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第99話 さよなら第四防衛隊

「はぁ?! 結婚って!? 言うことを聞かすためだけに、アナスタシア様を勇者に差し出すってのか?」

「メリッサさん落ち着いてください」

「どうして…… アレックスの時といい。王国は一人に!」

「メリッサ! お前さんの気持ちもわかるが今は……」


 メリッサが興奮して身を乗り出しロバートにつかみかかろうとした。リック達は慌てて彼女を止める。必死に全員でメリッサさんを押さえつけるのだった。


「すまん。メリッサ…… 私達も必死に反対したんだが……」

「そうです。ロバートさんは姫様のためにできることはしました…… けど…… ごめんなさい」


 ロバートの横で必死に頭を下げるエルザ、彼女の姿を見たメリッサは少し落ち着きを取り戻す。リック達はメリッサの体から力が抜けたのを確認して手をはなす。


「あぁ…… わかったよ。取り乱してわるかったね」


 謝るメリッサに申し訳なさそうにロバートがメリッサに頭を下げた。メリッサは少し不満げだったが元に戻り、すぐにロバートが顔をあげて話しを再開する。


「まずは三日後に王家のしきたりにのっとって、婚約の儀式を王国の東の海岸にあるシーサイドウォール砦にて行われます」

「あぁそうでしょうなぁ。あそこは歴代の王族が結婚式を挙げる場所ですからね。さっきロバートさんが言ってたレティーナ様も七年前にそこで成婚されてますし……」


 アナスタシアの生母は彼女が生まれてすぐに他界した。レティーナ王妃は現国王の二番目の妃となる。ちなみにレティーナは、グラント王国の北部で国境を接するローザリア帝国の出身だ。レティーナ王妃は結婚してから一年後に王都の間に男子を授かる。自分の子供ができレティーナ王妃にとって、第一王位継承権を持つアナスタシアは、疎ましい存在になっていた。


「でも、アナスタシア様と結婚した勇者カズユキを王にするんですよね?」

「いや。王にするのはウソだ。魔王討伐に行かせて用済みなったら勇者カズユキは元の世界には返却される予定なんだ……」

「返却って?」

「送り返すのさカズユキがいた世界にね。姫様…… アナスタシア様をつけてね……」


 用済みになったカズユキは、アナスタシアをつけて地球に送り返されるという。


「えっ!? ロバートさんいまアナスタシア様まで送り返すって言いませんでした?」


 リックの顔を見てロバートが静かにうなずいた。リックはすぐに声をあげた。


「どうして! アナスタシア様が一緒に!」

「リック……」


 叫ぶリックの背中を、ソフィアが優しく撫でる。カルロスは冷静な表情で口を開く。


「きっと他の世界の男に汚された姫など残しておいても需要がないってことだろう。それと勇者カズユキは女をあてがっておけばある程度いうことを聞くんだろう」

「えぇ。カルロス隊長の言う通りです」

「ひどい……」


 王女への適当な扱いを聞いた、拳を握って怒りを隠すリックだった。段々と興奮してきたのか、ロバートさんの少し怒ったように話を続けていく。


「姫様は王族です…… 自分の婚礼が国のために利用される覚悟はあるでしょうがさすがにこれは……」

「でも、アナスタシアが嫌ならなぜ俺達を止めるんですか!?」

「それは……」

「あの! 姫様はロバートさんのお母様を……」

「エルザ!」


 話に入って来たエルザをロバートが止めた。止められたエルザは毅然とした態度でロバートを拒否する。


「いえ! 皆さまにはちゃんと言わないと!」


 ロバートの家は代々王家に仕え、男子は王族の護衛、女子は身の回りの世話をするという、王族と親密な関係を築いてきた。ロバートの母は乳母として、アナスタシアが幼いころから、勉強や身の回りの面倒を見ていた。母親が早くになくなったアナスタシアにとってロバートの母は母親以上の存在といっても過言ではない。エルザは声を震わせてリック達に話をする。


