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第112話 障壁を砕け!

 シーリカの祈りのよって魔法障壁は、消えるのではなくより強固に硬くなった。


「さすが全滅聖女だな…… うん!?」


 リックは強くなった魔法障壁を見てつぶやく。ソフィアが彼の横に来て耳元に顔を近づけハクハクを指して小声で話し始めた。


「ハクハクさんに頼みましょう。この間の遺跡の時みたいに」

「あぁ。そうか」


 巡礼の際に訪れたニコールフン遺跡で魔法障壁に阻まれたことがあった。その時はハクハクの遠吠えにより魔法障壁が破壊されたのだ。リックはみんなに聞こえないように小さい声でハクハクに話しかける。


「ねぇ。ハクハク。ニコールフン遺跡の時みたいに魔法障壁を壊せないかな?」

「よし。やってみよう」

「お願いね。ソフィア! みんな! 耳をふさいで!」

「はい」

「えっ!?」

「あゎゎゎ! リック様?」


 ハクハクが、リックの頭の上で、首を上に上げる。俺達は全員耳をふさいだ。


「うん!? チっ」


 タンタンがココの耳に手をおいて、ココはタンタンの耳をふさいでいた。いちゃつく二人を見てリックは、自分達のことは棚にあげ舌打ちをする。


「うぉわおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!」


 ハクハクの遠吠えが地下通路に響き渡った。ピンク色に光る魔法障壁が小刻みに震えているのがわかる。

 しかし…… 遠吠えで魔法障壁は微かに、振動するだけで何も変化はなかった。


「こりゃ。ダメじゃな」


 耳から手を放すとハクハクが、リックの耳の近くに顔を持ってきてつぶやく。


「ダメです。壁は壊れません!」

「わらわだけじゃダメみたいじゃな。わらわの音魔法に助けが必要だ。物理と別の魔法のダメージを同時にぶつけないとな……」

「物理と魔法を同時に? わかった。ソフィアと俺が一斉に」

「ダメじゃ。完全に同時に攻撃しないと破壊できん。タイミングが少しでもズレたら別々に攻撃が弾かれてしまう」


 ハクハクの言葉を聞いたリックは落胆する。三人で完全にタイミングを合わせて攻撃など不可能だ。リックとソフィアも訓練はしているが完全にタイミングが合うことなどない。魔法障壁を突破しないことにはミャンミャンの元には行けない。リックは次なる手を考え……


「うん? でも…… 合わせる?」


 何かを思いついたようで、リックはすぐにソフィアに声をかける。


「ソフィア! ハクハクが吠えた瞬間に雷の魔法をハクハクの上に放ってくれるかい?」

「でもそれじゃハクハクさんに魔法が当たってしまいますよ」

「ううん。大丈夫だよ!」


 ソフィアにうなずいて手招きをするリック、さらに小声でまたハクハクに話しかける。


「ハクハクもさっきのやつをもう一度お願い」

「何度やっても無駄じゃ」

「大丈夫。俺に考えがあるからお願いね」

「わかったぞ」


 リックの依頼を渋々ハクハクが承諾した。リックは振り向いてシーリカ達に声をかける。


「危ないから少し下がってて」


 シーリカ達は通路を戻ってリック達から十メートルほど離れた。リックは頭からハクハクを下すと、彼女と少し距離を取った。ソフィアは両手をハクハクに向けていつでも魔法がはなてるように準備をする。ハクハクが遠吠えの構えをする、リックとソフィアとハクハクの三人の周囲に張り詰めた空気が漂う。


「うぉわおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!」


 ハクハクが遠吠えを始めて、リックは剣を構えた。遠吠えが一番大きくなるちょっと前でリックは左手をソフィアに向け横に動かす。


「今だソフィア!」

「はい」


 手でソフィアに合図をだすと、彼女の手が青白く光って、電撃がハクハクへと向かって行く。


「ここ」


 リックが右腕を引いた構えをして、ハクハクとの距離を詰める、同時に電撃がハクハクの真上に到達する。リックは剣を突き出してハクハクに真上の電撃を狙って突く。


「うわお!」


 剣が突き出されてると同時に、リックの手に声の振動が伝わり、彼の持っているの剣の刀身に、電撃の光がまとわりつく。リックは電撃がなくなる直前に手首をひねって剣を回した。彼が手首を戻すと、剣は青白い光を浴びえ。小刻みに震えるのだった。その様子を見たリックは満足そうにうなずく。


「ふう、成功だ!」


 リックの剣はハクハクの魔法の振動とソフィアの電撃を帯びている。これでリックが魔法障壁を攻撃すれば、音、魔法、物理と同時に魔法障壁にぶつけることができる。ハクハクは前足をついたまま、リックを見上げ声を震わせてたずねる。


