第114話 ようこそ第四防衛隊へ
「うぅ…… いつ来ても暗くてじめじめして臭いなぁ…… 下水道は何度か来てるけどこの臭いには慣れないな……」
リックは鼻を押さえながら、異臭が漂う王都グラディアの地下下水道を、ソフィアと二人で並んで歩いていた。二人をソフィアが魔法で作った照明がやんわりと照らしている。
「最後に目撃された場所はもう少し先ですね」
「わかったよ。ソフィア」
下水道の地図を見てながらソフィアが道の先を指す。二人はある緊急連絡を受け下水道へと潜っている。歩きながら自分のすぐわきを流れる水路をみながらリックはつぶやく。
「レベル上げに下水道に向かった勇者パーティ一組が行方不明って…… こんなこと日常茶飯事なのになんで俺達が……」
「しょうがないですよ。その勇者のパーティだけ行方不明で、ほぼ同時に出発した複数の冒険者パーティはみんな帰ってきてるんです。しかも実力的に下水道で苦戦をする勇者でもないみたいですよ」
「えっ!? じゃあもしかしたら……」
「リック! あれを見てください。」
下水道の通路の脇に複数の人が倒れているのが見える。リックとソフィアが急いで駆け寄ってみると、立派な白い鎧に身に包んだ勇者と大きな丸い盾を持って戦士に、杖を持った魔法使いの三人が倒れていた。
「これが行方不明のパーティかな?」
「そうですね。事前にもらった情報と一致します」
うつ伏せに寝ている死体を一つずつひっくり返しながら、ソフィアが行方不明のパーティか確認をしている。
「どうしたの?」
勇者の死体をみた、ソフィアがリックを手で呼ぶ。リックは彼女の元へと急ぐ。
「見てください、リック。これはですよ」
「そうか…… やっぱり…… ブレイブキラーか……」
端正な顔立ちの勇者の着けている、金属で出来た灰色の胸当てを突き抜け、短剣が刺さっていた。この黒い刀身で柄に華美な装飾が施された、短剣はブレイブキラーと呼ばれるものだ。ブレイブキラーの正式名称は不明、グラント王国でここ最近、頻繁に発生する勇者襲撃事件の時に必ず、被害を受けた勇者の胸に突き刺してあり、防衛隊の間でブレイブキラーと呼ばれている。
「リック!? パーティの一人がいません!」
「えっ!? ほんとだ、勇者と女戦士と男の魔法使いと…… 資料だと後は女の商人が仲間のはず」
「俺が近くを探すよ。ソフィアは地図で身が隠せそうな場所を探して」
「わかりました」
周囲に警戒しながらリックが、行方不明の商人を探す。ソフィアは下水道の地図を確認し、身を隠せそうな場所がないか調べる。
「リック。あっちの角の先に救命ボックスがありますよ。行ってみましょう!」
「わかった」
地図を見ていたソフィアが、リックを呼び救命ボックスが、設置されている方角を指した。リック達はすぐに近くの曲がり角を曲がった先にある救命ボックスに向かうのだった。
救命ボックスは見た目は普通の宝箱だ。中身はポーションなどの下水道探索に役立つ物で、冒険者でも勇者でも、中身を自由に利用してかまわない。ちなみに王都の下水道では、定期的に防衛隊が、この宝箱の中身を補充している。
リック達が救命ボックスの前へとやって来た。救命ボックスの向こう側に、小さな丸い人間の頭のような影が見える。慎重にリックは近づきながら救命ボックスに向かって声かける。
「誰かいますか? おわ!?」
近づくとキラっと光りが見え、直後にリックの前に剣が振り下ろされた。
「ちょっ!? 危ないから落ち着いてください!」
冷静に剣をかわしたリックに、何度もやみくもに剣が振り下ろされる。
「いやー! こないで! 私は……」
泣きながら、赤い髪のツインテールの商人風の女性が、リックに剣を振り回していた。先ほどの勇者パーティの生き残りのようだ。
「落ち着いてください。俺たちは兵士です。通報があって助けに来ました」
「えっ!? へっ兵士さん!? よかった! わっ私…… 私……」
剣をかわしながらリックは、ゆっくりと両手をあげて、相手に見えるように兵士だとアピールする。リックと目があった商人は、へなへなとへたりこんだ。よほどの怖いことがあり気が抜けた、彼女は漏らしてしまい、足の周りに水たまりができていく。すぐにソフィアが駆けつけたら商人は彼女に抱き着いて泣いている。ソフィアの抱きつく商人、特に怪我はしておらず、一人でも生き残りが居たことを喜ぶリックだった。
