第109話 二回戦は王都の詐欺師
「モグモグ。やりましたよ。ミャンミャンさん勝ちましたね。モグモグ」
「うん。よかった」
リックとソフィアは警備をしながら試合会場を見ていた。ミャンミャンが退場しても、会場はどよめき、彼女の試合の余韻が残っている。ミャンミャンの勝利を、予想していた人は、やっぱり少ないのだろう。
「次もミャンミャンさんを応援しますよ。モグモグ」
「そうだね…… うん!?」
会場を見ながらソフィアと会話するリックは違和感を覚える。ソフィアの言葉に時折租借音が混じっていた。リックはチラッとソフィアを見る。
「あっ! こら! ちょっと!? ソフィア! 何を食べてるの?」
「ふぇ!? 終身刑パフェですよ?」
「ダメでしょ。まだ休憩時間じゃないのに! いつのまに屋台に行ったの?」
「フッフッフッ。勝手に屋台になんか行きませんよ。さっきここに売り子のお兄さんが来たんですよ」
胸を張って勝ち誇っているソフィア、彼女は屋台に行くのは我慢し、売り子で買ったんだから、文句ないだろうという態度をする。まぁ、屋台に行こうが売り子が来ようが任務中に買い食いするのがいけないのだが……
ちなみにソフィアがいま食べている終身刑パフェは、細長いパフェグラスに、下から、イチゴジャム、生クリーム、季節のフルーツ、アイス、ゼリー、と断層を作って、一番上には大きなアイスと三角形のパイとフルーツが刺さって、格子状にチョコレートソースがかかっている。ふんだんにフルーツを使うことで終身刑でも食べ飽きないというのが売り文句だ。
「売り子が来ても警備中に物を食べるなんてダメだよ」
「大丈夫ですよ! さっきローズガーデンの兵士さん達も監獄串焼きを買い食いしてましたから」
「えっ!? ローズガーデンの兵士も!?」
ローズガーデンの兵士も買い食いをしいたことにショックを受けるリックだった。ちなみに監獄串焼きとは、油の乗った魚の切り身と、野菜を交互に串刺しにして、秘伝のソースで香ばしく焼きあげ、最後に香辛料をかけたものだ。焼けるような辛さのソースが監獄での厳しい生活を表現している。
監獄串焼きの屋台を見て、自分だけが真面目にやってるのが、馬鹿らしくなっていくリック。
「うぅ…… いいなぁ…… 俺も次の休憩に食べようと思ってんだよなぁ。あぁ! 屋台に行って買ってきちゃおうかな…… でも、ここの人達がやってるからって食べて言い訳じゃ……」
ぶつぶつと言いながら、悩んでいるリックの横で、幸せそうにパフェをスプーンでほおばっているソフィアだった。リックは周囲に目を向ける、観客も試合に注目し、見張りの兵士を見てる人はいない。今なら買い食いをしても誰にも咎められない。
「いや、ダメだ。何か会った時に俺だけも動けるようにしとかないと……」
真面目は彼は、誘惑に打ち勝って、ソフィアに声をかける。
「なるべく早く食べてね。」
「えぇ!? このクリームとアイスの間に閉じ込めれたフルーツは絶品なんですよ!? 味わって食べないともったいないです」
「そうですか…… なるべくでいいからお願いね……」
不満そうにパフェを見つめるソフィア、彼女は普段は素直にリックの言うことを聞くが、食べ物に関してはわがままだった。
「うん!?」
笑顔でソフィアが、スプーンでアイスをすくって、リックの顔に近づけてきた。
「はい! アーン」
どうやらソフィアがリックにアイスを食べさせようとしてくれたようだ。リックはチラッと周りを見て少し恥ずかしそうに口を開けた。口を開けてリックは彼女のスプーンを待つ……
「あっあれ!?」
「引っかかりました! リックの驚いた顔をみて食べるアイスは最高です」
「ひどいよ! ソフィア!」