「おっおぬし。いったい何をしたのじゃ?」

「ハクハクの魔法とソフィアの魔法を剣に乗せたんだよ!」

「まっまさか? そんなことできる訳がなかろう!」

「できないって…… いやいや実際ここにあるし!」


 剣を見てハクハクは、口をあけ唖然と表情をしている。ぽかんと口を開けるハクハクがかわいくてリックの表情がゆるむ。


「まったくでたらめな奴め! おぬしはいったい何者なのじゃ?」

「王立第四防衛隊のリックだけど?」

「そういうことを言ってるのではない!」

「大きな声で叫ぶとみんなにバレちゃうぞ!」


 慌てて両手で口を塞ぐ仕草をするハクハクだった。


「まったく…… ほらゆっくりしてる場合じゃない。さっさと魔法障壁を壊そうぜ」


 リックは魔法障壁の前に立って剣を構え小さく息を吸う。


「ふぅ。行くぞ! 名付けて電撃共振刃サンダーレゾナンスブレードだ!」


 叫んで息をつけてリックは壁を切りつけようと腕を振りかざす……


「クッ! ダメだ! 手が震える! えい!」


 ハクハクとソフィアの魔法が強すぎるようで、剣が振動し片手だけでは押さえきれない。リックは剣を両手で握り、強引に震えを押さ込むと、踏み込んで剣を魔法障壁に向かって振りぬいた。魔法障壁に剣が当たり、バキーンという大きな音がし、リックの剣は折れると同時に魔法障壁にヒビが入った。小さなヒビは徐々に大きくなり蜘蛛の巣のような模様になっていく。


「クソ! 魔法障壁がまだ残ってるけどこんだけヒビが入れば……」


 折れたリックの剣は振動が、収まり青白い光も消えていった。


「おらよ!」


 リックは魔法障壁に入ったヒビを思いっきり蹴り上げた。蹴られた魔法障壁はバキバキと崩れ落ちる。二回ほどリックが蹴ると、魔法障壁に人が通れるほどの穴が開く。


「よし! これで通れるぞ」


 振り向いたリックに、笑顔でうなずくソフィアだった。ハクハクがリックの元に駆け寄ってきた。


「おぬしの剣は折れてしまったのう」

「大丈夫。予備があるからすぐに出すよ」

「もっと強い剣を使ったらどうじゃ? 折れる度に新しい剣をだすのもしんどかろうに」


 ハクハクは折れて刀身が短くなったリックの剣を見つめていた。彼女の言うことも当然だが、リックの剣はかなり特殊なもので、しなるような柔軟さと硬い強度を両立させるのは難しい。


「そうだな。でも、今はこれしかない」


 リックはハクハクに答えると折れた剣を投げすて、魔法道具箱から予備の剣をだすのだった。


「ほら行くぞ」

「頭は揺れるからもういやじゃ」

「わかったよ」


 ハクハクを頭に乗せようとするリックに、彼女は抵抗し肩に乗った。リックの肩に乗ったハクハクは、両足を前に出してポーズを決める。


「ココ! 行くよ」

「はーい」


 離れた場所に居たココを呼ぶリック。ココに連れられシーリカとタンタンがやって来る。

 リック達は開いた穴から魔法障壁の中に入り試合会場まで駆けていく。


「ちょっと待って! ここで様子を見よう」


 先頭をいくリックがみんなを止めた。試合会場への入場門の近くまで来た、リック達は柱の陰に隠れて試合会場の様子をうかがう。リックとソフィアが顔を出して二人で会場の様子を覗いている。いつのまに用意された豪華な椅子に、ズワロフが座って試合会場を見ているのが分かる。

 ズワロフの右横には、ローズガーデンの兵士がうつむいて、槍を持って立っている。


「みんな変なメダルをぶら下げてますね」

「本当だ」


 二人が持ち場から見ていた時は、気づかなかったが、会場にいるローズガーデンの兵士たちは、みんなから紐がついたメダルをぶら下げている。ズワロフは動いたり何かをしゃべっているのが見えるが、ローズガーデンの兵士達は黙ってうつろな表情で立っているだけだった。

 リックは兵士達の様子が気になるが、ミャンミャンがどうなっていうのか気になり、彼女を探す。

 ズワロフから五メートルほど離れた場所に、縛られて膝まづいたブリジットさんと、鎖につながれた上半身を裸にされた囚人の女性達が縛られて並べられている。その中にミャンミャンはいない。リックは試合会場に視線を向けた。


「えっ!? またか……」


 ズワロフから離れたところで、ミャンミャンはムスタフの前に立ちはだかり、鎌を構えている。ミャンミャンの後ろには、足を押さえた囚人が必死に逃げようとしていた。


「まったくぅ。あの子ったらまた!」

「うわ! ちょっと!」


 ココが急にリックの脇から、顔をだしてしゃべりだしたのだ。


「急になに? ビックリしたよ」

「ごめん。ごめん。リックゥ、ミャンミャンはあたいが助けるからズワロフをお願いするよぅ」

「わかったよ。ココ。無理しないで!」

「誰に言ってるの? あたいはギルドマスターだよ。あんなでくの坊には負けないよぅ。じゃあ先に行くね」


 そういうとココはスッと物陰から出て行った。ギルドマスターと豪語するだけあってココは、音も立てずに巧みに身を隠しながら。素早く試合会場へと潜入していった。


「シーリカ様とタンタンはここで待機しててくれるかい?」

「あゎゎゎ、私達も……」

「ダメですよ。これ以上は危険だから、ここに居てください。タンタン! シーリカ様をしっかりと守るんだぞ」

「うん。リックおにーちゃんココ姉ちゃんとお姉ちゃんをお願いね」

「わかったよ」


 タンタンに返事をしたリックは剣を抜く。ソフィアとリックは互いに視線を合わせて頷くと、二人はほぼ同時に飛び出し、ズワロフに向かって駆け出して距離を詰める。近づくリック達の気配にズワロフが気付いた。


