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第107話 牢獄の町ローズガーデン

 翌朝、リック達は詰め所に出勤し挨拶をすませると、すぐに牢獄の町ローズガーデンへ出発する。

 リックとソフィアが荷物を持って詰め所の前に立つ。カルロスとイーノフとメリッサは、詰め所の扉の脇に立って見送る。


「それじゃあ。お前さん達よろしくな」

「はーい。がんばりましょうね。リック」

「うん」

「お土産は牢獄プリンね!」

「メリッサ…… もうだめだよ。二人は任務で行くんだから!」

「フフ、牢獄プリンってわかってますね。メリッサさん。私にお任せください。それと他にも……」


 ソフィアが自信満々にうなずきさらにメリッサと話を始めた。彼女はローズガーデンの地理や内政などには、詳しくないが町の名産だけは頭に入っているようだ。

 グラント王国の犯罪者が収監される、牢獄の町ローズガーデンはリック達がいる王都グラディアの南西にある。内部は普通の町のようになっていて、囚人は部屋を与えられて生活している。囚人は武器を没収されて封印で、魔法や能力を制御されて奉仕作業に従事している。

 常に町は兵士に監視され出入りは制限されている。ただし、町の内部では夜間外出の禁止と決められた奉仕作業が、ある以外は普通の町にいる時と変わらない生活を囚人は送っている。ちなみに牢獄プリンは二十年くらい前に、収監されてる菓子職人が奉仕作業で作ったプリンで、今ではローズガーデンの名産となってる。


「ほら。そろそろ行くよ。ソフィア」

「はーい」


 メリッサと土産の話しを続けていたソフィアに声をかける。ソフィアが振り向いてリックに返事をする。リックとソフィアはほぼ同時に、ポケットから青い球体をした魔法道具のテレポートボールを取り出して握りしめた。


「ローズガーデン!」


 リック達は白い光に包まれ、その光が消えると赤い土と、岩がころがる荒野の街道に着いた。


「ここがローズガーデンか、なんかさみしいところだな……」


 ソフィアがキョロキョロと周囲を見ながらリックの元へとやって来た。街道の先に大きな壁と門が見えている。


「あれがローズガーデンみたいだね」

「そうですね。行きましょう」


 ローズガーデンは大地の裂け目と言われる、大きく深い亀裂に囲まれていて町だけが、荒野の中に浮かんでいるような姿をしている。町への出入りは亀裂の幅の一番狭いところに掛けられた橋一つだけになっている。

 橋の前に立っているリック達と、色違いの緑色の制服の兵士二人に挨拶をすると、町長にまずあってほしいのことで兵士の一人が案内してくれることなった。

 囚人のみで一般市民はいない牢獄の町では、町長は王都から派遣された行政官が代行してるらしい。自由をある程度認められている町だが、さすがに囚人に運営まではさせることはない。


「リック! 見てください。下が真っ暗で見えません」

「うわぁぁ。ほんとだ真っ暗だね」


 手すりの着いた石でできた大きな橋を渡っていると、ソフィアが手すりの上から亀裂の様子を覗き込んだのでリックも同じようにしてみる。ソフィアが下に向けて手を伸ばす。


「吸い込まれそうですよ。面白いです」

「あっ! もう危ないよ!」


 慌ててリックはソフィアが、落ちないように彼女の肩を掴んで支える。


「あっ! ソフィア…… 早く行こう」

 

 リックはソフィアの手を取ってすぐに橋を渡り始めた。


「まだ見たいです!」

「ダーメ」


 案内をしてくれている兵士が、リック達の方を振り返って見て笑っていた。


「(絶対俺達を子供っぽいって思われてるよ…… 恥ずかしいな)」


 リックは頬を赤くてソフィアと一緒に橋を渡るのだった。橋を渡り門を開けてもらって、中に入る二十二メートルくらい先にまた壁がある。ローズガーデンは二重の壁になっているのだ。兵士によると壁と壁の間には、結界が貼られていて囚人が、入るとしびれて動けなくなるらしい。