ニコニコと嬉しそうにアイスをほおばってるソフィアだった。彼女はリックの口にスプーンを入れる直前に、素早く引いて自分の口に入れたのだ。味わいたいに早く食べろと急かしたリックに復讐したつもりのようだ。幸せそうにアイスを頬張るソフィアを悔しそうに見つめるリック。
「今度はあげますよ! ニコニコ」
「ふーん」
「はい。アーン」
また、ソフィアは笑顔でリックに、アイスをすくったスプーンをちかづけて来た。見切りを得意とする彼に、二度同じ手は通用しない。リックは意を決してソフィアに復讐する。すっとリックはソフィアがパフェグラスを持ってる左手に手を伸ばす。
「アーン!」
「ずるいです。ダメです!」
パフェグラスを持ったソフィアの手首を掴んだリックは、パフェの入った容器に盛られたアイスにかぶりつき、半分以上を口におさめた。
「うーん! あまーーーーい。おいしいなぁ」
「ふぇぇぇん! ひどいです!」
アイスを食べながら声をあげるリックだった。上のアイスが半分無くなった、パフェを見て、ソフィアは悲しい顔をするのだった。リックはソフィアを見て満足そうにうなずく。
「まぁ、でも一番美味しいのは前に食べたソフィアの鼻についたしょっぱいアイスかな?」
「ぶぅぅぅ! もう怒りましたよ」
「わー! 逃げろ!」
リックは振り返り、駆けだすふりしてソフィアから、少し離れた。彼女はほっぺたに空気を入れ、顔を丸くして手を挙げ。彼を追いかける。
「ははっ。すぐムキになるんだから。ほら、走ったらパフェこぼれちゃうよ」
振り向き笑顔で両腕を広げたリックに、ソフィアが飛び込んできた。リックの胸にソフィアに頭が当たる。顔をはなして、上目遣いでソフィアは頬を膨らませ、リックに顔を見つめている。ソフィアの怒った顔がかわいくてリックの顔をほころぶ。
「ぶぅぅぅ。リック嫌いです」
リックの腕の中でスペースを作り、ソフィアはふてくされてパフェを食べ始めた。怒りながらも食べるのをやめないソフィアに微笑み、リックは頭を撫でると嬉しそうにするソフィアだった。
「アーン!」
「ふぇぇ!? プイだ!」
食べてるソフィアに欲しそうに、リックが口を開けたが、プイってそっぽむかれてしまった。リックは機嫌が悪いソフィアに少し寂しそうに笑う。
「ごめんね。まだ怒ってるの?」
「はい! 怒ってます」
「そうか。俺はソフィアと仲直りしたいな」
「うぅ…… じゃあ、これで仲直りです!」
ソフィアは目をつむり背伸びをして、リックの唇に自分の口を近づけた。
「ちょっとなに!? ここで!?」
「もちろんです。私は怒ってるんですよ」
大きくソフィアが頷く。周りに人が多い場所で、キスを求められてさすがに躊躇するリックだった。
「恥ずかしいから、おでこでいい?」
「しょうがないですね。それでいいですよ!」
「はぁ…… よしっ!」
意を決してリックはソフィアの頭の後ろに手を回すと、彼女は上を向いてリックに向かってほほ笑む。ゆっくりとリックはソフィアのおでこに顔を近づけ……
「何してるんですか?」
「うわぁ!」
リック達の間にミャンミャンが急に顔を出してきた。驚いておもわずソフィアとリックは離れた。彼女はリック達を交互にみて、ブスっとした表情で睨みつける。
「またこんなところでイチャイチャして! だいたいリックさん達は今勤務中ですよね? 兵士として自覚が足りないんじゃないですか」
「はい……」
「ミャンミャンさんが怖いです!」
「怖くないです」
「いや。怖いです!」
怖いと言いながらリックの腕に、自分の腕を絡ませるソフィだった。リックはまずいという顔をして、ミャンミャンは二人を怖い顔で睨みつける。