リック達は彼女が落ち着くまで待って、一緒に下水道から出た。
商人の話によると、いきなりパーティの先頭を歩いていた戦士が倒れた。直後に勇者の胸にナイフが刺さり、あっという間に二人が殺されてしまった。この時点で怖くなった彼女は、逃げたのでほとんど襲った者の姿などは見てないということだった。これは今まで起きた勇者襲撃事件で生き残った人間の証言と同じだった。前触れもなく勇者が突然襲われ、生き残れたたのは勇者を見捨て、すぐに逃げた人だけ……
リック達は詰め所に戻って来た。中へ入るとカルロスが二人に声をかける。
「お前さん達。おかえり。どうだった?」
「はい。勇者パーティは一人を残して全滅です…… 事後処理と死体は担当防衛隊に引き継いできました」
「わかった。ご苦労さん」
「隊長…… それでやっぱりブレイブキラーが使われていました」
「そっかぁ。うーん。これで二十件目だな」
「勇者襲撃事件が多いですね。私とリックも今月に入って五回も出動してます」
グラント王国の勇者パーティを狙った襲撃事件が多発している。勇者となれば、魔王軍や魔物に、襲撃されるのは当前だが、連続している襲撃事件では全滅する確率が異常に高いのだ。しかも襲われる場所は、ダンジョンや町の外以外にも、安全なはずの船の上や町中でも発生しているのだ。そして必ず共通することがある。
「私達が見た勇者さん、みんなにブレイブキラーが刺さってました偶然ですかね?」
「いやぁ。ソフィア。お前さんね。偶然にしちゃあ全員にブレイブキラーが使われてるのはおかしいよ。ブレイブキラーを使う何者かが勇者を執拗に狙っているのさ」
カルロスの言葉を聞いていたリックが彼に尋ねる。
「誰がそんなことを?」
「まぁ魔王軍の誰かであることは間違いないだろう。勇者を殺して得するのなんか魔王軍だけだしね。でも、魔王軍だって勇者を狙って町の中にまで襲撃は難しいはずだけどね……」
「じゃあジェーンが!?」
「いや…… ジェーンは魔王軍の幹部でグラント王国殲滅担当だけど、勇者を倒すために頻繁に町に出入りなんかできないよ。我々が侵入を許さないし彼女の立場としてもできないだろう。今でも魔王軍の中じゃ人間のスパイだと思ってるやつもいるだろうしね」
人間であるジェーンは町に侵入はたやすい、だが、頻繁に出入りしたら魔王軍に疑われるので可能性は低い。彼女は将軍という立場ではあるが、元勇者の妹で人間であり魔王軍でも、完全に信用されているわけじゃないのだ。
「あっ! そうだった!」
カルロスは急に何かを思い出したようで、慌てて書類をまとめだした。
「まずい…… 早く準備をしないと! ソフィア悪いけど簡単でいいから、すぐに今の件を報告書にまとめてくれるかい?」
「はい」
「どうしたんですか? そんなに急いで?」
「今日、これから隣で勇者襲撃の対策会議が決まったんだよ。そこで今回の通報も報告しないとさ」
リックはカルロスの話を真顔で聞いていた。対策会議があると言うことは、防衛隊が本格的に勇者襲撃事件に介入するということだ。素早くソフィアが、報告書を仕上げてカルロスに手渡すと、彼はいそいそと詰め所を出て行った。
「はぁ。あわただしいね。そもそも、こういう状況を切り開くのが勇者なんじゃないかねぇ。なんであたし達で対策なんか」
「メリッサ。さすがにこれ以上王国の勇者を殺される訳にはいかないからだよ。魔王軍を恐れてる王族や貴族が防衛隊や騎士団にかなりの圧力をかけてるみたいだからね」
カルロスを見送りながら、少しため息交じりのメリッサの横で、イーノフが静かに淡々と答えている。目つきをきつくしてカルロスが出て行った詰め所の扉をジッと見つめるメリッサ。
「ふん。アレックスの時は平気で見捨てたのにね…… 時代は変わったね」
「メリッサ……」
「まっ昔のことグダグダ言ってもしょうがないか。みんな隊長が帰ってきたら多分新しい任務になるよ。だから準備しとくんだよ」
