目掛けて口から火を吹いた。ひるんだエミリオは手で顔を覆い、炎を防いでいる。


「もらった!」


 エミリオの後ろに回り込んだリックは、飛び上がり彼の背中を斜めに斬りつけた。


「クソが!!!」


 リックの右手に衝撃が走った。エミリオの肩にリックの剣はあたり、肩を少し斬ったところで音がして剣が折れてしまった。エミリオの体は硬く攻撃が通らなかった。エミリオは振り返ってリックを見てニヤッと笑う。


「へっ! どうだ! この黒精霊石の体は!」


 自分の体を指して得意げな顔をするエミリオだった。


「黒精霊石だとズラ!? リック! そいつはまずいズラよ」


 スラムンが驚いて声をあげるリック達は、黒精霊石について知らないが彼は知っているようだ。エミリオは背後にいたリックに刃を突き出した。磨かれた刃がリックに喉元を正確に狙う。

  リックはなんとか右手に持った折れた剣でエミリオの肘を迎え撃った。


「さすがにしぶといな」


 リックは折れた剣をエミリオの肘にぶつけて軌道をそらすことに成功した。リックの頭の上をエミリオの刃が通り過ぎていく。腕を叩かれたエミリオが腕を上にあげて少しだけ体勢を崩していた。エミリオは何とか踏ん張って左腕の刃でリックに追撃をしようと


「今よ。リック!」


 アイリスがエミリオの背後からアイリスがチャクラムを投げた。エミリオは振り向いて左腕チャクラムを叩いた。

 リックはアイリスが作ってくれたすきをついて走ってエミリオとの距離を取った。離れた場所で振り返ったリックは、腰に付けた魔法道具箱を開けて中から予備の剣を出す。

 体勢をなおしてエミリオがリックを悔しそうに見つめていた。


「お前の体が黒精霊石って本当ズラか?」


 エミリオにスラムンが叫ぶ。


「フン。元魔王軍の貴様は知ってるか…… そう。俺はジェーンによって黒精霊石の体を持つ黒精霊石魔人になったのさ」

「なに? その石? スラムン知ってるの?」


 アイリスは頭の上目で、自分の頭に乗っているスラムンにたずねている。スラムンがアイリスの頭の上で、飛び跳ねながら話しをする。


「先代の魔王様が精霊石を魔界の炎で鍛えた石ズラよ。石は黒く強固な硬さをほこり、武器にすればあらゆるものを破壊して、防具にすれば高い防御力を誇り魔法もほとんど通さないズラ!」

「えっ!? ちょっとなんでそんなのがエミリオの体になってるのよ」

「わからないズラ! 貴重な石で今ではほとんど作成できる者いないはずズラ!」


 スラムンが飛び跳ねながら叫ぶ。エミリオはスラムンとアイリスの会話を聞いて笑う。


「はははっ。ジェーンだよ。ジェーンはな。グラント王国打倒のために黒精霊石の研究をして実験を繰り返してな。ついに作成に成功して俺を作り出したってわけさ」


 手を叩いて笑いながらエミリオは、尻尾を真っ直ぐに伸ばして先端を上に向けた。黒くて硬い石と聞いたリックがエミリオに尋ねる。

 

「ブレイブキラーもその石でできてるんだな?」

「あぁ。そうだよ。作るとこを見せてやるよ!」

「えっ!? 作るって…… 何をする気だ!?」


 エミリオは尻尾の先端を、自身の背中に突き刺し、すぐに背中から、尻尾の先端が出てくきた。尻尾の先端にはブレイブキラーが巻き付いていた。どうやらブレイブキラーはエミリオの体の中で出来ていたようだ。


「くらえ!」


 エミリオが尻尾を使ってブレイブキラー投げてきた。リックはとっさに剣ではたき落とした。回転しながらブレイブキラーが宙を舞って地面に説落ちた。


「ほらいくぞ!」


 ブレイブキラーを投げたエミリオは、リックに向かって駆け出して次の攻撃を仕掛けてくる。


「左はフェイント…… 右から……」


 リックは視線を動かし、エミリオの足と腕の動きを確認し、つぶやくのだった。リックの言った通り、エミリオは左腕の刃を、突き出すふりをしてから、右腕の刃をリックに突き出す。

 突き出されたエミリオの刃をリックは、横に一歩移動してかわす。リックの目の前をエミリオの刃が通過していく。リックは剣を持った右手をエミリオの腕の下にいれて彼の胸を狙って突いた。


「駄目だ……」


 硬いエミリオの胸にリックの剣は、ほんの先端だけが突き刺さっただけだった。エミリオがリックの剣に向かって、刃を振り下ろすとバキっと音がして剣が折れてしまった。


「クソ! これじゃさっきと同じ!」

「どうだ! お前の剣じゃ俺に傷はつけられないんだよ!」


 その後は何度も同じ光景が繰り返された。リックがエミリオの攻撃をかわし、反撃をすると攻撃が浅くしか決まらず。エミリオに折られるか、剣がエミリオの硬さに耐え切れず折れてしまう。リックの魔法道具箱に入れてある剣の予備が無くなっていく。


「スラムン、どうしよ? リックの攻撃が効かないよ!」

「いや…… あれは違うズラね。リックの反撃の威力が強すぎるからズラよ」

「えっ!?」

「リックの反撃とエミリオの体の硬さが加わって剣が耐えられないズラよ。かと言ってリックが反撃を緩めてもエミリオには効かないズラ。リックの反撃に耐えられる武器があればいいズラが……」


