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第101話 届かぬ声を聞け

 リック、ソフィア、メリッサ、イーノフの四人は、街道を走ってシーサイドウォール砦に向かっていた。飛んでいった竜は、城壁の櫓に張り付いていた。竜は水色の綺麗な鱗に覆われ、丸い顔に大きな一本の長い角が生え、背中に翼が生えている。大きな胴体に尻尾の先が水平でひらっべたく扇のような形をしていた。砦にはりついた竜をリックは見たことはない。


「えっと…… あれは…… こいつじゃない」

「あんた! また……」

「えっ!? あっ…… すっすいません!」


 魔物生息図を見ながらリックが走っていると、メリッサが気付いて睨みつけた。


「まぁ。あれは本来この辺りにいないはずだからいいけど。あれは一角水飛竜(いっかくみずひりゅう)だよ。覚えときな」

「ありがとうございます。えっと一角水飛竜(いっかくみずひりゅう)…… おぉ! これか。えっと……」


 リックは魔物生息図を読んでいく。一角水飛竜(いっかくみずひりゅう)は水色のドラゴンで静かな水辺で生活している。足で起用に水上を進み、翼をヒレのようにして水の中も泳ぎが得意で数時間も水中で行動ができる。頭の角は硬く中は空洞となっており、ところどころ小さな穴が開いている。角は突きさして武器にするだけではなく、楽器のように使い音波攻撃魔法で敵を気絶させ捕食する。普段は人間の生活圏から、離れた無人島などにいて、めったに遭遇することはない。なお、おとなしい性格ではあるが、人間を捕食の対象としているため、遭遇したら注意すること。

 読み終わった魔物生息図をしまい前を向くリック。砦から白い綺麗な鎧をつけた騎士達が、リック達の方に向かって慌てた様子で走ってくるのが見えた。


「メリッサさん。あれを! 騎士達が砦から走ってきます」

「はぁ!? こいつら…… チッ!」

「うわああ!!!」


 走っている一人の騎士に手を伸ばし、メリッサが無理やり捕まえて問いかける。


「おい!? あんたら何してんだ? 砦の守りは? 砦の警備はあんたたちの役目だろ!?」

「何を言ってんだ? 飛竜が来たんだぞ? あんなのと戦える訳ないだろ! 離せ!」

「あっ! こら!」


 叫んだ騎士はメリッサの手を振りほどいて行ってしまった。メリッサは呆れた様子で、走って逃げていく騎士を見つめていた。


「はぁ…… 行くよ。みんな」


 メリッサの指示に、うなずいたリック達は、再びシーサイドウォール砦へと向かって走り出すのだった。彼らは砦の城門にたどり着いた。櫓の屋根の上に一角水飛竜(一角水飛竜)は足を駆けてジッと城門の中を見つめている。リック達は騎士達が逃げ出す際にわずかに開いた城門の前に立ち。こっそりと中を除く、シーサイドウォールは街道を塞ぐ関所のような役割があり、砦は街道を挟むように二棟に分かれ、二階部分の渡り廊下でつながっている。王都側とシーサイドウォール側の門は街道でつながっている。覗き込んだリックに左右の別れた砦と、シーサイドウォールを貫く街道の上に教会のような、長い椅子が何列か並べられているのが見えた。


「(えっと…… 勇者カズユキとアナスタシア様はどこだ!? 逃げ出したなんてことはないと思うけど…… いた!)」


 砦と砦の間に作られた壇上にできた椅子に、勇者カズユキとアナスタシアが並んで座っているのが見えた。勇者カズユキが飛竜の方を指さしてなんか喜んで笑っているように見えた。アナスタシアはうつむいて彼の方を見もしない。