 壁の向こうは町だ。町長は町を超えた先にある城にいる。当然、城に行くには町を突き抜けた方が早いのだが、町長の許可がないと町は兵士でも歩けないという。リック達は内側の壁をつたって城に向かうのだった。壁と白はつながっており三階部分から城へ入った。石造りの城は質素で装飾などもなかった。


「こちらです。じゃあ、私は門に戻ります」

「ありがとうございました」


 町長室の前までくると兵士は戻っていった。リックは町長室へ入るために扉をノックする。


「はーいどうぞ!」


 小さい女の子のような声が部屋からした。リックとソフィアは扉を開けて中へ入った。町長室は広く手前には応接用のテーブルと椅子があり。大きな窓の前に立派な黒塗りの木の机がある。壁には歴代の町長だろうか人物画が飾られていた。

 リック達は奥の机の前に立った。座っていた町長がこちらに顔を向けた。


「第四防衛隊、リック、ソフィア、武闘大会警備に着任しました」

「いらっしゃい。私がこの町の町長ブリジット・インテジニアよ」


 ローズガーデンの町長はブリジットという女性だ。紫の髪を後ろで結わえて、背は小さいが颯爽と防衛隊の制服に身を包んだ姿は、凛々しく右手には棒状のしなるムチを持っている。また、目つきが鋭く目の上の赤く塗られたメイクが怖く映り、顎が細く顔つきが全体的にキツイ印象である。ただ、声は小さい女の子のように甲高くかわいらしい感じだった。握手をして挨拶をすると、ソフィアがカルロスからの書類を提出する。


「リック。ブリジットさんは私達と同じ防衛隊の制服を着てますよ!?」

「あっ!? ソフィア失礼だよ。すいません」

「えぇ。いいんですよ。兵士の制服を町長が着てるほうが珍しいですからね。でも…… この格好の方が舐められませんから…… 囚人とそれにあの人にね……」


 ブリジットは背筋を伸ばし、リック達に鞭の先端を向けた。囚人に舐められないためと言われ納得するリック、背が低くメリッサのような威圧感がないブリジットでは、制服を着て威厳をだす必要があるからだ。


「なんかかっこいいです」

「あら!? そう? ありがとう!」


 ソフィアがかっこいいというと、ブリジットは子供のように無邪気に笑うのだった。すぐにブリジットが座ったまま、ソフィアが渡した書類を持ち鋭い目で中身を確認する。

 しばらくして書類を読み終わったブリジットは、顔を上げリック達の方を見てゆっくりとしゃべりだす。


「えっと…… 武闘大会は五日後に開幕して大会は三日間の予定です。場所は町の外にある闘技場で、ソフィアさんとリックさんには闘技場の警備を担当していただきます」

「はい」

「宿舎はこのお城の二階に兵士の宿舎がありますのでご自由にお使いください」

「ありがとうございます」


 書類にまた視線を送ったブリジットが、目を見開いて驚いた表情に変わった。


「あっあと! これ…… いいんですか? カルロス隊長様からの申請だとお二人は同じ部屋で……」

「えっ!?」

「はい。リックと一緒で大丈夫です」

「ソフィア!? ちょっと……」


 リックが返答するようりも早く、当たり前のように一緒の部屋で構わないと、答えるソフィアだった。心なしかリックにはブリジットが冷たい目線を彼ら送ってる気がするのだった。


「わかりました。あの囚人の手前夜は静かにしてくださいね……」

「はい。おとなしく一緒に寝ます」

「はぁ…… 一緒って恥ずかしげもなく…… 最近の若い子は大胆ねぇ」

「いやいや! ソフィア! なんか誤解されそうな答えはやめて!」


 慌てるリックに首をかしげるソフィアだった。二人の様子を見てブリジットは笑っていた。


「えっ!?」


 バンという音がして町長室の扉が開き男が中へ入ってきた。男はリック達とライトアーマーをつけ、色違いの緑の防衛隊の制服を着ていた。顔は茶色い瞳の丸い目に、口髭をたずさえ頭髪は薄かった。男は入るなり、ブリジットの前にいるリック達を怒鳴りつけた。


