第105話 勇者との約束
翌日、リックとソフィアはアイリスに会いに行くために朝早めに詰め所に出勤した。詰め所には既にカルロスが来ていた。やってきたリックとソフィアを見て嬉しそうに声をかける。
「おはよう。ソフィア、リック。アイリスのところに行って恩赦申請書にサインをもらってきてくれ。頼むぞ」
「わかりました。行こうソフィア」
「はーい」
「リック、ソフィア。お前さんたちは友好関係にあるとはいえ他国に行くんだからな。グラント王国とは違うんだから注意するんだぞ」
「「はい」」
心配そうにしてカルロスに向かって返事をするリックとソフィアだった。リックはミャンミャンとタンタン、それにココのために必ずアイリスからサインを貰って来ると力強く誓うのだった。
「リック。こっちですよ。並んでください」
詰め所から出たリック、ソフィアに促されて彼女の横に並ぶ。
「リック。私から離れないでくださいね」
「うん。わかったよ」
リックに向かって出してきた、ソフィアの右手を彼は力強く握った。微笑んだソフィアは手をつないでない、左手を空に向けて呪文を唱えて始める。すぐに二人は、ソフィアの左手から発せられた白い光に、包まれて体が宙に浮かび上がっていく。あっという間に城壁よりも遥かに高く浮かび上がって詰め所がすごく小さくなっていく。転送魔法初体験のリックは、光に包まれるのはテレポートボールと同じだが、体が浮かぶとは思わずに驚くのだった。
「大丈夫ですよ。私の魔法を信じてください」
「うん」
リックの手を強く握って微笑むソフィアだった。いつもの彼女の笑顔にリックの緊張はすぐに消えた。
「うわ!?」
二人の体が猛スピードで前に進んでいた。周りの景色の移動が速くて何が映っているのか認識できない。一分もしないうちに景色は止まった。
「つきましたよ。ここがリンガード国の港町シュプリスです」
「えっ!? もっもう……」
「はい」
ソフィアの言葉に驚くリック。二人は穏やかな、海の近くの街道に立っていた。周囲を見渡すリック、グラント王国と景色はさほど変わらないけが、外国だと思うとちょっとだけ彼の心がワクワクする。
「うわぁ、俺はグラント王国からでるの初めてだ」
「私は小さい頃に両親と一緒にリンガード国に来てます」
「へぇ。そうなんだ」
街道の先には白く塗られた壁に、オレンジ色の屋根の町が並んでいた。リック達が居る場所から見える港には、船がいくつも並んでいるのがわかった。同じ港町なせいか、アイリスを見送った、ルプアナと雰囲気が似てる気がした。ルプアナより町と港の規模は小さい。
「リック。急ぎましょう!」
「あっ! そうだった」
リックはソフィアに急かされ、アイリスを探しを始める。二人はシュプリスの近くに行くと、門番の兵隊から声をかけられる。リンガード国の兵士の格好はグラント王国と違って、革製で軽そうな防具に大きな曲刀とターバンをかぶっている。
なお、グラント王国とリンガードは友好関係にあるので、グラント王国の紋章入りの書類を見せれば、町の出入りの許可は簡単に下りる。町に入るとすぐに大通りがあってその両端を店が並んでいる。港まではこの通りをまっすぐ行くと広場があってそこから港まで降りる階段がある。
「もう…… ソフィア! お店のお菓子に見とれてないで行くよ。この任務が終わったらにしようよ」
「はっ!? わかってます」
菓子屋の屋台の前で立ち止まっていた、ソフィアは顔を真っ赤にして前を向いて歩き出すのだった。港に付いた二人はすぐにグラントフローレンス号が係留されている桟橋へ向かう。グラントフローレンス号を見つけるのはたやすい、なぜなら船の先頭には紐でつなげられたクラーケンのタカクラ君が居るからだ。
「でも、いいのかな? タカクラ君も含めると、グラントフローレンス号が他の船の倍くらい長さ占領してるけど……」
グラントフローレンス号を見ながらリックはつぶやく。桟橋の中ほどに、グラントフローレンス号と桟橋をつなぐ、タラップが置かれている。タラップの先の船の入口にキラ君が立って番人をしている。リック達が近づくとキラ君は嬉しそうに足をその場でバタバタしている。