「早くアナスタシア様を助けに行きましょう!」

「そうだね。行くよ! みんな!」

「待って! メリッサ、リック」

「なんだいイーノフ? 早く行かないと……」

「飛竜と勇者カズユキを同時はさすがに難しいよ。とりあえずどっちかが……」

「平気だよ! とにかく!  あっ! クソ!」


 櫓の屋根で様子を見ていた一角水飛竜(いっかくみずひりゅう)が下りてきた。大きな音がして一角水飛竜(いっかくみずひりゅう)の巨体が地面に着地すると城門壁などに振動が伝わる。首を動かして一角水飛竜(いっかくみずひりゅう)、は座っている勇者カズユキとアナスタシア様に顔を向けた。


「見てよ! すごいよ。アナちゃん。飛竜だよ! 本物だ!」

「はぁ……」

「チッ! 異世界の人は飛竜じゃ喜ばねえのか。クソが……」


 立ち上がって喜ぶ勇者カズユキ。黙ってアナスタシアは勇者カズユキの言葉に、ため息をつき椅子に座ったまま下を向いてジッとしている。 アナスタシアをアナちゃんと馴れ馴れしく呼ぶ勇者カズユキに怒りを覚えるリックだった。勇者カズユキはアナスタシアの態度にムッとする。


「何だよ。その態度! あのさぁ。お前さ。もしかしてあいつが俺を倒してくれるなんて期待してない? もしくは自分が襲われて死ぬとか?」

「はっはい!? 何をおっしゃってるんですか? カズユキ様?」

「フン…… まぁそこで待ってなよ。アナちゃん」


 勇者カズユキは、腰にさしていた、剣を抜いて構えると、颯爽と駆け出して一角水飛竜(いっかくみずひりゅう)に斬りかかっていく。顔を上げて一角水飛竜(いっかくみずひりゅう)が角を天へと向ける。


「来るよ! みんな耳をふさいで口を開けな」

「えっ!?」


 メリッサがリック達に指示をだした。直後に耳がキーンとなって砦の空気が震えだしてリックは思わず耳を塞ぐ。これは一角水飛竜(いっかくみずひりゅう)が使う音波魔法攻撃だ。

 慌ててリック達は耳に手を当てて口を開く。空気の振動が激しくなり一角水飛竜(いっかくみずひりゅう)が口を開けて咆哮した


「ギャイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン」


 一角水飛竜(いっかくみずひりゅう)の口から甲高く不快な音が発せられて砦に響きわたる。周囲の椅子が吹き飛び、城壁に亀裂が入っていく。リックたちは、耳を塞いで音が響く間は動けずにいた。勇者カズユキは壇上に立ったまま、軽く耳をふさぎ余裕の表情を浮かべている。


「やぁ。終わったかい!? その厄介な音は大きい角のおかげみたいだね」


 音が終息すると、勇者カズユキは再び剣を構えて飛び上がる。素早い動きで一角水飛竜(いっかくみずひりゅう)を、翻弄してから剣で角を真っ二つに切り捨てた。


「ギィヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」


 ダメージを受けた一角水飛竜(いっかくみずひりゅう)は、大きな声を上げ首を地面につけた。


「さて、俺は忙しいんだ! さっさと片付けるよ!」


 飛び上がっていた勇者カズユキは一角水飛竜(いっかくみずひりゅう)の首を落ちながら剣で斬りつけた。勇者カズユキの剣が地面に到達すると同時に彼の横に一角水飛竜(いっかくみずひりゅう)の頭が転がった。血を払って剣をおさめて満足そうに笑い、ゆっくりとアナスタシアの元に勇者カズユキは戻っていく。