「こら! どさぐさに紛れてリックさんに腕に抱き着かないでください」
「あのさミャンミャン…… ここだと大きな声は目立つから他のところ行こうよ。ねっ!?」
「あら!? 私は別にここで困りませんよ」
ミャンミャンの声が大きく観客がこちらを向いて注目を集める。リックはなんとか彼女をなだめて通路の端に移動した。移動した先でミャンミャンは、リック達二人を自分の目の前に立たせて、は腰に手を当てて機嫌悪そうにしていた。
「あーあ…… せっかく一回戦勝って、嬉しくて報告に来たのに! リックさん達は私のことはどうでもよくて二人の世界ですかぁ!?」
「ごっごめんね。おめでとう」
「おめでとうございます」
「フン!」
腕を組んでそっぽむくミャンミャンだった。リック達も一合試合の時から二人の世界ではなく、ミャンミャンの応援はしていた。
「それにちゃんと聞いてました? 私がリックさんのことを会場でほめたんですよ!?」
「えっ!? そんなことしたの? ごめんね。俺達の持ち場は歓声が大きくなると試合の会場の会話は聞こえないんだ」
「はぁ!? 聞いてなかったんですか? ぶぅぅぅ!」
「ごっごめん…… それに聞いてなかったんじゃないよ!? 聞こえなかったんだよ! ほんとだよ」
「もういいです!」
ミャンミャンは下を向いて悲しそうにした。ソフィアも心配そうミャンミャンを見ていた。
「ミャンミャンさんかなしそうですよ」
「そうだね。どうしよう?」
ソフィアはリックの、耳に口を近づけて、小声会話してくる。
「うん!?」
チラッとミャンミャンが、こっちを見ていやらしく笑ったような気がするリックだった。
「リック」
「あっ! ごめん」
よそ見をするリックの袖をソフィアが引っ張り、彼女の方を向かせると真剣な表情で口を開いた。
「やっぱりちゃんと謝るしかないですよ!」
「そうだよね。また二人で謝ろう」
「はい」
「ミャンミャン、ごめんね」
リックとソフィアは二人で頭を下げた。ミャンミャンはこちらをチラッと見ると静かに話だす。
「許してほしいですか?」
「うん! もちろん」
「じゃあ、私にソフィアさんにさっきしようとしたことしてください。はい!」
「えっ!?」
ニコッと笑ったミャンミャンは、リックの胸に飛び込んで来て、髪を押さえておでこをだして上を向く。髪を押さえる彼女の手には、囚人の証である黒い十字架の封印の刻印が、押されているのが見えた。
「ダメです!」
「そっそうだよ…… あれは…… ソフィアだから……」
「さぁ早くしてください。リックさん! 年上のソフィアさんより、私は若くてピチピチですよ」
「若い!? ミャンミャンさん!」
慌ててソフィアがミャンミャンを、リックから離そうと手を伸ばした。
「あははは! 冗談ですよ!」
「「えっ!?」」
笑ってミャンミャンの手を叩くのだった。呆然とするリックとソフィアを見たミャンミャンは口を開く。
「二人とも慌てて面白ーい! もう、怒ってないですよ」
「もう…… ミャンミャン。悪い冗談はやめなよ」
「そうですよ。ビックリしました」
「あっ! もう、次の試合の為に控室に戻らないと…… じゃあ次も頑張ります。応援お願いします」
「うん。頑張って!」
「次も応援してます!」
振り向いて頭を下げるとミャンミャンは少し早足で控室へと向かうのだった。リック達はその姿を見送っていっていた。
「本当は…… 冗談じゃ…… なく…… 本気なんだ……」
早足で会場に向かいながら、ミャンミャンはつぶやくのだった。
「あっ!? やばい! 俺達も早く警備に戻らないと」
「そうですよ」
リックとソフィアは慌てて持ち場へと戻り、試合会場の警備を再開するのだった。持ち場に戻るとリックは小さく息を吐いた。