「はい」
少し悲し気な表情をメリッサがし、イーノフが横で彼女を心配そうに見つめるのだった。カルロスが出て行ってから一時間ほど、詰め所は静かに時間が過ぎていく。
「隊長! お帰り? あれ? あんた、その人達は?」
「ただいま。メリッサ。おっ!? お前さん達みんないるみたいだな。ちょうどよかった。集まってくれ」
対策会議から、帰ってきたカルロスが、リック達に集合をかけた。リック達はカルロスの机の前に並んだ。
「(誰だろう?)」
二人の男性兵士が、カルロスと一緒に詰め所に入ってきて、彼の机の横に並んで立っている。
「えっと。お前さん達に報告が二点ある。勇者襲撃事件は防衛隊が勇者の護衛につくことが決まり我々の担当も決まった。それと第四防衛隊に二人の新人が入る。とりあえず勇者襲撃事件は二人の受け入れが終わってからにしよっか。じゃあ自己紹介をお願い!」
「なんだい? 新人って急だね?」
「うん。僕もさっき突然言われてね、急で悪いがみんなよろしくな」
急な話に驚いたリック、だが、よく考えれば彼も騎士団の試験落ちて、すぐに第四防衛隊に入隊したので、人のことはあまり言えないのだ。カルロスに促され、男の一人が前にでた。目つきの悪い人間で、リック達を眺めるというより睨みつけている。
「俺の名前はサーダ・ウォントだ。第四十二防衛隊で一番の兵士だった。みんな足を引っ張らないようにしてくれ!」
自信あふれる口調で名前を名乗るサーダ、彼は目が細く茶色の瞳に短い金髪で、どこか人を見下したような顔をしている。
「僕の名前はゴーンライト・インテジニアと申します。第二十防衛隊にいました。頑張りますのでよろしくお願いします」
もう一人はゴーンライトと名乗る。サーダとは対照的に、やけに丁寧にあいさつをする。ゴーンライトは黒い髪でサラサラの長髪に、黒い目をした優しく大人しそうな雰囲気をしている。
「リックと違って経験者だからな。二人は第四防衛隊の説明を受けたら、すぐに組んでもらって任務を受けてもらう」
「じゃああたしたちも自己紹介するよ!」
リック達は一人ずつ自己紹介をする。自己紹介中は、サーダはブスっとした顔でリック達を睨み続けていた。ただ、ソフィアの時だけやけにニヤニヤしておりリックは薄気味の悪さを覚えた。
「じゃあ、ソフィア。二人の受け入れをお願いね。リックはソフィアを手伝ってあげてくれ。メリッサとイーノフは先にちょっとこっちへ」
「はい」
「あいよ」
メリッサ達はカルロスの机で話し合いを始めた。
「えっと…… 二人のとりあえず机はないので後から用意になるんだろうな…… 説明しやすいように来客用の椅子をソフィアに持っていかないと……」
リックは来客用の椅子を取りに向かう。ゴーンライトは手伝ったが、サーダはずっとソフィアの隣で、彼女をにやにやと見つめている。リックはサーダに嫌悪感を抱きつつ椅子をソフィアの席に並べ自分の席に座る。
「それじゃあ。お話を始めますね」
「お前の名前ソフィアだったっけ? 良い名前でかわいいな。よし! 俺と付き合え」
「えっ!? 嫌です。お話を続けますよ?」
「はぁぁ!? おい! ちょっと待て!」
チラッとサーダを見てソフィアは、嫌そうに答えて説明を続けようとする。
「まずここ第四防衛隊は……」
「おい! 無視するなよ!」
「やめてください。サーダさん。ソフィアさんが困ってますよ」
「うるせーな。俺は欲しいものは我慢しないんだよ」
また、ソフィアと話をしようとする、今度はチラッとも見ないで、ソフィアは淡々と話しを続けていく。騒ぐサーダをゴーンライトが制止する。
「ちょっと待ってくださいね」
ソフィアが資料を取ろうと、二人に背を向けた瞬間、サーダが彼女の肩を掴もうと手を伸ばした。
「おい! ソフィアは俺の言うことが聞けない。悪い子だな! まったく」
「あった! 第四防衛隊の担当区域ですが」
「チッ! おい! 俺様が…… グガ!」
後ろ向きに手を振りほどいたソフィアに、さらに強くつかみかかろうとしたサーダ。彼は悲鳴をあげ顎をあげ後ろに転びにそうになる。ソフィアの腰がきいた裏拳が綺麗に入ったのだ。
「いっ…… いってぇ!」
