第122話 勇者を狩る者
「アイリス。どうだー? 見つかったか?」
「ない! ない! ないよー! リックー! 探してるけどないのー! おかしいな。塔の中心にある宝箱だから絶対これだと思ったのに!」
塔の最上階で、宝箱の中身をひっくり返し、ないないとアイリスが嘆いている。三階でグーラップルを退けたリック達は、その後数回の魔物襲撃があったが順調に塔の最上階までやってきた。塔の攻略の目的である、反対のランプという道具が、最上階の宝箱から見つからないのだ。
「どうする? アイリス。まだ探すかい?」
「メリッサ姉さん。うーん…… ありがとうございます。でも、もういいです。だってゴーンライトさんがまだ……」
アイリスは心配そうに、メリッサに背負われている。ゴーンライトに目を向けた。グーラップルとの戦いで、麻痺を受けたゴーンライトは、まだ完全に回復していなかった。
「ははっ。あたしは別に大丈夫だよ。ゴーンライトは軽いからね」
「ありがとうございます、でも平気です。やっぱりけが人を放ってまで探す必要はないですから」
「そんな! 僕も大丈夫です。アイリスさんが望むようにしてください! アイリスさんのためなら平気です」
「えっ!? ありがとうございます。じゃあこの階の宝箱だけもう少し調べさせてください」
ゴーンライトが必死にアイリスを説得している。彼の必死な様相に、アイリスは嬉しそうにほほ笑んでいた。ゴーンライトはアイリスの笑顔を見て顔を真っ赤にするのだった。リックはゴーンライトを見て、また麻痺がひどくなったのかと心配し、ソフィアはなぜか微笑んでいた。
リック達はこの階の他の宝箱を探すが、結局アイリスの望む逆転ランプは出てこない。
「うぅ…… せっかく本当の女の子になれると思ったのに……」
アイリスはうつむいてしょんぼりとしている。メリッサの背中にいたゴーンライトがアイリスの姿を見て声をかける。
「落ち込まないでください。アッアイリスさんはそのままでも充分…… 素敵……」
「私のことを素敵だなんて…… ゴーンライトさん!?」
「素敵!? ゴーンライトさんは何を言ってるズラ!? アイリスは料理もあまりうまくないズラよ? ベッドの上で食べながら本を読んだりするズラよ?」
「スラムン! もうスラムンの好きなサンドイッチつくってあげない!」
頭の上に乗ったスラムンを捕まえ、両手で引っ張りながらアイリスが、怒った顔をして詰め寄っている。ゴーンライトはその様子をほほ笑んで愛おしそうに見つめていた。
「あんた!? さっきから変なこと言ってアイリスは男だよ!? 知ってるよね?」
「はい! 知ってますよ」
「えっ!?」
驚いた表情のアイリスとほほ笑んでいるゴーンライト。目が合い二人で見つめあうと、ゴーンライトの顔が真っ赤になってる。
「ゴーンライトさんは積極的にアイリスを口説いてます」
「えっ!? そうなの?」
「気づかないんですか? リックは鈍いですね!?」
ソフィアがリックに微笑む。リックは首をかしげるが、確かにゴーンライトは、アイリスのこと大事だとか言っていた。親友を奪われる…… リックはアイリスとゴーンライトに嫉妬の心が……
「よかったな。アイリスを受け入れてくれる人がようやく現れたか」
芽生えるわけもなく、アイリスをありのまま受け入れるくれる存在が、現れたことを喜ぶのだった。二人を見て優しく微笑むリックだった。
「あっ! でも、私にはリックがいるし……」
「リックさんが!? 二人はどういう?」
「それは…… その……」
恥ずかしそうに言葉を濁すアイリス。ゴーンライトは目を見開き驚いた様子でリックを見つめる。その目は段々と鋭くなんとなく睨んでいるようだった。
「どうしたの?」
何かの気付いたようで、ソフィアがリックの袖を引っ張り、天井を指さした。
「リック! あそこ! 天井に扉がありませんか?」
「あっ!? ほんとだ!」
壁際の天井の一部が、四角く黒く穴のようになっていて、穴の先に木の扉のようなものがある。