「やぁ。こんにちは。キラ君」
「キラ君さん。こんにちはです」
リック達はキラ君に通されて船に乗り込んでいった。
「えっと…… アイリスはどこにいるんだろう。甲板にはいないみたいだし…… あっ!」
船の中に入るドアの前にスラムンが居るのが見えた。二人はスラムンに向かって行き挨拶をする。
「こんにちは、スラムン」
「おぉ! ソフィアとリックズラ! おら達に会いに来るとは珍しいズラね。どうしたズラ?」
「ちょっとアイリスに用事があって」
「分かったズラよ。オラが呼んでくるズラ。アイリスー。リックとソフィアが来たズラよ」
リックの挨拶に答えるように、その場でピョンピョンと跳ねたスラムンは、船の中に向かっていってしまった。
スラムンはアイリスの仲間のスライムだ。三十年の長い間、野良の魔物として生き抜いたスラムンはトリッキーな動きと魔法を使う頼りになるパーティリーダーだ。他にも身体能力が高く忠実な戦士の殺人死体のキラ君と、船を引っ張る役目を担いタカタカと鳴いてご飯を食べるクラーケンの通称タカクラ君がアイリス仲間だ。
船室のドアが少し開いて緑の先端が巻かれた特徴的な髪で、プニッとしたほっぺたのアイリスが顔を出した。リックを見るとすぐに笑顔になって、扉を開けて駆け寄ってきた。
「リックーーーー! どうしたの? 私に会いに来てくれたの? うれしい! さっ! 船室に二人で!」
パタパタと甲板の上を走り、リックに飛びつこうとするアイリス。だが、すぐにアイリスの前にソフィアが、手を広げて立ちふさがる。
「こんにちはアイリス。私もいますよ」
「チッ!? ははっ…… ソフィアもいらっしゃい。スラムーン。ソフィアの相手をしといて。私とリックは下で…… しっぽりとしてくるから!」
ソフィアをかわしてリックの手を掴もうとする。だが、すぐに振り返ってアイリスの首根っこを掴むソフィアだった。
「ダメですよ。離れてください」
「なによ! だいたいここはグラント王国じゃないんだからね。あんたの好き勝手にはさせないわよ!」
「痛い! このです!」
「いったーい! なにすんのよ!」
会ってそうそうにつかみ合いの喧嘩をし始めたアイリスとソフィア。アイリスはソフィアの髪を引っ張り、ソフィアはお返しに本気でアイリスをびんたする。慌ててリックは二人を止める。
「やめろ! アイリス。ほらソフィアも落ち着いて」
「はぁはぁ! なんで!? 私じゃなくてソフィアの方をかばうのよ」
「とめないでください。リック!」
リックはソフィアの前に立って、アイリスに平手打ちしようとする、彼女の手を掴んで肩を抱いて頭をなでる。
「はい、ソフィア落ち着いて!」
「もっとです」
「ちょっと! あんた達! いい加減にしなさいよ!」
大人しくソフィアは俺の胸に頭をうずめて、彼女は潤んだ瞳だけ上に向け、リックを見つめている。
「大丈夫? 落ち着いた?」
銀色の綺麗な髪を撫でてほほ笑みかけると、ソフィアはうなずいて少しずつ大人しくなっていく。アイリスはリック達の方を向いて不満げな顔をしてる。
「けっ! というか何しに来たのよ? まさか人の船に来て喧嘩やイチャつきに来たの? そんなにイチャイチャしてると海にたたき落とすわよ!」
「怖いこというなよ。実はアイリスに頼みがあるんだ」
「頼みって!? リックが!? なーに?」
「友人が投獄されて助けたいんだ。それで、アイリスに恩赦を申請してもらいたんだ」
「えっ!? 恩赦を私が?」
「俺達の知り合いで、恩赦を申請できるのはアイリスのだけなんだよ。頼む!」
リックはアイリスの両肩をつかんで頭を下げる。アイリスは頬を赤くして動揺しながら尋ねる。
「きゅっ急に言われても…… でも、なんで恩赦が必要なのよ?」
「そっそれが……」
リックはアイリスに事情を説明した。アイリスにミャンミャン達の事情を伝える。最少はうんうんとうなずいて聞いていたアイリスだったが、ミャンミャンが女性と分かると、不満そうに口を尖らせていく。
