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第116話 引くことは許さない

 堂々と攻撃できないと宣言したゴーンライトは、なぜかすがすがしい顔をしていた。一人人が戦いを拒否し、一人が攻撃できないという状態では、ゴーンライトさんとサーダは戦えない。


「えっ!? ちょっと! 何してるんですか?」


 ゴーンライトの喉元へ、鋭く何か長い物が伸びて行った。


「あぁん!? 攻撃できない? なんで?」

「いや…… だから盾ですから……」

「こら! メリッサ! あぶないでしょ。何やってんの!? ゴーンライトさんは味方だよ!」


 メリッサが下がろうとする、ゴーンライトの首筋に槍を突きつけた。


「僕の役目は盾で攻撃を防いで……」

「うるさいよ! 盾だって硬いんだから角で殴るとかあるだろ? さぁ。さっさと攻撃しな。もう下がるっていうならあたしを倒していきな」

「えっ!? あっ? そんなこと今まで言われたこともないし……」


 盾の角で殴って攻撃しろと、メリッサがゴーンライトに強引に命令する。恐怖で顔を引きつらせるゴーンライト、イーノフやリックに助けを求める視線を向けても二人は反応しない。それは当然だった、今はリック達がいるからいいが、もしゴーンライトさんが……


「あんたねぇ。一人で戦うことになったらどうするの?」

「あの!? その? 僕はそもそも一人で行動はしないですし……」

「そりゃあ。前に居た部隊は人数が多いから攻撃しなくてもよかったかもしれないけどね。あたしらは六人しかいなんだから、いつ単独行動するかわからないんだよ?」

「いえ、あの…… それは…… だから……」


 槍を突きつけられてメリッサにすごまれてる、ゴーンライトは目が泳ぎ言葉がでない。ゴーンライトの目にはメリッサは、もう兵士ではなく、武器を持った野獣のように映っていた。


「だいたい自分から攻撃できないとかしない奴なんて卑怯者だよ。特に相手の攻撃に合わせて反撃ばっかする奴なんか最低だからね!」

「うっ!?」


 ゴーンライトに向けられた言葉に、なぜかリックが声をあげる。メリッサの言葉が彼の心にズキズキと突き刺さる。まぁ明言はしてないが、どう聞いてもメリッサは、明らかにリックのことを指して批判している。


「ちょっと待ってくださいよ。メリッサ姉さん。そんな下劣な人なんていませんよ。相手の攻撃で出来たすきにどや顔で剣を打ち込んでくるやつなんか!」


 力強く少し嬉しそうに、メリッサの言葉に同意するアイリス。リックは、すごい裏切られた気持ちで、アイリスの顔をジッと睨みつける。


「うん!? どうしたの? リック? 私の方をそんなに見て…… 恥ずかしいよ」

「フン! 俺はアイリス嫌い!」

「えぇー?! ちょっと! なんでよ? 私なにかした? やだーーー!」


 リックの手にしがみついてくるアイリスだ。幼馴染の一番信頼していた、友人に裏切られたリックはそう簡単に彼を許さない。


「ええい離せ! どうせ俺は卑怯者で下劣だよ!」

「リックー!」


 アイリスの手を振りほどくと、彼は膝をついて、リックに向かって手を伸ばして、さみしそうな顔をしてる。リックはアイリスに背中を向け腕を組んだ。心配そうにソフィアがリックのそばにやってきて、彼女は首をかしげてリックにほほ笑みかける。


「リック…… どうしたんですか? 怒ってます?」

「ソフィア…… さっきから、みんなで俺の戦い方は卑怯だって、悪口を言ってくるんだ。」

「考えすぎですよ。私はリックの戦い方が大好きです。一番かっこいいです!」

「ソッソフィアー!」


 満面の笑みを浮かべてソフィアは、リックに手を広げると、彼女はリックの頭を優しく、自分の胸に抱き寄せ包んだ。リックは彼女の匂いと感触に包まれて安心するのだった。


「リックはすごいですよ。みんなわからなくても私がわかってます。だって相棒の私がリックのこと一番頼りにしてますもん」

「うぅ…… ありがとう。ソフィア!」


 頼りになるという言葉を聞いたリックは、ソフィアが相棒でよかったとしみじみ思うのだった。リック達の様子を見ていた、アイリスは拳を握りしめてブスっとした表情をして叫ぶ。