「あそこからさらに上にいけるんじゃないですか?」
「さらに上…… あっ! そうか。屋上があるのか」
首をかしげるソフィア、リックは大きくうなずく。この塔はダンジョンになる前は監視塔だ、最上階のさらに上に屋上にいけないはずがなかった。
「アイリス! ここから屋上にいけるみたいだぞ」
「えっ!? ほんと!? でも……」
「僕は大丈夫です。アイリスさん行ってください」
アイリスが悩んでいると、ゴーンライトがすぐに声をかけた。アイリスは嬉しそうにゴーンライトにうなずいた。だが、ハシゴも階段も見当たらないけず、どうやってあの扉を開けて屋上に行けばいいのかが問題だった。
「まずはあの扉を開ける方法を考えないとな」
「じゃあ、リックの肩に私が乗りますよ」
「えっ!? 大丈夫?」
「はい。重装鎧はスカートじゃないから平気です」
微笑んでうなずくソフィア、リックは少し残念そうにする。ただし、残念そうにしたリックではあるが、朝、着替えるときにチラッと見たので、ソフィアの下着の柄が、オレンジと白のシマシマであることは知っており脳裏に焼き付けてある。
「何で二人で決めてるのよ。あたしがリックの肩に乗って上に行くわ」
「私が行くです!」
「ダメよ! ソフィアは重い鎧も着てるし! それに体重も重そうだしね!」
「アイリス! 失礼です」
ムッとした顔で両手を上に上げ、ソフィアはアイリスを追いかけた。アイリスは笑って舌をだしてソフィアから逃げるのだった。
「えっ!? ちょっとソフィア!?」
「ふぇぇぇん。リック! アイリスがいじめます」
「よしよし」
「はぁ?! なんでそうなるのよ!」
「やめろ。アイリス」
リックに抱き着いて来た、ソフィアの頭を彼が撫でていると、アイリスが不機嫌そうに詰め寄ってきた。眉間にシワを寄せ目を鋭くしたアイリスが怖がったのかソフィアがプルプルと震えていた。リックはそんなソフィアの姿がちょっとかわいかった。
「ニヤリです!」
「あっ! あんた!? わざと!? リックから離れなさい!」
アイリスがリックとソフィアの間に、手を入れて引き離そうとする。ソフィアは舌をだしてリックの腕にしがみついていた。元はと言えばアイリスが、ソフィアを重いってからかうから悪いのだが…… リックは二人を心配そうに見つめ止めようか考えていた。彼だけは自分達に近づく大きな気配に気づいていた。
「いい加減にしな!」
「ふぇぇ!」
「ひぇ!」
メリッサの一声で二人の喧嘩は終わった。首をかしげるリック、なぜかメリッサが彼をにらんで苦い顔をしていた。
「はぁ…… 全部あんたが悪いんだからね! さっさと、なんとかしな!」
「えぇ…… わかりました。ほら二人とも」
ソフィアとアイリスとリックの三人で、どっちがリックに乗るかの話しあいをする。三人で話し合いの結果…… ヘビーアーマーを装備したソフィアより、アイリスの方が身軽なおで、リックがアイリスを肩に乗ることになった。アイリスが屋上に登ったら、縄でリック達を引き上げる。
屋上に行くのはリックとソフィアとアイリスとスラムンとキラ君だ。メリッサとイーノフはゴーンライトが、まだ動けないのでここで待機をする。少し前かがみになってリックは壁に手をつくと、ソフィアがサポートしながらアイリスはリックの肩に足を乗せる。
「リックいい? 恥ずかしいからスカートの中を覗いたらダメだよ!」
「はいはい。見えてもどうも思わわないよ! それよりも重いから早くしてくれ」
「なっ?! 失礼ね!」
必死にアイリスが天井にある扉に手を伸ばしている。上を見上げれば、アイリスのミニスカートの中に、黒いタイツから透けた、フリフリのハデなピンクのパンツが見える。リックは上を見ながらアイリスの様子をうかがっている。下を気にしたアイリスとリックの目が合う。アイリスは頬を赤くして焦りだす。
「ちょっと!? リック!? 何を見てんのよ? エッチ!」
「いいから早くしろよ!」
「そうズラ! 気にしないで早くするズラ!」