「どうした?」
「別にぃ。私以外の女の為にリックが苦労してるの!? はぁ……」
「なっなんだよ! いいだろう。ミャンミャンは友達なんだから!」
「友達ねぇ…… どうだか!?」
目を細めて疑った顔をするアイリスだった。リックは疑われて少し不服そうにする。彼の中でミャンミャンとはただの友達だが、アイリスとは違うのだ……
「ミャンミャンとはただの友達だ。俺達はいい友達で幼馴染だろ? だから頼むよ」
「キッ!」
「なんで? にらむんだよ! 俺達はいい友達だろ。幼馴染だろ。違うのか? ちょっとショックだな。俺達ずっといい友達でいれると思ったのに……」
必死にアイリスとはいい友達だと熱弁するリックだった。リックにとってアイリスは、ただの友達でなく幼馴染で大事な友達なのだ。アイリスは友達と連呼されて口をますますとがらせ不満そうにそっぽを向いた。
「もう知らない! 恩赦なんか絶対にしない」
「えっ!? おい! 何でだよ!? アイリス」
「ツーンだ!」
そっぽを向いたまま腕を組むアイリス。リックはどうしたらいいかわからず困った様子でアイリスを見ていた。
「リック。ちょっと……」
「うん? なにソフィア?」
「あの……」
ソフィアがリックの耳元でなにやらささやき。話を聞いたリックは驚いた顔をした。
「えっ!? そんなんで? 無理じゃない?」
「大丈夫ですよ」
首をかしげるリックに、ソフィアは自信ありげに笑顔で大丈夫とうなずく。アイリスを説得する案をソフィアはリックに伝えのだ。リックはソフィアの言葉を信じて彼女の案に乗ることにした。
「なんで? またソフィアとくっついてるのよ? もう絶対に恩赦なんかしないんだから!」
「ごめん…… 俺の大事なアイリスにこんなこと言うなんて…… 俺…… 最低だな」
「えっ!? なに? 今なんて? 俺のって?」
「あぁ。俺の大事なアイリスにひどいことしたなって…… だからもう俺のいうことなんか聞いてくれないよな?」
悲しそうにリックは、アイリスの顔を見る。リックはアイリスと目が合った瞬間に、満面の笑みを浮かべた。アイリスが嬉しそうに頬を赤くして、手を前で組んでクネクネと動き始めたのだ。リックの言葉で、大事なの後には友達のと入るが省略している。それがソフィアが彼に託した案だった。
「(うまくいくのか…… これで? でも…… ソフィアの方を見ると笑顔で頷いている。どうやらソフィアの計画どおりにうまくいってるみたいだし…… ほんとかな?」
心配そうなリックの横で、ソフィアは何かを確信した顔をしていた。
「俺のアイリスなんて…… 今夜はきっと二人は…… キャー! やだーもう! 新しい下着あったかしら!?」
何かを妄想して、両手を頬におきアイリスは、顔を真っ赤にしている。
「今ですよ」
「あぁ。」
ソフィアの合図にうなずくリック。彼女の案はここで諦めて帰るのだ。リックは悲しそうな顔を作り、寂しそうにアイリスにつぶやく。
「じゃあアイリス。ごめんね。俺達は帰るよ」
「えっ!? ちょっとまって! リックにはずっとお世話になってるし…… いいわよ恩赦を申請してあげる」
「ほんとか? いいの! ありがとうアイリス!」
アイリスに礼を言うリックはソフィアの方を見た。拳を握ってリックに見せるソフィア、彼女の思わぬ策士ぶりにリックはソフィアを見直すのだった。
「よし! そうと決まれば、早く恩赦申請書にサインを書いて…… なんだ!? どうしたんだよ?」
アイリスはにやけた表情で、リックを下から舐めるようにみてる。
「ただーし! リックが私のお願いを一つなんでも聞いてくれたらね?」
「はぁ? なんでそうなるんだよ?」
「そうですよ。ずるいです!」
「うるさいわよ。ソフィア! ならいいのよ。私は別に恩赦はなしでもいいし? うーん?」
勝ち誇った顔でソフィアに詰め寄るアイリス。ソフィアが悔しそうな表情をしていた。さすがは、魔物のスラムンがあきれる下衆勇者、簡単にはいかない。
「脅すようなことして! 勇者のくせに最低ズラ!」
