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第100話 信頼と実績の聖女様

 詰め所の前にメリッサ、イーノフ、ソフィア、リックと四人が並んだ。カルロスからシーサイドウォール砦に、向かう前に任務の詳細を伝えられる。リック達の前に立ってカルロスが話を始めようとする。


「隊長!」

「なんだい? メリッサ」

「ちょっと、待ってね」


 メリッサがカルロスをとめ、並んでいるリックとソフィアの後ろに向かう。


「こら! ソフィア! いい加減に離れなさい!」

「ふぇぇ!?」


 叱られたソフィアは、ビクッと震えてリックの腕から頭をはなした。ソフィアとリックは腕を組んで並んでいてメリッサに怒られたのだ。手をつなぐくらいであれば怒られないだろうが、腕を組むのはやりすぎである。ちなみにリックは並ぶ前に注意したが、涙目のソフィアを見て断念した。

 メリッサはリックとソフィアの間に両手をいれ、二人の距離をはなす。メリッサは首を曲げてリックの顔を覗き込んでくる。眉間にシワをよせメリッサは不機嫌そうだ。


「ふぅ…… リックは戻ってきたら王都の外壁でランニング三十周だからね!」

「えっ? ちょっと待ってくださいよ!? 俺は……」

「嬉しそうに腕を組んでたくせに何を言ってんだい。まったく…… あんたはすぐにソフィアを甘やかすんだから……」

「えぇー!? そんなことないですよ!?」


 心配そうにソフィアがリックを見つめる。大丈夫だよとリックは笑顔を返すと、ソフィアも微笑むのだった。ソフィアはすっとメリッサの背中側からリックに手を伸ばす。リックは躊躇したがソフィアと手をつないだ。メリッサの目が横に動きあきれた顔をする。


「はぁ…… ほんとに! いいからきちんと整列しな!」

「はい!」


 リックにさらに顔を近づけてメリッサは、彼を睨みつけてすごむ。リックは思わず姿勢を正しソフィアとつないだ手をはなす。次にメリッサはソフィアの背中側にまわり両肩をつかんで、向きをカルロスの方に無理矢理に向けられるのだった。メリッサはリック達に見ているぞと、視線を送りながら列に戻った。彼女の横にいるイーノフは笑っていた。カルロスがやれやれといった感じでゆっくりと口を開く。


「はいはい。急がないといけないから、いいかい? お前さん達」


 リック達四人がうなずく。カルロスは話を始めた。


「任務でしてほしい詳細な行動は今から渡す書類に書いてあるから、ただし…… 紙に書いてある後半は僕からの任務になる。アナスタシア様を奪還するいわば裏任務だな」

「なにかっこつけてんだい! そんなまどろっこしいことしないでさっさと姫様をだな……」

「そういうなよ。厄介な人間が絡んで僕たちはもう目をつけられている…… こっちもいろいろと準備をしないとさ」


 面倒そうに頭をかくカルロスだった。厄介な人間とは誰かリックは想像もつかなかった。


「厄介な人間って!? レティーナ王妃様だろ?」

「あぁ。情報を収集したがあまり…… まぁいい! 今は関係ない。作戦に集中しろ」


 メリッサの言葉にカルロスの目つきが厳しく変わる。レティーナ王妃が厄介とはと気になるリックだったが、今はカルロスの言葉に従い、アナスタシアを助けることだけに集中することにした。


「じゃあ、今回の任務は婚約の儀が行われるシーサイドウォール砦に行って周辺の警備だ。それは別に難しい内容じゃないだろう。すぐに向こうで担当の防衛隊の隊長と合流してくれ!」