「ふぅ。ミャンミャンにはビックリした」
「ほんとうは少しうれしかったんじゃないですか?」
「そんなことないよ」
「本当ですか? 私がいなかったらしてましたよね?」
疑いの目でリックの顔を覗き込んでくるソフィアだった。リックはソフィアの目を見て顔を赤くして恥ずかしそうに口を開く。
「ソフィアが居なかったらって言うなら…… だったらさ」
「うん!? だったらなんですか?」
「ずっと俺と一緒に居ればいいじゃない? 俺達は相棒なんだしさ……」
「リック!」
目を見開いて驚いてすぐにほほ笑んだソフィアは、リックの体に腕を伸ばしてくる。
「ちょっとダメだよ。抱き着いたら危ないよ。ほら。それにミャンミャンの次の試合始まるし」
リックはソフィアを止めた。ソフィアは少し残念そうに、持ち場へと戻るのだった。
「ミャンミャンさんの次の対戦相手は誰なんですか?」
「えっと…… 次の対戦相手はと、あった! この人だね……」
リックは武闘大会の案内に目を落とす。ミャンミャンの二回戦の相手は、レッドイゼルタという名前だ。レッドイゼルタは王都で、貴族を詐称し、数々の女性を誘惑し、結婚の約束をして金品をだまし取った稀代の詐欺師。幻惑魔法と強力な攻撃魔法を得意する魔法使いだ。
また、レッドイゼルタは前回の武闘大会で、準優勝という優秀な成績だったため、一回戦はシードで今回はこの試合が初戦になる。しかも前回の大会も決勝で、棄権ということで実質レッドイゼルタは武闘大会で負けたことはないという。
「リック! ミャンミャンさんが出てきましたよ!」
ソフィアが声をあげる会場にミャンミャンが入って来たのだ。
「おぉ! ミャンミャン! 頑張れよー」
「ミャンミャンに声援が……」
ミャンミャンの前の試合がよかったのか、最初の試合で登場した時より、少し歓声が大きくなっていた。大きな歓声に驚いた表情をした、ミャンミャンはゆっくりと試合場の真ん中に立った。続いて対戦相手が入場する。
「キャー! イゼルタさまー!」
「イゼルターさまー! 大好きー!」
対戦相手が呼ばれただけで、ミャンミャンとは比較にならないほどの大歓声が起こた。軽快なリズムの音楽が鳴り響いて、ミャンミャンの対戦相手レッドイゼルタが、ゆっくりと試合会場に現れた。
レッドイゼルタはフード付きのマントで全身を覆っていた。
「「「「「「早くー顔を見せてーイゼルター!」」」」」
音楽に合わせて女性が声をそろえて叫ぶ。この試合の前までは、野太い男性の声しかなかった。レッドイゼルタがフードに手をかける、口、バラの花が咥えられているのが見える。
「お嬢さん達に言われたら…… 顔を見せないといけないね。はい!」
バサーと大げさにマントを外すレッドイゼルタ。ちなみに、レッドイゼルタはお嬢さんと言っているが、声援を送ってるのはほとんどが中年から老年の女性でいわゆるおばさんと言われる方々だ。
姿を現したのは短いサラサラの黒髪に、黒いキリッとした目をした鼻の高い、貴族のような服装を着たかっこいい男性だった。武器は魔法使いらしくちゃんと杖のような短い棒を持っている。リックはレッドイゼルタを見て、女性に人気なのが納得した、男のリックからも見てもレッドイゼルタは颯爽としてかっこいいのだ。
ミャンミャンはレッドイゼルタを見て思わず声をあげる。
「うわー。かっこいい人…… でも、私はリックさんの方が……」
「ふふ。ありがとう。でも、スパイダーテンが勝ち上がってくると思っていたのに。私の相手がこんなかわいいお嬢さんとはね」
「何よ! 私が相手だと悪いの!? さっ行くわよ!」