「リックとスラムン嫌い! もう知らない!」
リックの顔が苦痛に歪む、リックの肩をアイリスが蹴ったのだ。リックは眉間にシワをよせアイリスを睨むのだった。
「よし! 開いた!」
なんとか天井の扉をあけた、アイリスが壁に手をかけて扉の外へ頭をだした。
「やっぱり屋上みたいだよ」
「そうか。外に出る時は気をつけろよ」
「わかってるわよ。これでもS1級勇者なんだから」
慎重にアイリスが屋上に出て縄をリック達へとおろした。縄をつたってリックはすぐにアイリスを追いかけて屋上へと出た。アイリスのそばでリックは周囲を確認する。屋上は外壁と違い、草が生えてなく、町の広場ほどの大きさがあった。
指しあたって危険はなさそうで、下で待っているソフィア達にリックは声をかける。
「みんな。上がって来ていいよ」
「わかったズラ。キラ行くズラよ」
頭にスラムンを乗せたキラ君がまず屋上に登ってきた。続いてソフィアが屋上に上がって来た。
「はいよ」
「ありがとうです」
手を伸ばしたソフィアの、手を掴んで屋上に引き上げる。アイリスはスラムンをキラ君の頭から移す。
「うーん。風が気持ちいいです」
屋上に上がってソフィアが、気持ちよさそうに背伸びをする。ソフィアの言う通り屋上に吹く風は心地よく気持ち良い。
「リック。景色がいいですよ」
屋上の周囲は、リックの胸くらい高さまで、石を積んだ柵に囲まれていた。扉の近くの柵を掴み、ソフィアがリックに声をかける。柵の向こうは、森の先の山などが見え景色が良い。
「あっ! 宝箱が!」
塔の端をアイリスが嬉しそうに指をさす。彼の指した方向に宝箱が一つ置いてあった。
「うん!?」
宝箱の後ろに、尾っぽが生えた人のような、形の何かが現れた。こんな寂れた塔の屋上に、人なんか居るわけないおそらく魔物だ。
「まて!? アイリス!」
リックは宝箱に向かおうとしたアイリスの肩を掴んだ。アイリスが驚いた顔で振り返った。魔物の尾っぽの先が光った。リックの顔が青ざめる。この光は森で見たものと同じでサーダを貫いた光だ。アイリスにめがけてすごいスピードでブレイブキラーが飛んで来た。
「あぶない!」
左手で鞘を持ったリックは、アイリスの肩から、右手を離して素早く体を入れかえた。
「なめるなよ」
リックは飛んでくる物体に、タイミングを合わせ、剣を抜くと同時に斬りつけた。キーンという金属同士がぶつかる、甲高い音がしてブレイブキラーが回転しながら空に舞い上がった。放物線を描いてブレイブキラーは落ちて床につき刺さった。
「やはりブレイブキラーか……」
ブレイブキラーを投げた魔物に顔を向けるリック。ブレイブキラーを使うこの魔物が勇者襲撃事件の犯人だ。
「さすがだな! リック」
「おっお前は……」
宝箱の後ろに立っていた、魔物が手を叩きながら、リック達にゆっくりと近づいてくる。頭からつま先まで黒い岩のような、ごつごつした体をした人間型の魔物だ。肩の部分は鎧のように丸くなって、肘の先が伸びて尖った曲線を描き磨かれた刃物のように光っていた。
背中に鱗のような模様が入った、長い尻尾が生え、先端を浮かせて漂わせている。リックには魔物の顔と声は見覚えがあった。王家の墓、船乗りの洞窟でリック達を襲ってき人物だ。
「エミリオ……」
「思ったより遅かったな。まさかグーラップルごときに手こずったんじゃないだろうな」
「俺達を森で襲ったのはお前だな」
「あぁ。ちょっと姿を見せてからかってやろうと思ったら…… 馬鹿が追いかけてきたからな! さっくりと殺してやったぜ! 弱すぎて話にならなかったけどな」
アイリスはリックがはたき落とした、短剣を拾うと驚いた表情をしている。
「あなたが…… ブレイブキラーを使って勇者を襲撃してたの!?」
「フッ」
不敵な笑いながら、リック達の方にむかって、エミリオはゆっくりと歩いてくる。
「なっなんで!? そんなことを?」
「見ろよ。この体! 強そうだろ? 実際強いんだけどな。俺はこの体をジェーンに作ってもらったんだ。勇者の襲撃は慣れるまでの準備運動だよ。王国の勇者さん達ならちょうどいいしな……」