「シーサイドウォールの防衛隊はあたしらの本当の目的は?」

「もちろん知らない」

「じゃあもし防衛隊が邪魔したら排除するのかい?」

「そうだな。ただ…… 勇者カズユキの悪い噂は、防衛隊に回ってるから本気で守りには行かないはずだ……」

「噂が回ってるねぇ!? 勇者のことは防衛隊の中ではあたしらくらいしか知らないはずなのに…… 誰が噂を流したんだろうねぇ!?」

「なんだい? 僕は知らないよ~。誰だろうねぇ?」

「だろうねぇ。あんたは知らないよねぇ~」


 カルロスとメリッサはニヤニヤしながらしゃべっている。これは確実にカルロスが噂を流している。リックとイーノフは二人のわざとらしいやり取りにあきれるのだった。


「じゃあ、作戦の詳細は向こうで確認するように! お前さん達…… 気を付けてな」

「「「「「はい!」」」」


 リック達がうなずいて返事をする。第四防衛隊による、アナスタシア奪還作戦が開始された。どんな作戦なのか詳細はわからないが、リックはカルロスを信じると決め、もう迷いはない絶対にアナスタシアを連れて帰って来ると決意を新たにするのだった。


「リック。メリッサさん達行っちゃいましたよ。私達も行きましょう!」

「あぁ! ごめん」


 リックは急いでポケットから、テレポートボールを出して握った。


「私が先に……」

「ううん。ソフィア…… 一緒に行こう!」

「えっ!? うれしいです」

「うわぁ! こら! 喜んでくれるのはいいけど、腕を組んじゃだめ」


 ソフィアは笑顔でリックと腕を組んだ。リックは慌てて彼女の腕を外す。テレポートボールは同時に使用することはできるが、近い距離で使うと干渉してしまうため一メートルほど距離を取らないといけないのだ。

 ソフィアの肩を押してリックは彼女と距離を取る。


「うぅ…… 離れちゃいました」

「はぁ…… お前さんたち早く行かないと、メリッサ達にまた怒られるぞ!?」

「はっはい」


 リック達は少しお互いの距離を取って、テレポートボール握って手を前にだして。互いに顔を見て頷くと一緒に行先をいうのだった。


「「シーサイドウォール砦!」」


 白い光が地面から発せらえて包まれると、光が消えると俺に目の前に綺麗な青い海に鼻にほのかに潮の香り届く。まっすぐに伸びた綺麗な街道の先の大きな古城のようなものが見える。あれがシーサイドウォール砦だ。街道は両脇に緑の草が生えた大きな街道で、街道から少し下がったところに砂浜が見えた。


「おっ! 来たね」

「じゃあ二人ともこっちに! 今から作戦の詳細を確認するよ」

「はい。ソフィアこっちだよ」

「わかりました」


 メリッサとイーノフに呼ばれリック達は、街道から少し外れたところに四人が集まる。王都グラディアから、東のブロッサム平原を抜け、港町ルプアナの南にあるのがシーサイドウォールである。シーサイドウォールは城と城下町がある大きな町だ。王都グラディア、ホワイトガーデンに続く王国の三番目の町にしてグラント王国発祥の地でもある。リック達がむかうシーサイドウォール砦は、シーサイドウォールの北に位置にあり、少し距離がある。


「なんで? ここで婚約の儀をするんですか?」

「さぁ。あたしもしきたりってことくらいしかしらないねぇ」

「私もよく知らないです」

「なんだ!? みんな知らないのかい? 王国の歴史の一つなのに! えっとね……」


 少し呆れた様子でイーノフが、この砦で婚約の儀が、執り行われるようなった話を教え皆に伝える。今から二百年前のこと、初代グラント国王が、シーサイドウォールの周辺地域を平定しグラント王国が建国された。出来たばかりの小国だったグラント王国は、まもなくブロッサム平原から異民族に侵略を受けてしまった。初代グラント国王はシーサイドウォール砦で、敵を迎え撃つために出撃した。だが、千人グラント王国兵に対し、敵軍の数は二万圧倒的戦力差で苦戦は必至であった。

 そんな中このシーサイドウォールの砦で、初代グラント国王は異民族を撃退したら結婚してほしいと、女騎士として一緒に出撃をしていた初代王妃にプロポーズをしたという。女騎士は笑顔でプロポーズを受け一緒に出撃した。初代グラント国王と王妃は、協力し見事に敵軍を打ち破り、今日まで続く王国の礎を築いたのである。その逸話にあやかり王族の婚約は、この砦にて執り行われるようになった。