「さっきからうるさいですよ。私が説明をしているのですから静かにしなさい!」
「てってめえ! いい加減に!」
「いい加減にするのはあなたです!」
「ちょっと! やめなよ! ほんとうにソフィアさんが!」
鼻を押さえて情けない顔をしているサーダ。リックはソフィアの言葉に全面的に同意してうなずく。カルロスもメリッサ達も怪訝な表情でサーダを見ていた。三人から何とかしろという、プレッシャーを感じたリックは、立ち上がりソフィアの元へと向かう。
「はいはい。もうやめようね。大人しくソフィアの話聞こうね」
「なんだ!? てめえは?」
「俺はリック・ナイトウォーカー…… って!! さっき自己紹介しただろ! ここの兵士でソフィアの相棒だよ」
「離せ!」
サーダの手首をリックは掴んで、立ち上がらせると、椅子にサーダを無理矢理椅子に座らせた。
「リック。この人がお話聞いてくれないし…… 私に触ろうとして怖いです!」
「そっそう!?」
苦笑いをするリック、怖いと言いながらソフィアは、綺麗に裏拳をサーダに決めていた。
「おい! 暴れるな!」
「うるせえ! はなせ!」
リックに肩を押さえつけられ、座らされていたサーダが暴れだした。
「(お前…… 本当にこれ以上騒ぐとメリッサさんが出てくるぞ? いいのか? 死ぬぞ。それにメリッサさんが出てきたら絶対に俺が巻き込まれて面倒くさいんだから座れ!)」
困った顔で暴れるサーダの、両肩をつかみ簡単に押さえ込むリックだった。必死にサーダは抵抗するが、リックに肩をがっつりつかんで動けない。サーダは不満そうにリックを睨みつける。
「なんだ? お前? ムカつくな表にでろ!」
「はぁ…… 君ねぇ。仮にもここで喧嘩したら……」
「かまわないよ。リック! やっちまいなよ」
「メリッサ! ダメだよ」
イーノフが慌ててメリッサを止める。さすがに彼女の言う通りにして詰め所で、喧嘩するわけにもいかず困った顔をするリックだった。
カルロスがリック達を見た。彼のサーダを見る表情は、にこやかだけど目が笑ってなかった。
「リック、お前さん。えらいね。初日から訓練かい?」
「よし! ほら! 表にでろや!!! リック!」
とぼけた表情でカルロスは、リックとサーダに訓練かと問いかける。メリッサはそれを聞いてリックに笑顔でうなずく。訓練ならサーダをとっちめても、問題ないぞいうカルロスの誘導だ。
「はぁ、めんどくさい。やっぱり巻き込まれた……」
サーダは意気揚々と詰め所の入り口から外へでていくのだった。カルロスやメリッサも続き、イーノフに促されたゴーンライトが二人に続く。リックとソフィアは、最後に二人でサーダを追いかけて、詰め所をでていくのだった。
リック達は全員で詰め所の近くの訓練場にやってきた。訓練用の武器を借り、リックとサーダは対峙する。審判はメリッサだ。
「リック。頑張ってくださいね」
「うん! ありがとう」
ほほ笑んでリックに手を振るソフィア。それをサーダは悔しそうにみてる。
「おめぇ! ぜってーボコすからな」
「静かにしな! あんた達いつでもいいから始めなよ」
メリッサが開始の合図をした。リックはいつものように、剣先を下に向けて構えサーダに笑顔を向ける。
「サーダさん。お手柔らかに頼むよ」
「リックだっけ? 俺が勝ったらソフィアの相棒は俺だから!」
「いいよ」
「へっ後悔するなよ!」
嬉しそうにサーダは剣を構えた。サーダと対峙したリックは笑っている。サーダは後悔するなと叫んだが、彼が後悔などするはずもない。リックがサーダに負けるわけがないのだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
勇ましく雄たけびを上げながら、サーダは両手に剣を構え、リックに突っ込んでくる。
「うわぁ。おっそ……」
ジッと迫ってくる、サーダを見つめ、思わず声が出たリック。サーダの動きはリックの予想以上に遅かった。リックの前に来たサーダが、彼に剣を振り下ろした。振りロされるサーダの剣、彼の視線がリックの頭から脇腹に移動し、手首が不自然に傾いているのを見抜くリック。縦切りと見せてからの横からの一撃、サーダのみえみえのフェイントだった。