「ちょっと! 何なのよ! この茶番は! あったまきた!」

「おい!? アイリス!? どこ行くんだよ?」


 アイリスはリック達の横で舌をだし、指で目の下を押さえると、怒った顔してメリッサ達の方にノシノシと歩いていく。リックはアイリスを、保護しなければという責任感と、もうちょっとソフィアに抱かれていたいという、欲望のはざまで葛藤するのだった。


「ほら! 次の攻撃がくるよ!」


 キングファイアリザードから再び炎の玉が発射された。両手の盾でゴーンライトは攻撃を防ぐが、次の行動がとれず顔は焦っている。後ろに下がりたくても、メリッサが槍を構えている為、ゴーンライトは前にでるしかない。


「うっ…… うぅ…… うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 やけくそになったのか、盾を振りかざしゴーンライトは、キングファイアリザードに殴りかかった。


「ほら! そんなんじゃハエがとまるよ! もっと鋭く!」

「ひぇ! うはぁい! グス!」


 メリッサに檄を飛ばされ、泣きそうな声で、ゴーンライトは返事をする。ゴーンライトは必死な顔をして盾で、キングファイアリザードの足を叩き続けていた。キングファイアリザードの表情はわからないが、なんか涼しい顔をしているように、リックには見えたのだった。


「うわぁ!」


 大きな音がしてゴーンライトは尻もちをついた。キングファイアリザードが足をあげ、叩いて来たゴーンライトの盾をはじき返したのだ。しりもちをついたまま振り返り、ゴーンライトは助けてという顔でメリッサを見つめるが、彼女は真剣な顔で首を横に振り、顎をキングファイアリザードに向けて動かして行けと命令する。

 メリッサが厳しいような気もするが、これくらいのことで根を上げてしまっては、第四防衛隊で生きていくのは難しい。絶望した顔で立ち上がって、ゴーンライトはまたキングファイアリザードに殴りかかっていく。


「もう! メリッサ姉さん! やり過ぎですよ。泣きそうになってるじゃないですか!」


 アイリスがゴーンライトに近づきながら、メリッサに向かって叫ぶ。


「うん!? なんでアイリスがここに? リック! 何してんだい! 早くアイリスを連れ戻しな」

「いやです! あんな二人の甘い空間なんか居たくないです!」

「えっ!? 何の話だい?」


 アイリスはこっちの方を指さして、何かをメリッサに訴えている。視線をリック達に向けると、頭の後ろに手を置き、首を横に振るメリッサだった。


「あぁ。それはごめんね。あの二人には後できつく言っとくから……」

「えぇ! かなりきついのをお願いします」

「でも、それはそれでゴーンライトのことはあたしたちの問題だから」

「いえ! 私は勇者です。王国の兵士さんに協力するのも勇者の仕事です」

「あっ! ちょっと! こら!」


 駆けだしたアイリスはチャクラムを両手に持って、ニコッと笑って颯爽とキングファイアリザードに向かってチャクラムを投げた。同時に空気がヒュインという音を立てた。鋭く回転するチャクラムが、キングファイアリザードの尾っぽと頭を一緒に、切り落としアイリスの腕に戻ってくる。


