第115話 二人目の無能者
訓練所から詰め所に戻ると、カルロスはリックとソフィアとサーダとゴーンライトさんの四人を呼ぶ。ゴーンライトは緊張しているのか、表情が少し硬く、サーダの方はメリッサにしぼられたせいかシュンとしていた。
「さぁ。お前さん達にも対策会議で決まった任務をつたえないとな」
「はい。お願いします」
書類を見ながらカルロスは、ゆっくりとリック達に今回の任務をつたえる。
「今回の任務は勇者襲撃事件が解決するまでの間、我々防衛隊が勇者の護衛をすることだ」
「護衛って…… 勇者ってA3級からS1級まで何人もいるじゃないですか?」
「あぁ。もちろん最優先で守るべき勇者だけだよ。S2級以上の勇者には騎士団と防衛隊から優秀な人材を選抜して送り込むことになった」
リックの質問に答えるカルロス、グラント王国の勇者は約二百人いる、さすがに六人の第四防衛隊で全員の護衛などできない。優先順位をつけ護衛の質に差をつけるという。
「喜べ。僕たちが担当になったのは王国一の才能の持ち主だぞ!」
王国一の才能の持ち主といったカルロスは笑っている。リックはその言葉で誰の担当になったのか把握する。
「はぁ…… 俺達の担当ってあいつですよね?」
「うん! リックは察しがいいね。僕達は襲撃事件が終わるまでS1級勇者アイリスに同行する」
「でも、隊長? アイリスは、いま外国にいて同行って言っても簡単にはできないですよ?」
「いや。まだ友好国のリンガード国にいるのは確認はとれてるし。グラント王国からリンガード国には通達をし、兵士帯同の許可の連絡はもらっている」
「わかりました。アイリスがリンガード以外にむかおうとしたらどうします?」
「リンガード国の周辺も現状はグラント王国とは友好関係にあるし大丈夫だと思う。ただ、事件が解決するまで敵対国には行かないでもらうように説得するしかないな」
「そうですか……」
リックはアイリスが自分の言う通り、行動するか若干不安に思うのだった。
「じゃあ。明日の朝からお前さん達六人でアイリスの元に向かってくれ」
「はい」
「あと悪いがメリッサは日中のみで夜は王都に帰るからな」
「ナオミちゃんがいますもんね」
「うん。よろしくな」
リック達に任務を伝え終わった、カルロスは椅子に深く座り直し、机の上で両手を組む。ふと顔をあげたカルロスが、新人の二人の顔を見た。
「サーダとゴーンライト。お前さん達、今日は疲れたろう? もう帰っていいぞ」
初日でだったので緊張していたのであろう、カルロスの言葉でほっとした表情をした、二人は帰りの支度を始めた。リックとソフィアは自席に戻って残りの業務をこなす。
「お先に失礼します」
「……」
「おぉ! お前さん達明日から頼んだぞ」
ゴーンライトは詰め所の扉で、しっかりと挨拶をしたが、サーダは黙って詰め所を出ていった。二人が詰め所を出ていくのを確認した、メリッサとイーノフがカルロスの机へと向かう。
「えっ!?」
「行きましょう」
メリッサが振り向いて手招きをしリックとソフィアを呼んだ。リックとソフィアが、カルロスの机に来るとメリッサが口を開く。
「隊長。でっ? あの二人はなんでここに来たんだい?」
「そうですよ。ゴーンライト君はまだわからないですが、あのサーダ君は態度もよくないですし実力も……」
「まぁまぁ。お前さん達はそういうなよ」
カルロスに顔を近づけが、メリッサが厳しい顔で問いかける。両手でメリッサを抑える動作し、にこやかな表情でカルロスは答える。少し間を開けて言葉を選びながらカルロスは話を続ける。
「実はサーダは素行不良、ゴーンライトは適正不良でどこも引き取りてがなくてな」
「適正不良ってゴーンライトさんがですか?」
「あぁ。詳しくは知らないが、ゴーンライトは戦闘にちょっと問題があるらしいんだよ」
サーダの素行不良は見れば分かるが、ゴーンライトの適正不良とはなんだろうと思うリックだった。穏やかで優しそうなゴーンライトに問題があるとは思えなかった。
「それじゃあ。あたし達は不良品を押し付けられったわけかい?」
「押し付けられたというか…… 処分かな。第四防衛隊の厳しさならやめるか…… そのうち死ぬからな」
「はっ!? 第四防衛隊が厳しいだって? 優しくて理解のある先輩達と初心者でも簡単な業務に囲まれたアットホームな職場だろ?」
胸を張って堂々とする、メリッサを冷たい顔でリックだった。