 アナスタシア様の前でいやらしい表情で、彼女の顔を自分の方に無理矢理向けた。


「残念でした! あんなの俺にかかれば…… 余裕でしたー!」


 にやけた顔をして、アナスタシア様の顔を、覗き込むような動作をしてる。


「ははは。よえええええーーーー! 何が飛竜だ! 簡単すぎて! やべえよ」


 剣であっさりと飛竜の頭を吹き飛ばした勇者カズユキ。リックはあの動きを見て愕然とする。彼の動きが酒場で会った時も速く強かったからだ。


「あいつ…… 前に会った時より強くなってないですか?」

「うん。あいつの動きこの間よりも速いし攻撃も鋭いよ…… しかしこんな短時間で……」


 数日の間に急激に成長した、勇者カズユキを見て悔しそうにするメリッサだった。二人の会話を聞いていたイーノフが口を開く。


「勇者召喚される人間は神から強大な力をもらい。さらにその力は日々勝手に成長する」

「チッ…… なんだよ。それ…… やっぱりいきなり飛び込むのはまずいかもね」


 イーノフの言葉に珍しくメリッサさんが突入を躊躇している。

 神様が力を与えて勝手に成長していくなんてなんて卑怯なやつだと思うリックだった。彼の幼馴染であるS1級勇者アイリスだって、才能は神様から貰ったものだが、その力を努力して伸ばしている。


「みんな。隙きを見て飛び込むよ。いいね?」

「わかったよ。メリッサ」

「後…… 勇者カズユキと一人で戦うんじゃないよ。必ず対峙した人間を誰かがフォローするようにして一対一の状況にはならないようにしな」


 リック達は黙ってうなずいた。引き続きリック達は城門の陰に、隠れて様子をうかがい突入するチャンスが来るまで待つ。


「うん!? あいつ何をする気だ……」


 勇者カズユキがアナスタシアの肩を、乱暴に掴んで無理矢理椅子から立たせた。引っ張ってどこに強引に歩かせようとしているようだ。


「さっ早く! もう儀式なんていらねえから! あそこの部屋でいいよな!?」

「いや! やめて、離して!」


 砦を指さす勇者カズユキ、どうやらアナスタシアを砦に連れ込み、自分の物にしようとしているよづあ。


「この! てめえは! 姫だがなんだか知らねえがあった時からお高くとまりやがって! さっさと股をひらきゃいいんだよ。そのためにここに来たんだからよ」


 アナスタシアの頬を勇者カズユキが叩いた。地面に倒れたアナスタシアに、覆いかぶり腰を下品に動かしはじめた。


「やめてー! いや、やめてーー!」

「いいじゃねえか。大人しくしろよ! みんなお前を見捨てたんだよ。ここには誰もこねえよ!」

「あなた…… そんなだから、元の世界でも女の子に相手にされないのよ」

「なっ! お前!」


 勇者カズユキはアナスタシアに馬乗りになった。


「クソ!」

「待ちな!」


 剣に手をかけるリックをメリッサが制する。悔しそうに右手を震わせるリックだった。


「あっ!」


 バキっと音がして勇者カズユキがアナスタシアをまた殴る。さらに抵抗しようとするアナスタシアをまた殴りつけた。


「黙れ! 静かにしろ! もう頭きた! ここでやってやる! お前は父親と母親と国民に売られた姫だな! ははは!」

「…… やめて…… お願い!」


 絶望したのかアナスタシアは空を向いたまま、目に光がなくなり呆然と勇者カズユキを見つめていた。


「ははっ! 良い顔になったな! さっ! 二人っきりなんだから! 楽しもうぜ!」


 勇者カズユキが彼女のドレスの胸元に、手をかけて引きちぎろうと手をかけた。リックはもう我慢ができなかった。全身が熱くなり怒りに震える。


「メリッサさん! 俺は! もう我慢できません!」

「私もです!」

「チッ! 腐れ外道が…… 行くよ。みんな」

「でも、メリッサ……」

「うるさい! 行きたくないならそこにいな。来るなら黙ってついてきな!」


 叫び声をあげるメリッサ、彼女は眼の前にあった少しだけ開いていた、城門を足で思いっきり蹴りつけた。乾いた音が城内に響きわたった。勇者カズユキはアナスタシアに覆いかぶさった、状態で顔だけ城門に向けて笑っていた。