「貴様ら?! どうやってここに?」

「ズワロフ隊長! あなたを逮捕する」

「大人しくブリジットさんとそこの囚人さんを解放しなさい」

「ふん。これでどうだ! お前たちこいつらを排除しろ!」


 ズワロフが手叩くと、横にいた兵士達が槍を構えて、リック達に向かってくる。


「兵士さん達が来ますよ」

「しょうがない、気は進まないけど、やるよ! ソフィア!」

「はい」

「待て! リック。こやつらの雰囲気はおかしいぞ」

「えっ!?」


 鼻をヒクヒクと動かし、ハクハクがリックに叫んだ。


「雰囲気がおかしいといっても、今はどうしようもない。やるしかないんだよ」


 兵士達がうつろな表情で異常なのはリックにも分かった。彼には対処のしようがなく、力で押さえ込むしかなない。リックは迎え撃つために立ち止まって、いつものように剣先を下に構えた。


「待てっと言っとろうが! わらわに任せるのじゃ!」

「あっ!? ちょっと! ハクハク?」


 肩からビョイッと飛び下りた、ハクハクは兵士たちとリックの間に立った。子犬に気づいた兵士達は立ち止まるが、すぐに槍をハクハクに向けだ。ハクハクが舌をちょっと出しながら首をかしげた。

 白いモフモフした小さな子犬がつぶらな瞳で首をかしげている姿はかわいくキュピーンという音がしそうなくらいだった。兵士達はその姿に立ち止まりその姿に見とれている。


「えっ!? ハクハク…… なにを……」


 兵士達が胸を押さえて苦しみだした。ボト、ボトと兵士達の足元に割れたメダルが落ちていく。


「あれ!? 俺達は?」

「確か…… ズワロフ隊長からメダルを付けるように命令されて……」


 さっきまで敵意をリック達に向けていた、兵士達はその場で困惑した表情をしている。


「ハクハクこれは?」

「あのメダルじゃ! あのメダルが兵士達を幻惑してのじゃ」

「メダルが?」

「じゃあ今のポーズは幻惑を解く魔法!?」

「いや。あれはわらわの決めポーズじゃ! 幻惑よりさらに強烈なかわいい誘惑をぶつけたのじゃ。はっはっは」

「はぁ……」


 どや顔をするハクハク、リックはため息をつくのだった。彼女が言ってることが本当か嘘かはわからないが、とにかく兵士にかけられた幻惑は解かれた。


「しかも、この臭い…… あやつめか!」


 ハクハクは思いつめたような表情をしている。リックは心配そうにハクハクを見つめている。ふと何かの気配遠ざかって良くを感じて顔をあげたリック。


「あっ! 待ちやがれ!」


 兵士達が正気に戻ったのを見たズワロフが逃げ出したのだ。リックは慌てて追いかけて振り向いた。


「ソフィア!」

「はい! えい!」

「ギャー!」


 逃げようとしたズワロフの太ももに、ソフィアの矢が刺さり悲鳴をあげ膝をつく。膝をついたズワロフの背中を、追いついたリックが蹴って、うつ伏せに倒した。リックはズワロフの背中を足で、押さえて顔の横に剣を突き付けた。


「動くな!」

「どっどけ!」

「あなたを逮捕する!」

「観念です!」


 ソフィアが駆けてきて縄を出し、ズワロフを縛り上げる。リックはズワロフをソフィアに任せ、ブリジットさん達の元へと駆ける。幻惑から正気を取り戻した兵士達も一緒だ。


「大丈夫ですか? ブリジットさん」

「ありがとう」

「町長、僕達…… すいません」

「いいのよ」


 リックはブリジットさんの縄をほどこうと彼女の後ろに回り、兵士達は囚人の女性たちから鎖を外そうとしている。


「うがああああああああああああああああああああああ!!!」


 遠くの方で男のうめき声がした。リックが振り返った。


「リックゥ! ごめん! そっちに!」

「みんな逃げて! リックさん!」


 リック達に向かってムスタフが、ものすごい勢いで駆けて来た。ムスタフは斧を持っていない左手を前にだして叫ぶ。


「がうぁ。それ! 俺の! おれの女ーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」


 ブリジットと囚人の女性達は、ムスタフの獲物で。彼はそれを取られるのが嫌だったようだ。リックは軽蔑した目をムスタフに向け、彼と右手に力を込めて彼と決着をつけようと迎え撃つのだった。

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