第121話 塔の激闘
三階の謁見の間には、奥に壇があって玉座が置かれていた。入り口から玉座まで柱が並んで床には古びた赤い絨毯が引かれている。昔は真っ赤な絨毯を柱が挟むようにして綺麗であったことが想像できる。柱の間隔は広く取られ、リック達が走り回るのに充分な広さがあった。
玉座の後ろにかつては、王様や将軍の威光が引き立つよう、外の光を取り入れられるように、大きな窓が設置されていた。今はびっしりと窓の外にツタが伸びて、光はほとんど入ってこないが、微かな隙間から陽の光が地面に反射している。
待ち伏せの配置は、スラムンとキラ君が部屋の右手の真ん中で、リックとソフィアは左側で待機してる。アイリスとゴーンライトは部屋の一番奥壇上の付近で待機しいてる。まずはメリッサとイーノフがグーラップルを部屋の真ん中にまでおびき寄せる。
合図をしてソフィアとスラムンとアイリスの魔法で叩き落としてリックとキラ君で攻撃するという作戦である。部屋の奥にいるゴーンライトは攻撃はせずにグーラップルの正面に立つことになるアイリスを盾で守る。
「ヴエェェ……」
遠くの方で微かに鳴き声が聞こえる、リックがふと窓を見るとかすかに振動しているのがわかった。グーラップルとメリッサ達が接触したようだ。直後にイーノフが入り口から部屋に、勢いよく駆け込んできてリック達に向かって叫ぶ。
「もうすぐメリッサがグーラップルを連れてくる。みんな準備を!」
リック達は各自武器を準備して迎撃態勢を取った。
「来るよ。みんな!」
十秒も経たずにメリッサも、イーノフと同じように部屋に駆け込んできた。メリッサとイーノフは部屋の真ん中で立ち止まり振り返る。
「うん!? あっあれ!?」
身構えていたリックが声をあげる。何もこないのだ。部屋にメリッサが飛び込んできて。しばらく経ったが何もこない。静かな空気がずっとながれていく。
「あれ!? どうしたんだい? 来ないよ」
「ほんとだね」
「リック。アイリス。スラムン」
手の平をリックとソフィアに向け、メリッサはそのまま待機と指示をした。リックとソフィアは黙って頷いて答える。スラムンはキラ君の上で飛び跳ねて、ゴーンライトはリックと同じように頷いて答えてる。視線を送り全員に待機指示がいきわったことを確認した、メリッサとイーノフは構えをといてゆっくりと入り口の方に向かって歩いて行く。
「おかしいね。あたしは確かに三階に上がってやつが最後の曲がり角を曲がってくるのは見たよ」
「そうだね。僕もメリッサの後ろにグーラップルが来てるのは見てたんだけど……」
歩きながらメリッサとイーノフは、二人は顔を見合わせて不思議な顔をしていた。リックは入り口に向かう二人を見ながら周囲を警戒する。鳴き声はないがわずかに建物が振動しているような気がした。
「あれ!? 急に周りが?! 薄暗くなったような……」
「どうしました? リック?」
「そうか」
リックは地面に目を向けた。薄暗くなったのは地面にあった、玉座の後ろの窓のツタの間から差し込む光が消えていたのだ。少ししてまた日差しが差し込んできた。地面の光の動きに、リックの顔が青ざめていく、つまりこれは……
「ゴーンライトさん! アイリス! すぐに窓から離れろ!」
窓の外の光が消え、今度は少しだけ大きい光がはいってきた。リックは剣に手をかけ、叫びながらアイリス達の元へと駆け出した。
「えっ!? リック!? 急に離れろってなによ?」
「どうしたんですか? リックさん?」
「いいから! 早く離れるんだ!」
ゴーンライトとアイリスが、リックの言葉で逃げようとしたが遅かった。ガシャーンという音がして窓ガラスが割れた。外壁にびっしりと生えたツタを吹き飛ばしながら、グーラップルの頭がガラスを割って外から室内に中に入ってくる。割れたガラスが飛び散ってアイリスとゴーンライトが頭を抱える。
