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第119話 戦う理由と死ぬ理由

 サーダが殺された森を出て街道へと戻って来たリック。


「みんなは無事だろうか…… もしソフィアが……」


 リックは少し怖くなったのか、急いでソフィアと別れた場所へ走った。ガチャガチャというヘビーアーマーの音が静かな森に響いていた。目の前にソフィアの姿が見えて来たリックはホッと胸をなでおろす。


「リック? どうしました? 顔が青いですよ? それにサーダさんは?」

「はぁはぁ…… うん俺は大丈夫……」


 駆け寄ってきたソフィアが、リックの顔を見て、心配そうに声をかけてきた。リックの顔は真っ青になっていた。第四防衛隊に所属してから、何度も人の死を経験しいてるリックだったが、身近な同僚が死ぬのは初めてなので無理もないが。彼女の後ろでゴーンライトやアイリスは不安そうにリックを見つめている。


「みんな…… サーダは殺された」

「えっ…… そうなんですね」

「そっか…… 誕生日お祝いしてあげたかったね」

「えっ!? そんなサーダさんが…… どうして!?」


 サーダが死んだことを告げると、ソフィアの後ろからゴーンライトが、リックの肩をつかんできた。うろたえて表情をした彼は、必死にリックになぜサーダが死んだのかを聞いてくる。ゆっくりとリックは拾った、ブレイブキラーをみんなに見せる。


「森で何者かが投げたこれが彼の体を貫いた」

「そっそれは!?」

「ブレイブキラーです!」

「うん。だから全員注意してほしい」


 全員が黙って静かにうつむいいてる。先ほどまで元気だった、サーダが殺されたと聞き、少なからず動揺しているようだ。グッと手に持ったブレイブキラーを、強く握りしめ悔しそうにリックだった。しかし、彼は自分の仕事が、これで終わりではないと自覚している。彼の仕事はまだ終わってない。リックの仕事は、目の前に居る勇者を、ブレイブキラーから守り次の冒険へ送り出すことだ。


「リックも大丈夫? 私達なら少し休んでも平気だよ」

「そうズラ! リックも疲れただろうから休むズラよ」


 アイリスとスラムンが心配そうにリックに声をかけていた。リックの顔は恐怖と疲労で血の気が抜け青ざめていた。


「がうあ!」


 キラ君がリックの元に来て、頭を撫でようとしてくれる。


「ははっ…… 嬉ししいけどキラ君の手…… 泥だらけじゃん…… やめてね」


 優しくキラ君の手をどけるリックだった。ソファアは心配そうに、リックのそばに立ち彼の顔を覗き込んでいる。ソフィア達の気遣いにリックは感謝した。顔をあげた手で顔を拭う動作したリックは笑顔を皆に向けた。


「ごめん。みんな。俺は大丈夫だよ。さぁ塔に向けて出発しよう」

「はい」


 リックたちは塔に向けて歩き出した。隊列は変更され、リックとソフィアが前に出て、アイリス達は変わらず真ん中で、最後尾にゴーンライトとなった。


「ゴーンライトさんは大丈夫でしょうか!? だいぶ落ち込んでいました」

「うん。組んで浅いとはいえ相棒が殺されたんだからショックだろうね。俺達でうまくフォローできるように……」

「ふぇ……」

「うん!?」


 急にソフィアはリックの手を掴み、指を重ねるように握るのだった。


「リックは死んだらダメですよ。私と一緒にいるですよ」

「えっ…… うん。ありがとう。大丈夫だよ。約束しただろ? ソフィアのそばにずっと一緒にいるよ」

「はい。約束です」


 リックはソフィアに微笑みかける。彼はソフィアのそばにいてずっとソフィアを守ると誓うのだった。歩きながらソフィアが頭を出してくる。手を握ってるから、少しだけソフィアの体を傾けたリックは、逆の手で彼女の頭をなでるのだった。嬉しそうな顔をするソフィアを見てリックは気持ちが落ち着くのだった。


「リック……」

「えっ!? ちょっと!? 今はさすがに……」


 顔をあげてソフィアは、綺麗なピンクの唇を、リックに向けてきた。


「それは後でね」

「はい。後ですね。約束ですよ」

「わかったよ」


 納得したソフィアは笑って前を向き、リックも同様に前を向く。


「いた! なんだ!?」


 手をつないでいる左腕の肘の辺りを何者かに叩かれたリック。振り返ると少し離れたところ歩いていたはずの、アイリスが真後ろに来てリックとソフィアの間に手を入れようとしていた。