「うるさいわね。スラムンは黙ってて! ここでソフィアとの差を一気に詰めるのよ」
「私と差を詰める!?」
驚くソフィアにリックは首をかしげる。リックの中で、友達としての差は幼馴染の分だけアイリスの方が有利だ。だが、すでにソフィアは相棒でリックにとって大事な人となっている。差はおそらく縮まることはないだろう。心配そうにソフィアがリックを見つめる。リックは笑顔で微笑む、ここでアイリスの要求を突っぱねるのは簡単だ、だが、それではミャンミャン達の恩赦はなくなってしまう。
「わかったよ。一つだけだぞ!」
「えっ!? ほんと? やった! 何してもらおうかな…… やっぱりキス!? それとも一緒にお風呂とか!? 一緒に寝るとか!? キャー! フヒヒ!」
両手を上げた大喜びをするアイリス。すぐにアイリスはリックにする願いを考えだした。アイリスはいやらしい顔をしてずっと何かを考えて時間が過ぎていく。
「まだかアイリス?」
「えっ!? ちょっと待ってよ。リック! あー決まらない!」
「うん。わかった。待つよ」
その後もアイリスはしばらく悩み続けた。悩み始めて一時間ほど、アイリスははやっと決めたのか、リックの顔を見てモジモジしながら近づいてくる。
「あっあのね! お願いは一日私とデートを…… なっなによ!?」
「さぁ。早く恩赦の申請書を書いて」
「書いてください」
「早くするズラよ」
リックはスッとペンと書類をアイリスに渡し、サインをするように促す。ソフィアとスラムンも早く書くように促してくる。アイリスはその様子にポカーンとしハッとしてみんなに叫ぶ。
「えっ? なんでよ! リックはまだいうこと聞いてないでしょ!?」
「聞いたよ。だってさっき!」
「そうズラよ。アイリスはリックに待つようにお願いして、リックはさっきから待ってたズラよ」
「そうです。リックは一つアイリスの言うことを聞きましたよ」
アイリスがしまったいう顔をした。しかし、すぐにアイリスは、ワナワナと震えて怒りの表情に変わり、リックとソフィアとスラムンを睨みつける。
「はぁ?! 何よ!? そんなのダメよ! ダメダメ! 無効よ! 無効」
「何を言ってんだ!? 一度言ったこと撤回するなんて女々しいことするな」
「女々しくていいのよ。私は女の子なんだから! 嫌い! 絶対恩赦のサインしない! ぷーだ!」
「リック! アイリスが行っちゃいましたよ!」
強引にリックが書類を渡そうとすると、突然船首の方に逃げ出したアイリスだった。
「あっ!」
アイリスが船首から、頭を海につけ涼みながら、目と胴体が少しだけ出ている、タカクラ君に飛び乗った。
「ベーだ! もうそっち行かないもん!」
「おっおい!? アイリス!?」
「タカクラ君! あいつらを近寄らせないでね」
アイリスがタカクラ君の上で叫ぶと、タカクラ君は水面から触腕を、二本出してブンブン振って牽制している。
「リック! これじゃアイリスに近づけないです」
「クソ! アイリス!?」
「べー!」
目の下を押さえて、馬鹿にしたようにアイリスは舌を出した。
「はあ…… やばいな。あいつあーなるとめんどくさいんだよな」
リックはアイリスの態度にため息をつく。幼馴染のアイリスが、一度へそを曲げると面倒なのは、彼が一番理解している。
「(あいつは昔から怒ると高い木とかに乗って一日降りてこなかったりしたよな…… その時は俺が別の子と昼飯を食べただけで怒ったんだよな)」
懐かしそうにアイリスとの記憶を思い出すリック。アイリスはリックがミラという雑貨屋の娘に、誘われて食事をしたことに激怒して木に登って下りてこなかったことがある。
「確か…… その時は翌日ミラと同じようにアイリスと一緒に…… あっ! そうだ! なら!」
ハッとして何かを思い出した、リックはアイリスに声をかけようと船首へと近づく。
「キューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「うわぁ! びっくりした! おい!? 大丈夫かーー?」