「さすがまた腕をあげたな」


 リックが少し嬉しそうにつぶやく。会うたびにアイリスのチャクラムは、スピードと攻撃力が上がり、さらに正確に敵を捉えるようになっていた。


「大丈夫ですか?」


 ゴーンライトさんの元に駆け寄って、アイリスは優しく話しかけている。


「はっはい…… ありがとうございます。かっこわるいところ見せちゃいましたね」

「いえ。頑張って魔物と戦っている姿は誰でもかっこいいですよ。あっ! そうだ。初めてましてですよね? 私はアイリスって言います。一応勇者です!」

「えっ?! あなたがS1級の勇者アイリスさんですか? すごいかわ……」

「こら! ゴーンライト! あんた何を勇者に頼ってんだい!」


 ゴーンライトは話の途中で顔を赤くしてうつむいてる。アイリスとゴーンライトが和やかに雰囲気で話していると、途中でメリッサが割り込んでゴーンライトに注意をし始めた。


「イーノフ! サーダ! 二人もこっちに来な」


 メリッサはサーダとイーノフを呼んで四人で何か会話をしてる。リックとソフィアはアイリスに近づき待機をする。アイリスは目を細めてリックをジッと睨みつけている。視線に気づいたリックがアイリスに問いかける。


「なっなんで? アイリスは怒ってるんだよ?!」

「はぁ!? 怒るに決まってるでしょ!? ソフィアとあんなことして!」

「いや。それはお前が俺のことを最低とかいうからだろ!?」

「えっ!? そんなこと言ってないもん!」

「ふぇぇ、喧嘩はダメですよ」

「言ったろ? 敵の隙をついて攻撃するやつは最低なんだろ? 最低な俺のことお前は嫌いなんだろ? だから俺も嫌いだよ!」

「えー!? 違うよ! あれはリックのことじゃないよ! でも、もしリックが傷ついたのならごめんなさい。わたし、わたし……」


 アイリスは泣きそうな顔をしてリックに謝ってきた。急にアイリスに泣かれて動揺し、リックはすぐに彼に謝るのだった。


「ごっごめん。俺も言いすぎたかもな」


 少し恥ずかしそうに謝罪をするリック、彼の言葉を聞いて、ゆっくりと近付いてきた、アイリスは静かに顔をあげた。


「私のこと嫌いって言ったの本気?」

「えっ!? いや別に本気じゃないよ」

「ほっ。よかった」

「そんなに簡単に幼馴染で友達のお前を嫌いになんかなれないよ」

「私はやっぱりリック嫌い!」


 アイリスは口を尖らせて、腕を組んでそっぽむくのだった。リックはなぜアイリスが、怒ったのかわからずまた動揺し謝る。


「ごめん。アイリス悪かったよ」

「もう…… わかったわよ。はぁぁぁぁ。私達はいつまでも友達なのね……」

「当たり前だろ。俺達はいつまでも友達だぞ。今までもこれから先もアイリスは大事な俺の友達だ」

「はいはい…… はあああああ」


 大きなため息をつくアイリス、リックは気まずそうに頭をかくしぐさをするのだった。ふとリックは気付いた、いつもならこういう時は、スラムンがアイリスをなだめてくれるのに、今日は姿が見えないのだ。


「アイリス。そういえばスラムンとキラ君は?」

「あぁ。キラ君とスラムンは昨日の夜から森にある塔の偵察にいってるのよ。もうすぐ帰ってくるはずよ」

「そっか。でも別行動とは珍しいな」

「この村はグラディアと違ってスラムン達と一緒には入れないのよ。兵士や村長から魔物を連れて入るのはやめてくれっていわれちゃったからね……」


 寂しそうにするアイリスだった。国によって魔物の扱いは違う、勇者アイリスの仲間であっても、スラムンとキラ君は魔物なので人間と同じ扱いをされるとは限らないのだ。場所によっては拒絶や迫害をうけることもある。