「レティーナ様はアナスタシア様が言うことを聞かないと…… ロバートさんのお母様ヴァージニア様を処刑すると……」

「ひどいです」

「ヴァージニア様はアナスタシア様の乳母なんです。二人はまるで本当に親子のように親しくされています。だから彼女が人質になってしまっては……」

「王女様は逆らえないってか…… くそ! もう許せないよ!」


 カルロスに机に手をついたメリッサが、体を斜めにして彼に顔を近づける。


「隊長! あたしらで行って勇者カズユキをもう一度をぶっ飛ばしてやろう!」


 彼女の言葉に全員が大きくうなずく。しかし、カルロスはメリッサを一瞥し、前を向いたまま大きく首を横に振った。


「いや。ダメだ。この依頼は受けない。これは第四防衛隊の隊長としての僕の判断だ。みんなは従ってもらう!」

「はぁ! あんた何を!?」

「そうですよ! アナスタシア様を見捨てるんですか?」


 カルロスはリックやメリッサに叫ばれても、肘をつき両手を顔の前で合わせて、鋭い眼光で二人を睨みつけた。その迫力にリックとメリッサは押されて黙ってしまう。


「いいかい!? 僕たちは王国兵士だ。王族のアナスタシア様が命令をしている。だから依頼は受けることはできない」

「この! あんた!? そうかい……」


 普段なら激しく文句を言いそうな、メリッサがカルロスの顔を見て、大人しく引き下がっていく。リックはひどく裏切られた気分になる。


「ロバートさん申し訳ありませんがお引き取りいただいてよろしいでしょうか? そしてこの依頼の件は忘れなさい」

「カルロス隊長? どうしてですか? 我が母はアナスタシア様のためなら命など……」

「お引き取りください!」

「あっ……」


 普段と違って厳しい表情で、カルロスが強く帰れとロバート達に言い放つ。黙ってロバート達は席から立って、頭をさげ背中を向けて詰め所から出て行った。二人の背中はさみしさと失望がにじみ出ている、そんなリーナを見たリックが思わず行動にでる。


「リーナさん……」

「リック?」

「おい。リック! お前さん。どこへ!?」

「すいません。ちょっとだけ…… 二人に話があるんで」


 二人を追いかけていくリック。彼は詰め所の外にでて、二人の後を追って声をかけた。


「待ってください! 少し話をしませんか?」

「リック様! ロバートさん。リック様と話しをしましょう」

「エルザ…… 分かった」


 振り返り少し驚いたような表情をした二人は、リックと一緒に詰め所の近くの広場に向かう。広場にある椅子に腰かけるとリックはすぐに二人に謝る。


「ごめんなさい。何もできずに……」

「いや。カルロス隊長はみんなのことを考えての判断だ。もし私が同じ立場だったらそうするかもしれない」

「アナスタシア様を助けてください! リック様!」


 エルザがリックに、アナスタシアを助けてと懇願してくる。彼はすでに、十分確信していた疑問をエルザにぶつける。


「リーナさんですよね」

「はい。私はリーナです。勇者カズユキとの結婚が決まってすぐにアナスタシア様が私のところに来て入れ替わったんです! ほんとは…… 私が勇者カズユキに差し出されればよかったんです。でも姫様はあなたが傷つく必要はないって…… 自ら……」

「リーナさん……」

「リック様! お願いです! 姫様を助けてください! わたし…… わたしは…… 姫様のためなら何でも……」

「リーナ。やめなさい。リックが困ってるだろ?」

「あっ! 申し訳ありません。つい……」

「リック…… 君達に断れてしまったが私達は自分達だけでアナスタシア様を奪還する!」


 立ち上がり力強く自分達だけ、アナスタシアを奪還すると宣言したロバート。その宣言はどこかむなしく、さみしそうなものだった。リーナとリックの表情はくらい。勇者カズユキと対峙したリックはよくわかっていた、ロバートとビーエルナイツでは、勇者カズユキには勝てないと…… もちろんロバートだってそれはわかってるはずだ。なぜなら自分達だけで、勝てるならわざわざ第四防衛隊に、助けをもとめるはずがない。