「まずい! アイリス! 逃げろ!」
グーラップルの首が、スーッと伸びアイリスの真上に来た。
「アイリスさん! 危ない!」
「キャー!」
とっさに盾を床に捨てたゴーンライトが、アイリスをスラムン達がいる方へ突き飛ばした。突き飛ばされたアイリスは、壇上の下にゴロゴロと転がる。アイリスが転がってグーラップルの口が開いた。
「うわぁ!」
まるで上から水の入った、容器を逆さまにしたような勢いで、グーラップルの口から黄色い液体が、ゴーンライトに浴びせられた。
「かっ体がしびれて……」
グーラップルの頭が、吐き出した黄色の体液を浴びた、ゴーンライトが苦しそうな顔し膝をついた。
倒れてながら彼の姿を見たアイリスが床に手をついて叫ぶ。
「ゴーンライトさん!? 待ってて! いま行きますから」
「ダメズラ。キラ! アイリスをとめるズラよ」
「何でよ!? 私をかばってくれたのよ」
立ち上がったアイリスが、ゴーンライトさんの元へ行こうとするが、アイリスの元に駆けつけたキラ君に手を掴まれて止められる。
「アッアイリスさん…… スラムンさんの言う通りだ…… こっちに来ちゃダメだ!」
「でっでも……」
「僕は…… もう体が動かない…… 逃げて…… アイリスさんは僕の大事な…… 人だから……」
「えっ!? ゴーンライトさん!」
割れたガラスから、グーラップルが体を室内に、ねじ込んできた。リックは剣を抜き、ゴーンライトを守るために、グーラップルに斬りかかろうと……
「待ちな! リック!」
とっさに肩を掴まれて振り返ったリック、メリッサが彼の肩を強く掴んで止めていた。
「メリッサさん!? なんで止めるんですか!? このままじゃゴーンライトさんが……」
「落ち着きなよ! あの黄色の体液は麻痺毒だよ。触れたらあんたまで動けなくなるよ」
「えっ!?」
黄色の体液がゴーンライトの、周りに水たまりのように広がっている。メリッサの言う通り、これはグーラップルが体内で、生成した麻痺毒の液体だ、触れれば一時的に動けなくなる。
「イーノフ! 早く状態異常防止魔法をあたしらに! ソフィア! 弓でグーラップルを防ぐんだ」
「わかりました」
杖を前にしてイーノフは何を唱えている。ゴーンライトさんの真上にいた、グーラップルの頭が口を開く。ソフィアは弓を構えるとグーラップルの頭に鋭い矢が飛んでいった。矢は的確に頭を捉え、当たった瞬間にグーラップルの頭が、痛がるように左右に振られる。だが、柔らかい皮膚と肉質のせいか突き刺さらずに地面に落ちてしまった。
「ブニュブニュでダメージになりません」
グーラップルは矢が地面に落ちると、またヒクヒクと顔を動かしてまたゴーンライトさんに頭を向けた。
「ソフィア! もう一度!」
リックはソフィアの方を見て彼女に、もう一度弓でグーラップルの頭を狙うように指示をだした。真剣な顔で頷いたソフィアは、再び弓を構えてグーラップルに向けて矢を放つ。
「あっ!? キラ君ダメ!」
「がうぁ! がうぁ!」
「おい! 待つんだキラ君!」
バシャバシャと音がした方を見ると、麻痺の体液の中を平気で駆けたキラ君は、ゴーンライトの盾を拾うとグーラップルの頭を叩きにいった。キラ君に気付いた、グーラップルの頭は大きく左右に揺れ動き、キラ君の攻撃を避けるのだった。
ブンっという大きな音がして、キラ君が盾を横に振りきった。グーラップルの顔から口が開き、中から体液をキラ君にぶっかける。勢いよく噴き出した黄色の体液が、キラ君に頭から浴びせかけられた。
「キャー! キラ君が?!、スラムン! キラ君とゴーンライトさんを助けないと……」
「大丈夫ズラよ。キラは死体ズラからな、麻痺や毒は効かないズラよ」
「えっ!?」