 アイリスが何かに気づいて街道の先に手を振りだした。


「アイリスー! ただいまズラ!」

「お帰り。スラムン! キラ君! 無事で良かった」


 スラムンを頭に乗せたキラ君が街道の先から歩いて来ていた。リックとソフィアもスラムン達に手を振る。気づいたスラムンがキラ君の上で嬉しそうに飛び跳ねている。


「おわ! リック達ズラ」

「こんにちは。スラムン。キラ君」

「スラムンさん。キラ君さん。こんにちはです!」


 スラムンはリック達が居るのに少し驚いていたようだ、キラ君は嬉しそうに手を叩き、リック達を必死に歓迎してくれている。アイリスはその様子を笑顔で見て、スラムンをキラ君の頭の上から自分の頭の上に移す。


「スラムン。どうだった? 塔のようすはわかった?」

「塔までの道はわかったズラ。意外と近いズラよ。でも…… その塔の近くで一つのパーティが全滅してたズラ」

「えっ!? ちょっと? 全滅って…… まぁでもしょうがないわね。ここは意外と険しい森だから……」


 上目でスラムンをみながら、アイリスはスラムンと会話をしてる。キラ君はソフィアの横で大人しく座って、ソフィアのスカートのすそを引っ張って自分の持っている物をソフィアに見せている。ソフィアが真剣な顔で、キラ君が持っているのは黒い短剣だった。アイリスはキラ君が短剣を持っているのに気づきスラムンに尋ねる。


「あのさ。スラムン。キラ君の手に持ってるのは?」

「それは全滅したパーティの一人に刺さっていた短剣ズラよ。キラが気に入って抜いて持ってきちゃったズラよ」

「あっ! ほんとだ。こら! ばっちいからダメっていつも言ってるでしょ…… はぁ。キラ君はすぐ光ってるものとか勝手にもってきちゃうんだから」


 アイリスはキラ君に、メッと言っていから、短剣を取り上げる。少し残念そうにしていたが、ソフィアが頭を撫でると、上機嫌にキラ君は飛び跳ねていた。リックはアイリスの手に持っている、短剣を指した。


「ごめん!? ちょっと、それ見せてくれるか?」

「えっ!? なに? はい」


 リックにアイリスは短剣を手渡した。リックは受け取った短剣を、まじまじと見つめハッとした表情に変わる。装飾された黒い短剣は間違いなくブレイブキラーだった。リックはすぐにメリッサに知らせるため、ブレイブキラーを持って彼女の元へと急ぐ。

 イーノフとメリッサがサーダとゴーンライトと話しをしているところに声をかける。


「メリッサさん。すいません。これ ブレイブキラーです」

「なんだって!? あぁ…… そうだね。これは間違いない」


 リックはブレイブキラーをメリッサに渡して確認してもらう。彼女は短剣を見ながら大きくうなずいた。


「アイリス。今日は塔の攻略はするのかい?」

「いえ。今日は魔物と戦って経験を積んで明日に塔に向かう予定でした」

「そうかい。ありがとう。ちょっとこっちに来てくれるかい? 少し話しをさせてほしい。」

「わかりました」


 アイリスを呼んでメリッサが話しを始めた。メリッサはアイリスにブレイブキラーが、一連の勇者襲撃事件で、必ず使われているものだということを伝えた。真剣な表情でアイリスはメリッサの話を聞いていた。


「どうする? アイリス? 危険だから王都に帰って保護することも可能だけど?」

「わかりました。でも…… 逃げても結局はいつか襲ってきますよね? だったらリックやメリッサ姉さんが居てくれる時に襲われた方が安全だしこのまま行きましょう。ダメですか?」

「ははは。わかった。じゃあ、予定は変えずに行こう」


 メリッサさんの質問にアイリスは笑顔で答えると、予定通りに森の魔物と戦いながら経験を積んでいた。リック達は彼の近くで様子を見ていた。ただ…… サーダとゴーンライトはメリッサの命令で、アイリスと一緒に魔物と戦うのだった。

 その日のアイリスの予定は無事に終わった。襲撃事件が終わるまで、リック達は昼夜を問わずに、アイリスの護衛をする必要があるため、今日はアイリスと一緒にダッコロ村の宿に泊まる。

 リック達はアイリスと一緒にダッコロ村へと向かうのだった。

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