近づくリックを激しく牽制しようと、タカクラ君が激しく触腕を振り回した。だが、養殖場出身の彼はこういうことになれておらず、触腕同士をぶつけてしまい、悲鳴を上げてフラフラとしていた。
「大丈夫? タカクラ君?! もう不器用なんだから…… 気をつけてね」
タカクラ君が痛そうに、目に涙を浮かべ、足がシオシオと海に浮かんでいる。リックは今がチャンスだと振り向いてスラムンとソフィアに声をかける。
「ソフィア、スラムン、俺が一人でアイリスと話してみるから任せてくれ」
「わかりました」
「リック頑張るズラ」
ソフィアが心配そうに見つめている。リックは彼女に向かって優しく微笑んでうなずく。リックは一人で船首に行って、アイリスの説得をするために声をかける。自信満々なリック、彼はアイリスが昔と変わっていないので、大丈夫だと確信があった。
「アイリス! あのさ」
「何よ!? リック嫌い!」
「まぁそういうなよ。なぁ? いうことは聞けないけど今度一緒に昼飯食べないか? 子供の頃みたいにさ……」
ミラの時もそうだったけが、リックとアイリスは喧嘩した時、仲直りに一緒に昼飯を食べていた。
「えっ!? えぇ!? それって!? デート?」
「違うよ! デートじゃないよ。昼飯を食べるだけだよ」
「なんだ…… でも、リックとお昼ご飯…… ふへへ! はっ!? でもダメよ! ただお昼ご飯を一緒に食べるだけだったら、絶対にソフィアが付いてくるに決まってる。ここはちゃんと限定しないと……」
アイリスが嬉しそうな顔をしてると思ったら、何かを思いついたのかハッとした顔をして真剣な表情をしてる。
「ねぇ!? お昼ご飯って二人っきり? 二人っきりならいいよ」
「あぁ。わかったよ。久しぶりに二人で昼飯を食べような」
「うぉぉぉぉ! キャー! キャー!」
「おっおい!?」
どばーんと音がして、アイリスが水に叩きつけられた。パァッと笑顔になってアイリスが、タカクラ君の上で、のたうちまわっていたら海に落下したのだった…… それを見たスラムンがすぐに海に飛び込んで助けていた。
「何してるズラか」
「だって…… 嬉しくて! つい……」
その後、アイリスはリックが、船から投げた縄で引き上げられた。
「リックなら覗いてもいいよ」
「覗かないから…… もう…… 早く体を拭いて着替えて出てきてサインをしてくれよ」
「ブー!」
「ほら早くするズラ!」
振り向いてリックに向かって笑顔で、うつむいて恥ずかしそうにアイリスが話してる。スラムンが飛び跳ねてアイリスの背中にぶつかって、押されるように彼は甲板から船室に入っていく。
「(はぁ…… 覗くわけないだろ。なんでわざわざ友達の着替えを覗くんだよ。まったく。)」
少しして船室で着替えたアイリスが出てきた。
「じゃあ、アイリスごめんな。これにサインをお願い」
アイリスに書類を渡す。今度はアイリスは椅子に座り、ペンを出して素直にサインをしてくれた。
「はい。書いたよ。リック」
「ありがとう! 助かるよ」
「いいのよ! お昼ご飯の約束をちゃんと守ってね。お願いだよ!」
「わかったよ。じゃあ、アイリスが次に王都に帰ったらな」
「うん!」
アイリスはすごい嬉しそうに頷いた。改めてリックはアイリスと二人で食事などいつぶりだろうと懐かしむのだった。
リック達は詰め所に戻るために甲板の真ん中に立った。スラムンとキラ君とアイリスが並んで見送りに来てくれた。
「気を付けて帰るズラよ」
「ありがとう。ソフィアの魔法で詰め所の近くまですぐに行けるから大丈夫だよ」
「ならよかったズラ!」
「スラムンさん心配してくれてありがとうです。アイリスもサインしてくれてありがとうです」
「ふふん! ソフィア、ごめんね!」
「ふぇ!?」
アイリスがソフィアに勝ち誇っている。リックはなぜアイリスが勝ち誇るかわからず首をかしげている。ソフィアはキョトンして笑顔を向けられていると勘違いしてるのかほほ笑み返すのだった。
手をつないでソフィアの隣でリックは待っている、ゆっくりと来た時と同じようにソフィアが手を上にあげるのだった。