背中から鎌を出して構えるミャンミャン。リックは心配そうに彼女を見つめる。レッドイゼルタは詐欺師で魔法使い、何を仕掛けてくるかわからない。
「行くよ! お嬢さん!」
レッドイゼルタが杖をミャンミャンに向けた。杖の先から、燃え盛る火の玉が、飛び出しミャンミャンを襲う。
「危ない! 負けてられない! はぁ」
かろうじて飛び上がり、ミャンミャンは火の玉をかわした。彼女の手にも持つ鎌が、伸びて禍々しい形に変わる。
「はぁ! やりますね。お嬢さん!」
「私は優勝するんだから!」
ミャンミャンが着地してミャンミャンが駆け出す。彼女は一気にレッドイゼルタとの距離をつめて鎌で横から斬りつけた。ミャンミャンの鎌がレッドイゼルタを捕まえにいく。だが、すんでのところでレッドイゼルタは、足を引いて華麗に体をそらして鎌をかわした。
レッドイゼルタは後ろに飛んで距離を取ると片目をつむって杖をミャンミャンに向ける。杖から放たれた火の玉がミャンミャンを捉えた。彼女の鎌が火の玉の魔法を切り裂いた。
二人の一進一退の息詰まる戦いが続いて行く。だが、徐々にではあるがレッドイゼルタがミャンミャンを押し始めた。
「危ない!」
ミャンミャンはかろうじて魔法をかわした。だが、押されて始めたミャンミャンは壁際に追いつめられてしまった。ミャンミャンの少し離れたところまでゆっくりとレッドイゼルタが手を上げて近づいていく。
「はぁはぁ。なかなかやりますね。お嬢さん。だけど覚悟してください。次は私の最大の魔法! 標的落下彗星をお見舞いするよ」
「くっ……」
「はぁはぁ。ほら降参するなら今の内ですよ」
リックは魔法の名前を聞いてハッとする。標的落下彗星は勇者カズユキがシーサイドウォール砦で使おうとした魔法だ。標的落下彗星は最上級の炎魔法で、使用する人間によっては一発で町を消し飛ばせる。魔法に興味のなかったリックは知らないが、標的落下彗星は高威力の魔法として有名で、事実名前を聞いて会場はどよめきがおきていた。
「ふふ」
町長席にいるブリジットが、怖そうにして椅子の陰に隠れている姿がリックに見えた。その姿がかわいくてリックは思わず微笑む。
ミャンミャンはレッドイゼルタの顔をジッと見つめている。諦めてような鎌を下した……
「よーしいい子だ。さっ降参を宣言しなさい」
さっそうと左手を前に出し、レッドイゼルタがミャンミャンに降参を促す。もうここまでなのだろうか、悔しそうにミャンミャンが拳を震わせていた。
「やっぱりやめた! 私は降参しないわ! 最後まで戦う!」
ニヤッと笑ってミャンミャンは鎌を構えた。
「なっなに!?」
「いくわよ!」
ミャンミャンは降参しないとレッドイゼルタに宣言した。戦うことになれば標的落下彗星が放たれる。リックは心配そうにミャンミャンに視線を向け、その横でソフィアは冷静な表情で黙って試合を見つめている。
「ソフィア? 大丈夫かな。あんな大きな魔法を使われたらここが……」
「大丈夫ですよ。それに…… 多分ミャンミャンさんの勝ちですよ」
「えっ!? どうして?」
「だってレッドイゼルタさんはもうバテバテですよ」
ソフィアの指摘の通りだった、手を挙げて構えているレッドイゼルダは、顔は歪みどこか苦しそうだ。よくみると肩で息をしてるのが分かる。
「あれ? レッドイゼルタさんどうしたの?」
「はぁはぁ…… くそ! なんでもない」
「スキあり! えい!」
「しまった!」
ミャンミャンは懐に手を当てると、地面に何かを叩きつけると光が発せられる。リック達がカジノでくらった目くらましだ。急な光に視界を失ったレッドイゼルタは目を手で覆った。レッドイゼルタとの距離を一気につめた、ミャンミャンは連続して攻撃する。レッドイゼルタの動きは先ほどまで違い鈍い。