「勇者カズユキ!」


 槍を逆手持ちなおした、メリッサが勇者カズユキに向かって叫んだ。勇者カズユキはアナスタシアに、馬乗りになった状態で上半身を起こした。


「なんだぁ!? お前たちは!? こっちは取り込み中だ後にしろ。あっ……」


 メリッサは声をかけると同時に槍を投げていた。一瞬でカズユキの顔の横を通りすぎ後ろの柱につきささった。


「やっやるじゃん……」


 勇者カズユキが少し驚いた表情でメリッサを見た。彼の頬から血が垂れている。


「行くよ!」


 号令と共にリック達四人は一斉に駆けだした。走りながらメリッサが手を上下に動かすと槍は彼女の手に戻った。


「ソフィア! あいつの頭を狙うんだ」

「はい! 任せてください」


 メリッサの指示で立ち止まり、ソフィアが矢を放つ。放たれた矢は風を切り裂き一直線にカズユキの頭に向かっていく。


「チッ!」


 矢の接近に気付いたカズユキが、手でソフィアの矢を掴みニヤリと笑う。


「今だ! イーノフ!」

「はいよ。メリッサ! 炎の精霊よ…… 精密誘導爆破ピンポイントエクスプロージョン!」


 ボコボコと何度も勇者カズユキの顔の周りで爆発が起きた。勇者カズユキの顔の周りには煙と爆風が包んでいた。


「リック! あんたは王女様をかっさらいな」

「はい」


 リックは前傾姿勢で体を低くして、勇者カズユキに向かって駆けていく。勇者カズユキの顔の周り煙が晴れた。煙が晴れて勇者カズユキとリックの目があった。にやりと笑った勇者カズユキだが……


「ソフィア! イーノフ!」


 メリッサの声が響いた。勇者カズユキの顔の周りで、イーノフさんの魔法が再度の爆発を起こして、さらにソフィアの電撃が奴の体を襲う。

 

「そんなちんけな魔法! 俺には効かないよ! おわ!」

「悪いな。これはこの間のお返しだ」


 爆発で視界を遮られて勇者カズユキはリックの接近に気付かず。煙から出て来た、リック蹴りが彼の顔面にめり込んだ。馬乗りなっていたアナスタシアから、勇者カズユキがゴロゴロと転がって離れていく。


「大丈夫ですか!?」

「リック…… はっ!」


 アナスタシアを抱きかかえるリック。アナスタシアの胸元がはだけて、下着と胸の谷間が見えていた。リックは意外と大きいアナスタシア…… いやもといエルザの胸に目を奪われてしまう。視線に気づいたエルザは顔を赤くして胸元を隠した。


「キャー! エッチ!」

「ちっ違います! 見てません。いや見ません」

「えっ!? 見ませんって!? ひどくない」


 眉間にシワを寄せるエルザ、リックはライトアーマーの胸当てを外し、自分の制服の上着を彼女にかける。


「ありがとう…… やさしいですわね」


 エルザは上着を羽織って、うれしそうにリックに微笑みかけた。


「貴様! よくも! 俺のアナちゃんを返せよ!」

「おっと! ここからはあたしが通さないよ!」

「どけ! デカ女!」


 鋭い槍の突きが、勇者カズユキを狙う。剣でメリッサの槍を打ち返す勇者カズユキ。イーノフが魔法でメリッサを援護する。リックはエルザを抱きかかえて、壇上から下りてソフィアの元へと向かう。


「リック! あなた達なんでここに?」

「助けにきました! 王女アナスタシア様!」

「私を助けって?! ダメよ! 私が言うことを聞かないとヴァージニアが……」

「大丈夫ですよ。隊長が手をまわして救出に向かってます」

「えっ!? そうなの…… よかった……」


 エルザは嬉しそうに笑った。その瞳は涙で輝いている。リックは笑顔でうなずくのだった。勇者カズユキはメリッサとイーノフと戦い続けていた。二人の息のあった連携攻撃を受けながらもまだ余裕の表情を浮かべていた。ソフィアの元へとついたリックはアナスタシアを下してソフィアに声をかける。