「準備運動!? その為にグラント王国の勇者を二十人も……」
「大丈夫だ。もう準備運動は終わりだ。次の標的こそが俺がこの体を手に入れた目的だ」
エミリオはリックとアイリスを、交互に見ながら徐々に歩いて近付いてくる。すぐに動けるようにリックは、腰を落とし右手に持った剣に力を込める。
「その標的とはお前のことだけどな! 死ねアイリス!」
「くっ! エミリオ…… なんで……」
アイリスの方を睨み付けてエミリオが指をさした。いつまでもアイリスに執着し続けるエミリオ、リックは彼のすさまじい執念に背筋が、薄ら寒くなる。アイリスは目に少し涙をため、悲しそうな瞳でエミリオの見つめていた。
「ちょっと! リック!? 変な音がしたけど、どうしたんだい?」
「ブレイブキラーの使い手の襲撃です!」
異変に気付いたメリッサが、下の階からリックによびかける。リックは扉の方を見ながらメリッサの声に答える。
「わかった! あたしらもすぐに向かうよ」
「邪魔をするな!」
エミリオが右手を向けリックに向けた。彼の手から火の玉が発射されて、リックの横を通り屋上の床に設置された、扉の近くの柵に当たる。積まれた石の柵が、崩れ落ち屋上への入り口を塞いでしまった。
「ははっ! これで援軍はこない! 死ね! アイリス!」
エミリオはアイリスに向けて駆け出す。走りながら腕を体の前でクロスさせる。肘から伸びていたとがった刃が、光って消え手首に移動した。リックはエミリオの動きに反応し、アイリスの前に出た、彼は剣を構えてエミリオに向かっていく。
「邪魔するな! リック!」
接近するリックにエミリオは、すぐに攻撃対象をリックに変えた。エミリオは右腕を大きく振りかざし、向かって来るリックに視線を向けた。エミリオはリックに向かって刃を振り下ろした。鋭く伸びる刃はリックの真上から、額に狙いが定められていた。
「この!」
真上から振り下ろされた、エミリオの刃をリックは剣を振り上げて向かい撃った。鋭くふりおろされるエミリオの刃とリックの剣が衝突する。衝突したリックの腕にが衝撃が走り手がしびれる彼の顔を歪めた。かつてのエミリオのようななまくらの一撃ではなく達人のような一太刀だったのだ。エミリオがリックの顔をみて口元が緩む。
「なっ!? リック! 貴様」
リックは右手首を、軽く曲げ力をぬく、攻撃を受け流す。リックの剣の刀身をエミリオの刃は滑っていった。腕を振り切ったエミリオとリックは体を入れ替えて彼の左横に移動する。
「もらった!」
腕を横に引いたリックは、剣を切り返し、エミリオの首を斬りつける。だが…… エミリオは左腕を上げ体をひねり、左腕の刃をリックの剣のきどうに合わせた。音が響いてリックの剣とエミリオの刃がぶつかり合い火花が散る。リックは自分の剣とエミリオの刃越しに彼と顔を合わせる。
「へぇ!? やるじゃん。エミリオ」
「どうだ! ブレイブキラーとして俺は貴様とアイリスを殺すためにこの体になったんだ!!! 簡単に負けるわけないんだ!!!!」
吠えるエミリオだった。自分とアイリスを殺すために、体を変えたというエミリオ、彼の執念深さにリックは感心する。しかし、リックだって負けてはいな。彼は子供の頃から努力して来た。グラント王国…… いや王女を守るために……
「ぐわぁ!」
前蹴りをいれエミリオの体を強引に突き放すリック。蹴られたエミリオは不意をつかれてバランスを崩した。リックは体制を低くして、エミリオとの距離を一気につめ、右腕を引いて剣を水平に持って手に力を込める。
リックは渾身の力を込めて、エミリオの胸を狙って剣を突き出した。
「チっ!」
とっさに避けたエミリオの上腕にリックの剣が突き刺さる。
「もう少しだったのに…… 残念」
「残念なのは貴様だ!」
エミリオが剣を掴んだ。彼の尾っぽの先端に、ブレイブキラーが巻き付いていた。
「これで貴様は何もできまい! 死ね!」