 ロバートは視線をリックに向け真顔で口を開く。


「もし君にその気があるのなら…… 婚約の義の当日は私達と一緒に行動してほしい!」

「えっ!? でも、命令に違反することに……」

「今すぐに答える必要はない。これが我々の当日の集合場所だ。よく考えてくれ! じゃあ」


 リックにメモを渡し、ロバートは立ち上がり、リーナさんと一緒に帰っていった。詰め所に戻ったリックはカルロスともう一度話す。


「隊長! どうして? ロバートさん達の依頼を……」

「リック! お前さんねぇ。さっきも言ったろ? 僕たちは王国兵士。あの依頼を受けるわけにはいかない」

「でも!」


 食い下がるリックをメリッサが止める。


「リック! 隊長には何か考えがあるみたいだから、信じて黙ってな!」

「メリッサさん…… わかりました」


 渋々引き下がるリックだった。本当にカルロスが何とかしてくれるのか、リックは少し心配しながら日々を過ごした。

 だが、彼の心配は的中してしまう。何も進展しないまま日々は過ぎ、明日はついに婚約の儀が執り行われる。婚約の儀が明日に迫っても、隊長は普段と変わらず過ごしている。通常の勤務を終えたリックは静かに立ち上がりつぶやく。


「みんな…… さよなら」


 リックはロバートとともに行動することに決めた。家に帰り机にむかった彼は、カルロス宛に手紙をしたためた。内容は明日ロバートと一緒にアナスタシアを助けに行くこと、命令違反になって迷惑がかかるので、第四防衛隊を辞めることだった。


「うん!?」


 気配して振り返ったリック。


「リック。これは?」

「えっ!? ソフィア! 何してるの? 勝手に部屋に入らないでよ」

「だってリックが暗い顔でお部屋にずっとこもってるから心配で……」


 振り返るとソフィアが、リックの肩から書いてる、途中の手紙を覗き込んでいた。


「まっまずい!」


 ソフィアが書いている手紙を読んでいるのに気づいたリックは慌てて手紙を隠す。だが、遅かったようだ。ソフィアの顔が青くなり、泣きそうになっていく。


「なんですかこれ? 第四防衛隊を辞めるって? どういうことですか? ダメです! リック!」

「ごっごめん…… でも、俺…… ロバートさんと一緒にアナスタシア様を助けに行く! 命令違反になるしみんなに迷惑をかけたくないから兵士も辞める」

「ダメです。行かないでください。行っちゃ嫌です…… ヒック」


 リックに抱き着いたソフィアが泣き始めた。そっとリックは彼女の肩を抱いた。ソフィアはリックに抱かれて、少し嬉しそうな表情をした。ソフィアはリックが思いとどまってくれたのかと確信したのだ。リックは嬉しそうなソフィから顔を背けた。


「ごめん……」


 泣きそうに涙をためリックはつぶやいて首を横に振る。彼を見たソフィアが叫ぶ。


「なら私も一緒に行きます! 一緒に辞めます!」

「ダメだ! ソフィアは隊長の言うことを聞いて……」

「いやです! リックと一緒がいいです!」

「ソフィア……」


 顔をリックの胸にあて、ずっと胸を叩いてくるソフィア。時折顔をあげて彼女は、リックに必死に訴えてかけてくる。


「ふぇぇぇん! リックと一緒です。一緒がいいです」

「ごめん…… でも、やっぱりソフィアは連れていけないよ。わがまま言わないでここで待っててね」

「ふぇぇぇぇん! リック! 嫌いです!」

「あっ! ソフィア! 待って!」


 泣きながらソフィアは走って部屋を出ていった。玄関まで走っていく音がする。今からどこかへと向かうようだ。心配なったリックは、部屋を飛び出し彼女を追いかける。

 きつい表情で玄関の扉を開けて、出ていこうとするソフィアに、なんとか追いついたリックは彼女を止める。


「ちょっと待って! ソフィア! こんな時間に……」

「ほっといてください! 私は子供じゃないです。リックと一緒いやだから別のところに泊まります。じゃあ!」

「えっ!? 待って! どこに? 泊まるの?」


 リックの問いかけに振り向くことなくソフィアは答えた。


「あっ……  行っちゃった……」


 バタンと勢いよく扉を閉めてソフィアは行ってしまった。リックは呆然と立ち尽くしたが、ハッとしてソフィアを追いかける。リックは泣いたままソフィアとはなれるのが嫌だった。