スラムンの言った通りにキラ君は、体液をかけれらても平然と立っていた。顔が濡れていやいやとばかりに、手で顔をぬぐうと、盾でグーラップル叩こうと近づいていく。防具を着てないキラ君は守備力は低いが、キラーデッドマンの特性で状態異常や氷魔法などには強い。
「イーノフ! まだかい!? キラ君だっていつまでもつかわかないよ!?」
口を動かしていたイーノフが杖を掲げると、優しい青い光がリック達を包み込んだ。
「遅くなってごめん。これでみんなはあの体液のなかでも平気だよ!」
杖を下したイーノフは、時間を置かずに次の魔法の唱え始める。
「よし行くよ。リック! あたしがやつの動きを止めるから、その隙にゴーンライトをかっさらえ!」
「はい!」
メリッサは黄色の液体の中を駆け、グーラップルへ突進しいていく。狙いすまして彼女は、槍でグーラップルの頭を突く。グーラップルはすんでのところで首を曲げて飛んで来た槍をかわした。
真顔でメリッサは、槍から左手を離し、リックに行けと合図を送る。リックは小さくうなずき、黄色い体液まみれの床を、バシャバシャという足音を立ててゴーンライトに向けて駆けていく。
「チッ! リック! 早くしな」
「えっ!?」
声に振り返るとリックの足音に、反応したグーラップルの頭が、メリッサの槍をかいくぐって向かって来る。
「まずい! 急がないとな……」
リックはゴーンライトさんの肩を掴んで抱きかかえようとする。しかし、抱き着かれようとしたリックの真上に、グーラップルの頭がやってきてしまった。丸い頭から穴のような口が開き、無数の歯がリックに向けられた。
「うわ!?」
突如、大きな音がしてグーラップルの頭の周りで爆発が起こり黒煙が上がる。グーラップルの頭は爆発に耐え切れずに頭を左右に大きく振った。
「リック! いまのうちに!」
イーノフの声がリックに届く。彼はすぐにゴーンライトを抱きかかえてるとグーラップルから離れた。グーラップルは音と煙で二人を、見失っているようで大きく首を振って鼻をヒクヒクと動かしていた。
「よし。もう大丈夫だ。もう少しですからね。頑張ってください」
走りながらリックは振り向き、抱きかかえているゴーンライトに声をかける。グーラップルの黄色い液体を抜け、少し走ったところで止まったリックは、ゴーンライトを静かに寝かせた。
「ソフィア! ゴーンライトさんをお願い!」
「はい」
駆け寄ってきたソフィアにゴーンライトを任せて、リックはすぐに剣を抜きグーラップルへ視線を向けた。
「結構、苦戦してるみたいだな……」
メリッサがグーラップルを槍で突いたり斬ったりしてるが、柔らかくてグニャグニャして槍が滑ってうまく、ダメージを与えられないみたいだ。
「リック! メリッサと協力してあいつの動きをとめてくれるかい!?」
「えっ!? どうするんですか?」
「武器での攻撃が効きづらいみたいだからね。僕が魔法で仕留めるよ」
「わかりました!」
うなずいたリック、彼はどうやってグーラップルの止めるか考える。ジッと天井を見つめるリック、自分達の上を自由に徘徊されれば動きをとめることじたいできない。まずはグーラップルをどうやって天井から引きずり下ろすか手を考える。
手足と尻尾で天井に吸い付いてグーラップルをはがす方法。ソフィアの矢に魔法を込めて、撃ち落とすのが楽だが、彼女は現在ゴーンライトの治療中だ。
「あっ! そうだ!」
リックは何かを思いつき、アイリスとスラムンのところに行き声をかける。
「あいつを倒すから、アイリスとスラムンも協力してくれる?」
「わかったズラ。行くズラよ。アイリス」
「いいわよ」
「よし! じゃあグーラップルを天井からひきずりおろしてほしい。」
「どうするズラ?」
「あいつは尻尾と指先で天井に吸い付いてるから、アイリスがチャクラム足を剥がして俺が尻尾を剥がすよ」
「わかったわ」
アイリスとスラムンにリックの作戦を伝えた。彼の作戦は二手に分かれて、まずチャクラムでアイリスが足を剥がし、リックが尻尾をはがす。話が終わるとアイリスは頭の上に乗ったスラムンを優しく手を当てる。