 スラムンとアイリスの会話をしている。スラムンの言う通りであれば、強力な武器を用意しなければなないが、ここは塔の上であり簡単に武器なんか見つかるはずもない。


「うわ! またか……」


 リックはエミリオの攻撃をかわしてエミリオの腹に剣を斬りつけた。振り切るとわき腹を少し切りつけて剣がパキンと折れてしまった。


「剣はあと二本……」


 切りつけられたエミリオは、余裕の表情をしている。リックの攻撃が入っても剣、が途中で折れてしまって致命傷にならない。

 

「スラムンなんとかできないの?」

「そうだ! あれを使うズラよ」


 何かを思いついようなスラムン、彼はアイリスを連れてリック達から離れていった。リックはアイリス達の動きに気付いたが、そんなことを気にしている場合でなくエミリオの対処に忙しい。

 リックは体勢を低くしてエミリオに飛び込んだ。


「クソが!」


 左腕の刃をリックに向けて突き出すエミリオ、リックは右腕を折りたたんで体の左に持っていき、タイミングを合わせて右斜め前に踏み出し刃をかわした。突き出された腕の横から肩を狙うように剣を振りあげて切りつけた。


「しまった」


 エミリオの脇から肩にかけてをリックの剣が斬りつけたが、ガキっという音がして剣が折れてしまった。


「ぐわぁ!」


 剣が折れて体勢を崩したリックにエミリオの蹴りが入った。リックは吹き飛ばされて床に叩きつけられた。すぐに起き上がろうとリックは手をついて上半身を起こした。


「残念だったな! これで終わりだリック!」


 走り出したエミリオがリックに向かって刃を向けた。


「クソ!」


 リックは起き上がろうとする途中で、膝をついたまま、剣を出そうと魔法道具箱に手をかけた。


「えっ!?」


 大きな音が塔に響いた。音がした方に振り返るリック、エミリオも音に反応して動きが止まった。エミリオがふさいだ扉の入り口から、石を吹き飛ばして何かが細長い物体が上空に消えていった。


「あれは…… メリッサさんの……」


 柄の青いメリッサさんの槍が、勢いよく床からが飛び出していったのだ。


「わっわっ! ちょっと待って! メリッサ! これはひどいよ!」

「うるさいね! これしかリック達のとこに行く方法が今のところないんだよ。頼んだよ!」


 聞こえてくる叫び声でリックは、何をするのかだいたい想像がつき。イーノフに同情した。槍の後を追いかけるようにして、小さい人影が上空に高くに舞い上がっていた。

 上空に飛んで行ったのはイーノフだ。推測するまでもなく、メリッサが彼を放り投げたのだ。空高く上がったイーノフは、なんとか空中で体勢を立て直して降りながらリック達に視線を向けた。


「いた! リック!? あれが敵か? くらえ!」

「おっお前は!?」

「氷の聖霊よ! 氷短剣風(アイスダガーウインド)!」


 落ちながらイーノフが魔法を唱えると、彼の手から無数の小さく尖った氷の塊が、飛び出してエミリオに向かっていく。

 

「くっ! ぐあ!」


 イーノフから飛び出した、氷の塊はエミリオの体の表面を削り、彼は思わず手顔を覆っている。


「今だ! リック!」


 リックに向かって叫ぶイーノフ。エミリオはイーノフの魔法で動けない最大のチャンスだ。だが、リックは自分の剣を握りしめ悔しそうにうつむく。リックの剣じゃあいつにダメージが与えられないのだ。このまま攻撃しても、みすみすチャンスを失うだけなのは、十分にリックは理解していた。


「リック! 早く! 僕の魔力ももう……」


 イーノフの魔法が勢いを失い少なくなっていく。手で顔を覆っていたエミリオがニヤッと不敵に笑うのが見えた。


「いや! もう……」


 意を決したリックは、最後の剣を出そうと腰につけた、魔法道具箱に手を伸ばした。


「待って! リック! これを使って!」

「えっ!?」


 アイリスがリックに向かって手に持った何か投げて声をかけた。リックが顔をアイリスの方に向けると、黒い物体が自分に向かって飛んできおり、リックは反応して飛んで来た物体をつかむのだった。


「えっ!? アイリス? これは」

「ブレイブキラーよ!」


 リックが受け取ったのはブレイブキラーだった。ブレイブキラーはエミリオの体と、同じ強度を誇っており、ヘビーアーマーでさえ貫通する。リックが笑顔を向けるとアイリスは大きくうなずく。


「これなら…… エミリオ! お前を!」


 両手でブレイブキラーを持ってエミリオを睨みつけたリック。


「へっ! やってみろよ!」


 体制を立て直したエミリオはリックに向かって、背中の尾っぽを鞭のようにして叩きつけてくる。


「遅い!」


 リックはエミリオの尻尾を横に飛んでかわすと、ブレイブキラーを両手に持ってエミリオに突っ込んでいく。


「死ねええエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!!!!!!!!! エミリオ!!!!!!!!!!」


 リックは体ごとぶつかるようにエミリオの胸に飛び込んだ。ズドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン! という大きな音が塔から森へ響く。リックの両手に巨大な衝撃が伝わり全身を駆け巡っていく。ブレイブキラーはエミリオの胸に突き刺さっていた。


「ははっ。手ごたえありだ」


 笑ったリックは左手をブレイブキラーのグリップエンドに持っていき、エミリオの胸にさしたブレイブキラーをされに押し込んだ。直後にリックははブレイブキラーから両手を離す。リックとエミリオはお互い後ろに下がりながら離れていく。エミリオはそのままのけぞり後ろに倒れた。リックは地面に落ちて尻もちをついたのだった。

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