「ソフィア! ソフィアーーーー!!!」


 リックの声が王都にこだまする。彼は必死に詰め所や寮の近所を探した。ソフィアは見つからなかった。


「どこ行ったんだ? クソ! でも、ソフィアも自分で言ってたけど子供じゃないから…… もしかして気が変わって夜中に帰ってくるかも!?」


 探すのを一旦諦めたリックは、寮へと戻りソフィアが帰って、来るのを待つことにした。帰ったリックは広間の椅子に座りソフィアがいつ帰ってもいいように待っていたが、しかし、彼はいつの間にか寝てしまっていた……

 翌朝…… 目を覚ましたリック、ソフィアはまだ帰っていなかった。ロバート達は早朝から動く、追いつくには早めに詰め所に行って手紙をわたさないといけない。ソフィアのことが気がかりだったが、リックは詰め所に向かうことにした。

 着替えて昨日書いた手紙をポケットに、突っ込むと詰め所に向かうリック、普段の出勤よりだいぶ早い時間だった。カルロスがいれば直接手紙を渡す。もしカルロスまだ出勤していなければ、リックは机に手紙を置いてロバート達と合流するつもりだ。また、ソフィアにもう一度会いたいリックは詰め所から出たらまたソフィアを探そうと考えていた。


「あれは……」


 道の向こうからメリッサとイーノフが近づていて来る。リックは急いで二人の元へ走っていく。


「あれ? あんた…… はぁぁ。」

「メリッサさん…… 実は昨日ソフィアが家から出て行って…… 何か知りませんか?」

「あぁ知ってるよ……」

「なっ!?」


 大きな音がしてリックの体が吹っ飛んで彼は尻もちをついた。呆然とするリックを、メリッサは拳を突き出した姿勢で睨みつけていた。彼女はリックをなぐりつけたのだ。拳を下したメリッサは尻もちをついてる、リックの前にしゃがみ右手の親指で背後を指した。


「今、詰め所にいるからちゃんと話してきな」

「はっはい」


 頬を押さえて立ち上がったリックは、詰め所へと急いで向かう。メリッサの後ろにいた、イーノフとすれ違う際に彼がリックに声をかける。


「リック、君は隊長に話があるのかい?」

「えっ!? はい……」

「そうか。隊長とよく話しておいで」


 二人はソフィアの事も、リックが辞めるということも知っている様子だ。二人に知られているからといって、リックの決心は変わることはない。腕を組んでリックを見つめるメリッサが口を開く。


「あんた!? 隊長が何もしないって、ほんとに思ってるのかい?」

「えっ!? だって、今日まで何もしてないし!? この間の依頼も拒否したじゃないですか!」

「ロバートからの依頼はね…… まぁいい。さっさと詰め所に行って隊長と話してきな。それとソフィアにも謝るんだよ」

「はぁ…… わかりました」


 メリッサに返事をしたリックは急いで詰め所へと向かうのだった。詰め所に入ったリック、ソフィアは自分の席で、突っ伏して寝ていた。彼女の姿を見たリックは安堵の表情を浮かべるのだった。カルロスは自席にいてリックが入ると右手を上げて笑い、立ち上がってリックの元へとやってて来る。


「おぅ。リックお前さん遅かったな。さっさとシーサイドウォールに行く準備をするんだ!」

「えっ!? でも、依頼は受けないって……」

「そりゃあねぇ。お前さん。ロバートさんの母君が人質にされた状態で依頼をうけるわけにはいかないだろ」

「あっあの…… 言ってることがよく?」

「フフ…… まぁいい。早く準備をしろ出動だ」

「出動!? いやおっ俺は…… 今日でここを」

「いいからいいから。急にシーサイドウォール砦の警備の依頼が入ったんだ。やっぱり王女の婚礼の儀を守り固めないとな!」


 右手を顔前で左右に動かしリックに向かって笑うカルロスだった。事態が飲み込めずに首をかしげるリック、カルロスは話を続ける。


「まぁ今回のシーサイドウォール砦への出動はあくまで儀式の警備だからな」

「じゃあ、やっぱり俺達は何もしないんですか……」

「もちろん! 騎士団の後ろを守るんだ」


 ただの警備なら状況は変わらない。リックは失望したように首を横に振って、ポケットから手紙を出しカルロスに差し出そうとする。リックの動きを見たカルロスはニヤリと笑った。