「ソフィア! 俺達も行くよ!」

「はい!」

「アナスタシア様は隠れていてください!」

「いやよ。私も行くわ! あなたも知ってるでしょ? 私だって騎士……」

「今は姫様です。だから言うことを聞いてください姫! 助けるのがかっこいい王子じゃなくて兵士で申訳ないですけどね」

「リック…… わかったわ。ありがとう」


 エルザはほほ笑んで頷いた。リックはかわいいけど、改めてエルザだと思うと複雑ではあった。リックとソフィアが援護に加わろうと、祭壇へと駆けていく。祭壇の前で四人がそろって勇者カズユキと対峙した。


「お前たちは…… よく見たらカジノに居た…… クソ!」

「何だい? 今頃気付いたのかい。勇者さん。頭がわるいんだねぇ。そうだ! あんたの傷は治ったのかい?」

「クソ! お前たちのせいで一日ベッドの上だったんだぞ!」


 死にかけていた状態をわずか一日で、回復したと聞いて改めて勇者カズユキの能力に驚愕する四人だった。


「はん。また僕を逮捕する気か」

「今日は逮捕じゃない。あんたを殺しにきたのさ!」

「何を! でか女! 俺が二度同じ奴らに負けると思うのか!?」

「負け犬の遠吠えはみっともないよ!」

「まっ負け犬だと!? 貴様! 負け犬…… 負け組……」


 メリッサの言葉に勇者カズユキが急に激しく反応した。勇者カズユキはうつむいて、小刻みに震えながら下を向いてしまった。


「俺を…… 俺を! 負け犬とか負け組とかいうなーーーーーーー!」


 肘を曲げて拳を強く握り、勇者カズユキが空を見上げて叫んだ。目をつむり悔しそうな表情をしている。


「はぁはぁはぁ! 決めた! お前たちを皆殺しにしてこの国やつら全員ぶっ殺す」

「なっなにを!?」

「俺はこの世界では自分のためだけに生きるんだよ。どいつもこいつも俺を利用することばかり考えやがって!」

「そんなこと!?」

「あーめんどくせぇ! めんどくせぇから! この国ごと吹き飛ばしてやろうってんだよ?!」


 不敵な笑みを浮かべた、勇者カズユキの左腕が静かに赤く光る。


「でも、いきなり全滅はつまらないからやっぱり一個ずつ壊すか! 先ずは…… さっき通ったあの町、なんていったっけ?」


 にやにやと笑いながら、何かを思い出そうとする勇者カズユキだった。少しして思い出しのか彼はハッとした表情をした。


「あぁ! そうだ。シーサイドウォールってところだ」

「やめて! お願い!」

「アナスタシア様!? 来ちゃダメです!」


 話を聞いて城の柱の陰に隠れていたエルザが駆け出してきた。


「勇者カズユキ、お願いやめて!」

「そうだ。お前は何をバカなことは!?」

「うるせえよ! 今からシーサイドウォールを後片もなく吹き飛ばしてやるよ」

「ダメよ! あそこにはお父様や弟…… 町の人だって……」


 エルザの表情がどんどんと暗くなっている。彼女の父親である国王たちは、二人の婚約の報告をシーサイドウォールで待っているのだ。


「はは! アナちゃんのその顔いいねぇ! ほら、いいアイデアだろう? 許してほしければ…… そうだ! アナちゃんが裸になって俺の前で命乞いをしろ!」


 勇者カズユキは嬉しそうに、エルザの体をじろじろと見ていた。


「リック! みんな! 下がりなさい!」

「そうだ! お前らがさがらないと……」


 勇者カズユキが手を空に向けた。彼の手の周りに赤い光の粒が現れて集約されていく。


「みんな、今は下がるんだ!」

「イーノフさん!?」

「あの魔法はまずい! とにかく今下がれ! いいから!」