「おい! お前たち!? 何を勝手なことをしてるんだ? 先ずは私に挨拶にこい!」

「ズワロフ隊長!? 町長室に来ていきなりどなつけるとはどういうことかしら?」

「うるさい。こいつら防衛隊の増援だろ? ならまず私に……」

「ここローズガーデンの防衛隊は町長の指揮下ですと、説明しましたよね?」

「町長は黙ってくれないか? お前たちいいか?! この後すぐに私のところに来い!」


 急に言い争いを始めた、二人に圧倒されリックとソフィアは、黙って聞いていた。ズワロフと言われた男はリック達に、自分の部屋に来るように伝え出て行った。


「ブリジットさん? あの人は?」

「申し訳ありません。ローズガーデンの防衛隊の隊長ズワロフよ」

「えっ!? あの人がここの隊長なんですか?」

「そうよ」

「じゃあ、なんであんな? いきなり……」

「ここローズガーデンが防衛隊より町長の方が権限が大きいのが気に入らないのよ」

「権限って!? いったい?」

「昔の話なんだけどね。ここで防衛隊による囚人への虐待があったのよ」


 ブリジットの話によると、以前はこの町は防衛隊の管轄で、町長は飾りに近く運営はほとんど防衛隊が担っていた。だが、今から五年前にズワロフの前の隊長が中心になって行われた囚人虐待が発覚した。虐待の内容は女性の尊厳を踏みにじり、男には暴行を加え死人をだすような凄惨なものだったらしい。それが王都に密告されて事実が公になり、前任の隊長は終身刑となり、この町の地下の最深部にある牢獄に投獄されている。話を聞いたリックが思わず声をあげる。


「ひどいですね」

「えぇ。私も資料を読んで吐き気がしたわ……」


 話を続けるブリジット、囚人虐待事件の後、国民からの信頼を取り戻すべく、ローズガーデンの改革の為に王都からブリジットが派遣されて行政官の権限を強化した。兵士は全て入れ替えられ、町のことを決めるには、全て町長の許可が必要になった。また、町長が暴走しないように、抜き打ちで王都から審問官が来て監査も実施されているいう。

 権限をはく奪された防衛隊の隊長が、この町でできることは、外部から魔物が襲ってきたときの対策のみだという。兵士でさえも町長の許可がないと町に行けないのは虐待事件の影響だった。


「ズワロフは防衛隊の失った権限を取り戻そうとしてるみたいだけどね」

「権限を!? なぜ?」

「表向きは防衛隊の威信のため…… おそらくは目的はここの利権。前任の隊長がかなりおいしい思いをしたのを知ってるみたいだしね」

「えっ!?」

「あぁ。ごめんなさい。あなた達には関係ないわね。でも、ここは囚人に自由が認められているの。だから心が強くないとすぐに染まるのよ。覚えておいて」


 にっこりと微笑むブリジット、その目はリック達を見定めるように冷たく冷静だった。リックは彼女の言葉を受け止めて真顔でうなずくのだった。ブリジットは話を続ける。


「いい? ズワロフはあなた達に何かを言ってくるかもしれないけど注意してね」

「はい。わかりました」


 返事をしたリック達に、ブリジットはにこやかに微笑んだ。


「じゃあ、さっそく任務を言いたいところだけど…… 今からズワロフに会いに行って戻って来てちょうだい。さっきの様子だと行かないとうるさそうだしね。ズワロフの部屋はここの一つ下のよ」