「ただねぇ…… 魔物か賊の侵入があって騎士団が全滅したりしたら…… 戦わないとな。王女様を守るためにね」

「えっ!? 何を?」

「それに儀式で城の警備が手薄だからねぇ。もしかしたらロバートさんのお母様は誰かに誘拐されるかもな…… フフフ」


 はっきりと言わずにはぐらかすカルロス、リックは我慢しきれずに彼に問いかける。


「あのいったいどういうことなんですか? 隊長?」

「あぁ、何も言わずに悪かったね。ちょっと段取りに手間取ってね。ロバートさんにもアナスタシア様にも被害がでないように根回しをしていてね」


 ニコニコしながら、リックに砦警備依頼書を見せて来る。


「外部に絶対にこちらの動きを漏らす訳にはいかないからお前さん達にも黙っていた。すまん!」

「じゃあ、俺達は?」

「あぁ。勇者カズユキからアナスタシア様を取り返してこい。ただし…… さっきも言ったがあくまで表向きは警備だからな。作戦通りにやれよ」


 リックの肩に手を置きにささやくカルロス。リックが驚いた顔で、カルロスを見ると彼はにやりとリックに笑いかける。


「隊長…… わかりました。ありがとうございます」


 カルロスに頭をさげたリックだった。カルロスはヴァージニアの安全を第一に考え、ロバート達と距離を置いたように見せかけ、裏でヴァージニアを救出する手はずを整えていた。メリッサが引き下がったのは、カルロスが手を打つと信じていたからだ。リックはカルロスを信じ切れなかったことを心の中でわびた。頭をさげたリックの手に握られている手紙にカルロスが気付いた。


「なんだ? その手紙は! 前にも言ったろ? 僕は受け取らないよ」

「えっ!? いや、あの……」

「はいはい。いいから。お前さんその手紙をこっちに!」

「あっ!」


 カルロスはリックの手から無理矢理、手紙を取るとビリビリと破り捨てた。唖然としているリックをみてずっと笑っている。


「じゃあ、お前さん。そろそろ出動だ。ソフィアを起こしてくれ」

「はい」

「それと…… お前さんね。ソフィアに謝っとけよ。昨日みんなの家に行ってリックを止めてくれって泣いたらしいからな。最後はメリッサに連れてこられた僕の家に泊まったけどね」

「えっ!? ソフィアが……」

「うん。泣きながら娘達と遊んでてカミさんえらく心配してな。ちゃんと謝れよ!」

「はい」


 リックが大きくうなずくカルロスは、笑顔で彼の肩に手を置き顔を近づける。


「出動とは言ったが…… メリッサ達の準備はできてるから急がなくていいぞ。なんなら僕らは”樫の木”でゆっーーーくり朝ごはん食べてくるぞ? ほら、ここベッドもあるし!」

「隊長!」

「はいはい。ごめんねぇ」


 詰め所のベッドを指して笑うカルロスにリックは顔を赤くして叫ぶのだった。カルロスは笑いながら、リックに背を向けたまま、右手を振って詰め所を出て行った。

 リックはカルロスが出ていくとソフィアの席に向かう。静かに寝息を立てて彼女の頭を、撫でると気持ちよさそうに笑顔になった。


「そっか。昨日ソフィアが帰らなかったのはみんなのところに行って俺のことを…… ありがとう。しかも目元に涙の痕がついてるや…… ごめんね、ソフィア…… 俺はいつもソフィアを泣かしてばっかりだね。もっと大切しなきゃね」