「じゃあ行くわよ。スラムン」
「わかったズラ」
リックはグーラップルの正面に回って剣を構える。アイリスはグーラップルの背後へと回った。
「メリッサさん。俺達があいつを天井から引きずり落として動きを止めます。もう少し奴の注意を引いていてください」
「わかったよ」
「動きをとめたら、イーノフさんが魔法で仕留めますから」
「はいよ」
メリッサは頷くと槍を構えてグーラップルを突く。キラ君はメリッサと一緒にグーラップルの下で戦っている。グーラップルの背後に回った、アイリスが、チャクラムを両手に持ったままリックに手を振った。アイリスが準備できたとリックに合図を送っているのだ。リックは小さくうなずいた。
「アイリス! お願い!」
「はーい!」
両手に持ったチャクラムを、左右同時に器用になげたアイリス、二つの金属の輪がグーラップルの足に向かっていくリックは、アイリスのチャクラムが飛ぶ同じタイミングで飛び上がった。視界にグーラップルの滑って、テカっている体が近づいてくる。
「じゃあ スラムンお願い!」
「はい、ズラ!」
アイリスの頭の上のスラムンが、口をすぼめて口から炎が吹き出す。うねりをあげながら、スラムンの炎はチャクラムに追いついた。チャクラムがスラムンの炎をまといグーラップルの足へと向かっていく。
「ヴエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェーーー!!!!!!!!」
グーラップルの鳴き声が響く。二つチャクラムがそれぞれ左右の後ろ足を切りつけて。通り過ぎ戻ってくると、今度は左右の前足を切りつけていく
「ヴエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!
さらに大きくグーラップルは苦痛の声を上げた。天井を這うようにくっついてた、グーラップルは前後の足がはなれ、尻尾だけ支えるようような姿勢になる。
リックは右腕を引いて突きの構えする。眼の前にグーラップルの尻尾が迫ってきた。
「いまだ!」
リックは勢いよ腕を前に突き出し、グーラップルの尻尾を剣で突いた……
「えっ!? ダメだ!」
突き出されたリックの剣は、グーラップルの尻尾の柔らかくて、ぬめぬめした表面滑ってしまい刺さらない。グーラップルの後ろに着地したリックは悔しそうな顔をする。すぐに振り向いたリックはアイリスに尻尾の攻撃を頼む。炎をまとうアイリスのチャクラムなら効果があるはずだ。
「アイリス! ごめん! 今度は尻尾を狙ってくれ!」
「はーい!」
リックはアイリスに指示をだした、アイリスが手元に戻ってきたチャクラムを、もう一度投げ、スラムンをさっきと同じように炎をまとわせあ。回転しながら炎をまとった、アイリスのチャクラムがグーラップルの尻尾を捉えた。バシュッという音が二回し、アイリスのチャクラムがグーラップルの尻尾を斬りつけた。
しかし、グーラップルに変化はない。グーラップルは尻尾を軸にして頭を器用に振りながら姿勢を戻そうとしていた。
「アイリス! 正面に戻るから俺にチャクラムを投げろ!」
「えっ!?」
「いいから早く! 迂回して背中から来るように頼む」
「わかったわ」
走り出したリックはアイリスに向かって、自分にチャクラムを投げるように指示をした。リックは再びグーラップルの正面に立った。
「リック行くよー!」
今度はアイリスがリックに向かって、チャクラムを投げ、スラムンはまた炎をまとわせる。グーラップルに当たらないように、炎をまとったチャクラムが左右大きく迂回しながら、リックの斜め後ろから迫って来る。
「いまだ!」
斜め後ろからとんでくるチャクラムに、タイミングを合わせてリックは少し後ろに飛ぶ。背後から熱をリックが感じると、すぐに彼の横を赤く燃え盛る炎をまとった、アイリスのチャクラムが飛んでいく。