 ローズガーデンも複雑事情があるようでリックは険しい表情になる。ソフィアはそんなリックを不安そうに見つめるのだった。二人の様子を見たブリジットが声をかける。


「そんな心配しなくて大丈夫よ。あなた達をローズガーデンの争いにかかわらせることはないから…… 与えられた任務をこなして王都に無事に帰ってちょうだいね」

「「はい」」


 ブリジッドの言葉に、少しだけ表情を明るくした二人は、町長室を出て一階下にあるズワロフの部屋へと向かった。

 町長室と比べるとズワロフの部屋は狭くこぢんまりとしている。机に座るズワロフに挨拶をすると、リック達を一瞥して不満そうに話し始める。


「どうせあの女は私のことをろくでなしとでも言っていただろう?」

「いえ! 特に聞いておりません」

「フン…… さっそくだが自分たちで勝手なことせずに私の命令を聞くように!」


 偉そうに椅子にふんぞり返った、ズワロフはリック達に高圧的に接してくる。だが、ズワロフの言葉に、ソフィアはカルロスからの指令書を取り出して見ながら彼に指令書をみせる。


「あっあのズワロフさん…… 私達は指令書によると町長さんに指揮権があるみたいです」

「はぁ!? 貴様! 何を言ってるか? 私がここの防衛隊の隊長だぞ!?」

「でも、ここに書いてあります。第四防衛隊の増援は町長の指揮権があると」

「くそ! 誰だ? こんなの認めたやつは! クソ!」


 ソフィアから指令書を奪いとった、ズワロフは不満そうに叫ぶのだった。指令書を机に叩きつけるようにしてソフィアに戻し、椅子に深く腰掛けて腕を組むズワロフだった。


「フン、まぁいい。お前たちはどうせ武闘大会の間しかいなんだから、おとなしくしてろよ!」

「はぁ…… じゃあ俺達はこれで」


 部屋を出て行こうと扉に向かってリックが手を伸ばす。


「待て! そこのエルフの女!」

「私ですか?」


 ソフィアを呼びつけるズワロフ、彼女は振り返りズワロフの机の前に戻る。ズワロフは立ち上がり机の前に出てきて、いやらしい顔つきで、ゆっくりと舐めるようにソフィアを下から上まで見ていた。リックはなんとなく嫌な予感がしたので、ソフィアのそばから離れず後ろにたっていた。


「お前は良い体してるな。よし! 私の夜の相手でもして…… グフ!」

「こいつ!」


 リックは素早くソフィアの前にでて、ズワロフを思いっきり殴りつけた。ズワロフは殴られて勢いよく倒れた。さらにリック倒れたズワロフの胸ぐらをつかんで無理矢理に立ち上がらせた。


「おい。ズワロフ!」

「グっ!! きっ貴様あ!」


 胸ぐらをつかんで締め上げ持ち上げるリック、ズワロフは苦しそうにリックを睨む。慌ててソフィアがリックを止める。


「リック! ダメですよ!」

「おい! 聞いてるのか? お前ソフィアに何て言った? 許さないぞ」

「貴様…… 上官に手を挙げてタダで済むと思うなよ! グフ!」

「リックは優しいですね。こんないやらしい人にはちゃんと鋭角にこうえぐりこむように打つんですよ!」

「あっ! ちょっとダメ!」


 グチャっという、何かがめり込む音が部屋に響き、リックの足元に血がたれていく。


「ぐへえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!」


 綺麗にソフィアの右ストレートがズワロフの顔にヒットしズワロフが悲鳴のような喚き声をあげる。攻撃が苦手なリックと違い、ソフィアのパンチ鋭く腰が入っていた。


「(すごいな。どこでそんなこと覚えたの? あっ…… メリッサさんかな…… きっと、多分、絶対……)」


 口の脇から血を流すズワロフ、リックは投げ捨てるように彼から手を離す。机に背中をうってそうようにして、座り込むズワロフだった。


「きっ貴様、上官に暴力行為を働いたな! 逮捕だ!!!」


 ズワロフは顔をあげ、リックとソフィアを怒鳴りつける。黙ってリックは剣を抜き、ズワロフの喉に突きつけた。


「ひっ! 貴様! どういうつもりだ!!」

「どうぞ! 誰が暴力行為を証明するんだ?」

「はぁ!? 私が実際……」


 自分を指さしたズワロフに、リックはニヤリを笑ってソフィアの方を向く。


「ソフィア、ズワロフさんは転んだんだよね?」

「はい! 転びました。ズワロフさんはおドジですね」

「貴様らぁ! そんなのが通用するとでも思ってるのか!?」

「証言は二対一だぞ? だったら試してみようぜ。それにさっきのソフィアへの発言の方が逆に問題じゃないのかい? ズワロフさーん? ここの防衛隊は過去に問題があったみたいですねぇ?」