ブンという大きな音がしてサーダの剣が空を切った。リックは体勢を入れ替えてサーダの横にきた。サーダは横目でリックを見て驚いた顔をした。リックはもう勝つのは決まってるので少し彼を懲らしめることにした。
「えい!」
掛け声をだしリックは横からサーダの尻を蹴った。前のめりに体制を崩して手をついたサーダ、リックは後ずさりして距離を取る。手をついたままこちらに振り向いて悔しそうに叫ぶ。
「てめぇ! ふっざけんな!」
「ふざけてるのはお前だろ? ほんとうに前の部隊で一番だったのか?」
「クソがー!」
立ち上がって剣を構えたサーダ、今度は腕を引いて剣を水平にし、リックに突きを繰り出してきた。遅い突きを軽くかわすリック、サーダは剣をすぐに戻してまた突きを繰り出す。
サーダの剣をひきつけたリックは、右に一歩踏み出してかわす。悔しそうな顔でムキになり、何度もサーダは剣で突いてきた。
「あっあの? メリッサさん? リックさんって一体何者なんですか? サーダさんを子供扱いして……」
「ははは。あの程度の攻撃がかすりでもするくらいなら、リックはとっくに墓の中に入ってるよ」
笑っているメリッサ、サーダの剣士としての能力が低いわけではない、彼は防衛隊でも上位の剣の実力はあるだろう。ただ、リックがそれをはるかに上回っているだけだった。
サーダの突きの威力が落ち始めた。全力で突いて体力がなくなったようだ。リックはもう終わらせることにした。
「くそがーー!」
サーダの突きがリックの胸を狙う。胸の手前まで剣が来るとサーダは、リックをついに捉えたと思って嬉しそうに笑った。
「へっ!?」
リックは余裕の笑顔で、サーダの剣を左によけた。突きをだして横に伸びきった、サーダーの腕に向かって、リックは剣を振り上げた。リックが腕を大きく空に向かってあげた。同時にバキッとという音がしてサーダの腕が逆に曲がる。
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
サーダの叫び声が訓練場に響く。リックが振り返ると、サーダが腕を押さえて膝まつき、空を見上げて声を上げていた。
「リック! 新人の手をいきなり折るやつがいるかい?! もっと手加減してやりな!」
「いやいや。さすがにこれ以上は手加減できないですよ」
「ほら! あんたもいつまでも痛がってんじゃないよ。男だろ?」
メリッサの手が緑に光り、サーダに回復魔法をかけながら、リックについでのように注意をしてくる。なお、サーダの腕が折られ瞬間に一番の笑顔をしたのがメリッサである。リックは剣をおさめ、ソフィアの元へと歩く。イーノフとカルロスが近づいてきてリックに声をかける。
「リック! お疲れ様!」
「まぁ。お前さんなら余裕か。お疲れさん」
二人は満足にそうに笑っている。彼らもサーダの態度には、思うところがあったのだろう。
「勝てるって信じてましたー」
「うわ!? ちょっとソフィア!」
ソフィアに抱き着かれて倒れそうになるリックだった。普段は抱き着かれたらうれしいのだがリックは微妙な顔をする、別にサーダに勝つのは当然で、抱き着かれるほどのことはしていないのだ。
「リックさん! すごいです!」
「いえいえ、たいしたことないですよ」
ゴーンライトもリックに、近づいてきて笑顔で話しかけてきた。
「今日はこれくらいで勘弁してやる! 覚えてろ! 離せ! ババア!」
「えっ!? バカ!」
サーダは捨て台詞を吐き、訓練所からでようとしたが、メリッサさんに捕まって説教を食らっていた。リックは苦笑いをしてサーダを見つめていた。
「よし! じゅあ訓練は終わりだ。お前さん達さっさと戻って詰め所で今回の任務の説明するからな」
カルロスが詰め所を指して歩いていく。イーノフとゴーンライトがそれに続く。ソフィアが返事をして微笑み声をかける。
「はーい。行きましょう。リック」
ソフィアが手をリックに出してきた、彼はソフィアの手を握って歩きだした。かわいそうに、メリッサに叱られたサーダは、リック達の後ろを、フラフラと歩いて最後に戻るのだった。