「狙いは尻尾!」
チャクラムをかわしたリックは剣でチャクラムを叩く。金属がぶつかる甲高い音がして、リックの剣で押されスピードをあげた、チャクラムは勢いよくグーラップルの尻尾へと向かっていく。先程より速いスピードで、二つのチャクラムが、ほぼ同時にグーラップルの尻尾に当たった。
グーラップルの吸盤みたいにている尻尾の先をチャクラムが切り落とした。
「ヴエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェーーー!!!!!!!!!!!!!!!」
けたたましい鳴き声が広間にこだまして、ビチャビチャと言う音を立て、薄い紫色の血が天井から落ちてくる。
「どうだ!」
尻尾の先を天井に張り付いたまま、グーラップルは地面に落ちた。キラ君とメリッサは、落ちてくるグーラップルをかわして離れた。
「イーノフさん!」
腹這いになった状態で、短い手足ではひっくり返れず。グーラップルは必死に首と尻尾で体を起こそうとした。イーノフはまだ杖を自分の前に出して口をかすかに動かしている。
「あんたはそこにいな!」
飛び上がったメリッサが、グーラップルの腹に槍を投げた。地面に薄い紫色の血がまたぶちまけられた。槍は腹を貫通し、下の床に槍が突き刺さり。グーラップルの腹に槍が突き立てられた。
表面がプヨプヨで、刃物はなかなか刺さらなかったが、腹は一階で獲物を捕食して膨らんでおり、刃物が突き刺さりやすくなっていた。
「早くしな! イーノフ!」
グーラップルを飛び越えて着地し、振り返ったメリッサがイーノフに叫けぶ。
「お待たせ! みんなグーラップルから離れて! 炎の精霊よ! 我に力を…… 地獄炎!」
床に赤く光り激しく燃え上がる炎が現れた。炎は地面に串刺しにされた、グーラップを包み込んだ。激しく燃え上がる炎は、天井まで届き焦がす。
「ヴエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」
悲鳴のように鳴き声を上げながら、グーラップルは炎に包まれ姿を消した。イーノフさんの魔法で焼かれた、グーラップルは討伐された。リックの隣にソフィアがやって来て嬉しそうに微笑む。
炎が徐々におさまっていく……
「うわ!? なんだこれ!? さっきの液体!?」
リックの足元に黄色の液体が流れてきた。焼かれたグーラップルの死体は溶けだして、ゴーンライトを麻痺させた黄色い液体になっていた。
液体は先ほどのより粘りが強くなによりも……
「うわぁ。くさいね。ソフィア!」
「ほんとにくさいです」
溶けだしたグーラップルの死体はひどく臭った。リックはソフィアと並んで一緒に鼻をつまむ。
「リック! あれ? なんだですかね?」
「えっ!? あれは……」
ソフィアが指さしたグーラップルの溶けた、液体の中に金属の塊が見えた。よく目を凝らしてリックが金属の塊を見つめる。
「あれは肩あてとか見えるから鎧かもね? きっと食べられた冒険者とか着てたやつじゃないかな?」
「そうなんですね? でも、グーラップルは肉以外の骨とか吐き出すんですよね?」
「さぁ…… うまく吐き出せなかったとかじゃないかな?」
黄色の体液が水たまりのようになって、鎧がその真ん中に転がっていた。グーラップルは完全に溶けてきえてしまった。
「リック。あの鎧をあんた着てみたら?」
「いやぁ。遠慮しときます!」
「だよねぇ」
グーラップルの体内から出てきた、奴の体液でデロデロの鎧を見ながら、メリッサがからかうような口調でリックに言ってくる。こんな麻痺の体液まみれの鎧を着られる人なんかいないとリックはメリッサにあきれるのだった。
「ちょっと!? やめなさい! キラ君! ばっちぃよ!」