 必死のイーノフさんに言われて、リック達は渋々その場から下がっていく。リック達が離れていくのを確認すると、エルザはゆっくりと勇者カズユキに近くづいていく。


「いい子だね。アナちゃん。ほら国民のためだぞ。」

「わかりました。だから魔法をどうかとめてください」

「あぁいいぜ! ほら止めたよ! さあ脱ぐんだ!」


 勇者カズユキの手から光が消える。エルザはホッとした表情をうなずき、彼女はリックがかけた上着を取ろうと手をかけた。それを見た勇者カズユキが眉間にシワを寄せ不服そうに叫ぶ。


「おい何してる!? だれが上着って言った!? 先ずは下のスカートだ!」

「お前!?」

「いいから! リック! 余計なことしないで!

「アナスタシア様!?」

「私が犠牲になればいいの…… で…… 誰か…… たす……」


 エルザは自分のスカートを下した。少しむっちりとした太ももに、白いレースの透けた下着があらわになった。勇者カズユキはエルザの下着を見て興奮し鼻息を荒くする。


「ダメです!」


 ソフィアが駆けていきアナスタシアの前に立った。カズユキはパンツを遮られ眉間にシワをよせる。


「おいお前なにを! いいのか?」

「ソフィアさん!? あっあなた!? 下がりなさい」


 手を空に向けた勇者カズユキ。慌ててソフィアをどかそうと彼女の肩をおすエルザだった。ソフィアは耐えながら、目に涙を溜めリックを見た。


「リック、さっきアナスタシア様は助けてって言ってました!」

「違います。そんなこと言ってません!」

「ほら! 違うってよ! 邪魔すんなよ!」

「言いました! 私の耳は長いだけじゃなくてよく聞こえるんです! 私の耳はごまかせません! 言いました!」


 必死の訴えにリックは拳を強く握りしめた。リックは胸当ても外し、制服を脱いで、上半身が黒いシャツ一枚の状態で前に出た。


「ソフィア…… 分かったよ。」

「なっ何を!? あなた達は無礼ですよ!? 下がりなさい!」


 リックはソフィアと一緒に並んで、エルザの前に立ちはだかった。エルザはリックを見て、涙を流しながらもう一度叫ぶ。


「早く下がりなさい!」

「嫌です!」

「リック……」

「俺達は兵士です! 助けを求める王国民が居ればどんなことをしてでも助けます。それが…… 王女様でも」

「そうだよ! よく言ったね。リック! アナスタシア様、王女でも王国民の一人には変わらない。だからあたしらはあなたを助けます」

「あぁ。それが王国兵士です」


 リック達に続いてメリッサとイーノフもやってきた。エルザは小刻みに震え涙を流している。


「みっみんな…… ごめんなさい」


 震えて謝るエルザの肩に、リックは手に置いた。


「俺達はあいつには負けません! 絶対にあなたを助けます!」


 リックを見てエルザは顔をクシャクシャにして涙を流しながらうなずいた。


「ソフィア…… 僕に協力して!」

「えっ!? はい!」


 小声でイーノフがソフィアを呼んだ。二人はメリッサの後ろに隠れた。勇者カズユキは笑いながらリック達を眺めていた。


「なんだよ! それ? くっせ! くっせ! くっせーんだよ! 助けますで助けられるかよ!」

「そんなのやってみなくちゃわからないだろ?」


 一歩前に出て槍を構えて笑うメリッサ、勇者カズユキはメリッサを睨みつけた。


「わかるさ! でか女! 俺は勇者なんだからな!」

「勇者カズユキ! やってやるさ! 俺達は王国を守る第四防衛隊だ。お前から王国を必ず守ってやる!」


 鞘つかんだリックは剣を抜いて構えるのだった。

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