「(いやいや…… 誰が優しい先輩? ほら、ソフィア不思議な顔でメリッサさん見てるじゃないですか? 隊長も困った顔してイーノフさんは笑いだしそうだし……)」
リックは頻繁に死にかけることがある、第四防衛隊はとても楽な職場ではないと思うのだった。ソフィアは不思議な顔で首をかしげ、イーノフは吹き出しそうになっていた。
腕を組んで言ってやったという顔をする、メリッサの横でカルロスが口を開く。
「しかも本部は僕に今日まで黙ってるんだからタチが悪いんだよ」
「あんたねぇ。もう少ししっかりしなよ。隊長だろ?」
「そういうなよ。メリッサ、これでも頑張ってるだよ!」
しっかりとしろと言われたカルロスは、落ち込みシュンってしてしまった。
「大丈夫ですよ。隊長が頑張ってるのはわかってますから…… なぁ。リック? ソフィア?」
「そうですよ」
「はい。頑張ってます」
何とかイーノフとソフィアとリックで、励ましカルロスに機嫌を直してもらうのだった。
翌日、リック達はアイリスの護衛に向かうため、出勤してすぐに詰め所の前に集合した。詰め所の前にカルロスが立ちリック達はその前に横に並んでいる。
「お前さん達。準備はできてるかい?」
「大丈夫だよ」
メリッサが大きく頷いて答えた。答えを確認したカルロスは、片手に持った書類に目を向けながら話しを始める。
「アイリスはリンガード国の黒鋼の森にあるダッコロ村にいる」
「ダッコロ村ですか? 確か古代の秘宝が眠る塔があるんですよね」
「あぁ。さすがイーノフよく知ってるな。たぶんそこを攻略中ってところだろ。僕たちはあくまでアイリスの護衛だから、あんまり塔の攻略に手をだすなよ」
微妙な顔をするリックあった。手を出すなと言われても、護衛でついていれば、自然と手を貸すことになるからだ。
「じゃあそろそろ時間だ。他国だからなテレポートボールは使えない。イーノフとソフィアに転送魔法で連れて行ってもらう」
「わかりました。僕がメリッサとサーダ君、ゴーンライト君を運ぶからね。ソフィアはリックをお願い」
「はーい…… うぜぇ」
サーダがソフィアの隣にやってきた。ソフィアは露骨に嫌な顔をするのだった。
「じゃあ私はリックを連れて行きます」
「はぁ!? ソフィア! お前は俺と…… グフ!」
「はいはい。わがまま言わないんだよ。急いでんだから!」
メリッサが素早くやって来て、右足を振りぬいてサーダの背中を蹴り上げた。吹っ飛んでサーダはうつ伏せに潰れたカエルみたいに倒れた。リックは綺麗に決まった、メリッサの蹴りを見て実戦に行かせないか考えるのだった。
メリッサは倒れているサーダの手を引っ張って、引きずってイーノフさんの近くに連れて行く。その様子を見てゴーンライトはひきつった顔して見ていた。リックは心の中でゴーンライトに、いつもこんな感じなので、すぐ慣れると声をかけるのだった。
「じゃあ頼んだぞ。お前さん達!」
「任せておきな。じゃあ行くよ。ソフィア、イーノフ」
「はーい。行ってきます」
ソフィアが手を伸ばして、リック手を握って微笑む。彼女は手を空に向け口元で呪文をつぶやいた。二人の体を光が包んで、宙に浮いていく。同じような転送魔法だが、光に包まれると移動している、テレポートボールと違い転送魔法は、浮き上がってすごいスピードで空を飛んでく。速すぎて周りの景色が早くて何が映っているのか認識できない。
「リック着きましたよ。ここがダッコロ村ですよ」
「おぉ。ありがとう。やっぱり森の中にあるだけあって木がいっぱいだね」
浮いていた体が着地すると、リックは薄暗い森の街道に立っていた。街道の少し先に小さな村が見えるあれがダッコロ村だろう。近くにメリッサ達もいて村の方をみんなで見ている。
「リック! ソフィア! 何やってんだい! 行くよ」
「あっ! はい」
メリッサが胸のペンダントに手を当て祈って槍を出現させた。槍を持ってメリッサさんが一目散に駆け出して行った。村を見ると何か大きな影二つ見えた。
「待ってください」
リックは慌ててメリッサを追いかける。二つの影は背中に頭に大きな二本の赤い角を持ったトカゲの魔物だった。そしてトカゲの魔物の前には……
「アイリス!」
リックの声でアイリスは気付くと、こちらを向いて驚いた顔をする。
「あれれー? リックー?! どうしたの? 急に?」
「どうしたって…… お前は聞いてないのか?」