「なんかいいお話ですね」


 話を聞いたソフィアは笑顔でリックに視線を向ける。リックは真面目に話を聞いていて彼女のことに気付かない。


「そうかい? あたしの結婚の時は……」

「メリッサ! 早く任務の続きを!」

「あぁごめん!」


 話が逸れたのを戻して、四人で任務の詳細の確認する。シーサイドウォール砦で行われる婚約の儀式は、王都の教会の神官の前で婚約を誓うというシンプルなものだ。国民への結婚は発表は、ここの儀式が終わってからが慣例となっているので、王宮関係者かリック達のような一部の防衛隊と騎士団しかアナスタシアの婚約の件は知らない。事前に情報がもれても、公式に認めるのはこの儀式の後となる。

 つまりこの儀式で勇者カズユキから、アナスタシアを取り返せば、結婚の話自体がなかったことになる。参加者は勇者カズユキとアナスタシア様と神官のみ。後は警護の騎士団とリック達兵士だ。

 なお、他の王族はシーサイドウォール砦におらず、シーサイドウォール城に待機して、婚約の儀を終えた二人が、シーサイドウォールの城に行き皆に婚約を知らせるという形になる。


「私たちは儀式の最中にシーサイドウォール砦へ向かう街道の警備をする。これが表向きの任務だよ」

「はい。でもどうやって? アナスタシア様を助けるんですか?」

「えっと…… まずロバートの母親ヴァージニアさんを別行動してる協力者が助けに向かっている。あたしら儀式の魔物が現れたタイミングで砦になだれ込む。混乱に乗じて勇者カズユキからアナスタシア様を奪還してスノーウォール砦へ連れてロバート達に渡す」

「大丈夫なんですかね? しかもそんな都合よく魔物の襲撃なんて……」

「もし魔物がこない場合は…… あいつ!?」


 眉間にシワをよせメリッサが作戦詳細が書かれて書類を握りつぶした。そこには魔物が来ない場合は、メリッサに変身の粉をかけて魔物ってことにして襲わせろと書かれていた。イーノフがポケットから変身の粉をだそうとしてメリッサに睨まれすぐにしまう。


「(これは怒るよ…… それに変身の粉は種族まで変わらないしさすがに魔物っていうのは…… あっ! 背は高いしぱっと見に細身の熊みたいに見えるし…… もちろん怒った顔は怖いから、髪の毛の色とかをかえればギリギリ魔物に…… すっすいません)」


 ジッとメリッサを見つめるリックをメリッサが睨みつけた。おそらく彼が思っていることが顔にでていたのだろう。リックは慌ててメリッサから顔を背ける。


「後で…… 覚えてろよ。隊長……」


 メリッサのつぶやきにリックは、作戦終了後にカルロスは死ぬなと確信した。魔物が襲ってくることを期待しつつ、リック達はひとまず任務どおりにシーサイドウォール砦に向かうのだった。

 シーサイドウォールが見えてきた。街道の真ん中をふさぐように立つ、石造りの大きな砦である。グラント王国建国当初からある砦なので、少し古く色あせてどこか懐かしい雰囲気がしていた。

 城門の外側にいた、シーサイドウォール砦担当の防衛隊の隊長と挨拶をかわしたリック達。すでに内部には騎士団がいて、彼らに内部の警備を引き継いだので防衛隊は外の警備をしているという。


「あれ? メリッサさん!? 何を……」


 メリッサが何かを探すようにきょろきょろと周囲を見ている。


「あのさぁ。あの樽って……」


 近くにあった樽を指さしながらメリッサは、一人の兵士と会話していた。リックはメリッサの行動が気になったが特に気にせずにいた。挨拶が終わり警備が始まった。警備内容はシーサイドウォール砦に、向かう街道を封鎖して制限をかける。