「やっぱり…… レッドイゼルタさんの魔力がもう無いんですね。ミャンミャンさん以外に別のところ魔力を消費してるみたいですね」
「えっ!? どういうことだ!?」
ソフィアが不思議そうに試合会場をみてつぶやいた。魔力がなければ魔法使いは戦えない。標的落下彗星もおそらくは放てないだろう。ミャンミャンは鎌で、レッドイゼルタを執拗に攻撃し、追い詰めていく。
「はぁはぁ」
レッドイゼルタは息が上がり苦しそうだ。これ以上は……
「もうダメ……」
ミャンミャンの鎌をかわした、レッドイゼルタが体から、力が抜けたように膝をついてしまった。
「なっなんだ……」
膝をついてゆっくりと仰向けになった、レッドイゼルタは白い光に包まれる。
「うそ!?」
光が収まるとそこには長い黒髪で胸が出た美しい女性が倒れていた。ミャンミャンは長く伸ばした、鎌の刃を彼女に突き付け、ゆっくりと女性の頭の横に立って見下ろしている。
「あなた…… 女だったのね」
「ふぅ…… バレちゃったわね。そうよ。私レッドイゼルタは女よ」
レッドイゼルタは女性だった。リックは目を見開き驚いて、会場はどよめきに包まれる。レッドイゼルタは笑ってミャンミャンを見つめている。
「はぁ、今までの対戦相手は標的落下彗星の名前をだせば降参したのに……」
「でも、あなた前回の武闘大会の時に負けたんじゃ?」
「あら!? 負けたとは失礼ね。棄権したのよ。だって、前回は一日で決勝まであったから、変身魔法を維持する魔力がなくなっただけよ。だから慌てて棄権したのよ」
「なんで!? そんなことを? 変身魔法をかけ続けたら魔力の消費が早いに決まってるじゃない。なのになんで?」
「だって、私レッドイゼルタは男装の詐欺師! 女の姿で勝つのは美学に反するのよ」
「はぁ……」
「負けたわ。降参よ!」
応援していた女性達から、悲鳴のような声援が聞こえた。ミャンミャンは女性たちに視線を向けた。
「あの人達も騙してるの?」
「いや…… 声援送ってくれる女性たちはほとんど私が女性だって知ってるわよ」
女性達はレッドイゼルタが、女性だって知っててあの声援で応援しているという。にやりと笑うレッドイゼルタに釣られてミャンミャンも笑うのだった。
ソフィアとリックはミャンミャンが勝ち上がりホッとした顔で互いに顔を見合せる。
「変身魔法って消耗激しいんだね」
「はい。性別や体形を偽るのは消費が激しいですね。顔は自分が変装がうまければ魔法もイメージが作りやすくて消費が低いです」
「なるほどね……」
ミャンミャンは降参を宣言した、レッドイゼルタに手をだす。レッドイゼルタはミャンミャンの手をつかんで立ち上がった。レッドイゼルタはミャンミャンの前に立つと感心した様子で彼女に声をかける。
「あなたの名前ミャンミャンだっけ? あなたよく私が標的落下彗星をうてないってわかったわね!」
「わかった訳じゃないよ。でも、降参を要求するってことは戦闘を終わらせたいってことかなって思っただけよ。まぁ私の師匠がどんなに信頼してる人の言うことでも必ず疑問を持てって言ってたからね」
「はぁ…… また、あたらしい強大な魔法の名前を仕入れないといけないわね」
「そうですね! でも、もう私には通用しませんよ!」
「大丈夫よ」
「えっ!?」
「だって、あなたは優勝して次の大会にはでないでしょ?」
「えっ!? …… はい!」
笑顔でミャンミャンはレッドイゼルタと握手をする。勝者ミャンミャンと審判の声が響きわたり大きな歓声が上がった。これでミャンミャンは一日目の試合は終わりだ。無事に勝ち残った彼女は恩赦へと近づいた。ミャンミャンの釈放をかけた武闘大会は二日目へと続いていく。