「なんだよ!? アイリス! どうした?」

「賊の襲撃です」

「うるさいわね! ソフィア! 早く離れなさいよ。リックも何よ! ソフィアには私には見せない優しい顔してさ。はぁイライラする!」

「おい! アイリスやめろ」

「うるさい! 私は勇者よ。兵士を正す権利くらいあるわ!」

「やっぱり賊の襲撃です」


 アイリスは必死にソフィアとリックの間に、入ろうとしてリックの腕を叩いて来た。それに抵抗したりっくばは、さらにソフィアの手を強く握り、同じように抵抗してどんどん密着してくるソフィアだった。リックの胸にソフィアの胸が押し付けられるようになり、リックは恥ずかしそうに顔を赤くする。アイリスはそれも気に入らず必死に間に入ろうとするのだった。


「ほら! アイリスやめるスラよ! もう塔に着くズラよ」

「ぶぅ! リックもソフィアも嫌い! いい? 帰りは私とリックが隣だから!」

「わかったよ」

「えっ!? いいの?」

「うん。絶対無事に一緒に帰ろうな。だから塔から帰る時はお前は俺の隣にいなきゃダメだぞ」

「えっ…… あっ?! うん! わかった。一緒に帰る」


 嬉しそうに笑ってアイリスは頷いた。リックは満足そうに笑ってソフィア達に視線を向ける。


「(ソフィアとアイリスもスラムンもゴーンライトもキラ君も…… もう誰一人として失わずにみんな一緒にグラント王国に帰るんだ)」


 すぐに塔が見えてきた。この塔がアイリスが攻略しようとしている、黒鋼の森にあるアイアンダーク監視塔だ。森の開けた場所に立つ石造りの高い塔だ。この塔は古代のリンガード人が、迅鬼(ジンキ)と呼ばれる魔物の監視用に作ったらしい。ダッコロ村に内部の地図は、残っているが、あまりに記録が古すぎて建てられた経緯などの詳細は不明だという。迅鬼(ジンキ)の侵入防止のため、中は複雑な迷路のようなつくりで、人が放棄してからかなりの年数が、経過しており中は魔物の巣窟となっている。塔の最上階には古代人が、迅鬼(ジンキ)との戦いに使った財宝が眠っている言われている。

 期待した顔でアイリスは塔の上を見つめている。リックは塔を見つめるアイリスが手に入れる宝が気になり尋ねる。


「なぁアイリス。この塔を攻略したら何が手に入るんだ?」

「えっ!? それは…… 古代の財宝で…… それが魔王軍との戦いに…… だよ!」


 歯切れの悪い回答をするアイリス。リックはアイリスに顔を近づけて覗き込んで、彼の目をじっくりと観察する。黒く丸い綺麗な瞳にリックの顔がうつっている。


「ちょっと!? リックの顔が近いよ! そんなに近くで見られたら、恥ずかしいよ! でも少し…… うれ……」


 アイリスの右のまぶたが、ピクピク少しだけ動くの確認したリック。


「(何かごまかそうとなしてるな……)


 自分では気づいてないようだが、アイリスは昔から何かを隠したり、ごまかそうとすると右のまぶたがこういう動きをする。


「なんか俺に隠してるな?」

「リックに隠し事なんてしないよ……」

「ふーん。俺にはわかるんだぞ……」

「なっなによ! 何も隠してないわよ!!!」

「えっとズラね。確かこの塔の財宝の中に照らすとなんでも反対にできる逆転ランプがあるズラ。アイリスはそれを自分に使ってちゃんとした女の子になるって言ってたズラよ」

「こら! スラムン! なんで」


 頭の上で跳ねている、スラムンの口を押さえながら、アイリスは必死にごまかそうとしている。リックはまた少しだけ顔を近づける。なんかどんどんアイリスの顔が赤くなって目が潤んでいく。リックはアイリスの反応が面白くて笑う。


「ちょっと! だから顔が近いって! もう…… スラムンはなんで言っちゃうのよ? ええ! そうよ! 逆転ランプを使って体も女の子になるのが私の塔の攻略理由よ」

「お前…… それは確か魔王倒したらご褒美に神様からしてもらうって言ってただろ?」

「何よ! いいのよ! 別に私は魔王討伐のご褒美じゃなくても女の子になれれば! だからランプを使えば簡単に女の子になれると思ったのよ。悪い?」

「いやいや! お前の船とか旅費とか出してるのはグラント王国だろ? 魔王討伐以外の目的に使うなよ」

「なっ何よ! もらったお金をどう使おうが私の勝手でしょ」

「また…… 勇者失格の発言ズラよ!」

「だって! リックがどんどんソフィアに近づいてるの! だから魔王倒す前に女の子になりたいのよ」

 

 アイリスは頭の上のスラムンを両手で、つかみ伸ばすように持って叫ぶ。スラムンの透明な体越しに、ソフィアとリックを交互に見て睨みつけるアイリスだった。リックはその様子を見て首をかしげる。

 