リックに向かってブレイブキラーを投げつけるつもりのようだ。だた、この距離でもリックにはエミリオのブレイブキラーは当たらない。なぜならもうエミリオの動作はリックは見切っている。
だが、エミリオの視線が、リックからはなれ横に移動した。リックが視線の先に目を向けるとそこに居たのは……
「アイリス! よけろ!」
慌ててリックはアイリスに向かって叫んだ。
「無駄だよ」
叫ぶと同時に尻尾が振られ、ブレイブキラーがアイリスに向けて投げられた。
「えっ!?」
ほぼ同時に屋上に、大きな金属と金属がぶつかった音がこだました。
「キラ君!」
奴の尾っぽから発射された、ブレイブキラーがアイリスに届く直前に、盾を持ったキラ君が飛んで来て、アイリスの前に現れた。盾を前に出して、ブレイブキラーの直撃をうけたキラ君は、衝撃で吹き飛ばされて仰向けに倒れている。
「エミリオ、お前! よくもキラ君を!」
「黙れ!」
エミリオが腕に刺さったリックの剣を握った。エミリオの力でリックの刀身が簡単にへし折れた。ニヤッと笑ったエミリオは、リックに見せつけるかのように目の前で、手を開いて砕いた剣を見せてきた。
「おっと」
エミリオは刃の先をリックに向けて殴りかかって来た。体をひねったリックは刃をかわす、体を入れ違うようにしてエミリオの背後に回るリック。エミリオはすぐに振り向いてリックに刃を向けた。リックは冷静にエミリオの動きを見た。
「ほらよ」
「うわ!?」
折れて刀身が短くなった剣をリックはエミリオに投げつけた。顔面の近くに投げられた剣を必死にかわすエミリオ。リックはその隙に後ろを向いて走って距離を取った。すぐに振り向いて魔法道具箱から予備の剣を出そうと腰に手を回す。しかし、エミリオはすぐに追撃しようとリックに向かって走り出す。
「リック! 今のうちに剣を!」
「クソが!」
エミリオの顔をめがけ、ソフィアが矢を放った。飛んでくるソフィアの矢を、エミリオは刃ではじく。リックはソフィアが足止めをしているすきに、魔法道具箱から予備の剣を出して構える。
「キラ君! キラ君! 大丈夫? 返事をして! お願い!」
涙を流してアイリスが、吹き飛ばされたキラ君を抱いている。
「ソフィア! エミリオは俺がなんとかする。だからキラ君をお願い」
「はい。でも? リックは一人で……」
「お願いだ。アイリスは…… アイリスは…… 俺の大事な友達なんだ。だからあいつの悲しむ顔はみたくないんだ」
「リック…… はい。わかりました」
ソフィアはほほ笑んで頷くと、すぐにソフィアがキラ君の元に駆けつける。彼女はアイリスと交代し、すぐにキラ君の状態を確認する。
「ソフィア…… キラ君をお願い」
「はい! アイリスは?」
アイリスは凜とした表情で、立ち上がるとエミリオの方を睨みつける。
「エミリオ! 許さないからね」
「オラも行くズラ! よくもキラを!」
「うん。行くよスラムン!」
スラムンがアイリスの頭に飛び乗ると、彼はチャクラムを両手に持ってリックの横に並ぶ。
「なんだ!? アイリスまで俺に向かってくるのか? ちょうどいい! 俺の獲物はお前たち二人だからな!」
笑うエミリオをアイリスは睨みつけた。すぐにアイリスはリックに、顔を向けて真剣な顔で口を開く。
「リック! あいつを倒すのを手伝って!」
「そっか。奇遇だな。俺もちょうどお前にあいつを倒すのを手伝ってくれって言うつもりだった」
「あら!? 気が合うわね、やっぱり私達……」
「気が合うのは当たり前だろ…… 俺達は子供の頃からの一番の友達だからな!」
「はぁ…… リック嫌い!」
舌をべーっと出して口をとがらせ、不満げに前を向くアイリスだった。
「嫌いでもいいから協力しろよ」
「はいはい。わかりましたよ」
前を向いたままリックは、アイリスに声をかけ、左手の拳を握って横に居る彼に向ける。アイリスは同じく前を向いたまま、不満げに返事をし右手の拳をリックが向けた拳に軽く当てた。直後にアイリスとリックは二人でエミリオに向かって駆け出すのだった。