キラ君が突然駆けだし、鎧を持ち上げてみてる。嬉しそうな顔をしてそのまま着始めた。
「キラ君ダメだってば!」
「がうぁ! がうぁ!」
「えっ!? なんか嬉しそうね。もう…… この間買ってあげた、かっこいい白い鎧はいやって言って一回着ただけ捨てちゃったのに…… それがいいの? キラ君?」
「がうぁ! がうぁ!」
「キラは湿り気があって着心地良いって言ってるズラよ」
「はぁ…… もういいわよ! それ着てなさい」
スラムンの言葉に頷いたキラ君に、アイリスが良いというと、彼は足をばたつかせて喜んでいた。嬉しそうにアイリスに、鎧を見せるキラ君、でも体液まみれの鎧を近づけられた、アイリスは少し苦い顔をしていた。
「ほら。じゃあそろそろ行くよ。ソフィア。ゴーンライトの治療は終わった?」
「終わりました。でも麻痺が抜けるのはもう少し時間がかかります」
「そうか。ゴーンライトはあたしが連れてく。リック! あんたはゴーンライトの盾を持ちな」
「わかりました。よいしょっと…… えっ!? なに!?」
麻痺の症状が抜けきれない、ゴーンライトはメリッサが背負って、彼の盾はリックが魔法道具箱にしまおうと拾い上げた。
「どうしたのキラ君?」
キラ君がゴーンライトの盾を持つ、リックの手を引っ張ってきた。
「あっ! こら! キラ君。リックの邪魔しちゃダメよ」
「リック! キラに盾を持たせてあげて欲しいズラよ」
「えっ!? なんで?」
「キラはアイリスを助けてくれたゴーンライトさんの真似をしたいズラよ」
「そっか。わかったよ」
リックはキラ君に盾を渡す、盾を受け取ったキラ君は、嬉しそうに両手に持つのだった。
「こらこら! 危ないから素振りしないの! それは叩くんじゃなくて攻撃を防ぐものよ」
キラ君は盾を持つと、振り回し始めてアイリスから、怒られていた。
「おっ! なかなかいい攻撃だね。うちのゴーンライトよりセンスがあるよ」
「ひどいですよ。メリッサさん」
キラ君の方を見て笑うメリッサに、背負われてるゴーンライトが少し悲しそうに答えていた。
「でも、あんたもやるじゃないか。体を張って勇者を守るなんてね」
「僕はその盾で誰かを守ることしかできませんから!」
「ははっ。うちの男どもはくさいセリフしか言わないね」
ゴーンライトは笑う、メリッサの背中で自信満々な顔をしている。彼女の後ろでイーノフがニヤニヤと今にも吹き出しそうなっていた。
「(もう…… 新人を笑うのをやめてあげてくださいよ。そういえば俺も新人の頃メリッサさんに王女様を自分の剣で守るって言って笑われたっけな。なんか懐かしいな)」
リックはゴーンライトとメリッサのやり取りに、第四防衛隊に来た当時のことを思い出し懐かしんでいた。
「リックは私を守ってくださいね」
「うん! もちろんだよ」
リックの横でソフィアが笑顔で自分を守れと言って手を伸ばす、リックはその手を強く握る。
「あっ! そこ! ドサクサに紛れて何してんのよ!」
「こら! やめろ!」
つないだ手を叩きアイリスは、リックとソフィアの間にまた割り込もうとしてる。
「アイリス! 何をするんだよ?」
「そっちこそ何よ! まだ、塔の攻略終わってないんだからね」
「わかってるよ」
「だったらリックは私の護衛なんだから! 私と手をつなぎなさいよ」
リックはアイリスの言葉に強くうなずいた。まだグーラップルを倒しただけで、塔の攻略は終わってない。ブレイブキラーを持つ勇者を狙う者がいつでてくるかもわからない。リックは左手に力を込める。
「ほら! ちゃんとつなげよ」
「いやいい! やっぱり一人で行くわ」
アイリスが言ったとおりに手をつないだリック。だが、アイリスは顔を真っ赤にしてすぐに振りほどいてしまった。言われたとおりにしたのにと不思議そうに首をかしげるリックだった。グーラップルを撃退したリック達は塔の攻略を再開する。