「ソフィアと俺が近づいてるって!? 何言ってるんだ? 俺にはお前が一番近い存在だぞ!?」

「はいはい。いいのよどうせ友達としてでしょ? リックなんか大嫌い!」

「なっなんだよ……」


 寂しそうにするリック、彼にとってアイリスは同郷で、よく遊んだ一番の友達なのは本当だ。アイリスから嫌いと言われるのはリックにとってもショックではある。


「リック…… かわいそうです」


 リックがショックを受け、うつむいてるとソフィアが、頭を撫でてくれる。それを見てアイリスは、なぜかソフィアを睨んでいる。


「あっあの!? リックさん? 性転換って? アイリスさんって女性じゃ?」

「えっ!? あぁゴーンライトさん。アイリスはあんな格好してますけど男なんですよ」

「へぇそうなんですね」


 ゴーンライトはアイリスが男の子だと知っても特に驚くことなくうなずいている。だいたい、アイリスが男だってわかると皆驚くので、リックは意外な反応に少し戸惑うのだった。


「ちょっと! だからなんでリックはホイホイと乙女の秘密を教えちゃうのよ!」

「えっ!? 聞かれたから……」

「リック嫌い! 嫌い嫌い大嫌い! もういい! フンだ!」

「おい! 待てよ。一人で行くな」

「イーだ!!!」


 アイリスは振り返って子供が、威嚇するように歯を見せてくる。むくれたアイリスはリック達を置いて塔に向かっていくのだった。リックは慌てて追いかけて一緒に塔に向かう。

 塔の入り口に着いて扉を開く。しかし、空に白い光が現れて森の街道の先へ下りていくのが見えた。この光は転送魔法だ。リックはブレイブキラーを持つ者が追いかけて来たのかと警戒する。


「みんな戦闘の準備を! ゴーンライトさんはアイリスを攻撃から守ってください」

「はい! わかりました。アイリスさんは僕の後ろに」


 アイリスを囲むようにして、迎撃態勢を取った。ゆっくりと街道から何者かがリック達に迫って来る。近づいて来るのは熊のように大きな影と子供みたいに小さい影の二つだった……


「なんだい? みんな怖い顔して!」

「メリッサさんか…… ふぅ……」

「ははっ。きっとみんなメリッサと僕のこと敵と間違えたんだよ」

「なんだい失礼だね。この美人のどこが敵だって言うんだい?」


 街道を歩いて現れたのは、ヘビーアーマーを装備したメリッサとイーノフだった。リックは二人が塔で合流すると言われたのをすっかり忘れていた。ホッと胸を撫でおろしたリック達が、武器をしまうと、メリッサはリックを見て明るく声をかける。


「どうだいリック? みんな無事かい?」

「あの…… サーダさんが」


 リックはメリッサにサーダが、森で何者かに殺されたことを報告する。


「そっか…… 残念だったね。でも、あんたのサーダは指示を無視したんだ。あんたが気に病むことじゃないからね」

「でも、俺が彼を止めていれば」

「ごめんね。あたしがいなかったから……」

「そっそんな。メリッサさんのせいじゃないです」


 肩に手を置いてメリッサがリックに優しく言葉をかけてくれる。騎士の夢を追いかけていたリックは、家業を継がせたい父親と関係が悪かった、メリッサを見ながらリックは、優しい父親というのは彼女のことを言うんだなとしみじみ思うのだった。


「うん!?」


 リックとメリッサさんの話しを聞いていた、ゴーンライトが不機嫌そうにこちらにやってくる。


「みなさんはサーダさんが…… 新人がたった二日で死んだのに! よく冷静でいられますね!」

「そりゃあね。あたしらが今やるべきことは新人を悼むことじゃない。勇者を守ることだからね」

「そっそんな!? 彼にだって将来があったんですよ?」

「さっ! いくよ。サーダは後で回収してちゃんと弔ってやるさ」


 詰め寄って来たゴーンライトを、メリッサはあしらい話を切り上げると、すぐにアイリスの元へ行き、塔の攻略について相談を始めた。ゴーンライトは怒った様子で、近くにいたイーノフに話しかける。


「あの人…… なんで!? 仲間が死んだのに! 悲しくないんですか?」

「そうですか? メリッサは悲しんでますよ。でも、悲しむよりも先に自分が今やるべきことを考えて行動してるだけですよ。僕も同じです。待ってメリッサ!」

「えっ!? そんな……」


 イーノフもさっさとゴーンライトとの話を切り上げて行ってしまった。リック達にはサーダのことを悲しむ前に兵士としてやることがあるのだ。なお、直後にメリッサとイーノフは困った顔することになる。スラムンからアイリスの塔の攻略目的を聞いたからだ。


「じゃあみんな。今から塔の攻略に向かうよ。隊列はあたしとイーノフとゴーンライトが前、真ん中にアイリス達で後ろはリックとソフィアだよ!」

「わかりました。行きましょうリック」

「うん」

「みんなよろしくお願いします!」


 頭にスラムンを乗せて、アイリスはゆっくりと、リック達に向かってよろしくと挨拶した。第四防衛隊とS1級勇者アイリスパーティによる塔の攻略が始まるのであった。

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