「きっ貴様! 上官を脅すつもりか!? このろくでなしが!」

「お前に言われたくねえよ。それに死ねばお前の証言も無くなるしな!」


 剣に徐々に力を込めて押し込んでいく。さすがにリックは、ズワロフ殺すつもりはない、あくまで脅かすだけのつもりだ。ズワロフはリックが本気と思ったのか段々と恐怖におびえた顔になっていく。


「わかった! 私は転んだ。自分で転んだ!」

「よし!」


 リックは剣をズワロフの喉元からはなした。ホッとした表情をしてズワロフは、立ち上がると鼻血をだしながら、リック達を睨みつけた。


「もう…… 貴様らは早くでていけ!」

「心配しなくてもでていくよ。じゃあな」


 ソフィアが部屋の扉をあけてリックを待っていた。リックは扉の前で、立ち止まって振り返り、ズワロフに手を振った。


「転んだ怪我はお大事にね」

「足元に気を付けるです」

「うるさい!!」


 悔しそうにリック達に叫ぶズワロフに優しく微笑むリックとソフィアだった。二人はズワロフの部屋を出ると、ブリジットの部屋へと戻り、ズワロフの部屋であったことを簡単に説明しておいた。彼女はやりすぎだと、二人に注意をしたが、それ以外に特にお咎めはなかった。

 リック達にはブリジットから、大会が終わるまで、闘技場の警備の仕事を与えられた。今日は町になれるために周辺を歩いて巡回するように指示があった。

 リック達は町から出て闘技場に続く街道を歩いていた、町と闘技場の間には小さい柵に囲まれた畑が広がっている。この畑は町で消費する野菜を育ており、囚人たちが世話をしている。


「あれは……」


 畑作業をしている中に見覚えにある顔を見つけたリック。


「やっぱり…… ミャンミャン」


 畑仕事する囚人の中にミャンミャンがいた。彼女はしゃがんで一生懸命に芋の収穫作業をしていた。ミャンミャンは普段の格好と違って革のズボンにシャツという地味な格好だった。リックは策の外から彼女に声をかける。


「ミャンミャン!」

「リックさん! ソフィアさん! どうしたんですか?」


 立ち上がったミャンミャンは振り向いて驚いた顔をした。囚人生活で顔や体に変わった様子はなく元気そうだ。ミャンミャンは周囲をうかがうとリックが居る柵の近くまでかけてきた。


「大丈夫?」


 柵越しにリックが声をかけると、ミャンミャンは笑顔でうなずく。


「はい。大丈夫です。タンタンと二人でなんとかやってます。リックさんはどうして?」

「あぁ、俺達は武闘大会の警備の増援に来たんだ」

「武闘大会って?」

「あれ? ミャンミャン知らないの?」

「こら! そこ! 何を話している」

「すいませーん! すぐに戻ります。ごめんなさい。リックさん、私作業中なんで…… 夜に部屋に来てください」

「あっ!? ごめんね。ミャンミャン! また後で」


 リック達と話し込んでいると、見回りの兵士がミャンミャンを注意し、彼女は作業に戻っていった。


「ミャンミャンさん達とお話はできないですね」

「しょうがないよ。今は作業中みたいだからね。後でミャンミャンの部屋を訪ねてみよう」


 夕方、勤務が終わったリック達は、ミャンミャン達が収監されてるローズガーデンの町へ向かう。ローズガーデンは石造りの大きな建物が多い町で、昼間は通りの脇で囚人が店を開いたりして、にぎやかだが夕方になると囚人は夜間外出禁止のため静かになる。