「もしかして、王都から来る私の護衛ってリック達なの?! やったー! 一緒だね!」
「というか。お前は何してんだ!?」
「えっ!? 見ればわかるじゃん。あのトカゲが村を襲ってきたから守ってるのよ」
後ろの村を指してここを守ってると答えるアイリスだった。
「(なんだよ…… グラント王国以外ではちゃんと勇者をするんだな…… いや…… でも、一応グラント王国でも勇者やってたか…… それなりに評判は良かったよな)」
走りながらリック達がアイリスに近づく、一頭の大きなトカゲの口が開いてアイリスに向けた。
「リック! アイリスを保護しな」
「はい」
リックはアイリスに向かって飛び込んだ。同時にメリッサが槍を逆手に持ってトカゲに向かって投げる。投げた槍がトカゲの顔に刺さった。だが…… 槍の刺さる直前にトカゲの口から、火の玉がアイリスに向かった発射された。リックはアイリスに覆いかぶさり、一緒に倒れ込む。リックとアイリスの上を炎の玉が通過して地面に着弾した。
「ふぅ…… 大丈夫か? アイリス!」
「やっぱりリックは私の為に来てくれたのね。んー!」
アイリスを下にして覆いかぶさって寝た状態で、リックの体の下にいるアイリスは、ジッと俺の顔を見て目を閉じた。
「何をしてるんだ!? 早く立てよ…… だいたいお前は勇者のくせにあれくらいしっかりとかわせよ」
「キッ! 何よ! リック。嫌い!」
「なんだよ!? 何を怒ってんだよ!? はいはい。嫌いなら離れますよ」
せっかく助けたのに、睨まれたあげくに文句を言われたリックは、さっさとアイリスから手をはなして立ち上がる。
「かわせって…… できるわよ! でも…… リックが来たから…… 守ってくれるかなって……」
倒れたまま不満そうに、アイリスはブツブツと何かつぶやいている。
「もう…… ほら、早く立てよ」
リックは寝ているアイリスに向けて手をだした。
「やだ! んー!」
アイリスは目をつむってリックに向かって口をすぼめている。リックはアイリスが、何をしたいのかわからず、困った顔をするのだった。
「ほら! あんた達は何やってんだ? 早く応戦の準備しな」
「ちょっと!? メリッサ姉さん! 今いいところな! 早くリック! んー」
「早く立つです!」
「ちょっと!? ソフィア。わたしに矢を向けるのやめなさい」
駆け寄ってきたソフィアが、弓を構えてアイリスに矢を向けるのだった。その様子は勇者ではなく、悪者に警告するような、態度だった。
「もう…… 二人とも喧嘩するな。アイリスもいつまで口をすぼめてないでさっさと立てよ」
リックは強引にアイリスの手をつかんで引っ張る、アイリスは視線を少しそらして頬を少し赤くするのだった。アイリスは立ち上がると俺とソフィアの間にはいった。
メリッサ達はリック達の近くで大きなトカゲと対峙してる。大きなトカゲはメリッサ達に口を開いて牙を出して威嚇している。
「さすがにこいつはブレーブキラーの使い手ではないね」
「あぁこいつは……」
「ちょっと待ってイーノフ! アイリス! こいつらあたしらが倒していいかい?」
「えっ? はい大丈夫です!」
メリッサがアイリスに、トカゲの魔物を倒していいかの確認してる。
「ありがとう。じゃあうちの新人の初の獲物にさせてもらうね。サーダ、ゴーンライト! 二人でこいつを倒しな」
「はっはい」
「あぁ……」
メリッサは新人二人にトカゲの討伐を命令し、槍を引いて後ろに下がっていく。
「うん!?」
下がって来たメリッサがリックの顔をみた。
「リック! あの魔物はなんだかわかるかい?」
「えっ!? それは…… その……」
リックはこの辺の魔物のこと調べてなかった。リックはメリッサさんに急に魔物のことを、聞かれて答えられないでいた。
「えっと…… あれはキングファイアリザードですね! グラント王国でも深い森に生息してることがあります」
ゴーンライトが魔物についての解説をする。キングファイアリザードは、頭の角に炎の力を宿したトカゲで口から火を吐き。また、大きな尻尾や鋭い爪のついた足や口による、攻撃にも注意が必要だという。
「へぇ。ゴーンライトあんたやるね」
「すげぇ!」
目を細めて不服そうな顔をし、メリッサがリックの方を見つめてくる。リックは彼女の視線に気づかずスラスラと答えるゴーンライトに感心していた。
「はい。リックは後で腕立て二百回ね」