 勇者カズユキとアナスタシアは馬車で、リック達が警備している王都側ではなく、反対側のシーサイドウォールの町から続く街道を通ってすでに砦に入っているという。後はカルロスの計画通り魔物が来れば良い。静かな街道を見ながらリックはどんどんと不安になっていく。


「魔物がそう都合よく……」

「大丈夫だよ! あたしが隊長の命令で持ってきたからね!」


 不安そうにつぶやいたリックにメリッサが胸を張って自信満々に答え懐に手をいれた。彼女は何を持って来たのだろうか。


「これだよ!」

「なんだ…… ただのお守りじゃないですか」


 落胆した様子のリック、メリッサが懐から出したのは、小さな木でできたお守りだ。だが、どうみてもただの普通のお守りだった。


「あぁ!? なんだとは失礼な!」

「わゎ!?すいません」


 ムッとした顔でリックにお守りを向けるメリッサ、このお守りを突きつけらえたリックが固まる。四角い木の板に十字架が彫られたただのお守りだが、彼はこれに見覚えがあった。十字架を囲む百合の花、この紋章を使うのはグラディア教会だ。つまりこのお守りは……


「この紋章はグラディア教会の…… まさかこれって!?」

「そうだよ。シーリカ様が祈ったお守りさ! 前に森に行ったときにあんた言ってたろ? 魔物が強くなって襲ってきたって!」

「確かにそうですけど」

「隊長の指示でこれをさっき砦の樽の中にたっぷりと入れておいたんだよ」

「いや。それだけで魔物なんて?」

「なに言ってるんだい!? あたしが直々に聖女シーリカ様にお願いに行ってしっかりと祈ってもらってからね」

「えっ?! 珍しいですね」

「でも、隊長が訓練用に魔物をおびき寄せる道具を集めるっていうから…… まさかこの作戦用だなんてね」


 魔物をおびき寄せる道具といメリッサ。本来なら聖女が祈りをささげた魔よけのお守りで魔物はこない、だが、シーリカの実績から言って魔物おびき寄せる道具の方がしっくりくる。なお、メリッサの横でイーノフが彼女を睨んでいるが、これはメリッサがイーノフに黙ってシーリカに会いにいったのを許せないからである。


「そうそう。リックがぜひシーリカ様のお守りがほしいと言ってますって言ったらすごい祈ってくれたよ!」

「えっ!? あっあの勝手に人の名前を使わないでくださいよ」

「しょうがないだろ。隊長がリックの名前を出せばいいのができるって言うからさ」

「隊長…… 後で覚えてろ」

「細かいねぇ。いいじゃない? それにあゎゎ、言いながらリック様のためにいつもの三倍思いを込めましたって言ってたよ」


 三倍を言われ背筋が寒くなりリック。そんな彼をソフィアとイーノフは睨むのだった。


「でも、効果があるのかなぁ……」

「だったらあたしが今からこのお守りに祈ってやるよ」


 メリッサがお守りを握りしめて笑顔で祈っている。


「もう…… そんなことして魔物が来るわけないじゃないですか。そもそもシーリカ様は本来は聖なる力で人々癒やし魔を退ける聖女様でしょうが…… はっ!?」


 バサーバサーという翼をはためかす、音が遠くから響いてきた。あまりのタイミングにリックの背筋はまた寒くなっていく。


「何か来ますよ」

「そうだね。上だよ。みんな注意しな」


 リック達が武器を構えると街道に大きな黒い影が映った。上空を大きな竜が翼を広げて飛び、一直線にシーサイドウォール砦に向かっていった。


「魔物だーーー!! みんな! 砦へ行くよ!」


 わざとらしく叫んでメリッサ、リック達はシーサイドウォール砦へと向かう。走りながらメリッサは嬉しそうにリックに声をかける。


「ほら! 魔物が来たじゃん。作戦成功だよ!」


 にっこりと笑って親指を立てるメリッサ。リックは全滅聖女デスシーリカの能力に驚嘆するのだった。

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