 五階建てで石造りの特に装飾もない殺風景な建物がある。この建物一つには二十部屋ほどある。リックとソフィアが入り口の扉を入ると長い廊下があり、その廊下には囚人部屋の鉄製で部屋番号の上に、小窓がついた冷たい扉が並んでいた。ここはローズガーデンの中でも罪が、比較的軽い人間が集まっている建物の一つだ。


「えっと、確かミャンミャンが収監されている部屋は四零四号…… あった! ここだ」


 ミャンミャンが習慣されているのは、建物の四零四号室、鉄製の扉に数字が彫られている。ノックをして小窓が開くと、ミャンミャンが顔をだす。


「あっ! リックさん、ソフィアさん。昼間はすいませんでした」

「ミャンミャンさんは大丈夫でしたか? 兵士さんに怒られてませんでしたか?」

「大丈夫ですよ」

「二人共とりあえず中で話そうか。開けるよ!」

「はい」


 リックは借りた鍵で扉を開け、ソフィアと二人で部屋の中に入った。


「あっ! リックおにーちゃんにソフィアおねえちゃんこんにちは」


 中に入ってミャンミャンに通され、奥に進むとタンタンがいてリック達を笑顔で迎えてくれた。玄関から奥に進むと広いリビングがありテーブルとイスが置いてあり、部屋はリビングの他に二つの寝室にがあって、さらにトイレとお風呂までついてるらしい。


「このお部屋ねぇ、いつものお家より広いんだよ。ベッドもフカフカなんだ」

「ほんとよね。私達が住んでるギルドのお部屋はもっと狭いもんね」

「狭い原因はお姉ちゃんが片付けないから……」

「こらタンタン!」


 タンタンの口をミャンミャンが手で押さえつけている。タンタンも姉に軽口が叩けるくらいなので元気なようだ。


「(でも、ほんと囚人用の部屋だからもう少し殺風景かと思ったけど、明るいランプもついて明るいしいい部屋だよな。多分…… 俺達が使ってるローズガーデンの宿舎よりもいい部屋…… まっいいや)」


 部屋を見渡して自分達が借りている部屋よりも立派なことに少し嫉妬するリックだった。テーブルについて四人で話を始めた。リックは昼間あった時にミャンミャンが武闘大会のことを知らなかった様子なのでまずはそれを伝える。

 リックはミャンミャンのために恩赦が与えられるように手配したこと、その恩赦によって行われる武闘大会に優勝すれば、釈放されるとことをミャンミャンに伝える。ミャンミャンとタンタンは少し驚いた様子でリックの顔を見ている。


「でも、なんで私の為に恩赦なんて?」

「ミャンミャンの友達の結婚式があるんだろ?」

「あっ! ココに聞いたんですね!? もう余計なことを……」

「まぁそういうなよ。一か月後なんだろ? 刑期は半年だから、間に合わないだろ? だから恩赦の申請をしたんだ」


 結婚式の話を聞いた、ミャンミャンはうつむいて暗い顔をした。


「あの…… 私、ちゃんと罪を償うから結婚式には出ないって、ココにいいましたよ? なのになんで? 恩赦なんて?」

「ココがミャンミャンを結婚式に出席させてあげたいって詰め所で泣いてね。だから俺の友達に頼んで恩赦を申請してもらったんだよ」

「そうですか…… ココが…… ありがとう……」


 笑顔になったミャンミャンが、涙をこぼして手で拭っている。


「どうしたの? ミャンミャン大丈夫?」

「はい大丈夫です。リックさん、ソフィアさん、ありがとうございます。私、絶対に武闘大会で優勝して恩赦を勝ち取りますね!」


 笑顔で答えたミャンミャンの目から大きな涙がこぼれるのだった。リックとソフィアはミャンミャンの様子を見て嬉しそうに笑うのだった。リックとソフィアは翌日から闘技場の警備についた。

 そして五日後…… いよいよ恩赦をかけた武闘大会が始まるのであった。

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