「ずるいですよ。ここはグラント王国じゃないじゃないですか!?」
「うるさい! 男のくせに言い訳ばっかりするんじゃない。ほら! もう来るよ! リックとソフィアはアイリスの保護をしな」
「はい……」
しょんぼりとしてうつむくリック。グラント王国での任務じゃないからと、事前の調査を怠っていた罰が当たった。
「はぁ…… 腕立て二百回かめんどくさいな……」
ぶつぶつ言いながらリックは、アイリスの横について彼を安全な場所へと連れて行く。
「アイリス。大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ。ソフィア! ありがとう」
「そっか。よかった」
「えっ!? リック!? 私に会えてよかったの?」
「うん! もちろん会えてよかったよ!」
「えっ? えっえええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇー!?」
アイリスは目を輝かせて手を空に向けて上げている。リックは会えてうれしいのは当たり前だと言わんばかりに笑顔をアイリスに向ける。リックの手を握りアイリスが目を見つめて来る。
「ほんと? 会えてよかったの?」
「あぁ。大事な友達なんだから無事に会えてよかったよ」
「はぁ…… リック嫌い!」
つかんでいた手を叩きつけるようにはなすアイリス。その横でソフィアは勝ち誇った顔をするのだった。リックはなぜアイリスが怒ったのか理解できずに首をかしげるのだった。リック達は少し離れた場所から、アイリスの護衛につき、キングファイアリザードと対峙するメリッサ達の様子を見ている。
「さぁ。サーダ、ゴーンライト! あんた達、やってごらん!」
ゆっくりと歩きながら二人が、威嚇をしているキングファイアリザードの前へと出る。サーダは鉄製の片手剣を持ち、ゴーンライトさんは四角い銀色の盾を背負っている。
「あれ!? ゴーンライトさんは武器らしき物は持っていないけど…… どうするんだろ?」
キングファイアリザードが、前足を使って攻撃を仕掛ける。二人ともなんとか攻撃をよけた。さらに攻撃を何度も仕掛けている。サーダはゴーンライトさんの後ろに隠れてばっかりだ。
「サーダ! あんた何してんだ!? 前にでなよ」
「はぁ?! 何を言ってんだ? あれは炎を吐くって言ってたろ。俺様が危ないじゃないか! お前たちで何とかしろ!」
「チッ! メリッサ! 無駄だ。そいつに期待するな。僕が援護する!」
ゴーンライトを盾にするように動きながらサーダが叫ぶ。普段は優しいイーノフが、舌打ちし怒った様子で、二人の杖を構えた。
「「キシャアアアアアアアアアアアアアアアア!」」
二匹のキングファイアリザード口を大きく開ける。口の中が大きく赤く光り出し空気が集約されていく。また火の玉をはなとうとしているようだ。
「おっおい。ゴーンライト! 何とかしろ」
「えっ!? うわああ!」
サーダがゴーンライトの背中を押し、キングファイアリザードの前へ。ゴーンライトは背負った盾を慌てて持った。
「えっ!? あの盾は二枚あったのか……」
リックが驚いたつぶやく。重なっていたから気づかなかったが、ゴーンライトは盾を二枚背負っており彼は両手に盾を持った。
同時にキングファイアリザードの口から、大きな火の玉が轟音と共に連射された。
「必殺! 最終防衛線!」
ゴーンライトが叫んで両手に持った盾を前に出して水平に並べた。盾は大きく広がって大きい壁へと変化した。火の玉はゴーンライトが作り出した壁にあたり次々に消えていった。
その姿を見た、キングファイアリザードは、少したじろいでいるように見えた。
「よし! 今だ! ゴーンライト、あんたが攻撃を!」
「えっ!?」
「どうしたんだい? 早くしなよ!」
ゴーンライトは困った顔でメリッサを見つめている。
「できません!」
「はぁ? あんた何言ってんだい?」
「僕は両手盾使いです。攻撃はできません」
両手に盾を持ったまま、胸を張って答えるゴーンライトだった。唖然とするリック達。
「(こっ攻撃できないだと!? それじゃあ使い物にならないじゃないか!? うん? でも、なんだろ? 攻撃できない使えないやつってなんか心にズキンとくるぞ!?)」
リックはなぜか、ゴーンライト言葉で自分が傷つくのだった。ゴーンライトとサーダに、メリッサとイーノフは、頭を抱えるのだった。