 目を拭ったリックは笑い、静かにソフィアの肩をゆすって起こすのだった。


「ソフィア! 起きて!」

「むにゃ…… はっ! リック! リックです!」

「おわっ! もう…… 危ないよ……」


 目を開けてリックを見た、ソフィアは飛び立ち上がり、彼に抱き着いたのだった。急に抱き着かれたリックは、バランスを崩しそうになるが踏ん張って耐える。


「だって…… だって…… わっ私…… 昨日隊長やみんなに…… いっぱいお願いをして…… リックを…… リック隊長はアナスタシア様を助けに……」

「うん。わかったよ…… さっき隊長に聞いた。アナスタシア様を一緒に助けに行こう」

「はい」


 嬉しそうにソフィアがうなずく。ソフィアの顔を見てると、愛おしく思えたリックは自然と彼女の頭を撫でていた。撫でられたソフィアは気持ちよさそうな表情を浮かべる。


「いっぱい俺の為にみんなにお願いしてくれたんだよね。ありがとう」

「ふぇぇぇん! リック一緒です! ずっと一緒です!」

「うん…… ごめんね」


 泣きながらソフィアがリックにしがみつく。リックは彼女の頭の後ろに手を回して軽く抱きしめる。ソフィアは頭をリックの胸につけて肩を震わせていた。


「ごめんね。もう絶対に離れないから……」

「はっはい…… 一緒ですよね?」

「あぁ。ずっと一緒だよ」


 ソフィアが少し落ち着いてきて、リックは彼女の椅子に座った。すぐに彼女はリックの膝にまたがった。リックはソフィアを支えるように両手で肩に手をまわして抱きかかえる。


「リックひどいです。約束を破ろうとしました! もう置いていかないって言ったのに!」

「そうだね、俺は約束を破ろうとしたね…… ごめん」


 顔を膨らましてリックのおでこに、自分のおでこを付けて怒るソフィアだった。リックは叱られているはずなのに妙に安心する。彼の目の前にあるソフィアの表情は怒ってるけどどこか優しかった。リックは表情がゆるみ、それを見たソフィアがムッとまた頬を膨らませる。


「何がおかしいんですか? そうだ! 今、私のお願いを聞いてください。それで仲直りです」

「えっ!? 今はお菓子持ってないよ!?」

「私だってそんな子供みたいにお菓子お菓子って言いませんよ」

「えぇ!?」


 驚くリックにソフィアはムッとした。彼の肩に手を置いたソフィアは目をつむった。リックの膝に乗っているソフィアの顔は彼より少し上にあり見下ろすようになっていた。


「ソフィア?」

「はい。これがお願いです! んー」


 ソフィアが下を向いてリックに唇を向けている。彼女はリックにキスをせがんでいるのだ。リックは急なことに動揺し動けない。


「リック! 早くです…… やっぱり私からじゃないとダメですね……」

「えっ!? あっ…… ずるい!」


 膝にソフィアが乗って支えてるからリックは両手が使えない。優しくソフィアに顔を掴まれたリックは、顔を上にむけさせられた。徐々にソフィアの顔が近づき二人の唇は重なるのだった。


「おぉ!? すまん、すまん! 忘れ物、忘れ物っと」


 詰め所の扉が開いて思わず目を開けるリック。目を少し開くとソフィアの頭の横から、カルロスがニヤニヤとリック達の方を見ていた。もちろんカルロスはタイミングを見計らいわざと入ってきた。ちなみに窓からはイーノフとメリッサの二人がのぞいている。

 三人に気付いてないのか、気にしてないのかソフィアは、ずっと目をつむってリックの唇を重ね続けた。恥ずかしくなったリックはソフィアよりも先に彼女からはなれた。


「ぶぅ…… もう離れちゃいました。残念です」


 シュンとした表情でリックに、ソフィアが名残惜しそうな目線をこっちに向ける。リックは恥ずかしくて顔が熱くなっていくを感じた。


「やっぱりもっとです!」

「えっ!?」

「ふぇぇぇぇん! もっと!」


 目の前で泣きだすソフィア、リックはため息をついた。


「じゃあ…… 今日の任務から帰ったらね」

「はい。約束です!」


 笑顔になったソフィアの頭を撫でた。


「(ふふ。またソフィアとの約束が増えちゃった。帰って約束を果たさないとな…… もちろん帰るときはアナスタシア様と一緒にだ!)」


 詰め所の窓の外を見ながらリックは、アナスタシアを絶対に助けると誓うのだった。

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